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第4章 邪妖精 1 さて、和美達が村を見つけていた頃、兄貴達の一行はと言うと・・・ 「フゥーーー・・・ここいら辺で休憩とするか」 「そッスね♪」 「つ、疲れたぁ〜(ズシャ!)」 大した汗をもかいていない兄貴達に比べ、身体中をビッショリと汗で濡らし、額の所 々には塩の結晶まで浮かべた孝司は、バッタリと倒れ込んだ。 「ん?小僧、だらしがないぞ」 「・・・あぅ・・・み、水ぅ〜」 そんな大下の声も、今の孝司には耳に入らない。 ただこうして寝転がっているだけなのにも関わらず、灼熱の太陽と、十分に灼かれた 熱砂が、孝司の体力を容赦なく奪っていく・・・ さて、3人は今、砂漠を思わせる様な砂丘の一角を歩いているところであった。 それにしても・・・一体、どこをどう通ったのであろうか? 兄貴達は和美達の元に向かって歩いていたハズなのだが・・・いつの間にかこんな砂 丘に来てしまったのだ。 まぁ、兄貴達が(いろんな意味で)真っ当な道を進む訳がない。 「あう・・・死ぬ・・・」 もはや干物寸前の孝司に、村田は腰に付けていた革の水筒を手渡す。 「こ、小僧。飲むといいッス」 「み、水!(キャポッ!ゴクゴクゴク!)はぁ・・・ども」 孝司が水筒を村田に返すと、村田も水を飲んで一息ついた。 「ん・・・(コクッ♪)ぷはぁ・・・こ、小僧のアジがするッス(ポッ☆)」 「・・・ゥプ・・・」 頬を赤く染めている村田に、孝司は必死に吐き気を堪える。 だが、村田はそんな孝司には構わず、今度は大下に水筒を渡した。 「ところで兄貴ぃ。綾子お嬢さんは本当にここを通るんスか?」 「うむ(ゴキュ☆)わしの勘が正しければ、この近くに居られるはずである」 大下は水を一口飲むと、腕組みをして大きく頷く。 「そうですか・・・」 孝司がそう言って項垂れた、その時。 「きゃーーーーー!」 「ん?!大下さん!村田さん!今の悲鳴は?!」 「おぉ、ワシにも聞こえたぞ!」 「確かに『杵(きね)を裂くような』婦女子の悲鳴ッス!」 ソレを言うなら「絹」だろ・・・ 大体、どうやったら杵なんかを・・・コイツなら裂けるか。 まぁ、それはさておき・・・とにかく、そんな盛大な悲鳴が砂丘の向こう側から聞こ えてきたのである。 「あっちからです!」 「いくぞ村田!」 「へいッス!・・・どうせなら美少年の悲鳴の方が良かったッス・・・」 孝司はその悲鳴に向かって猛然とダッシュし、続いて大下、ちょっと躊躇って村田が 後に続いた。 そして、その砂丘の向こう側では・・・ 「きゃあああああ!」 すり鉢状になった流砂の中心に、女の子の上半身が見え隠れしているではないか。 「うわ!?女の子が流砂に飲み込まれています!大下さん、ロープかナンかを!」 「村田よ!ロープはあるか?!」 「へい!(ゴソゴソ)ないッス!」 「よし!では今こそ『マッスルロープ』だ!」 「了解ッス!小僧、行くッス!」 「へ?(ガシッ!)」 「兄貴!マッスルロープ、1段目セッタアアあーーっぷッス!(注:セットアップ)」 「了解!(ガシッ!)2段目も連結完了!いくぞ、村田!小僧!」 「イエッサーーーーッス!」 「へ?何を(ブゥン!)うわああああ!?」 説明しよう!「マッスルロープ」とは、村田が孝司の足を掴み、その村田の足を大下 が掴んで力一杯にブン投げるという、ナンの捻りもない人間ロープなのだ。 「うわ〜〜!?(ズベシャッ!)んブッ!?ぺっぺっっぺ!」 「兄貴ぃ!どうッスかぁ?!目標ポイントにナイスおんッスか?!」 「わしも俯せになっとるからわからん!だが、手応えはあったぞ!」 いきなり足首を掴まれた挙げ句、その女の子にめがけてブン投げられた孝司であった が、大下のその声に口に入った砂を吐き出しながら顔を上げると・・・ 「きゃあああああ!」 「おぉ、ちょーど真っ正面!さ、さぁ!俺の手に!」 だが、必死に腕を伸ばす孝司に、悲鳴を上げていた女の子は「手」ではなく・・・ 「きゃああああ・・・(バクン!)あああああ゛あ゛あ゛」 「へ?・・・(ビシュルルル!)うわあああああ!?」 突如としてその少女の頭が割れたかと思うと、その中から飛び出してきた「触手」が 孝司の身体に絡み付いたのだ! そして・・・ 「うわうわうわ?!(ブス!ブス!ブス!)うぎゃああああ?!」 盛大な悲鳴と、何かが「突き刺さる音」が周囲に響きわたる・・・ 一体、孝司の身にナニが起こったのか? しかし、俯せになっている兄貴達にはソレが見えない。 「ん?・・・村田よ。小僧の様子が変ではないか?」 「へぇ。なんか悲鳴をあげているッス」 「そう思うなら見てみろ」 「し、しかし、ココで顔を上げたら・・・小僧の恥ずかしい格好を、ベストなアングル から垣間見ることになるッス・・・こっぱずかしいッス(ぽっ☆)」 「んじゃ、ワシが見る」 「あぁん!兄貴だけ抜け駆けなんてズルいッス!」 「ならば、どうしろと?」 「そんじゃ、2人で一緒に見るッス・・・せぇのぉ!(ガバッ)おんやぁ?」 「あ・・・あぁ(ドクン)・・・」 「んん〜?小僧のヤツ、チョッと見ない間に、随分と痩せたな?」 「ソッスね。ナンか痩せたと言うより、干涸らびて・・・ナンじゃこりゃぁああ?!」 この阿呆どもがグダグダ抜かしている間に、触手は孝司の身体中に突き刺さり、その 生き血を吸い上げていたのだ! 「あ(ドクン)た、助けて・・・」 身体中に突き刺さった触手が脈動する度に、助けを求めて手を伸ばしている孝司の手 が青ざめていく。 コレにはさすがの兄貴達も顔色が変わった。 「兄貴!もしかして小僧はピンチなのではないッスか?!」 「もしかしなくともピンチじゃぁ!村田よ!引き上げるぞぉ!」 「了解ッス!」 「ぬりゃあああ!」 そして、大下が豪快に一本釣りに釣り上げると・・・ 「(ズザァツ!)オォオオオオオオン!」 「な、な、ナンじゃこりゃアァ?!」 「い、石の化けものッス!」 孝司の身体にしがみついてきた「石のゴーレム」に、大下と村田の目が大きく見開か れた・・・ さて、孝司が危機に陥っている頃、和美達は新たな村の中を歩いていた。 だが、この村も、和美達がこの世界に来てから初めて訪れた時の村と同じ様に、荒れ 果て、寂れ・・・人のいる気配は無い。 ただ、前の村と異なるのは、大部分の家が「焼けている」のであった。 由香里は、その中のいくらかまともな家の戸を開ける。 多少の焦げ目があるモノの、見たカンジではしっかりと建っているのだ。 だが・・・ 「(ガチャッ!)こんにち・・・ん?・・・う゛・・・うえっぷ!」 ドアを開けた途端に鼻をつく異臭・・・ しっかりと建っていたのは由香里から見えた「正面」だけであった。 ナニしろドアを開けると、屋根が焼け落ち、入口から空が見えていたのだ。 おそらく、家の中心で激しい火柱のようなモノが上がったのであろう・・・ 由香里は丸焼けの家の中と、その中に残されていた「とある炭の塊」から急いで目を 背けて、すぐさま戸を閉める。 「成仏してください!(バタン!)」 「ん?由香里、何かあったの?」 「えぇ・・・和美も迂闊に家を覗かない方がいいわよ〜・・・」 「ナンで?」 「えーと・・・暫くは『焼き肉』が食べられなくなるから・・・うっぷ」 由香里は早苗をおぶっている和美に、青くなった顔でそう答えた。 それから暫くもパーティーは慎重に村の中を捜索していたが、やがて石造りの寺院ら しき建物の前に辿り着いたところで、アネーロの足が止まる。 アネーロが額のクリスタルに何かを感じているようだ。 「ココは魔導寺院ですね(ズクッ)あれ?でも魔力が歪んで・・・おかしいです」 「ふむ・・・確かに・・・」 「見たカンジからも・・・」 「変ですわね・・・」 確かに、和美達の目にもソレは明らかだ。 村の建物が焼けているのにも関わらず、ここだけは焦げ目一つ無いのだ。 真っ白で綺麗な土壁や、その周りを被っている草も、入口の木で出来た門にも、焼け た跡は無い。 「・・・取りあえず、中に入ってみよっか?」 「そうですわね・・・」 「アネーロさん。ちょっと早苗を見ていて下さい」 「あ。はい、判りました」 和美はアネーロに早苗を託すと武器を手にし、由香里と綾子もまた、武器を構えると 門を開け、中庭に足を踏み入れたのだが・・・ 「・・・うっ!?」 「・・・あぁ(ドサッ!)」 中に入るなり、和美は口元を押さえ、綾子は意識を失った。 由香里は崩れ落ちる綾子を抱きかかえながら、必死に吐き気を堪えている和美に身体 を寄せる。 「・・・酷いわね」 「うぅ・・・」 そこにあったのは・・・ ある者は絶叫をしたまま・・・ ある者は剣を握りしめたまま・・・ ある者は何かを求めて手を差しだしたまま・・・ 無惨に焼け焦げた、無数の焼死体が転がっていたのだ! 「うっぷ・・・ううう!?」 「ん〜・・・和美、外で待ってて・・・あたし一人で見てくるから」 「ご、ゴメン。うっぷ・・・」 そんな凄まじい光景であったが、つい先程に家を覗き、同じ様なモノを見ていたおか げで、ある程度の免疫が出来ていた由香里は、綾子を抱きかかえながら和美を門の外に 促すと、再び一人で中庭に足を踏み入れた。 「う〜、酷い臭い・・・」 ハンカチを口に当て、由香里は焼死体の一つに近づいてみる。 「うっぷ・・・う〜・・・こっちは・・・あう〜・・・」 1体1体、近寄って見てみるが・・・やはり、誰一人として息のある者はない。 全ての死体は、その空っぽの目で由香里を見つめているだけだ。 「可哀想に・・・ん?」 だが、死体を見て歩いている内に、由香里は奇妙な事に気がついた。 確かに全員が、紛れもなく焼け死んでいる。 しかし、それにも関わらず・・・ 「ヘンね?・・・どれもみんな『鎧が焦げてない』じゃない?」 由香里は死体の身につけている鎧の類が・・・いや、それどころか、鎧を繋ぎ止めて いる革の紐ですら、全く焦げていないのだ。 コレではまるで「焼死体に鎧を着せた」様である。 由香里は腰から軍刀を抜くと、静かに革紐を斬り、死体から鎧を剥してみた。 すると・・・ 「ごめんなさいね・・・よっと(ブツッ・・・ガラン!チャリン!)え?!」 鎧を外すと、ナンと中からはコインの入った革袋が落ち、その開いた口からコインが いくつかこぼれ落ちたのだ。 そして、鎧の内側には、焦げ目一つない・・・ 「一体・・・ナニが・・・人だけが焼けてるなんて・・・」 「由香里さーん!どうしましたかぁー!?」 「う〜む・・・」 呆然としていた由香里であったが、門の入り口で叫んでいるアネーロの声で我に返る と、軍刀を鞘に戻し、アネーロに向かって叫び返した。 「ちょっとねぇーーーー!死体がへんなのよぉーーーー!」 「本当ぉですねーーーー!死体が動いてますぅーーーー!」 「な゛!?」 アネーロの返事に、由香里は振り返り、足元の死体を見て目を剥いた。 死体が・・・ゆっくりと起き上がろうとしているではないか! 「うっわぁ!?ゾンビぃ?!バイオハザードレベル4?!」 慌ててバックステップで跳びのく由香里の視界のあちこちで死体が動き始めている。 「ど、どーしよどーしよどーしよ!」 珍しく狼狽える・・・まぁ、日常でゾンビに襲われることなどあるわけがないコトを 考えれば、とーぜんの反応ではあるが・・・由香里は、軍刀を抜くことすら忘れ、オロ オロと走り回った。 そんな由香里に、剣を振り上げた1体のゾンビが迫る! 「AHAAAAAA!」 「え?!(ブォン!)んNOぉおおお!?」 振り回された剣を間一髪、転がって身をかわすと、ようやく軍刀を抜いた。 「こ、この!(スラッ)あっぶないでしょ!?」 「AGYAAAAAA!」 「・・・聞いてないか。にしてもマズイなぁ・・・ひぃ、ふぅ・・・全部で8体かぁ。 おまけに、全員アンデッド・・・刀でケリがつけられるかな?」 由香里は「のたり」とゆっくりとした動きで迫ってくるゾンビに、一歩後ずさる。 だが、後ろを振り返れば、後ろからも3体のゾンビが剣を、あるいは手を伸ばして近 づいて来ている。 更に正面に1体、右から3体、左から1体・・・ 「か、囲まれた・・・うぅ・・・だ、大丈夫。コイツらは人間じゃなくて、タダの人形 と同じ、斬って刻んで、そんで終い・・・よしっ!たぁぁぁ!」 由香里は自分に言い聞かせるようにしてそう呟くと、一度小さく身体を沈ませ、その 勢いを使って正面のゾンビに向かって鋭く斬り込んでいった! (ギャ!ザポッ!) 抜けるような音と、鎧を断つ感触を・・・由香里は確かに感じた。 しかし、相手は既に死体。 わき腹を大きく斬り裂かれているのにも動じず、ゾンビは再び由香里に向かって剣を 振りあげてきたのだ。 「AGAAAAAA!」 「うわっ!?(ブン!)だ、ダメ?!それじゃ・・・これでどう!?(シュッ!)」 「(ザシュッ!ボトッ!)・・・AHAAAA!」 由香里の長船が唸りを上げた次の瞬間、目の前のゾンビの右腕がボトリと落ちる。 だが、腕無しになった死体は、それでも由香里に向かって歩んできた。 「うわああ?!(ブン!)だ、駄目か・・・ならば(チャキン!)」 由香里はゾンビの剣をかわすと、今度は何を思ったのか長船を鞘に戻す。 そして、巧みにゾンビ達の剣をかわし続けていくが・・・ついに完全に囲まれた。 そんな由香里の八方からゾンビが迫ってくる・・・「この時」を待っていたのだ。 由香里は静かに息を吸い込み、氣を高め、軍刀の柄に手を添える・・・ 「すっーー・・・」 ・・・確か・・・ゾンビは「脳」が弱点のはず・・・ 由香里は、前に借りたホラー映画のビデオを思いだしながら、次第に自分の丹田に力 を込めていく・・・ 「AGAAAAAA!」 「HAAAAA!」 そして、ゾンビ達との距離と間隔が「等しく」なったその瞬間! 「ん〜!・・・覇っ!(ゾポッッッッッ!)」 気合いと共に由香里の長船が閃き、ゾンビの首が8つ、綺麗に跳ね上がった。 龍から教わった抜刀妙技の一つ「天車(てんしゃ)」である! 敵に囲まれた場合に、ソレを打開するために編み出された高度な技で、熟練者ですら 難しいこの技だが、異世界の力を持った由香里にはナンの苦もなく発揮できたのだ。 だが龍とて、それを「ゾンビ相手に使う」と思って教えていない・・・ 結局、首無しになったゾンビ達は何事もなかったように、由香里に向かって剣を振り 降ろしてきたのであった。 「へ?(ブォオン!)うきゃぁあああ!考えが甘かったぁ?!やっぱ・・・魔力のある 剣かナンかじゃないとダメみたいね・・・」 ごろごろと転がって、ゾンビの輪の中から脱出する由香里。 そして、起きあがって腰の春雨に手をかけた時・・・ 「(がしっ!)うわ!?(ガジッ!)つぁ?!」 激痛が由香里の両足と両肩に走る。 見ると、由香里の右足を掴んでいるのは、先ほど斬り飛ばしたゾンビの右腕、そして 左足と両肩にはゾンビの首がかじりついているのだ。 肉に食い込む歯と爪の激痛と、ゾンビ特有の毒に力を奪われ、思わずその場にしゃが みこむ由香里。 「くっ(ズブッ!)あぁぁああ(グジュ)く、来るなぁ!」 脂汗を浮かべながら軍刀を構えた由香里に、ゾンビの剣が迫る・・・ 「神火炎波!!(カッ!)」 だが、一瞬の閃光が由香里の目を眩ましたかと思うと、その周囲を火炎の竜巻が駆け めぐり、次々にゾンビ達を灰にしていったのであった・・・ その、あまりにもあっけない結末と、こんもりと積み上がった灰を見て呆然としてい る由香里の側に、アネーロが駆け寄ってくる。 「由香里さん、大丈夫ですか!?射角を合わせるのに手間取ってしまって、呪文が間に 合わないかと思いました」 「アネーロさんの魔法だったの・・・ありが(ズキッ!)つっ!?」 そう、アネーロに礼を言いかけた由香里だが、足の激痛に顔をしかめた。 「どうしたのですか!?」 「あ、足が・・・」 苦しげに呻く由香里に、アネーロはそっとブーツを脱がせ、靴下をめくる。 「あ!?」 見ればゾンビが噛みついた所が、どす黒く変色をしているではないか?! 同様にしてシャツをはだけてみると、両肩も変色している。 「大変!毒が・・・今、薬を・・・」 「こりゃ参ったわね・・・」 汗を浮かばせながら、由香里はのんびりと言うが、その顔は蒼白である。 アネーロは、急いで鞄の中を探ったが・・・ 「あぁっ!解毒用の薬草が無い!!」 「っ・・・もう、駄目か・・・ん?早苗、起きたの・・・」 全身を襲ってきた脱力感と悪寒に、ぐったりと石畳の上に寝転がった・・・と、その 由香里の視界に、突如、早苗の顔が出現したのだ。 早苗はにこやかに微笑む。 「おっはよ由香里ちゃん♪・・・はれ?どしたの?どっか具合が悪いの?」 「あは・・・ちょっとね・・・和美と綾子は?」 「和美ちゃんはナンか気分が悪いんだって。あと、綾子ちゃんは寝不足らしくて寝てる けど・・・ねぇ、由香里ちゃん。本当にだいじょーぶなの?お顔が青いよ?」 早苗は由香里の側に座り込むと、由香里の額の汗をハンカチで拭ってやる。 由香里はその早苗の手を握りしめた。 もう、息が苦しいのだ・・・ 「早苗・・・あたしは・・・もう駄目だから・・・あとは頼むわよ・・・」 「へ!?由香里ちゃん!ホントにどうしちゃたのぉ!?」 「ゆ、由香里さん、毒が回って、でもでも、薬が無くて、どうしましょう!」 だが、狼狽えながら事情を話すアネーロに、早苗はドンと胸を叩いた。 「まっかせて!早苗、特殊ぎぢゅちゅ・・・あれ?特殊ぎぢ・・ぎちぎち・・・ぎぢュ コホン・・・特殊ぎ、じゅ、つ、で、毒を消す事が出来るの!」 そんな口の回らなかった早苗の特殊技術「乙女の密」とは? それは早苗の身体にある、あらゆる体液(唾液・汗・涙・血液・愛液など)には、そ れぞれ解毒作用があり、それらを「経口」する事によって、毒や劇薬を完全に中和する 効果があるのだ。 それ故に、早苗には毒や薬は効き難く、他人に対しても「副作用」はあるが、それな りの効果がある。 よーするに「早苗のマイナスの体液と、毒などのマイナスが掛け合わされ、プラスに 変わってしまう」のだ。 正に諺通りの「毒を以て毒を征す」なのだが・・・ それでは、他の人にとっての「副作用」はと言うと・・・ 「本当ですか!?それでは、早く由香里さんに!!・・・え?」 「そんじゃ早速(ギュムッ!)んむ?由香里ちゃん、なんで顔を押すの?」 由香里に向かって、いきなり「キス」をかまそうとした早苗に、アネーロの目はテン になり、由香里はその早苗の顔を手で押し退けた。 「あんたこそ(グイッ!)こんな時に何を考えているのよ・・・」 「だってぇ、キスしないと魔法が効かないだもん♪早苗の『体液』がお薬なんだって、 レベル神様が言ってたもん。まさか由香里ちゃん、キスよりも早苗と・・・きゃぁ♪ 由香里ちゃんの、えっちぃ〜♪」 これが「副作用」である。 早苗は由香里に頬を押しつけられながらも、更に顔を近づける。 「んじゃ、死んだ方がいい。死に際は(グイグイ!)安らかでいたいの・・・」 由香里は最期の力を振り絞って、意地になって早苗を押し退けた。 だが、早苗とて真剣である。 「んむ(ギュギュ〜!)むむむ!」 「お願い(グイグイグイ!)黙って死なせて・・・」 それをじっと見ていたアネーロだが・・・ 「由香里さん!(ガシッ!)堪えて下さい!早苗ちゃん!今のうちに!」 由香里の腕を押さえつけたのだ。 「んむっ!」 「んん!」 暴れる由香里に遠慮無くディープキスをする早苗。 そして、その口の中で激しく動き回る早苗の舌に、由香里は「この舌に噛みついて、 生き血を啜ってやろうか!?」と本気で思っていたのであった・・・ さて、由香里が早苗に襲われている頃、砂丘では先程釣り上げたゴーレムと兄貴達の 凄まじい激戦が開始されたところであった。 ゴーレムは左腕で孝司を抱え込み、兄貴達と対峙している。 村田は拳を振り上げると、ゴーレムに向かって吶喊! 「この化け物!小僧を返すッス!おりゃあああ!」 「(ガズン!)・・・」 自信を持って繰り出した村田の拳であったが、その一撃を顔にまともに喰らいながら もゴーレムは身じろぎ一つしない。 それどころか・・・ 「フゥン!」 「お(ブォン!)わぁ?!」 文字通りの鉄拳を振り回してくる。 コレを寸でのところでかわした村田は、大下の所までバックステップ。 「あ、兄貴ぃ。アイツすっっげぇ硬いッスよ?!」 「うぅむ。よし!村田よ、次の一撃をかわしたら、ラッシュだ!」 「了解ッス!・・・来たッス!」 「オォオオオオ!(ブウン!)」 「今だ!」 「ラジャァッス!」 2人は大きく振り回されてきた拳を紙一重で回避すると、僅かな跳躍と共に、猛然と ゴーレムの顔にラッシュを浴びせた! 「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」 「ドラララララララララララララッス!」 (ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!ズギューンズギューーン!バルバルバルバルバル!) 「あ、兄貴ぃ!な、なんかマンガの(バ○ー来○者)か(ジ○ジョの奇○な冒険)みた いな擬音ッスね?!せぇのぉ!」 「村田ぁ!若い者には解らんネタだぞぉ!ウラァアアア!!」 「(ゲシン!)ォォォ・・・」 兄貴達はゴーレムの顔にハイキックをかましてトンボを切るが、その凄まじい蹴りを 喰らっても、ゴーレムは微かに蹌踉(よろ)めいただけだ。 このあまりにも頑丈なモンスターに、兄貴達は思わず攻撃の手を止めると、睨み付け たのだが・・・ 「うむむ・・・ん?」 「どうかしたッスか?」 「いや・・・あの化け物の顔・・・お前に似とらんか?」 「あぁ!?酷いッス!あっしの方がもっと彫りが深いッス!」 「そ、そうか。スマンスマン・・・それにしても、堅いヤツだ」 「フフ・・・兄貴、あっしのはもっと堅いッスよ♪」 「・・・ナニがだ?」 だが、ソレには答えず、村田は額から流れる汗をハンカチで拭った。 「それは夜の秘密ッス・・・それにしても、ホント頑丈な奴ッスね。兄貴、これじゃ埒 が開かないッス。ここはひとまず、茶で一服といきやしょう!ささ、兄貴の分のお茶 もあるッス。えー・・・兄貴は(京女茶)と(へーいお茶)どっちがいいッスか?」 「くつろぐんじゃない・・・む!?村田!来るぞぉ!気をつけろぉ!」 「ごきゅ!?・・・ウィッス!!」 ゴーレムと距離を置き、何処からともなく取り出した缶のお茶を飲んでいる村田に、 ゴーレムが何やら「両腕を突き出してきた」のだ。 すかさず相手の行動を見て、大下は村田に向かって叫ぶ。 「村田ぁ!ワシは見切ったゾォ!これはきっと『ロケットパンチ』だ!」 「さすが兄貴!思わず感動ッス!!」 だが・・・ 「ロケット・・・」 「来るぞ来るぞぉ!!」 「前からでも後ろからでもOKッス!!」 油断も隙も、微塵もなくポージングで構えた村田に向かって、ゴーレムは・・・ 「ダーーーーーッシュ!!(ブワォウッ!)」 いきなり突き出していた両腕を地面に付けると言う「クラウチングスタート」の体制 に切り替えると、凄まじいばかりの勢いで村田の方に駆けて・・・いや、飛んでくる! 「へ?」 「え?」 なーにが「へ?」「え?」なんだか・・・ (キィーーーーーーン・・・バッカーーーーーーーン!) 「フォ、フォ、フォ。ストライクゥーーーーーー!」 対艦ミサイルの様な風切り音を立てながら跳んできたゴーレムに、見事に跳ね飛ばさ れた村田は、大下の所にまで転がっていった。 「お?!(ゴロゴロゴロゴロゴロ!・・・ズベシャ!!)む、村田ぁ!?」 「おふぅううう・・・あ、兄貴ぃ。さっき言ったのと、ナンか違っていないッスか?」 「い、いや、先程のは・・・ウィットに富んだ、パーティージョークだ」 「・・・」 「・・・そ、それより村田!大丈夫か!?」 「ちょ、ちょっと効きやしたが、大丈夫ッス!」 「んじゃ行けい」 「(ドン!)オ、オッス・・・」 大下に背中を押されて、村田は再びゴーレムに突進すると、その顔に気合いを込めた 拳を叩きつけていく。 「ぬおおおおおおおおおおお!ごきゅ☆」 (ガスガスガスガスガスガス!ゴキュ☆) 「お茶は飲むんじゃない!!」 缶を口にくわえ、お茶を飲みながらの村田の連打に、ゴーレムの上半身が一瞬、大き く後ろに仰け反った・・・のだが。 「オォッ?!・・・ナンオォ!フン!!」 「(ガヅン!)んべ?!」 その反動を利用しての見事なヘッドバットが返され、村田は再び大下の所に転がって きた。 「村田!今度も健康か!?」 「ちょ、チョッチ今のは効いたッス・・・特にこの缶が・・・」 「戦闘中に茶ナンゾ飲むからだ・・・それよりも・・・」 頭に大きなコブを作り、そこからピュ〜〜ッ☆と血が吹き出し、更には顔面に缶をめ り込ませている村田を抱えながら、大下は歯がみをする。 「なんて頑丈な奴だ!・・・こうなれば・・・こうなれば!」 「なれば?」 「必殺技を使うしかない!」 「兄貴!トレビアン!グッドあいであッス!・・・でも、出来ればもうちょっと早く気 づいて欲しかった気がするッス」 「うむ、ワシもそう思うのだが・・・あッ?!こら!人が話をしている最中に!?」 大下と村田が話をしている隙に、ゴーレムは・・・ 「ホキュウ・・・(ジュコォーーー)」 「ぉ・・・」 再び触手を繰り出すと孝司の血を吸い始めたのだ! 「おのれぇ!小僧に何をするかぁ!」 血を吸い続けるゴーレムに、大下は一気に間合いを詰めると、その触手めがけて手刀 を振り上げる。 「ォオ?!(ばきっ!)」 その奇襲にはさすがのゴーレムも動けなかった。 一撃で触手が折れ、孝司の身体が宙に舞いあがる。 「よっシャァ!もらったッス!小僧、今取ってやるッス!」 そして、その隙に村田が孝司を奪い取ったのだが、村田が孝司の身体から触手を引き 抜き取った瞬間、勢い良く血が噴き出してきた。 「こんなモノはッス!(ブシッ!)あ、あ、あ!?」 なんとか手で何とか血を止めようとするが、ドクドクと流れ出る血は止まらない。 太い指の合間から吹き出す血を見て、村田は悲痛な叫び声を上げた。 「あ、兄貴ぃ!こ、このままだと、小僧が死んじまうっスぅ!」 「待っていろぉ!こっちは取り込み中じゃい!」 今度は大下がゴーレムとがっぷりと四つに組んでいるのだ。 そして、その鍛え上げられた筋肉は今にも切れんばかりに張りつめ、汗が絶え間なく 流れ落ち、ゴーレムと大下の力比べが始まる。 だが、今の大下にはそんな余裕はない・・・ ・・・小僧が危機に瀕している・・・時間は無い・・・ワシは・・・己の力を信じる! 「ォォォォぉぉぉぉぉぉおおおおおおオ!!オリャァ!」 沸き上がる唸り声と気合いと共に、ゴーレムを上手投げで頭上高くに放り上げた! そして宙を舞うゴーレムに向かって、自らも飛び上がり・・・ 「必殺!勝利の雄姿!(WINNER!と読んでくれ!)」 (ドコドコドコドコドコドコドコ!!!) 昇龍の様に天に向かって高く突き出した必殺の拳を、連打でゴーレムの身体に叩きつ けていき、そのゴーレムの身体を高く、より高く飛ばしていく! 「ヌオオオオオオオ!?」 「ウリィイイイイイイイ!!トドメじゃぁぁあああ!せぇのぉ・・・フンッ!!」 (バッコーーーーーン!) そして、気合いを込めた最後のヘッドバッドが、遂にゴーレムを粉砕した! と、そのゴーレムから・・・ 「な!?なんじゃぁ!?」 大下は目を見張った。 飛び散る石の欠片の中から「裸身の少女」が舞い落ちて来たのだ! (ドサッ!) 全裸の少女が砂の中に落ちるのと大下が着地したのは、ほぼ同時であった。 「・・・な、何故に少女が・・・」 呆然と少女を見つめていた大下だが、村田の泣き叫ぶ声に我に返る。 「兄貴ぃ!こ、小僧が!小僧が震えているっス!!!」 「む!?今いくぞぉ!」 大下は出血による痙攣を始めている孝司に駆け寄ると、急いで傷口に手を当てる。 そして・・・ 「むむむむむ・・・気合いダぁ!(ピカッ☆)元気ですかぁ〜!(ピカッ☆)」 大声と共に、大下の手から光と気合いがほとばしり、孝司の傷口を一瞬にして塞いで しまったのだ。 まさに兄貴ならではの治療である。 村田は傷の塞がった孝司を抱き抱えた。 「・・・兄貴ぃ、小僧が動かないっスよぉ・・・身体が冷たいッスよぉ・・・」 「うーむ、出血多量による貧血だ。普通なら重体だろうが・・・この世界だ。何とかは なるであろう・・・それより村田、これを借りるぞ」 大下は荷物から毛布を取り出すと、少女をくるみ込もうと側に歩み寄ったが・・・ 「・・・なっ?!」 少女の裸身を見るなり、大下は絶句していた・・・ 2 焼死体が無くなり、ようやく気分が良くなって復活した和美と、同じく意識を取り戻 した綾子と、毒の治療が済んだ由香里と、その由香里を「助けた」のにも関わらず、い きなりタコ殴りにされた早苗と、早苗の治療が終わったアネーロは、大きな建物の中を 手分けをして調べている。 パーティーは和美とアネーロ、由香里、それに早苗と綾子に別れていた・・・ 『和美とアネーロのパーティー』 二人は長い回廊を歩きながら、油断無く進んでいく。 その回廊の両側には沢山のドアがあり、和美達は一つづつ開けて調べていたのだが、 今の所、全てが偽物のドアであった。 つまりドアを開けると・・・ (がちゃ・・・バタン) そこは壁であったり・・・ (がちゃ・・・どべん) 落書きが書かれていたりしていたのである。 和美とアネーロは先程からうんざりしていた。 「全く・・・この建物を造った人は何を考えているのかしら?」 「そうですね。無駄なドアばかり・・・」 和美は悪態をつきながら、60個目のドアに手をかける。 (がちゃ・・・ぎぃ) ドアの向こうは・・・今度はただの壁ではない。 真っ黒の闇が広がっているのだ。 「よーやく部屋ね・・・暗いけど・・・行くわよ・・・」 「あ!違います!和美さ・・・(ガツン!)きゃっ!」 「うぅ・・・いだい・・・」 和美は「真っ黒に塗られただけの壁」に、したたか額をぶつけて蹲ったのであった。 『単独の由香里』 「(カッ)・・・む・・・」 沢山の彫刻の置物がある回廊を一人で歩いていた由香里は、微かな物音に気づき、腰 から軍刀を抜いて身構えた。 周りは彫刻ばかりであるのだが・・・どれが動き出しても、おかしくは無い。 なにしろ、死体が動く世界であるのだから・・・ 油断無く、周囲の彫刻を睨みつける由香里。 ・・・あそこの、剣を持った彫刻が一番うさんくさいわね。他のと違って、唯一武器を 持っているし・・・でも、あの鬼みたいな顔をしているのも怪しい・・・それと も、こっちの虎みたいなのかしら? だがその由香里の予想に反し、台座から飛び降りてきたのは・・・ 「(ガシンッ!)やぁ、お嬢さん。ボクとお茶でもいかが?」 両手に持った鉄アレイを「クイッ!クイッ!」と器用に動かしながらポーズを決めて ニコリと・・・しかも、ご丁寧にキラリと歯を光らせて微笑む男に、由香里は頭を押さ えて思わず呻いた。 「ぅ・・・」 「んん?どうしたんだい可愛い小猫ちゃぁ〜ん♪もしかして、お茶は嫌い?それなら、 ボクと一緒に(クイッ!)かる〜く汗を流してから(クイッ!)お食事でもどぉ?」 頭痛が悪化してきた由香里。 この「精神攻撃」に耐えられなくなってきた由香里は、反撃に出た。 「・・・あんた、凄い筋肉ね」 「んん〜っ♪お嬢ちゃんは審美眼に恵まれているねぇ〜(ギュムッ!)」 そう言って誇らしげに筋肉を盛り上がらせる男に、由香里はボソリと言った。 「・・・でも、カットがイマイチね」 『早苗と綾子のパーティー』 「早苗ちゃん、そんなに急いでは危ないですわよ」 「綾子ちゃんが遅いんだよぉ〜」 2人が歩いているのは、画廊の様に壁に絵画がズラリと飾ってある回廊・・・ 綾子はその絵画を一枚一枚眺めながら歩いていたのだ。 これでは絵には全く興味の無い早苗がイラつくのも無理はない。 「あら?」 綾子はまた、一枚の絵で足を止めてしまった。 「まぁ、なんて素敵な絵。抽象画でしょうか・・・」 「綾子ちゃん、これ、落書きっていうんだよ・・・」 また絵に食い入る綾子に、自分も絵を眺めた早苗だが、その絵を見て・・・なんとも 言えぬ表情と共に、肩を竦めて呟いた。 「・・・いやな絵」 それは、その絵にとって「最高の賛美の言葉」だろう。 2人が見たのは、絵の中に顔のアップが描かれている物だ。 しかし、その顔は見ていて・・・正直な所、余り気分のいいものではない。 毒々しいまでにピンク色をしたその肌・・・ 何のも風情も感じられないヘアスタイル・・・ 見る者をあざ笑うかの様に不敵に歪んだ口・・・ あらゆる人に虚無を感じさせる左右に別れた目・・・ そして、その顔の全てを表すかの様に額に描かれた「いや」の二文字・・・ 早苗は思わず夢に出そうなその顔から、隣の絵に目を移したが、そこも同じく顔だけ が描かれている。 「また・・・お顔だ・・・」 しかし、今度の絵は少し違っていた。 大きな・・・早苗の背丈ほどもありそうな額縁なのに、描かれているのは自分と同じ くらいの大きさの顔だけ・・・ しかもその顔は、能面かデスマスクの様に「のっぺり」として表情が無く、目には瞳 すら入っていない・・・ 早苗が絵の下にあった、題名を見ると・・・ 「なになに?・・・題名『ガーディアン』?」 一体、この絵のドコが「ガーディアン」なのであろう? そう思いながら早苗は再び絵を見つめ、首を傾げたのだが・・・ 「ん〜?・・・変な顔」 「・・・悪かったな!(バリッ!)おりゃ!」 「しゃ、喋った?!(ガンッ!)あぶっ!?」 早苗が素直な感想を漏らした次の瞬間、絵の中からナニか引き剥がされるような音と 共に、ナンと絵に描かれていたハズの「顔」が飛び出し、早苗に向かって頭突き(?) を喰らわしてきたのだ! 思わぬ先制攻撃に、早苗は回廊の端までフッ飛ばされる。 「っ・・・いったーい・・・綾子ちゃん!敵だよ!」 「えっ!何処ですか!?」 驚きながら魔法の杖を構え、腰から焔の懐剣を抜く綾子。 そして、早苗は起きあがると、モーニングスターを振り上げ、まだ目の前に浮かんで いるモンスターに向かって・・・ 「この石頭!・・コレでも食らえ!えいっ!(すかっ!)へ?」 だが、早苗の振り降ろしたモーニングスターは空を切る。 突然、モンスターが目の前から顔がいなくなったのだ。 「あれ?ドコに?」 そんな、きょろきょろと周りを見回す早苗に、綾子が・・・ 「あ?!早苗ちゃん!早苗ちゃんの目の前にいますわよ!」 綾子がそう叫ぶと、目の前に再び顔のモンスターが出現した。 「でたな!えいっ!(すかっ!)・・・ほえ?」 またしても空を切るモーニングスター・・・早苗の頭の中はパニックになっていた。 「んもう!どこいったのぉ!?」 「早苗ちゃん、目の前に・・・あら?」 綾子の目にも、突然モンスターが現れたり消えたりしているが、よくよく目を凝らし て見ると・・・目の前には「線」が一本あるのだ。 「もしかして・・・」 綾子は一歩踏み出すと、ちょっと角度を変えてみる・・・ 「・・・」 すると、どうであろう・・・斜め45度に「顔」があるではないか?! 「なるほど・・・薄っぺらのモンスターでしたか・・・」 綾子の言うとおり、顔のモンスターは超薄型であったのだ。 これでは真横を向かれると、まるで消えたように見えるのも無理はない。 しかし、バレてしまうと簡単である・・・綾子はつかつかと歩み寄ると、現れていた モンスターの正面に立つ。 そして、懐剣を振り上げるふりをすると・・・ (ぱっ!) やはりモンスターはいなくなる。 だが綾子が目の前の「線」を、横切るようにして懐剣を滑らせると・・・ 「えい!」 「(ビリーーーーー!)うぎゃああ!!」 紙を切り裂く音と共に、モンスターはあっけなく倒されたのであった。 「綾子ちゃんすごーい!どうして解ったの!?」 「くすっ、勘ですよ・・・あら?」 はしゃいでいる早苗に、微笑む綾子だが、ふと見れば、そのモンスターが抜けでた後 の絵に、ぽっかりと大きな「穴」が開いている事に気が付いた。 試しに額縁を外してみると、人が一人、通れない事もない通路が現れた。 「早苗ちゃん、ここ、怪しくありません?」 「うーん、入ってみよっか?」 「そうですね。他に道もなさそうですし・・・」 綾子と早苗は中心部に向かったのであった・・・ その頃、由香里は・・・ 「このこのこの!」 「うわーん!!ばかばかばかばか!」 彫刻の回廊では、不毛な闘いが繰り広げられていた。 由香里が先程から振りかざしている長船と春雨だが、彫刻のモンスターが持っている 『超合金製フルメタル加工式対人用テクニカルグラディエーション型タダの鉄アレイ』 なるモノに弾かれており、苦戦をしているのだ。 それに、男の方は自信があった己の肉体美をけなされた事で、泣きながら鉄アレイで 由香里を殴りつけているだけなので、敵の攻撃は全く由香里には当たらない。 勝負は果てしなかった・・・ 「やれやれ・・・」 由香里はこの戦闘に、いい加減、嫌気がさしてきていた。 なにせ頑丈な大理石の身体の上に、持っている武器も頑丈ときている。 おまけに相手の攻撃が、鉄アレイでの「ダダッコパンチ」では、やる気も無くなると 言うモノだ。 ・・・あーあ、なんか腕がだるくなってきちゃった。 「えいっ・・・」 だが、そんな由香里のけだるい腕で振るった剣が、思わぬアクシデントを生んだ! (ぷちっ!) 剣の切っ先が、男のパンツの紐を切ってしまったのだ・・・ はらりと落ちたパンツに、二人はしばしの硬直。 「・・・」 「・・・」 彫刻なのだから、由香里とて「見た」のは初めてではない。 だが・・・ 「・・・あら、かわいい♪」 「ぅ(ぷちっ)」 由香里の薄笑いを浮かべながら肩を竦めた行動は、パンツの紐だけではなく、男の精 神の紐までも切ってしまったのだ。 「わああああああん!お前なんか嫌いだぁ!」 「・・・それは有り難いわ」 「・・・うわぁぁぁん!」 由香里に完全にいぢめられた男は、頭を抱えて逃げだそうとしたのだが・・・ 「(グン!)わ!?」 ずり落ちたパンツが男の足に絡まったのだ!そして、叫ぶ暇もなく転倒して・・・ (バガーーーン!) 基が石だけに、大きな衝撃には弱い。 「なんだかなぁ・・・」 由香里は勝手に転んで砕け散ってしまった彫刻像に、刀を腰に戻すとポリポリと頭を 掻いて溜息をついた。 「やれやれ、無駄な時を過ごして・・・お?」 みれば男のいた台座が、いつのまにか大きく動き、その裏に大きな穴が開いている。 「・・・ん」 由香里は細かくは考えずに潜り込んでいった・・・ 再び和美とアネーロ 和美とアネーロは、ずらりと並んだドアを・・・ 「ここは(がちゃ)違うか・・・(ばたん)」 開けては閉じ・・・ 「ココも・・・(がちゃ・・・ばたん)違うなぁ・・・」 開けては閉じていたが、後半においては・・・ 「(がちゃ、ドバン!!)次ぃ!」 開けては蹴飛ばしていた。 そして、ついに眼の前に立ちふさがる、壁一杯の「大きなドア」が最後となった。 通算243枚目である・・・ 「・・・ねぇ、アネーロさん」 「はい・・・」 和美とアネーロは先ほどから首が痛くなるほど、この大きなドアを見上げていた。 「このドアさぁ・・・どうやって・・・」 「開けるのでしょうね・・・」 ノブは遥か上にある・・・それに和美とアネーロで肩車をしたところで届きそうにも ない・・・ もし、届いたとしても、どうやってあんな大きなノブを回せばいいのだろうか? 和美は、じっと上を睨みつけたまま再び唸りこむ・・・ 「うーむ・・・」 「あの和美さん・・・」 「ん?アネーロさん、何かいい知恵浮かんだ?」 「いえ・・・あれ・・・」 アネーロは目の前を指さしている。 「・・・まさかね」 和美は自分の考えが当たらない事を何故か祈ったが・・・ 「(かちゃ)・・・責任者出てこい・・・」 和美とアネーロは、ドアの下に取り付けられていた、まるで猫専用ドアのような小さ なドアを開けて中に入っていった・・・ 壁一面に篝火が焚かれた大きなホール・・・ ここで聞こえるのは、篝火の中で弾ける木々の音と・・・ 時折、乾燥によって凝縮する壁石の立てる、微かな裂音・・・ そんな静粛を保っていたホールであったが、不意に幾つかの扉が「一斉に」開かれ、 それと同時に驚きの声があがった。 「(カチャ)あれ?」 「あら?」 「(ギィイ)おろ?」 「(カチッ)まぁ?」 「あ、和美ちゃん!?」 その見つけた「入り口」から・・・ ある者は真っ暗な通路を、手探りで・・・ ある者は狭い通気口のような穴を這って・・・ ある者はロウソクが灯された通路を歩いて・・・ そして、それぞれがようやく辿り着いた先が、部屋の中央に大きな篝火が置かれた、 このホールであったのだ。 「わぁい、和美ちゃんも今着いたンだぁ♪」 「くっつくなっての!」 「アネーロさん、御無事で何よりですわ」 「綾子さんも、お怪我はありませんでしたか?」 「・・・ふん」 だが、そんな無事な再会を喜び合う皆に対し、由香里だけは面白くなさそうに鼻を鳴 らしていた。 どうにも気にくわないのだ・・・ と言っても、別にこのホールに「一番乗り」をしなかったからと言うわけではない。 少々、腑に落ちないのだ。 和美達やアネーロの方は知らないが、自分は戦闘があって、ある程度のタイムラグが 生じていた筈・・・ それにも関わらず、皆は「同時」にこの部屋に辿り着いたのだ。 偶然にしては出来すぎている・・・ 「・・・気に入らないわね」 その由香里の呟きに、アネーロは首を傾げた。 「え?ナニがです、由香里さん?」 「いえね・・・アネーロさんは、ナンか、こぉ、ココまで来る間に『魔法』みたいなの を感じたりはしませんでしたか?」 「それが・・・ここは魔導寺院だけあって、建物自体から強力な魔力が発せられている ため、ちょっと限定しては感じる事が出来ません。ごめんなさい・・・」 最近、ちっとも役に立たない事を気にしていたアネーロは、由香里にペコリと頭を下 げて小さくなる。 「まぁ、仕方ないです・・・」 そんなアネーロに、由香里は肩をすくめると、ナニか変わったコトはないかと、ぐる りと室内を見回す・・・ 「むぅ・・・」 だが、ホールは皆が入ってきた入り口の他は、特に出入り口は見あたらない。 見たまんま、中央に大きな篝火が置かれた、だだっ広いだけのホールだ・・・ 「ナンにも無しか〜・・・」 「そうみたいね・・・帰ろっか?」 「んじゃ、早苗達の通ってきたトコから出ようよ♪」 「そうですわね。どうやら一番広いみたいですから・・・」 そんなナニも収穫を得られぬまま、綾子と早苗の来たドアに向かう和美達。 しかし、そんな中、アネーロだけはナニか「違和感」を覚えていた。 「・・・」 ナニかが気になるのだ。 それに、最近あまり役に立っていないことから、ナンとかココで名誉を挽回したい。 「・・・」 アネーロはもう一度、室内をくまなく見回す。 何か変わったモノは無いか? 壁や床に、不自然な箇所は無いか? 天井に特徴となるようなモノは無いか? 一生懸命に探すアネーロであったが・・・ 「・・・う〜・・・何もない・・・あぅ。私、いらない子なのかなぁ・・・」 結局、何も見つけられなかった。 可哀想なくらいにしょげると、とぼとぼと和美達の後をついていく・・・ 「ん?アネーロさん、どうかしました?」 「え?あ・・・いえ・・・ナンにもありません・・・ぐすっ」 和美に振り返られ、思わず涙ぐんでいた顔を伏せるアネーロ。 だが・・・ 「・・・?」 その和美の「足下」に目が止まった。 中央に置かれた篝火に照らされ、皆の影が絨毯に伸びている・・・ 皆は「出口に向かっている」ため、部屋の中央に置かれた篝火を背にしているので、 影は当然「向こう側」にある・・・ なのに・・・ 「・・・か、和美さんの影・・・」 「え?」 「影がどうか・・・なに?!」 「ナンで和美ちゃんの影だけ?!」 「どうして『反対に伸びている』のですか?!」 「まさか(ズクッ!)くっ?!」 次の瞬間、アネーロは、その額のクリスタルに激痛が走る! 魔力の高い何者かが近づいている・・・ それも、かなり邪悪に満ちた・・・ 「っ!?皆さん!何かが来ます!和美さんの影から離れて!」 アネーロは叫ぶと同時に、和美の影から飛び退き、腰のレイピアを抜く。 「影に潜んでいるの!?」 由香里もすかさず軍刀を抜いて臨戦体制をとりながら、和美の影を睨みつけた。 「和美さん!気を付けて!」 「和美ちゃん!頑張って!」 遅れながら、早苗と綾子も和美の影に向かって武器を構える。 「くっ?!私の影なんて・・・ん?」 相手が影だけに、逃げようのない和美も、一応は自分の影に向かってグレイブを突き つけたのだが・・・ 「・・・あれ?」 影は自分の意思に反して動くこともなければ、出てくる気配もない。 和美の動きをそのまま真似するだけだ。 そんな影の動きに、由香里の額に汗が浮かんだ・・・ 「アネーロさん・・・敵はもっと厄介かも?」 「・・・かも知れません・・・」 「敵の居場所・・・特定できます?」 「判りません・・・でも、近くにいるはずです・・・」 「近くに・・・上か!?」 由香里は刀の刃を返して、頭上を見上げたが、和美の影を作っている「篝火」以外は 何もない。 「あれ?・・・違ったか?!」 「んじゃ!やっぱ影だ!」 予想が外れた由香里に、早苗が床にめがけて、おもいっきりモーニングスターを振り 降ろすが・・・ 「えい!(ぐわちゃこーーん☆)あ・あ・あ・・・て、手が・・・ちびれたぁ〜」 「早苗!?大丈(グイッ!)な?!」 そんな振動で痺れいている早苗に、思わず近寄ろうとした和美だが、その足は、床に 貼り付いたように動かないではないか!? 「由香里!足が・・・動かない!」 「え?!まさか『影縫い』なわけ?!でも、ココには『篝火』の他にはナニも・・・し まった!?みんな!敵は影じゃなくて『炎』そのものよ!」 「そんな(ボフッ!)きゃああ?!」 その由香里の叫び声と同時に、ホールの中央に置かれていた篝火から火柱があがり、 和美の周りに降り注いだ! 「あちゃちゃちゃ!」 「和美さん!?」 「和美ちゃん!」 「早苗ちゃん、下がって!」 その熱波に後ずさる皆の前で、火柱は蛇の如く大きく畝(うね)りながら和美に襲い かかると、身体に巻き付き、締め上げていく。 「み、みんな・・・逃げて(ギリッ!)かふっ!?」 そして、和美の身体を締め上げながら、炎は次第に形を作り・・・ 「ホーーーッホッホ♪異世界の戦士達よ・・・待ちかねたぞ」 遂には巨大な「炎の蛇女」となって、由香里達を見下ろしていた・・・ さて、その頃、兄貴達一行は・・・ 「・・・」 「・・・」 「・・・」 誰も口をきかず、黙々と砂丘を歩き続けている。 と、そんな「無言の緊張」に遂に堪えきれなくなった娘が、小声でナニかを話そうと したのだが・・・ 「・・・あの」 「ひぃ!?(どびくうっ!)」 村田は娘から飛び退き、油断無くファイティング兄貴ポーズをとったのだ! 「ど、どうした!?小娘!?な、なんだスか?!勝負の時間スか!?(ムキャ!)」 そう言いながらも、ジリジリと後ずさる村田。 「あ、あの、私・・・」 「く、来るなら肉体で勝負っス!なるべくなら!!(ムキャキャ!)」 どうやら・・・村田はゴーレムの中から出てきたこの娘に、異常なまでの警戒心を抱 いている様だ。 別にこの娘はモンスターでなく、ただ媒体にされていただけなのに・・・ 「来るッスか!?えぇ!?脱皮したモンスター!!(ムキャキャキャ!!)」 ただ単に「昨夜の和美達の話」をロクに聞いていなかったらしい。 この娘を完全にモンスターと思っている。 「まぁ、待て村田よ・・・コホン。なにかな?娘さん」 大下はそんな興奮する村田を落ちつかせると、まだ意識を取り戻していない孝司を砂 地に降ろして、娘に優しく微笑む。 大下は、昨夜の和美達の話しから、この娘が「ゴーレムの触媒」にされていたコトに 気が付いていたのだ。 もちろん、自分が倒したのが「土の邪妖精」だった事も・・・ 「疲れたのかな?それなら少し休むが・・・」 「いえ・・・実は・・・その・・・言いにくいのですが」 「わ、わかったッス!兄貴を誘惑する気ッスね!?!?兄貴をどぉーーーうしても奪い たいのなら、ワシと勝負っス!ただし肉体で!ぬりゃあぁあ!(ムキャムキャ!)」 「きゃああああ?!筋肉が脈打ってるぅ!」 「ほれほれ☆もっと苦しむっス!(ムキャキャ!)」 「イヤぁーーーーー!」 「はぁーはっはっはっは♪(スパム!)はがっ!?」 「待てと言っとるだろうが!?」 「いやぁ〜。やっぱ兄貴の拳は最高ッス♪ホント、身体の奥までズシリと響くッスよ。 いや、マジでっス☆小娘、羨ましいッスか?」 頭に大きなコブを造りながら、涙を流して感動している村田に、娘はプルプルと首を 振っていた・・・ とまぁこの通り、村田は確かに「強い」かも知れないが、「弱い者」には更に強い。 大下は先程の様に村田が敵を侮るのを恐れて、ゴーレムが土の邪妖精であった事を話 していなかったのだ。 もし教えていたら、この先に今まで以上の強いモンスターが現れた場合、村田は敵を 軽視し、いらぬケガをする恐れがある。 「ったく・・・娘さん、構わんから言ってごらん」 「あ、はい。あの、これから街に行くのですよね?」 「あぁ。そうだが・・・」 そう大きく頷く大下に、娘は今まで進んできた逆の方向を指さした。 「でも、街は全然、反対の方なのですが・・・」 「・・・」 「う、嘘だぁああああああ!そう言って、時間をかけて兄貴を誘惑する気ッスねぇ!? ワシと兄貴を引き離し、ワシを殺し、煮て、焼いて!喰って!そしてぇぇぇぇぇ!! それを木の葉で♪チョイトか〜く(ガズン!)おふぅ・・・」 「しません!!」 意外とナイスな拳を見せる娘に、大下の目はテンになる。 その大下に、目にアザをつけた村田がすがりついた。 「兄貴ぃぃ!小娘がいぢめるッスぅぅ!」 「どデカイ男がいぢめられるな!」 お前ら、さっさと街に行け! 場面は再び戦闘状態の由香里達。 突如として現れ、和美を捕らえた「炎の蛇女」から伝わる炎は熱く、かなり距離を置 いている筈の由香里にも、その熱気が伝わってきている・・・ 「なんて熱気なの?かなりの高温なハズだわ・・・にしては、和美が無事よね?」 確かに、その炎の身体に巻き付かれているのにも関わらず、和美の身体はヤケド一つ 負っていない・・・ モンスターが「火力を調整」しているのか? いや・・・敵は「自分達が異世界の戦士」と知っている。 ならば、さっさと殺すであろう・・・ 目的がある・・・ナニか和美を生かしておく理由があるハズだ。 そんなコトを考えながらモンスターを睨み付けていた由香里であったが、ふと、思い つくことが・・・ 「判らないわね・・・ん?もし、この『熱気』が『モンスターの魔力』がだとしたら、 コレだけの魔力を自由に調整できるなんて、かなり強力なモンスター・・・」 そう呟いてから、由香里の頭の中で「最悪の回答」を弾き出した。 「・・・まさか?!」 「ん?(じりじり)・・・あちぃ!(ゴン!)」 「え?!」 と、その時、早苗が思わず、金属で出来ていた為に熱くなったモーニングスターを手 放してしまった。 その重いモーニングスターが床に落ちた音に、誰もが気を取られた次の瞬間、炎の蛇 女が、一番近くにいた由香里に襲いかかったのだ! 「ハッ!(ブぅン!)」 「っ!しまった!?(ダッパーーン!)くっ!?」 炎を纏った巨大な尻尾が由香里の鎧の胸に当たり、その身体ごと吹き飛ばす! 由香里は吹き飛ばされる直前に、自ら宙を舞って勢いを殺していたのだが、身につけ ていたレザーのジャケットと防具は耐える事が出来なかった。 「ぐぐぐ(ズシャッ!ゴッ!)っ!」 合皮のジャケットが焼け焦げ、変形した防具が部屋の端にまで飛んでいく。 一方、床に叩き付けられた由香里の方はと言うと、ナンとか受け身は取ったモノの、 背中と肋骨の激痛に思わずガクリと膝をつき、胸を押さえて呻いた。 「くっ・・・ゴホッ・・・凄いパワー・・・さすがだわ」 「ゆ、由香里さん!大丈夫ですか!?」 そんな悲鳴をあげて駆けつけた綾子に、由香里はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。 「フフ・・・こりゃ、なかなか手ごたえのある相手だわ♪」 そして、由香里は起き上がると、炎の蛇女に軍刀を突きつけ・・・ 「・・・あんた『邪妖精』ね・・・」 「え?!あれが・・・」 「邪妖精・・・」 「なの?」 直感で相手が邪妖精と感じとった由香里は、炎の蛇女を睨みつけながら妖刀春雨を腰 に戻し、軍刀を両手で構え直した。 その瞳に、炎の蛇女にも劣らないほどの闘志を燃えたぎらせて・・・ 「む?(ズルリ)・・・小賢しい」 そんな由香里の気迫に炎の蛇女の方も、締め落とし、意識を失った和美から巻き付か せていた身体を放すと、由香里の前に這い出して、負けずに睨み返す。 「如何にも、妾(わらわ)の名は『炎の邪妖精ジィナ』じゃ・・・御主らが、異世界の 戦士じゃそうよのぉ?我らが母上様に刃向かうとはナンと愚かな・・・ふん♪取るに 足らない存在は、黙って妾達の養分になるがえぇ♪ほれ、今からでも遅ぉはない。妾 に黙って着いてくれば、無駄に痛い思いをせずにすむぞ?」 どうやら和美を生かしておいたのは、先に武器屋のボルティー親父の話にもあった、 邪妖精の媒体・・・つまりは核(コア)として、利用するためであったらしい。 だが、それよりもナニよりも・・・ 「・・・むむぅ!」 この余裕の笑みと侮辱の言葉を言われて・・・由香里が黙っている訳がない。 それに、どーにも「言葉づかい」が、ムカつくのだ。 由香里はすぐさま中指を立てて怒鳴り返した。 「うっさい!あんたこそ黙って私の経験値の素になるのね!どーせ、たいしたポイント にならないでしょうけどね!?」 由香里の言葉に、今度は炎の邪妖精の頬が引攣っている。 「くっ・・・言わせておけばヌケヌケと・・・この『胸無し娘』が!」 「(グサッ!)う!?」 今の一言は、かなり由香里の「心」に突き刺さったようだ。 「ぬぬぬ・・・言葉の暴力で精神的有利に立とうとは卑怯な・・・この『年増』が!」 「ぉ!(ぐさっ!)い、いちばん気にしている事を・・・妾の事を年増と呼ぶな!」 「むむむ・・・」 「・・・くくぅ」 互いに痛すぎるところを突かれ、沈黙し、暫し睨み合う由香里と邪妖精。 「・・・っ」 「・・・ぅ」 そして、その一触即発の状況を、固唾を飲んで見守るアネーロに綾子・・・ 「・・・」 邪妖精に締め落とされ、ホールの片隅で横たわる意識のない和美。 と、ホールは静寂に包まれていたのだが・・・ 「・・・オバサン」 早苗の余計な一言で、壮絶な戦いの火蓋は切って落とされた・・・ さて、よーやく街についた兄貴達。 早速、酒場に入り浸って肉に喰らいついていた。 今回は散々モンスターを倒してきているので略奪などをする必要もなく、金の心配の ない兄貴達の周りには、空になった皿が次々と積み重ねられていった。 孝司は病院に預けられたのだが、娘の方はと言うと・・・ 「・・・(ちゅー)」 出された料理にもあまり手をつけず、ジュースを飲みながら2人の食事を見て、溜息 をついている。 「あぐあぐあぐ!・・・ん?どうした?喰わんのか?」 大下の方が食事の手を止め、食欲の無い娘を見ると、娘は高々と積み上げられた皿に チラリと目をやった。 「あ・・・いえ、お二人を見ていたら、食欲がぁ・・・」 「そうか・・・ん?そう言えば、まだ名前を聞いとらなかったな・・・」 「私の名前は、マリンですぅ」 「マリン・・・綺麗な名前だ・・・ワシの名は大下 羅刹(らせつ)だ」 「おおした・・・らせつ・・・羅刹様と、お呼びしてもいいですかぁ?」 「あぁ、別にかまわん・・・で、こっちのが、ワシの舎弟で村田 幽邃(ゆうすい)と 言ってだなぁ・・・って、おい村田!聞いておるのか?!」 「うぉおおおッス!(ばりばりばり!)ぬりゃあああッス!(ボリンボリン!!)」 「あ〜・・・村田よ。骨を残せとは言わんが・・・せめて皿だけは残せ」 骨と皿を噛み砕いている村田には、大下の声が聞こえないようである。 大下は溜息を一つつくと、手にした肉を皿の上に置いた。 「さて・・・ま・・・マリンくん」 「・・・マリンで結構ですぅ☆」 何故か・・・顔を赤らめながら「恥ずかしげ」に俯くマリン・・・ どうやら「蓼(たで)喰う虫も好々」と言うヤツらしい。 大下の方も、柄にもなく顔を赤く染めていたのだが、コホンと一つ咳払いをすると、 話しをきりだした。 「あぁー・・・マリンよ」 「・・・はい」 「どこの村に送ればイイのかな?ん?それとも町かな?」 「あ、あの・・・私・・・帰りたく・・・ありません」 小声だが、ハッキリとしたその返事に大下は戸惑う。 「何故だ?」 「ぅ・・・お話ししなくては・・・いけませんか・・・」 「いや、無理にとは言わんが、ご両親が心配を・・・」 「親は・・・いません・・・」 「ぅ・・・す、すまん・・・え〜と、住んでいる周りの人が・・・」 「・・・羅刹様、私の身体を・・・御覧になられましたよね・・・」 マリンの声が震えている・・・ 大下はマリンの瞳に涙が浮かんでいるのを認めると、首を横に振るしか無かった。 「いや、話さなくても構わん・・・人は誰でも話したくない事があるものだ・・・しか し、帰らないとなれば、これからどうする?」 「御一緒しては・・・いけませんか?」 マリンに握りしめられた手の温もりに、大下は断る事ができなかった・・・ 3 「たぁ!」 「(ズッ!)フン」 由香里の振るった刀の切っ先が、浅く妖精の脇腹を抉る! だが、その一撃も・・・ 「氷の矢!!」 「(じゅ!)ナンじゃ?」 早苗が珍しく使った魔法も・・・ 「迫水撃!!」 「(じゅわわ!)おぉーおぉー・・・」 アネーロの上級魔法も・・・ 「氷雪吹雪!!」 「(ヒュゴォオオオ!!)心地よいのぉ♪」 綾子の放った白魔法も・・・ 「ホォーーーーッホッホッホッホ!くすぐったいのぉ☆」 「ぅー・・・これじゃ、きりがないぃ・・・」 由香里は、全く相手にダメージを与えられない事に歯噛みする。 邪妖精の身体は炎で出来ているのだから、自分の剣での直接攻撃が効果的では無い事 は解っているのだが、アネーロ達の魔法までもが、こうも効かないとは・・・ 「くっ・・・」 由香里は魔力を持つ腰の妖刀春雨も抜いて応戦をしようかと考えたが・・・ ・・・短い小太刀じゃ、反撃を受けやすいな・・・ そう思い、軍刀を握り直すと大きな溜息をついた。 全員・・・気力をかなり消耗しているはずだ。 それに比べて、相手の方は疲れ知らずのMP知らず・・・ 自分の身体を好きなだけ千切っては由香里達にめがけて投げつけてきているのだ。 「う〜む。MPが減らないのは解るけど、アレって体力が無くならないのかな?」 「なんか無尽蔵に体力ありそうだよぉ〜。だって、あの邪妖精の顔・・・」 「顔がどしたの?」 「・・・古文の松坂センセに似てない?」 「う・・・確かに言われてみれば・・・どーりでしつこいわけだ」 「今はそれどころでは・・・」 そんな、大分攻撃の数が少なくなってきた由香里達に、邪妖精は高らかに笑う。 「ホーーーッホッホッ!んン〜、どうした小娘達?先ほどから妾の身体をくすぐるばか りではないか?・・・いい加減、妾の養分とならんかぇ?」 「ホント・・・この声・・・あったま痛いナァ〜・・・」 その・・・ナンと言うか、こう・・・擬音で現すと「ぬたり」とした邪妖精の笑い声 に、いい加減イライラしていた由香里は吐き捨てる様に叫び返した。 「あたしを小娘ぇ?なーんだ。自分で年増を認めてるんジャン。この万年ヒステリーの 垂れ乳の、厚化粧の、若作りの、妖怪オバはん!」 「由香里ちゃん、私情が入ってンねぇ〜」 「由香里さん、この間の古文の授業中に居眠りをされて、怒られたから・・・」 「ふーん。早苗はさぼってたから、わかんない」 「へっへ〜ん!ソンだけヒステリーを起こしてたら、血圧が上がるわよぉ!」 「ゆ、由香里さん!あんまり相手を挑発しては・・・」 慌ててアネーロが由香里の肩を押さえるが・・・少々遅かった。 見る見る間に邪妖精の形相が変わり始めたのだ! 「言わせておけば・・・ゆるさんええええ!」 (ボヒュ!ボヒュ!ボヒュ!) 文字通り、怒りに燃えた邪妖精の身体から、次々と火炎弾が打ち出される! 「うわああああ!!由香里ちゃんのせいだぁあああ!!」 「ええええいい!うるさい!泣く暇があったら攻撃をしなさいぃぃぃっ!」 由香里はそう叫ぶと、何を思ったのか、泣きながら逃げ回る早苗の襟首を掴み、炎の 邪妖精に向かって突進をしていくのだ! 無理矢理、しかも襟首を掴まれたまま連れて行かれる早苗は、更に号泣する。 「い、いやだあああ!」 「ええい!だったらここにしゃがめぇええ!!」 由香里はそう叫ぶなり、早苗を床に押しつけた。 「うええええええええええん!(ぐいっ!ドカッ!)ミギャ!?」 「いつまでも泣くなあぁああ!てやあああああ!」 そして・・・由香里はしゃがみ込んで号泣する早苗を踏み台にし、高々と飛び上がる と軍刀を振りかざしたのだ! 「なに!?」 この攻撃には邪妖精も不意をつかれたらしい。 気がついた時には由香里は顔の前にまで飛んでいる! 「もらったああ!」 「(ザシュッ!!)うぎゃああああああああ!」 由香里の必殺の一撃が、見事に邪妖精の顔の半分を切り裂く! 「やったか!?」 床に着地した由香里は、再び早苗の襟首を掴んで綾子達の所まで飛び退くと、もがき 苦しんでいる邪妖精を睨み付けた。 両手で顔を押さえ、周囲の炎を撒き散らせながらもがいている邪妖精。 だが・・・ 「う・・・うぬれぇえぇぇ・・・妾の顔に・・・よくも傷を・・・」 「・・・どうやら顔が弱点みたいね・・・アネーロさん!」 「は、はい!」 由香里は邪妖精の顔を指差す。 「妖精の顔面に、うんと上級の魔法を叩き込んでくれません?それも、氷系のやつ!」 「はい!・・・で、でも、少し時間がかかります!それと、綾子さんと早苗ちゃんの魔 力の協力も・・・」 「・・・仕方がないわね・・・あたしが囮になって時間を稼ぎますから、何とかやって みて下さい!」 「由香里さん!お気をつけて!」 「はいな♪化け物オバハン!あたしが相手よ!」 綾子の叫びを背中に受け、由香里が邪妖精の正面に躍り出ると、遂に妖刀春雨も腰か ら抜き放って構える。 邪妖精は目の前に現れた由香里を、残った眼で睨み付けた。 そして、遂に邪妖精の神経が・・・切れた! 「ぬ・・・死ねええ!!」 狂気に満ちた叫び声を上げると、邪妖精はロクに狙いもつけずに火炎弾を発射する! 「死ね死ね死ね死ねえええ!」 (ゴウッ!) 邪妖精の身体中から打ち出された炎の塊は、一斉に由香里に襲いかかってきた。 「へーんだ、同じ手を喰いますかっての♪よっ!ほっ!はっ!」 軽口を叩きながら炎の弾を避け、再び邪妖精に突進をすると、由香里は高らかに飛び 上がり、軍刀を振り上げ・・・ 「これでどぉーーーーだ!!(ザボッ!)討ち取ったあ!」 裂帛の気合いと共に軍刀が一閃し、邪妖精の首が跳ね上がったのだ! 「よっしゃああ!・・・なに!?」 しかし、着地をした由香里は、身体の方は動きを止めているものの、邪妖精の首が宙 を飛び回っているのに眼を見張った。 「首だけで!?」 「うぬれ!今度は貴様の身体を触媒にしてくれる!!」 そう叫ぶな否や、邪妖精の首は由香里にめがけて突っ込んでくる! だが着地によって体勢が崩れていた由香里にはこれがかわせない!! 「由香里さん!危ない!!」 後方で魔法による支援をしていたアネーロが叫ぶが・・・ 「ぉ!!(グジュ!)」 邪妖精の首は由香里の左腕に食らいついたのだ! 「きゃああああああああああああああっ!」 「由香里さん!?」 由香里は自分の悲鳴と・・・ 綾子の悲鳴を聞いた様な気がした・・・ それらを遠くに聞きながら、由香里は膝をついた・・・ 「アイストルネード!」 早苗と綾子の魔力を注入され、ようやく出来上がった絶対零度の竜巻は、全てを触れ ただけで凍りつかせる上級の氷系の呪文。 その竜巻はアネーロの手を凄まじい勢いで離れると、倒れた由香里の左腕に食いつい た炎の邪妖精を直撃した! 「なに?!(バシュウウ!)くああああ?!(ピキピキ!)わ、妾の身体が?!」 邪妖精の首は驚愕に眼を見開いたまま・・・ 「っ!・・・」 由香里の左腕に食いついたまま・・・ 「こ、凍ぉ(ピキン☆)・・・」 遂には凍りつき、息絶えた。 だが邪妖精の首を凍りつかせた魔法は、勢いを衰える事を知らない。 更に飛んでいき、邪妖精の身体に直撃してようやく勢いを止める。 これで邪妖精は復活も再生も出来ず、凍てついたまま炎の邪妖精は倒れたのだ・・・ しかし・・・その代償は、あまりにも大きかった。 「うっ(ガン!)っうああ!(ガン!)うあああ!」 由香里は怨念の形相で凍りついたまま、未だ執念の様に食らいついている邪妖精の首 に軍刀の柄を叩きつけているのだ。 「ゆ、由香里ちゃん!今、早苗が取ったげる!!」 いち早く駆けつけた早苗は、モーニングスターを振り上げると、由香里の腕に食らい ついたままの邪妖精の首にめがけて振り下ろした! 「(ガシャアアアアアン!)っぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」 氷の砕け散る音と、激痛によって声にならない由香里の悲鳴が木霊する。 そして、ようやく姿を現した自分の左腕を見るなり、由香里は更に悲鳴をあげて立ち 上がった。 「うっ!うっ!・・・う?・・・うわぁああああああ!?」 自分の左腕が・・・ 肘の少し先から・・・ ナンと「溶け落ちて」いたのだ! 「あ・・・あ・・・あ、あ(かちゃん)・・・あ」 力が抜け、焼け残った骨だけで握られた妖刀春雨が自重で床に落ちる・・・ それに続く様にして、再びガクリと膝をつく由香里。 「由香里ちゃん!!」 早苗の悲鳴が、薄れていく由香里の意識に突き刺さっていく・・・ 「由香里ちゃん!しっかりして!ゆか・・・うわぁ?!」 早苗が由香里を抱き起こしたが、その由香里の無惨な左腕を見て絶句する。 「由香里さん!・・・ひ、左腕が・・・」 アネーロも口元に手を当てて悲鳴を飲み殺していた。 由香里の左肘の少し先からは、焦げた血で赤黒く変色した骨しかなく、それにいくら かの肉がまとわり付いているだけなのだ。 「ゆ、由香里さん・・・ち、治療を・・・」 綾子が由香里を抱きしめ、由香里の骨だけの左腕に静かに手を触れると・・・ 「・・・ぁ(カチャーーーン)」 由香里の左腕の骨は、床の上に乾いた音を立てて砕け散った・・・ 同じ頃・・・ (カチャーーーン!) 燭台の上に飾られていた、赤いクリスタルが音を立てて砕け散る。 その光景を、驚愕の目で見つめている者が居た。 「・・・く」 飛び散ったクリスタルの破片は床の上に撒き散らされ、その中から一際大きな破片が その者の足下に転がってくる・・・ 「んもぉ!ジィナの役立たずぅ!グリスといい(ガシャガシャ!)どーしてぇ?!」 忌々しげな声が口から漏れ、幾度となくクリスタルを踏みつける。 その者がそうするのは、今日で2度目であった。 見れば、その床には茶色のクリスタルの破片が散らばっている。 「くのくのくのくのぉ!ハァ、ハァ、ハァ・・・スゥーー・・・」 暫く肩で息をしていたが、ようやく呼吸を整える。 そんな憤怒のその者に、そっと「影」が佇んだ・・・ 「ふむ・・・やはり、私に肉体をお与え下さい・・・」 「でもぉ・・・」 「私も肉体があれば、参戦できますし・・・それに・・・」 「それに?」 「貴女に・・・触れることも・・・」 「復活決定ぇ!」 そして、その者は懐から黒いクリスタルを取り出した・・・ 炎の邪妖精を倒した後、和美達は意識の戻らない由香里を囲んでいた。 取りあえず、綾子とアネーロの魔法で傷口は塞がったのだが・・・ 「由香里ちゃん・・・うっく・・・」 「由香里・・・」 邪妖精が倒れた後に意識の和美は、布に包まれたモノを握り、唇を噛みしめていた。 その布に包まれているのは、砕けた「由香里の左腕の骨片」であった・・・ もはや元に戻す事など不可能な・・・由香里の左腕。 「・・・ぅ・・・」 「早苗ちゃん、また氷を削って来て下さいな」 綾子は苦しげに呻く由香里の額からタオルを取ると、早苗に差し出した。 「うん!」 早苗は綾子からタオルを受け取ると、先程倒した炎の邪妖精の所に走る。 邪妖精の身体は凍ったまま早苗の前に立ち塞がっているが、今はそれを恐がっている 場合ではない。 早苗はモーニングスターを振り上げるとその氷の彫像に叩きつけた。 「せぇーの!(ガチーーーン!)っと!」 氷の彫像から、氷の欠片が飛び散り、そして早苗はその欠片の幾つかをタオルで包み 込むと、再び綾子の元へと走っていった。 「はい!氷!!」 「有り難うございます・・・」 綾子はタオルを受け取り、由香里の額に乗せた・・・ 「・・・アネーロさん。ちょっと・・・」 「はい・・・」 それまで黙って由香里の側に座っていた和美であったが、アネーロを伴うと氷の彫像 の陰に誘う。 「・・・何でしょうか?・・・」 「あの・・・由香里の腕・・・魔法か何かで、元に戻すことは出来ないでしょうか?」 その和美の質問に、アネーロは黙って俯いている。 やはり、方法は無いのだろうか・・・ 「ナンで・・・ナンで由香里がこんな目に!!(ガイン!!)」 怒りにまかせ、和美は氷の彫像に拳を叩きつけた・・・その時!! 「(ぐらぐら)え・・・あ、あぶない!」 先程から早苗のモーニングスターで削られ、バランスの悪くなっていた彫像が揺らぎ 始めたのだ。 「綾子!早苗!由香里を連れて逃げて!!」 「え?・・・きゃああ!」 「わあわあああああ!!」 (ぐらぐら・・・がしゃああああああん!) ついにバランスを失った氷のオブジェが床の上に倒れ・・・砕け散った! 「み、みんな!大丈夫!?」 「大丈夫ですか!?」 和美とアネーロが駆け寄ると、早苗も綾子も、そして由香里も無事であった。 「ふぅ・・・危機一髪・・・え!?」 そんな冷や汗を拭っていた早苗だが、目の前に転がってきたモノに目を見張る。 ナンと砕け散った氷の中から「全裸の少女」が転がり出てきたのだ! 「か、和美ちゃん!氷の中から女の子が出てきた!」 「え!?・・・あ!きっと核にされていた子よ!息はあるの?!」 「わっかんな(ピトッ)わ!?和美ちゃん!この子、すんごく身体が冷たい!」 少女の手を握りしめて叫ぶ早苗に、和美も少女の身体に触れてみた。 冷たい・・・ 全てが凍りつくかの様な・・・冷たさだ。 「冷たっ!?早苗!魔法を・・・早苗?」 凍えている少女に、魔法でナンとかしようと考えた和美だが・・・ 「よいしょっと(スルッ!)」 早苗は自分のマントを少女の下に敷き、更には服を脱ぎ始めているではないか?! 「あんたわぁ!」 「わ?!待って和美ちゃん!違うの!暖めてあげるの!・・・和美ちゃん・・・魔法は 万能じゃないんだよ・・・」 早苗にそう言われ、和美はハッとした。 魔法は・・・万能ではない。 「綾子さん!この毛布を使って下さい!」 「判りました!早苗ちゃん、毛布を!」 「うん!・・・和美ちゃんも手伝って!早苗一人じゃ暖めきれないよぉ〜!」 「あ・・・う、うん!(スルッ!)」 和美は振り上げた拳を戻すと、自分の服を脱ぎ、毛布の中に潜り込む。 「ちょっと、早苗・・・恥ずかしいからこっちを見ないでよ・・・」 そして、早苗の視線を感じながら、和美は少女に身体を絡ませたのであった・・・ 4 さて、壮絶な食事も済んだ兄貴とマリンの一行は、孝司の治療がまだ終わっていない と言う事もあって、暇つぶしにと街をブラついていたのだが・・・ 「おや?・・・兄貴ィ!はいッス!」 何かを見つけた村田は、大下に向かって男らしくビシッと挙手をする。 その声に村田を見れば、村田の表情はいつになく真剣である。 「どうした村田?」 「あの、確かに、あっしらはこの肉体が武器であり鎧でもあるッスが・・・あっしら、 もしかして『丸腰』ってやつッスよね?」 「まぁ、もしかしなくても、そうだが?」 「そこでッス!(ビシッ!)アレを!」 「む?!」 村田が指さした一軒の店・・・そこは、どうやら武器屋らしい。 「あっしらも武器を揃えやしょう!」 「うーむ、なるほど。備えあれば憂いなしってヤツか・・・マ、マリンも何か欲しい物 でもあれば遠慮無く・・・」 「あ、あの・・・それでは、服を・・・」 確かに・・・マリンは砂丘で助けられた時から、裸身に毛布を身体に巻き付けている だけなのだ。 コレではいくらなんでも可哀想である。 「そ、そうだな・・・ぉ!?」 「・・・あ・・・」 やり場に困った視線を巡らしている内に、大下とマリンの視線が合ってしまった。 瞳が触れ合うだけで頬を熱くなるのを感じる二人。 それに大下は、いくらムサくても、いくら厳つくても、いくらごっつくても、いくら 見栄えが暑苦しくても、いくら「筋肉大魔王」であっても・・・ 一応、卒業式を迎えたばかりの高校生なのだ・・・何故かまだ18歳なのだ。 どちらからともなく、手を握りあう二人・・・ し・か・し! 「フン!フン!フン!フン!フゥーーーーン!!」 「(ムキャキャキャキャキャキャ!)キャアアアアアア!?」 いつになく「気合い」の入った村田の、しかも泣きながらのポージング連続攻撃に、 マリンは慌てて大下の首筋にしがみついた。 それを見て、村田が再び号泣をする。 「嗚呼ッ!また兄貴に!そんなにくっつくなッス!(ムキャキャ!)」 「・・・村田。判った・・・」 大下の背中には哀愁が漂っていた・・・ そんな一騒動の後、3人は武器屋に足を踏み入れる。 「いらっしゃいませぇ〜☆」 店に入るなり、えらく露出度の高い服を着た店の娘が3人を出迎えて来た。 もしも店に入ったのが普通の男だったら、商品よりも早くこの娘に視線がいくのだろ うが・・・そこは「兄貴!」である。 「うーむ・・・この棒なんぞは、なかなかよいな・・・」 「兄貴。こちらの鎧はいかがッスか?」 全くもって動じていない。 「あ、あの・・・」 完全に無視をされた形の娘は、おずおずと兄貴達の側に近寄ったのだが・・・ 「兄貴、このメリケンサックを、こ、小僧に買ってやりたいッス・・・」 「おぉ、そうだな。小僧も少し、戦いを憶えた方が良かろう」 「それでしたら、こちらの隠しナックルがお勧めですよ♪」 「ヤヤ!?兄貴にはこの独鈷の様な剣が似合うッス!不動明王様みたいッス!」 そう言って、村田は大下に一振りの剣を差し出したが、大下は顔を曇らせる。 「むぅ・・・ワシは、どーも刀という物が好きになれん・・・なにせ龍を思い出す」 「剣でしたら本日入荷のバスターソードが・・・」 「そういや・・・あっしはこの鞭が、姐さんを思いだすッス・・・うぅ、姐さぁーん」 「あ、鞭ですか?それならこちらの双頭鞭なども・・・」 「泣くな村田。いつか帰れる日が来る・・・」 「オッス・・・ぐしっ」 「・・・あう」 更に店員の娘を無視し、それぞれ手に品物を持ったまま感慨に耽っている兄貴達の姿 に、さすがに気の毒に思ったマリンが店員に声をかけた。 「・・・あの、このお店に飛び道具はありますか?」 「ございますともぉ!」 マリンに声をかけられたのが、余程嬉しかったのだろう。 店員の娘は瞳に涙を浮かべながらマリンの手を握りしめてきたのだ。 「ささ♪こちらに!」 「あは・・・」 マリンの手を握りしめたまま店のカウンターの前に引っ張る娘。 そして、カウンターの奥から何やら箱を取り出してくるとマリンの前に置く。 「お客様には特別製をお譲りいたしますぅ!(ぱかっ)はい!」 「・・・これですか?」 「はい♪」 開かれた箱の中には見事な彫刻がされた、2枚の丸い輪が納められていた。 材質は解らないが、その2枚の輪の外輪は研ぎすまされており、光に当たると凶悪な 輝きを見せる。 「これは・・・なんですか?」 「はい、これは西方の僧侶の武器でチャクラムといいます。使い方はこのよぉにして、 指で挟み込んで呪文を・・・チャクラムGO!(ヒュン!)」 娘はチャクラムと呼ばれた武器の端を掴むと、店の隅に置いてあったハニーの置物に 向かって素早く手を走らせる。 すると・・・ (シューン!・・・シュカッ!) 放たれた銀輪は、光の筋となって店内を巡り、店の奥に置かれていたハニーの置物を 真っ二つに! だがチャクラムは勢いを止めることを知らない。 そのままの勢いでこちらに向かって戻ってきたのだ! 「きゃああ?!」 「大丈夫ですよ」 慌てて頭を下げるマリンに対し、店の娘は笑いながら人差し指を立てる。 するとチャクラムは娘の指を斬り飛ばすことなく、その店員の指の上をフワフワと回 り、最後には指の中にスッポリと収まった。 「ふぇ・・・驚きました・・・」 「えへ、ごめんなさいね。でも、この通り、この武器は放った人には、絶対に当たらな い様になっているんです。いかがですか?」 「うーん・・・」 マリンは2枚のチャクラムを見て考え込む。 ・・・確かに、力のない私には便利そうな武器ですけど・・・高そう・・・でも、綺麗 だし、欲しいし・・・でも、高そう・・・でもでも・・・ マリンは思い切って値段を聞いてみた。 値段を聞くだけならタダだし、それに、もしも安かったら・・・ 「あのぉ・・・ちなみに、お幾らでしょうか?」 「こちらは2万ゴールドですが・・・おまけして、1万5千ゴールド♪」 「い・・いちまん・・・ごせん」 思わず声が裏返るマリン・・・ と、その後ろから大下が覗き込んできた。 「マリンよ。ナニか欲しいモノが・・・やや?!これはなかなかステキな腕輪を見つけ たではないか!これが気に入ったのか?よし、買おう!」 何かを勘違いした大下は、既に財布の中に手を突っ込んでいる。 「えーと、値段は(つんつん)ん?」 「・・・あの」 ふと見れば、マリンが身体に巻き付けた毛布を摘みながら、モジモジと肘をつついて きた。 「そ、そうであったな。そ、それと・・・女性向けの服は?」 「ええと、全部?」 「・・・」 コクリとマリンが頷くのを見て、店員は奥の棚から、少々、きわどくはあるが、下着 を一式と、ブラウス、サスペンダーのついたズボンに靴と靴下を持ってくる。 「こ、これで・・・良いのか?」 「・・・(こくり)」 マリンが黙って頷くのを見て、大下は再び財布代わりの革袋に手を突っ込んだ。 「よし。娘よ、その腕輪とあの服でいくらだ?」 「はい、1万7千ゴールドになりますが・・・」 「おぉ、安い安い」 「へ?(ザラザラザラ!)」 カウンターの上に無造作にぶちまけられた紫の宝石の山に、マリンと店員の目が眩ん でしまった。 総てが5千ゴールドの宝石・・・目も眩むだろう。 「ご、5千ゴールドの宝石!大下様!どうやってこんなにたくさん?!」 「いやぁ、ワシらは今までメシ以外にあまり金をかけて無くてな。ナニも知らんで宝石 集めてたら、いつの間にかこんなに貯まってしまった訳だ。ハッハッハッハ!」 豪快に笑う大下に、マリンの目は点になってしまった・・・ と、その後ろから・・・ 「兄貴!いいモンがあったッス♪」 村田が何かを見つけた様で、手に防具らしき物をぶら下げてやってくる。 「これなんか、あっしらにピッタシだと思うッス!」 「おぉ!?村田!センスがいいぞ!」 「うれしッス兄貴!」 村田が持ってきたのは、「一応」防具であった。 何故「一応」かと言うと・・・ 「あら?!これは『黄金のマワシ』じゃないですか!!」 黄金のマワシ・・・それは異次元のモンスターで、しかも特殊な道具でしか倒すこと が出来ない(スモウ)の中でも、最強レベルである「横綱」しか装着を許されていない 鎧の一種だ。 この(スモウ)達にはレベルに応じてのクラスが厳しく設けられており、今、村田が 手にしている「黄金のマワシ」は「横綱」レベルの(スモウ)が、その最終形態である 「親方」になる際にだけ外れるモノだ。 そして「黄金のマワシ」が外れた(スモウ)は、新たなるアイテム「浴衣ローブ」を 身につけて「理事長」と言うスモウ達の世界の神の下に旅立つのだ・・・だが、その数 は極僅かであると言う。 そんな貴重な「黄金のマワシ」は、当然の事ながら、その防御力も桁外れており、こ の世界では最高の硬度を誇るであろう。 しかし、その防御力をも凌駕する重量があり、この世界では誰も身につけることが出 来ないの筈なのだが・・・ 「お客さん、重くはないのですか?」 「いや・・・別に軽いッスよ?」 まぁ、村田が軽々と・・・しかも2個も持ってきたのだから、重量の問題は無い。 それに、この二人の兄貴達を「人類」と考える方が間違いである。 そんな「黄金のマワシ」を大下も気に入ったらしく、上機嫌でマワシを指差す。 「これはいくらだ?」 「えーと、一つにつき2万ゴールドです」 本当は値段なんかつけてはいなかったのだが・・・先ほど大量の宝石を見せられて、 急につけた値段であり、ハッキリ言って法外な値段である。 しかし、金銭感覚と美的センスに若干のズレがある大下は、革袋に手を突っ込んだ。 「よし、全部で5万と7千ゴールドだな」 「あ、5万で結構ですよぉ〜♪」 揉み手をせんばかりに愛想の良い店員の目の前に、大下は宝石を積み上げていく。 「そうか、スマンな。ほら、宝石で10個・・・だな」 目の前に積み上げられた10個の宝石に、店員は深々と頭を下げかけたが・・・ 「あ、ありがとうござい・・・あ、お客様。こちらの宝石は違いますよ」 そう言って、宝石の中から「一つだけ違う色の宝石」を摘み出したのだ。 「ん?これは使えないのか?」 「はい、これはレベルアップ用です」 「れべる・・・あっぷ?はて?ナンのコトなのか・・・まぁ、使えないのであれば仕方 があるまい。不便な宝石だな・・・んじゃ、こっちはどうだ?」 「はい☆有り難う御座います!確かに10個♪」 店員の娘が、そそくさと宝石をかき集めようとした時・・・ 「娘ぇ!」 「は、はい!・・・ひ!?」 突然の大声に娘が慌てて顔を上げると、大下と村田が恐ろしい形相で・・・本当は普 段通りの顔なのだが・・・しかも、仁王立で自分を見下ろしているではないか!? ・・・ひ?!ちょっと高すぎたかな!? 暴利を貪ろうとしたのがバレたのではないかと、娘の頬を冷たい汗が流れる。 「あの・・・ナニか・・・(ガシッ!)ひっ?!」 その小刻みに震える娘の肩を、大下が「ガッシリ」と掴んだ。 「ひ、ひぃぃぃぃ!」 ・・・喰われるぅ!殺されるぅ!まわされるぅ!! 気持ちは解る。 そして大下は娘の肩を掴んだまま凄まじい笑顔を浮かべ、震える店の娘に先程買った 黄金のマワシを突きつけると・・・ 「娘よ・・・試着室はどこだ?」 燃え上がる紅蓮の炎が、村を舐める様にして覆い尽くしていく・・・ 和美達はその燃え盛る炎を、丘の上から見下ろしていた。 「・・・よく・・・燃えるわね」 「・・・うん」 そんな和美の呟きに、早苗も黙って頷く。 あの後、綾子の提案で、和美達は村のあちこちに散らばっていた村人達の死体を埋葬 しようとしたのだが、とてもこの人数では手が足りない・・・ やむを得ず、村ごと火葬をする事にしたのであった。 犠牲となった人々に黙祷を捧げる和美達の横で、アネーロは鎮魂の歌を歌っていく。 「色とりどりに染まる夢に、儚き時の狭間に身を任せる御霊達よ・・・巡る輪廻の藻屑 と消えず、浅き夢見ることなく・・・染まった身体を蕾に託し、光に集え・・・」 歌声に誘われる様に、一つ、また一つと、魂は天に昇ってゆく・・・ 寂しげに丘の上を、細く、遠く響きわたる歌声に、自然と和美達の瞳から涙がこぼれ 落ちた・・・ その中で、一番、涙が絶え止まなかったのは、和美のマントに身をくるんだ、あの炎 の邪妖精の中から出てきた娘であった。 「うっく・・・ひっく・・・」 娘は目を覚ましてから、ずっと泣き続けている。 自らがした事では無いのだが、邪妖精の所行が記憶にある幼いこの子は、罪の意識に 襲われているのだ・・・ 特に和美達の後ろで、まだ意識が戻らずに横たわっている由香里との一戦は、少女に とっても辛かったろう・・・ 和美は涙を拭うと、泣き続けている少女の肩に手を置く。 「もう泣かないで。村の人達だって、きっと判ってくれるから・・・」 綾子も、そっと少女の身体を抱きしめた。 「さぁ、もう泣かないで下さい・・・あなたが悪いわけではありません・・・あなたは ただ、操られていただけのなですから・・・」 綾子の慰めの言葉に、少女は顔を上げる。 「・・・うん」 少女はコクリと頷き、立ち上がった。 もう、少女の瞳に涙は光っていない・・・ 和美は優しく微笑むと、少女の頭を撫でた。 「そう、それで良いのよ・・・あれ?そう言えば・・・まだお嬢ちゃんの名前を聞いて いなかったわね?」 「リリィですぅ・・・」 和美に向かって少女は小さな声で呟く。 その名前を聞いて、早苗は首を傾げた。 「あれ?どっかで聞いたような・・・」 和美達も同様に考え込む。 「うーん・・・思い出せないなぁ・・・」 「・・・あ!」 早苗がポムと手を叩き、顔を輝かせた。 「そっか!コレットちゃんの妹さんだ!」 「あ・・・」 姉の名前に、今度はリリィの顔が輝く。 「おねーちゃん・・・おねーちゃんを知っているの!?お願い!おねーちゃんのとこに 行きたい!おねーさん連れていって!」 必死に綾子のマントにしがみつくリリィに、和美達は困り果てた。 確かにこの子をコレットのもとに送り届けたい・・・ だが、コレットの村からここまではかなりの距離が・・・ 「どーしよ・・・」 和美が腕を組んで考え込んでいると・・・ 「あの、私が送りましょうか?」 鎮魂歌を歌い終わったアネーロが、そう微笑んでリリィの肩を抱いたのだ。 「でも、アネーロさん一人じゃ・・・」 「大丈夫です。この子一人くらいなら抱いたまま短距離転移ができますので、村の位置 を教えてください」 「たんきょり・・・てんき?」 早苗には難しすぎた単語に、綾子が後ろから囁く。 「短距離転移ですよ。簡単に言うと、テレポートですわ」 その横で、和美は地図を広げて村からの距離を測った。 「村の位置はここだったから、大体・・・歩いて4日くらいの距離ですよ」 「それでは途中で休みながらで、丸2日でつきます。でも、帰って来る方が時間がかか るので・・・約5日ってところですね」 「そっかぁ。それじゃぁ、早苗達はあまり遠くにはいけないね・・・アネーロさんが、 早苗達を見つけられなくなっちゃう・・・」 そんな溜息をつく早苗に、アネーロはリリィの身体にマントを掛けながら微笑む。 「大丈夫です。この指輪をお渡しいたしますので・・・はい」 アネーロは自分の指から一つの指輪を抜き取ると、和美に手渡した。 和美は、しげしげと指輪を見つめる。 何やら魔法使いのじじぃの細工が施された指輪で、見れば、アネーロの指にも同じ指 輪が填められていた。 「これは?」 「その指輪は特別な石で出来ている物で、常に特殊な魔力を発生しています。そして、 私の持つこの指輪と共鳴しています。私はそれを目当てに転移してきますので、どん なに遠くても場所を感じることができます」 「ふーん、ホーマーになっているんですね・・・」 「・・・ホーマーって?」 またもや単語が解らない早苗に、綾子が説明してくれる。 「発信器の事ですよ・・・」 そして・・・ 「それでは皆さん。すぐに帰ってきますので・・・」 「うん、あんまり無理をしないでね」 「はい(シュン!)」 空間に亀裂が生じたかと思うと、その中にリリィを抱えてアネーロは身を踊らせた。 これで再び・・・ 4人での旅が始まる・・・ |