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瑠紫琉
ゴシックロリータと呼ばれる服装で、この界隈のゲームセンターに入ってくる女の子達は少なくない。ただ、一人で入ってくる、しかもそれが格闘ゲームコーナーにいる事は珍しい事だろうと思われれる。
そこに、一人の太った男がいた。
男はいわゆるハメという、人間同士で格闘ゲームをする上で一番おもしろくない状態でずっと勝ち続けていた。時間帯もあって、対戦しているのは小学生が多い。また一人、負けた。
「なんだよ、こいつ、ハメばっかして!」
「ずるいぞ、大人のクセに!」
「むかつくなー」
小学生5、6人でそこを囲み、ブーイングをしていたが、太った男はにやにや笑うだけだった。それを見て、ゴシックロリータの衣装を纏っている少女、瑠紫琉はにやりと笑った。
「ぼくら、ちょっとかまへんか」
そう言って、よけてくれた小学生の間をぬって、対戦台に座る。
そのゲームはモンスターを自キャラとして使うものだった。
瑠紫琉は百円玉を取り出すと、入れた。
「ちゃらららちゃららららん。ひあかむずにゅーちゃれんぢゃー」
スピーカーから、画面から出る音と表示を口ずさみ、インテリジェンスソードを持った男を選択する。
「ほないくでー」
瑠紫琉はぺろっと上唇を舐めた。
太った男はさっそくハメの体勢に入った。男の操る、使う為には特殊なコマンドを入れなければいけないボスキャラの手から、白い火玉が次から次へと投げられる。小学生はこれに動けなくなってしまっていたのだ。
「ほんま、馬鹿のひとつ覚えかいな」
瑠紫琉がくいっとコントローラーを回しながらボタンを押すと、ソードを持ったキャラが、ボスキャラの後ろに回る。
「うけけけ」
瑠紫琉の両手がカカカカカと素早く動いたかと思うと、あっという間にボスキャラをこけさせては浮かし、こけさせては浮かす、という巧みなキック、パンチボタンを使った攻撃で、太った男に攻撃を与える隙を与えない。
そうこうしているうちに、瑠紫琉の方のキャラに必殺技を撃つ事が出来る事を示すゲージが点滅した。
「うりゃっ」
コントローラーを動かす左手がゆったりと半円を描き、反対に攻撃ボタンは素早く同時にいくつかが押される。
太った男の使うキャラは、そのまま大きな足に何度も何度も踏まれた。そして、連続攻撃を表す表示は58、59、と増えていく。
「すっげー、ドノンパでこんな上手なの、見た事ないよ!」
「おねーちゃん、やるー!!」
あっという間の瑠紫琉の連続攻撃に小学生達がはやしたてる。
そのまま、太った男は負けてしまった。
すぐさま、次のゲームが始まる。
男はまた、同じようにハメの体勢に入った。今度は瑠紫琉はまったく微動だにしない。
「なんでおねーちゃん、動かさないの?」
「やっつけてよー!」
「待ち待ち。ちょっとぐらい勝たしてやらんとなー」
と、瑠紫琉はそのままされるがままになっていた。
「あー、体力なくなっちゃうー!」
「点滅してるよー、おねーちゃーん!」
「うっしゃ!」
このゲームは体力がぎりぎりまでなくなると、体力ゲージが点滅する。その間、ずっと超必殺技が使える。
瑠紫琉はそれを狙っていたのだ。
瑠紫琉の手がひらめくと、さっきとは違う超必殺技が太った男のキャラに浴びせかかった。それでキャラがこけてしまう。
「うけけけけけけけ」
瑠紫琉はまた、そこらたたみ込むように、小技から中技、さらにつないでまた超必殺技を連続でたたき込んだ。
あっという間に瑠紫琉が追いつき、そしてとうとう、やっつけてしまった。このゲームは3回戦中、2回勝てば、その者が勝利という事になる。
「わーい、おねーちゃんの勝ちだー!」
「すっげー!」
「ここここここれ、ハメだろ!!」
太った男が台を叩き、大声をあげながら立ち上がった。小学生はびびってしまう。その小学生を瑠紫琉が背後にかばった。
「何言うてけつかる。ハメっちゅーのはおどれがやってた事やろ。うちのはちゃうわ。さっきの超必かて、ガード入れてキャンセル小パンチですかす事出来るんやから、そーいう事出来へん自分が悪いんちゃうん? 後、台叩きな。マナー悪いなー」
「ななななななんだと!! 女のクセに!!」
「自分かて男のクセに、小学生負かしてええ気分になっとったがな。恥ずかしないんかいな」
「ううううるせぇぇ!!」
「ちょっと、何やってんですか! 暴力行為をするんだったら、出てって下さい!」
バイトらしいゲームセンターの青年が太った男を注意する為にとんできた。それを呼んだのは、二人の小学生だった。
「そーだ、そーだ! あっちいけー!」
「おにーちゃんが悪いんだろ! いつもむちゃくちゃしてるくせに、自分が負けたら、おかしいぞ!」
「ぐ、ぎ、ぐ…」
太った男は青年ににらまれ、たじたじになっている。あからさまに女子供に強く、男に弱いタイプらしい。
「お、覚えてろ!!」
太った男はそう言うと、店を出て行った。
「すげー! 覚えてろって言って逃げる奴、初めて見た!」
「ねーちゃん、危ないから、一緒に帰ってあげるよ」
「ありがとな、さっきの奴より君らの方がずっと紳士やなー、でも大丈夫。ねーちゃん怒らせるつもりやったから、一発かますつもりやったし。リアルファイトでもあんなんに負けへんよ」
「でも危ないよ、一緒に帰ろーよ」
小学生達はそう言って、瑠紫琉の腕を引っ張ったり肩を揺らしたりした。
「あんがとさん、そしたら一緒帰ろか。おねーちゃん、騎士-ナイト-のあんたらに、お礼にあめちゃん買うたるわ」
瑠紫琉はそう言って笑った。


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