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夜深が初めて銃を使った相手は、人以外のモノだ。 人間相手には、主に針を使っていた。この仕事に就く前にしていた仕事…娼婦をしていた時、客の要望に応える為に培った技術の中に、所謂SMもこなす必要があるタイプの娼婦をしていた。その時に、針を覚えた。痛みを伴った快楽というものの存在で、針を使ってもたらせる快楽を好む客が何人かいたからだ。 快楽のツボを知るという事は、痛みのツボも知る事になる。 夜深はそれを利用して、痛みが必要な仕事をこなしてきた。 銃は手っ取り早い、と周囲から言われるのだが、どこか野蛮で好きになれなかった。 しかし、13年前から。 そんな事を言ってられないものも相手する事が、金になると組織が認識した為、夜深も銃を持たざるを得なくなった。今では必要なツールとして、それに使われないよう、自分を制して使用している。 本社のビルの地下、そこに入る必要がある者だけしか入れない場所に、射撃場があった。 夜深はそこの射撃場にいた。 ベレッタM92FS。4インチバレルマグナム。ジャムった時の為に、二挺。いつも、コートを着ているのは、これらを隠す為だ。 ホルスターから素早くオートマチックを抜きざま、16連射。続き、反対のホルスターからリボルバーを取ると、同じように6連発。合計22発の弾丸は、人の形をした的の内部にすべて当たっていた。 二挺の銃のカートリッジを代え、再び連射する。 その様子を夜深の舎弟、カンジは、身長190センチの図体を曲げ、見学室からじーっと見つめていた。 「かっくいー…いいなー…夜深さん…かっくいいよー…」 と、頬を染めひとりごちていた。 (んー…そろそろ、おやめになるかな。そしたら、おしぼりとルイボス茶の用意しなくっちゃ…後は…) と、夜深の次の行動の為の段取りを考えていると、後ろから声をかけられた。 「夜深様は、そちらにいらっしゃるのか? カンジ」 「は、はいっ!?」 振り向くとそこには夜深の一番の部下、日置が、夜深の義父である御大を連れ、やってきていた。 「う、うっす、そうっす」 カンジはあわててそこから飛び退き、二人に場所を譲った。 日置も夜深の義父も、黙ってそこに移動する。 「ふむ…」 義父は夜深の技術に唸る。 「…腕をおあげになりましたね」 「そうだな」 「最初は持つのをいやがってらしたので、どうなる事かと思ったのですが…」 「だが、お前もあれに素質がある、と思ったから、無理強いさせたのだろう? 日置」 「は…」 「お前の目は確かだったという訳か」 「はい、そういう事になるかと」 「で…また出たとかいう話だが?」 「はい。中央にあるランパブが集中するビルにですが…」 「まだ、狩りきれておらんと聞いたが?」 「はい…申し訳ありません、御大」 「では急ぎ、あれをあちらに行かせた方がいいのではないか? 儂に得遠慮せずともよい。儂は様子を見に来ただけだからな」 と言い、義父は踵を返した。 日置に変わり、御大をガードするように別の者が従って、姿を消した。 「………………」 カンジは惚けた顔で、それを見つめている。 「夜深様、聞こえますか?」 日置はそばにあったマイクで、消音室の中の夜深に声をかける。彼の声は夜深が耳にしているヘッドフォンに届いていた。 「聞こえてるよ、どうした?」 「申し訳ありません。また、です」 「…ああ…りょーかい。すぐ出るよ」 夜深はそれだけで何があったのか理解し、弾丸を込め直した銃をホルスターに入れ、上着を着、出てきた。 「お疲れ様っす」 カンジがそう言いながら、夜深にほかほかのおしぼりを渡す。そして、使い終わったそれを手渡されると同時に、冷えたルイボス茶を渡す。 「で、どこだい?」 「前から注意が必要な客がいた、ランパブからです。どうにも押さえきれないようで…」 「わかったよ。じゃあ行こうか」 「はっ…」 日置が深く頭を下げるのを見る事なく、夜深はカンジにコップを渡し、外に出る準備をする。 「あ、オレも行くっす」 カンジが夜深に言った。 「…別にいいよ」 「いえ、行くっす。行かせて下さい」 「…わかったよ…日置」 「はい、わかりました」 日置はそう言うと、カンジの方を見た。 「携帯電話とかはもう用意出来ているかい?」 「うっす、大丈夫っす!」 「わかった、行こう」 三人はそこを出た。街は夕闇に染まりかかっていた。 |