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濡烏
静かな空間。
何もない。
色も、音も、空気も、水も、闇も、光も。
何もない空間。

漂っている。
中もない空間に。漂っている。

一人ではない。

手を取った。

ふれあった。

絡まりあった。

二度とこのような事が起こるとは思っていなかった。

望んでいた。

望んでいなかった。

それさえもわからない長い年月。

どれだけの時間が経ったのかわからない。

その中で切望していたもの。

探していたもの。

失ったもの。

手を離されたもの。

手を…離してしまったもの。

やっと…

やっ手に入れる事が出来た。

幻でもいい。

消えてしまわなければそれでいい。

あなたもそう思っているのか?

ふたつでひとつになってしまったように寄り添うあなたも。

俺はあなたを手に入れる為に罪を犯した。

殺す必要のない者も殺した。

手は血に染まった。

その手であなたを抱いている。

でも離さない。

離したくない。

何があっても…離さない…

あなたの手も…そう言っている…

あなたも罪を犯したと、そう言ってくれた…

俺達は…犯した罪をどうする事も出来ないまま、ふたつでひとつになった…

それでも…

それでも…幸せだ…

ただ…幸せだと…

何もないこの空間で…二人…

漂う…


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