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※本作は「ぱすてるチャイム Continue」の前作「ぱすてるチャイム」を簡潔に紹介するショートノベルです。
 細かい描写、ストーリーの細部などは端折ってますがご了承ください。


『ぱすてるチャイム Limited』


登場人物

「コレット・ブラウゼ」
魔法使い志望のハーフエルフの少女。思ったことをはっきり言う性格。
攻撃的で怒りんぼだが、根は優しい少女。カイトの事を知っている?


<5月上旬 小さな転校生>

 初めての実習から一ヶ月ほど経った、ある朝のHR。教室に入ってきたベネット先生は、出席を開かずに俺たちの顔を見回した。
「みなさんお早うございます。さて、本日よりこのクラスに、女子が転校してくる事になりました」
(女の子か……どんな子だろ? 可愛い子なのかな?)
『失礼します――』
 ガラ…
「え……」
コレット  教室のあちこちから、驚きの声がこぼれる。髪の毛に、コバルトブルーの瞳、エルフ特有の尖った耳。それだけなら、ただの可愛いエルフの転校生でだけど、問題は別の所にあった。その髪も瞳も、座ったオレの目線と平行――。140センチ足らずの教卓と、ほぼ同じ高さにあったのだ。小さな転校生は真っ直ぐ黒板の前まで歩いてくると、くるりとこちらを向いた
(あれ?)
 正面から顔を見た時、オレは妙な違和感を感じた。なにか、ひどく場違いな…まるであるはずのないものを見てるような。
「舞弦学園のみなさん、はじめまして。コレット・ブラウゼです! ラスタルの光綾学園から転校してきました。得意課目は魔法で、好きな課目も魔法です。 ハーフなんで、見た目はこんなですけど、みなさんと同い年です。卒業まで、よろしくお願いします!」
(ハーフエルフ、そうなんだ)
 そう聞いて納得した。人間とエルフのハーフは10歳ほどの外見まで人間より早く成長し、その後成人するまで成長が止まってしまう。逆にエルフは成人するまでは人間と同じで、それからの老化がゆっくりになるのだ。
「さて、コレットさんの席ですが…」
 先生の視線が左右に揺れ、オレの正面で制止した。
「相羽君の隣が空いてますね。じゃあコレットさん。今日は、取りあえずそこの席に座っといて下さい。相羽くん、いいですね?」
「はい」
「えっ、相羽?」
 不意に転校生が耳を跳ね上げたかと思うと、小走りでオレの前にかけて来た。
「あ、あの…あなた、相羽っていうの?」
「そ、そうだけど?」
「あたしのことおぼえてる?」
「え? コレットだっけ?」
「う、うん」
「…………」
「どっかで会ったっけ?」
「…………!」
 転校生は息を飲むとがくりと首をうな垂れた。
「く、くく……あたしだって……」
 はき捨てるようにつぶやくと、彼女は取り出したロッドを俺に向けて構える。
「いっ!?」
『炎のマナよ、炎のマナよ…』
小声で呪文の詠唱が始まり、ロッドの先端に光が集まりはじめた。
「なっ、何やってんだお前! やめろ! ストップ!!」
「あたしだって、アンタのコトなんか知るもんですかあぁっ!!」
「うわああああああっ!!!」
 次の瞬間、俺の目の前にファイアーボールが迫った。


 放課後

「ふ……わ………」
 大きくアクビしたオレの肩を、つんつんと誰かが小突く。
「なんだよ?」
 横を向くと、拗ねたようなコレットの顔。
「さっきからアクビばかりして、気になるからやめてよ」
「悪いな、そっちからいい風がくるおかげで、眠くてね」
「なにそれ? 皮肉のつもり?」
「わかってるじゃないか」
「男のクセにしつこい性格してるのね」
「あのな、人違いだったら、悪いのは間違えたそっちの方だろ。あやまりもせず魔法ぶっ放す奴が、どこの世界にいる?」
 言いながら朝よりも少しだけ短くなった前髪を摘まんでみせる。
転校生の背後の窓枠にはガラスがない。朝に彼女が放った呪文は、俺の前髪を焦がし、そのまま窓ガラスを溶かしたのだ。
しゃがむのが一瞬遅れたら、ガラスでなくオレの顔が溶けていたに違いない。
「そんな事言ったって、仕方ないでしょ」
「仕方ないってな。オレは大ケガするトコだったんだぞ?」
「だから、あやまったじゃない」
「『悪かったわね』なんて謝りかたあるか? …ったく、ロクな大人にならねーぞ」
「ウルサイわねぇ。同級生のクセに親みたいに説教しないでよ」
「おい、それとこれとは別問題…」
「言っときますけど! あたし、同じ事で二度も謝らないから」
「なんだとっ!」
「そこの二人! ちゃんと前を向きなさい!」
「すいません先生、カレがしつこく話し掛けてきて」
「いっ…」
「駄目ですよ相羽君、人に迷惑かけちゃ」
「あ、はい…」
 先生に注意され、オレはしぶしぶ前を向いた。
「………………………」
(……この転校生、最悪だ…)
ちびっこいとは言え、だまってればそこそこ可愛いのに、人違いはするわ、魔法はぶっ放すわ。おまけにあの高圧的な態度…
ハラ立たしい事このうえない。
(見た目が子供じゃなきゃ、マジで怒るぞ…)
「ではHRを終わります。起立、礼!」
 授業が終わって、みんなが席から離れて行く中、席から立ち上がったオレと転校生の視線が再びぶつかる。
「なんだよ?」
「アンタのせいで、怒られた」
「話しかけてきたのは、そっちだろ?」
「あたしは注意しただけよ。絡んできたのはそっちよ」
「この、いい加減にしろよ!」
「なに? やろうっての?」
「カイトくん」
「あ…ミュウ」
「ミュウ?」
「おつかれさま、朝は大変だったね」
「ああ、誰かさんのせいでな」
「何でこっち見ながら言うのよ!」
「いちいち言わないと分らねーのかよ!」
「言うも、なにもだいたい――」
「あ、そうだ」
 オレとコレットの間にミュウが割って入ってくる。
「コレットさん…だったよね? 私、ミューゼルって言うの。これから卒業までよろしくね」
 ミューゼルはにっこりと微笑んで、手を差し出した。
「あ…う、うん。こちらこそ」
 照れくさそうに微笑むと、コレットは手を握り返した。
「光綾に比べたら設備とか古いかも知れないけど。購買とかの施設は――」
「あっ、ミューゼルですって? ひょっとして、去年の詠唱コンクール二位のミューゼル? ミューゼル・クラスマイン?」
「う、うん。そう……だけど」
「スゴイ、スゴイ! あたし、コンクールで見てからあなたのファンだったの!」
「コンクールって、じゃあコレットさんも会場に?」
「うん! 会場は隣りだったけど、こっちまで聞こえてきたわ。すごいキレイな詠唱なんだもん。ファンになっちゃった!」
「やだ、そんな…照れちゃうよ」
「『さん』なんて、かたくるしいのやめて、コレットでいいよ」
「うん。じゃ、コレット。私もミュウって呼んでちょうだい」
「うん! よろしくねミュウ!」
 2人はふたたび固く握手を交わす。
(うーん、知らない間に友情が生まれてるな)
「で、アンタ? ミュウと知り合いなワケ?」
「ミュウは、オレとは幼なじみなんだ」
「おさななじみ?」
「うん。初学校の時からずっとおともだちなの」
「おともだちって、その言い方はずかしいからやめろよ」
「間違ってないと思うけどな……」
「へえ……幼なじみね」
 口の中で繰り返すと、コレットはてっぺんから爪先まで、オレの身体をしげしげと眺めた。
「よりにもよってこんなのと腐れ縁なんてかわいそう…」
「こんなので悪かったながきんちょ」
「ちょっと! ガキっぽいクセに、人の事子供扱いしないでよ!」
「ガキっぽいのはそっちだろ! だいたい転校初日のくせに妙に
態度デカくないか?」
「なによ、そっちこそ流行らない事言っちゃって! バンチョーでも気取ってるつもり?」
「こっ、このクソガキ!」
「またガキって言った!」
「2人とも、いい加減にしなさい!! ダメでしょ、2人そろって子供みたいにケンカしちゃ」
「だ、だってこいつが!」
「あたしは別に…」
「言い訳はいいから2人とも仲直り。握手して」
「「え゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」
 オレとコレットの声が見事にハモった。
「そう、早くして」
「……仕方ないなあ」
 オレはコレットの前に手を差し出した。
「私も…ミュウがそう言うなら、はい」
オレはぶっきらぼうに差し出されたコレットの手を握り、軽く揺すった。
「もうケンカしちゃ駄目だよ」
「なるべく、ね」
「ま、ぼちぼちよろしくな。」
(こいつと友達かあ。ま、魔法をぶっ放されるより、いくらかマシかな)
 こうして俺たちのパーティに、新たな仲間が加わったのだった。ちょっと凶暴だけど……。


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