第10章


                  新たなる力


                    1


「・・・えーと、この地図では裕美の城があるサーレン山って、ここですよね?」
「へい。この街からですと、あと2〜3日も歩けば着くかと思いやす」
「お、御嬢。次のお飲物はナンにするッスか?」
「少し軽いのを、お願いします」
「へい!兄貴は?」
「ワシはさっきのと同じ」
「判ったッス。ウエィトレスさ〜ん♪水割りと、エールを樽で2つッス!」
 さて、入った酒場のテーブルを2つほど占領した由香里&兄貴ズは、片方のテーブル
の上に地図を広げ、もう片方のテーブルには料理の皿を山積みにして作戦会議を開いて
いる最中であった。
 そして、その店内は異様な静けさに包まれ、全員がこの由香里達のパーティーの動き
を一部始終、見守っている。
 まぁ、兄貴達が居るだけでも十分目立つのに、ひっきりなしに飲み食いし、その中に
女の子が居るとなれば・・・イヤでも目立つ。
 確かに眼を引くのは当然の事なのだが、ナニも静まり返るほどでは・・・
(カラン・・・カチャン)
 その原因は、「綺麗に吹き飛ばされた店の入口」にあった。
 実はこの3人が店に入るなり、誰が言ったのかは定かではないが・・・

「野獣とその女マスターが来た!?」

 ・・・との叫び声に、勘違いした酔っぱらい達(推定8人)が、いきなり剣を振りか
ざして飛びかかったのだ。
 無論、これに対して黙ってヤラれる連中であるわけが無く、由香里の(じょるじゅ)
が火を噴き、大下&村田の気合いの入ったヒップアタック(必殺技名:桃尻打開)が、
モノの見事に全員を吹き飛ばし・・・現在に至る。
 他の客も、さっさと帰りゃぁイイ様なものだが・・・
「・・・(カタン)ぁ」
「ん?(キュイーーーン!)あんた・・・あたしの後ろに回ってナニを!?」
「なに?!(ジロリ!)貴様、やる気か?!」
「む?!(ギロッ!)に、肉は渡さないッス!」
「す、すいません!」
 帰ろうにも、コイツらのテーブルが「出入口近く」にあり、更にその出入口に行くた
めには「由香里の後ろ」を通らなくてはいけないのだ・・・
 だが、そんな事など全くお構いなしで、作戦会議を続ける由香里達。
「うーん(モグモグ)でも、お城に着いたとして(ポリポリ)それからどーします?」
「そうですなぁ(ゴキュゴキュ)城と言うからには(ボリン)頑丈でしょう」
「そりゃ(バリ!ボキン!クッチャクッチャ!)ソッスよ(ゴックン!)」
 とまぁ、実に近寄りがたい席であったのだが・・・
「・・・あのぉ」
 フードを頭からスッポリと被った、1人の命知らずが、幸運にも「由香里の正面」か
ら近づいてきた。
 あまりの無謀さに、周囲の客も誰一人として止めるどころか、見向きもしない。
 しかし・・・普段から、よく言えば「周囲に捕らわれない」悪く言えば「周りを全く
見ない」この3人・・・誰一人として気が付きゃぁしない。
 後ろに廻った時には、アレほど気づいていたくせに・・・
「んじゃ、あたしが最初に斬り込んで・・・」
「いえ、あっしと村田の『灼熱肉体鼓動』で城の城壁を崩しながら・・・」
「兄貴、突っ込むなら『痔極車(ぢごくぐるま)』で行ったほーが・・・」
「あのぉ、すいませんが・・・」
「あ、先に(じょるじゅ)を何発かブチ込むってのも・・・」
「う〜む・・・あ、それよりも綾子嬢様と合流してからの方が・・・」
「あっしも小僧の顔が見たいッス・・・」
「そーいや孝司って、生きてるんですか?」
「んもぉ・・・(スゥ〜)すいませんってばぁ!」
 痺れを切らし、その人物が思わず大きな声をあげたその刹那!
「むっ!?」
「なにっ!?」
「まふーんッス!」
「(チャキン!ムキャキャ!)ひぃ!?」
 首には軍刀の切っ先が突きつけられ、両腕には大胸筋が押しつけられた!
「あーびっくりした・・・なによあんた?!」
「いきなりデカイ声を出しおって!?」
「び、ビックリしたッス!!」
「ひ、ひぃ・・・お、お願いですぅ・・・こ、殺さないでぇ・・・」
「・・・返答次第ね。モードチェンジ!(きゅいーん、カシャカシャ)」
 由香里の声に、左目に装着されたターレットスコープが回転すると(通常モード)か
ら(戦闘モード)に切り替わり、目の前の人物をロックする。
「御主、一体何者だ?(ムキャ!)」
「さぁ!白状するッス!(ムキャキャ!)」
 更に、兄貴達の大胸筋も、油断なくその人物をロックオン!
 だが・・・
「ふ・・・ふぇええええん!」
 ナンと、そのフードの人物が女の子のような声を出して泣き出してしまったのには、
さすがの3人も面食らった。
「へ?お、女の子?!」
「む?!た、確かに、この柔らかなフニャっとした肌の感触は・・・」
「兄貴、こりゃ小娘ッスよ!?」
 村田がそう言うなり、泣き出したその人物のフードを一気に捲ると、そこからは大き
な目から涙をボロボロとこぼして泣いている、10歳くらいの女の子が出てくる。
 そう・・・女の子のようなでは無く、正真正銘の少女であったのだ!
「ご、ゴメンね。ここんとこ、戦闘続きで気が立っていたモンだから・・・さ、もう泣
 かないでちょーだい。ね、何か飲む?それとも・・・ん?」
「御嬢、どうかされ・・・おや?」
「兄貴、ちょこれーとぱふぇなんぞを追加で・・・おんや?ッス」
 泣かしてしまった手前を、何とか取り繕うとしていた3人であったが、その女の子の
額に光る「クリスタル」と「長い耳」に、言葉が止まる。

・・・長い耳に額にクリスタル?!アネーロさんと同じ・・・カラー族の女の子!?

「この子もアネーロさんと同じ種族の・・・はっ!?」
「うっく(ガバッ!)きゃ?!」
 この世界では「カラー族」の名を「人間達」の前で口に出すのはタブーであることを
知っていた由香里は、慌ててそのフードを被せ直してやるが、そんなコトなど全く知ら
ない大下と村田は・・・
「な、なんと?!この娘、耳がロングサイズで(ボグッ!)ふぉっ!?」
「ひ、額にチャクラがあるッス!お釈迦様みたいで(ゲイン!)はうっ?!」
 由香里のダイナミックな蹴りと、(じょるじゅ)での一撃に言葉を失う兄貴達。
 だが、村田の方はしぶとい。
「お、御嬢!?い、いきなり何をするッス?!だ、だって、そ、その小娘、人間じゃな
 いッスから・・・おぉ?!」
「コンビネーションキック!!」
「(ズババン!バン!)あばっばあ!?」
「ふぅ・・・あなたカラーね?もしかして、アネーロさんの知り合い?」
「ぐしっ・・・アネーロさんですかぁ?・・・私、カラーの森から20年前に追放され
 てしまって・・・そのような人、知りませんですぅ」
「あー・・・ごめんね。悪いこと聞いちゃって・・・んで、あたし達に何か?」
「ぐす・・・はい、実は(ズアッ!)ひぃ!?」
「追放されたとは怪しい!」
「兄貴がそう言うなら怪しいッス!」
「ひぃ!お、お願いですぅ!この『デカント』と『コンゴ』を何とかしてくださーい!
 ふえ〜〜ぇぇぇん!食べられちゃぅぅ!」
「も、モンスターじゃないんだけど・・・ま、参ったわね・・・ほら、シッシ」
 由香里は迫り来る大下と村田の顔面を見て、本気で泣き出したカラーの少女を抱き寄
せながら、二匹(?)を手で払う。
「な、なんてことを?!御嬢!ワシらは犬じゃないですよ!」
「そッス!こんな肉体美な犬、いたら喰うッス!」
「・・・狂犬病予防の注射(ジャキッ!)・・・します?」
「村田よ、オーダーはまだか?」
「えーと、一発、催促にいくッス」
 (じょるじゅ)の砲口を背中に受け、兄貴達がジョッキを片手にカウンターに行って
しまうと、由香里は少女の頭を撫でた。
「やれやれ・・・はい、追っ払ったわよ。んで、なんの用なの?」
「ぐすっ・・・ありがとうございますぅ・・・実は・・・先程、見せていただいたんで
 すが・・・あぁ・・・ステキですぅ☆お話ってのは、コレのことなんですぅ♪」
「へ?」
 そう言って、熱っぽい眼をしながら、由香里の(じょるじゅ)に指を這わすカラーの
少女に、由香里の眼はテンになっていた・・・


「んぁっ・・・うっ!・・・あぁ」
「んくっ・・・はぁ・・・」
「ぅぅ・・・」
 ぼんやりと浮かび上がる影は3つ・・・
 淡い香りの漂うテントの中で・・・
 その暗闇に快楽に喘ぐ吐息と、苦痛に呻く溜息が交錯し・・・
 繰り返されるのは、愛の行為か、生への執着か・・・
 折り重なり合い・・・絡み合い・・・一つとなっているのは・・・
「んっ・・・」
「ぅぅ・・・」
 マリンと早苗でもあり・・・
「んっ・・・」
「っ・・・」
 マリンと和美でもあった。
 マリンは早苗と深く唇を重ね、激しく吸う。
 そしてその早苗の唾液が自らの口腔に満たされると、マリンは唇を離し、今度は和美
の身体にそっと唇を這わし、早苗の唾液を擦り付けていく。
 紫色に変わり始めた唇は勿論のこと、乾ききった瞳にも、膿の流れ落ちるその傷口に
も・・・
 この様にしてマリンは、何時間にもわたって「早苗の体液」を和美の身体に擦り続け
ているのだ。
 前に由香里が毒に侵された際にも解説をしたが、早苗の体液(汗、涙、血液、愛液)
には全ての毒素を中和する「ニュートラルゼーション作用」があり、それ故に早苗は毒
に対しての抵抗力が桁外れている。
 それが早苗の特殊技能「乙女の蜜」なのである。
 また、その体液の効果は、そのもの自体が早苗の体外にあろうとも関係ない。
 まさに早苗は歩く解毒剤なのだが・・・やはり、それにも限界があった。
 何十回目になるであろう?マリンが再び早苗の唇を重ねた時・・・
「くっ・・・」
「早苗様?!」
 突如として早苗が身を捩ったのだ。
 何とか唇を重ねようとマリンは再び顔を寄せるが、早苗は今度は自分の指をくわえ、
頑なにマリンとのキスを拒む。
 なんと、あれほど女の子と肌を合わせることが好きな早苗が、マリンを拒んだのだ。
「そ、そんな・・・」
 予想外の展開に、マリンはただオロオロとするばかり。
 顔を近づける度にそっぽを向かれ、挙げ句は身体を押し戻される。
「さ、早苗様!お願いです!(どん!)くぅ?!」
「・・・っ」
「か、和美様・・・」
 そうしている間にも、和美の様態は悪化していく・・・
 和美の苦しげな表情に、マリンは意を決した。
「・・・早苗様、申し訳ありません!」
 マリンは早苗の腰を押さえつけると、その股間に顔を埋める。
 マリンの予想通り、幾度と無く愛撫を続けたマリンによって、早苗の秘部は激しく濡
れそぼっていたのだ。
「んっ・・・(くちっ、ちゅっ)・・・んん」
「んぁ!」
 唾液ほどの量はないが、必死に早苗の愛液を啜るマリン。
 舌と指の感触に身体が跳ね上がりそうになる早苗を押さえ、マリンは丹念に奉仕し続
けていく。
 そして、早苗の愛液を口に含んだマリンは、今度はソレを和美の傷口に擦りつける。
「・・・っ」
「ふぅ・・・でも、このペースじゃ・・・」
 確かに・・・いくら早苗が好き者でも・・・もとい、愛の使者(自称)だとしても、
その量には限界がある。
 しかし、やらなければ和美の命はない。
 マリンは再び早苗にのし掛かった。
「ん〜っ・・・」
「早苗様、逃げないで下さ・・・ん?」
 そんなマリンから身を離そうとする早苗であったが、何故か和美とは指を絡ませたま
ま離そうとはしない・・・
 その光景に、マリンは・・・
「そうでしたか・・・早苗様は、和美様のコトを・・・早苗様、お願いします・・・」
 早苗の「愛」に賭けるコトにした・・・


 その頃・・・
「まっどらすー!久しぶりに遊びに来たよー♪」
「まっどらすさぁーん!お菓子をくださいなぁ〜♪」
 地下迷宮の4階に構えられた豪華な扉の前に、元気のいい女の子の声と、舌っ足らず
の女の子の声が響きわたる。
 無論、声の主は(やもりん)と(きゃんきゃん)であるのだが・・・
「・・・や、やっぱ、かえろーよぉー」
 迷宮の壁の陰で情けない声を出しているのは、孝司であった。
 なんだかんだと言いながらも、結局はついてきたのだ・・・
 だが(グレート・デーモン)の家の前まで来て、なおも帰ろうとしているのだから、
優柔不断というか往生際が悪いと言うか・・・
 さて、そんな孝司の気持ちなど、まるっきり知ったこっちゃない二人は、なかなか呼
びかけに応じない(マドラス)に、首を捻っているところであった。
「へんねぇ?いつもなら『は〜い☆いらっしゃ〜い♪』って来るのに」
「びょーきしてるんじゃぁ・・・どーしますぅ!?」
「あのね・・・あいつがどんなびょーきになるのよ。この間だって、4年モノのコカト
 リスの死骸を拾い食いしていたけど、ピンピンしていたわよ?」
「う〜ん・・・」
「・・・で、出直そっか?」
「こらぁ〜!せっかく酒を持ってきてやったんだから、早くドアを開けなさいよー!」
「はやくあけてくださぁ〜い!まぁどらすさんの手作りのヘルギー・ワッフルが食べた
 いですぅ〜!」
(ドカドカドカドカゴンゴンゴンゴン!!)
「あわわわわ!そんなに叩かないで!」
 真っ青になっている孝司を後目に(やもりん)と(きゃんきゃん)はドアを叩き始め
たのだ!
 だが・・・
「(ぎぃぃぃぃ)あれ?開いてる」
「はれ?ホントですぅ」
 叩きまくった反動で開くドア・・・無論、誰かが開けたわけではない。
 最初から開いていたのだ。
「お、お留守みたいだから、やっぱり出直して・・・」
「中で待たせてもらいましょ」
「はーい!おにーちゃん、いっくよぉ〜♪」
「(ずるずるずーる)わーーーー!待ってくれぇ!心の準備がぁああああああ〜!」
 号泣しながら引きずられていく孝司の脳裏をよぎったのは「自分を引きずっているの
は、本当は和美と早苗じゃないんだろーか?!」と言う、日常の風景であった。


 さて、孝司が天国への扉をくぐらされている頃、由香里とそのツレ(だんだん扱いが
ぞんざいになっている)は、酒場で知り合ったカラーの娘の家に招かれていた。
 人目を忍ぶカラー族だけあって、家もまた、街から外れた所にポツンと小さな小屋が
建てられているだけだ。
「さぁ、どうぞ入ってくださいですぅ♪」
 そう言ってドアを開け、小屋に入っていったカラーの娘の後を追い、由香里も中に入
ろうとしたのだが・・・大下と村田は小屋を見るなり顔をしかめている。
「ん?どーしたんですか二人とも。顎に梅干しなんかつくって?」
 ついてこようとしない兄貴達に由香里が振り返ると、二人は揃って頭を掻いていた。
「いや・・・その、この家にあっしらが入ると・・・」
「家の酸素がなくなるッス・・・」
「・・・なるほど。あのぉ、この二人は外で・・・あれ?」
 頷きながら再び振り返った由香里だが、なんとカラーの娘の姿が消えている。
 慌てて小屋の中に飛び込むと、小屋の中は何もなく、地下へと続く階段が口を開けて
いるだけであった。
「地下か・・・どーやらこの小屋は見かけだけみたいですよ。二人とも、頭に気をつけ
 て下さいね」
 由香里はそう言い残すと、さっさと階段を降りていく。
 大下も急いで追いかけようとするが、狭い入口が大下の巨体を阻んだ。
「あ、御嬢!待ってくだせぇ!おわっ!?」
 由香里でさえ少し頭を下げなくては入れない地下への階段・・・
 大下は身を屈めると、後ろの村田に向かって振り返る。
「村田よ!頭上注意だ!」
「ラジャーッス!(ずりゃ!)アウち!」
「頭上注意と言っただろ・・・」
「あ、頭を下げていったら、せ、背中を天井の角に擦ったッス!」
「前屈姿勢じゃなくて、しゃがむのだ!スクワットの要領だ!」
「りょ、了解ッス!ふん!(ズビシッ!)あふぅん!?(ゴッ!)おふぅ?!」
「・・・今度はナンだ?」
「あ、兄貴に言われた通り、スクワットをしたら、び、尾てい骨を・・・角に直撃しや
 した・・・そ、そんでその、お尻へのあまりの衝撃に、思わず立ち上がったら、今度
 は天井に顔面を・・・兄貴、こりゃきっとトラップっスよ!?」
「そんな訳がなかろぉ・・・」
「・・・二人ともうるさい」
「え?」
 静かな・・・それでいて地の底から響くような声(つまりはドスの利いた声)に大下
が前を向くと・・・そこには「赤い眼」が光っている。
(きゅぃーん・・・カシャカシャ)
 ついでに微かな「駆動音」も続く・・・
 それは由香里のメガネが暗視モードになり、さらにはターゲットをロックした音だ。
 この狭い階段での砲撃は・・・外す方が難しい。
「へ、へい。申し訳ありやせん・・・村田よ、堪えろ。御嬢の御機嫌がコノ階段よりも
 斜めになっておる」
「わ、わかったッス・・・」
 さて、暫くも階段を降りると、ようやく明るい部屋に出ることが出来た。
 大きな照明に照らされているその部屋は、異様に広く、その場に雑然と置かれた機械
や道具の類から、部屋と言うよりも、工場の様な装いである。
「うーむ・・・工場ですな」
「そうみたいですね・・・」
「うー・・・酷い眼にあったッス・・・おんや?ここは『兵器工場』ッスか?」
「え?」
 大下同様に、最初はただの工場かと思っていた由香里であったが、傷だらけになった
尻をさすっている村田の「兵器工場」と言う言葉に、再び部屋の中を見回すと、そこい
らに無造作に並べられているモノに眼が釘付けとなった。
「な?!こ、こ、こ、これは?!」
「こりゃまた随分とデカイ鉄砲ですなぁ〜?」
 そう言って大下は、目の前にあったシルバーメタリックに輝く、ライフルとおぼしき
ものをヒョイと持ち上げた。
 そして村田もまた、側に置いてあるモノを摘み上げる。
「こっちは木槌ッスかね・・・あぁ、赤ん坊のガラガラっスね♪」
 ドイツのポテトマッシャー(棒状手榴弾)だ!
「それにこれはバズーカ砲?!・・・ん?なに、このチューリップの絵?」
「はい☆それはリーザス国軍正式採用の『軽無反動魔導砲チューリップ1号』の量産型
 だからですぅ。あとぉ、そちらの方が持っているのが、魔王国軍の『量産型爆炎砲タ
 イプ4型』ですぅ。んで、そちらの方が振っているのが、この前にゼス王国の倉庫か
 ら盗んで・・・あ。えと・・・それは『ハンディ・ぴか』ですぅ。どーですかぁ!?
 すごいでしょー?!まだ市場にも出回っていないんですよぉ☆私、武器の収集と開発
 が大好きなんですぅ♪」
 ティーセットを乗せたお盆を近くのテーブルに置き、子供の様に・・・と言っても、
カラーの年齢からすれば子供なのだが・・・はしゃぐ、カラーの娘。
 だが、それにも負けないくらいに眼を輝かせている由香里であった。
「す、凄いわ!性能が解らないから、どんな風に凄いのかわかんないけど!これだけの
 兵器を開発・・・ん?ちょい待った」
「はい?」
「今見たのは、みんな各国の軍用だってのは解ったわ。んで、あなたのオリジナル兵器
 は?どれがオリジナルなの?」
 由香里がそう言って、ぐるりと首を巡らすと、周囲には近代的な兵器の他にも、あち
こちに剣や槍、フレイルなどが置いてある。
 しかし・・・
「・・・んん〜?見たカンジ、オリジナルっぽいのが・・・見あたらないんだけど?」
 その由香里の言葉に、カラーの少女は下を向いてしまった。
「・・・ぅ・・・ないですぅ」
「はい?」
「・・・ないんですぅ」
「・・・へ?」
「うっく・・・私・・・発明が好きなんですけどぉ・・・なかなか上手くいかなくてぇ
 周りに迷惑ばかりかけてぇ・・・カラーの森からも、発明したモノが・・・神様の御
 意志にそぐわないからって・・・追放されたんですぅ・・・」
「うーん・・・んでも・・・あれ?名前まだ聞いていなかったっけ。あたしは由香里。
 異世界から来たの。んで、こっちが・・・」
「大下だぁ!(ムキャ☆)」
「そっちが・・・」
「村田ッス!(ムキャキャ☆)」
「二人あわせて?」
「ルー○ル美術館(ガシッ!)ブラザース!!」×2
「はぁぁあ・・・異世界ってのは、凄いんですねぇ・・・」
「んで、名前は?」
「あ、はい。私は『アルティシア・カラー』と言いますぅ。アルって呼んで下さい☆」
「んじゃ、アルちゃん。早っ速、質問♪」
「はい?」
 由香里は自分の左腕を・・・つまりは(じょるじゅ)を・・・持ち上げる。
「コレをどうしたい訳?」
「はい♪分解で(ゴイン!)フキュ?!」
 間髪入れずに見舞われた鉄拳に、頭を押さえてしゃがみ込んだアルティシアの視界に
星が飛び回った。
「いい度胸してるじゃないの?!」
「お、御嬢!いきなり、そんな・・・」
「そうッスよ」
「だって、このあたしの分身とも言える(じょるじゅ)を分解しようなんて・・・」
「あぅぅ。チョットくらい良いじゃないで(ヒュ・・・チャキン☆)ぃ?!」
 軍刀が鞘に戻った時・・・アルティシアの着ていた服がハラリとはだけ、小振りの乳
房がこぼれる。
「おぉ!?」
「負けないッス!!」
「ナンだったら、あんたを分解してあげようか?パーツごとに切り分けて、綺麗に並べ
 てあげるわよ」
「ひぇ・・・」
 抜刀の斬撃に、胸を隠すのを忘れて震えるアルティシア・・・
「それとも・・・(チキ)」
 由香里は今度は(じょるじゅ)の砲口をチラつかせた。
「この(じょるじゅ)の威力・・・身を持って体験してみる?まぁ、骨くらいは拾って
 あげるから・・・でも、飛び散るから大変だわね。まぁ、肉片ぐらいは・・・ん?」
 そんな(じょるじゅ)のトリガーを弄りながら、アルティシアを脅していた由香里で
あったが、隣の兄貴ズが妙に静かなの事に気が付き、ふと見れば・・・
「ふんっ!(むきゃ!)フンッ!(ムキャキャ!)」
「ぉー♪」
 村田がポージングを連発しているのはとにかく、大下の視線が、アルティシアのはだ
けた胸に釘付けとなっているのには驚いた。
 何しろ、この二人が「女の裸に関心がある」とは、思ってもいなかったのだ。
「ちょっと、大下さん!どこを見ているんですか!?アルちゃんも、ぼーっとしていな
 いで、早く胸を隠しなさい!」
「え?!・・・いやぁああ!」
「え!あ!も、申し訳ない。なにせ目の正月だったモンで・・・」
「あ、兄貴ぃ!そんな小娘より(ムキャキャ!)あっしの乳の方が凄いッスよ!?」
「おふぅ・・・目の終戦記念日だ・・・」
 大下が目頭を押さえて溜息をついていると、服の斬られた部分をホチキスで留めなが
ら、アルティシアが上目遣いに恐る恐る由香里を見上げる。
「あ、あのぉ、それじゃぁ・・・せめて設計図だけでも・・・」
「設計図ねぇ・・・実は、あたしの頭ん中にしかないのよねぇ・・・」
「んじゃ早速、脳の解剖手術の準備を・・・」
「え〜と、アレは(ごそごそ)あったあった♪」
「きゃああああああ?!」
 無表情のまま、由香里が腰の鞄から「もぉ、すっごく散弾♪」と薬莢部分に書かれた
砲弾を(それも2つも)取り出すのを見て、由香里が「確実に自分を仕留めようとして
いる」ことを瞬時に悟ったアルティシアは、ホチキスを投げ捨てると、脱兎の如く駆け
出し、山積みにされているガラクタの山の陰に隠れた。
「ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいぃぃ!」
 瓦礫の向こうで泣きながら必死に謝るアルティシアに、由香里は再び鞄を探ると、今
度は「地平線まで貫・通・弾☆」と書かれた砲弾を取り出し、笑顔で答える。
「別に大丈夫よぉお〜〜〜♪そのガラクタごと、一緒に吹き飛ばしてあげるからぁ!」
「ぅわぁ〜〜〜!?あ、そだ!た、タダとは言いません!お金を払いますからぁ〜!」
「お金には不自由してないモン。えーと、サーマル(キュイィーン)モぉードっと☆」
 由香里のスコープに、ガラクタの向こう側で土下座をしているアルティシアの身体の
熱が、赤く浮かび上がった。
「う〜ん、見えたわ☆土下座をしたって、ダ・メ♪」
「ひぃいいいいい?!んじゃ、んじゃ!ここにある好きなモンあげますぅぅ!」
「ん〜〜、コピー品なんていらなーい(ブワッ)・・・ん?」
 と、ターゲットをロックしたそのスコープに、大きな掌の熱源が割り込む。
 由香里が顔を上げると、大下がスコープの前に手を翳していたのだ。
「・・・御嬢、いい加減、許してやっては?あの小娘も、ああ言っていますし・・・」
「そ、それに、ここにある武器の山・・・御嬢にとっても魅力的じゃぁないッスか?」
「う〜ん・・・」
 村田の言葉に思わず心が動く由香里。
 確かに、未知の異世界の武器を好きなだけ使える・・・しかも、滅多に出回っていな
いらしい武器も多数あるのだ。
 確かに、これは由香里にとって、またとないチャンスでもある。
「ん〜・・・そーぉですねぇ・・・確かに、今後の大戦(おおいくさ)の前に、あたし
 も(じょるじゅ)の改造と弾薬の生産をしたいし・・・あ、そだ。だったら、ついで
 に『新兵器』でも造っておくか♪」
 由香里はそう言ってニヤリとほくそ笑むと、よーやく(じょるじゅ)の照準を降ろし
たのであった・・・


                    2


「はぁ・・・」
「あら?マリンちゃん。和美さん達の方は・・・」
 マリンが身体に毛布を巻き付け、溜息と共にテントの中から這い出ると、見張りをし
ていた綾子がカップに茶を注いでくれる。
「早苗様に・・・全てを・・・」
「そうですか・・・はい。お茶です」
「ありがとうございます・・・」
 マリンは綾子から手渡されたカップを受け取り口に運ぶが・・・
「・・・早苗ちゃん、和美さん」
「え?」
 綾子の声に、そのカップが止まる・・・
 綾子はテントを見つめて呟いた。
「・・・強く生きて下さい・・・」
 一方、そのテントの中では・・・
「んっ・・・」
「ぅ・・・」
 和美にのし掛かった早苗が「本能的に」和美の耳を噛んでいる・・・
 マリンは「自分を拒む早苗を、和美に乗せる」と言う、最後の手段に出た。
 そう・・・マリンは和美の命を、早苗の「本能」に託したのだ。
 そして早苗もまた、マリンの期待に応えるかの様に、和美を愛撫していく。
「・・・(ちゅっ)ん・・・(ぴちゃ)っ・・・」
「・・・ん・・・」
 早苗の動き回る舌に、僅かではあるが和美は反応している・・・まだ、生ある証だ。
 だが、早苗はそれには構わず、ただただ、機械の様に愛撫を重ねる。
 まだ・・・早苗の意識は底に沈んでいた・・・
 そんな真っ白な早苗の意識に、一滴の雫が垂らされる・・・

・・・目覚めよ・・・

・・・誰?・・・

・・・少女よ・・・目覚めよ。

・・・誰なの?

・・・移りゆく色を持ち、淡き光を放つ少女よ・・・目覚めるのだ。

・・・誰・・・誰なの?

 ゆっくりと、一声毎に狂気の淵から這い上がる早苗の意識。

・・・目覚めよ。そして抱くのだ。目の前の灯火が、消えて無くなる前に。

・・・目の前の・・・灯火・・・

 本能は無意識に、無意識は意識に、意識は現実へ・・・次第に覚醒していく。
 まるで大海に投じた一滴の滴が、蒸発して天に昇り、雲となり、雨となり、やがては
真水に還るが如く・・・早苗の意識は移り変わっていった。
 早苗の胸が、和美の胸に重なる。

・・・冷たい・・・

 早苗の唇が、和美の唇に触れる。

・・・冷たい・・・人は・・・死んじゃったら、こんなに冷たくなっちゃうんだ。

 早苗の脚が、和美の脚と絡み合う。

・・・硬い・・・人は・・・死んじゃったら、こんなに硬くなっちゃうんだ。

 早苗の髪が、和美の髪と混じり合う。

・・・でも、この冷たいのは?・・・この硬いのは?・・・この唇・・・この髪・・・
   この肌・・・だれ?

 早苗の指が、和美の指と絡み合う。

・・・この手・・・指・・・覚えてる・・・この身体・・・覚えているよ・・・

 早苗の意識が、和美の意識と触れ合う。

・・・うん、和美ちゃんだ・・・和美ちゃんだよね?・・・でも、どーして冷たいの?
   和美ちゃん?・・・まさか、早苗を残して死んじゃったの?

・・・早苗・・・ゴメンね・・・私・・・早苗の気持ちに・・・答え・・・られ・・・

・・・和美ちゃん?!ダメ・・・しんじゃイヤ。

・・・早苗・・・さなえ・・・さ・・・な・・・

・・・和美ちゃん・・・死なないで!!

「か・・・和美ちゃん!」
 和美の「死の淵」が、死に覆い尽くされていた早苗の意識を取り戻したのだ。
 だが、その早苗の下で横たわっている和美の身体は、既に何の反応を示すことなく、
ただ、ただ・・・硬く、冷たい。
 既に意識は無く、血液の凝固が始まりだしているのだ・・・
 早苗は必死に和美に呼びかける。
「和美ちゃん!どーしたの?!和美ちゃん!しっかりして!」
「早苗ちゃん!正気になられたのですね?!」
「早苗様!」
「和美ちゃん!お願い!返事して!」
 早苗の泣き声を聞きつけ、綾子とマリンがテントの中に飛び込んできたが、早苗は、
なおも和美の身体を揺さぶり続けている。
 マリンはそんな激しく和美の身体を揺さぶる早苗の手を押さえつけた。
 だが・・・
「ダメです早苗様!和美様は毒に侵されてい・・・えっ?!」
「んっ!(ブツッ!)」
「早苗ちゃん!?」
 マリンの言った「毒に」の一言・・・
 たったその一言で、早苗はなんの躊躇いもなく「自らの舌を噛んだ」のだ。
 そして、溢れ出る血が口一杯に満たされると、早苗は和美と激しく唇を重ねる。
「んっ・・・」
「・・・」
 生きてほしい!
 たとえ、自らの命が朽ち果てようとも、愛する人に生きていてほしい!
 嘗て無いほどの早苗の純粋な想いのこもった血が・・・和美の身体を駆け巡った。
「・・・ん・・・」
「・・・」
 ドクドクと送り込まれる早苗の血・・・
 それでも和美が意識を取り戻す気配はない。
 早苗はそれを見るや否や、今度は自らの唇の端を噛み切った。
 そして再び激しく唇を重ねるが、自発的な呼吸すら止まり始めた和美には、それを受
け入れることが出来ない・・・
 その溢れ返った血が、和美の口から漏れたのを目にした時、綾子は我に返った。
 このままでは、早苗の身も危険だ。
「さ、早苗ちゃん!無理はしないで・・・きゃっ?!」
 だが、早苗は引き剥がそうとした綾子を振り払い、なおも和美に口づける。
「ん・・・」
「・・・」
「さ、早苗様・・・」
 予想以上の事に、何も反応できないマリン・・・
「・・・ぅ」
 その時、突如として早苗の身体がグラリと傾いた。
「早苗様!?」
「早苗ちゃん?!・・・マリンちゃん!私の魔法の杖を!」
「はい!」
「か・・・ずみ・・・ちゃ・・・」
 既に和美と同じくらいに蒼白になった早苗の耳には、マリンと綾子の悲鳴にも似た叫
び声が木霊していた・・・


「まぁ〜どぉ〜らぁ〜すぅ〜・・・いないのかな?」
「まっどらすさぁ〜ん♪・・・いないですぅ」
 広い部屋の中を(やもりん)と(きゃんきゃん)は、ウロウロと歩き回る。
 そして・・・
「お、おじゃましてま〜す・・・」
 孝司も部屋の隅から恐る恐る顔を覗かせていた。
 だが、その居間とおぼしき部屋に(マドラス)の姿はない。
「ねぇー、まどらすぅー!いないのぉ?!」
 (やもりん)がテーブルの下を覗き込んでも・・・
「あのぉ・・・いらっしゃいますか?」
 孝司がクローゼットの中を覗いても・・・
「まどらすさぁ〜ん!かくれんぼですかぁ〜?あ、おせんべーみっーっけですぅ!」
「・・・さすがに戸棚の中にはいないと思うぞ」
 こーして、暫くも3人(?)は部屋の中をウロチョロとしていたが・・・
「ふぅ。いないなぁ・・・んじゃ、次の部屋に行ってみよか?」
「(ぱりぱり)もしかしてぇ(ぽりぽり)食堂でぇ(パリパリ)ごはんじゃぁ?」
「や、やっぱ留守なんだから・・・」
「キッチンへごーーー♪」
「れっつごぉーーーー☆」
「離してくれええええ!」
 と、今度はキッチンを探す事となった。
 キッチンに足を踏み入れると、そこには機能的な流し台に冷蔵庫と思しき銀色の箱、
そしてガス・・・否、魔法コンロには、大きな寸胴鍋がかけられており、ナニやらグツ
グツと煮えている。
 だが(グレート・デーモン)に併せたサイズだけあって、全てがデカい。
 何気なく見回した壁に掛けられている調理器具の類に、巨大な包丁が混ざっているの
を見て、孝司は思わず首を竦めた。
「・・・あ、あんなの振り回すのか?」
 想像しただけで冷や汗を吹き出している、その孝司の後ろで(やもりん)と(きゃん
きゃん)が、ちょろちょろと(マドラス)を探し回る。
 しかし、ここにも(マドラス)の姿は・・・ない。
「ここにも(バムッ)いないわね(プシッ!)んぐんぐ・・・ん?これは・・・」
「そんな、勝手に・・・」
「ホント(バムッ)いないですぅねぇ(シャクシャク!)はむ☆」
「おいおい・・・」
 冷蔵庫を勝手に開けエールを飲む(やもりん)と、ニンジンを囓る(きゃんきゃん)
に、溜息をついていた孝司であったが・・・
「そんな勝手に・・・(きゅいぃ〜〜〜〜)・・・ぅ」
「あれぇ?おにーちゃん、お腹空いたのぉ?」
「ま、まぁね。さ、居ないと解ったんだから、ここはいったん引き上げて、ご飯を食べ
 ながら・・・ん?」
 だが(やもりん)は孝司に、缶をズイと突きつけて言葉を遮る。
「ちょっと待って・・・(マドラス)のやつ・・・この部屋の中に、ついさっきまで居
 たらしいわね・・・ほら」
 そう言って(やもりん)は孝司に缶を手渡すと、テーブルの上から(マドラス)愛用
のジョッキを取り、その中を孝司に見せた。
「なに?(しゅわわわ)・・・ビールか?」
「ビール?エールよ。それに、まだ冷たい」
 確かに・・・自分が受け取った(やもりん)のエールの缶と同様にして、ジョッキの
中では泡が音を立てて弾けている。
「んじゃ、コレを飲んでいる途中で急に用事が・・・」
「ううん、それはないわ。あいつの癖で、飲んでいる最中になんかあった時は、必ず酒
 を飲み干してから行動するモン」
「んでも、飲む暇がないほどの急用が・・・」
「あいつがそんなに慌てる事って・・・」
「んきゃああああああああああああああああ!(がちゃん!)」
 突然の悲鳴と、それに続く派手な金属音。
 どうやら(きゃんきゃん)が魔法コンロに掛かっていた鍋をひっくり返したらしい。
 大方、摘み食いでもしようとして・・・
「んきゃあああ?!んきゃあああ?!『マドラス』さぁああああん!?」
「えっ?!なっ!?」
「なんだ?・・・うぷっ!」
 深い寸胴鍋からは、酸っぱい香りのするシチューが床にブチまけられていた。
 その料理は、孝司の知っている限り、ボルシチの類であろう・・・
 だが、その野菜や肉に混ざって転がり出た、半ば溶けている「グレートデーモンの頭
蓋骨」にだけは、空腹の孝司でも耐えきれず、逆流した胃液を床に撒き散らした。
「うぇえええええ!」
「ま、まどらすぅ・・・」
「うきゃあああ!うきゃああ!うきゃああ!」
 その頭蓋骨を手に呆然とする(やもりん)に、両手に付着したシチューの中身に錯乱
している(きゃんきゃん)、床に四つ這いになり吐いている孝司。
 そんな騒然としたキッチンに・・・死の時は静かに訪れていた。
「うるさいわね?」
「え?!(ビシッ!)んあ゛(ブチブチブチッ!グキャ!)ピ!」
「な?!」
 唐突の声、何かが風を切る音、筋肉繊維を断つ音、骨の砕ける音・・・
 そして・・・それらに続いて孝司の脚に何かが転がってきた。
(ゴロゴロゴロ・・・)
 四つん這いになって吐いていた孝司の目が見開かれる。
 それは・・・

・・・え?(きゃんきゃん)?なんだ?

 無惨にも捻り切られた(きゃんきゃん)の首・・・
「あ、アンタね!?よくも『マドラス』とチビちゃんを!?」
 抱えていた(マドラス)の頭蓋骨を静かに置くと(やもりん)は、突如として目の前
に現れた、宙に浮かんでいる「人物」にめがけて強烈な回し蹴りを放つ!
 だが・・・
「(ヒュン!ビシッ!)な?!(バチバチバチ!)ぎゃあああああ!?」
 ワイヤーの鞭が風を切る音、肉に巻き付く音、電撃の流れる音、(やもりん)の絶叫
が孝司に聞こえた。
 そして、イオンの臭いと、肉が焼けこげた臭いが鼻を突いたかと思うと・・・
「(ボンッ!)ヂ!」
 黒こげになり、炭と化した(やもりん)が・・・孝司の目の前に落ちて砕けた。
 それでも孝司は動かない。

・・・(やもりん)?どうして?

 全ては一瞬の事。
 そう・・・一瞬にして孝司の目の前で、2つの命が砕かれたのだ。
「ふん・・・情けないわね・・・」
 ぼんやりと・・・流れるようにしていた意識に届いた聞き覚えのある声・・・
 孝司はようやく首だけを動かして見上げていく。
「異世界の戦士だって、アッシュ様から聞いたんだけど・・・」
「あ・・・あ・・・」
 革のブーツと長い足が見える。
「女の後ろに隠れて、こそこそして・・・」
 レザーのマントを、ボンテージの素肌に纏い・・・
「大したこと・・・無いわね」
 湯気の上がっているワイヤーの鞭を手にしている。
「あんたなんか、殺す価値もないわ・・・」
 そう言って「夏美」は肩を竦めたのだ。
 目の前の人物に、孝司は辿々しく口を開く。
「な・・・夏美・・・さん・・・なんで・・・」
「夏美ぃ?はン♪ナニ寝言を言ってんのか・・・それとも、それ、もしかして自分の女
 の名前?だとしたら本当に救い様のない男ね。あたしの名前は『ソフィア』よ」
「・・・なぜ・・・3人・・・を・・・」
「簡単よ。そっちはうるさいかったのと、こっちはあたしに向かってきたから。あと、
 そこのは・・・まぁ、あんたのトコに行く前に、腹ごしらえでもしようかと思ってい
 たんだけど、具が足りなかったから・・・それだけよ」
「・・・それだけ・・・」
「そう。それだけ」
 それだけ・・・孝司の頭の中で繰り返される「それだけ」の言葉。

・・・自分は「それだけ」の理由で、3人を死なせた・・・
・・・自分は「それだけ」の理由で殺された3人に、ナニも出来なかった・・・

「ふぅ・・・あんた、やる気アルの?」
 ソフィアがツイと髪を掻き上げながらそう言うが、孝司は何も答えず足下に転がって
いる(きゃんきゃん)の首を拾い上げる。
 その死に顔は壮絶であった。
 一杯に開かれ、今も絶叫を上げ続けている様な口、最後の瞬間まで生を見いだそうと
するかの様に剥かれた大きな目・・・
 とても・・・あの愛らしかった(きゃんきゃん)の形相とは思えない。
 ユラリと孝司は立ち上がった。

・・・何も出来なかった。

 孝司は(きゃんきゃん)の耳から、自分が渡したリボンを解くと・・・

・・・俺は・・・誰も守れなかった。

 それを右手に巻き付けた。

・・・俺は・・・いつも、誰かの背中に隠れていた。

 そして、今度は消し炭と化した(やもりん)の遺骸の側に歩み寄る。

・・・俺が・・・二人を死なせて・・・いや、殺してしまった・・・

 変わり果てた(やもりん)の遺骸・・・原型すら留めていないのだ。
 一瞬にして高電圧を流された為、四肢が弾け、内蔵がそこから飛び出している。
 だが孝司は目を離さない。
 自らの失態を脳裏に焼き付けているのだ。
 その死骸の側に、千切れた赤いバンダナが落ちている。

・・・俺は・・・和美もこんな風にしてしまうのだろうか?

 孝司は(やもりん)のバンダナを拾い上げると、左手に巻き付けた。

・・・俺は・・・俺は・・・

(カシャン!)
 孝司の頭の中で、何かが音を立てて砕け散る。
 孝司の特殊能力『逆境』の発動・・・それは、精神の「レベルアップ」の技能。
 自分のせいで失われた命が・・・「死」が、孝司の精神の殻を打ち破ったのだ。
「はぁ〜あ・・・こんな情けない奴ほっといて、次の奴を殺しに・・・ん?」
 フラフラとしている孝司の姿を見て、空間を切り裂き、アッシュの元に帰ろうとして
いたソフィアであったが、その背に爆発的に沸き上がる闘気を感じ振り向いた。
 そこに・・・「鬼神」の如く、孝司が立っている。
「な、なに?!」
「俺は・・・俺は・・・」
 ユラユラと陽炎の様に闘気が揺らめき・・・
 グツグツと煮え立つ様に怒りが吹き出し・・・
 沸々と沸き上がる様に力が漲り・・・
「俺は・・・俺は・・・」
「これが・・・異世界の戦士の力?!」
「俺は・・・和美を・・・守る!」
「ッ?!(カッ!)?!」

・・・一体、ナニが!?

「(スパパパパパパパ!)ンあああああっ!?」
 帰る為に異空間を開いておいたのが幸いした。
 ソフィアが気が付いた時には、手にしていた鞭も吹き飛ばされ・・・
「オラオラオラオラオラ!吹き飛べぇ!」
「(ズドーーーン!)あああああ!」
 全身に光速で繰り出された強烈な拳を叩き込まれたソフィアは、異空間に吹き飛ばさ
れた・・・
「はぁ・・・はぁ・・・」
 そして3人の死体が転がるキッチンに、孝司の荒い息だけが静かに響きわたる・・・
 全ては現実・・・全ては事実・・・
 その言葉が、孝司の頭の中を駆けめぐる・・・
「はぁ、はぁ・・・くっ!」
 暫くも肩で荒い息をしていた孝司だが、テーブルの上に置かれたエールの缶を目にす
ると、一気に中を飲み干した。
 渇くのだ・・・
 喉だけではない・・・何かが渇くのだ。
「ぅっく(ゴクゴク)っ(ゴキュゴキュ)・・・んっ!(クシャ!)」
 腕で口の脇からこぼれたエールを拭うと、缶を握り潰し、投げ捨てる。
 まだだ・・・まだ、渇きは癒やされない。
 そう・・・孝司の渇きは・・・「魂」の渇き。
「く、くそぉ!!(ガン!)おらぁ!(ズガン!)あぁああ!」
 ところ構わず拳を叩き付ける孝司・・・
 その拳の皮膚は裂け、血が滲み出るが、孝司は拳を叩き付ける。
「おああああああ!(ズガンズガンズガン!)オラァ!く・・・く・・・くぉおおおお
 おおおおお!」
 一度湧き出た飢えは、治まらず、止めどもなく吹き出してくる。
 このまま暴発しそうな力・・・
 だが、そんな苦しむ孝司に、叱咤する声が響いた。
「おいコラ!なにしてんだよ!」
「レ、レベル神様・・・」
 全身を震わせながら孝司が顔を上げると、その前には険しい表情のヤンキーレベル神
が、腕組みをしながら孝司を見下ろしているではないか。
 通常では呼び出し以外、人間には干渉しないのがレベル神だが・・・このレベル神は
格好もそうだが、ある意味で「特別」だ。
 自由気ままにフラつき歩き、レベル神の間でも鼻つまみ者・・・
 そうでなければ、あの貧乏神のようなレベル神と共に、小さな宝石などに押し込めら
れたりはしまい・・・
「ったく・・・ガンガンガンガン、うるせぇんだよ!」
「あぁ・・・レベル神様・・・あ・・・」
 ノロノロとレベル神に向かって、手を差し出す孝司・・・
 だが、レベル神はそんな孝司の頬をひっぱたいた。
「あ・・・(パシッ!)っ?!」
「ナニを甘ったれているんだい?!アンタがそんなんだから、この子達はこーなっちま
 んたんだよ!思い知りな!」
「ぅう・・・ぅあああああああああ!」
 厳しい言葉に、ガックリと膝をつき、大声で泣く孝司・・・
 そんな孝司の姿に、暫くも冷ややかに見下ろしていたレベル神だが、溜息を一つつく
と、やがてしゃがみ込み、孝司を抱え上げると、静かに母親の様に抱きしめた。
「やれやれ・・・しょうがねえボーヤだ・・・ほら」
「ぅ・・・あ」
 抱きしめられ、孝司のささくれた精神が・・・和らいでいく。
「ん・・・どうやら『逆境』の発動は出来たみたいだね・・・さすがは異世界の戦士だ
 な。この世界の人間じゃ・・・先に精神が崩壊するからな」
「ぅっく・・・レベル神様・・・もっと・・・もっと強くなりたい・・・」
「もう泣くな・・・あぁ。お前はもっと(チュッ)強くなれるさ・・・」
「・・・はい」
 そして軽く口づけながらゆっくりと身を離すと、レベル神は拳を孝司の前に翳す。
「みんなを弔ってやらなきゃな・・・」
「はい・・・」
「新しい必殺技・・・教えてやるよ・・・声を合わせろ!」
「はい!」
 孝司は大きく息を吸い込むと、気を落ち着け、右の拳を握りしめた。
「行くよ・・・全開ぃ!」
「全開ぃ!・・・」
 レベル神の姿を真似し、拳を高々と頭上に振り上げ・・・
「・・・グラビティー・・・」
「グラビティー・・・」
 拳に全てを込めて・・・
「・・・スマッシャーーー!」
「スマッシャーーー!(ガツン!)」
 孝司は全ての思いを込め、二人の血が混じり合う床に、怒れる拳を叩き付けた!


「む・・・生まれたか・・・」
 真夜中・・・
 星の明かりに照らされた広大な荒野に佇んでいた老人は、そう呟くとゆっくりと立ち
上がった。
 豊富な髭を蓄え、柔らかな茶色のローブ、薄い青のメガネ・・・
 もし、過去の禁忌に触れようとした愚者がその老人を見たならば、おそらく脱兎の如
く逃げ出すか、脚にすがり教えを請うたか・・・
 だが、老人は大地が微かに揺れ始めると、その姿を変えた。
「どれ(シュン☆)避難するとするかのぉ・・・どっこいせっと」
 孝司を迷宮に蹴り落とした時の「飲んだくれのジジィ」に姿を変えた老人は、重い腰
を上げると、一瞬にして離れた所に姿を移す。
 瞬間移動・・・今やその術は極僅かの者達のみに許されていない。
 そして、老人が姿を現した直後・・・
(ゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオ!)
 先程まで居た場所に、大きなクレーターが生じたのだ!
「う〜ん、エネルギっちゅ♪全く壮絶じゃ(モワッ!)ゲフゲフ!こ、こりゃ、たまら
 んな・・・ん?」
 撒き上がった地響き相当の土煙に酷く咽せ返っていたジジィだが、その煙の中に人影
が現れると、目を見据えた。
 ゆっくりと・・・しっかりと・・・大地を踏みしめて来たのは・・・
「んん〜・・・おぉーおぉー!よく生きて帰ってきたのぉ!」
「・・・」
 コクリと頷く・・・孝司。
 何という変わり様であろう?!
 服はボロボロに破け、その全身に拭いきれないほどベットリと付いた血糊を下地に、
砂糖をまぶされた様に埃と煤を纏っている。
 そして身体中に出来た傷から流れ落ちた血が、ダラリと下がった両腕を伝って地面に
血溜まりを作っていた。
 全身から滲み出るのは「疲労感」ばかりに見える・・・
 しかし、その眼だけは・・・力が漲っていた。
 老人はその孝司をマジマジと眺めると、わざとらしく首を捻る。
「おんや?メダルはどうしたんじゃ?」
 確かに、孝司の修行は地下の迷宮から、戦士のメダルを持ち帰ること・・・
 だが、帰ってきた孝司は手ぶらだ。
 そんな頻りに見回すジジィに、孝司はゆっくりと両手を持ち上げると・・・
「・・・コレで十分だ」
「そうか・・・そうじゃの」
 両拳に巻かれたバンダナとリボンを掲げる孝司に、ジジィは眼を閉じ、黙祷をする。
 そして、2人の形見を掲げた孝司はクルリと老人に背を向けた。
「こりゃ、どこへ行く?」
「・・・和美を・・・守りに」
「・・・そうか。それも良かろう」
 口調の変わった老人に、孝司は振り向く。
 と、そこにいたのは、既に飲んだくれのジジィではなかった・・・
「ジーさん・・・あんた・・・一体?」
「人は私を『ホ・ラガ』と呼ぶ・・・だが、名前などはどうでも良い・・・」
 この世界最高の賢者(ホ・ラガ)・・・
 それは嘗て魔王とも戦ったことのある戦士達の一人・・・
 この世界の全てを知り尽くした賢者・・・
 だが、孝司はそれを知らない。
 ホ・ラガは、腰の後ろから革の袋を取り出すと孝司に手渡した。
「コレを持ってゆくが良い・・・水と食糧が入っておる。道はこの方角を真っ直ぐに行
 けば街がある・・・そこで、全てが・・・始まる」
「・・・ありがとうございました」
 孝司は礼を言い残すと、暗闇に包まれた果てしない荒野を歩み始めた。
 その遠ざかっていく孝司の背中を眺め、ホ・ラガは微笑み呟く。
「フフフっ・・・異世界の戦士か。実に面白い存在だ・・・あの時と同じ・・・今回も
 この世界の全てを知り尽くした筈の、私の知識を超越してやってくる。小川健太郎と
 来水美樹の時の様に・・・」
 と、そこまで呟き微笑んでいたホ・ラガであったが・・・
「フッフッフ・・・ん?・・・あ!?」
 一体、どうしたというのだろう?
 ハタと気が付いた様に、拳を握り締め・・・
「し、しまった!私としたことが、何という失念をしてしまったのだ・・・あの少年、
 小川健太郎と、どちらが美味か・・・比べてみたかった・・・」
 その震える手を押さえろ、ホモジジィ。


                    3


 翌朝、綾子は鳥の囀る声で目を覚ました。
 どうやら昨晩は、和美と早苗の治療に魔力を使い果たして気を失い、そのまま眠って
しまっていたらしい・・・
「・・・ぅ」
 ゆっくりと身体を起こす綾子。
 衣擦れの音と、微かに聞こえる寝息に、綾子は首を巡らせた。
 血の香りのするテントの中、マリン、早苗、和美が折り重なって倒れている。
 だが、呼吸音は「一つ」しか・・・聞こえない。
 綾子はそっとマリンを揺する。
「ん・・・」
 微かな吐息が漏れ、マリンに命があることを知らせる。
 次に綾子は和美に近づく。
 その和美の肌は白い・・・まるで、屍の様な肌の色・・・
 対照的に口の周りは、早苗の血で赤茶色に染まっていた・・・ 
 早苗の血液によって和美の身体から「毒」は消え去り、綾子の白魔法によって、傷口
は、ただ1個所を除いて完全に治っている。
 そう・・・オーリッチの投げたハンドアックスによって出来た傷だ。
 綾子ですら気がつかなかった、時の邪妖精オーリッチの投げたハンドアックスにより
出来た「呪い」の傷。
 それは「時の斧」による傷であったのだ。
 その名の通り、その肉体から魂が抜け出るまで傷口はその時を止め、決して塞がるこ
とはない。
 そして、その塞がることのない傷口から、和美の魂は・・・抜けていた。
 綾子はそっと和美を揺さぶる。
「・・・」
 返事は無かった・・・
 次に綾子は早苗を揺さぶった。
 早苗は自ら噛み切った口から血を流し、蒼い顔をしている・・・
「・・・」
 返事は・・・無い。
「・・・ぁぁ」
 絶望・・・
 この文字だけが、綾子の全てを統治する。
 がっくりと項垂れた綾子から、早苗の顔に涙がこぼれ落ちた・・・
 自分は「また」誰も助けられなかったのだ・・・

 自らの命を救ってくれた、大切な友を・・・
 愛する人のために、自らの命を投げ出した友を・・・

 誰も助けられなかった・・・

 自分は「また」大切な約束を守れなかったのだ・・・

 嘗てに、命の尊さと守ることの難しさを教えてくれた「嘗ては人」との約束が・・・
 そして、見返り無き自己犠牲の厳しさを教えてくれた「人外の者」との約束が・・・

 どの約束も、守れなかった・・・

 綾子の瞳から流れ落ちていた涙が・・・止まる。
 たとえ、この後に元の世界に変えることが出来たとしても、一体、誰に顔向けが出来
ようか?
 龍が?夏美が?クラスメイトが?
 確かに、ナンの事情も知らない人に、浅ましくも嘘を吐き、のうのうと生きていくこ
とも出来るであろう。
 しかし、自らに嘘を吐き通せるものだろうか・・・
 幸いにも、その様な愚考は浮かばなかったが、綾子の心は・・・押し潰されていた。
「・・・(チキッ)」
 綾子の手がゆっくりと動き、側に置いていた焔の懐剣を手に取る。
 刃を抜き出し、震えるその切っ先が・・・白い喉に近づいていく。
 だが、テントの隙間から入り込んだ朝日が早苗の顔に差し掛かり、綾子の涙が乱反射
をした、その時・・・
「・・・ぅ」
 早苗が・・・微かに呻いたのだ!
 そして、その呻き声に続いて、抜ける様な呼吸音が続く。
「(コヒューーー)・・・ぅ・・・ゲホゲホゲホ!」
 咳き込むのと同時に、再び呼吸をし始めた早苗。
 その光景に、綾子は懐剣を投げ捨てると、直ぐさま早苗を抱き起こす。
「早苗ちゃん!早苗ちゃん!?」
「ぅ・・・ぁ・・・ぁらこひゃん・・・」
 傷ついた舌を上手く動かせないため、辿々しい言葉ではあったが、早苗はゆっくりと
目を開き、綾子に向かって微笑みかけたのだ。
 それは、綾子の特殊能力『愛の涙』によって、微かに生まれた希望の光・・・
 女神より与えられた、たった1度だけの奇跡を起こす、尊い光・・・
 綾子はその光を逃さない様に、早苗をひたすら抱きかかえると涙をこぼす。
 早苗も朦朧とする意識の中、暖かい綾子の腕に身を任せた。
「うっく・・・早苗ちゃん・・・良かった・・・生きて・・・」
「ん・・・いひてるよ・・・ぁ」
 だが、早苗の脳裏に「自分が生きていると言うことより」も、重要なことが・・・

 誰よりも大好きな・・・
 誰よりも仲良しの・・・
 誰よりも大切な・・・
 誰よりも愛している・・・

「かふみひゃん!」
 身を捩り(よじり)綾子の腕を振り解こうとした早苗だが、綾子は早苗をしっかりと
抱きしめていて、離れることが出来ない。
「はなひて!?(ギュッ!)かふみひゃん!」
「・・・生きて下さい!」
 だが、綾子はそう一言だけ呟き、暴れる早苗を必死に抱きしめていた・・・


 夢と現(うつつ)の狭間に意識が浮かび、漂い、流される・・・
 あまりにも多くの意識に溶け込み、ともすれば、自らを失いそうになる・・・
 そんな激流の中に身を委ねながらも「和美」は、次第に「自分のイメージ」を作りだ
していった。

・・・ここは・・・どこ?・・・あ・・・私は・・・死んだの?

 和美がそう思った時、和美の側を通り抜ける光が、そのすれ違い様に、様々な言葉を
投げかけてくる。

 苦しげな声・・・
 悲しげな声・・・
 無念に満ちた声・・・
 問いかけてくる声・・・

 それは、人の今際の際の本当の言葉だ・・・
「苦しい・・・死にたくない・・・」
「もっと、生きたかった・・・」
「殺してやる・・・」
「お母さん・・・どこ?」

 意識達は、それら断末の言葉を繰り返し呟き、何処かへと飛んでいく。

・・・そっか・・・私、やっぱ死んだんだ・・・死んじゃったんだ・・・

 いつの間にか、和美も周りに習い、そう呟き始めていた・・・
 足掻くことも、絶望に嘆くことも・・・ない。
 ただ、感慨に浸っただけだ・・・

・・・私も・・・もうチョッと生きたかったな・・・

 自分は・・・間違いなく死んだのだ。
 しかし、何故だろう?妙に悟りきれる。
 それとも「死んだことを受け入れていないから」ここまで落ち着けるのだろうか?
 和美の思考に疑問が浮かび上がる。
 家族のこと、学校の友人のこと、将来のこと、早苗のこと、孝司のこと・・・
 考えると、思い残したことは沢山ある。

・・・なのに、何も・・・何も後悔がないのは・・・なぜ?

 和美の思考が混乱する。
 だが、それも終わり・・・
 流れていた光の流れの先に「終点」が見えてきたのだ。
 光の海の中で、一段と光り輝く大きな物体・・・
 それが、流れる全ての魂を吸い込んで・・・いや「喰らって」いる。

・・・あぁ・・・あれが魂の源なんだ。そっか、死んだら「アレ」に帰るんだ。

 全ての魂は、その大きな口から吸い込まれ、浄化される。
 そして、生まれ変わった魂は、背中の穴から天に向かって吹き上げられ新たな生命と
なって世に送られるのだ。
 魂の終着と始発は、黄泉の国でも、天国でも地獄でもない。
 全ては再生されるのだ・・・
 そして「白いクジラ」の大きな口が、和美の魂に迫った・・・

・・・じゃあね。みんな・・・

 吸い込まれながら、和美は目を閉じる・・・だが!
(ゴゴゴゴ!・・・ペッ!)
 ナンと、吸い込まれたと思った瞬間、和美は物凄い勢いで吐き出されたのだ!

・・・な、ナニ?!ナニが起こったの?!

 予想外の出来事に何も把握できなかったが、凄まじい勢いで吐き出され、肉体へ飛ば
されていく和美の耳に、ハッキリとした声が聞こえてきた。
「ぺっぺっぺ!・・・ウ〜、マズっ!」


「えっく、えっく・・・和美様ぁ・・・」
「・・・(ざっくざっく)」
「早苗ちゃん・・・ぐしっ。せめて、身体だけでも、元の世界に・・・ぐすっ」
「・・・だめ」
 しゃくり上げながら手に縋る綾子を振り解き、早苗は黙々と穴に土を落とす。
 穴の中には、丁寧に毛布にくるまれた遺体が横たわっている。
 無論、それは変わり果てた和美の身体・・・
 魂が全て抜け、肉体こそ生きてはいるものの・・・死体に変わりはない。
 綾子と早苗の努力も虚しく、和美は生きながらにして屍と化してしまったのだ。
 和美の遺骸に縋り、綾子もマリンも、そして早苗も泣いた・・・
 そんな暫く遺体に縋って泣いていた三人であったが、一番に錯乱すると思われていた
早苗は突然に立ち上がったのだ。
 呆然としている綾子とマリンの前で、早苗は和美の身体を毛布でくるみ、自らの手で
穴を掘り、和美の遺体を納め、そして今・・・土を掛けている。
「和美ちゃん(ざくっ)・・・必ず・・・(ざくっ)」
 次第に和美の身体が土に埋もれていく・・・
 脚が埋まり、胸が埋まり・・・顔に土が掛けられた、その時!
「ふざけるなぁああ!(ズザッ!)ぶっ!?」
「わああああ?!」
「きゃああ!!」
「か、和美ちゃん!?」
「ぶぺっ!?ぺっぺっぺっ!ぺぺぺぺぺ!」
 叫びながら勢い良く起きあがった起きあがった和美であったが、ちょーど早苗の掛け
た土が口に入り、ぺっぺぺっぺと必死に吐き出す。
「ぺぺぺ、ぅ〜〜。にしても、あの白クジラぁ!人をマズイってのはどーゆーコト?!
 グ○ーン○ースを敵に回してでも捕鯨しちゃるぅ!!ぅ〜・・・ぺぺ・・・ん?ここ
 どこ?早苗?綾子?マリンちゃん?・・・あれ?ここ、穴の中じゃない?落とし穴に
 でも・・・ん?」
 と、ホントーに危険きわまりない発言をしながらも、よーやく自分の居る場所に気が
ついた和美。
 きょろきょろと周囲を見回した後、上を見上げると・・・
「・・・」
「・・・」
「・・・」
 綾子、マリン、早苗が呆然と自分を見下ろしているのだ。
「え、えと・・・お、おはよう♪」
 生き返ったにしては些か間抜けな挨拶ではあるが、自覚が無いのだから仕方がない。
 そんなパリカリと頭を掻いて笑っている和美に、早苗は・・・
「ぅ・・・(ダッ!)かずみちゃああああああん!」
 シャベルを投げ捨て、和美に向かって飛び込んでいったのだ!
「わぁああ?!(ズダン!)んぐっ!」
 強烈なボディアタックに、思わず息が詰まった和美であったが、早苗の激しい泣き方
に文句も言うことが出来なかった。
 何しろ、涙と鼻水でグシャグシャになった顔に土をまぶし、その顔を和美の胸に埋め
ると泣きじゃくるのだ。
「和美ちゃん!和美ちゃん!かふみひゃん・・・うえぇええええん!」
「き、きちゃないなぁ・・・あ〜、よしよし。もう泣かないで・・・」
 和美はあえて早苗を離さず、黙って胸に抱き留めていた・・・


「ふぅ・・・由香里様ぁ。ここは・・・よいしょっと。この位でいいんですかぁ?」
「うーん・・・厚みは十分だけど、歪みが少しあるわね。水平計ある?」
「はいですぅ☆」
「御嬢!この石の塊は、どうするんッスか?!」
「その鉱石は・・・そこの溶鉱炉に突っ込んでおいて下さい」
「了解ッス!そぉりゃあぁぁあ!(ボボン!)あちゃああああッス!?」
「きゃああ?!由香里様ぁ!使い魔さんが溶鉱炉に頭から突っ込みましたぁ!」
「大丈夫。溶けないから」
「誰が使い魔ッスかぁああ?!それに、御嬢も少しは心配してほしぃッス!」
「せぇのぉ(ゲインゲインゲイン!)ぷふぅ〜っ・・・御嬢!御指示の通り、この金属
 を何度も重ねて叩きやしたぁ!」
「うん、上出来です♪」
「う、うわぁ?!厚さが70ミリもあった筈のヒララ合板が・・・30ミリぃ?!」
「えーと・・・あとは、この鉄板を更にプレスして、と・・・あれ?ここ、プレス機が
 置いていない・・・ま、いっか。大下さん!」
「へい!」
「村田さん!」
「ういッス!」
「二人の力で、この鉄板をもっと薄くして下さい!」
「わかりやした御嬢!村田よ!アレだ!」
「了解ッス!『全快!快男児脂汗抱擁!』(コレで『熱き友情』と読む)ッスね?!」
 大下と村田は、由香里に手渡された鉄板を間に置いて向き合うと・・・
「ふんぬっ!(ガシッ〜ん!)」
「ぬぉッス!(ガシょぉン!)」
 互いの肩を抱き、熱い抱擁をおっぱじめたのだ!
「な、なんなんですぅ?!ナニをしているんですかぁ?!」
「プレス♪」
 さらりと言ってのける由香里に、アルティシアの口が塞がらない。
「ふんぬっ!ふんぬっ!」
「ぬりゃ!ぬりゃ!」
(がしょーん!ジュワッ!がしょーん!ジュワッ!がしょーん!)
 見る見る間に兄貴達の間で薄くなっていく鉄板に、その二人から迸った汗が振りかけ
られ、酸っぱい香りの水蒸気があがる・・・
 こんな必殺技を喰らったら、たとえドラゴンとて生きられまい。
「ぷふぅっ〜・・・こんなモンですか?」
「お、御嬢!どんなもんッスか?!」
「う〜ん、大胸筋と腹筋の跡がついてるのはイヤだけど・・・ま、いいです。お疲れさ
 までした♪」
「ふぃ〜、やはりこの技は疲れるのぉ」
「ソッスね。回復系の技なのに、ホント、疲れるッス」
「か、回復系の技ぁ?!」
「よし!あとは形を整えて、焼き直しだけです♪」
「おぉ!」
 とまぁ・・・いつもの調子で何やら作り続けていた4人だが、後は魔法窯での焼き上
がりを待つだけ。
 その間、さすがに一睡もせずに作業をした為であろうか?由香里も喉の渇きと軽い疲
労感を覚え、兄貴達も小腹が空いたと言うので、しばしの間、休息がてらに軽い食事を
取ることにした。
「みなさぁん、用意ができましたですぅ〜☆」
 アルティシアが用意したマフィンらしきものと、紅茶らしきものがテーブルに置かれ
ると、由香里と兄貴達は工具を置き、椅子に腰を下ろす。
「ふぅ。後は熱が冷めるのを待つだけね・・・はぁ、完成が待ち遠しい♪」
「そうですが・・・御嬢は何を作られていたのですか?」
「あっしが作っていたのは、煙突ッスよね?!」
「ワシが作っていたのは、盾と槍のようなモノであったが・・・」
「へへぇ(ジュル♪)ないしょです☆」
 そう言って由香里はティーカップを口に運ぶ。
「まぁ、出来てからの(モグッ)お楽しみですな」
「んもぅ(バクバクバクバクバク!)由香里御嬢の、いけずぅッス☆」
 大下と村田もマフィンらしきモノを口に放り込んだ。
 その様子を、じっと見守るアルティシア・・・
「・・・」
 そして・・・
「ぅ(カチャン!)な、なに?この異様な眠気は・・・」
 由香里の手からカップが落ち、床の上で砕け散る。
 だが、アルティシアは悲しげな眼で見つめるばかりだ。
「(ガズン!)ぐっ・・・な、なんだ?身体が・・・」
 大下も必死にテーブルに手を付き、眠気を堪える。
「(ゴイン!)ぐぉおおお・・・ふしゅるるるる」
 その大下の目の前で、マフィンを口にくわえたまま村田が突っ伏すのが、霞む視界に
映った。
「くっ・・・アルちゃん・・・何を・・・」
「こ、小娘・・・毒を・・・」
 絞り出すような声と共に、何とか首だけを動かしてアルティシアの方を向く2人。
「うっく・・・」
 だが、大下と由香里の視界には、胸で握りしめた短剣を震わせ、眼からポロポロと涙
をこぼしているアルティシアの・・・否、既にそこにはアルティシアの姿は無かった。
 いつの間にか部屋の明かりは消え、その暗闇の中に淡く光りを放つ存在・・・
 薄衣に身を包み、柔らかな気を放つ女神のような存在・・・
 そこに居たのは、紛れもなく・・・
「と・・・智子?」
「智子御嬢様・・・何故に・・・」
「うっく・・・ゴメンなさいぃ・・・本当にゴメンなさいですぅ。でも、みなさんを殺
 すのが・・・私の・・・裕美様の望みなんですぅ・・・はい」
「どーやら・・・違うみたいね・・・邪妖精・・・」
「だったか・・・」
「でも・・・でも、私は・・・できませんですぅ・・・ホントはもう・・・世界を乱す
 のがイヤなんですぅ・・・さよならですぅ・・・私・・・もう・・・」
 その身を本来の姿に変えたアルティシアは、そう言い残すと、光に包まれて消えてし
まった・・・
 アルティシアの姿が消えると同時に、由香里の視界も、いよいよ暗くなってくる。
 由香里は必死にスコープを動かし、テーブルの上にこぼれた紅茶から、毒の成分を探
るのだが・・・
「何とかしなくちゃ・・・毒の成分を・・・サーチ(きゅきゅ〜ん!ぴっ!)ん?これ
 は・・・大下さん」
「・・・へ、へい」
 大下は首だけを何とか動かし、由香里の方を向くと、由香里は左目のスコープを動か
しながら笑っていた。
「これ・・・タダの『睡眠薬』です」
「なん・・・ですと?!」
 驚く大下であったが、由香里はそれ以上は何も答えず、ただ・・・
「んじゃ・・・おやすみなさい♪・・・く〜☆」
 そう呟くと、眠りについてしまったのであった・・・


 さて、サーレン山の中腹にそびえ立つ、大いなる魔女の・・・つまりは裕美の待ち受
ける城の大広間では、現存している邪妖精達の姿があった。
 それは・・・

 四天王の一人であり、邪妖精の隊長でもある、雷の邪妖精「ソフィア」
 同じく四天王の一人、アッシュの補佐である、音の邪妖精「エレーヌ」
 エレーヌの恋人で、戦闘よりも情報収集を得意とする、光の邪妖精「アルティシア」
 今回から加わることになった、城のガーディアンを務める、鋼の邪妖精「アディ」

 皆一様にして跪き、玉座に座っている裕美に向かって首を垂れている。
 そんな勢揃いした邪妖精に、裕美は満身創痍のソフィアをチラリと見やり、面白くな
さそうに口を開いた。
「ねぇ、アッシュ・・・」
「はい・・・」
 呼びかけに裕美の傍らに控えていたアッシュが、裕美の口元にまで顔を寄せる。
 そのアッシュの首に腕を回し、頬を擦り寄せながら裕美は再び邪妖精達を見据えた。
「四天王ってさ、四人いるから四天王って言うんだよね?」
「はい、その通りでございます」
「んで、天王って言うくらいだから、普通よりもずーーーっと強いんだよね?」
「はい」
 アッシュが頷くと、裕美はソフィアとエレーヌを指さす。
「でも、二人しかいないよ?おまけに一人はボッコボコにされてるし・・・」
「くっ・・・」
 裕美の言葉に、全身に包帯を巻き付けたソフィアは唇を噛みしめる。
 確かに、いくら油断をしたとは言え・・・こんな無様な姿を晒すとは、思ってもいな
かったのだ。
 出撃を命じられた四天王の内、鏡の邪妖精と時の邪妖精は戻らず、隊長である自分は
この様なザマであり、唯一無傷で帰ってきたのは・・・
「裕美様ぁ、どうかお許しをですぅ・・・はい」
 そう言って、床に額を擦り付けんばかりに頭を下げるアルティシア。
 そんなアルティシアの殊勝な態度に、ソフィアの奥歯がぎしりと軋んだ。
 この光の邪妖精、アルティシア・・・彼女にはナンの戦闘力もない。
 戦闘は力が全てと考えているソフィアにとって、そんなアルティシアが気に入らない
存在であった。
 エレーヌが居なくてはロクに戦闘能力も発揮できないこの娘が、何故に邪妖精の一人
なのか?
 時や鏡の邪妖精と共に、異世界の戦士達の抹殺を命じられておきながら、何故に一人
だけ無事で帰ってきたのか?
 全てが不満であった。
 全てが感にさわった。
 全てが・・・気に入らなかった。
 もし、アルティシアがエレーヌの恋人でなかったら?
 間違いなく・・・殺しているであろう。
 だが、そんなソフィアの苦悩を裕美は全く気にしない。
「う〜ん。思ったより木下さん達、強いなぁ・・・も少し調べてからにしよっかなぁ」
「裕美様!ど、どうか今一度チャンスを!次は必ずや異世界の戦士達、全員の首を持ち
 帰ってご覧にいれ・・・」
 そんな必死の形相で縋り付くソフィアに、音の邪妖精エレーヌは鼻で笑う。
「フン♪・・・」
「・・・何がおかしいエレーヌ!」
「ひ・・・」
 低いが殺気のこもったソフィアの声に隣のアルティシアは首を竦める。
 だがエレーヌは笑みを浮かべるだけだ。
「まぁ怖い。やめてよ。アルティシアが怖がっているじゃないの」
「何がおかしいと言っているんだ!エレーヌ!」
「あら?まだ気がつかないの?裕美様は今、戦士達を調べてこいとおっしゃったのよ?
 なのに、首を持ち帰るなんて・・・フフッ、なんて野蛮なのかしら?」
「・・・ぐっ」
 激しく歯噛みするソフィア。
「・・・ぅ」
 怯えの表情を隠せないアルティシア。
「・・・フ」
 そして薄笑いを浮かべながら、アルティシアを抱き寄せるエレーヌ・・・
 そんな殺気に包まれた大広間に、一人、悠然として構えている者が居た。
「・・・」
 それは先程から何も言葉を発しない邪妖精、鋼のアディ。
 裕美はそんなアディを指さし溜息をつく。
「んもぅ、二人とも少しはアディを見習ったら?ナーンにも不平不満を言わないよ!」
「はっ・・・失礼いたしました」
「くっ・・・」
 ソフィアは深々と頭を下げながら、眼の端で映る、したり顔のエレーヌと、その向こ
うの鋼のアディを睨み付ける。
 アディもまた、ソフィアの気に入らない存在であった。
「・・・」
 この新人アディのその姿は巨大な鎧に包まれている上に、片時も外さない。
 それ故に誰も素顔を知らないのだ・・・
 ソフィアはこの新人の存在すら気に入らなかった。
 嘗て大いなる魔女が異世界の賢者に封印される前に存在していた邪妖精達は・・・

 その身体に己が炎を身に巻いて、触るモノ全てを焼き尽くす、炎の邪妖精「ジィナ」
 大地に身を隠し、圧倒的なパワーを以て全てを破壊し尽くす、土の邪妖精「グリス」
 静かに敵の身に乗り移り、肉体を内から喰らうのを好んだ、水の邪妖精「スケーラ」
 完璧に敵に姿を変える為に、味方達ですら混乱を招いた、鏡の邪妖精「ラスティア」
 敵を幼子に、あるいは老人にして、悠久の時と魂を弄ぶ、時の邪妖精「オーリッチ」

 これらに、広間で傅いているソフィア、エレーヌ、アルティシアの8名であった。
 充分すぎる戦力、魔人や天使にも通用する攻撃力なのに・・・
 今更、新たな邪妖精を作る理由が・・・判らない。
 と、そんな疑念がソフィアの頭を過ぎった、その時。
「・・・ソフィアよ。不満そうだな・・・全てが」
「っ?!そ、その様なことは御座いません!アッシュ様!」
 突然に見透かされた様な言葉をアッシュから投げかけられ、狼狽えるソフィア。
 しかし、アッシュの表情は変わらない。
「お前は・・・アディとアルティシアの存在に疑問を感じるのだろう?」
「・・・」
「・・・その答は、お前自身がよく知っているだろう?その傷が・・・」
「くっ!」
 言葉にこそしてはいないが、「不足分の戦力の補強」を含んでいるのは間違いない。
 つまり自分達だけでは「役不足」なのだ。 
 とは言え、5人の邪妖精を失っている以上、返す言葉がない。
 邪妖精の隊長であるソフィアの傷が・・・プライドが・・・全てが痛む。
 だが、次の裕美とアッシュの会話に、ソフィアの痛みは吹き飛んだ。
「はぁ〜あ・・・アッシュぅ〜。木下さん達、もーじきお城に着いちゃうよぉ。今度は
 どーしよぉ?」
「そうですな・・・裕美様、ここは一つ、城で迎え討ってみてはいかがでしょうか?」
「お城で?」
「はい・・・歓迎の準備をして・・・」
「うん!んじゃ、準備しないとね・・・あ。そだ!あと、やっぱり四天王は4人いない
 といけないよね?アルティシア、アディ。四天王になってね♪」
「え?!私が?!」
「・・・」
「くっ・・・」
 裕美の言葉に、ソフィアの奥歯が更に激しく軋んでいた・・・


                    4


 さて、大いなる太陽が天高く昇る頃、人々は午後への活力を養うべく、大人達は家族
や仲間同士で一つの卓を囲んで昼食を摂り、幼子達は柔らかな布団に顔を埋めて午睡に
微睡んでいた。
 静かな午後の街並み・・・今日も一日、平和に過ぎる。
 誰一人として、その安らかな時が続くものと考えていた。
 そう、彼女らが街に現れるまでは・・・
「い〜ぃ日ぃ〜♪たぁびぃだ〜・・・ん?(ザッザッザッ)・・・お、おい!」
「なんだ?・・・な?!あ、あいつらは!?」
「げ?!い、異世界の・・・」
「は、『破壊神』!?」
 人々は口々にそう呟くと、母親達は我が子の手を引いて家に駆け込み、男達は我先に
と「破壊神」が立ち寄ることがないと噂される「風呂屋の男湯」に駆け込んでいた。
 噂はたちまちの内に広がり、この街も終わりだと言う声が飛び交う。
 魔女の城からは割と近い街であったが、幸いにもこの街が魔物達に襲われることは、
昨日までなかった。
 それが・・・「異世界の破壊神」達が、遂にこの街にやってきたのだ。
 当然、魔物達もこの街に現れる・・・
 街は絶望のどん底に突き落とされ、荷造りを始める者達が後を絶たなかった・・・
 無論、その「破壊神」達とは・・・
「もぅ、和美さんたら、本当に心配しましたわ」
「でも無事で良かったです」
「ゴメンね。でも、あの白クジラだけは腹が立つなぁ・・・ん?」
「・・・ぐしっ・・・」
 和美を真ん中に、女子高生特有の陣形「横1列」を組んで賑やかにおしゃべりをしな
がら歩いていた和美達であったが、一番騒がしい筈の早苗が、先程から和美の腕に縋り
付いたまま鼻をすすり上げているのだ。
 和美が息を吹き返してから、ずーーーっと、この調子なのである。
「ほら、早苗。いつまで泣いてんのよ?」
「そうですわ。和美さんは、こうして元気なのですよ?」
「早苗様、笑って下さい」
「うっく・・・早苗・・・ホントに・・・心配だったんだから・・・」
「・・・はいはい。なぁに?早苗、何をしてほしいの?」
 大方の見当がついた和美は、早苗の耳元に口を寄せると、綾子とマリンに聞こえない
ようにして囁いた。
 そんな和美の言葉に、返ってきた早苗の返事は・・・
「・・・今日・・・」
「今日?」
「・・・一緒に寝よーね☆」
「・・・」
「和美さん、あそこに酒場兼宿屋さんがありましたわ。まだ早いですけど、今日は大事
 をとって、ここで休みましょう」
「・・・う゛」
 綾子の言葉が和美の頭痛に拍車を掛けるが、道々で綾子とマリンから「早苗が身を挺
して和美を助けた」と聞かされているので、断ることも出来ない・・・
 和美は暗い表情のまま、何故か派手に壊れている宿屋兼酒場のドアを開いた。
「あれ?入口壊れてる(ぎぃー・・・ゴットン!)ま、いっか。ごめんくださ〜い♪」
「いらっしゃ・・・ひぃ!?」
「き、きたぁああああ!」
「に、にげろぉおおお!」
(ドッタンバッタンドドドド!)
 だが、和美達の一行の姿を見るなり、店主は意識を失い、客という客が先を争って、
店の裏口から逃げ出していく。
 まぁ、無理も無かろう・・・
 ナニしろ昨日の「入口を壊した奴らの仲間」が来たのだから。
「な・・・なに?」
 そんなことなど全く知らない和美達の眼は、テンになっていた・・・


 そして、その「破壊神の仲間」はと言うと・・・
「あふぁうあぁぁぁっぁあああ・・・あーぁ。よく寝た♪」
「・・・御嬢、お目覚めですか?」
「んぁ?大下さん、もう起きてたんですか?・・・やっぱ薬の効き方が違いますね」
「えぇ、まぁ・・・にしても、御嬢。あの小娘の行動・・・下せやせんなぁ」
「えぇ。殺そうと思えば、簡単に出来た筈なのに・・・わざわざ武器の製作まで協力し
 て、挙げ句は眠らせただけなんて・・・どういうつもりなのか・・・あたしには判り
 ません・・・」
 由香里はそう呟くと、テーブルに立て掛けていた「新兵器」を指でなぞる。
「そうでさぁ。確かに敵に塩を送るという言葉はありやすが、コレは・・・敵に自分の
 首を取らせる為の刀を送ったようなもンでさぁ・・・」
 大下もそう頷くと、足下に転がっている「新兵器2」を足の指でつつく。
 それから2人とも暫く押し黙った。
 いろいろと・・・考えがまとまらないのだ。

 何故に邪妖精は自分達を誘ったのか・・・
 何故に邪妖精は自分達に武器を与えたのか・・・
 何故に邪妖精は自分達を生かしたのか・・・

 まとまらない・・・
 何もかもが矛盾する・・・
 考えれば考えるほど、余計に混乱してきた・・・
 由香里は頭を振り払うと、立ち上がる。
「はぁ・・・よっ!(ガシャン!)大下さん!」
「へい?」
 由香里は新兵器を「自分の身体に装着」しながら、大下に向かって微笑んだ。
「ウジウジと(ガション!)考えてても、しょーが(ガショーン!)ないです。取りあ
 えず(バチン!)お腹がすいたんで(ガキョ〜ン!)ご飯にしませんか?」
「へい!判りやした!」
 大下も足下の新兵器を片手で抱え上げると、由香里に向かって親指を突き出す。
「持てるだけ武器をちょーだいしたら、こんな薄暗いトコ、さっさと出ましょう♪」
「へい!・・・御嬢。今夜、どーですか?軽く一杯・・・奢りやすよ?」
「え、いいんですか?!」
「へい。そんかわし、龍には内緒で・・・」
「そりゃモチロン♪」
「はっはっは・・・」
「ふふ・・・」
 二人は笑いながら、太陽の光の射す階段を上り・・・
「はっは・・・あ、村田を忘れやした」
「あ・・・そぉでした。あれ?村田さん、まだ寝てますよ?」
「気合いが足りン証拠ですな・・・コラァ!村田ぁ!」
「村田さぁん!起きてくださぁい!」
「アゥッ!(ドコッ!)ソコは(ボコッ!)だめッス!(ドムッ!)」
 階段から戻るなり、床に落ちていた村田を蹴りまくったのであった・・・


(ぽたっ・・・ぽたっ)
 乾ききった土を踏みしめる度に、孝司の身体から血が滴り落ちる。
 迷宮で新たな力に目覚め、必殺技を繰り出した時に、全身の傷口が開いたのだ。
 そして傷の手当もせず、自らの血を通行料として支払いながら歩き続けてから、およ
そ半日。
 乾ききっているのは大地だけではない。
 容赦なく照りつける太陽が、孝司の身体から水分を搾り取っていく。
 顔にびっしりと付着した白い汗の結晶が、それを物語っていた。
「はぁ・・・はぁ・・・(キャポッ)・・・ん・・・」
 孝司は小さな小屋を見つけると、その日陰で足を止め、腰につけた革の水筒の中身を
一気に飲み干す。
 これで水は底を尽きた事になるが、構わなかった。

 必ず自分は街に辿り着く・・・
 生きて街まで歩いていける・・・
 そして、その街に和美は居る・・・

 そう確信していたのだ。
 勿論、何の根拠も無ければ理由もない。
 ただ・・・そう思うだけだ。
「・・・へっ・・・」
 和美が居る・・・
 そう思うだけでヒビ割れた唇の端が釣り上がり、自然と笑みが浮かぶ。
 別にやましい感情があるわけではない。
 和美を守ることが自分の至福・・・それしか考えられないのだ。
 忠実な番犬が主人の元に戻るが如く、孝司の足は進み続けている。
 全ては、愛と言う名の忠誠心によって導かれているのだ・・・
 と、その時、小屋の中から懐かしい声が聞こえてくる。
「まだ寝ているんですか?」
「い、いえ、御嬢の延髄切りが、きれーに入ったらしく・・・」
「・・・ぁ・・・(ドサッ!)」
 突然の安堵感に、孝司の意識はそこで途絶えた・・・


「村田さんってばぁ。起きて(ドサッ!)ん?今、なんか音がしませんでしたか?」
「へぃ。人が倒れた時の音に似ていやした・・・」
「・・・」
 小屋から出てきた由香里と大下は、奇妙な物音にきょろきょろと周囲を見回す。
 あ〜〜・・・ちなみに蹴りまくられた村田は、まだ意識を失っていた。
「御嬢、小屋の裏手あたりからでしたが・・・」
「・・・敵でしょうか?」
「・・・」
 無言で頷き合う大下と由香里。
 由香里は工場から持ってきた武器を構えて小屋の右側から、大下は村田と荷物を地面
に降ろすと、小屋の左側から静かに回り込む。
 そして・・・
「誰?!・・・え?!」
「誰じゃぁ?!・・・こ、小僧ぉ!?」
 そこに倒れていたのは紛れもなく「孝司」であった。
 まるで大量の血を拭き取ったボロ雑巾の様に、全身を己の血で染め上げて倒れ伏して
いるのだ。
「どこかケガを?(キュイーーン)た、大変!脱水症状と失血で死にかけています!」
「しっかりするんだ小僧ぉ!」
 この変わり果てたの姿の孝司に、急いで抱き起こそうと、由香里と大下が駆け寄った
次の瞬間!
「(バキバキバキバキ!)こ、小僧ぉおおおおおおおおおおお!」
 小屋を粉砕し、漢泣きに泣きながら村田参上!
(がばっ!)
 そして、瀕死の孝司を抱え上げると、呆然としている大下と由香里から飛び退いて歯
を剥いた。
「がるるるるる!たとえ兄貴と御嬢でも、こ、小僧は渡さないッス!」
「い、いや、村田よ。ソレよりも小僧の手当を・・・」
「村田さん、孝司は大けがを・・・」
「がうううううう!そ、そんなことを言って、また小僧とワシを引き離す気ッスか?!
 その手には乗車しないッスよ!逢いたかったッスよぉ・・・小僧ぉ・・・ややっ?!
 小僧がケガをしているッス?!」
「だから・・・」
「ワシらに・・・」
「ダメのダメだめッス!ワシが手当をするッス!ほれ小僧!傷には油薬が効くッス!」
 そう言うなり、村田は孝司に頬ずりし、自らの脂汗を・・・
「ん・・・(す〜りす〜りす〜り☆)・・・ぅ!(グッタリ)」
「あぁぁ?!兄貴ぃ!こ、小僧が動かなくなったッスぅ!」
「村田ぁ!貴様、小僧にナニを塗りたくったぁ!?」
「きゃああ?!急いで街の病院に!」
 あ〜・・・と、とにかく、大下は由香里を、村田は孝司を担いで街に向かって全力疾
走を開始したのであった。


 さて、店の主人から「命を助けてくれるならば、なんでも好きにしていい」と言うこ
とで、ナンの苦もなく今夜の宿が決まった和美達であるが、前回の戦いで多くの装備を
失っていたため、街へ買い物に出かけることにした。
「よいしょっと(どさっ!)んじゃ、私は綾子と街に買い物に出るけど・・・おとなし
 くしているのよ?」
「うん!」
「あと、マリンちゃんは疲れて隣の部屋で寝ているけど、邪魔しちゃダメよ?」
「うん!」
「それと、この宿の御主人さんが妙に怯えているけど、刺激しちゃダメよ?」
「うん!」
「それじゃ、ここで待っていてね?」
「いってらっしゃ〜い♪」
 荷物を床に降ろした和美が部屋から出ていくと、早苗はベットに寝転がり大きくのび
をした。
 和美と一緒に買い物に行きたかったが・・・何故だろう?
 早苗は和美の「ここで待っていてね」と言う言葉が嬉しかったのだ。
 今までなら、必ずついていくと言ってダダをこねていた自分・・・
 影の様にピッタリと和美について回っていた自分・・・
 そんな自分を思いだすと、照れくさかった。
 自分は今まで「自分から」和美を求め・・・いや、和美の事を考えていなかった。
 それ故に「和美から」与えられることは無かった。
 だが・・・
「へへ・・・」
 和美に何かを与えられる事が、これほど嬉しかったとは・・・
 和美は「待っていて」と言ってくれたのだ。
 だから必ず「和美から帰って来てくれる」のだ・・・と。
「ふふ♪(ぼふっ)・・・ふふふ♪(ぼふっ)」
 笑みを浮かべ、ベッドの中で枕を抱えながら転がりまくる早苗・・・
 早苗の中で、和美への愛情がホンのチョッとだけ変化し始めていた・・・
「えへへ☆・・・ん?」
 と、ベッドで転がりまくっていた早苗であったが、ふと、壁を見上げると、壁になに
やら「物騒なもの」が張り付けられている。
 おそらくは装飾品の代わりであるのだろうが・・・
「・・・これ、和美ちゃんにプレゼントしよ☆」


 さて、そんな至福に浸っている早苗を残し、買い物に出かけた和美と綾子は、街の中
をブラついていた・・・のだが。
「・・・ねぇ。綾子」
「はい?」
 和美は足を止め、街をぐるりと見回し呟いた。
「なんか、急に活気が無くなったわね・・・この街」
「・・・はい」
(ひゅう〜〜〜・・・)
 確かに・・・和美達が街に足を踏み入れた時には、沢山の人が道を行き来し、商店も
賑わっていたはずだ。
 にも関わらず、この静けさはどうであろう?
 道は誰一人として歩いているモノはおらず、家という家はピッチリと戸が閉められて
おり、時折、その隙間から二人を窺っている様子がヒシヒシと伝わってくる。

・・・私達が余所者だからかな?

 まぁ・・・和美の考えは「半分」が当たっているだろう。
 新聞や魔法テレビ、魔法ラジオで「特集!大いなる魔女の復活と異世界より来た破壊
神達の恐るべき実体!」などと報道されているのだから・・・
 そんなことは露知らない二人は、この街で唯一「営業中」の看板が掛けられていた武
器屋を見つけると、足を踏み入れた。
「ごめんくださ〜い」
「どなたかいらっしゃいませんか?」
 だが、店の中には誰も居ないうえに、商品ケースの中は空っぽであった。
 実はこの店屋の店主・・・昨日、この街に由香里達が訪れた時に「イヤな予感」を感
じ、夜の内に荷物をまとめて街を出ていってしまったのだ。
 実に勘のイイ店主である。
「まいったなあ。武器が無いときついなぁ・・・」
「そうですわね・・・」
 空っぽの店内に和美が頭を掻いていると、綾子の視線が店の一角で止まった。
「あら?和美さん、まだ武器が幾つか残っていますわ」
「あ、ホントだ。どれどれ?う〜ん、このピッケル・・・かな?これなんか割と使えそ
 うだから持っていくか・・・他には・・・あ、ショートソードみっけ。これくらいで
 我慢しとくか〜・・・」
「和美さん、あれなどいかがでしょう?」
 そう言って綾子が指さしたのは、店の隅っこに転がっていた一本の槍。
 木の枝に刃先を付けただけの簡単なモノだ。
「こりゃまた・・・シンプルね・・・ん?」
 和美がその槍を拾い上げると、札がくっついている。
「なになに?『もののけ槍』・・・いーのかなぁ。最近、著作権がうるさいのに」
「よろしいのでは?」
 ・・・な、なにはともあれ、和美はその槍と戦闘用ピックを手に店を出ると、今度は
食料品や装備を買うために次の店を探し始めた、その時。
「えーと、保存食は・・・ん?」
「(ずどどどどど・・・)和美さん!あちらから砂煙が!」
 街の遙か向こうから、まるで重戦車の様な地響きを立て、壮絶な砂煙を巻き起こしな
がら何かが向かってくる!
「敵?!綾子、先手必勝よ!この街を守らなきゃ!」
「判りましたわ!」
 和美は槍を構え、綾子は魔法の杖を翳し「破壊神」は、戦闘態勢をとった!
「和美さん!敵に向かって槍を投げて下さい!魔法で加速させます!」
「判った!いくわよ・・・せぇ・・・のぉ!(ブン!)てい!」
「風の息吹!(ビュホッ!)」
 和美の投げた槍に、綾子の風の魔法が掛けられて、音速で槍は飛んでいく!
 だが・・・
「(キィーーン・・・・・・・・ゴッ!)ん!手応えあったわ!」
「(ドドド!)・・・で、でも!止まりません!」
「くっ!」
 命中の手応えにも関わらず、勢いを衰えることなく向かってくるその黒い塊に、和美
はピックを握り、綾子は魔法の杖に魔力を溜める。
 そして・・・敵の姿が遂に・・・見えた!
「綾子、来るわよ!」
「はい!」
(ドドドド・・・どどどど・・・ドドドドド!!)
「ふぉ、ふぉほ〜ぉ!ひ、ひふは〜!(こ、小僧ぉ!死ぬなぁ〜!と言っている)」
「ええい!村田ぁ!止まらんかぁああ!」
「村田さん!このままじゃ街を走り抜けちゃいますよぉ!」
「んっ(バリボリバリボリ!)う〜ん、野性味溢れるワイルドな味ッス・・・ハッ!?
 違うッスぅ!小僧ぉ!病院はもうじきッスぅ〜〜!」
「お、御嬢!こうなれば大砲で村田にガツンと一発!?」
「ダメです!村田さんの動きが読めないので、孝司に当たるかも知れないんです!」
 瀕死の孝司を抱えながら、和美に投げられた槍を喰った村田に、なんか身体のあちこ
ちを改造し、人間を辞めた様なカッコの由香里に、その由香里を背負って村田を追いか
けている大下が、全力疾走で和美と綾子の前を駆け抜けていく・・・
(ドドドドドどどどどど!・・・ドドドドド)
 敵の正体に、和美はボソリと呟いた。
「・・・槍・・・」
「え?」
「・・・食べられちゃった」
(ドドドド・・・どどどどドドドドド!!)
「あ!戻ってきましたわ!・・・でも、どうやって止めます?」
「簡単よ。必殺・・・カニばさみ!(ガシッ!)」
「(ずしゃあああああ!)っとっとっと・・・あ?和美、綾子。久しぶりネ☆」
「元気そう・・・なの?由香里?」
「ナンで疑問形なわけ?」
「なんだか、身体が機械化してますわ」
「まぁね。ソレより綾子、孝司が死にそうなの。魔法掛けたげて」
「はい」
 孝司と由香里を高々と掲げながら、顔面で受け身を取っている兄貴達の上で、和美と
由香里は再会の挨拶をしていた・・・
 かくしてバラバラになっていた異世界の破壊者達・・・もとい、異世界の戦士達は、
めでたく再開することが出来たのであった。
 最後の戦いが・・・今、始まる。