第3章


                超!兄貴達との再会!


                    1


 翌日・・・
 それは、周囲はまだ薄暗く、山の向こうからお日様がチョッとだけ顔を覗かせたばか
りの「早朝」のこと・・・
 和美達が泊まっている宿では、ナニやら珍しい光景が見られていた。
 それは・・・
「・・・む・・・(ごそごそ、もそもそ)」
 いつもならば「絶対」に早起きなどしないはずの由香里が、一番に起き出して着替え
を始めているのだ。
「・・・(ごそごそ、ガチャリ)」
 由香里は衣服を着込み、鎧を身につけると、今度は荷物を鞄に詰めている。
 こんな朝早くに、一人で何処に行こうというのだろうか?
「あふぁ〜・・・う〜(ごそごそ)・・・よしっ・・・和美、早苗、綾子」
 いや・・・どうやら「全員」でドコかにいくらしい。
「すぴ〜♪(ゆっさゆっさ)んん〜?」
「す〜♪(ちょんちょん)・・・はぃ?」
「くか〜♪(ぐらぐら)ん〜・・・くか〜♪」
 まだ寝ぼけてる和美と綾子が毛布から顔を覗かせると、由香里は既に着替えており、
荷物がベッドの上に置かれている。
 まだよく開かない目を擦りながら、和美と綾子は起き上がった。
「なにぃよぉ〜・・・?」
「何事ですかぁ〜・・・」
「ナニって・・・モチろん『出発』するに決まってるでしょ?」
「へ?」
「こんな早朝にですか?」
「そうよ。今日から本腰を入れて、こんな世界から脱出する方法を探すんだから、少し
 でも時間が惜しいのよ・・・って・・・早苗?」
「すか〜♪」
「・・・起きンかい!」
「く〜♪(すぱ〜〜ン☆)ミギャッ?!」
 とまぁ・・・こんな訳で、和美達は朝食も早々に、宿を引き払うコトとなった。
 ナニしろ、由香里の言ったとおり、今日から本格的に「この世界」の探索を始めなく
てはならない。
 確かに、一刻も早く、こんな訳の分からない世界からは抜け出したい・・・
 そんな訳で、貴重な睡眠時間と食事時間を削ってまでの、出発なのである。
 ちなみに・・・
「あふ・・・異世界の方って・・・朝が早いのですねぇ〜・・・」
 昨日に知り合ったカラー族の娘、アネーロも一緒・・・イイ迷惑である。
 まぁ・・・僅かな手がかりとは言え、この世界で自分達の未来を握るかもしれない重
要人物を、由香里がみすみす逃すわけがない。
 さて、皆は荷物を整えて宿から出ると、グルリと円陣を組んだ。
「ん〜・・・あふぁぁ・・・っと、さて。今日はどうしよっか?」
「そうねぇ・・・まぁ、裕美を探さなきゃならないんだろうけど・・・」
「手がかりが・・・あふ・・・少ないですわ」
「あう〜〜〜。なんでだろ?早苗ちゃん、ほっぺがズキズキする・・・ぅぅう」
 そんな欠伸をしながら大きく伸びをしている和美達に、アネーロは自分の頭を指さす
と、不安げにソレをつついた。
「あの、ところで・・・これで本当にバレないんでしょうか?」
「だいじょうぶだよぉ!」
「うん、全然見えないわよ」
「早苗ちゃんも、上手いこと考えましたわ」
 アネーロは今日はフードを被っていない。
 逆にフードで顔を覆ってしまうと、不審に見られると言う早苗の提案で、フードを切
り裂き、綾子が針糸で大きなスカーフ型のバンダナを造り、それをアネーロの頭に巻き
つけたのだ。
 これならば、額のクリスタルも長い耳もスッポリと覆うことが出来て、見えないと言
うわけである。
 ま、それはさておき・・・
 和美はグレイブの柄で肩を一つ叩いた。
「さてと、今日は裕美のコトは、ひとまず置いといて・・・これからどうしよう?」
「うーん・・・この世界からの脱出するための手がかりを探すのにも、まずは戦力が必
 要よね・・・昨夜に話した通り、あの3人組を探す事が先決だと思うわ」
 和美と綾子も由香里の意見に頷くが、綾子は頷いてから小首を傾げて・・・
「私もそれが良いかと思うのですが・・・」
「ん?綾子、何か不安があるの?」
「はい・・・その・・・孝司さん達は、どこに?」
「・・・」
「う・・・そこまでは考えていなかった」
 と、その腕を組んだ由香里の隣で、早苗がシュタッ!と手を挙げる。
「早苗、獣達の記事が載ってるイイもの持ってるよぉ〜!(バサッ)じゃーん♪昨日の
 なんだけどね、宿の女将さんから貰ったの☆」
 そう言って早苗が誇らしげに取りだしたのは、大きな紙の・・・
「え?!これは『新聞』じゃない!?この世界に?!」
「まぁ。キチンと印刷されていますわ!それもカラーで!?」
「写真も掲載されてるじゃない・・・うむむ・・・」
 そんな早苗が取りだした「新聞」を見ると、自分達の世界で見るスポーツ新聞と殆ど
変わりのない出来である。
 その紙質といい、派手な大きさの見出しといい、載せられている写真といい、おまけ
にキチンと出版元まで書いてある。
 どうやらこの世界・・・和美達が思っているほど、自分達との世界とのギャップは、
あまり無いらしい。
 電気・ガス・水道・・・これらのライフラインとも言うべきモノの多くが「魔法」に
変わっていると考えると、ちょっと不便な田舎と大差がないのだ。
 まぁ、大きな違いと言えば、モンスターが跋扈(ばっこ)していることだが・・・
 なぁに、それとて元の世界の「イノシシ」や「熊」と置き換えて思えば、逆に剣など
で自由に退治できる分だけマシかもしれない。

・・・あんまり、ココを異世界として「不便」に考えない方がいいかな?

 由香里はそんなコトを考えながら、早苗の広げている新聞を覗きこむ。
「どれどれ・・・『埴輪新聞』・・・か。んで、発行元は?」
「えぇと・・・『テ○ノポ○ス出版』だそうです」
「はて?・・・どっかで聞いたよぉーな・・・」
「確か・・・『ドラ○ンナ○ト新聞』ってのも・・・」
「あったような・・・無かったような・・・」
「早苗もそう思ったけど・・・」
「まぁ、いいわ。早苗、ちょっと貸してね。え〜とぉ(バサッ)なになに?奴隷市況に
 今日のコラム。あとは(ガサガサ)番組覧や広告に・・・」
「4コマ漫画に・・・とくにニュースは・・・ん?これかな?」
 和美は「緊急特集!魔道師軍団が壊滅?!恐怖の獣達!」と言う所に指を指した。
「和美、読んでみて」
「うん・・・えーと『突如として出現した2匹の獣と、その獣を操る獣使いによって、
 ゼス王国より派遣された先鋭魔道師軍団5人が、精神に壊滅的なダメージを受けたと
 の事。今回の襲撃による被害総額は、10人分の食料2日分。この事態に、大いなる
 魔女の出現による先日のヘルマン帝国軍の第3部隊の全滅、リーザス王国軍特別編成
 部隊の壊滅に続いての今回の損害に、各国首脳は頭を悩ませている。なお、獣達は現
 在、西の(カーグラスの泉)付近で目撃されたとの情報があり、リーザス森林警備隊
 では付近の住民に決して近づかないよう呼びかけている』だって・・・どう思う?」
「どぉー思うもナニも・・・やっぱり大下さん達も、この世界に飛ばされているのは間
 違いないわね。特に、その食料だけを狙っているって所が、何よりの証拠よ・・・」
「うんうん!」
 その由香里の言葉に、早苗もブンブンと首を縦に振って頷いている。
「カーグラスの泉なら、ここからそんなに遠くはありません。早速行きますか?」
 アネーロの言葉に、和美達の行き先が決まった。
「そうね、早い方がいいわ。行きましょう♪」
 和美の号令に皆は大きく頷くと、街の外に向かって足を踏み出したのであった・・・


 さて、その頃・・・
 これから和美達が向かおうとしている「カーグラスの泉」を取り囲んでいる、深い森
の奥深くでは・・・
「兄貴ぃ〜(きゅううううう〜♪)・・・ッス」
「どぉしたぁ〜(ぐぅうううううう〜♪)・・・ぅ」
「もう、食ぃモンが(きゅるるるるるるる〜♪)ないッスぅ・・・」
「そうかぁ(ぎゅいいいいいいいい〜♪)・・・ぉ〜」
「ちょ、ちょっと二人共!もう少しは、考えて食べて下さいよ?!昨日の食料だって、
 少なくても3日か4日分くらいはあったハズですよ?!」
「何を言うか小僧ぉ?!我々の美しい肉体を保つためには、あの程度の食料では全然!
 全く!サッパリと足りないくらいな(ぎゅぅうううううう〜♪)・・・オフゥぅぅ」
「オォッ!?兄貴、バキュームっスか?」
 ちなみに「バキューム」とはポージングの一つで、おもいっきり腹筋を引っ込ませる
ポーズであるのだが・・・ちと、違うよぉだ。
「違う、腹が減ったのだぁ(ぐぅぅ♪)何か(きゅるる♪)喰いモン(ズシーン!)」
「兄貴ィーーー!?しっかりィーーー!また木の皮でも囓るッスか!?」
 腹の虫が大合唱をしている、文字通りに「飢えた獣達」がココにいたわけだが・・・
「うぅ(ぐぅ〜〜♪)もう・・・こんなニホンザルみたいな生活・・・やだ・・・」
 ナンともはや・・・情けない。


 さて、和美達にアネーロを加えた新たなパーティーが街を出てから、およそ2時間。
 アネーロの話だと、この草原を抜けると目的地のカーグラスの泉であるそうなので、
そんなに急ぐ必要はない。
 額に浮かんだ汗を拭い、和美は広い草原のど真ん中で休息をとる事にした。
「ふぅ・・・ねぇ、ここで休憩にしない?」
「そうね・・・あたしも喉が渇いたわ」
「早苗もお腹空いたぁ〜」
「では早速、お茶の支度をしますわね♪」
「え?・・・あの、こんな草原で?ですか?」
「えぇ。とっても気持ちがイイじゃないですか♪」
「は・・・はぁ」
 和美の笑顔での返答に、アネーロの目がテンになっていた・・・
 と言うのも、アネーロとしては「周囲に、隠れたりするための遮蔽物がナニもなく、
更には遠くにモンスターが見え隠れをする、こんな危険な場所でですか?!」の、意味
を含めて質問したつもりであったのだ。
 だが・・・
「はい、由香里さん。お茶が入りましたよ♪」
「あんがとね(じゅる)はぁぁぁ・・・お茶が美味しぃ〜☆」
「もぐもぐもぐ、あり?早苗のお団子が無くなっちゃった・・・ん?・・・ンへ♪」
「(ずずっ)ふぅ・・・ん?アネーロさんも座ったらどうです?」
「み、みなさん・・・凄いですね」
 これほどの「休息」を取るとは思わず、茶碗を手に素直な感想を述べていた・・・
 正直なところ、ここまでに来る間にアネーロは和美達の「戦闘力」には驚かされてい
たのだ。
 この草原に来るまでに、パーティーはかなりのモンスターと出くわした筈なのだが、
その全てを雑魚の様にあしらい、和美達のレベルは上がりっぱなしなのである。
 それに元々の基本的な能力値が高いので、この世界の人間と比べた場合、少なくても
全員のレベルは30を越えているであろう。
 ただ、本人達に「自覚」が無いのである。

・・・この人達、もしかしたら、国王の親衛隊よりも強いんじゃ・・・この調子だと、
   魔女を倒す事も・・・いえ、この人達なら出来る!!私も頑張らなくては・・・

 そんな希望とヤル気に、アネーロの心は燃え上がってきたのだが・・・
「ん?(じゅるっ)ねぇ、綾子。あたしの茶菓子ないの?」
「え?・・・変ですね?・・・確か、お団子をお出しした筈なのですが?」
「もぐもぐもぐもぐ・・・」
「もしかして・・・こっち向け早苗ぇ!」
「ん(グイッ!)む!?」
「あ゛!?この『ハムスターみたいな頬袋』はナンだぁ?!あたしの団子を返せぇ!」
「んむ(ブニッ!)むむむ!?」
「えぇい!出せぇ!」
「・・・」
 一串の団子を取り合う由香里と早苗の姿に、アネーロの希望は不安に変わった・・・
「くのぉおおおお!団子ぉ〜〜!」
「んむむむ!もぐもぐもぐもぐ!・・・んむ!?」
 と、その由香里に頬を搾られていた早苗だが、盗った団子を必死に飲み込みながら、
由香里の手から逃げようと立ち上がった時、見下ろした丘から、こちらに向かって妙に
賑やかな団体がやってくるのに気がついた。
「んぐんぐ・・・んむ?・・・んむ!ほんふはーのふうふぁんふぁふぉっひにふる!」
「早苗。立ったままモノを食べてる上に喋ろうなんて、お行儀が悪いわよ?」
「言い訳なら聞かないわよ?!」
「はい、早苗ちゃん。お茶♪」
「んむ!(ンぐンゴク!ゴックン☆)違うの!モンスターの集団がこっちに来るの!」
「なんですって!?」
「ナンでもっと早く言わないのよ!?」
 お茶で団子を飲み込んだ早苗の叫びに、全員、一斉に立ち上がる。
 見れば、旗を振りながら陽気な歌と声と共にやってくるのは・・・
「ハニハニハニホー♪ハニフヘホー♪」
「ハニホーハニホー♪今日は温泉☆温泉☆おんせーん♪」
「酒はでるんやろぅな!?」
「もちろん。かわいい、ハニ子もおりまっせ!」
 それは(ハニー)と呼ばれる、モンスターの集団・・・どうやら慰安旅行らしい。
 その(ハニー)の集団を見るなり、アネーロの顔は強張った。
「あれは『レッドハニー』と『ブルーハニー』じゃないですか?!あ?!それに、後ろ
 の方には『凶悪ハニー』もいるじゃないですか!?逃げましょう!」
 だが、いきなり逃げ腰になっているアネーロを余所に、由香里は平然と自分の傍らに
置いていた軍刀を持ち上げると・・・
「よぉし、経験値の元が来たわね・・・ング・・・プーーーーー!」
 お茶をグイと口に含み、軍刀の柄に吹きかけて紐を締め直している。
 おまけに・・・
「ン、先手必勝ね☆」
「えーと・・・早苗ちゃんの肩叩きとハタキは・・・あったあった♪」
 見れば、和美と早苗も武器を手に、戦闘の準備を整えているではないか!?
 そんな和美達の姿に、アネーロは悲鳴にも似た声をあげた。 
「だめです!私の魔法だって、あんなに沢山の『ハニー』は相手に・・・」
 カラーバージョンの(ハニー)は、少なくても30匹は居る。
 それに、結構強い(凶悪ハニー)も・・・少なくても10匹は居るだろう。
 いくらアネーロの魔力が強くても、20匹を倒すのが限界だ。
 だが・・・
「みなさーん。がんばって下さいねぇー♪」
 そう笑顔でハンカチを振るのは、あまり戦闘向けの魔法を持っていない綾子。
 その光景にアネーロの頬を冷や汗が伝っていくが・・・
「あ・・・あの・・・もしもし?」
「よっしゃ!そんじゃ行きますか!?」
 真っ先に飛び出して行ったのは、やはり由香里であった。
 右手に長船を、左手に妖刀春雨を手にして・・・また、口上を叫んでいる。
 進歩がないのだろうか?
「抜けば珠散る、以下省略!」
 失礼しました。
「てりゃあああ!」
 由香里は高々と軍刀を振り上げると、先頭で旗を振っていた(レッドハニー)に襲い
かかった!
「(ズバッ!)え?」
 由香里の軍刀が一閃した瞬間・・・
「(ズリズリ)え?え(ズリズリズリ)」
 ゆっくりと(レッドハニー)の左右の視界が「上下左右」にズレていき・・・
「え?!(パックリ♪)・・・アイヤーーー!」
 哀れ(レッドハニー)は4つになったのだ!
「て、敵襲ぅぅ!!」
 その目の前で4つに分かれた仲間の姿に、慌てて剣やトライデントを構えて陣形を取
ろうとしている(ハニー)達。
 だが、そんな隙だらけの(ハニー)達に、由香里は襲いかかろうとはしなかった。
「・・・フフッ♪・・・」
 刀にチロリと舌を滑らせ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、由香里は(ハニー)
達を睨みつける・・・恐るべき攻撃力と余裕だ。
「ハニャ・・・」
 激しく動揺している(ハニー)達に、今度は和美が由香里の後ろから飛び出してくる
と、遠慮無くグレイブを振りかざして突進をしていく。
「このぉぉ!」
「(バリーーーン!)アイヤーーーー!」
「おーおー・・・壮絶ねぇ♪」
 グレイブが唸りをあげる度に、瀬戸物の(ハニー)達は次々に破裂し、和美の通り抜
けた後には(ハニー)の破片が山と積まれていった。
「ひ、ひぇぇぇえ!に、にげろぉおお!わわ?!」
 そんな凄まじい奇襲攻撃に、数匹の(ハニー)達が慌てて逃げようとしたが・・・
「えいえいえいえい!」
「(ごいーーーーん♪)ハニャぁぁぁぁアアア?!」
「(ばきょーーーん☆)あ、あたまがぁぁぁぁ!?」
 既に回り込んでいた早苗の振るうモーニングスターとフレイルが、その威力を発揮し
ていく。
 モーニングスターで殴られた(ハニー)達は皆、頭(の辺り)を押さえて呻き、そし
て、その怯んだ隙に左手のフレイルで殴りつけていくのだ。
 だが・・・見れば早苗は(ハニー)を完全に倒してはいない。
「あうぅ・・・死ヌゥ・・・」
 その頭(の辺り?)にはヒビが入っており、早苗に殴られた(ハニー)達のHP(体
力値)は僅かに1だけ残っているのだ・・・一思いに倒してやって欲しいものである。
「ひええぇぇぇぇ!み、みんな!しゅうごぉーーー!」
 奇襲で一方的に攻撃を受けていた(ハニー)達であったが、1匹の(ハニー)の号令
で、陣形を立て直すと、必殺技の「ハニーフラッシュ」を繰り出す体制を整えた。
 よーやく反撃を開始する気だ。
 わらわらと、組体操の様に仲間同士で重なり合い、一つの壁を形成すると・・・
「準備OK!」
「よっしゃぁ!いくでぇ!せぇーの!集団!ハニーフラーーシュ!(カッ!)」
 それぞれの(ハニー)の口から一斉に「ハニーフラッシュ」と呼ばれる、超音波の様
な波動が吐き出され、互いに共鳴しあったその超音波は、瞬時にして一つに纏まり、強
大な「ハニーフラッシュ」となる。
 そして、その増幅された「強大ハニーフラッシュ」は・・・由香里を直撃した!
「え?!(ボワァワワワ!)きゃあああ!?」
「(バボーーーーーン!)よっしゃああ!まずは一人!!」
「ゆ、由香里!?」
 爆発による煙の向こうに消えた由香里に、和美は叫ぶ!
 だが・・・
「ホーーーッホッホッホ!!その程度の攻撃が(しゅわわわわわわわ)この妖刀春雨に
 効くもんですかってぇの!」
 必殺の筈の「ハニーフラッシュ」は、由香里の持っていた妖刀春雨によって築かれた
光のフィールドで弾かれていたのだ・・・
「ハ、ハニャ・・・」
 無傷で高らかに笑う由香里の姿に、(ハニー)達の中に動揺が駆け巡る。
 絶対の自信をもって繰り出した「集団ハニーフラッシュ」が効かない・・・
 そんな一瞬の隙を、和美は逃さなかった!
「必殺!乱撃!(ズガガガガガガガガガ!!)でりゃあ!」
 和美の特殊技能「乱撃」で、瞬く間に粉々になっていく(ハニー)達。
 交互に繰り出されるグレイブとショートソードが、光の筋となって次々と(ハニー)
達を粉砕しているのだ!
「・・・つ、つよい。やっぱり皆さん、強すぎる・・・」
 そんな凄まじい戦闘をする和美達を、呆然と見ていたアネーロだが・・・
「アイヤーーーー!」
 目の前に、かけ声と共に(凶悪ハニー)が躍り込んできた!
「(ガキン!!)あっ!?」
 不意を突かれ、持っていたレイピアを叩き落とされてしまったアネーロに、面構えの
悪い(凶悪ハニー)がドスを構えてジリジリとにじり寄る。
「おぅ!ネーちゃんの相手はワイやで!ん!?(クンクン)ワレ、カラーやな!?隠し
 ちゃいるが、ワイにゃぁ匂いでわかるんじゃい!そのうっとおしい長い耳!このドス
 で切りとってくれるから覚悟せいヤ!」
「い、いやああああ?!」
 言わずと知れた、犬猿の中の(カラー)と(ハニー)・・・
 これは(ハニー族)は自分達に耳が無いので、耳を持っている人間を妬んでいるのだ
が、更に「長い耳」を持っている(カラー族)とは、特に相性が悪いのだ。
 にしても「匂いでわかる」って・・・(ハニー)に「鼻」もあったか?
「余計なお世話じゃあああ!取り敢えず・・・往生せいやああああ!」
「きゃあああ!?霊襲雷撃!!」
 そんなドスを振りかざし飛びかかってきた(凶悪ハニー)に、アネーロは無我夢中で
上級の雷撃魔法を繰り出す!
「(ドンガラガッシャアアアアアン!)アイヤーーー!?!?!?」
 大量の稲妻が落とされ、一撃で(凶悪ハニー)は粉々に砕け散っていった・・・
 だが、アネーロの方もタダでは済まない。
「はぁはぁ・・・き、気力が・・・」
 一気に気力が減ってしまい、その場にヘタリ込んでしまったのだ。
 たかが(凶悪ハニー)如きに、些か高級な魔法を使ってしまった様である。
 コレでは気力の回復には、しばらく時間が・・・
 だが、座り込んだアネーロの前に、またもや(凶悪ハニー)が現れた!
「アイヤーーー!ネーちゃんワイと尋常に(カチャ)うぉ!?こ、この欠片は舎弟!」
 どうやら先程の(凶悪ハニー)とは義兄弟の仲らしい。
 アネーロの周りに散らばっている欠片を手に、涙を浮かべているのだ。
「よ、よくもワシの舎弟を・・・仇は討っちゃる!!」
 そう叫ぶと(凶悪ハニー)は欠片を握りしめながら長ドスを振り上げた。
 だが、アネーロの方は、まともに動くことすら出来ないのだ。
 高々と振り上げられる長ドスに、アネーロは目を閉じる・・・
「も、もうだめ・・・」
「観念せいヤ!(ゴォッ!!)ウオッ!?」
 だが、そのアネーロと(凶悪ハニー)の間に、一つの影が飛び込んできた!
「な、なんじゃあ!?」
「・・・(ひゅうーーーーー)」
 それは破れた番傘であった・・・
 その番傘と(凶悪ハニー)の間に、一陣の風が吹き抜ける。
 そして、傘の裏から低い声が・・・
「・・・ったくよぉ・・・どぉして悪っつーのは無くならねぇのかなぁ・・・タダでさ
 え景気の悪い世の中に、おめーさん達がこの世にはびこってちゃ、おてんとー様はの
 ぼらねーんだよ!てめぇら人間じゃねぇ!(ぶわさっ!)たたっ斬ってやる!!」
 そして長いセリフを終えた番傘の人物は、傘を高々と投げ捨て、ビシッ!とハニーを
指差した!!
 だが・・・
「そりゃワシは『ハニー』やから、人間じゃあ・・・ない」
「・・・あ゛」
 さらりと言い返され(凶悪ハニー)を指差したまま硬直している由香里・・・
 それにしても、番傘など一体どこから持ってきたのだろうか?
「えーと・・・アネーロさん、大丈夫?」
 思いっきりハズしてしまった由香里は番傘を捨て、気力を消費したアネーロを起こそ
うとするが・・・アネーロは思いっきり苦しんでいた。
「うーーん・・・寒いですぅ〜〜・・・」
 別な意味でも気力を消耗してしまったアネーロは、更にグッタリとしているのだ。
「あ゛〜〜〜!アネーロさん、しっかりぃ!!あたしが悪かったぁああ!!」
「・・・」
 呆然とその光景を見ていた(凶悪ハニー)であったが、完全に無視されている事に気
がつくと、長ドスを振り回し怒り狂った。
「こ、コラ!!ワイの仇討ちを邪魔すると、ねーちゃんもドツきまわすぞ!?えぇ!?
 ドツいた上に回すんやど!?もーグルグルと!?」
「なにぃ〜?!やれるもんならやってみなさいよ!?」
「やかましワイ!この(チラッ)・・・嬢ちゃん・・・貧乳やのぉ〜」
「な?!(ぶちっ!)ンだとコラぁ?!」
 由香里、この一言により「理性を持ったまま」バーサークモード発動!
「ぬぁんですってぇ?!あンコラ?!一体、誰が『胸無し』の『洗濯板』の『絶壁娘』
 の『つるつるペッタン』だぁぁぁぁ?!えぇ!?もーいっぺん言ってみなさいよ!?
 どこの誰が『成分無調整低脂肪乳』の『小学校低学年』みたいだってぇえ!?な〜に
 が『貧乳』だ?!小さいことは貧しぃんかぁぁああアアアアアあ゛あ゛あ゛〜!?」
「うぎゃあああああああ?!誰もソコまで言うとりゃせんってえぇええええええ!!」
(ザクザクザクザクッ!バキッ!ゴリッ!トントントントントントントン!!)
 この眼の前で起こっている惨劇に、(ハニー族)が敵であるのにも関わらず・・・
「あわわわわ・・・か、神よ、この哀れなる者の魂をお救い下さい・・・」
 アネーロは、由香里によって「微塵切り」にされていく(凶悪ハニー)が、早く苦痛
から救われる事を神に祈ったのであった・・・


 それから30分後・・・
「ふぅ・・・やっと片づいたわね」
 和美はグレイブを地面に突き立てると額の汗を拭った。
 時間はかかったものの、和美達は見事に(ハニー)の集団を全滅させたのだ。
 だが・・・まだ一人だけ、その残骸を踏みつけている者がいた。
「フン!(ゲシゲシゲシゲシ!!)オラオラ!貧乳で悪かったなぁ!?」
「由香里ちゃん、どうどう♪」
 早苗が、まだ頭に血が上っている由香里を宥めている。
 と、そこに綾子がやってくると・・・
「皆さん、怪我は在りませんでしたか?」
「えぇ、特には・・・」
「あれ?和美ちゃん、腕から血が出ているよ!?」
「あ・・・ほんとだ・・・」
 早苗の言う通り、和美の肘から血が滲んでいる。
 和美は気がつかなかったのだが、硬い(ハニー)に肘を叩き込んだ際に、肘を擦りむ
いていたのだ。
 綾子は和美の腕を取り、地面に座らせる。
「あらあら・・・和美さん、肘を出して下さい」
「ん。ごめんね、綾子」
「・・・」
 和美が綾子に治療をしている間、アネーロは眼下の光景を呆然と見下ろしていた。
 眼下には(ハニー)達の残していった宝石やコインが、太陽の光りを受けてキラキラ
と輝いている。
 とても・・・これだけの数を相手にしたとは、まだ信じられないのだ。
 そんなアネーロの視界の中に何やら動いている者がいる。
 せっせと動いているのは・・・早苗であった。
 早苗はようやく気が落ち着いた由香里と、まだ呆然としているアネーロに向かって手
を振り・・・
「アネーロさーん!由香里ちゃーん!お金拾うの手伝ってぇ〜!」
「おっけぇ〜い!」
「あ、はい」
 早苗の呼びかけに2人は早苗の元に走っていくと、まるで潮干狩りで貝を拾うように
してコインや宝石を拾っていく。
「んんー、結構あるわね♪これだけあれば、和美もお酒は許してくれるかもぉ☆」
「うん!これで、ご馳走が食べられるね♪」
「・・・」
 はしゃぐ由香里と早苗に、アネーロの困惑は更に増していくのであった・・・


 あ、さて・・・その後、和美達は幾度かの休息や戦闘を入れながらも、その日の夕方
近くにはカーグラスの泉に辿り着く事が出来た。
 カーグラスの泉・・・それは深い森の奥で、木々の中にひっそりと隠れていた泉。
 そんな泉の周辺には、時折、水を飲みに来る小さな奇妙な生き物・・・アネーロの話
しでは(ちゃつみ)と言うモンスターらしい・・・それ意外は、特にモンスターも野獣
もいない。
 和美達は陽が落ちる前にと、早速、泉から少し離れた所を選んで荷物と武器を置き、
鎧を脱ぐと、野営の支度にとりかかった。
 だが用心の為にと、和美はショートソードを、由香里は妖刀春雨を、アネーロは短い
レイピアを腰につける事を忘れてはいない。
 そして、作業は皆で分担をして始められた。
「よっと・・・由香里。そっち側もうチョい上」
「あいよ♪」
 メンバーの中でも、力のある和美と由香里はテントを組み・・・
「せぇの『炎の矢』(ゴゥッ!)あら?なかなか火がつきませんね?」
「えぇと、このお鍋と・・・」
 アネーロが魔法で火を起こしている間に、綾子が調理道具を準備する。
 そんな、皆が忙しい中・・・
「む〜ぅ・・・ひまぁ・・・」
 特にナニもすることのない(させてもらえない)早苗は、つまらなそうに膝を抱えて
荷物の側に座り、荷物番をしていた。
 早苗もナニか手伝いたかったのだが・・・
「・・・はぁ〜ぁ・・・ナンで早苗はこんなにドジなんだろぉ?」
 膝を抱えて座っていた早苗は、そう呟くと、深い溜息と共にガックリと項垂れる。
 ナニしろ「料理を手伝いたい♪」と言ったら、由香里にエラい剣幕で凄まれ(文化祭
の際、由香里は『早苗の料理』で、死にそうになった過去を持つ)たし、次に「テント
を張るのを手伝う♪」と言って手伝ったら、モノの見事にこけて、テントの支柱をへし
折ってしまい、和美に素敵な笑顔で「大人しくしててネ?!」と言われたのだ。
 それならばと「ナニか食べ物になるモノを探そう♪」と思ったのだが、よくよく考え
ると、早苗はこの世界(元の世界もだが)の野草やキノコの類は知らないし、野生の動
物を狩ろうにも・・・いや、コレは下手をすると、自分がモンスターの「食料」になり
かねない。
 そんな訳で、暇を持て余していた早苗は、ボケ〜ッと火を起こしているアネーロを見
つめていた・・・のだが。
「む〜・・・ん?」
「せぇのぉ・・・火爆破(ボファッ!)ふぅ、やっとつきました♪」
「んん〜・・・んへ♪」

・・・アネーロさんって、鎧を着けてたから今まで気が付かなかったけど、結構、胸あ
   るんだ♪・・・ふへ☆・・・さ、さわりたひ♪・・・モニュっと☆

「・・・(ゾクッ!)な、ナンでしょう?この寒気は・・・」
「・・・ふへへへへ☆(じゅる♪)」
 いや・・・どうも「ただ、ボケーッと」しているわけでは無いようだ・・・
 と、そんなヨダレを垂らしながら不健康な笑いをしていた早苗に、綾子が鍋を手にし
て歩み寄ってくる。
「あの、早苗ちゃん・・・早苗ちゃん?・・・早苗ちゃん!?」
「え?!あ!(じゅるっる♪)あ、綾子ちゃん。どしたの?」
「あら?早苗ちゃん、そんなにお腹がすいているのですか?ヨダレが・・・」
「い、いや、チョッとね☆んで、どしたの?」
「すみませんが、泉から水を汲んできてもらえませんか?私とアネーロさんは、これか
 ら材料の下拵えをしなくてはいけないので・・・」
「うん!わかった♪」
 綾子に言われ、由香里から「荷物番兼雑用係」を言いつけられていた早苗は、手渡さ
れた鍋を持ち、泉に向かって走り、そして泉にまで来ると、その水の中に向かって鍋を
投げ入れた。
「わぁ、綺麗な水・・・ていっ!(じゃぽん!)」
 ゆっくりと鍋に水が溜まっていくのを見ながら、早苗は泉の中を覗き込む。
 泉は水底から滾々と湧き出し、底がハッキリと見えるほど透き通っている。
 その水面に、投げ入れられた鍋を中心に波紋が広がっていくが、やがてそれも消え、
再び静かに佇んでいく・・・
「(ちゃぽん・・・ごぽ)よいしょっと」
 鍋の中に水が満たされると、早苗は鍋を泉から引き上げて自分の隣に置き、再び泉の
中を覗き込んだ。
「う〜ん。かつみ先生から教えてもらった『女の子を虜にする微笑』って、和美ちゃん
 に通じるかな・・・こうかな?(ニヘッ)こうだっけ?(ニマッ)」
 泉の水面に映る、自分の顔に向かって微笑みかける早苗・・・
 端から見れば「かなり恐い」だろう。
 しかし・・・この時、「更に恐ろしい事」が起きた。
「うーん、うまくできないなぁ・・・ん?」
 ふと見れば「泉の中の早苗」が、妖しい笑みを浮かべているではないか!?
 ふつーの人なら、すぐに怪しむべき事なのだが・・・そこは早苗である。
「こりは・・・やたっ!できたぁ♪バンザ〜イ☆」
 だが、当然のコトながら「泉の中の早苗」はバンザイなどはせず、岸にいる早苗に向
かって手を伸ばしてきたのだ!
 その手は水の中から飛び出してくると、早苗の肩をしっかりと掴み・・・
「(ばしゃ!がしっ!)え!?わ!?ちょっと!わ!うきゃあああ!?(どぶん!)」
 そのまま、岸の早苗を泉の中に引き込んだのだ。
 そして・・・
「(ぶくぶくぶく・・・ザバッ!)・・・ふぅ」
 泉からは「泉の中の早苗」が這い上がってきたのであった。
 早苗は置かれていた鍋を手にすると、綾子とアネーロの方に歩いて・・・
「綾子ちゃん。お水、汲んできたよ」
「まぁ、ありがとうございます。重かったでしょう?」
「ううん、大丈夫♪」
 早苗は綾子に鍋を渡すと、今度は木の側に置かれていた荷物に向かって歩いていく。
 大きな革の袋の隣には、自分のモーニングスター、和美のグレイブや由香里の長船に
混ざって、綾子の焔の懐剣が置いてある。
「・・・」
 早苗は無言で焔の懐剣を服の中に潜り込ませた・・・
「早苗!少しは手伝いなさい!」
「(びくっ!)は、はーい!」


 その頃。
「和美ちゃーん!助けてよぉーーー!(ぶにょん!ぶにょん!)」
 泉の中に引き込まれた「本当の早苗」は、大きな気泡の中で必死にもがく。
 気泡の中に閉じこめられているので、何とか息は出来るのだが・・・いくら早苗が気
泡を叩いても破れないのだ。
「うぅ・・・ぐすっ・・・和美ちゃぁん・・・」
 静寂と閉鎖的な空間に押し包まれた中で、早苗は膝を抱えて丸くなると、静かに泣き
始めていた・・・


                    2


 和美達が食事を終える頃、陽はすっかり落ち、周囲を闇が塗り潰していく。
 森も、野原も、泉の周りも・・・今日も闇の支配する時間がやってきたのだ。
 和美達は焚火を消さないように注意しながら、例の獣達・・・つまりは兄貴達と孝司
を、おびきよせる作戦を立てる事にした。
(ガコン!)
 和美が焚火の燃え盛る炎の中に、薪を投げ込むと、パッと火の粉が上がり、皆の顔を
暗闇の中に一瞬浮かび上がらせた。
 その焚火の光を見ながら由香里は腕を組み、考える。
「この焚火の明かりを見れば・・・3人は来るんじゃないかな?」
「でも、それだけで来るかなぁ?」
「うーん・・・あつっ・・・う〜む・・・」
 由香里が焚火の熱気に顔をしかめさせながら考え込んでいると、アネーロが不安気な
表情で手を挙げてくる。
「あの・・・獣と獣使いって、皆さんのお知り合いなのですか?」
「え?・・・えぇ、多分ですけどね。まぁ、この世界にも『素手でモンスターをブチの
 めす人間』がいれば別ですけど・・・います?」
「・・・」
 そんな由香里の言葉に、アネーロの頭の中に浮かんだのは・・・

・・・えと(デカント)に(バルキリー)に・・・あと(パワーゴリラZ)かな?

 残念ながら「人間」は浮かばなかった。
 その横で、綾子は大きな溜息をつくと、両手を胸に合わせて悲しそうに呟く。
「大下さん達、可哀想ですわ。きっと、お腹すかせているのでしょう・・・」
「ん?なんで綾子?新聞で読んだ限りだと、大下さん達は10人分の食料を・・・それ
 も2日分盗っていったのよ?幾らナンでもまだ持つでしょ?」
「でも前に、龍さんと夏美さん、それに大下さんと村田さんでお食事をしに行った時、
 お二人だけで20人分ほど召し上がっていたのです。きっと、今ごろ・・・」
「そうか・・・餌でつってみるか」
 綾子の話を聞いていた由香里は、ポンと手を打つと、袋から保存食の干し肉を一切れ
取り出した。
 そして木の枝に肉を刺し、焚火の側に置くと・・・
(じゅーーーー)
 干し肉から肉汁がほとばしり、青い煙と共に、香ばしい匂いが辺りに流れていく。
 由香里の意図するところは判るのだが・・・和美は肉を眺めながら首を捻った。
「こんなんで来るのかなぁ・・・」
 だが、由香里は肩を竦めるだけだ。
「さぁね。でも他に考えられる作戦もないしね・・・さて、用意も出来たことだから、
 今晩の歩哨を決めない?」
「そうねぇ・・・今日はどうやって決める?」
「う〜む。異世界らしく『拳』でってのは?!」
「はいはい・・・ジャンケンね」
「・・・ぅ」
 と、由香里が行き場を失った拳を震わせていたその時・・・
「あ、早苗と綾子ちゃんでやる!」
 なんと、早苗が綾子のを手を取りながら手を上げたのだ。
「ん?珍しいわね?」
「どうしたの?急に?」
「えと、たまにはお役に立たないと・・・」
「そう?そんじゃ、お願いするね。アネーロさん。先に休みましょう♪」
「あ、はい・・・早苗さん、綾子さん、お願いしますね。夜は悪霊の類がよく出ますの
 で気をつけて下さいね」
 さっさとテントに潜っていった由香里達だが、和美は途中で振り返ると早苗をじっと
睨みつけた。
「・・・早苗」
「は、はい?」
「あんた、綾子にナンかしたら、ただじゃおかないわよ?」
「・・・和美ちゃん・・・妬いてくれるの?」
「(ぺんぺんぺんぺん!)おやすみっ!」
 和美は早苗の頭を叩くとテントに潜ったのだが・・・
「・・・なんだろ・・・いつもと感触が違うな?」
 和美は手を見つめて、首を傾げていた。


 さて、焚火の側に残った綾子と早苗だが・・・
「(ガコン!)・・・あら?」
 綾子は薪をくべる早苗が丸腰であるのに気が付いた。
「早苗ちゃん、武器を持たなくてもよろしいのですか?私は魔法使いですので、特には
 持っていませんが・・・」
「あ、忘れてた・・・んじゃ、取りに・・・恐いから綾子ちゃんも一緒に来て・・・」
「まぁまぁ・・・よろしいですわよ」
 だが、早苗は何故か武器を置いてある筈の大きな木の所ではなく・・・泉の方に綾子
を引っ張っていくのだ。
 綾子に不安が募る・・・
「早苗ちゃん・・・何処にいくのですか?」
「えへ!ないしょ♪」
 早苗はそう言って、どんどん綾子を引っ張っていく。
 そして、一本の大木の前に来ると早苗は綾子を木に押さえつけた。
「早苗ちゃん?・・・ぁ!?」
「・・・」
 だが、早苗は何も言わず、いきなり綾子に唇を押しつける。
 逃げようとはしたのだが、腕でしっかりと押さえつけられた綾子は、ただ身をこわば
らせるばかりであった。
「・・・」
 早苗の手が、服の下に潜り込む・・・
 いつもの早苗ならば、その手は「綾子の服の下」であろうが、今の早苗が潜り込ませ
たのは「自分の服の下」だ。
 そして、その手が再び外に出た時には、早苗の手は焔の懐剣を握り締めていた・・・
「ん・・・」
 だが眼を閉じ、小刻みに震える綾子はそれに気が付かない。
 綾子の白い首筋に、焔の懐剣の鋭い切っ先が、ゆっくりと迫る・・・と、その時。
「(どどど・・・)ん?」
 綾子の首筋に刃先が触れる寸前、早苗は遠くから響いてくる地響きに唇を離した。
(どどどど・・・バキッ・・・どどーーん)
 遠くから地響きだけではなく、木の倒れる音もするのだ。
「(ドドドド・・・)・・・一体、何が!?」
 そんな早苗の注意が反れた隙に、綾子は顔を紅潮させながらも力一杯に叫ぶ。
「か、和美さーーん!!」
「ちっ!」
「(ドカッ!)あくっ!?」
 綾子に叫ばれてしまった早苗は、舌打ちをすると激しく綾子の首を押さえつける。
 木にしたたか頭を打ちつけられ、意識が遠のく綾子が見たのは、悪鬼と化した早苗で
あった。
「お前だけ先に始末してやるよ♪」
「あなた・・・早苗ちゃん・・・じゃ・・・ない」
「遅いよ・・・死ね!」
 そして偽早苗が懐剣を高々と振り上げた・・・次の瞬間!
「肉はドコじゃああああああああ!?」
「肉はどこッスかぁぁっぁぁあぁ!?」
「なに!?け、獣ぉ!?」

 超!兄貴達、推参!!

 ポージングをしながら華麗なステップを踏み、全力で・・・しかもソニックブームを
巻き上げながらの大下と村田が、こちらに向かって一直線に駆けてきたのだ!
「く!くるなああ!」
 偽早苗は懐剣を振りあげながら、心からの悲鳴をあげたのだが・・・

 教訓:兄貴は急に止まれない。

(どっかああああん!)
 全速力で走ってきた艦載機の様な兄貴達に跳ね飛ばされ、偽早苗の身体は高々と宙に
舞い上がった後・・・
(ビッターーーーーン!)
 激しく地面に叩きつけられた。
 そして、綾子と偽早苗の叫び声を聞いて、テントから飛び出して来た和美と由香里で
あったが・・・
「どうしたの綾子!・・・お!?」
「あ!大下さんに村田さん!?」
 和美達は焚火の前で肉に貪りついている大下と村田が居る事に驚いていた。
 一方、瞬く間に肉を食いつくし、指についた肉汁を丹念に舐めながら、大下達の方も
驚いている。
「おぉ!?お二人ともナゼここに?」
「あと、綾子お嬢様も何故に倒れているっスか!?」
「え?!」
「あ?!綾子!どうしたの!?」
 由香里は慌てて駆けつけると、兄貴達の衝撃波に飛ばされて倒れていた綾子を抱き起
こして揺さぶる。
 幾度か揺さぶってやると、小さな呻き声と共に、綾子が目を開いた。
「・・・っ・・・由香里さん・・・早苗ちゃんが」
「・・・やっぱりか」
 由香里は綾子を抱き抱えてくると、焚火の近くに座らせる。
「よいしょっと・・・和美、やっぱり早苗に襲われたらしいわよ・・・」
「・・・二人だけにしたのが間違いだったわ・・・」
 グレイブを握りしめる和美の手に、力がこもった・・・その時!
「ヤヤッ!?和美嬢サン!」
「どうしました!?村田さん!」
 村田の大声に、由香里と和美は武器を構えて周囲を見回した!
 敵が現れたのか?!
「もう肉はないッスか!?」
「ワシにも!」
「・・・は、はい」
 和美は鞄の中から干し肉を取り出して、キチンと両手を揃えて待っている兄貴達の掌
に乗せようとすると・・・
「あぁぁぁ・・・か、かずみちゃ・・・」
 呻く様な低い早苗の声が、和美を呼んでいる。
 和美は大きな溜息をつきながら、早苗の方に振り返った。
 だが・・・
「早苗!あんたって子は、どうし・・・(ぼたっ)」
「あァ!モッタイないっス!」
「食べもんは大切に・・・せん・・・と」
 和美の手から、落ちた肉を拾っていた兄貴達ですら、こちらに向かって歩いてくる物
体に、思わず絶句する。
 由香里も、綾子を後ろにさがらせると刀を抜いて構えた。
 ゆっくりと歩いてきたのは、早苗であるが・・・早苗ではない。
 グシャリと押しつぶされた顔、あらぬ方向に向いている手足・・・
「あんた誰なの!?」
「モンスターね・・・」
 武器を構える和美と由香里の前で、早苗はゆっくりと変形していく。
「・・・かずみちゃ・・・かずみ・・・」
 そして和美と由香里の前に、まだ和美の名を呼ぶスライムが横たわったのだ。
 ゆっくりと迫るスライムに、和美と由香里は武器を構え、じりじりと後ずさる。
「由香里・・・これが例の邪妖精ってヤツかな?」
「いや・・・どっちかってと、その使い魔・・・って所ね」
「(ぷるるるるるん)・・・由香里ぃ・・・これ・・・切れるかな?」
「さぁ・・・ちょっと解らないわ・・・この間の『ぷりょ』の時を考えると・・・」
 由香里はそう言って苦々しげにスライムのゼリー状の身体を睨み付ける。
 とても・・・斬ったくらいでは死にそうにもない。
 そんな全く攻撃を仕掛けてこない和美達に、ゆっくりと蠢動を続けながら近づいてく
るスライム・・・
 そして、和美達が更に一歩後にさがったその時・・・野太い声が響いた!
「我々にィィィ!」
「まかせるッス!」
 残った肉を喰い終わった我らが兄貴達!串を投げ捨てるとムキッ!と立ち上がり、男
らしくムキャ!っとポージングを始めたのだ!
「(ムキャキャ!)ぅ・・・任せました」
「うん・・・お任せしますね」
 和美と由香里は、あっさりと後ろに引き下がり、代わって兄貴達がズイと踏み出し、
スライムの前に仁王立ち!
 そしてぇ〜!
「村田ぁ!いきなりアレをいくゾォ!」
「オゲェ兄貴ッ!(がしっ!)スタンバイOK!ッス!」
 二人は腕を組み、互いの背中を合わせると「気合!」を入れ始めた!
「ヌォオオオオオオオオオオ!」
「ォォォォォォォォォォオオオオ!」
 兄貴達の額から汗がほとばしり、血管が浮かび上がる。
 徐々に兄貴達の身体が真っ赤になっていく・・・フツフツと、兄貴達の中で何かが煮
えるような感覚・・・そんな感じが、近くにいた和美達にも伝わってきていた。
 和美は近寄りがたい闘気を発する兄貴達に、思わず一歩退く。
「ま、まさか・・・大下さん達、魔法を使えるの?」
 驚く和美だが、残念ながら和美の推測は間違っていた。
 兄貴達には「魔力」のパラメータは無い。
 その代わりに「気合!」のパラメータがあるのだ。
「和美・・・あの2人を『人類』と考えちゃダメよ・・・(フワリ)お!浮いた!?」
 そうこうしている内に兄貴達と一緒に、回りの小石が浮き上がった・・・
 そんな、まるでハリアー(英・米国配備の垂直短距離離着陸攻撃機の名称)の様に、
熱気(闘気)を脇の下から噴き出しながら浮かび上がっていく兄貴達に、もはや和美達
は近づく事すらできない。
 そして、遂に兄貴達の「気合!」のゲージがMAXに達し・・・
「いくぞオオオ!漢らしく!!」
「(ゴォオオオオ!)らじゃーッス!!」
 気合と共に闘気の炎を身に纏った兄貴達は浮かびながら叫ぶ!!
「必殺ッ!!!」
「灼熱肉体鼓動(ナイス・バディと読む)ッス!!」
「・・・もう少し、いい名前をつけたらどうですか?」
「おー!すごいすごい♪」
 文字通りの炎の槍と化した兄貴達は、水平にグルグルと回転しながら、一筋の光りと
なってスライムに向かって飛んでいく!!
(どっぱーーーーん!)
 スライムも、この二人に攻撃されたのは、あまりにも運が悪かった・・・
 兄貴達に貫かれたスライムは、あっさりと粉々になって四方に飛び散りながら、その
欠片が蒸発していく・・・これでは再生のしようがない。
 飛び散っていくスライムを眺めながら、兄貴達はポーズを決める。
「フン!たわいのない・・・(ムキャ!)」
「ただの『雑魚』が出しゃばるでないっス!(ムキャキャキャ!)」
「それと『脇役』もネ♪」
「ゆ、由香里御嬢!そりゃ、あんまりでさぁ!」
「そッス!つれないッス!」
「あ〜、ナニも聞こえなぃ〜♪」
 涙を流して抗議する兄貴達に耳を塞いでいた由香里であったが、その由香里の腕に、
まだ熱いスライムの残骸の一つが・・・落ちた。
「(ペチョン)ん?・・・あちゃちゃちゃちゃちゃ!みず、水、みず!」
「そ、それは(ヒョイ☆)一大事ッス!」
「え!(ガバッ!)なに?!」
「由香里御嬢!水は(ポーイ☆)あそこッスぅ!」
 そんな、あまりの熱さに走り回っている由香里の姿に、村田は目の前に走ってきたそ
の由香里をヒョイと持ち上げると、ナンと「泉」に向かって放り投げてくれたのだ!
 悲鳴と共に宙を舞う由香里・・・だが。
「きゃああああああぁぁぁぁ・・・あ?!」
「由香里!?(ゴイ〜〜〜ン♪どっぷ〜ん!)ん?今、由香里が水に落ちる音の前に、
 なんかヘンな音がしませんでしたか?!」
「そういや・・・」
「あ、兄貴。ワシには(ゴン☆)って音、聞こえたッス」
 奇妙な音を聞いた和美と兄貴達が慌てて泉に走ると・・・
「・・・由香里?・・・きゃああああ?!由香里!早苗も!?」
「た、たいへんじゃ!一大事じゃぁ!」
「は、早くタスケるッス!れっつ、らいふせーびんぐッス!」
「ブクブク・・・」
「ウニャ〜・・・」
 泉の中には、頭に大きなコブを作った由香里と早苗が浮かんでいたのであった。


 その頃、暗やみに包まれた黒い泉・・・
「(コポコポ・・・プチン)ふむ・・・やられおったか」
 黒い泉から浮き出た小さな泡に、小さな呟き声が響く・・・
 しかし、その呟きの主は・・・誰も居ない。
 そこに「いる」のは・・・いや、そこに「ある」のは、真っ赤に燃える「炎」と巨大
な「岩」の塊だけなのだ。
 だが、呟いたのは紛れもなく・・・「炎」だ。
 その呟き声に「岩」も動く。
「ヤハリ、すけーらモ、カクセイシナクテハ・・・」
「解っておる・・・されど、裕美様は早急に事を済ませたがっておるでのぉ・・・妾と
 て、早よう異世界の者達の肉・・・喰ろうてみたいわ・・・」
「ヤムヲエナイ・・・ワレラデ・・・ヤルカ・・・」
「そうよのぉ・・・グズグズして、四天王達を怒らせる訳にもゆかぬし・・・行くか」
「・・・オォ」
 そして、呟きは闇に紛れ、消えていった・・・


                    3


「・・・とまぁ、この世界に来ちゃったんです」
「そうだったんですか・・・御嬢達も、この世界に引き込まれたんですか・・・すいや
 せん、綾子嬢様まで巻きこんじまって・・・」
「申し訳ないッス・・・」
 さて、今までの経緯や「この世界」のコト、更には裕美のことを滔々と和美達から聞
かされ、深々と頭を下げる兄貴達。
 だが、スライムの結界が切れ、自力で泉から這い上がってきた早苗と、出会い頭に思
いきり頭をブツけたせいで「また」コブの出来た由香里は、水で冷やしたタオルを頭に
乗せてブンむくれである。
 あ・・・ちなみに早苗の方は気絶していた。
 そんな由香里はタオルで頭を押さえながら、ジトーーっと兄貴達を睨んだ。
「・・・んじゃ、あたしはどーでもいいわけですか?」
「い、いや、そういうわけじゃぁねーンですが・・・すいやせん!」
「も、申し訳ないッす!由香里嬢さんもっス!」
 ブンむくれの由香里に、慌てて大下と村田は慌ててペコペコと頭を下げている。
 そんな情けない兄貴達の姿を横目で見ていた和美であったが・・・ふと、何かを忘れ
ている様な気がする。

・・・あれ?何だっけ?なんか、重要な事・・・えーと、獣は捕獲したし・・・はて?
   獣・・・!?獣使い!?・・・孝司?!

「あーーーーーーっ!」
 突然叫んで立ち上がる和美に、皆一斉に顔を上げた。
「どうしやした?!」
「なんッスか!?」
「大下さん!村田さん!孝司は!?孝司はどうしたんですか!?」
 だが、その和美の叫びに大下と村田はチラリとお互い視線を交錯させ言葉を濁す。
「そ、それが・・・えーとぉ・・・」
「ちょっとぉ・・・小僧は旅に・・・」
 口ごもる2人に、綾子は「手を合わせ」るが、和美は「拳を握る」。
「お願いです。話して下さい・・・」
「お願いしますよぉ〜〜!?」
 二人にそう言われては、話さない訳にはいくまい・・・
 兄貴達は暫く顔を見合わせていたが、シブシブと話し始めた。
「実は・・・あっしら、ご存知の通り大喰いです」
「それで、あちこちの村から食料を・・・ちょ、頂戴してたんスが・・・」
「強奪でしょ。新聞読みましたよ」
 まだ、ブスッとしている由香里に、またすかさず村田が謝る。
「す、スンマセンっす」
「それで、孝司さんは?」
「へぇ、今日の夕方の事でさぁ・・・」


 それは、今日の夕方に孝司と兄貴達が今晩の食料を「恵んで」もらう相談をしていた
時のコト・・・
 孝司は草むらに、これまた「ちょうだい」してきた地図を広げる。
 地図に描かれた街には、まるで撃墜マークの様に夥しい数のバツ印が付いており、そ
の印を睨みながら孝司は溜息と共に腕を組んだ。
「はぁ・・・どうします?もう、付近の村を襲う訳にはいきませんよ?」
「それは何故だ小僧?」
「だって、ここから一番近い村か町で、約半日かかるんですよ。いくら2人の健脚でも
 無理でしょう?・・・それに、そんな元気もなさそうですし・・・」
「(ぎゅぃーーーー♪)・・・確かに」
「兄貴ィ!ハラへったっす!ハラへったっっす!ハラへったッス!!!」
(ドッタンバッタンドッタン!)
「えーい!我が儘を言うでない!こっちまで腹がへるでは(ガサッ!)・・・む?」
 と、その時、草むらで何かがガサリと音をたてた。
 すかさず草むらの前に、兄貴達が立ち塞がる。
「・・・モンスターでしょうか・・・」
「わからん・・・(バサッ!)お!?」
 そんな3人の前に飛び出してきたのは、一匹の(うっぴー)と言うモンスター・・・
「うっぴー!・・・うぴ?」
 だが、勢い良く飛び出した(うっぴー)は首を傾げた。
 彼は今日まで数多くの人間や他のモンスターと対戦をしてきた、言わば「歴代の強者
のうっぴー」であるのだが・・・
「・・・(じゅる♪)」
「・・・(ごくっ☆)」
「・・・(ズルッ♪)」
「・・・うぴ」
 自分を見て「ヨダレ」を垂らしている人間を見たのは、これが初めての体験であった
のだ。
 おまけに目の前の人間達は何やらタダならぬ相談をしている。
「・・・兄貴。コレ、うまそうッスね(じゅる♪)生でもイケるッスかね?」
「そうだな・・・丸焼き・・・いや、レアの方が(ずるずる☆)旨いかもしれんぞ?」
「そうですね・・・この際、贅沢は(ごきゅ♪)言えませんね」
 そんな3人の人間を目の前に(うっぴー)は必死に考えた。

・・・もしかしたら、非常に危険な状態ではないのか!?

 そして、(うっぴー)は最善策をとる事にした。
 つまり・・・
「・・・うっぴーーーー!!(しゅたたたたたた!)」
 全速力で逃げたのである。
 それを見て、3人は口々に叫びながら足を踏み出したのだが・・・
「お!逃げた!」
「ま、待つッス!わしらの晩飯ッス!」
「まてぇ!・・・(ガツッ!)あっ!?」
「なに?!」
「オゥ!ッス!」
(どかばきぐしゃ!)
 先頭にいた孝司が、逃げ出した(うっぴー)を追いかけようとして・・・コケた。
 当然、それにつまずいて、大下と村田も折り重なり・・・


「・・・で?」
「へぇ・・・それで罰として、食えるモンスターをおびき出す餌にと、木の枝に吊るし
 てたんですが・・・そしたら、肉の焼ける臭いがしたもんで・・・」
「し、辛抱たまらずココに来たんッス」
「た、孝司は?!」
「・・・すいやせん」
「忘れたッス・・・」
 村田の一言に、綾子と和美の顔が青ざめる。
 だが・・・
「大丈夫よ、ちょっとやそっとじゃ死にゃぁしないって。さ、寝よ寝よ♪」
 薄情なコトこの上ない由香里・・・さっさとテントに潜り込んでいく。
「そんなぁ・・・綾子!(ガシッ)私、孝司を探してくる!」
「待って下さい!!」
 グレイブを手にするなり立ち上がった和美に、綾子は慌てて和美の手を握りしめなが
ら兄貴達の方に振り返った。
「独りでは危険です!・・・大下さん!」
「へいっ!」
「村田さん!」
「オッス!」
 そして、綾子は和美から手を離すと、兄貴達に両手を組併せて「お願い」をする。
「お願いです、お二人とも和美さんについて行ってください・・・」
 綾子の「お願い」は、この二人にとって絶対であった。
 たとえこの場に夏美や龍が居なくても、綾子の頼みは絶対である。
 彼らにとって女神である綾子の「お願い」は神託なのだ・・・
 二人は揃ってビシッ!とポージングをすると、歯をキラリと光らせる。
「わかりやしたぁ!」
「さ、ささ。小僧を探しにイクっス!」
「え!?ちょ、ちょっと、村田さん!」
 村田は和美をヒョイと担ぎあげると、肩に乗せて走り出していった・・・


 その頃・・・
 蘇るは忌まわしき記憶・・・
 遙かなる古から続く、過去の欠落した歴史・・・
 追い求め、探し求め、辿り着いた・・・この世界。
 逃げ出したかった?
 耳を塞ぎたかった?
 目を覆いたかった?
 全て忘れたかった?
 だが・・・その邪なる想いが・・・
 我が身を変え、試練を与えたのだろう・・・
「・・・」
 もの言わぬ石像は、ただ静かに佇んでいた・・・


「・・・おかしいな?」
「おかしぃっスねぇ?」
 森の中で孝司を探し回っていた和美と兄貴達だが、少し開けた場所で立ち止まると、
キョロキョロと辺りを見回している。
 村田に肩車をしてもらっている和美は、その村田の頭の上から、大下と村田を見おろ
して叫ぶ。
「どうしたんですか!?孝司はどこですか?!」
「いや・・・この辺りに吊るしておいたんですが・・・いねぇんですよ」
「く、喰われち(サクッ!)イデデデ!こ、こら、頭に爪を(ズブリ!)痛いッス!」
 だが、和美は更に村田の頭に爪を突き立てた。
「そんな無責任な事を言ってないで!しっかり探して下さい!」
「いや、しかしですなぁ・・・」
「よ、夜も遅いっス。今日は諦めた方が・・・小僧は大丈夫ッス。ワシには判るッス」
 そんな2人の言葉に、和美は・・・突然、泣き始めた。
「・・・くすん。元の世界に帰ったら、二人が孝司を見殺しにしたって、龍さんと夏美
 さんに言いつけてやるぅ・・・しくしく・・・」
 もちろんウソ泣きである。
 和美は顔を手で被いながらチラリと二人の反応を見ると・・・
「そ、それだけはカンベンを!」
「い、命がけで探すっス!」
 村田は急いで和美を草むらに降ろし、大下と共に森の奥へと全力疾走!
「こ、こぞおおおぉぉぉぉ!」
「ど、どこッスかぁあああ!」
「(バキン!ボキン!・・・ズズーーーン)・・・あ、あの人達は木をなんだと思ってい
 るんだろ・・・(メキョ)え!?(メキョメキョ!)わわわわ!」
 呆然として兄貴達が木をなぎ倒して駆けて行くのを見ていた和美だが、気が付けば、
その倒された木の一本が、自分めがけて倒れてくるではないか!?
「た、たーおれーるぞぉぉぉ!?」
 それは、倒す人が叫ぶ言葉だ。
「(メキョメキョメキョ!)ッキャアアアあああああ!?」
 必死に腕を前にかざす和美。
 だが、それは「正面から来るダンプカーを、車の中で避けようとする」のと同じコト
であって・・・
「イヤあああああぁぁぁぁぁ!(メキョメキョメキョ!ぷちっ☆)」
 つまりは無意味であった。


 翌朝・・・
 テントの中で、由香里は久しぶりに、すがすがしい朝を迎えた。
「ん・・・んん〜♪」
 由香里は毛布の中で大きくのびを一つすると、毛布を跳ね除け、鎧とマントを身につ
けながらテントの中から這い出す。
 まだ、うっすらと靄(もや)が掛かった朝の森は、その露に塗れた草花達が、木々の
隙間から僅かに漏れた朝日を乱反射させて由香里を出迎えた。
 由香里はもう一度グッーーーと、大きく伸びをしながら、森の新鮮な空気を胸一杯に
吸い込む。
「すぅーーーー・・・ハァ〜〜〜!んん〜〜っ・・・やっぱり自然の中で向かえる朝は
 気持ちがイイわねぇ♪・・・しっかし・・・」
 そんな身体中に洗練された気が満ちていく快感に浸っていた由香里であったが、チラ
リとテントの中を見て溜息をついた。
 テントの中では、まだ・・・
「く〜〜〜♪」
 早苗と・・・
「す〜〜〜☆」
 アネーロが眠り続けているのだ。
 早苗はともかく、まさかアネーロまでもが、こうも「どんくさい」とは・・・
「・・・アネーロさんて、度胸があるというか、鈍感なのか・・・」
 確かに、夕べの騒ぎにも気付かずに眠っていたくらいであるが・・・由香里に言われ
てはおしまいである。
「やれやれ・・・あり?」
 首を振りながら焚火の方に歩み寄った由香里であったが、消えかかった焚火の側で、
綾子が「独りだけ」で眠っているのに気が付いた。
 確か、夕べは和美と歩哨に立ち、後から来た兄貴達も居たはず・・・
 由香里はそっと綾子を揺り動かした。
「綾子・・・綾子・・・」
「・・・すーーーー」
「はぁ・・・しょうがないわね(パサッ)」
 だが綾子は静かな寝息をたてるばかりで、起きようとはしない。
 由香里はしかたなく、自分の羽織っていたマントを綾子にかけてやる。

・・・さてと、取りあえずはアネーロさんだけでも起こしておくかな?早苗じゃヤクに
   立ちそうもないし・・・

 由香里はそう考えるとテントの中に再び潜り込み、毛布の中で丸まっているアネーロ
を起こそうと近寄ったのだが・・・
「・・・ん?」
 見れば、アネーロの頭に巻いていたバンダナが外れ、その長い耳が由香里の目の前で
跳ねているではないか。
 由香里はそのアネーロの長い耳をしげしげと見つめていたが・・・

・・・へぇ〜・・・よく本なんかでは耳の長い種族のお話しがあるけど、実際に間近で
   見てみると、便利なのか不便なのか・・・やっぱ動くのかな?

 そっと手を伸ばすと「ツッ〜〜♪」とアネーロの耳の縁に指を滑らせてみた。
「・・・ん〜?」
「(ツッ〜〜♪)んっ・・・(ぴるぴるぴるぴる♪)」
「・・・ほぉ☆」
「(ツ〜〜♪)くー・・・(ぴるぴるぴる♪)」
「ん〜♪」
 すると、由香里がアネーロの長い耳の縁を指でなぞる度に、まるでウサギが耳につい
た水を払うような仕草で、耳がピルピルと動くではないか。
 由香里はおもしろがって、更にアネーロの耳を触り続けた。
「んふ♪」
「くー(ツツー、ぴるぴる♪ツツツーー、ぴるぴるぴる♪)」
 そんな調子に乗っていた由香里であったが・・・
「くぅ〜☆これはおもろい♪・・・つ、次は・・・」
「ん〜・・・(フゥーーー☆)」
「うっきゃあ(ガバッ!)ああああああ!?」
「うわわわっ!」
 突然耳に息を吹きかけられて跳び起きたアネーロに、由香里は毛布ごと跳ばされる。
「み、耳が!耳が!くすぐったいぃ!」
 起きるなり必死に耳をかきむしっているアネーロに、由香里は毛布をよせながら起き
あがると頭を掻いた。
「あ、あはは・・・おはよう、アネーロさん」
「ゆ、由香里さんですか!?今の!?」
「ごめんごめん。あんまり寝顔がカワイかったもんで、つい♪」
 遂に、早苗と同じ世界に足を踏み入れてしまった由香・・・
「む?!そこだぁ!(ズビャァッ!)」←大斬り
 我が人生、悔いだらけ・・・
 由香里は長船の血糊を綺麗に拭うと、アネーロに留守を頼んだ。
「さてと・・・アネーロさん。あたし、ちょっと和美達を探してきますんで、すいませ
 んが、ココで待っててもらえますか?」
「あ、はい。判りました」
 由香里はテントから出ると、腰に刀を差し、森に向かって歩き始めたのだが・・・
「と言ったモノの、和美達がどこに行ったのかは・・・あ・・・一目瞭然ね」
 静かな筈の森の中は、まるで台風か竜巻が通った跡の様に凄まじい有り様・・・
 由香里は兄貴達の駆け抜けた事によって出来た倒木のラインを見ると、それに沿って
森の中を歩き始めたのであった・・・


 そして・・・同じ頃。
「兄貴ぃ・・・」
「ん?どうした?」
「ここ・・・ドコっスかねぇ?」
「さぁ・・・わしにもわからん・・・」
「うぅ・・・和美ぃ・・・」
 兄貴達は、ようやく見つけた孝司を小脇に抱え、森の中を彷徨っていた・・・


                    4


 さて、由香里が木の下敷きになってのびていた和美を背負って帰ってきたのは、もう
陽も高い正午過ぎの事であった。
 アネーロの話では、この先の森を一つ抜ければ次の町に着く筈である・・・のだが、
一行はテントから全く動いてはいなかった。
 いや・・・正確には「動けなかった」のである。
 それは、和美が・・・
「和美ちゃん、まだ痛い?」
「・・・むが」
 大ケガをしているのだ。
 綾子の治癒の魔法だけでは足りず、アネーロの持っていた薬草を全身に貼られた上に
包帯でグルングルン巻きになっており、文字通りに手も足も出ない状態の和美。
「これでは、今日は出発できそうにもありませんね・・・」
 綾子は和美の足の辺りに手を置きながら、治療をしていく。
 由香里も刀の鞘で肩を叩きながら頷いた。
「まぁ、あの人達がいたら、和美も町まで運べたしょうけどね〜♪」
 そんな由香里の言葉に、和美が何やら喚きたてる。
「むがむがむが!」
「ん?どしたの和美ちゃん?え?なになに・・・えーと、和美ちゃんは『あの2人のせ
 いで怪我をしたんだ!』って言ってるよ?」
「やれやれ・・・それにしても和美。あんた、名前の通りの運命を辿るなんて、珍しい
 体験をしたもんね?」
「むがむが?」
「ふむふむ。和美ちゃんは『どういうこと?』って言ってる」
「あんたの名字よ♪文字通りの『木下』になった和美ってネ☆」
「むがむがむがむが〜ッ!」
「あわわわ!?か、和美ちゃん!それはダメだよ!」
「ん〜?早苗、和美はナンて言ってるの?」
「放送禁止用語ぉ〜」
「あ、そ・・・あ〜ぁ(ゴロン)」
 早苗の通訳に由香里はヒョイと肩をすくめると、草むらにゴロリと横になった。
 ポカポカとした陽気に誘われてだろうか?何故か妙に・・・眠いのだ。
 どうやらそれだけではなく、疲れも溜まっているらしい・・・

・・・良く考えたら・・・最近、戦闘しっぱなしだもんな・・・そういや、ここんトコ
   肌の手入れすらまともにしてないっけ・・・

 見上げた空は今日もいい天気で、ポッカリと白い雲まで浮かんでいる。
 それは元の世界と・・・何ら変わらぬ風景。
 自分は今、異世界に来ているのに・・・
 夢にまで見ていたハズの世界なのに・・・
 自分が思い描いたままの、世界なのに・・・

・・・ナンで上手くいかないんだろ・・・

「はぁ〜〜〜〜・・・(くぅ〜〜〜♪)」
 あまりにも強く見せつけられた「異世界の現実」に、大きな溜息をついていた由香里
であったが、その意識は次第に夢の世界へと溶け込んでいった・・・
「はい。コレで終わりです。由香・・・あら?眠ってしまわれましたか・・・」
 そんな眠ってしまった由香里に、和美の治療を終えた綾子は、荷物から毛布を取り出
すと、そっと掛けてやる。
 そこには、異世界の戦士としての勇敢な「由香里」ではなく、まだ、10代のあどけ
なさを浮かべている、普通の女の子の「由香里」の姿があった・・・
「ゆっくりと休んでください由香里さん・・・ところで、アネーロさん」
「はい?」
「裕美さ・・・ええと、魔女のお城は、あと、どのくらいなのでしょうか?」
「そうですね・・・あの山が見えますか?」
 そう言って遠くに聳え立つ山を指さすアネーロに、綾子は黙って頷く。
「あれがサーレン山と言う山です。そして、その中腹に・・・ちょっと今は森が邪魔に
 なって見えませんが、そこに魔女の城はあります。順調にいけば・・・あと、6日位
 で着くかと思うのですが・・・」
「そうですか・・・あの、それと、幾つかお聞きしたいことが・・・」
「なんでしょう?」
「あの・・・魔王って、なんですか?」
「あ・・・えーと、魔王とは、この世界のモンスター達を統治している魔物の王様のこ
 とです。今はプリンセスですけどね♪ただ、最近はそのプリンセスも、魔界に住むの
 嫌がって不在だとか・・・あ。そう言えば・・・」
「そう言えば?」
「確か・・・今のプリンセス『来水 美樹』は、皆さんと同じように『異世界から連れ
 てこられた』とか言う噂話を聞いたことが・・・」
 アネーロのその言葉に、綾子は驚いた。
 自分達以外にも、異世界から来た人間がいる・・・
「本当ですか!?」
「えぇ・・・ただ、そんな噂だけです。私にもハッキリとは解りません・・・」
「魔王さんまで・・・あ、ちょっと失礼しますね」
 綾子は気力が回復してきたのを感じると、再び和美の治療を行う。
「和美さん、まだ傷は痛みますか?」
「・・・むが」
「もう少し我慢して下さいね・・・」
 綾子は和美の身体に手をかざし、治療を施していく・・・
 それを寝転がりながら黙って見ていた早苗だが・・・どうにも「暇」である。
 和美はこの有り様だし、由香里は寝ているし、綾子は和美の治療をしていて遊んでく
れる人がいない・・・ってな訳で、文字通りアネーロの所に転がっていった。
「アネーロさーん♪(ごろごろごろ)」
「はい。なんです早苗ちゃん?」
「あのね、あのね、魔王って、宝物・・・いっぱい持ってるのかな?」
「え?えぇ。確か、歴代の魔王達が集めた宝石などが、お城に沢山あるとか・・・」
「ふーん、宝石とか?お金とか?」
「そうですね。あと、禁断の魔法道具も・・・」
「魔法道具?」
「はい。確かゼス王国から『賢者の胆石』を、ヘルマン帝国からは『愚者の骨盤』を、
 JAPANからは『おにぎり村正』と言う刀を、シャングリラから『淫業の杖』を、
 あとリーザスからは・・・」
 アネーロが指折り数えながら、そこまで言った時・・・
「(く〜♪)・・・なに?!」
 その「おにぎり村正」と言うところで由香里の耳がピクリ・・・
「いんごう・・・え?!」
 次に「淫業の杖」と言うところで早苗の耳がピクリと動いた。
 完全に熟睡していたハズの由香里が、やおら起きあがるとアネーロに詰め寄る。
「アネーロさん!今、『鬼斬り村正』って言ったわよね?!」
 早苗も身を起こすとアネーロに詰め寄る。
「アネーロさん!『淫業の杖』ってなーに?!」
 いきなりアネーロに詰めよった2人の迫力に、アネーロは思わず後ずさった。
「あ、あの、お二人に同時に言われても・・・」
「いん・・・」
「アネーロさん!『鬼斬り村正』が魔王の城にあるのね!?!?」
「あぅ・・・早苗ちゃんのまけ・・・」
「は、はい・・・確か・・・先代の魔王ガイが、JAPAN国の、信長と言う魔人との
 10日間にも及ぶ『にらめっこ勝負』で勝った際に奪っていった物だそうです」
「そうだったのか・・・この世界にも『村正』は流れ着いていたのか・・・(ぐぅ♪)」
「でも、剣を抜くと無尽蔵に『おにぎり』が飛び出してくるだけの剣なのですが・・・
 あれ?由香里さん?」
「・・・由香里ちゃん、また寝ちゃった。次は早苗の番だよ♪」
「はい。えと『淫業の杖』とは、その杖を使うと、全ての女性を夜に・・その『淫夢』
 を視させる事が出来ると言われています・・・」
「えっちな夢を・・・(じゅる)・・・欲しい♪」
「えぇ?!魔王のお城にあるんですよ?絶対に無理ですよぉ♪それに男の人が使わない
 と効果がないそうですから・・・」
「んじゃ、早苗は実力でしょーぶだ・・・」
「はい?」
 首を傾げるアネーロに、早苗は「ニヘラ♪」と笑って頷いたのであった。


 夕方。
 今日も太陽が傾き、その姿を地平線の向こうに沈めようとしている・・・
 そしてパーティーの目の前でも、昼型のモンスターが急ぎ足でねぐらに帰っていく。
 だが別に襲ってくる様子も無い事から、アネーロと一緒に薪を集めていた由香里は、
手を止めて、その光景をぼんやりと眺めていた。
 数匹のモンスター達が和美達のテントを通り過ぎていった後、今度は由香里の目の前
を(野良ハニー)が2匹ほど駆け抜けていく。
 どうやら兄弟らしく、大きい方の(野良ハニー)が、遅れて着いてくる一回りほど小
さい(野良ハニー)に向かって叫んだ。
「おーい!早くしろよぉ〜!」
「おにーちゃん!待ってよぉ〜!」
「早くしないと置いていくぞぉ。夜になったら、こわーい人間が出てくるんだぞぉ〜?
 んで、捕まったら『頭からバリバリと食べられちゃう』んだぞぉ〜?!」
「うわ〜ん!イヤだよぉ〜!」
「いや、食わないって・・・にしても、なんだかなぁ〜・・・」
 その光景に思わずツッコミを入れながら、この世界に些かの疑問を感じていた由香里
であったが・・・
「ぐえっ」
「グエッ」
「グエェ」
「ぐえぇ」
「な!?モンスター!?」
 由香里の目の前に、何やら毛むくじゃらのモンスターが4匹、飛び出してきたのだ。
 すかさず刀を抜こうとする由香里だが、アネーロが笑ってそれを押し止める。
「クスッ☆由香里さん待って下さい。この『ヒツジさん』達は、人間を襲ったりはしま
 せんから♪」
「え?・・・ぁ・・・確かに・・・」
 呆然としている由香里と笑顔で見つめるアネーロの前で、その(ヒツジさん)達は何
処からともなく楽器を取り出し、セッティングを始めているのだ。
「まぁ?!もしかして、この『ヒツジさん』達は『美樹ちゃんしげしげカルテット』の
 皆さんなのでは?!」
「・・・へ?」
「グエッグエッ♪」
「やっぱり!この『ヒツジさん』達は、魔王直属の楽団なのです♪滅多にお目にかかれ
 ないんですよ☆」
「・・・へ、へぇー・・・そりゃ凄いわね・・・」
 感動して目を輝かせているアネーロに対して、由香里の目は既にテンとなっている。
 おそらく、自分でもナニが凄いんだかは解らないのであろうが・・・
 そんな由香里の目の前で、ピアノ、フルート、ハーモニカの伴奏に続き、一匹が唄い
始めた。
(チャンチャチャチャチャッチャッチャ!チャラララララ、チャンチャンチャン♪)
「グェェェグェグェグエグエグエ〜♪・・・」
 暫くも由香里とアネーロの前で、軽やかなリズムと、ボーカルらしき(ヒツジさん)
の嗄れた美声が響き渡っていたのだが・・・
「グェグェェェエ♪(チャンチャンチャンチャン!!)グエッ☆」
 一通り演奏を繰り広げていた「美樹ちゃんしげしげカルテット」の皆さん達であった
が、最後に歌を唄った(ヒツジさん)の「しげしげ22号」が、クル〜リ♪と一回りし
た後にキチンと御辞儀をすると、小さなコンサートは終演となった・・・
「(パチパチパチ♪)とっても素敵でした♪はい、コレは些少ですが・・・」
 拍手をしたアネーロはそう言うと、幾らかの金貨を紙に包み、ボーカルを務めていた
リーダーらしき(ヒツジさん)の前足に握らせる。
「グエッグエッ♪」
 そして(ヒツジさん)達は、みんなで御辞儀をすると何処かへ行ってしまった・・・
「とっても貴重な体験でしたね。きっと、これから良い事がありますわ☆」
「・・・あ、そ」
 由香里は頭を押さえると、音楽の余韻に浸っているアネーロを残し、食事の支度をし
ている綾子の所に歩み寄った。
 綾子は鍋を火にかけながら、その中身をかき回している。
 と、何やら、シチューにも似たその料理からは食欲をそそる香りが漂ってきており、
その香りに誘われた由香里は綾子の正面に座り込んだ。
 由香里に気がついた綾子は、料理の鍋から顔を上げて微笑む。
「由香里さん、もう少し待って下さいね・・・あ、そう言えば先程、何やら楽しそうな
 音楽が聞こえてましたけど・・・」
「ぅ・・・気のせいよ。それより綾子、今日はなんなの?」
「今晩の夕食は、アネーロさんのご指導を頂いたモノで『へんでろぱ』と言う、お料理
 だそうです」
「へんで?・・・ナニ?」
「はい『へんでろぱ』ですわ」
「ホント、この世界の料理はよく判らな・・・っ?!綾子!この料理の材料は!?」
 料理の奇妙な名前に溜息をつき掛けていた由香里であったが、最も重要なコトを思い
出して鍋を指さした。
 この世界の料理・・・早苗の料理並に油断ならない。
 綾子はレシピらしき物を手に取り、読み上げていく。
「えーとですね『コカトリスの肉が1キロ、ほららの切り身が3切れ。金魚が4匹と、
 ぽち、ストーンガーディアンの涙が少々』ですわ♪」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!ナンなのよ?!その『金魚』と『ぽち』ってのは!?」
「私も解りません。材料はアネーロさんが用意されたので・・・」
「原形は見なかったの?!」
「はい。既に鍋に入っていたモノで・・・」
「・・・う゛〜」
「あの・・・どうかされましたか?」
 と、唸りながら鍋を睨んでいる由香里の後ろから、アネーロが不思議そうな顔をして
覗き込んできた。
 綾子はアネーロにメモを掲げると・・・
「あの『金魚』と『ぽち』って材料って・・・どんなものなのですか?」
「はい。その『金魚』は『金魚使い』と言う女の子モンスターが使う、使役モンスター
 の事です。あと『ぽち』ってのもモンスターの一種で、ココに来る途中で捕まえたん
 です。ナニしろ『ぽち』を入れる入れないかで、コクとまろやかさが違うんです♪」
「・・・」
 ニコリと微笑むアネーロに、由香里は思わず鍋の湯気から顔をそむけた・・・
 一方、和美と早苗はと言うと・・・
「和美ちゃん。傷はどう?」
 早苗はかなり包帯の少なくなった和美の側に座ると、その和美の額に濡らしたタオル
を乗せる。
 ナニしろ綾子の治癒の魔法が無かったら、確実に全治3週間の大怪我であるのだ。
 それが今では、多少の痺れはあるものの、物が持てるまでに回復していた。
 和美は両手を繰り返し握ったり放したりとリハビリを繰り返す。
「うん(ギュッ、パッ。ギュッ、パッ)痛みは無くなったけど、まだチョッと痺れる感
 じがする・・・にしても、ホント綾子には借りっぱなしね。いつか返すからね♪」
 そんな和美の言葉に、鍋を抱えながら綾子は微笑んでいた。
「水臭い事を・・・和美さん、気になさらないで下さいね。さぁ、出来ましたよ♪」
「あ!早苗も手伝う!!」
 早苗が器に出来上がった「へんでろぱ」をよそい、アネーロがそれを手渡していく。
 そして、由香里にも・・・その器の一つが手渡された。
「由香里さん、どうぞ♪」
「ど、どうも・・・ん?」
 覗き込んだ由香里の手の中の器には、その「へんでろぱ」とか言う、昨晩に酒場で出
されたシチューによく似た料理が、美味しそうな香りと湯気を立てている。
 だが、唯一違うのは、その器の中に「随分と馬鹿でかい茸が泳いでいる」と言うこと
であろうか?
 由香里はその「茸」を何気なくスプーンでチョンとつついたのだが・・・
「ん〜?随分と大きな茸ね?(チョン、クルッ)・・・え!?」
 クルッと回った、その茸と・・・ナンと「目」が合ってしまった!
「☆#$%?!」
「あら?まだダシの『金魚』が残って(ヒョイ☆)ごめんなさいね由香里さん」
 悲鳴にならない声をあげた由香里に、アネーロがすぐさま「へんでろぱ」からダシの
(金魚)を取り出してくれたのだが・・・
「・・・ぁ・ぁ・ぁ」
 由香里は器を持ったまま硬直していたのであった・・・
 さて、実は夕食に手を付けていない人物がもう一人・・・早苗である。
「はい、和美ちゃん。アーンして♪」
「ん、ありがと・・・ん?ねぇ、さっきから私に食べさせてくれているけど、早苗も食
 べたら?お腹すいてるでしょ?」
「え・・・でも、今は和美ちゃんの方が大切だから・・・」
 早苗はそう言って、せっせと和美の口に「へんでろぱ」を運んだ・・・


 深夜。
 今日は和美が動けないために、アネーロと早苗で見張りをする事になった。
 だがアネーロは時折、眠たそうに目を擦ったり、コクリコクリと船を漕いでいる。
 早苗はそんなアネーロを見て、側に擦りよった。
「アネーロさん、眠いの?」
「あ、すいません。なんか、突然・・・眠くなってきて・・・」
 アネーロは必死に欠伸を噛み殺し、再び目を擦る。
 その光景に、早苗の口元が・・・
「・・・にへ♪」
 ナンの事はない、実はこのアネーロの眠気は「早苗の魔法」の仕業なのだ。
 早苗は普段は専ら、モーニングスターとフレイルで闘っているのだが、元はと言えば
立派な「魔剣士」・・・魔法が使えない事もない。
 だが、戦闘中に早苗が魔法を使わないのは・・・
「だって、疲れるモン♪」
 明確なご解答、有り難うございました。
 早苗は今日の夕食の鍋に、全魔力を使って「眠りの雫」と言う、睡眠を誘発する魔法
をかけていたのだ。
 それ故に今日の晩ご飯はガマンである。
 早苗は毛布を取り出すと、アネーロと自分の身体に掛けた。
「アネーロさん。眠かったら、早苗に寄りかかってもイイですよ♪」
「ありがとうございます。でも、昨日の事がありますから、今日は私が絶対に起きてい
 なくては、皆さんに申し訳がたちません」
 アネーロはそう言うと、再びキッと闇を睨みつけた・・・のだが。
「あぅ・・・目が・・・」
 すぐさま目がトロ〜ンとしてくる。
 そんなアネーロに、早苗はすかさず・・・
「ほらぁ♪眠ってもイイですから・・・ナンかあったら、早苗が起こしてあげます☆」
「そうです・・・か・・・それでは・・・失礼しま・・・す〜〜〜♪」
 余程、眠かったのだろう。
 アネーロは早苗の肩に頭を乗せると、すぐさま静かな寝息をたてていた・・・
 早苗は草の上に毛布を敷くと、アネーロをそぉ〜っと寝かせ、更に上から毛布を掛け
ると・・・何故かテントの中を覗きにいく。
 テントの中では、先に休んだ、和美、綾子、由香里が眠っている。
 早苗は眠っている皆に・・・ナンと声をかけ始めたではないか?
「・・・和美ちゃん・・・綾子ちゃん・・・由香里ちゃん・・・」
 しかし、誰一人として起きようとはしない。
「・・・由香里ちゃん。由香里ちゃん」
 食事を取らなかった上に、今日は昼寝までしていた由香里に、早苗は念入りに声をか
ける。
 ナンのことはない・・・
 皆が本当に眠っているかを確認していたのだ。
「くかーーーー♪」
 どうやら由香里は熟睡している様子である。
 それでも、相手は由香里だ・・・用心に越したことはない。
 早苗はそぉーっと、由香里の枕元に置いてある、長船に手を伸ばしてみた。

・・・これで起きなきゃ、だいじょぉーぶ・・・

 だが、それは危険極まりない行為だと思うのだが・・・
「くかーーーー♪・・・む?!ふんっ!(ぶぅおん!!)」
「んむむむむむ?!」
 自分の口に両手を当てて、しきりに悲鳴を殺す早苗。
 まぁ・・・取りあえず「口を押さえる手」がまだあっただけでも幸いである。
「ムムム・・・(チャキン!)くかーーー♪」
 由香里は隠し持っていた妖刀春雨を鞘に戻すと、再び静かな寝息をたてて眠り始めた
のであったが、早苗の方はそれどころではない。

・・・し、しんじゃうかとおもった・・・

 早苗は全身から引いた血の気を取り戻すべく、テントから這い出ると大きく深呼吸を
繰り返す。
 そして、何度か深呼吸を繰り返していく内に、ようやく動機がおさまった。
 これから、重大な事をしなければならないのだ。

・・・心を沈めて・・・もとい、鎮めて・・・

「ふぅ・・・よし・・・心が落ちついた所で、アネーロさんを・・・んふふふふふふ♪
 早苗には、魔王のお城のどーぐナンて、いらないもーン☆」
 早苗は、毛布にくるまって眠っているアネーロの毛布に滑り込んだ。
「んっ・・・」
 まずはアネーロと軽く唇を重ねながら、ゆっくりと身体に指を這わす早苗。
 だが、その手にはアネーロがくるまっているマントの感触ばかり・・・

・・・うーん、このマントじゃま〜♪ポイしちゃお。

(バサッ!)
 まず、毛布からアネーロのマントが追い出された。
 次に指に触れたのは、硬いライトメイル・・・
(ゴロン!)
 これも毛布の外に転がった。

・・・よし、これで・・・アハ♪やっぱり・・・この世界の人の服って、肌の露出度が
   高いや・・・こんなチャンスは滅多にないモンね・・・異世界の人って・・・ど
   んな感じなのか・・・えへ☆・・・和美ちゃん。浮気な早苗を許してね♪

 早苗は殆ど裸に近くなったアネーロの胸に手をなぞらす。
「・・・ん・・・」
 小さな声を上げるアネーロ・・・だが、起きる気配は無かった。
 そして早苗は、アネーロのその大きな胸に指を幾度か往復させた後に・・・毛布の中
に潜り込んだ。
 例え暗闇の中でも、早苗には関係ない。
 僅かな布で覆われたアネーロの上半身を、早苗は隈無く指で、唇で、舌で堪能してい
く・・・
「んっ・・くー・・・んっっ・・・くー・・・」
 早苗がわずかに動く度に身体を震わせるものの、依然としてアネーロは起きようとは
しない。
 早苗はそれをいい事に、アネーロを襲い続けた・・・
「失礼ね!れっきとした『あいじょうひょうげん』だよ!」
 好きにしてくれ。
 早苗は、アネーロの唯一の下着に手をかける。
 そして絹の様な手触りの上から、アネーロのショーツを幾度となく擦りあげる早苗の
その妙技な指先に、アネーロの身体は次第に答え始めていった。
「んっ・・あっ・・・くぅん・・・」
 指先に湿りを感じた早苗は、いよいよアネーロの下着をズリ下げていく・・・が。
「・・・ん?」
 途中、早苗はふと、次第に息苦しくなっていくのを感じた。

・・・あ、そっか。毛布のなかだったんだっけ。一回さんそほきゅー・・・

 早苗は毛布から顔を出すと、大きく息を吸い込む。
「すぅーはぁ・・・よし、再度せんにゅー(ぎしっ)ん?」
 そんな再び毛布に頭を突っ込もうとした早苗であったが、ふと、ナニか草を踏みしめ
る様な音に気が付いた。
 それに、音はだんだんと近づいてくる・・・
「(ぎしっ・・・ぎしっ・・・)ん?・・・誰か来たのかな?」
 この時間に誰が来ると言うのだろう?こんな夜中に現れるのは・・・
「ハニホ〜♪」
「うわ!?モンスター!?」
 それが当然である。
 しかも、今回は運が悪すぎた。
「お嬢ちゃ〜ん♪一緒に、花火しない?」
 暗闇から現れた(ブラックハニー)が、両手の線香花火を振り回しながら早苗に近づ
いてくるのだ!
 早苗は飛び起きると、モーニングスターとフレイルを握りしめながら叫ぶ。
「アネーロさーん!みんなー!モンスターがでたぁ!」
 大声でみんなを呼ぶ早苗だが、由香里を除く全員が「誰かさんのせい」で、ぐっすり
と眠っているのだ。
 とーぜんとして、誰一人として起きて来れる訳がない・・・
「ほらほら(バチバチバチバチ!!)一緒に花火をしよーよぉ!」
 そして(ブラックハニー)は線香花火と言うには、妙に強力すぎる花火を早苗に向け
て更に迫ってくる。
「か、和美ちゃーん!」
 必死に叫ぶ早苗だが、今回ばかりは和美とて助けに来てはくれない・・・
「ん、んじゃ!由香里ちゃんでもいいーーー!!」
 それはあまりにも都合が良すぎると言うモノだ。
 ここはやはり、一人で立ち向かうしかない!
 がんばれ早苗!気合いだ早苗!根性ぉだ早苗!ガッツだ早苗!
 ついでに言うと「アネーロと異世界初体験♪」など、もぉ、どーでもいいぞ早苗!
「ふぇぇぇぇん!いぢわるぅ!」
 早苗は泣きながら(ブラックハニー)めがけて、突撃していったのであった・・・


 そして、翌朝・・・
 何故かぐっすりと眠れたテントの中の全員は、ほとんど同時に目を覚ました。
 和美はくるまっていた毛布を退けて起き上がると、大きくのびをする。
「んっ!ン〜っ、っと。ナンか今日はよく眠れたなぁ・・・」
「ん・・・あ、おはようございます和美さん♪」
「おはよ綾子。昨日のおかげで傷はもう痛くないわ♪」
「それはなによりです♪」
 その綾子の隣で、あくびをしながら由香里も起きあがる。
「あふぁぁ・・・あ〜、よく寝たぁ♪」
「・・・あら?由香里さん、昨日は見張りに立たれなかったのですか?」
「あふ・・・あ゛?!」
 のんきに、また出そうになったあくびをかみ殺していた由香里は、急いで眼鏡をかけ
ると、刀をひっさらってテントの外に転がり出した。
 だが、外に出るなり・・・
「早苗、アネーロさん。ごめんな・・・早苗!?」
 由香里の目の前に、ナンと早苗が倒れている!
 そして、衣服と防具をはぎ取られた全裸に近いアネーロもその傍らに・・・
 由香里は、何故か「瀬戸物の破片」が大量に散らばっている中で倒れている早苗を急
いで抱き起こした。
 あちこちに火傷や切り傷らしき物が見られるが、息はある。
 一見したところ、命に別状はない様だが・・・
 由香里は早苗を揺さぶった。
「早苗!しっかりしなさい!早苗!」
「あぅ・・・由香里ちゃん・・・」
 早苗はゆっくりと目を開いて呻く。
 そして、由香里の叫び声を聞いて、テントの中から和美と綾子も飛び出してきた。
「まぁ!早苗ちゃん!今、手当をしてあげますから、しっかりして下さい!」
「アネーロさんまで?!アネーロさん!しっかり!」
 だが和美が揺すると、アネーロは静かに目を開け・・・欠伸をした。
「あーぁ・・・あ、和美さん、おはようございます。すみません、早苗ちゃんの言葉に
 に甘えて寝ちゃって・・・え?・・・きゃあぁああ!?」
 アネーロはようやく自分の格好に気が付いたらしい・・・慌てて毛布で身体を隠して
いる。
 だが、それどころではない・・・和美は尚もアネーロを揺さぶった。
「アネーロさん、いったい何があったのですか?!早苗が・・・早苗が・・・」
「早苗ちゃんが!?」
 アネーロは毛布を身に纏うと、由香里が抱き起こしている早苗の所に駆け寄る。
 由香里の腕の中で、グッタリとしている早苗・・・
「あぁ!早苗ちゃん!なんて事!・・・私が眠ってしまったせいで・・・早苗ちゃん。
 ごめんなさい・・・やっぱり、私では・・・」
 アネーロは早苗の手を握りしめて涙をこぼす。
 綾子がすぐさま治癒の魔法をかけ始めているが・・・
「え!?ま、魔法が効きません!早苗ちゃん!しっかり!」
「毒でも飲まされたの!?早苗!何とか言って!」
 和美も必死に早苗を揺する。
 だが、早苗はその和美に小さく微笑むと・・・その瞳を閉じた。
「ふぇ♪・・・(ガクッ)」
「早苗ぇーーーー!?」
「・・・ぐ〜〜〜〜♪」
「・・・はい?」


「・・・はぁ・・・」
 和美はグレイブを地面に突き刺すと、大きく息をはきながら額の汗を拭った。
 同様にして、あとの3人も溜息をつく。
 それは一人あたりの荷物が増えたため、長距離を歩くのが少々辛いのだ。
 由香里は早苗の担いでいた調理用具を、綾子は早苗の持っていた武器を、アネーロは
早苗の身につけていた防具を、そして和美は・・・
「はぁ・・・まったく、この子は・・・人の苦労も知らないで」
「ぐ〜〜〜〜♪・・・むにゃ・・・」
 早苗を担いでいた。
「くすくす☆・・・それにしても、あの時は驚きましたわ♪」
 綾子は振り返ると、和美の背中で眠っている早苗を見て、おかしそうに笑う。
「まぁね。いくら綾子の魔法でも『寝不足』だけは直せないものねぇ〜」
「私さえしっかりしていれば・・・」
 アネーロが恥ずかしそうにしてうつを向く。
「いいんですよ。私達を起こさなかった早苗が自業自得なんですから」
 由香里はそう言って、アネーロの肩を叩く。
 その時、先頭を歩いていた綾子は立ち止まり、前方を指さした。
「皆さん!村が見えますわ!」