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朱華
通りの向こうから聞こえる嬌声。
それも気にならない程、興奮していた。
ねっとりと絡んでくる夏の夜の熱気。
熱い息が絡まりあう。
突き出された舌と舌が絡まり、湿った音をたてる。
裏通り。店の裏口から少し奥まったところで、朱華はその日、気の合った女と舌を、唇をこすりあわせている。
「このままじゃあ…し辛いか…な…」
肩胛骨辺りまである軽くウェーブのかった髪の下で、女の甘い声が漏れる。
女は朱華より年上。時々、店にふらりと顔を出す女だった。
時折、朱華にねっとりとした熱い視線を送っていた。
今夜、朱華がそれに応えたという訳だった。
「そう…? やろうと思ったらどんな状態でも問題ないだろ…?」
朱華はそう言いながら、女の上衣の中に長い指を滑らせた。
ブラのカップに引っかかった指はその中に滑りこみ、堅く尖った乳首をとらえる。
「ふふっ…そう…ね…あっ…んっ…」
朱華はわずかにブラをずらし、指の間に乳首を挟み、引っ張った。
「んっ…ふふっ…」
「何…?」
「慣れてるなって…こんなとこでするの…」
「ああ…幸吉さんと同居してっから…」
「じゃあいつも、こんな事してるの?」
「そうだ…な…」
女の乳房をまさぐっているのとは別の手が、女のスカートの中に滑りこんだ。
女はガードルやウエストニッパーなどの面倒くさい下着はつけておらず、上質のレースのTバックとガーターベルトの感触が朱華の指に届いた。
「ラブホとかも使うけど、めんどくさいっていうかさ…こういうとこでした方がいい時ってのもあるじゃねぇか」
「ふふっ…ケダモノっぽい、んっ…んんっ…!」
朱華の指はレースのTバックの中に入りこみ、尻の半分をぎゅっと掴む。
「あっ…んっ…んっ…!」
こねるように尻の感触を楽しんでいる朱華の指が、後ろから菊座を通り過ぎ、女のスリットにふれた。
「んっ…あっ…!」
女が躰をびくりと震わせ、朱華のTシャツの肩に爪をたてた。
「んっ…すごっ…こんなに濡れるの…初めてかも…」
「自分でもわかるの…?」
「わかるわよ…んっ…すごい…あっ!」
女は自分から朱華の指に花弁をこすりつけてきた。
朱華の指にあっという間に女の蜜が滴り、掌にまで落ちた。
朱華はその指を、女の中に一本入れた。
「んあっ…あっ…!」
女の指がまた、朱華の肩をきつく掴む。
朱華はそのまま、そこで指を蠢かせる。
そしてもう一本、中に入れる。
「んく…あ、んっ…ぅうっ!」
女は朱華の首に手を回し、ぎゅっとしがみついた。
Eカップはありそうな豊満な乳房が、朱華の胸に押しつけられる。
「もう…いいから…」
「ん…?」
「もう…いいからっ…朱華も…もう…いけるんでしょ…?」
「ああ…まあね…」
「じゃあ……」
「ん…」
朱華は女の躰を離すと後ろに向け、壁に手をつけさせた。
女が纏っている短いスカートをぐいとあげる。
少し大きめだが形のいい白い尻が、外灯とビルの壁が作る影の妖しいコントラストの中で淡く輝いている。
上質のレースのTバックは黒だった。
朱華はそのレースをついと横に避け、そこに自分のものを宛った。
「んうっ…ん、んっ、ん、ん…!!」
朱華のものがゆっくりと自分の中に入ってくる感触に、女が息を飲んだ。
「くっ…んっ…!」
自分のものに絡んでくる襞の感触に、朱華もまた声を小さく上げる。
「んっ…うあっ、あ、あ!」
女の首が上下に激しく動き、腰が振られる。
「ん、んぅっ、んっ!」
女の頭がまた、大きく振られる。
快楽にぼんやりとしてきた朱華の目の前で、ウェーブのかかった髪が広がる。
「っ…」
ひとつの記憶と、その光景が重なる。
打ち上げ花火の音と、下駄の音。
そして…温かかった義姉の背中。駆けだした為に自分の目の前で広がる髪。
子供の頃の記憶。
夏祭りに浴衣を着て、下駄の鼻緒に足がまけてしまい、姉が背負って駆けだしたその時の記憶。
目の前がぼやける。
快楽の為ではない。
二藍が――朱華の義姉が死んで5年。
朱華の瞳からはまだ何かの拍子に彼の意志とは関係なく涙が流れてしまう。

アコーディオンをまだ持つ気にはなれない。


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