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−公園 津崎香苗。一年前に、直人が本気で想った女性。 「香苗さん!」 直人が呼びかけると、香苗は彼に視線を向け、優しく微笑んだ。 「朝霧さん、お久しぶりね」 そこで、直人は辺りを見回し、不思議そうな顔をする。 「香苗さん、ご家族は?」 少し肩を落とす直人に、今度は香苗が不思議な顔をする。 「どうしたの?」 言わなければならないことがあった。おそらく、この世界で、香苗を最も深く愛し、彼女に最も深く愛されている、あの人に。 「悟さんに、謝らなきゃって・・・」 手近なベンチに腰を下ろす。木陰のそれは、思いのほか涼やかだった。 「朝霧さんの事、時々思い出してたのよ?今頃どうしてるんだろうって」 一年の出来事を互いに語る。刺激的な事件はなにもない、取止めのない会話だったが、とても大切なように思えた。 「・・こっちにはゆっくりしていけるの?」 口を閉ざす。ひとときの沈黙。風が一つ強く吹いて、木々をざわめかせる。 「・・あの夏・・・」 香苗が優しく微笑む。 「あの夏、あなたの前では、妻でも母親でもなく、ただの女になれた。・・とっても、楽しかったわ・・後ろめたかったけど・・・」 言葉にも、表情にも、瞳の奥にも、あの夏の色はない。ただ、懐かしさと、少しの後悔があった。 「・・時間です。もう行かなくちゃ」 直人は香苗と向き合う。ちょうど一年前と同じように。 「もう一度言います。僕と一緒に来てください」 幸せなことはわかってる。愛が揺るがないことはわかってる。でも、こうしなければならない。そして答えを聞かなければならない。そうしなければ…。 「ごめんなさい、それはできないわ」 香苗の微笑みは、心は、愛は揺るがない。 「・・幸せなんですか?」 駄目だこりゃ。処置なし。 「・・よかった。悟さんが約束を守ってくれて、香苗さんが幸せでいられるなら、僕は安心です。・・安心して、あなたを忘れられる」 すっきりした。そのはずなのに、香苗の微笑みが、少しだけ心に沁みる。 「もう会うこともないと思います」 右手を差し出す。 「あなたも、頑張ってね」 その手が強く握られる。小さな手、細い指、柔らかな感触。そして離れる。 「今回はキスはなしですか?」 香苗が左手の指輪を撫でる。その表情は、とても、きれいだった。 「この指輪も、もう二度と外すことはないわ。私は、悟の妻だから」 どこからか香苗を呼ぶ声がする。 「じゃあ、これで」 公園を出口へ向かって歩き出す。 「・・悟さん!・・すみませんでした!!」 堪らなかった。言葉にしなければ、叫ばなければ…。 「僕は!・・あなたと、あなたの大切な人を傷付けた!」 中から壊れてしまいそうで…。 「許されないことだ!・・でも・・・」 堪らなかった…。 「本当に・・・!・・ごめんなさい・・・!!」 でも、その人は笑って、愛する人の肩を抱いて、唇を重ねた。そして、また優しく微笑んで、ひらひらと手を振る。 「・・ちぇ・・・」 心が軽くなった。 −駅 「千穂さん」 直人が声をかけると、水森千穂は少し驚いて、そして柔らかな笑みを浮かべる。 「朝霧さん」 二人は並んで立って、ただ青いばかりの空を見ていた。 「・・朝霧さん」 千穂は少し躊躇しながら、おずおずと尋ねる。 「・・会いに、行ったんでしょ?・・好きな人に・・・」 直人が微笑む。 「言ったでしょ?一度振られた人に、もう一度振られに行くんだって」 曇りのない笑顔が、夏空に映える。 「千穂さんはどうでした?」 千穂の顔にも笑みが浮かぶ。 「じゃあ、また振られた同士で、お話しましょうか?」 夏は繰り返す。これからもずっと。 弱い風が頬を撫でる。 end ※これは「妻みぐい2」香苗エンドの後日談のつもり。俺なりにこうなんじゃないかな、こうだったらいいなっていう展開で妄想全開で書きました。香苗はやっぱり悟と幸せになったほうがいいな。 |