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第12章 破滅の足音 1 さて、和美達が宿を出発してから、約4時間後。 今日もとっぷりと日が落ち、周囲は暗闇に包まれ始めていた。 山も川も、町も村も・・・そして、和美達がテントを張っている草原もモチロン例外 ではなく、ジワジワと闇が舞い降りつつある。 いつもならば野外で盛大に焚き火をし、夕食の準備などに追われている筈なのだが、 さすがに、こんなだだっ広い危険地域で目立ったことは出来ない。 由香里の提案で、明かりが漏れないように入口に目張りをし、空気取りの為に天井を 開けた大きなテントの中では、深い穴を掘って造った竈の焚き火を囲み、皆でお茶を飲 んでいるところであった。 そして、夕食も簡単に済ませ、作戦会議が開かれて・・・いるかと思いきや。 「それにしても・・・ナンか(ズズッ)おっかしいわね?」 「ホントに・・・これも敵の作戦かしら?私、前に時を操る邪妖精と戦ったことがある んだけど・・・どう思う?」 「時を?そりゃぁ厄介ね。でも、今のところナンにも無いわよ?」 「そうよね?」 そう言いながら、綾子の煎れたお茶を啜り、しきりに首を傾げている和美と由香里。 「早苗ちゃん、まだ眠くないよぉ・・・」 次に膝を抱えながら、つまらなそうに口を尖らせている早苗。 「もう少し薪を用意しておくべきでしたわ」 「はい・・・」 と、焚き火に薪をくべながら、残りの小枝を不安げに見る、綾子とマリン。 「ちっ・・・1日・・・無駄にした・・・」 その隣で、拳を握りしめながら、焚き火の炎を見つめる孝司。 「・・・」 「・・・」 んで、何故かテントの隅っこで正座をしている大下と村田・・・ とまぁ、この様にテントの中では、皆が一様に考え込むと言う、異様な雰囲気に包ま れているのであった。 さてさて・・・確かに、和美や由香里が訝しがっている通り「何か」が、おかしい。 今日、和美達が宿を出たのは・・・まぁ、色々とあったが、少なくとも昼よりも前で ある。 それから、丘を越え、小川を渡り・・・約2時間くらい歩いたところで、この草原の 淵に辿り着いたのだ。 ならば今はまだ、午後の2時か3時前後の筈・・・ それにも関わらず、既に周囲は真っ暗闇なのである。 頻りに首を傾げていた和美は、ふと、草原に着いてからのコトを思い返していた。 「ん〜・・・今朝からの動きを思い出すと、えーと、確か・・・綾子とマリンちゃんが 草原のあたりで疲れたって言って・・・」 由香里も和美の呟きに頷き・・・ 「そう。んで、休憩がてらに、あたしが『プチハニー』達にエサやって・・・」 今度は早苗が膨れっ面で頷く。 「んで、早苗ちゃんが火傷した」 「確か・・・あ。その後、みんなでレベルアップをしませんでしたか?」 「えぇ。あたしだけヘンなレベルにされて・・・」 「別に。ピッタリよ・・・ん?レベル?・・・あれ?その後・・・あ!思い出した!」 「・・・(ぎくっ!)」←大下。 「・・・(どきっ!)」←村田。 「こらぁ!孝司!あんた、あの不良レベル神様とはどんな関係なのよ!?」 「い、いや。何度も言った通り、レベル神と依頼者の関係で(ボクッ!)あが!?」 「んじゃ何でキスまでするワケぇ?!」 「ほっ・・・」←大下。 「ふぅッス・・・」←村田。 「あ〜あ・・・また夫婦喧嘩が始まった。綾子、マリンちゃん。和美が孝司を本格的に 殴り始めたら教えてね。孝司を応援するから・・・にしても、ん〜・・・おっかしい な〜。ナンかが頭の中で引っかかっているのよね?レベルアップ・・・レベルアップ が鍵なのよね〜」 「・・・(ドキドキドキドキ!)」←大下。 「・・・(ばっくんばっくん!)」←村田。 「レベルアップ、レベル神様・・・あ〜〜!思い出したぁ〜〜!大下さんと村田さんが 呼び出したレベル神が、勝手に夕方にしたんだぁ!!」 「(ガサッ)あら?大下さん、村田さん。どちらへ?」 「ちょ、ちょっと夜風に・・・」 「吹かれるッス・・・」 「なに?!(どかっ!ばきっ!がずん!)二人とも逃げないでくださいねぇ〜♪」 「お、御嬢ぉ〜、どうかご容赦を〜」 「先生は悪くないッスぅ〜」 「大下さん達のレベル神様?・・・あ!早苗も思い出し・・・うぇええん!!」 「ぜぇ!ぜぇ!さぁ、どんな関係か思い出した?!」 「ぉお・・・俺は・・・無実だ・・・」 「マリンちゃん、お茶をもう一杯、よろしいでしょうか?」 「はい♪」 「ひっく、ひっく。オヤジ神のバカーーー!」 こうして静かに夜は更けていった・・・ 同じ頃、女性陣が一方的有利な乱闘が起きている和美達のテントから、約50キロの 地点。 つまりはエレーヌの率いる大軍が野営している場所では・・・ 「エ、エレーヌ様!太陽が!太陽が消えてしまいました!敵の仕業でしょうか?!この 異常事態に、各部隊に混乱が生じています!」 「・・・ぅ」 飛んでくる頭の痛い報告に、エレーヌは絆創膏だらけの額を押さえた。 予想だにしなかった、突然の落日・・・つまりは「光の異変」だ。 それは、アルティシアとエレーヌの施した「催眠術のバランス」が崩れたことを意味 する。 エレーヌが術を施したモンスター達は、未だ忠実な部下となっているが・・・ 「アルティシアを連れてくるべきだったわ・・・」 光のアルティシアが術を施したモンスター達の術が解けてしまったのだ。 大混乱となった部隊を眺め、エレーヌは大きな溜息をついた。 「はぁーあ・・・とは言っても、アルティシアには1人でも大丈夫だからなんて、大見 得を切って来ちゃったからなぁ・・・しゃーない。おーい、隊長ぉ!」 「はっ!」 エレーヌの呼びかけに、重装甲の鎧を着込んだ1匹のモンスターがやってくる。 「えーと、術が・・・じゃないや。暴れてるのは、どの部隊?」 「はっ!現在暴走が確認されているのは、牛バンバラ(ミノタウルス型のモンスター) と、テンプルナイト(人間の宗教騎士団)であります。なお別の場所で待機していた にせエンジェルナイト、及び悪魔は、既に全員が逃走しました!」 「ん〜・・・んじゃ、全軍をあげて牛と野狐禅坊主どもを殺しなさい♪」 「・・・え?」 「え?じゃないの。ぜーんぶ、殺しなさいっての♪」 「し、しかし、友軍を・・・」 「・・・あんたも敵になる?」 「わ、判りました!全軍をあげて対処します!」 逃げるようにして掛けていく隊長の背中を眺めていたエレーヌであったが・・・ 「・・・あたしも・・・やるか♪」 脇に立てかけてあった円月刀を掴むと、笑みを浮かべて自らも立ち上がった。 そして深夜・・・文字通り、草木も眠る丑三つ時。 魔女の待つ城を目前にした、異世界の戦士達の大型テントの中。 皆は臨戦態勢を維持するため、それぞれの武器を抱え、服を着たまま静かな仮眠につ いて・・・いなかった。 「・・・ぅうう」 「・・・さ、寒ぃ」 「・・・エーークショイ!・・・ッス」 何故かテントの外では、大下、村田、孝司が身を寄せ、鼻を啜りながら座っている。 確かに「か弱き女性陣」にテントを譲り「屈強な男子」である三人が、夜通し警護に 立つのは当然なことではあるのだが・・・ 「ヘックシ!(ブルッ)お、大下さん・・・」 「ん?ナンだ小僧?」 「幾ら歩哨とは言え、毛布くらい貸してくれても・・・バチは当たらないですよね?」 「そうか?・・・ワシとしては『命があっただけ』でも、幸運だと思ってるのだぞ?」 「そッスよ・・・小僧は和美嬢に『殴られただけ』で済んだんだから、いいッスよ?」 「そうだぞ・・・ワシなんかは由香里嬢に『生皮を剥がされる』かと思ったのだぞ?」 「そッスよ・・・まだ『皮があるだけ』らっきーな方ッス。毛布なんて贅沢ッスよ?」 「だからって・・・なんで俺まで・・・ヘッキシ!」 そんな色んな意味で鳥肌が立ちまくっているテントの外とは裏腹に、そのテントの中 では、女性陣達がぬくぬくの毛布に潜り込んで顔を突き合わせ、更には「お菓子」を食 べながら雑談をしていた。 ナニしろ時間の感覚がズレてしまった為・・・いわゆる「時差ボケ」で、なかなか寝 付けないのだ。 「それにしても(ぽりぽり)眠くないわね・・・」 「まぁ(ぱりぱり)確かに・・・」 「そだ(もむもむ)和美ちゃん。ナンか、お話をして♪」 「え?私、昔話なんて知らないわよ」 「んじゃ、由香里ちゃん♪」 「そうねぇ・・・どんなお話がいいの?」 「えーと・・・ハッピーエンドがいい♪」 「いいわよ・・・むかーしむかし、あるところに、おじーさんとおばーさんが、大量に 生息していました」 「うんうん♪」 「その中からピックアップした一組の老夫婦に視点を定めたある日のこと、おじーさん はハローワークに仕事を貰いに、おばーさんは銀行に年金の引き落としに・・・」 「由香里ちゃん・・・ホントにそれ、ハッピーエンド?」 「そうよ♪最後は夫婦揃って夕日に向かって大往生するの。いいでしょ?」 「・・・ぅ゛。ま、まぁ確かに人生ハッピーエンドだけど・・・なんか、昔話っぽくな いよ。なんかメルヘンなヤツがイイ☆」 「ったく、贅沢なんだから・・・んじゃぁ『かちかち山』は?」 「えーと、確か・・・イタズラばかりする、悪い狸が出てくるヤツ?」 「んで、最後はウサギさんが、その狸を懲らしめるお話だったよね?」 「そう。日本の『カニバリズム』を築いた作品よ」 「カニ?早苗、カニ好きだよ♪」 「カニバリズムって・・・ねぇ由香里。まさかとは思うけど・・・その、かちかち山。 あんたの『オリジナル』にしてないでしょうね?」 「よくわかったわね?バージョンは3.5だけど?」 「取り合えず聞いとくけど、話の中に『放送禁止用語』は入ってないでしょうね?」 「え〜と・・・おじいさんが『アレ』を食べた時のセリフに『このマッタリとしていな がら、口の中にしつこさが残らないスープが、筋張った肉に良く絡み、何とも言えぬ 深い味を出しているのぉ〜♪おかわり!』ってセリフ・・・だめ?」 「あ、あんたねぇ〜!」 「美味しそうなお話ですねぇ☆おじいさんの食べた『アレ』って、ナンですか♪」 「ま、マリンちゃん!?」 「とにかく!かちかち山は却下!別のお話にして!」 「しょうがないわねぇ〜・・・んじゃ、3匹の子豚は?」 「まさかそれも・・・」 「そ。あたしが創ったヤツよ。バージョンナンバー、6.5よン♪」 「・・・う」 「聞くぅ〜?」 「き、聞くよぉ・・・だから、怖い顔しないでぇ・・・」 「よろしい。むかーしむかし、あるところに、狼に追われ続ける宿命を背負った子豚の 3兄弟がおりました」 「うんうん!」 「んで、ある日のこと。それまで賃貸でアパートを転々としながら生活していた兄弟は 景気が下落傾向にあることを考慮し、こつこつと貯めていたお金を分配し、それぞれ 独立して暮らすことにしました」 「・・・へ?」 「まず、既に彼女との同棲をしていた長男は、子供が産まれたのを機会に、結婚と思い 切って一戸建てを造ることにしました。家は夏は涼しく冬は暖ったかの、2階建ての 4LDK。土地が68坪に対し、建坪が48坪ですが、ガレージと狭いながらも庭付 きです♪」 「・・・へ、へぇ〜」 「次に次男は、売りに出されていた鉄筋コンクリート4階建てのマンションを、地価相 場の頃合いを上手く見計らって購入してリフォームをかけ、空いている部屋について は、大学生を対象として月々55,000円と、年間維持管理費5000円で貸し、 割と儲けていました」 「や、安いんだね・・・」 「しかし、兄弟の中で1番に用心深い三男は『狼が来たら?』と、もしもの事ばかりを 考える心配性であったため、やたらと頑丈な家を造ることにしました」 「・・・や、やっと3匹の子豚らしくなってきた・・・」 「三男は、まず、ア○リカに飛びました」 「・・・はぁ〜?!」 「そして、某州にあるナテ○ックに行き・・・」 「ちょ、ちょっと待って由香里ちゃん!」 「ナニよ?」 「ナ○ィックって・・・なに?」 「あぁ。アメ○カ軍の兵器の開発や民間向けの防災設備なんかを造っているトコよ」 「・・・読めてきた」 「んで、三男は開発者に・・・」 「核シェルターを造ってもらったんでしょ?」 「ええ?さすがに早苗でも判った?」 「・・・んで、狼さんは、おにーさん達は食べちゃったけど、おとーとは諦め・・・」 「ん〜、狼がおにーさん達を食べるってのは、まぁ、あっているけど、最後はチョッと 違うわよん♪」 「???」 「まぁ、最後まで聞きゃぁ判るわよ・・・その兄弟達の家のことを知った狼は、まず、 長男の家に行くと・・・」 「行くと?」 「セールスマンに変装し、長男に高額な英会話セットを売りつけました。もちろん、家 を建てたばかりの長男に、そんな余裕はありません。ところが、狼は長男を『お子さ まの将来の為に・・・』等と、巧みな話術で騙し、悪徳カード会社にローンを組ませ たのです。とーぜん、借金は日増しに雪だるまの様に膨れ上がり・・・僅か半年で長 男の家庭は崩壊しました」 「ぅ・・・」 「家は借金のカタに取られ、妻は子供を連れて蒸発し、残った長男は毎日、金策と借金 取りに追われると言う日々を送りましたが・・・1年後、もう逃げることに疲れ果て た長男は、最期にせめて一矢報いんとでも思ったのでしょうか?差し押さえられた家 と共に焼身自殺を図ってしまいました・・・しかし、それも狼の計画のうち。狼は、 それを見越して、家と長男に多額の保険金を掛けており、長男は文字通り、狼に骨ま でしゃぶり尽くされてしまったのです!」 「ひ、ひぇぇぇ・・・」 「哀れな最期を遂げた長男・・・その悲報は弟達の耳にも入りました。最期の形見分け にと、次男は兄の骨と日記を、三男は分骨と、一本のナイフを携えて、それぞれ家に 帰りました。そして、そんな哀れな最期を遂げた長男から騙し取った保険金で半年ほ ども豪遊していた狼でしたが、その金がなくなると、今度は次男をターゲットにしま した」 「うっく・・・」 「しかし、兄の日記から狼の計略を知っていた次男は、先物取引のセールスマンに化け た狼に気づき、チェーンロックを外さなかったので難を逃れることができました」 「ほっ・・・」 「でも、こんな事でめげる狼ではありません。狼は、次男のマンションに住んでいる、 一人の学生に目を付けたのです」 「・・・学生さんに?」 「そう。その学生は、現在4年生。でも、入学までに2浪、大学の途中にも1浪してし まった、運の悪い学生さんだったの。おまけに要領が悪くて、卒業を目前にしていた のに、就職の内定も決まらない・・・そのせいで、半ばノイローゼ気味。そんな学生 さんに、狼は、とある薬を売りつけました」 「・・・まさか」 「その薬を使った学生さんは、人生がバラ色に染まり、誰にも負けない勇気が溢れ出し ました。そして、通い続けた狼が吹き込む『お前は世界を救い、悪を滅ぼす勇者なの だ。悪の手先の大家を殺せ』と言う言葉に惑わされ続けた、ある日のこと。それまで 部屋代を溜めることなどは無かったその学生さんが、急に家賃を滞納し始めたのを不 審に思った次男は、催促がてらに様子を見にやってきました。そして、呼び鈴を鳴ら し、部屋に招き入れられてから数時間後のこと・・・」 「・・・ごきゅ」 「住宅街のド真ん中に建てられたマンションの一室の窓から、手、足、頭、胴体の順番 で、変わり果てた姿となった次男が道路に投げ捨てられたのです・・・」 「・・・うぅ・・・」 「そして、その凄惨な現場をコンビニで買い物帰りの三男が目撃。至急、携帯電話で警 察に通報したところ、駆けつけた警察官の手によって、その学生さんは射殺されてし まったの。でも、薬の入手先や、経路については判明できず、事件は単なる殺人事件 で、容疑者は死亡のまま送検されたの・・・でも、次男の部屋で遺品の整理をしてい た三男は、その部屋から長男の日記と、次男が自分に万が一のことが起きることを予 想して、三男に宛てた遺書を見つけ、この事件の黒幕が誰であるかを知ったわ。そこ で、三男は狼を闇に葬る計画を立てたの」 「ど、どんな?!」 「まず、三男はいろんな手を尽くして人を集めたわ。元警官や元軍人、そして不法滞在 をしていた外国の兵士や、現役の傭兵まで雇ったの」 「・・・」 「そうして人が集まると、それぞれのツテを頼り、武器も調達したわ。拳銃はモチロン のこと、マシンガンや手榴弾、果てはロケットランチャーまで・・・」 「せ、戦争が・・・出来ちゃうよ」 「そう。それはもはや復讐なんて生易しいものじゃなかったわ。三男は狼に対して宣戦 を布告したの。そして、ある日の深夜・・・狼がダミー経営している雑居ビルの前に 三男を含めた7人が集まり・・・そして、ロケットランチャーの斉射で戦いの火蓋は 切って落とされたわ・・・」 「が、がんばれ三男!」 「それは、激しい戦いだったわ・・・敵の方も襲撃を予想していたらしく、狼は金にも のを言わせて集めた、重装備の私設軍隊を用意していたの。最上階に進んで行くに連 れ、仲間が一人減り・・・二人倒れ・・・そして、最後に残ったのは三男と狼だけ」 「さ、最後の決戦だね!?」 「そう・・・金メッキされた拳銃をチラつかせながら『大したモンだぜ』と笑う狼に、 満身創痍の三男の子豚に残っていたのは、長男が残した1本のナイフと、戦闘服の胸 ポケットに入れていた、次男が自分に残した遺書だけ。そして三男は・・・」 「ごきゅ・・・」 「長男のナイフを右手に、次男の遺書を左手に握り・・・狼めがけて突進したわ!」 「そ、そんな無謀なぁ!!」 「でも、てっきりナイフを投げてくるだろうと思っていた狼は、慌てて拳銃を乱射した けど、狼狽えてしまったせいか、子豚には1発しか当たらなかったの。そして、瞬く 間に5発の弾を撃ち尽くした狼を、子豚は体当たりで倒してやると、狼に馬乗りにな り『まずは長男の分!』と叫んで、狼の右目に長男のナイフを刺した!」 「ぅ〜・・・」 「その一撃に、狼の大きな口から盛大な絶叫があがると、今度は『これは次男の分!』 と叫んで次男の遺書を握りしめたまま、狼のその大きな口に、拳を叩き込んだ!」 「あがあが・・・」 「そして牙がへし折れ、声にならない叫び声をあげながら、無様にも床の上で這いずり 回っている狼を冷酷に見下ろしていた三男は、側に落ちていた折れたテーブルの足を 見つけると・・・はぁ・・・それを手に取りぃ・・・はぁ・・・」 「ん?どしたの由香里ちゃん。鼻息が荒いよ?」 「そしてぇ〜(チャキン!)それをぉおおお〜、一気に振り上げるとぉおおおお!」 「由香里ちゃん・・・刀で・・・ナニを・・・」 「その背中めがけてぇ〜〜!『これが私の分だぁ!』ぁぁあああ!死ねえぇえええ!」 「うにゃああああああああああああ?!由香里ちゃ〜ん!刀はしまってぇええええ!」 「あ。ご、ゴメン!つ、つい話しに夢中になって・・・」 「し、心臓を串刺しにされるかと思った・・・」 「あはは(チャキン☆)まさか♪そんなことしないわよ。演出よ演出♪」 「うそ・・・最後の方は本気だった・・・」 「・・・早苗(チキッ☆)話を続けてもイイ?」 「は、はい!」 「んで、こうして息絶えた狼の躯に背を向け、見事に敵をとった三男に、砕けた窓から 朝日が射し込んで、勝者を讃えるかの様に照らし出したわ・・・でも、その三男には もう、その温もりを感じることは・・・出来なかったわ」 「え?!なんでぇ!子豚さん、狼に勝ったんでしょぉ?!」 「えぇ。狼は死んだわ・・・でも、先に死んでいたのは三男の方だったの。狼から受け ていた、たった1発の弾・・・それは、子豚の心臓に命中していたのよ」 「そ、それじゃ・・・子豚さんは・・・」 「そう・・・兄達に対する絆だけで狼を打ち倒したのよ・・・はい♪あたしのお話は、 これでおしまい♪」 「ふぃ〜〜・・・う〜ん。面白かったっつ〜か、ナンて言うか・・・随分とハードボイ ルド風の3匹の子豚だった・・・あれ?和美ちゃんに綾子ちゃん、ナニむつかしー顔 してんの?」 今まで由香里の話しに夢中で気がつかなかったが、ふと見れば、和美と綾子が早苗の 隣にピッタリとくっついていたのだ。 綾子はハンカチで涙を拭いており、和美は拳を握りしめて深く頷いている。 「由香里さん・・・素晴らしい・・・お話でしたわ」 「うん。とっても良かったわよ・・・」 「・・・照れるな☆」 「あ、あのぉ〜」 「どしたのマリンちゃん?」 「私・・・もっともっと・・・皆さんの世界のお話を聞きたいです☆」 「あ、そっか。ここは異世界だっけ・・・んじゃ、今度は早苗がお話をするね♪」 「はい!」 「へぇ。早苗、ナンのお話をするの?」 「桃太郎さんとか、金太郎さんですか?」 「猿蟹合戦?鶴の恩返しとか?」 「ふっふっふ☆早苗のお話は、由香里ちゃんと一味違って・・・聞いて驚け!」 「見て笑え♪」 「違うモン!早苗ちゃんのとっておきのお話って言うのは、ナンと!浦島たろーさんな のだ!」 「へぇ〜〜」 「ふぅ〜ん」 「そうですか」 「・・・もうチョッと驚いてよぉ」 あまりにも冷ややかな和美達の反応に、早苗は頬を膨らませたが、マリンは目を輝か せて早苗の腕に縋り付いてくる。 「早苗様!一体それは、どんなお話なのですか?!英雄伝説なのですか?!それとも、 その・・・えーと『ウラーシ・マタロー』とか言う呪術師的な名前から、死霊術師の お話なのですか?!」 「い、いや、マリンちゃん。アクセントと区切りが違うよぉ・・・」 「そ、そうよ。最近は著作権がうるさいんだから、気をつけなきゃ」 「ん〜、でも呪術師の名前ってトコは間違いないんじゃない?マタローっての?」 「由香里さん。いけませんよ」 あ〜・・・ま、まぁ、今のところは大丈夫であろう会話が済んだところで、早苗の昔 話が始まった。 「むかーしむかし。あるところに・・・」 それにしても・・・お前ら、そんなによゆーがあるなら、外の男子に毛布の1枚でも 貸してやれよ・・・ さて、場面は再びエレーヌ本陣。 時折に訪れる草のざわめき以外は、静寂だけが支配している筈の深夜の草原・・・ だが、今宵は違う。 雲の切れ間から顔を覗かせた月の光に、血に濡れた草は紅く光り・・・ 僅かな風が吹く度に聞こえる、断末魔の嗚咽・・・ そして、噎せ返るほどの香しき血の芳香・・・ そんな凄惨な光景を、エレーヌは円月刀の刃に月の光を映しながら眺めていた。 「う〜ん♪・・・やりすぎたかな?」 口調とは裏腹に、エレーヌの目には未だに殺意が・・・いや、それは「殺意」ではな く、狩りを楽しむ「快楽」・・・で漲り、口元には笑みさえ浮かべている。 明らかに・・・斬り足りないのだ。 そんな櫓に佇んでいたエレーヌに、先程の隊長が這い上がってきた。 だが、彼にあの戦闘前の杓子定規な軍人の面影は無い。 片腕がもげ落ち、身体中に矢を受け、鎧の隙間から止めどもなく血が溢れ、満身創痍 であるのだ。 それに呼吸音がおかしい・・・もう、長くはあるまい。 「え(こひゅーー)エレーヌ様(ひゅー)報告・・・いたします・・・ゴフッ!」 「あ〜、ご苦労さん。報告はいいわ。見たまんまだし・・・あんたも苦しそうだし♪」 「(こひゅー)お、お心遣い・・・有り難う御座います・・・光栄で・・・す」 「あらら・・・これでサイクロナイト部隊は全滅っと・・・残ったのは・・・」 エレーヌは隊長の躯を下に転がしてやると、眼下の光景を再び眺めてみた。 だが、残っているのは極僅か・・・最初の半分もいない。 「ふーむ・・・数も少ないし・・・改造でもすっか♪」 エレーヌはそう呟くと、円月刀を振りかざした・・・ 再び場面は和美達のテント。 そろそろ早苗がお話ししている「浦島太郎」が終わりに・・・ 「・・・と言うわけで、両目を抜かれた姫は、まだ息のある内に桜の樹の根元に埋めら れたんだって・・・」 「こ、怖いお話ですね・・・」 「ほんと・・・」 「生きたまま両目を抜かれ、埋められるなんて・・・」 「ぅ・・・」 おいおい「浦島太郎」はどこ行った? どうやら・・・昔話はとっくに終わり、まぁコレも昔話ではあるが、お話は何時しか 怪談話へと変わったようだ。 ちなみに、現在の綾子御嬢様の恐怖指数・・・「60%」 「そして、お姫様が埋められてから暫く立ったある日のこと。お姫様を殺した婚約者の お侍さんが、新しいお嫁さんを連れて、その桜の樹でお花見をしたの・・・」 「そ、それで?」 「ごきゅ・・・」 「さ、早苗ちゃん。もう・・・やめましょう」 綾子恐怖指数・・・「70%」に上昇。 人一倍恐がり・・・いや「怖い目」どころか怪談話のせいで過去に「死ぬ目」にまで 遭っている綾子は、隣のマリンの手を握りしめる。 だが、そこいら中に「怪談話」がゴロゴロしている世界に住んでいるにも関わらず、 マリンは目を輝かせて早苗に迫った。 「ど、どうなったのですか?」 「お侍さんが、お嫁さんからお酒を注いで貰った時、その杯に桜の花びらが1枚、ひら りと落ちたの。そしたら・・・お酒が真っ赤に染まっていき・・・」 「お、お姫様の・・・」 「タタリよね・・・」 「う・・・うぅ・・・」 綾子恐怖指数・・・「80%」 「そ、そして・・・どうなったのですか?!」 「驚いたお侍とお嫁さんが桜の樹を見上げると、木の枝に髪の毛を巻き付かせ・・・」 「う・・・」 「両目にポッカリと穴の空いた・・・」 「ぉ・・・」 「っ・・・」 「お姫様の干涸らびた首が、2人を見下ろして・・・こう言ったの」 「ぃ・・・」 綾子恐怖指数・・・「90%」 「お姫様は・・・」 「な、なんて・・・」 「言ったのですか・・・」 「(すぅー)・・・酒は飲んでも飲まれるなぁ〜〜!!」 「なんじゃそりゃぁあ?!」 早苗の訳のわからんオチに、思わず由香里が毛布を跳ね除けて叫んだココで、遂に、 恐怖指数が「100%」に達し、堪えきれなくなった綾子が絶叫! 「いやぁああああああああああああ!!」 「あ、綾子!?・・・なんで?!」 「どこが怖かったのよ?!」 だが、綾子が絶叫した次の瞬間「更なる恐怖」が和美達を襲った! (ぶわさぁっ!!) 「どうしやしたかぁああああああ?!」 「か、和美ぃ!大丈夫かぁぁぁぁ?!」 「え、エーーーーックショィッス!!」 「いやゃああああああああああああ?!」 「うきゃああああああああああああ?!」 「きゃあああああああああああああ?!」 突如としてテントの入口から転がり込んできた黒い塊に、今度は和美と早苗とマリン の絶叫と・・・ 「うぎゃああああああああああああ?!」 (ズガガガガガ!バシュバシュバシュ!ドゴーーーーン!!) 由香里の絶叫と「オールウェポンアタック」の轟音が、静かな筈の深夜の草原に響き わたった・・・ ちなみに、綾子御嬢様の恐怖指数は・・・おや? 「う〜ん・・・」 恐怖指数「200%」で、現在御嬢様、気絶中・・・ 「うぅ・・・エレーヌ・・・早く・・・早く帰ってきて・・・」 乾き始めた血溜まりの中、アルティシアの嗚咽が響く。 絶叫の中で意識を失い、鮮血と臓物の中に倒れ込んでから、どのくらい時が経ったの であろうか? 意識を取り戻したアルティシアは、嗚咽を漏らしながら必死に這う。 その血にまみれた頬に、アルティシアの涙が光を放ちながら流れていく・・・ 「エレーヌぅ・・・エレーヌぅ・・・」 「・・・情けないわね」 「ぃ?!ソ、ソフィア!」 突然の声に驚いたアルティシアが顔を上げると、いつの間にかソフィアが目の前に立 ち、悠然と自分を見下ろしているではないか。 驚きと、植え付けられたばかりの恐怖に震えるアルティシア。 既にアルティシアの中では、ソフィアが恐怖の対象となっている。 そんなコトを知ってか知らずか、ソフィアは「笑み」を浮かべてアルティシアに近づ いてきた。 「・・・」 「い・・・いやぁ・・・たすけて・・・エレーヌぅ・・・」 近づいてくるソフィアに、もはや逃げることも出来ないアルティシアは、頭を抱えて 嗚咽するばかり・・・ そして、ソフィアの手が、アルティシアの髪に掛かった。 「・・・ホントに・・・(グイッ!)情けないわね!」 「あうっ!い、いやぁ・・・」 髪を鷲頭髪にされ、アルティシアの顔がしゃがみ込んだソフィアの顔の高さにまで引 き上げられる。 「さぁ・・・ナンか言ってごらん?裏切り者のアルティシア?」 「ぅう!」 「あたしがナニも知らないとでも思っているの?前の時と同じように・・・あんたが、 あの異世界から賢者を呼び寄せ、聖なる錫杖を造ってやった時と同じように・・・今 回も、異世界の戦士達を呼び寄せ、武器を与えたことも・・・」 「ひ・・・ひぃ・・・」 「あたしは知っているのよ!」 「(ザシュッ!)あうっ!!」 「クリスタルの中で・・・ずっと見ていたのよ・・・あんたが『神』に祈るのをね!」 「(ズブッ!)ぅう!」 胸に突き立てられたソフィアの爪の痛みと、これから自分を襲うであろう恐怖により 目を開けることすら恐ろしい。 アルティシアは、ひたすら自分の服を掴み、震えるだけだ。 だが、そんな涙をこぼし続けるアルティシアの頬に、柔らかな物が撫で付けられた。 「うっ・・・ぇ・・・?」 「でもね(ぴちゃ)あたしは、そっちの方が楽しいから、みんなに黙ってあげているん だけどね・・・(ちゅる)」 奇妙な感触にアルティシアが恐る恐る目を開けると、それは、自分の顔にこびりつい た血糊を丹念に舐める、ソフィアの舌・・・ 「ぅ・・・ぁ・・・」 「あんた・・・(ぴちゃ)ホントは死にたいんでしょ?」 「い・・・いやぁ・・・」 「戦いが・・・(ちゅちゅ)嫌いなんでしょ?」 「・・・」 「ほんとに(ぴちゃ)・・・あんたは気に入らないわ・・・」 「ぁ・・・」 「また裏切らないように・・・あたしが封じてあげるわ!」 「んぅ!」 そう叫ぶと同時に、ソフィアはアルティシアの唇を自らの唇で塞ぎ、アルティシアの 下腹部に忍び込ませていた、その血に濡れた爪を・・・ 「(ズチュッ!)んっっっっっっ?!・・・っはあ!?ああああああああ!!」 「ハーーーッハッハ!!エレーーヌぅ!早く来ないと、あんたの大事なアルティシアが 壊れちゃうわよぉ!?」 胎奥を貫いた凄まじい激痛によるアルティシアの絶叫と、ソフィアの勝ち誇った笑い 声が城に響きわたった・・・ 2 翌朝・・・ 大きな欠伸と共に、最初にテントを這いだしてきたのは・・・ 「あふぁあぁ〜〜あっと・・・あーよく寝た♪」 夕べ、好きなだけ武器をブッ放し、心地よい眠りについた由香里であった。 そして、テントの入口で仁王立ちになると、柔らかな朝日に向かって大きく伸びをす る由香里・・・の、背中を押しながら、続いて和美が出てくる。 「ちょっとどいてよ・・・あふぁぁ・・・眠い・・・」 「ん?和美。寝不足はお肌の敵よ♪」 「もういいわよ・・・」 相変わらず元気な由香里の姿に「自分の気力は由香里に吸い取られているんじゃなか ろうか?」と、和美は思っていた。 そんな頭を抱えている和美の背中を・・・ 「あふぁぁ・・・(つんつん)ん?早苗?」 「おはよ和美ちゃん。早苗も外に出るぅ・・・」 「あ、ゴメンゴメン♪」 慌てて和美が退くと、早苗と綾子がテントから出てきた。 早苗の方は別に変わりないが・・・綾子の顔色が悪い。 「・・・おはようございます・・・」 「・・・綾子。もしかして・・・昨日、あんまし寝られなかった?」 「はい・・・あまり・・・」 「・・・由香里、早苗。あんたらのせいよ」 「ご、ごめん綾子」 「ごめんね、綾子ちゃん」 「いえ、違うのです・・・実は・・・へんな夢を見たんです」 「夢?」 「はい。大きな翼を持った人影が夢の中に現れて・・・」 「ナンか言ったの?」 「はい・・・ただ一言『早く』・・・と」 「はぁ?」 「・・・?」 綾子の難題に和美も由香里も腕組み、考えるが・・・ 「早くって・・・ナニを?」 「やン☆由香里ちゃん・・・せっかち(ばちこーん!)あぅぅ・・・」 結局のところ、ナンにも解らない。 全員が唸っていると、テントの中からマリンが顔を出した。 「おはようございます・・・あれ?皆さん、どうされたのですか?」 「え?あ・・・ちょっとね。あ、そうだ。マリンちゃん、私達、これから朝御飯の準備 をするから、代わりに『大下さん達の縄』を、解いてきてちょーだい」 「え?縄・・・ですか?」 「昨日、アンだけ脅かしてくれたから・・・」 「縛り上げてテントの裏に転がしてあんの♪」 「風邪などひいてらっしゃらなければ良いのですが・・・」 「た、大変ですぅ!」 「それにしても、綾子を呼んだ人って、私を呼んだ声と同じ人かな?」 「それでは誰かが待っているのでしょうか?」 「早苗ちゃんも聞いたよーな気がするけど・・・でも、ナンのためのなんだろ?」 「早苗も?・・・あたしだけナンも聞こえないんだけど?」 「きゃぁあ?!羅刹様ぁ!孝司様ぁ!ついでに村田様ぁ!」 「う〜ん・・・早苗ちゃん、わかんない」 悲鳴を上げながら必死に縄をほどくマリンには目もくれず、黙々と謎解きをしている お前らの神経の方が、私にはわからん。 その頃・・・ 大いなる魔女の城の、とある場所・・・ とある場所に置かれた「石像」が、和美達の姿を見つめている。 それは、ようやく近づいてきた和美達に、メッセージを送った者であった。 その動かぬ瞳に映る、必死に腕組み考える和美達の姿・・・ 「う〜む・・・城に早く来いってことかな?」 「それでは誰かが待っているのでしょうか?」 「それより、誰からのメッセージだったのかな?」 ・・・あと僅か・・・ 思惑する石像は、ナニも語らず静かに佇んでいた・・・ それは、数百年もの間・・・ 和美達が・・・異世界の者が・・・ そう・・・「同じ土を踏んだ者」が来るのを待ち続けて・・・ さて、簡単な朝食を済ませ、テントも畳み終わった一行は、裕美の待つ城に向かって 歩み始める。 食糧が減った分だけ、荷物が多少は軽くなったので・・・と言っても、荷物の殆どは 兄貴ズが持っているのだが・・・昨日よりも足取りは軽い。 「よぉし!んじゃ、しゅっぱーつ!」 由香里の号令に全員が頷いて足を踏み出し、僅か数歩を歩いた時、早苗がふと顔を上 げると、由香里の前に回り込んだ。 「ねぇ由香里ちゃん」 「ん?なに早苗?」 「ただ黙々と歩くのもつまんないから、ナンかしながらいこーよ♪」 「はぁ?ナンかって・・・なにを?」 「うーん・・・歌でも歌いながら行かない?」 「なに言ってるの早苗。由香里が昨日、敵が先にいるって言ったでしょ?」 「そうですわ。あまり騒いでは・・・」 「でもぉ、暇だし・・・」 「んにゃ、いいわよ。どーせ敵は50キロも先なんだし☆」 「やったぁ!」 「でも・・・」 「ねぇ・・・」 さすがにマズかろうと和美と綾子が顔を見合わせるが、マリンは顔を輝かせている。 「わぁ・・・早苗様の世界の歌・・・聞かせて下さい」 そんなマリンの熱烈なリクエストに、由香里と早苗は「妙な笑み」を浮かべながら顔 を見合わせ、深く頷くと・・・ 「よぉし、んじゃ早苗。この前、カラオケボックスで練習したヤツやるわよ?!」 「うん!『昭和○れす○きbyデスメタル調』だね!?」 「デス・・・メタル?」 「んじゃ由香里ちゃんからね♪いくよぉ・・・せぇ・・・」 「のぉ・・・MA・ZU・SHI・SA・に゛ィィィィ!I’m Loーーーst!」 「Noぉオ゛オ゛!SE・KE・Nに゛ィイ゛!マ゛けたア゛ア゛ァァぁぁああ゛!」 「ど、どっからそんな『うがい』みたいな声が出るのよ?!」 「Obooooo!」←高々と拳を上げている由香里。 「Nhaaaaa!」←ヘッドバンキングをしてる早苗。 突然の豹変ぶりに(豹変しすぎだ)思わず、生命の危険を感じた和美は、慌ててこの ジュー○スプリー○ト風の由香里と、メ○リカ調の早苗を止める。 「チョッとまったぁ!!由香里、早苗!」 「なによ?」 「ん?なに?」 「わ、悪いんだけど・・・ホント悪いと思っているわ!で、でも、もーちょっと他にあ るんじゃない?こぉ『感動するよーな』と言うか『心に響く』歌を・・・」 「う〜ん・・・んじゃ、女性ボーカルとか?」 「うん!それならいいでしょ!」 「しかも『感動するよーな』歌で、おまけに『心に響く』歌よね?」 「そぉそぉ♪」 「そんじゃ『カル○ンマキ&○Zバンド』で、『午前○時のス○ッチ』に決まり!」 「カ○メン・・・ふへ?早苗、その人わかんない?」 え〜・・・どーしても聞いてみたい人は、お店に買いに行きましょう。 「まぁ、一人で歌う歌だから、いいわよ。んじゃ、歌うわね・・・」 「和美ちゃん、知ってる?」 「判らないなぁ〜・・・」 「私、お婆様から聞いたことがある様な・・・」 「そこ、静かに。それじゃいくわよぉ(すぅ〜)真ぁ夜中の○角ぉ〜♪しゃがみ○んだ 女ぁ〜。ネオン○インの反射でぇ〜、泣いているのが○ぁ〜るぅ〜♪」 「おぅ・・・」 「こ、心に・・・」 「雨ぇ〜○がりの東○ぉお。夜も○もなぁく動いているぅ〜う、赤○けた空ぁああ♪」 「・・・響きますぅ・・・」 「・・・き、効く」 「唸りを○げるタクシぃ〜とぉ!行き交う○っぱら〜い。連れ込み○屋のぉ〜、明かり が○える頃ぉ〜♪」 凄まじい由香里の歌声に、和美も綾子も、文句を言う気力すら無くなってしまった。 まぁ、確かに感動する歌に違いないのだろうが・・・時と場所、それに、人それぞれ である。 「午前○時のぉぉ〜お、夜の○にゃぁあ、○の遠吠えさえー、聞こぉえてこない〜♪」 それにしても・・・まだ唄うか? 「ぅぅ(ゴクッ)・・・親父ぃ!おかわり!」←和美。 「ぁぅ(ゴキュ)・・・早苗ももう一杯ぃ!」←早苗。 「くぅ(コクッ)・・・ご主人さん。私も!」←綾子。 由香里の美声に、いつの間にやら出された木のテーブルと椅子で、冷や酒を手にしな がら涙目になっている和美達・・・ 「お客さん達もうすぐ看板ッスよ?飲み過ぎッスよ?」 どうやらテーブルと酒を用意したのは、割烹着を着た村田らしい。 そして由香里の歌は、更に和美達の五臓六腑に染み渡っていく。 「大ぉきなぁ〜○でぇ〜、叫んでみぇてもぉ〜。誰にも文句はぁ〜言わぁせなぁ〜い♪ 悲ぁしぃ〜い○でぇ〜、ぁ、噛み○めたぁ〜酒はぁ〜。○もがぁみんなぁ〜♪ぁ旨い とぉ○うぅ〜〜♪」 「ぁあ(グイッ)・・・ぷは〜☆・・・うンまい♪」 「んっ(ゴキュ)・・・んん〜☆・・・沁みるぅ♪」 「はぁ(コクッ)・・・はぁ〜☆・・・美味しい♪」 「親父さんも、まぁ一杯♪」 「こりゃどうも(グビグビ♪)・・・カハァッス!」 そんな場末の居酒屋で酒を煽っている和美達の姿に、さすがの大下と孝司も見咎めた らしく、何故か涙目で歌っている由香里に恐る恐る声を掛けた。 「なぁ・・・」 「由香里御嬢・・・」 「ん、なに?今いいトコなんだけど?」 「いや・・・もぉ〜ちょっとだなぁ・・・」 「こぉ・・・元気の出るような歌を・・・」 「あり?コレじゃダメ?心に響きません?」 「へぇ。まぁ、確かに、飲み屋で酒を飲みながらでしたら『明日はがんばろう』って気 にはなりやすが・・・今は・・・」 「どっちかって〜と『心のナイーブなトコ』に響きっぱなしだ・・・」 そんな大下と孝司の言葉に、由香里はなにやらむずかしー顔をしていたが・・・ 「うーん・・・んじゃ、演歌の大御所、サブ北島を・・・」 「由香里御嬢、それは元気の出る方向性が違うかと・・・」 「元気がでるっつーか、元気出っぱなしだろ?!」 「それじゃ・・・御嬢の歌は?」 「御嬢?・・・まっか○もぉ〜えたぁ〜・・・ってヤツか?」 「そぅ。演歌の女神様の美空○ばりメドレーを・・・」 「勘弁してくだせぇ・・・」 「よぉし、そんじゃ・・・小○旭の『ダイナ○イトが百○十屯』は?」 「京本・・・お前、いくつだ?(バキッ!)おぅ?!」 「まさか・・・歳、誤魔化して(ゴキャ!)おぶ?!」 「失礼ねぇ!う〜〜〜・・・んじゃ、アニメの主題歌は?」 「いてて・・・どんなのだ?」 「サ○ラ○戦で、檄!帝国○撃団って・・・知ってます?」 「確か・・・巷で大爆発したゲームでしたか?」 「大ブレイクですよ・・・」 「まぁ、それなら大丈夫かと思いやすが・・・」 「いえ、唄いたいのは、夕べ考えたソレの替え歌なんですが・・・」 「・・・替え歌?」 「檄!帝国兄貴団(改)です。コレが(ガサガサ)・・・歌詞です」 「どれどれ・・・」 檄!帝国兄貴団(改) 歌:大下さん、村田さん、龍さん(希望) 引き締めた 胸が萌え 震える生徒に 愛の歌 高らかに 躍り出るアニキたち 脳ミソも 筋肉に 武装する漢 笑顔を振りまいて ポーズを示すのだ 走れ 鋼鉄の 帝国兄貴団 唸れ 笑檄の 帝国兄貴団 プロテイン 消え果てて 脅える生徒に 薔薇の色 染め上げて 躍り出るアニキたち 暁に 背筋を 照らし出す漢 汗を拭きあって ポーズを示すのだ 走れ 減量中 帝国兄貴団 唸れ ムダ毛処理 帝国兄貴団 夢にまで 現れて 凍てつく生徒に 愛の灯を 抱き止めて 躍り出るアニキたち ワセリンを お互いに 塗り合う漢 お互いを認め合って ポーズを示すのだ 走れ フルマラソン 帝国兄貴団 唸れ リフティング 帝国兄貴団 村田さん 「あっしら、姐サンの為に稼ぐッス!」 大下さん 「たとえ それが全て飲み代のためであっても!」 村田さん 「昼夜を問わずに働くッス!」 大下さん 「いつの日か『ご苦労様』と言ってもらえるまで!」 村田さん 「決して休むことはないッス!」 龍さん 「それは・・・ムダだと思うぞ?」 大&村 「それを言ってはイカンのじゃぁ!!」 「あ〜ぁ・・・きっちりと3番まで・・・しかも、セリフ付きかよ」 「どうです?」 「えー・・・あっしは構いやせんが、他の皆さんに迷惑が掛かりやす(キッパリ)」 「お前・・・和美に殺されるぞ?」 「・・・そっかぁ・・・んじゃ、ナニを歌えばいいわけ?」 「あ、あのなぁ・・・もー少しみんなが判る歌を唄えよぉ。それも若者向けの・・・」 「困ったわね・・・洋楽じゃ唄いにくいし・・・ちょっと早苗。あんたナンか判りやす い歌って知らない?」 「ん〜・・・んと『明日○あるさ』は?」 「9ちゃんの?あんた随分と古い歌知ってるわね?」 「んにゃ、新しい方なんだけど・・・」 「まぁ、それなら構わないか・・・」 「うん♪せぇのぉ・・・あしー○があ○ーさ、あ○がある〜♪」 この後、みんなでの大合唱となったのだが・・・ 「明○があ〜る〜♪あしー○がある〜♪」 「あしー○ーがー○ーるーさ〜♪」 お前らみたいな「明日をも知れない奴ら」が唄う歌ではないと思うぞ? その頃、エレーヌが率いるモンスター軍団の居る草原。 「ん〜・・・ま、急ごしらえにしては、上出来よね・・・」 エレーヌは、眼下のモンスター軍団を眺めて満足げに頷いていた。 それは、新たに誕生したモンスターの勇姿に向かってか?それとも、自らの技術の高 さへの自賛か? そう・・・今、エレーヌの目の前にいるモンスターは、新たなモンスター。 (ガチャン・・・ガチャン・・・) 人間であったテンプルナイトの身体を持ち・・・ 「グフォォォォォ・・・」 鬼の口から吐き出される妖気・・・ (ブォオオオオオオ!) バーニアから吹き出される、圧縮空気・・・ エレーヌの持つ特殊な属性「音」は、なにも催眠術だけにしか使えない訳ではない。 音とは空気や物の振動で発生するもの・・・つまりは振動を生み、その振動の波長さ え切り替えれば、万物を分子レベルにまで分解できる。 コレにエレーヌの魔力を組み合わせた、その結果・・・ 「よーし、全員、しゅっぱーつ!」 「グェエェエェェェ!」 エレーヌの号令の元、スラスターの様な噴出口から盛大に圧縮空気を吹きだし、新た なモンスター軍が飛び立った・・・ あ、さて、場面は再び裕美の城に向かっている和美達のパーティーに・・・おや?何 故かメンバーの全員がバラバラになっている。 一応、全員一直線にはなっているが、それぞれのメンバーの間隔が区々(まちまち) なのだ。 ちなみに先頭から、早苗、村田、由香里、綾子、マリン、和美、大下、孝司である。 そんな奇妙なフォーメーションの後尾付近にいる和美は、額に浮かんだ汗を拭うと、 遙か向こうにいるマリンに向かって叫んだ。 「ふぃ〜〜〜〜・・・おーーーい!まりんちゃーーーん!」 「はーーーい!」 「ゆかりにぃーーー!きゅーーけーーしよぉーーーってぇえーーー!あやこにーーー! いってーーー!」 「はーーーい!あやこさまーーーー!」 「はぁーーーい!?」 「ゆかりさまにぃーーー!きゅーーけーーしましょーーってぇ!かずみさまがーーー! いっていますとーーー!つたえてぇーーー!くださーーい!」 「わかりましたーーーー!ゆかりさーーーん!」 「なに?」 「聞こえないのでしょうか?・・・ゆかりさーーーーーん!」 「なーーーにーーーー?!」 「きゅーーーけーーーにぃ!しましょーーーーー!」 「おっけーーーー!んじゃぁーーー!村田さんでーーー!さいごねーーー!」 その綾子の声に由香里は手を振って応えると、腰のバックの中から、紙とペン、更に は(じょるじゅ)の空砲を取り出した。 「さらさらさらっと・・・よし。コレを・・・(ぎゅう!)」 由香里はナニやらペンで紙に走り書きをした後、紙を鉄の拳にしっかりと握りしめる と・・・ 「・・・よっと(ジャコン!)」 なんと今度は空砲を(じょるじゅ)に装填したのだ! そして、撃鉄を起こし、前方に静かに構え、スコープを調整する。 「距離・・・82メートル・・・風速・・・微弱・・・」 その照準の先は・・・村田の後頭部!? 「・・・当たれ!(ドッッゴーーーーーン!)」 引き金を引く由香里の指に・・・躊躇いは無い。 「さーてと。次はあっしの番ッスね(ドッゴォーーン!きぃーーん・・・)ん?今のは 由香里御嬢の大砲の(ガッコーーーン!)あいたああああああ?!ッス!!」 狙い違わず、由香里の放った文字通りのロケットパンチは、見事に村田の後頭部に命 中した! だが、村田は鉄拳の命中した後頭部をさすりながら、後ろを振り返る・・・ 「あたたたたた・・・何事ッスかね?」 距離があったとは言え、やはり全く効かないところが素晴らしい。 村田は落ちていた鉄拳を拾い上げると、握られた拳に紙が・・・ 「んん〜?おや?こりゃ、由香里御嬢からあっしへの愛のメッセージッスね・・・どう せなら、小僧から貰いたかったッス(ガサガサ)えーと、なになに?『お茶にするか ら、綾子のトコに集合してね!PS:早苗にも伝えてね』ッスか。なるほど、そろそ ろ綾子御嬢様のティーたいむの時間ッスね・・・そんじゃ、早苗御嬢とあっしで最後 のジャンケンを(すぅーーー)さぁああなあぁぁえぇぇおじょぉうぅうおおおお!」 「う、うわ?!む、村田さんが吼えてる?!」 「あり?聞こえなかったッスかね?早苗御嬢ぉぉおおおおおおおおおおお!」 「あ、早苗のコト呼んでたんだ・・・なぁーーーーにぃーーーー?!」 「コレでさいごッスぅーーーー!いくっッスぅよぉーーーー!」 「おっけーーーー!ジャーーーンケーーーン!ぽぉぉぉん!あ!負けたぁあ!!」 「らっきぃッス!やはり、ぱんちでグーで勝利した時は・・・せぇのぉ・・・○龍拳! 昇○拳!昇龍○!ッス!プフ〜・・・はい!追いついたッス!」 「・・・う、うそ。村田さん、3歩でこんなに飛んできたのぉ?!」 「いやぁ。この世界は身体が軽いッスから♪」 「で、でも、30メートルはあったよ・・・」 「ハッハッハ♪世界新ッスね!?」 そんな目がテンになっている早苗と、頭を掻きながら豪快に笑っている村田の姿を、 望遠にしたスコープで見ていた由香里であったが・・・ 「ん。終わった様ね・・・ハーーーイ!おしまーーーい!みんなーーーー!綾子のトコ に、しゅーーーごぉーーー!」 その由香里の号令で、散り散りになっていたメンバー達が駆け寄ってきた・・・ と、まぁ・・・ジャンケンで遊びながら進んでいたコイツら、中間地点にいた綾子の 周りに集まると、例の如く、敷物を敷いて休憩をする・・・完全にピクニック気分だ。 「皆さん、冷たい麦茶をどうぞ。和美さん、由香里さんと早苗ちゃんに・・・」 「ほい」 「はい、羅刹様もどうぞ♪」 「おぉ、すまんなマリン☆」 「ふぃぃ・・・あ、そだ!(じゅる)村田さんと大下さん、反則ぅ〜〜!」 「そうよね。助走なしの3歩のジャンプで、30メートル以上は飛んでくるモンね」 「そーだよー。おまけに時々、昇○拳や竜巻○風脚まで使ってぇ!」 「いやぁ。そんかわしつってはナンですが、あっしら、ジャンケンがどーも弱くて」 「そッス。どーしても、最初はグーッス」 「・・・早苗、どーして負けたんだろ?」 そんな賑やかな休憩タイムであったが、一人だけ、妙にブスッとしている者が・・・ 「・・・(ズズッ)」 無言で麦茶を啜っている孝司であった。 今までならば「やれやれ」と言う表情なのであろうが、生まれ変わった孝司には、今 の様な漫然とした状況が堪えられないのだ。 それをナンとか持ちこたえているのは、やはり和美への「愛」なのであろう・・・ そんな不機嫌そうな孝司の顔に、由香里が団子を囓りながら首を傾げる。 「ん?孝司、なーにブスッとしてんの?」 「いや・・・こんなペースで、明日までに辿り着けるのかと思うと・・・」 「それは大丈夫よ。あたしの計算だと、このゆっくりペースで行くと・・・明日の夜に は裕美の城の入口に着くハズよ♪」 「そうか・・・ん?それじゃぁナニか?真面目なペースで歩いていたら・・・」 「えーと、今日の夜中に着いちゃうわね。休みなしで歩いたら、今日の夕方かな?」 「・・・あのなぁ・・・」 「まぁ、待ってよ。コレも作戦の内なのよ。夜に城に辿り着いて、深夜まで城の周辺を 探索して、奇襲作戦を・・・」 と、自慢げに自分の作戦を語る由香里に、孝司は半目で睨み付ける。 「・・・敵は夜も昼もかんけーない、モンスター達なんだぞ」 「・・・あ」 「それに、モンスター達の多くは夜行性だ。夜に本領を発揮する奴等が多い・・・」 「あぅ・・・で、でも、昼型のモンスター達は、寝ているから・・・」 「・・・んじゃ、そいつらは昼に襲ってくるだろうよ」 「・・・あぅあぅ」 なーんの反論も出来ない由香里・・・ そして、そんな由香里にトドメを刺すかの様にスコープがけたたましい音を発てた! 「(ピピピピピ!)な?!て、敵が来たぁ!?孝司!あんたのせいよ!」 「うっせぇ!みんな!来るぞ!」 孝司の叫び声に、全員が武器を手に立ち上がる。 しかし、その周囲に敵の姿は見あたらない・・・ 「由香里ちゃん!?て、敵は?!」 「由香里!敵はどこから?!」 「村田ぁ!油断するなぁ!」 「オゲェ!」 「マリンちゃん!私の魔法障壁の陰に!」 「はい!」 「みんな、円陣を組むんだ!」 姿の見えない敵に、円陣を組み、マリンを中心にして八方を睨み付けるパーティーで あったが、それでも敵の姿は全く見あたらない。 「由香里!敵はどこなの?!」 「待って・・・敵は・・・近いわよ・・・敵は・・・上だぁ!!」 由香里のその叫びと同時に、高らかな笑い声が頭上から響きわたった。 「ホーッホッホッホ!いたわね!あたしとアルティシアの愛のお城達!」 (シュゴゴゴゴーーーーー!) 円月刀を手に携え、高笑いと共にモンスター軍を従えてゆっくりと上空から降りてく る音の邪妖精エレーヌ。 「す、凄い数・・・」 戦斧を握りしめ、そのモンスター軍の数に息を飲む和美。 「モンスターの顔・・・こ、怖いよぉ・・・」 和美に身を寄せながら、震える早苗。 「くっ・・・空を飛びやがるのか・・・コイツらは」 拳を握りしめながら、ホヴァリングをするモンスターを睨み付ける孝司。 「綾子御嬢!マリンを!」 「小娘を頼むッス!」 「マリンちゃん、この壁から離れてはいけませんよ!」 自らの身体を壁にする大下と村田に、魔法障壁を繰り出す綾子。 「は、はい!」 それら鉄壁の壁に身を隠す、マリン。 そして・・・ 「う〜む・・・敵の総数、280匹か。結構な数ね。んで、敵の種類は・・・生体と機 械の複合モンスターぁ?!ややこしいわね・・・戦闘力の方は・・・げ!?結構高い じゃない!?それにしても・・・(ピッ、カシャ!)ふむ〜・・・」 スコープで敵の情報を見ていた由香里は、その照準をエレーヌの顔に合わせる。 その映像に映し出されたのは、やはり昨日に(フライングプチハニー)をぶち当てて やった、悦美と同じ顔を持つ女・・・ 「・・・ふん。昨日の悦美顔が・・・やっぱり親玉ね。ナンの邪妖精なのか・・・」 そんな和美達を、モンスターは地上と上空からジリジリと周囲を取り囲んでいく。 「グァァァァァ・・・」 「さーてと、この音の邪妖精エレーヌ様が、直々にあんた達の力を見る前に・・・まず はこの子達で見させてもらおうかしら・・・」 一匹のモンスターを椅子代わりにし、悠然と腰掛けながらエレーヌは静かに笑う。 その笑顔に由香里と和美、それに大下と孝司の額に汗が浮かんだ・・・ ・・・こんな遮蔽物もナニもない草原で、これだけの数に襲われたら・・・ 昨夜話した最悪のシナリオが過ぎる・・・ だが・・・それは現実のモノとなった。 「フフ・・・いけぇ!全員の首を狩るのよぉ!!」 3 一秒毎に斬り刻まれる命・・・ 一分毎に消えていく身体・・・ それは、戦場という舞台で繰り広げられる、悲劇の物語・・・ だがその上演を見る観客は無く、終わりを告げる時には誰も泣いてくれない・・・ その舞台の演出者は・・・ 「はぁ・・・はぁ・・・たぁああああ!」 額から流れ落ちる血を拭いもせず、戦斧を振るい続ける、和美・・・ 「ぜぇぜぇ・・・えいぃぃ!」 ふらつく足を踏ん張り、モーニングスターとフレイルを振り回す、早苗・・・ 「ォォォオオオオオ!食らえ!グラビティースマッシャーー!」 モンスター達に向かって両拳から重力弾をブッ放している、孝司・・・ 「その高貴なる色を以て・・・光よ、切り裂いて!」 振り翳した魔法の杖から光の刃をモンスター達に浴びせる、綾子・・・ 「ぬりゃあああああああ!」 見事な上手投げを極め、モンスターを地面に叩き付ける、大下・・・ 「こんなモンが食えるかああッス!」 豪快なちゃぶ台返しで、モンスターをひっくり返している、村田・・・ 「オラオラ!弾が勿体ないから、ちょこまかすんじゃないわよぉ!?」 爆炎砲とチューリップを乱射しまくり、大立ち回りを演じる、由香里・・・ 「み、みなさん・・・がんばって下さい・・・」 綾子が作った魔法障壁の中で、ひたすら祈り続けている、マリン・・・ 誰もが疲れ、傷つき・・・戦っている。 元の世界では、映画やテレビの向こうででしか見ることのない、文字通りの命をかけ た戦い・・・ それも、銃撃や砲撃などの近代戦闘とは違う、剣と魔法のお伽話の世界での戦いだ。 いくら和美が合気道の心得があり、由香里が付け焼き刃の剣道や剣術の心得があり、 全てにおいて常識外れた無敵の大下、村田が居ても・・・ やはり「現実」と言う言葉の前には、為す術もない。 時が皆の体力を削り、モンスターの断末魔の咆哮が精神力を削っていく。 僅か10分間とは言え、和美達には永遠とも思える時・・・ そして、その「現実」は和美達の命を確実に囓り始めた。 「グアッ!(グシャァァアァ!)」 「はぁ!はぁ!はぁ!20匹目ぇ!」 和美の振るった戦斧を頭に受け、地面に叩き付けられるモンスターだが、その和美に 別のモンスターが放った雷撃が浴びせられる。 「(バリバリバリ!)きゃああああ?!」 戦斧に縋り、ガックリと膝をつく和美・・・ その悲鳴を聞きつけ、直ぐさま孝司と早苗が駆け寄ると、蹲った和美を抱き起こし、 綾子の元に走った。 「和美!?大丈夫か?!」 「綾子ちゃん!和美ちゃんがケガを!」 「和美さんが!?」 「だ、大丈夫よ。少し、油断しただけ!」 そして、そんな和美達の隣で奮闘している兄貴ズもまた・・・ 「ぬりゃあああああ!」 「あちょぉぉぉッス!」 (ガズン!ボズン!バキン!ボコン!) 大下の拳と村田の歯が煌めく度に、ボタボタとモンスターが頭上から振ってくる。 だが・・・敵の数は見た目よりも減らない。 大下は途中から珍しく振り回していた武器・・・例の「由香里の秘密兵器」である、 煙突状の筒・・・を、足下に突き立てると額の汗を拭った。 「ふぅぅぅ!(ズシッ!)き、キリがないのぉ!」 そんな大下に、同じく、筒を振り回していた村田が走り寄るが・・・ 「いや全くッス・・・って!兄貴ぃ!今度は左上からッス!」 「なにぃ!?」 「グェエエエエ!」 「あぶないッス!(ガブリ!)おぉっ?!」 迫ったモンスターの牙に、咄嗟に大下を突き飛ばした村田であったが、その凶悪な顎 は、村田の腕に囓りついたのだ! 慌ててモンスターに拳を叩き付けようとした大下であったが・・・ 「む、村田ぁ?!今すぐ・・・」 「な、ナンのこれしき!負けないッス!あんぐ!(ガブリ!)」 「ギョェエエエエエエエ!?」 鼻に囓りつかれ、必死に逃げようと藻掻くモンスターと・・・ 「あぐがぐがぐがぐ!ベロンベロンベロンベロン!」 噛みついただけではなく、逃げようとするモンスターを押さえつけ、その顔中を舐め 回す村田の勇姿に、大下の目はテンになってしまった。 コレではどちらがモンスターか判らない・・・ と、村田の下で痙攣をし始めたモンスターに、さすがの大下も村田の肩を叩く。 「あ〜・・・村田よ、もうそのくらいにしておいてやれ」 「了解ッス。ぺっぺ。さぁて!次はどいつッスか?!舐めてやるッス!」 「・・・グエェ」 舌なめずりをして迫る村田に、モンスター軍が1歩後ずさった・・・次の瞬間。 (ボズンボズンボズンボズンボズン!) 「グエェエェエェ!」 そんな動きの止まったモンスター軍に、次々と閃光が襲いかかり、頭や腕が弾け飛ん でいく。 無論、由香里の爆炎砲とチューリップのエネルギー弾だ。 そして、その直後に(ファンネル・プチハニー)を自分の周囲に漂わせた由香里が、 兄貴達の側に走り寄ってきた。 「大下さん!村田さん!大丈夫ですか?!」 「こっちは大丈夫でさぁ!それより御嬢!敵の数が多すぎやす!このままじゃ・・・」 「ナニか強力な武器はないッスか?!あ、そうッス!コイツを使って・・・」 そう言いながら村田は筒をさするが、由香里は首を横に振る。 「ダメです!この武器はこんな乱戦では使えません!」 「それじゃ・・・あ、その爆弾はどうッスか?!」 村田は由香里の胸の弾帯にさしていた手榴弾を指さすが・・・ 「こ、これは・・・まだ・・・」 「・・・そいつだけは・・・最後の手段にしやしょう」 「えぇ・・・」 由香里は神妙な面もちで胸に付けていた手榴弾を握りしめる・・・ 確かに、惜しげもなく爆炎砲とチューリップをブッ放してはいるが、このハンドサイ ズの「最終兵器」だけは、おいそれと使う訳にはいかない。 「それにしても数が(ピピッ!)っ!?次が来ます!」 「ええぃ、正面からか?!」 「シャアアアアアアア!!」 「おぉ?!少し強そうッスよ?!全身が真っ赤で、頭に羽根飾りが付いてるッス!」 「うぬぬ!ナンて生意気な・・・負けないわ!村田さん、大下さん!」 「へい!」 「へいッス!」 「向こうが『赤い彗星』なら、こっちは『黒い三連星』です!」 「りょうかいッス!」 「はい?!」 「ジェッ○ストリームアタックで行きますよ!」 「了解ッス!」 「ジェット・・・へい?!」 「兄貴、悩むことはないッス!一列に並ぶフォーメーしょんッス!あっしが先頭で兄貴 が2番目で、由香里御嬢が最後でGOッス!」 「よ、よくわからんが判った!」 「ちなみにあっしは踏み台にされるッス!」 そんな奮闘を見せる和美達に、モンスター軍の遙か後ろで椅子に座り、悠然とワイン を飲んでいたエレーヌは、笑みを浮かべた。 「ふふ・・・異世界の戦士達・・・なかなかやるわね。でも、あまり・・・ちょーしに 乗らないでほしいわね。この子達を造るの・・・結構苦労したんだから・・・」 エレーヌはワイングラスを傍らのモンスターに手渡して立ち上がる。 「そうねぇ・・・ま、アンだけ居るんだから、取りあえず・・・1人死んで♪」 そして、そう呟くと・・・その形の良い唇を、すぼめた。 「ひゅ〜・・・(ピィッ♪)」 エレーヌの唇から漏れた微かな口笛は、瞬時にして人間の耳では聞き取れない音域に 達して「モンスター達の耳」に響き・・・ 「ヤヤッ?!兄貴!ナニやら妙な合図の様な音が聞こえたッス!」 「なにぃ!?貴様にも聞こえたか?!」 えーと・・・エレーヌの唇から放たれた超音波は、モンスター軍に新たな命令を与え るものであった。 そして、それを合図に、モンスターが一斉に「早苗」に襲いかかったのだ! 「グエエエエエエ!」 「わぁああ?!早苗にばっか来ないでよぉ!(バキン!)あぁ?!ハタキがぁ!」 振り回していたフレイルを噛み砕かれ、勢い余った早苗が倒れ込む。 その倒れた早苗の腕を・・・モンスターが掴んだ。 「(ガシッ!)え!?うわぁああ!和美ちゃん!助けてえええええ!」 「早苗?!」 その悲鳴に全員が振り向くと、早苗がモンスターに両手を掴まれ、吊り上げられてい くではないか! このまま上昇されて手を離されたら? いくら異世界で強化された身体とは言え、ひとたまりもあるまい。 「さ、早苗!?」 「やばい!」 和美と孝司が慌てて早苗の足を掴もうとするが、一歩、及ばない。 「こしゃくな真似を!」 由香里は爆炎砲の照準を、早苗の腕を掴んでいるモンスターに合わせようと・・・ 「グエェェェ!」 「くっ!?邪魔だぁあ!」 割り込んできた別のモンスターに視界を遮られてしまった。 次第に遠ざかっていく地面に、早苗は、絶叫を上げる。 「ひ、ひぃいいい!た、たすけ・・・助けてぇえええええ!」 「くのやろ!くのやろ!」 「必殺!石つぶての舞ッス!」 大下と村田も一生懸命に石を投げるが当たらない。 ゆっくりと・・・早苗の姿が遠ざかっていく。 「早苗!」 「うっ・・・うぅ・・・和美ちゃん・・・」 そして、吊り下げられた早苗の眼下では、和美達の姿が小さく・・・ 「こ、このぉ!邪魔だぁ!」 「(ガツン!)グエエエエ!」 「早苗は?!・・・っく・・・あんな高いトコまで・・・」 ようやくモンスターを盾で殴り倒した由香里は、天高くまで連れていかれた早苗の姿 に一瞬呻くと、直ぐさまスコープでチューリップの照準を早苗の左にいるモンスターに 合わせ、爆炎砲の照準を自分の眼で照準を合わせたのだが・・・ 「くっ・・・参ったな・・・」 連続の戦闘で激しくなった心臓の鼓動で照準はユラユラと揺れ、定まりそうもない。 由香里はやむを得ず爆炎砲を下げた。 何しろ、両方のモンスターを一撃で仕留めなくては、残った一匹が瞬時に早苗を引き 裂くのは目に見えている。 だが、由香里の今の状態では当たりそうにもないのだ。 歯噛みしながらモンスターを睨み付ける由香里であったが・・・ 「どうしたら1度に2匹を・・・あ。そっか。この子がいたっけ!」 思い出したようにしゃがみ込むと、スコープの照準を「魔導レーザー誘導」に切り替 え、村田と大下に向かって叫ぶ。 「大下さん!村田さん!落としますから早苗を受け止めてください!」 「了解!この腕で受け止めまさぁ!」 「らじゃぁッス!この柔らかな胸で受け止めるッス!」 村田のガッチガチに硬そうな胸に受け止められたら、早苗は即死だ。 しかし、早苗が助かる為には・・・コレしかない。 由香里はスコープの中のモンスターを睨み付けて、標的を・・・ 「(ピピピ)頼むわよ・・・(ピィー!)よし!『フライングプチハニー』!斉射!」 「ピィーーーーー!」 ロックオンと同時に由香里の命令を受け、由香里が背中に背負っていたバックパック から、全ての(フライング・プチハニ)ーが一斉に発射された! 「誘導固定ぃ〜・・・早苗動くなよぉ〜・・・貰った!」 由香里のスコープの誘導を受けた(フライング・プチハニー)達は、煙の尾を引きな がら早苗を掴んでいるモンスターめがけて飛んでいき・・・ 「(バボーーーーン!)ひぃっ!?」 狙い違わず(フライング・プチハニー)達は、早苗の両脇にいたモンスターを、見事 に吹き飛ばしたのだ! 当然、早苗を支えていたモンスターが消滅したのだから・・・ 「(フワッ)え?・・・(ヒュゴッ!)わあぁああああああああああ!」 弾け飛んだモンスターの残骸を顔に受けて、思わず目を閉じていた早苗であったが、 一瞬の浮遊感の後に増していく落下速度に、盛大な悲鳴を上げた。 「(ヒューーーーー!)にゃあああああああああああああ!」 「よしっ!計算通り!村田さん!早苗を空中でゲットして!」 「ラジャァ!トゥッ!ッス」 由香里の号令に、絶叫の尾を引きながら真っ逆さまに振ってくるその早苗めがけて、 村田が全力でジャンプ! 「ふん!(ビシュッ!)早苗御嬢!無事ッスか?!」 「む、村田さぁん!(ガシッ!)やたっ!」 急上昇してきた村田にガッシリと空中で受け止められ、勢いの弱まった早苗は、ナン とか危機を脱出した様に見えたのだが、当然、空中で別のモンスターが・・・ 「グエエエエエ!」 「む?!おのれ化け物また来たッスね?!くらええぇ!必殺!早苗御嬢アタック!」 「え?!(ブン!)みゃあああああ!?」 空中で襲いかかってきたモンスターに、村田はナンと「早苗を投げつけた」のだ! 「グエエエ?!」 「みゃあああああ!(ゲイン!)はうっ!」 早苗の見事なヘッドバッドが決まり、モンスターは一足先に地面に落ち、一方、跳ね 返った早苗は、地面に向かって真っ逆さまに!? その様子をスコープで見ていた由香里は頭を掻いた。 「ちょっと計算外だったなぁ〜・・・ま、いっか。大下さん、キャッチしてね☆」 「へ、へい・・・オーライ、オーライ!」 「ふにゃあああ・・・」 目を回して落ちてきた早苗に、今度は大下が両手を広げて迎え入れる。 だが、この時・・・大下は、激しい戦闘のため「大量の汗」をかいていた。 その結果・・・ 「ふん!(ガシッ!)よっしゃぁ!(ぬらっ!スポッ!ビッタン!)・・・あ゛」 「あちゃ〜・・・」 派手に地面に落ちた早苗に、大下と由香里のこめかみに冷たい汗が流れる。 だが、一瞬ではあったが、大下の腕で止められたのが幸いしたらしい。 大下の手が滑って地面に叩き付けられたとは言え、早苗は、あの高度から掠り傷程度 ですんだのだ。 慌てて和美と孝司も早苗の元に駆け寄り、地面にめり込んでいた早苗を抱き起こす。 「早苗!早苗!!」 「大丈夫か?!おい!」 「・・・ぅ」 グッタリとはしているが・・・息はある。 和美が頬を2、3度ひっぱたいてヤルと、早苗は顔を歪ませながら目を開いた。 「ぅぅ・・・ぅ」 「早苗!大丈夫?!どっか痛いとこある?!」 「どうだ?!動けるか?!」 「早苗・・・生きてる?」 「も、申し訳ない・・・」 「(ズシン!)着地成功ッス。ん?いやぁ〜、早苗御嬢。見事な攻撃だったッスよ☆」 と、まぁ、皆で早苗を取り囲んでいたのだが・・・ 「・・・キライ・・・」 「へ?」 「なんだ?!どうしたんだ!?」 「みんな・・・嫌い」 だが、どーにも様子がおかしい・・・ どうも、身体の傷より、精神の傷の方が大きいようだ。 そう呟いたきり、暫くもその場に座り込み、俯いていた早苗であったが・・・ 「頭打ったかな?」 「村田よ、薬を!」 「おい!早苗!しっかりしろ!」 「孝司!後ろ!」 「グエエエエエエ!」 「うぉっ!」 「こ、このぉ!」 再び襲いかかって来たモンスターの姿に、早苗はキッと顔を上げる。 そして・・・ 「みんな・・・みんな大っ嫌いだぁああああああああ!出よ!んで、ぜーんぶ焼き尽く しちゃえぇ〜!『ヘルファイアー!』だあああああ!」 そう叫ぶなり、早苗は空にめがけて両手を突きだし、火の玉を放ったのだ! 「え?(バシューーーー!)わっ!?どこに撃ってんのよ!?」 「あぶねぇ!」 だが、それはタダの攻撃魔法にしてはおかしい。 放たれた火の玉は、空で大きく光を放つと、白煙を吹き出しながらゆっくりと落ちて くるのだ。 それに、その「ヘルファイアー」と言う名前の割には、あまり威力の無さそうな火炎 魔法である。 しかし、そのへなちょこなハズの魔法に・・・由香里のスコープが過剰なまでの反応 したのだ! 「ナンなのよ?あの早苗の照明弾みたいな(ピピッ!)ん?なに?!(ピッ!)え!? あの光を支点に・・・魔法のフィールドが張られている?!(ピーーー!)へ?!」 そして、続いて表示された文字に・・・由香里は愕然とした。 「な?!・・・早苗の特殊技術『多国籍軍』が発動ぉ!?あ?!さっきのは呪文?!」 由香里がそう叫んだ次の瞬間! (タンタタターンタ♪タンタタターンタ♪タンタタターーーン♪) 突如として草原に響きわたる音楽に、全員が動きを止める。 「な、ナニ!?この音楽は?!」 「これは・・・この曲は『ワー○ナー』の『ワ○キューレの騎行』じゃない!?」 「な、なんだぁ?!」 敵味方問わず、どこからともなく流れてきた音楽に、周囲を見回す。 だが、それに続いて更なる驚愕の「音」が・・・ 「(ヒュンヒュンヒュン)ん?・・・なに?この音は・・・」 「(ババババババババ!)コレはヘリのローター音・・・上だぁ!」 孝司の叫びに全員が頭上を見上げると、遙か上空から黒い塊が舞い降りて来る。 それを由香里はスコープで見ていたのだが・・・ 「あ、あれは・・・あのゴツい機影は『AH−64』かな?・・・あ?!」 「なんだと?!ナンで『アパッチ』がこの世界に・・・まさか早苗のヤツ?!」 由香里と孝司だけが、この早苗の特殊技能の「本当の意味」を理解したらしい。 孝司は真っ青になりながら和美と綾子の手を引き、由香里は満面に笑みを浮かばせな がら兄貴ズとマリンに向かって叫んだ。 「みんな!逃げるぞぉぉぉぉ!」 「騎兵隊がやってくるわよぉ〜!」 「な、なんなのです?!」 「どうしたんですかぁあああ?!」 皆、訳も分からないが、取りあえずモンスター軍の中から全力で駆け出す。 そして、一人取り残された早苗の頭上には・・・ 「(バリバリバリバリ)早苗様!ただいま到着いたしました!」 約半ダースの米国軍戦闘用ヘリコプター「アパッチ」がホヴァリングをしたのだ! 「な・・・な・・・な・・・なにあれぇえええええええ?!」 その「アパッチ」の勇姿に・・・いや、初めて見る「鉄の化け物」に、エレーヌの口 は開きっぱなしとなり、モンスター軍は混乱し始める。 「早苗様!御命令を!」 早苗はそんな慌てふためく敵を笑みを浮かべながら眺めていたが、スピーカーからの 声に頷くと、大きく息を吸って・・・叫んだ。 「うん!(すぅ〜)いっっけえぇええ!殺っちゃええええええ!」 「イエス!レディ!」 (バシュ!バシュ!バシュ!バシュ!バシュ!バシュ!バシュ) 早苗の叫びと同時に、戦闘ヘリ「アパッチ」の4個所のハードポイント(武装を付け るトコ)にブラ下げられていた、中東の某軍事国家にとっては悪名高き「終末レーザー 誘導方式対戦車ミサイル」である、その名も「ヘルファイアー」が、アパッチ1機から 8発・・・合計で48発、容赦なく発射された! (ドドン!ドドン!ドドン!ドドン!) 「グエェェェェ!」 ミサイルの直撃を受けて次々と爆発が起こり、弾け飛ぶモンスター達。 元々、戦車でさえ一発で弾け飛ぶミサイルなのだ・・・生モノがまともに喰らって、 タダですむわけがない。 そんな激しすぎる攻撃に、なんとか逃れようと空中に飛び上がったモンスター達がい たのだが、早苗はそれを逃さなかった。 「あ!?逃さないんだから!よぉ〜し!出よ!怨みと幻の翼!ミラージュ!」 「了解!」 早苗の召喚に応じ、雲の切れ目から大きな翼を抱いた戦闘機が出現! それは通常の戦闘機とは異なり、胴体に綺麗な三角形の翼・・・つまりはデルタ翼を 持った、おフランス製の大型双発戦闘機、その名も「ミラージュ4000」が出てきた のだ。 ちなみに、早苗が唱えた呪文の通りと言うか、この戦闘機は試作のみで終わっている。 その為であろうか?やたらと・・・執拗な攻撃が行われた。 「し、死ねええええ!」 「(ズガガガガガガガガガ!)グエェェェエ!」 叫びと共に、30ミリ×2のDEFA機関砲と・・・ 「ハッハァ!コイツもプレゼントだ!」 (シュパ!・・・ボズン!) 笑顔と共に空対空ミサイルが火を噴き、モンスターをぼろクズに変えていく。 だが、そんな猛攻をかいくぐって、早苗に1体のモンスターが迫った! まぁ、根性があるのは認めるが、よりによって単身で来るとは・・・無謀である。 「キシャアアアア!」 「なんのぉ!出よ!地獄の使いドラゴン!(ズシッ!)よっと!」 早苗の召喚に応じて、早苗の右肩に、携行対戦車ミサイルの「ドラゴン」が出現。 「ファイヤーーー!(キュバッ!)」 「ゲエエエエエ!(ズゴォーーーーーン!)・・・ゲ」 直撃を受けて激しく四散するモンスターに、早苗の口元に笑みが浮かぶ。 「へへ♪・・・早苗ちゃんを・・・本気で怒らすからいけないんだよぉ〜♪」 そんな危険極まりない早苗に、避難していた和美達は、唖然としていた。 「・・・す、凄いわね」 「うん。名前と魔法が合っているのかいないのか良く分かんないけど・・・」 「耳が・・・痛いですわ」 「あぶねぇ魔法だ・・・」 「マリンよ、耳は大丈夫か?」 「はい・・・」 「ふぃぃ・・・早苗御嬢が怒ると怖いッスね〜」 しみじみと呟く一同を後目に、早苗は次々と「召喚」していく。 「次ぃ!出よ!大地に挑むチャレンジャー!」 「了解!全車、早苗御嬢様の為に!」 この召喚で英国戦車「チャレンジャー」が出現したのだが・・・ 「今日は英国紳士じゃなくてもいいよ!」 「了解!・・・あひゃひゃひゃひゃ!焼き尽くせぇええ!」 早苗のよけーな一言により、ところ構わず120ミリ砲をぶっ放し始めたのだ。 タダでさえ危なっかしい戦車だというのに・・・ 「・・・ま、いっか。んじゃ次は、出よ!!鉄壁の守護ファランクス!」 この「ファランクス」とは古代ローマ帝国の独特の集団戦法で、右手に長槍、左手に 楯を携えて横一列に陣形を組む、攻守一体の鉄壁の布陣である。 早苗は、この太古の勇猛果敢なる戦士達を呼び出し・・・おや? 「うぉおおおおお!」 「おぉ!こ、これがカルタゴを攻め落としたあのローマ帝国の・・・ん?」 当時のローマ戦士達を目の当たりにし、涙を流して感激していた歴史オタクの由香里 であったが、戦士達が奇妙なモノに乗っているのに気がつき、涙が止まってしまった。 その異変に、隣にいた和美は首を傾げる。 「どうしたの由香里」 「あの戦士達の乗っているモノ、ちょっと変じゃない?特にチャリオット(馬車戦車) の上に乗せているモノ・・・カタパルト(投石機)にしては、どうも近代でどこかで 見たような形の気がするんだけど・・・」 「私にはよく解らないけど・・・」 「うぉおおおお!パラティーノ丘陵の皇帝陛下の為ぇ!(ブゥーーーーン)」 「も、モーターの駆動音!?(ギーーーン・・・ガバーーーーーン!)やっぱり!?」 戦士達の乗っていたモノから、凄まじいばかりの轟音と、大量すぎる弾丸が吐き出さ れ、モンスターと言わず、大地をも木っ端微塵に打ち砕いていく! そんな凄まじい光景に・・・ 「・・・やっぱCIWS(シーウス)だったか」 由香里の呟いた、聞き慣れない単語。 それは通称を「バルカン・ファランクス」と呼ばれる、対艦ミサイルを迎撃する為に イージス艦等につけられた、ちょ〜へびーな機関砲であった。 「よしっ!6000ヒット!最後に・・・出よ!密林を疾走するピューマ!」 「早苗様!お待たせしました!指揮を!」 早苗の更なる召喚によりイタリア製、装甲兵員輸送車の「ピューマ」が出現。 わらわらと屈強な6名の兵士が降りてくると、早苗をぐるりと囲み、銃を構える。 こうして、強力な一個師団が出来上がると、早苗は装甲車に乗り込み、モンスター軍 を指さして叫んだ。 「よし!みんなぁ!やっちゃぇえええ!」 「うぉおおおお!軍事費削減・・・よりも給料削減はんたーい!(キュバッ!)」 あーぁ・・・アパッチの奴等、私怨がこもっている。 「くっそぉおお!通貨の統一がナンぼのもんじゃー!(シュパー!)」 おぉ、ミラージュの方は周辺の台所事情だな。 「あひゃひゃひゃ!だ、だ、ダイ○ナぁあああああ!(ボズン!ボズン!ボズン!)」 おいおい、チャレンジャー・・・そりゃ、お前の個人的な問題だろ? 「なぁ、煙草ある?」 「ゴロ(ゴ○ワーズと言う銘柄の略)でいいか?」 「あぁ・・・ぷふぁ〜・・・敵、こねーなぁ〜?」 やっぱ「ソルジャー」ってのは、どこの国もマイペースだな。 とまぁ、戦車からは120ミリ砲が吼え、戦闘機からは空対空ミサイルが発射され、 ヘリからは対地ミサイルとチェーンガンが火を噴き、早苗に近づこうものならバルカン が唸りを挙げ・・・ 「きゃはははっはは♪やれ〜☆いけ〜♪」 そんな早苗の勇姿(?)と、目の前の光景を眺め、由香里は溜息をついた。 「あ〜ぁ・・・これじゃ戦争だわ・・・」 そして、早苗がキレてから、僅か20分後・・・ 「・・・どうやら」 「終わった・・・」 「みたいですね・・・」 ヘリのローター音と、ジェット機の爆音が治まったのを見計らい、ソロソロと顔を上 げる和美達。 その眼前に広がっていたのは・・・ 「うーん・・・文字通り・・・」 「草一本・・・」 「残ってないッス・・・」 まだ危険であるかも知れないので、兄貴達を護衛に付けて綾子とマリンをその場に残 し、和美と由香里、それに孝司は焦土と化した地面の上を歩く。 激しく焼け焦げた地面には、穴とキャタピラの跡が隙間無く続き、その周りにはモン スターの死骸と思しき肉片と、機械の部品らしい金属片が転がっている。 そして、その焼け野原の中心に・・・ 「ぐしっ・・・ぐしっ・・・」 顔を泥だらけにした早苗が泣いていた。 「あ、いたいた・・・みんなぁ!早苗がいたわよぉ!」 和美はそう叫びながら駆けると、座り込んでグシグシと泣いている早苗の側にしゃが み込み、頭を撫でてやる。 「あーよしよし。怖かったねぇ・・・」 「うっく・・・かずみちゃぁーーん」 「やれやれ、物騒ねぇ・・・」 「お前が言うか?・・・ん?」 そんな由香里に首を振っていた孝司だが、その視線の片隅に、チラリと動くものがあ るのに気がついた。 それは・・・ 「な・・・化け物・・・これが・・・異世界の戦士の力・・・」 焼け野原になった草原を見つめ、真っ黒になったエレーヌが座り込んでいたのだ。 「・・・よぉ、京本。アレ・・・」 「ん?・・・ちっ・・・ボスキャラがまだ生きていたようね・・・」 由香里も地面にヘタリ込んでいるエレーヌの姿を見つけると、忌々しげに口元を歪め ている。 「・・・どうする?」 「そうねぇ・・・和美。早苗を連れて、大下さん達のトコに行ってて」 「解ったわ。さぁ、早苗。立って」 「うん・・・」 和美と早苗が歩いていくのを見送っていた孝司と由香里だが、孝司は両手を握りしめ て由香里をチラリと見る。 「なぁ・・・京本・・・アレをどうする?」 「う〜ん・・・」 孝司の質問に、暫くも顎に指を当てて考えていた由香里であったが・・・ 「よっと・・・(ドシャ、バシャ)・・・あたしがやる」 なんと、由香里はバックパックのベルトを外すと、地面に降ろしたのだ。 「おい?!」 バックパックを降ろした驚く孝司を横目に、由香里は更にチューリップも降ろす。 「まぁ、慌てないでって。接近戦じゃ役に立たないし、重いから・・・」 「お前・・・斬り合う気か?!」 「ん・・・どーしてもあいつとだけは・・・サシで勝負がしたいのよね」 そう言って孝司を引き下がらせて軍刀を抜く由香里に、孝司はその肩を掴む。 「いくらなんでも無茶だろ?!相手は邪妖精だぞ?!」 「あら?無茶はしてないわよ?ただ・・・してみたいだけ・・・お・ね・が・い☆」 そう言って可愛い笑顔で振り返る由香里に、孝司は頭を掻いた。 確かに、こんな笑みを見せられては、断ることも出来まい・・・ 「ったく、しゃーねぇな・・・それに、お前には借りがあるしな・・・判ったよ。お前 に任せる・・・だけどな、京本。退く時は・・・退けよ」 「判ってるわよ。あ、あとコレ預かっておいてね・・・んじゃ行って来る!」 そう言うと由香里は爆炎砲と盾を孝司に預け、静かにエレーヌの前に歩み寄った。 「そんな・・・アルティシアと・・・お城・・・(ざっ・・・ざっ・・・ざっ)え?」 「はぁい。こんにちは〜♪」 「あ・・・あんたは?」 「あり?初めまして・・・だったかな?確か昨日に『フライングプチハニー』で、ご挨 拶をしたハズなんだけどな?」 平然として言う由香里とは対照的に、エレーヌの顔に赤みが増してくる。 「・・・そう・・・あんたが・・・あんたが!あたしとアルティシアの夢をブチ壊して くれた張本人なわけね!?」 「ん?アルちゃんを知ってるの?」 「あ、アルちゃんって・・・あんた!アルティシアにまでナニを?!」 「んん〜、ちょっとお話ししたくらいかな?別にナンにも変なコトはしてい・・・あ、 ちょこっと服を斬っちゃったっけ・・・」 「・・・許さない・・・(シャキン!)許さないわよ!」 憤怒の形相で円月刀を抜くエレーヌに、由香里は肩をすくめた。 「ま、アルちゃんが智子に似てて、こっちが悦美顔じゃ・・・妬くか」 「・・・斬り刻んであげる・・・」 「それは遠慮しとくわ。これ以上ダイエットしたら、プロポーションもへったくれもな くなっちゃうから☆」 「・・・」 しかしエレーヌは、そんな軽口を叩く由香里には答えずに円月刀を回すと、左半身に 身体を開きながら、円月刀を腰に水平に構える・・・ 「むむ・・・左脇構え?じゃないか。左車?」 そのエレーヌの構えに、由香里は眉宇を寄せた。 円月刀、構え、エレーヌの殺気・・・ならば、最低で4種類の技が考えられる。 「うむむ・・・胴抜きか、斬り上げか、足凪ぎか・・・それとも首抜きか・・・ん?」 一瞬、エレーヌの構えに戸惑った由香里であったが・・・ ・・・左手の小指が・・・柄に絡み付いている・・・ 「・・・」 由香里は正面を向いたまま右手で軍刀を逆手に持つが、両手は下げたままである。 明らかに、由香里にはエレーヌの技が解ったのだ。 そして・・・エレーヌが地面を蹴った! 「てぇえあああああああああ!」 裂帛の気合いと共に地を滑る様にしてエレーヌが迫ってくるが、由香里は動かない。 「・・・」 その由香里に、エレーヌの円月刀の「胴抜き」が襲いかかった、次の瞬間! 「死ねええええええ!」 「・・・ハッ!」 (バギン!ズボム!!) 金属の折れる音と鈍い爆発音が響き、二人の身体が重なり合い、動きを止めた。 そして・・・ 「・・・ぅ」 ダラリと腕を降ろし、ゆっくりと由香里にもたれかかってくるエレーヌ。 その手にした円月刀は無惨にも真っ二つに折れ、折れた刃先は・・・ 「(ヒュン!)え?(ブスッ!)あぎゃあ!?兄貴ぃ!へ、蛇に噛まれたッスぅ!」 「ぉおおお!?村田の尻に!?」 「け、剣の先よね?!コレ?!」 村田のケツに突き刺さったわけだが、それはさておき・・・ 「な、なぜ・・・判った・・・」 「腕の差よ・・・って言うかぁ、足凪ぎにしては姿勢が高くて、間合いも近かったし、 もし斬り上げだったら、もーすこし剣先が下がるし、首抜きだったら・・・そんなに 左手の小指を握りしめないわよ。だから、渾身の力を込めて、しかも両手で斬り込ん で来る『胴抜き』しかない・・・って訳」 「ち・・・チクショウ・・・」 由香里は身体の中心に構えた軍刀を眺めて苦々しく呟き、エレーヌを押してやると、 エレーヌは地面に崩れ落ちたのであった・・・ エレーヌの胴抜きを読んだ由香里は、円月刀の刃が身体に達する直前で、長船を身体 の中心線に構えて円月刀による一撃を受け止め、更に・・・ 「う・・・くふっ(ゴトン)」 エレーヌの鳩尾にめり込んでいた「義手の拳」が地面に落ちる。 由香里はエレーヌと剣を交えた瞬間、軍刀の鍔を(じょるじゅ)の引金に引っ掛け、 エレーヌの鳩尾に(じょるじゅ)による「0距離砲撃」までを放ち、そのエレーヌの身 体と、円月刀を吹っ飛ばしていた・・・ たった一瞬の間に、由香里はコレだけのコトをやってのけていたのだ! 由香里は足下に倒れ伏しているエレーヌの顔を覗き込む。 「あたしの左腕が(じょるじゅ)で良かったわね。ホントなら、これ、すれ違い様に脇 差しで水月(鳩尾の辺りの事)を刺しているワザなのよ?」 「ぐっ・・・かはっ・・・こ、殺せ・・・」 口元から血の泡を吐きながら由香里を見上げ、睨み付けるエレーヌ。 由香里の一撃により、もはや反撃はもちろん、逃げ出す力もない。 「もちろんよ。あんたにはエラい目に遭わされたからね・・・」 そんなエレーヌに、由香里は静かに軍刀を振り上げる・・・ 「ひっ・・・」 振り上げられた軍刀に、エレーヌは小さな悲鳴と共に硬く目を閉じた。 「・・・」 振り上げて、振り下ろす。 その単純な動作で、エレーヌの首は胴体から離れるのだ・・・ いや、それだけでは足りまい。 由香里が死力を尽くして戦った、炎の邪妖精ジィナなどは、首を切り落としたのにも 関わらず、由香里の左腕を奪ったのだ。 今となってはであるが、あの程度の邪妖精でも凄まじい生命力を持っている。 エレーヌの様な、軍団を引き連れている程のレベルの邪妖精ならば・・・ 間違いなく「核」を潰さなければ、死なないであろう。 「・・・」 邪妖精の「核」には、ナンの罪もない少女が使われていることは知っている。 だが、今ココで邪妖精を逃せば? しかし、異世界とは言え邪妖精だけではなく「人」を殺すのは・・・ だが、この世界を救い、自分達が元の世界に帰る為には? しかし、邪妖精とは言え無抵抗なモノをなぶり殺しにするのは・・・ 由香里の心の中で激しい葛藤が吹き荒れる。 そして・・・ 「ふぅ・・・(シュコ)・・・(ガチャン)」 由香里は溜息を一つつくと、振り上げていた軍刀を下ろすと鞘に納め、鉄拳を拾い上 げると、倒れ伏しているエレーヌをその場に残し、義手を戻しながら孝司の元に戻って いったのであった・・・ だが、そんな由香里を、孝司は腕組みをしながら憤然として出迎える。 「京本・・・トドメはどうした?」 「ん?・・・ちょっとね・・・」 「ちょっと・・・なんだ?」 「・・・ほら、悦美の顔をしてるから・・・」 「だからナンなんだ?!」 「だって、邪妖精の中には『核』にされた子がいるし・・・」 「そんな甘い考えが、通用すると思ってンのか?!」 「・・・」 声を荒げる孝司に、由香里が思わず視線を逸らすと、その視線の片隅ではエレーヌが 身を起こして空間を切り開いている。 逃げる気だ・・・ その姿に孝司も気が付き、更に顔を歪ませて由香里の肩を掴む。 「おい、あいつ・・・逃げるぞ?!」 「・・・うん・・・」 「じゃぁ、俺が・・・」 「待って!」 「な?!離せよ京本!しっかりしろ!もっと非情になれ!俺達は・・・俺達は逃げられ ないんだぞ!?」 「言わないで・・・あたしだって・・・辛いのよ」 ヨロヨロと必死に異空間に逃げ込もうとしているエレーヌを横目に、由香里は孝司か ら爆炎砲と盾を取りながら悲しげに呟いた・・・ 4 夕方・・・ 今日も、何事もなかったかの様に、日が沈んでいく・・・ 時と言う名の逃れられない運命に追われるが如く、静かに日は陰っていく・・・ 全ての街に、村に・・・そして人に。 そんな夕日で長く延びた影を引きずるかの様に歩む、和美達。 早苗の予想以上の働きにより、ナンとか死者は出ずに済んだが、誰もが傷つき、疲れ 果てていた。 先頭を歩く、和美と由香里・・・ 「・・・っ」 「大丈夫?和美」 「えぇ・・・」 和美は長柄戦斧に縋るようにして歩いており、その隣を歩く由香里は、和美に肩を貸 しながら歩いている。 次に大下とマリン・・・ 「はぁ・・・はぁ」 「マリンよ。無理はするな・・・」 「はい・・・羅刹様」 大下の腕に縋り付くようにしながらも、懸命に歩もうとするマリン。 戦闘に参加しなかったとは言え、異世界の和美達ですら疲れているのだ。 この世界の重力で育ってきたマリンには、歩くだけでも辛い筈・・・ その後ろの孝司と早苗・・・ 「・・・」 「・・・ぅ(ヨロッ)」 「早苗、大丈夫か?」 「う、うん・・・」 「・・・ほら、それを貸してみろ」 「あ・・・ありがと」 めまいを感じて蹌踉めいた早苗に、孝司は早苗が背負っていた荷物を手に取る。 その姿に、今まで二人が犬猿の仲であったとは、誰が思うであろう? そして、最後尾の村田と綾子。 「・・・」 「・・・ふぅッス」 村田は意識のない綾子を胸に抱き、1人で黙々と歩いている。 前にいる孝司や早苗の倍以上の荷物を背負い、さらには綾子の荷物迄をも背負った、 その村田の額には、ビッシリと汗が浮かんでいた。 だが、それ以上に汗を浮かべている綾子・・・ 激しい戦闘で傷ついた皆のために、全ての魔力を振り絞っただけではなく、皆の制止 を振り切り、気力回復薬を多量に服用し、魔力を無理矢理に回復させてまで傷を癒やし てくれたのだ。 魔力を極限にまで使い果たした結果、綾子は意識を失い、こうして村田の腕に身を委 ねていた。 さて、エレーヌを逃したことで、敵の増援が来ることを恐れた和美達は、休憩も取ら ずに出発し、裕美の城へと急いだ結果・・・ 「あれが・・・裕美の城ね」 ようやく間近に見えた、サーレン山の中腹に構えられた大きな城に、和美は唇を噛み しめる。 高い城壁と周囲に巡らされた深い堀に囲まれたその中に・・・裕美がいるのだ。 この城に・・・ この城に辿り着くまでに、どれだけの命が失われたのだろう? それを思うだけで、和美の手に力がこもる。 「裕美・・・あんたのせいで、ナンの罪もない人達が・・・」 そんな和美の呟きに、隣に来た早苗達も頷く。 「うん・・・オーリッチちゃんのお墓に・・・ゴメンなさいって言わせるんだ」 「・・・あたしは・・・裕美の左腕・・・もらおっかな?」 「・・・命の尊さを・・・教えてやる」 「ワシも・・・説法をたれてやるッス」 と、それぞれが裕美の城を睨み付けて呟くが・・・ 「・・・」 「・・・」 何故か、大下とマリンだけは、ナニも言わず、手を握りあっていた・・・ 「さてと・・・後一息ね・・・」 和美が戦斧の柄を握り直し、再び城に向かって歩み始めようとした、その時。 「ん〜・・・和美、今日はココまでね☆」 「へ?!由香里!どういうこと?!」 「な、なんでぇ?!」 「何故だ京本!?」 和美だけではなく、早苗、孝司までもが由香里に詰め寄る。 裕美の城は目の前だというのに・・・何故に?! だが、由香里の方は平然として3人を押し戻した。 「焦らないの。そりゃ、あたしだって今すぐ、乗り込んで裕美の顔をひっぱたきたいわ よ。でも今日は無理よ・・・疲れすぎてるわ」 「そッス・・・綾子御嬢様も・・・苦しそうッス・・・」 「・・・う」 「無理したら・・・また、急にブッ倒れるわよ?」 「・・・解ったわ・・・」 「んじゃ、そこの林の中でキャンプの準備ね・・・」 こうしてパーティーは、城から程ない林の中でテントを張ることにした・・・ 「(シュン、ドサッ!)うぅ・・・アルティシア・・・」 裕美の城の一室に、空間が裂け、エレーヌが倒れ込む。 その身体は「屈辱」と言う名の重い傷を受け、ボロボロだ・・・ 「アルティシア・・・」 ヨロヨロと立ち上がり、アルティシアの姿を探すエレーヌ・・・ 身体の傷など、放っておいても治る。 しかし、ソレよりも深く受けた「精神の傷」を癒せるのはアルティシアだけなのだ。 そのアルティシアを探し求め、無様にも床の上を這いずり回るエレーヌ。 「アルティシア・・・アルティシア・・・どこなの?」 いつもならば直ぐさま姿を見せるハズなのに・・・ 寝室で眠っているのか? 裕美の元に呼び出されているのか? それとも、ナニか用事を言いつけられて、出かけているのか? 幾ら呼んでも姿を見せないアルティシアに、エレーヌはナンとか身を起こすと、ヨロ ヨロとおぼつかない足取りで、隣の部屋に続く扉を開けた・・・だが。 「アルティシア・・・寝室なの?(カチャ)な?!」 リビングに続く扉を開けた瞬間、その鼻を突いた「異臭」に、エレーヌの表情は一変 した! テラスからリビングの中央、そして、その隣の寝室にまで・・・ 既に乾ききり、赤茶けてはいるモノの・・・ 間違いない・・・ 間違いようもあるまい・・・ 嘗て、自らが光の軍勢との戦闘から帰ってくると、いつも「この様な臭い」を漂わせ ており、床にも「この様なシミ」を作って、アルティシアを悲しませたものだ。 「な・・・な・・・」 その大量の「血痕」に、エレーヌは悲鳴を挙げた! 「アルティシア!?アルティシア!(ドバン!)返事をして!」 身体の痛みなどモノともせず、エレーヌは寝室のドアを蹴り破る。 「・・・ぁぅ」 「ん?!アルティシア!?」 そして、天蓋付のベッドのレースの向こうに座るアルティシアの影を認めると、一気 にレースを引き千切った。 「アルティシア!(ビリャ!)無事だったの・・・え?!」 「あぅ〜〜・・・だぁ」 「あ・・・アルティシア?・・・あ?!」 次の瞬間・・・エレーヌの顔が凍りつく。 アルティシアはそこにいた・・・ 全裸でいた・・・ 身体中に、爪痕らしき傷を付けて・・・ 乾いた血糊を顔につけて・・・ 指をしゃぶりながら・・・ 虚ろな瞳で・・・エレーヌを見つめている。 「あぅ〜・・・だぁ〜・・・」 「あ、アルティシア・・・ど、どうしたの?」 「あぅ・・・」 だが、アルティシアは指をしゃぶりながら、エレーヌの身体に抱きつくだけ・・・ そんなアルティシアの変わり果てた姿と、由香里の言葉が・・・重なる。 ・・・んん〜、ちょっとお話ししたくらいかな?別にナンにも変なコトはしてい・・・ あ、ちょこっと服を斬っちゃったっけ。 「・・・ぁ・・・ぅああああああ!おのれ・・・異世界の戦士どもぉーーーー!」 アルティシアの身体を抱きしめた、エレーヌの絶叫が城に響き渡った・・・ 深夜・・・ 大型のテントの中では意識のない綾子はモチロンのこと、既にマリンと早苗も床につ き、安らかな寝息をたてていた。 また、村田と孝司も隣に張られた小さなテントの中で眠っている。 今夜の歩哨に立っている大下の背中を見ながら、まだ眠れない和美と由香里は、焚き 火の前に座りながら、ぼんやりと炎を見つめていたのだが・・・ 「ねぇ・・・」 「ん?」 和美は焚き火の炎を見つめている由香里の肘をつついた。 「なに?」 「あれ・・・裕美の城よね?」 「そうよ」 「・・・こんなトコで火なんか焚いて・・・大丈夫なの?」 確かに和美の言う通り・・・ 和美達は「裕美の城の真ん前にある林の中」でキャンプをしているのだ。 それにも関わらず、こんな焚き火など・・・ だが、由香里は首を振りながら微笑む。 「大丈夫よ。来るならとっくに来てるわよ」 「そりゃぁ・・・そうかも知れないけど・・・」 「それに・・・裕美のクセ・・・あたし、知ってるのよね」 「クセ?」 「そ。まぁ、ゲームの話なんだけどね」 「ゲームの?」 「うん。あたしと裕美は・・・まぁ、こう言っちゃぁナンだけど、巷じゃチョッとは知 られたゲーマーなのよ♪」 「ゲーマー・・・って?」 「・・・3度のメシよりゲーム好き☆」 「あぁ・・・」 「んで、裕美とは修学旅行以来、何度も何度もゲーセンで鉢合わせしているのよ。あた しがやっていると、必ずと言っていいほど対戦を挑んでくるの」 「ふむ・・・」 「まぁ、裕美も弱い方じゃないから、あたしですら負けそうになる時があるのよ」 「それと今、ここで焚き火をしているのが、どう関係・・・」 「話は最後まで聞くモノよ」 「・・・あんたに言われたかないわよ」 「悪かったわね・・・んで、あたしがボロ負けしそうになると、裕美は必ず・・・ワザ とやられるのよね」 「ワザと?」 「そ。ワザと技を喰らったり、意味のない攻撃をしたり・・・よく言えば余裕を見せる んだけど・・・悪く言えば・・・」 「・・・油断する・・・それも、自分から?」 「そーいうこと。おそらく、裕美はあの城で自らトドメを刺そうと考えているか、かな り巧妙に罠が仕掛けてあるか・・・」 「だから・・・敵は来ない?」 「そーゆーこと。だから、今日はぐっすりと寝るコトね。んじゃ、おやすみ♪」 「え、ちょっと!由香里!」 一方的に根拠のないコトを言うだけ言った由香里は、和美を残し、テントに潜り込ん でしまったのであった・・・ |