あぶない天狗伝説4(おまけ)
〜強者共の闇鍋大会〜


前 編


春の夜の夢の如し


 その悪夢は、いつもの如く「由香里の気まぐれな一言」から始まった・・・
「ねぇ、龍さん♪みんなで『闇鍋』しませんか?」
「はい?」


 それは、あの強者共が無事に異世界から元の世界への生還を果たし、再び平和な生活
に戻りつつあった、5月の連休が見えてきそうな、ある日のこと。
 その日は理事長が勝手に作った「ナンとなく記念日♪」と言う、訳のわからん理由で
学校が休みとなり、メンバー達は思い思いの休日を楽しんでいた。
 そんな中、時刻はお昼頃であろうか?朝から遊んでいた駅前のゲーセンから昼食を採
りに店を出た由香里と、近くの百貨店での買い物帰りの龍と綾子が街の中でばったりと
出会ったのだ。
 まぁ立ち話もナンだし、軽く昼食も採りたいからと言うコトで、そのまま自然と近く
のファーストフード店に足が向き、それぞれがポテトや飲み物を手に適当な席に座った
ところで、由香里がそう話を切り出したのであった・・・
 さて、その由香里の言葉に、綾子も飲み物に伸ばし掛けていた手を止める。
「え?『闇鍋』を・・・ですか?」
「みんなで材料を持ち寄って、部屋を暗くしてから鍋に入れる・・・あれかい?」
「はい♪あたし、1回やってみたかったんですよ☆」
「ん〜・・・まぁ、俺は構わないが・・・場所はドコで?」
「そりゃモチロン、みんなが集まれるほど大きな座敷のある、龍さん家で♪」
「ま、まぁ、良いけど・・・んで、いつだい?」
「綾子、明日はナンか用事ある?」
「いえ、特にはありませんが・・・」
「OK♪それじゃ龍さん。明日の夜7時でどうです?」
「また急だね・・・んじゃ、材料と鍋を準備しておくか・・・」
「あ。ダメですよ龍さん。鍋と出汁だけを準備してください。それも3つ」
「はぁ?3つ?どうしてだい?」
「だって『闇鍋』なんですから、材料はみんなで持ち寄りですよ。それに、いつものメ
 ンバーを予定していますから、大人数で一つの鍋は無理です♪」
「なるほどな・・・それじゃ、俺は肉と魚を準備して・・・」
「私はお豆腐とお野菜を・・・」
 だが、龍と綾子がそう言い掛けた時・・・由香里のメガネが光りを放つ。
「アハハ☆んもぉ。二人とも、ナニを言ってンですか♪さっきも言いましたけど、集ま
 るのは『あたしを始め、いつものメンバー』なんですよ?みんな『まともな食材』を
 持ってくるわけないじゃないですか♪」
「・・・ぅ゛」
「あぅ・・・」
「お二人もたまには『冒険』をした方がイイですよ。気持ちイイですよぉ〜♪」
 そんな由香里の不敵な笑みに、龍の顔が引きつり、綾子の瞳が潤む。
 まぁ・・・いつものメンバーの中でも良識(注:常識ではない)がある、この二人に
とっては、由香里の言葉の意味が重くのし掛かるのだ。
 それに比べて由香里の嬉しそうなこと・・・
 ハンバーガーを一気に口に頬張り、コーラで流し込んで食べてしまうと、早々と席か
ら腰を浮かし掛けている。
「んじゃ(モグモグモグ☆ジュルー♪ごっくん☆)龍さんと綾子でみんなに連絡してお
 いてください!」
「ちょっと待った!由香里君、正確なメンバーの人数を指定してくれ。それが判らない
 と、こっちも準備が出来ない」
「私も連絡するのに、携帯の登録に載っていない人も・・・」
「それもそぉですね・・・え〜と、まずは龍さんに綾子にあたしでしょ?あとは、和美
 と早苗と孝司と悦美と智子と美貴さんと、大下さんと村田さんと・・・あ・・・あの
 龍さん・・・」
「ん?」
「夏美さんも呼んだ方が・・・イイですかね?」
「・・・パス」
「あと綾子・・・裕美を・・・呼ぶ?」
「・・・御免なさい」
「それと祥子は大人数での行事とかが苦手だからパスするとして・・・ひぃ、ふぅ、み
 と・・・12人ですか。まぁ、このくらいで十分かなぁ・・・あ!あと磨鈴ちゃんも
 呼びましょう♪」
「ん?誰だい?その子は?」
「大下さんの彼女ですよ☆」
「・・・そいつは是非とも呼ぼう♪」
「それじゃ、あたし、食材を準備してきます♪」
「おいおい・・・買い物なら明日でも・・・」
「今から・・・準備ですか?」
 こうして呆然としている龍と綾子をその場に残し、由香里は疾風の如く店を飛び出し
ていってしまった・・・


 その頃・・・
「んにゃあああ〜〜!(カチャカチャカチャ!)」
「頑張って早苗!ほらそこ!」
「んみゃおおお〜〜!(カチャカチャカチャ!)」
「頑張るのだ磨鈴!今だ!」
 街のとあるゲームセンター(由香里がいた店とは違う)では、対戦剣劇ゲームを楽し
んで(?)いる早苗と磨鈴、それに観戦者の大下と和美という、実に珍しい組み合わせ
の姿があった。
 いつもならばココにいるハズの村田は、今日は夏美の買い物に付き合わされており、
幸いなことに大下と磨鈴のデートを邪魔することはない。
 そんな実に平和な休日を満喫している4人であったが・・・
「あ?!(さっくり♪)負けたああああ!」
「やりましたぁ♪羅刹様ぁ☆」
「うむ。早苗御嬢を負かすとは、見事だぞ磨鈴♪」
「むぅうう・・・磨鈴ちゃん!もう1回(ぱこっ☆)に゛ゃ?!」
「いい加減にしなさいっての。このままじゃ大下さんと磨鈴ちゃん、いつまで経っても
 デートの続きが出来ないでしょ?!」
「あぁ〜〜!もう一回だけぇえええ!」
「ダメ!」
 ゲームにしがみついている早苗を引き剥がし、その襟首を捕まえている和美のところ
に、筐体の向こう側から大下が笑いながらやってくる。
「いやいや。構いやせんよ和美御嬢。ワシも結構、楽しんでやすんで♪」
 それに続いて対面となっている筐体の向こうから、磨鈴の声も聞こえてくる。
「私もですぅ♪ゲームがこんなに面白かったなんて、思ってもいませんでしたぁ☆」
 そんな楽しい一時に、一様に顔を綻ばせていた皆であったが・・・
「でも、あんまり(チャララ〜♪)ん?メールだ・・・」
「んむ?誰から(テテテッテテ〜♪)あれ?早苗にも・・・」
「同時にメールとは(ジャンジャカジャーン♪)ナニ?ワシにもか?!」
「あぅ・・・私には来ないですぅ」
 磨鈴を除く和美達は、ほぼ同時に着信したメールに携帯電話を覗き込む。
 内容は・・・これまた、皆、同じ内容であった。

『明日、由香里さんの提案で、闇鍋パーティーを開催することとなりました。時間は夜
 の7時、場所は龍さんのお家です。御時間に都合の付く方は、是非、参加してくださ
 いね♪それと磨鈴ちゃんのアドレスが判りません。連絡のつく方は知らせてあげてく
 ださい。 綾子』

「わぁ〜い♪龍さん家で鍋パーティーだぁ〜☆磨鈴ちゃんも呼ばれているよぉ」
「え!?いいんですかぁ?!やったぁ♪私、鍋パーティーなんて、初めてですぅ♪」
 そのメールの内容に手を取り合って喜んでいる早苗と磨鈴であったが・・・
「む゛ぅ・・・」
「むむむ・・・」
「どしたの和美ちゃん?」
「羅刹様も・・・お二人とも、どうかされたのですかぁ?」
 メールの内容を見るなり顔をしかめている和美と大下に、早苗と磨鈴は不思議そうに
顔を覗きこむが、そんな早苗達も二人の視界には入らない。
 やがて和美と大下は、釘付けとなっていた携帯電話から顔を挙げると・・・
「大下さん・・・メールに『不吉な言葉』が・・・」
「へい・・・ついておりやす・・・」
「え?どこにぃ〜?」
 二人の言葉に早苗もメールを見直すが、それよりも先に和美と大下が呟いた。
「この『由香里の提案』ってトコと・・・」
「直後の『闇鍋』・・・ですな」
 これ以上の恐ろしい呪いの言葉はあるまいて・・・
 由香里を知る人間ならば、誰しもがそう思うであろう。
 だが・・・
「・・・あ、そっか!闇鍋だから、材料を持っていかないといけないんだ!」
「え?!早苗先輩、闇鍋ってどんなモノを持っていけばいいんですか?!」
「ナンでもいいんだよ♪好きなモン持ってくれば」
「判りました♪」
「ちょい待ち早苗!」
「待つのだ磨鈴よ!」
「へ?」
「ほへ?」
 異様な盛り上がりを見せた早苗と磨鈴に、和美と大下が慌ててそれぞれの肩を掴む。
「いい早苗。鍋って『みんなで食べる』のよ?」
「うん♪」
「良いか磨鈴よ。鍋とは『皆との食事』だぞ?」
「はい☆」
 この二人・・・下手をすれば「由香里以上に」危険な存在になりかねない。
「・・・良識のある・・・」
「・・・常識のある・・・」
「食材を用意するように!」<大下&和美。
「・・・あぅ」
「はい・・・」
 鬼気迫る和美と大下の表情に、早苗と磨鈴は素直に頷いたので・・・
「・・・にへ♪」
「・・・えへ☆」
 ・・・ん?


 さて、メールは綾子だけではなく、龍からも発信されていた訳だが・・・
「悦美。龍さんからメールが届いています。ハイ♪」
「ん、あたしもよ智子。ナンでも龍さんトコで闇鍋パーティーをするんだって?」
 ソファにもたれながら、携帯電話を覗き込む悦美と智子・・・

『明日の7時に由香里君の提案で、闇鍋パーティーを行う。暇な人は、各自で好きな材
 料を持ち寄って、俺の家に集まってくれ。 龍より』

 悦美は携帯をテーブルの上に置くと、隣で座っていた智子の肩を抱き寄せる。
「智子ぉ〜。闇鍋って、ナニを持ってけばいいのかなぁ?」
「そうですねぇ・・・ナニかこぉ・・・意外なモノなどはどぉでしょう?ハイ☆」
「意外なモノねぇ・・・んじゃ、スッゴイもの持ってこうか♪」
「でも、私達も食べるんですよ?ハイ」
「う゛・・・確かに・・・特に、由香里や早苗ちゃんなんか、想像がつかないモノを用
 意してそうな気がする・・・」
「はい・・・取り敢えず、胃薬は必要かと思いますです。ハイ♪」
「あたしは安全策をとって普通のモノにしよっかな・・・豆腐とか」
「え〜?智子は冒険しちゃいますよぉ♪早速、お料理するです。ハイ☆」
「え゛?!」
 驚く悦美を後目に、智子は早々とエプロンを付けている。
「ちょ、ちょっと智子!ナニを作る気?鍋なのに調理するの?!」
「・・・悦美。由香里さんや早苗ちゃんに負けてもイイのですか?ハイ☆」
「・・・そりゃ負けたくないけど・・・いや、勝負とかじゃなくて!」
「智子・・・外道の道を歩まさせていただきますデス!ハイ♪」
「はぁ・・・しょうがないわね・・・・んじゃ、あたしは邪道で行くか・・・」
 ココに化学兵器を準備する組が出来たわけだが・・・
「ん〜・・・んふ♪」
「え?(さわさわ☆)ひゃぁ?!んもう、悦美。おいたはダメです。ハイ♪」
「い、いやぁ。ナンか『裸エプロン』ってのは、そそられるモノがあってサ☆」
 取り敢えずは二人とも「服」を着ましょうねぇ〜。


 そして同じ頃・・・
「ちょっと村田。もう少し早く歩けないわけ?」
「あ、姐さん。ちと買いすぎではないッスか?!」
「ナニ言ってンのよ?この後、もう2件お店を回るんだから♪」
「勘弁してほしいッスぅ〜!」
 街の中を、まるでアニメの1シーンを思い出させるような量の荷物を抱えた村田と、
レザーの上下に毛皮のコートと言う、コレまた一昔前のスパイ映画の女スパイを連想さ
せるような格好をした夏美が歩いていた。
 コレは見たまんま「女王様と僕(しもべ)」の姿である・・・
 まぁそれはさておき、そんな情けない下僕の姿に、さすがの夏美も気が引けたのか?
 公園の近くにまで来たのを幸い、園内に置かれていたベンチを指さした。
「しぉーがないわねぇ・・・んじゃ、そこで休んでいきましょ♪」
「た、助かったッス。よっこいせっとッス・・・」
 既にベンチに腰掛けている夏美の傍らに大量の荷物を置き、一息つく村田だが・・・
「ナニをボケッとしてんの。あたし、午後ティー、ストレートのホットね♪」
「へ、へいッス!」
 悲しきかな、直ぐさま自動販売機から飲み物を買いにパシらされていた。
 そんな、村田が自販機に小銭を入れ、午後ティーを探していた・・・その時。
「えーと、午後ティーのホットは(摩訶般若波羅密多♪)お?メールッスか☆」
 村田はジーンズのポケットから携帯電話を・・・ナンだその着メロは?
「なになに?(ピッ♪)ふ〜むッス・・・(ピッ♪ガコン☆)」
 メールを見ながらジュースを買った村田は、夏美の元に戻ると、まだメールが開かれ
たままの携帯とジュースを夏美に手渡した。
「姐さん。龍兄貴からこんなメールが来たッスよ?」
「龍から?どれどれ(カシュッ♪)ふ〜ん闇鍋ねぇ(ゴクッ)・・・村田」
「へい?ナンッスか?」
「ナンであたしにはメールが来ないわけ?」
「さぁッス?」
「まぁ、それは置いといて・・・誰が『お汁粉』なんか買ってコイって言った?!」
「あり?(ガンッ!ブシッ!)あちゃちゃちゃちゃッス!」
「ったく・・・それにしても龍のヤツ。村田なんかにメールを送っておいて、このあた
 しを差し置こうなんて・・・食材を持って乗り込んでやる♪」
 あぁ〜ぁ・・・こっちはテロリストだ。


 さてさて、またもや同じ頃・・・
「あふぁ〜・・・暇だな(バサッ)ゲーセンにでも行くかな・・・」
 ぼんやりと部屋で本を読んでいた孝司であったが、読んでいた本にも飽き、暇つぶし
に出かけようかと本を投げ出した、丁度その時。
「えーと財布と携帯は(St.a○ger〜♪)お?メールか?」
 鳴り出した携帯に、メールの内容に目を通す孝司。
「ふ〜ん・・・龍さん家で闇鍋かぁ・・・にしても『京本の提案』ってのが引っ掛かる
 な・・・きっと凄まじいモノを準備するんだろうな・・・あと、早苗も・・・ん?」
 そう呟き掛けた孝司であったが、ふと、頭の中に・・・

・・・きゃはは♪ひっかかったぁ〜☆や〜いや〜い、ばか孝司ぃ〜♪

「む・・・(むかっ!)」
 悶え苦しむ孝司に向かって笑い転げている「ネコ早苗♪」の姿が浮かぶ・・・
 由香里の食材は確かに恐ろしいが、早苗の食材で苦しむのは・・・ムカつくのだ。
 だったら、やられる前に殺ってヤルまでだ・・・
「おもしれぇ・・・そっちがその気なら、俺にも考えがある!待ってろ早苗。とびっき
 りのモノを作って喰わせてやる!」
 拳を握りしめ、台所に向かって勇んでいく孝司だが・・・
「母さん!昨日のアレの残り、まだある?!それと、いつもの『エサ』も!」
 はい?「エサ」?
 孝司君、ナニを作るのかは知らんが、それを早苗が食べるとは限らないんだぞ?


 そして、最後にメールを確認したのは・・・
「ふぅ〜・・・疲れたぁ〜・・・」
 今日も兄と共に剣道の稽古に付き合わされ、クタクタで帰宅した美貴であった。
 大学に行った兄のせいで、わざわざ大学にまで呼び出されて稽古をしていたのだ。
 一方、兄の桂はと言うと・・・
「だらしがないぞ美貴。あの程度の稽古で音を上げるナンぞ(バフッ!)おぷぅ?!」
「兄貴!レディーの部屋にまでついてこないでよ?!」
 美貴の部屋にまでついてこようとして、枕を投げつけられていた。
 だが、桂もしぶとい上に、懲りないヤツである。
「れでぃ?あぁ、いつも気が立っているから『レディー・ゴォー』の・・・おわ?!」
「龍さんから卒業記念に『マチェット(山刀)』を貰ったんだけどぉ〜?!」
「は、早く飯を食いにコイよ?!(バタン!)」
「ったく・・・やれやれ・・・」
 さて、部屋にまで乗り込んで説教をしようとした桂をマチェットで追い払った美貴で
あったが、鞘に仕舞ったマチェットを机の上に投げ出すと、その傍らに置かれていた携
帯電話が点滅していることに気がついた。
「ん?誰かから着信があったのかな?・・・あ、龍さんからメールだ♪なになに・・・
 むむむ。明日の夜かぁ・・・よし。んじゃ早速、準備をするか・・・」
 斯くして、役者はそろったのでありました・・・中編へ続く☆