第2章


                  見習い魔法使い


                    1


「クケケケケケケケ!」
「キィアーーーーー!」
 巨大な木々が犇めく深い森の中、その大木の遙か上で、けたたましい鳥の鳴き声と、
人間によく似た絶叫が響きわたる。
 それは猛禽類が行っている、盛大な宴の証・・・無論、宴に「料理」は欠かせない。
 その絶叫から、今日のメインディッシュは「生きたままの猿」の様だ。
 宴の華を飾るBGMは、餌食となった猿達が腹を引き裂かれる時にあげる絶叫・・・
 そんなパーティー会場の真っ直中を通るわけだから、和美達は当然、落ちてくる猿の
手足をよけながら黙々と歩いていた。
「・・・」
 最初は陽気におしゃべりをしながら歩いていた女子高生パーティーであったが、何時
しかナニも語らずに歩んでいく・・・ただし、一人を除いて。
「疲れたよぉ・・・おなかすいたぁ・・・ぽてちがたびたい〜・・・」
 ひたすら愚痴をこぼしているのは、言わずと知れた早苗である。
 と、そんなお腹をすかせた哀れな早苗に、お裾分けにとでも思ったのだろうか?
 宴会中の一匹の鳥が、気を利かせて早苗の頭に「料理」を落としてくれたのだ。
「(ヒューー)へぇ、はぁ(ブチョン!)・・・う゛・・・ぅう、和美ちゃ〜ん」
「今度はどうしたの・・・あぅ」
 振り返ったままの姿で硬直し、こちらを見ている和美に向かって、早苗は自分の頭に
落ちてきた「料理」を指さした。
「うっく・・・ぐしっ・・・これ・・・取ってぇ・・・」
「動かないでよ・・・」
 既に半泣きの早苗に、和美は木の枝を取ると、早苗の頭の物をつつき落とす。
「(ブチョ)な、なんだったの・・・」
 自分の頭の上が軽くなった早苗は、止せばいいのに自分の頭に乗っていた物を見てし
まった。
 それは・・・
「ひぇ!・・な、生ソーセージぃ・・・(ドテッ!)」
「早苗!?早苗!」
 早苗の頭に落ちてきたのは・・・「ただの腸」
 だが、早苗にしてみれば「たかが腸、されど腸」である。
「和美、どうしたの?!」
「まぁ!早苗ちゃん頭に血が?!怪我をされたのですか?!」
「あ、いや・・・ううん・・・えーと・・・早苗の頭にアレが落ちてきて・・・」
「こ、腰が抜けたぁ〜・・・」
 早苗の悲鳴を聞きつけ、先に進んでいた綾子と由香里が戻ってくると、和美はひっく
り返った早苗を抱き起こしながら、由香里に休憩を申し出た。
「ねぇ、そろそろ休憩にしない?」
「・・・そうね。少し休もっか?」
「(キュポッ!)和美さん、これで早苗ちゃんの頭の血、流して下さい」
「ん、ありがと。早苗、頭を出しなさい」
「あい(ジャバジャバ)ち、ちべたい!」 
 綾子から革の水筒を受け取った和美は、早苗の頭と頬に付いた血を洗い流していく。
 そして由香里は軍刀を木に立てかけると、その大きな木の根に腰を降ろした。
「ふぅ・・・しっかし、ほんとに薄っ気味の悪いところよね・・・まだモンスターが出
 てこないのが不思議だわ・・・」
「出てこられても困ります。大体、武器が・・・」
 綾子がそう言って心配そうに自分の身体を見下ろすのを見て、由香里と和美も溜息を
ついて、改めて自分達の装備を見直した。
 綾子の言う通り、和美達に与えられた武器は貧弱極まりない。


 まずは和美・・防具、ナイトゲイルシャツ、ジーンズ。
        武器、鍬の柄。
        その他の装備、女神の指輪。

 次に早苗・・・防具、トレーナー、都市迷彩のパーカー、デニムのスカート。
        武器、(やっぱり)フライパン。
        その他の装備、なし。

 そして綾子・・防具、白のブラウス、カーディガン、フレアスカート。
        武器、パンこね棒。
        その他の装備、ソーイングセット。

 んで由香里・・防具、Tシャツ、鋲付きの革のジャケット、レザースカート。
        武器、(たぶん)備前長船の軍刀。
        その他の装備、チェーン(ただしジャケットに付属)


 こうして見ると、武器、防具共に(一応?)まともなのは由香里だけなのである。
 あまりにも貧粗な自分達の武装に、深々と溜息をつく由香里であったが・・・
「あーあ。早いとこ宝箱でも見つけて・・・ん?」
「どうしました?由香里さ・・・んむ?」
「シッ!」
 周囲の異変に気がついた由香里は、綾子の口を塞ぎ、足元の軍刀に手を伸ばす。
「・・・由香里?」
「・・・鳥・・・」
 由香里にそう言われ、和美もようやく気がついた。
 あれほどけたたましく聞こえていた鳥の鳴き声が・・・
 絶えず響き渡っていた猿の絶叫が・・・
 いつの間にか聞こえなくなっているのだ。
「・・・(がさっ)んっ・・・」
 和美が四方を睨んでいると、その眼の前の草が動いた・・・
 そこに・・・何かがいる・・・
「は、早く・・・逃げ・・・」
 その微かな音に、逃げようとした綾子だが・・・
「・・・(ぎゅっ)」
 由香里はその手を握りしめると、綾子を自分の後ろにさげた・・・
「・・・ん」
「ん?・・・(こくり)」
 また、和美の視線に、早苗もズリズリと動いて和美の後ろに隠れる。
 そして・・・
「・・・(スラッ)」
「・・・(ギュッ)」
 由香里が軍刀を抜き、和美も棍棒を握りしめ、目の前の草むらを睨み付けた。
 別に風が吹いた訳でもない・・・
 だが、明らかに何かが・・・そこにいるのだ。
 姿が見えない以上、こちらも動きようがない・・・
 逃げるべきか?それとも戦うか?
 そんな困惑する思考とは裏腹に、身動きをしない和美達。

 目が・・・瞬き出来ない。
 膝が・・・震える。
 唇が・・・渇く。

 それでも・・・動けない。
 長い・・・相手の見えない睨み合い。
 5分程もそうしていただろうか?
 先に痺れを切らしたのは・・・草むらに潜んでいた影の方であった!
 奇妙な鳴き声と共に、和美の顔面に向かって飛び出してくる!
「ぷりょーー!」
「ひっ!?(ブン!ビシッ!)ぁ?!」
「(ビッタン!)ピィッ!?」
 反射的に振り回した和美の棍棒だが、運良く敵を捉えると地面に叩き付けたのだ!
「よっしゃぁ!トドメは任せて!(グニュ)ん?」
 そして、由香里がすかさず足で踏みつけて押さえると、軍刀の切っ先を返し、トドメ
を刺そうとしたのだが、あまりにも奇妙な足裏の感触に、由香里は足を退けると・・・
「へ?(グニュグニュ)・・・って、なんじゃこりゃ?!」
「ピィ・・・(ピクピク)」
 痙攣している「モノ」に、目が点になってしまった。
 横から覗き込んだ和美も・・・
「由香里!早く仕留め・・・へ?」
「どうされたのですか?・・・まぁ?」
 後から見に来た綾子も、そう言ったきり立ちすくむ・・・
 異世界での初陣(石狼との遭遇は戦闘に値しない)にしては、些か拍子抜けな反応で
はあるが、それも仕方があるまい。
 なにせ和美達は、完全に「凶悪なモンスター」との戦闘を予想していたのだ。
 だが、そんな和美達の足下に・・・
 ゼリーの様に「ぷにょぷにょ☆」とした身体に、不釣り合いなほどの大きな目。
 それに、その身体の下から「小さな牙」が生えている・・・
 どっかで見たような・・・いや、由香里なんぞは「見慣れた」存在だ。
「これって・・・もしかして、あの『ぷりょぷりょ♪』の?」
「・・・やっぱ『ぷりょ』よね?」
 由香里の呟き通り、そこに転がっているモンスターは、元の世界では家庭用のゲーム
機などで人気を誇ったパズルゲーム、その名も「ぷりょぷりょ♪」の主格キャラクター
である(ぷりょ)が転がっていたのだ!
 だが、そんな足下に転がっている(ぷりょ)をつついていた和美と由香里に、綾子は
小首を傾げている。
「あの・・・何なのですか?その『ぷりょ』と言うのは?」
「え?落ちモノゲームの・・・の前に・・・綾子、ゲーセンに行った事・・・ある?」
「いいえ。お婆様に、あの様な所に行ってはいけないと言われてまして・・・」
「やっぱりと言うか、やれやれと言うか・・・ま、いっか・・・」
 毎度のコトとは言え、綾子の見事なまでの世間知らずぶりに、溜息をつきながら首を
振る由香里であったが、我に返るとモンスターをブラ下げて目を細めた。
「ん〜・・・この程度で目を回すなんて・・・ゲームと一緒で、やっぱザコよね?」
「んじゃ。経験値もないわけ?」
「困りましたわ・・・」
「ん〜、少しくらいは金とかナンか出てくるかも・・・ん?」
 とその時、由香里の手にしていたモンスターが、みるみる間に崩れ始めた。
 グズグズと崩れ、最期には一掴みもない灰だけとなり、その灰すら風に吹き散らされ
ていく・・・
「あーあ・・・あら?何か落ちているわよ」
 和美が灰のあった辺りに何か光っている物が落ちているのに気がついた。
 拾い上げてみると、それは「小さな宝石」である。
「へぇ、虎は死して皮を残し、モンスターは死して宝石を残す・・・か」
「胆石だったりして?」
「嫌な事言わないでよ・・・」
 由香里の言葉に、顔をしかめながら和美が革の袋に宝石を入れていると・・・
「かっずみちゃあああああああん!たすけてーーーーーー!」
 後ろにいた早苗から盛大な悲鳴が上がった。
「早苗!どうし・・・な!?」
「うっわ?!早苗に『ぷりょ』があんなに沢山重なって!・・・あれ?おっかしいな?
 あーなって、こーなって・・・なんで連鎖しないんだろ?」
 由香里は早苗の上に、山の様に積み重なっている(ぷりょ)を見て、冷静に連鎖の計
算を始めたのだが・・・
「ゲームじゃないってば!」
「由香里さん!遊んでいる場合ではありませんわ!早苗ちゃんを早く助けないと!」
「おー、そーだった、そーだった・・・では・・・こほん」
 既に突撃を開始している和美と綾子の後ろで、由香里はゆっくりと軍刀を抜き放ち、
天高く刀を突き上げた。
「この抜けば珠散る氷の刃!今宵の・・・」
「くどい!」
「(ドカドカドカ!)お!重い!」
 また口上を述べようとした由香里に、和美から沢山の(ぷりょ)が投げ飛ばされてき
たのだ・・・その数、およそ4連鎖分(16匹)。
「てぇえぇぇぇぇい!」
「えいっ!えぃっ!」
 和美は棍棒を振り回して次々にモンスターを蹴散らしていき、綾子もパンこね棒で、
一生懸命にモンスターを退治していく。
 そして・・・
「だぁぁぁぁ!重いって言ってるでしょ!?」
「ピィピィ!」
 由香里も刀を一閃させ、乗っかっていた(ぷりょ)を弾き飛ばすと、遅ればせながら
と軍刀を振りかざしていった。
 正面から向かってくる(ぷりょ)を、一刀の下に斬り捨てる由香里!
 だが・・・
「たぁぁあ!(すぱっ!)」
「ぷりょ!」
「りょーーー!」
 斬られた(ぷりょ)は、幾分か小さくなったものの2匹に分裂をしたのだ!
 無論、(ぷりょ)にダメージは無く、1匹中りのHPが半分に減っただけ。
「げ!2匹に分裂した!?・・・とりゃ!(ずばっ!ぼしゅ!)」
「ぷりょりょりょ!!」
「りょーーー!」
「ぷりょお!」
「ぷりょーーー!」
 1匹が2匹、2匹が4匹・・・そして、
「えいえいえいえい!!」
(ざくっ!ずびゃ!すぽ!しゅかっ!)
「ぷりょーーー!」×8
「ぜぇぜぇ・・・でぇりゃあああああああああ!」
(ザクザクザクザクザクザクザクザク!!)
「ぷりょりょーーーーーー!」×16
「ひえ!き、きりがない・・・和美ぃぃぃ!!」
 次々と増えてしまい、手に負えなくなった由香里は和美のもとに走っていった。
 だが、来られた和美の方とて、いい迷惑である。
 逃げてきた由香里の後ろから、小粒であるが大量の(ぷりょ)が追って来るのを見て
眼を剥いていた。
「どうしたの由香・・・なんでぇ!?まだこんなにいたのぉ!?」
「斬ったら増えたのよ!お願い!潰して!!」
「手間を増やさないでよぉおおお!」
「あたしだって好きで増やし・・・き、来たあああ!」
「ぷりょりょりょりょーーーーーー!!」×16
「由香里の馬鹿ああああああああああ!!」
 一斉に飛びかかってきた(ぷりょ)の大群に、和美は顔を引攣らせながら悲鳴と共に
棍棒を振り回した・・・


 さて、由香里の悲鳴と和美の絶叫(罵声?)が折り重なって響いてから、約20分後
のこと。
 静かな森の中に、和美達の荒い息が木霊していた・・・
「ぜぇ、ぜぇ・・・も、もういないわよね」
「はぁ・・・はぁ・・おそらく・・」
「へぇ、へぇ・・・こわかったよぉ・・・」
「ふぅ・・・ちっ・・・斬り足りない」
「あんたは手間を増やしただけでしょ!」
「・・・そうだったかな」
 4人の周りに、こんもりとモンスターの残骸である灰が積み上がっているところ見る
と、どうにか(ぷりょ)を全滅させたようだが・・・全員、クタクタである。
 和美は棍棒を投げ捨てると草の上に座り込み、それを見た綾子と早苗も、武器を投げ
出してその場にへたりこんだ。
 和美は痛む手首を揉みほぐすと、灰を手ですくって溜息をつく。
「全く・・これも裕美の仕業でしょうね。この世界に『ぷりょ』なんかいる訳がないも
 の・・・それとも、本当にこの世界のモンスターかな?」
「裕美さん、なぜこんな事を・・・」
「はぁ・・・ん?由香里ちゃん、なにやってんの?」
 ふと、見れば由香里が一生懸命に灰の山の中を掘り進んでいる。
「なにって、宝石を探しているのよ。それにしても・・・おっかしいわね?これだけ倒
 したのに、一個もない・・・(カツン)お?」
 灰の中を探る軍刀の鞘のこじりに硬い物が触れたのだ。
 由香里は今度は自分の手を使って、慎重に掘り始める。
 すると・・・
「もしかしてコレは・・・やたっ!みんなこれ見て(ガシッ!)ヨッコイショっと!」
「何かあったの?(ドカッ!)あ、宝箱!」
 由香里が掘り出して皆の前に置いたのは、大きな宝箱だったのだ。
 4人は早速、箱の周りを取り囲む。
「なるほど。沢山の敵を倒すと、宝石じゃなくて宝箱が出るのか・・・」
「何が入ってるのでしょう?」
「由香里ちゃん、早く開けて!」
「待ちなさいって・・・もしかしたら罠があるかもしれないから・・・」
 いきなり開けようとした早苗を制し、由香里はゆっくりと宝箱を調べる。
 鍵穴は・・・無いようだ。
 罠は?・・・判らない。
 由香里は箱の口を誰もいない方に向け、ゆっくりと蓋に手を掛ける・・・
「もしかしたら開く方向に向かって何か飛び出すかもしれないから、離れてて」
「気を付けてね由香里」
「任せなさいって・・・(キィ)・・・ん?」
 と、僅かに口を開いたところで、由香里の手に微かな抵抗が伝わってきた。
 開いたまま、そっと宝箱を覗き込むと、その隙間に「糸」が張ってある。
 どう見てもうさんくさい。
「ん・・・トラップ・・・かな?和美、剃刀かハサミない?」
「急に言われても・・・」
「これでよろしいでしょうか?ソーイングセットの糸切り鋏なのですが・・・」
 綾子がポケットの中からソーイングパックを取りだすと、その中に入っていた小さな
ハサミを由香里に手渡す。
「OK!・・・よっと(チョキン)よし!」
 宝箱の中に張られていた糸は簡単に切れ、由香里が箱を開くと・・・
「おぉ!いっぱいある!」
 由香里は喜々として中身を取りだし、並べていった。
「えーと♪まずはモーニングスターにフレイルに・・・スモールシールドに・・・あと
 はナニが・・・ん?なんだこりゃ〜?包丁にしてはヘンだし、ナイフにしては随分と
 無骨だな?」
 由香里は柄の無い鉈(なた)の様な物を取りだして首を傾げる。
「由香里、それはどうやって使うの?」
 和美が由香里の手の武器を覗き込んだ時、由香里の眼に和美の棍棒がとまった。
「あたしにもわかんな・・・あ!和美、その棍棒かして!」
「いいけど・・・」
 和美は黙って由香里に棍棒を渡す。
「あんがと。えーと、あとはピンか釘はないかな?」
 由香里は和美から棍棒を受け取ると、刃を棒に差し込み、再び宝箱の中を探る。
 そして、その中から2本のピンを摘み出すと・・・
「あった!よーし・・・せぇのぉ!」
 なんと、ピンを刃の穴に差し込み、モーニングスターでぶん殴る。
 そして暫くも悪戦苦闘していた由香里であったが・・・
「よし出来た!やっぱ、コレ・・・グレイヴの刃だったんだ!」
「なにそれ?」
「ま、日本の薙刀(なぎなた)と似たようなモンよ。ほれ」
 由香里が返してよこした棍棒の先端には、先程の刃がついており、しっかりとピンで
固定されたそれは、凶悪な光りを見せていた・・・
 和美は試しに一度振ってみる。
「(ブン!!)へぇ・・・結構具合がいいじゃない」
「うわっ?!あ、あっぶないでしょ!?人の頭の上で振らないでよ!」
 そんな和美と由香里の隣では、早苗が宝箱の中を覗き込んでいる。
「なぁんかナイっかなぁ〜?・・・ん?ね、ね。綾子ちゃんはこれを使ったら?」
 そして、ナニやら一つの武器を取り出すと、綾子に手渡した。
「はぁ・・・これを・・・ですか?」
 綾子は早苗に手渡された奇妙な武器を眺め、小首を傾げる。
 綾子に手渡されたそれは「フレイル」と言う武器であった。
 このフレイルとは、短い(長い場合もある)棒に鎖をつけ、更にその先に鉄球、又は
有刺鉄球などをつける事によって、少ない力でも大打撃が与えられる戦闘用穀竿状武器
なのである。
 ちなみに日本で似たような物と言えば、乳切木(ちぎりき)や鎖分銅が似ているであ
ろう。
 初めて手にする武器に不安げな表情をする綾子であったが、早苗は・・・
「大丈夫だよ。ハタキだと思って使えばいいンだよ♪」
 ナンとまぁ、随分とムチャクチャな事を言う。
 そんな早苗の鼻面に、ナニやら金属の塊が突き出された。
「はいはい。んじゃアンタはこれを使いなさい。あんたにピッタリよ♪」
「ん?早苗、これを使っていいの?」
「そ♪」
 そう言って早苗が由香里から受け取ったのは、金属の棒の先端に星球加工鉄球が取り
付けられた「モーニングスター(あるいはモルゲン・ステルン)」である。
 それにしても、このモーニングスターと言う武器、早苗にとってはもっとも合理的な
武器と言えよう。
 なにしろ、使い方はフライパンと同じで、力一杯にブン回すだけでいいのだ。
「やったぁ!ね、和美ちゃん!早苗の武器は『ツボも押せる健康肩叩き』だよ☆」
「違う!モーニングスターだ!」
 はしゃいでいる早苗を怒鳴りつけながら、由香里は再び宝箱を探る。
 だが、最後に残っていたのは・・・
「ありゃ?これで最後か・・・このアームシールドは・・・やっぱ、綾子よね」
「すいません。でも、由香里さんが使う物が無くなってしまいましたね・・・」
 由香里から手渡された小さな円盤状のシールドに、綾子は申し訳なさそうな顔をして
いる。
「別にいいって、あたしにはこの軍刀があるから・・・さてと、宝箱も空になったこと
 だし、そろそろ出発を・・・」
 だが、由香里がそう言いながら立ち上がった、その時。
「えーー?もうナンにもないのぉ?ん?これなんだろ?」
 早苗が空の宝箱に首を突っ込み、残っていた「紐」に手を掛けたのだ。
「あ!?バカ!早苗、その紐は!」
 だが由香里の叫びも遅く、早苗は宝箱に残っていた「トラップの紐」を引っ張った!
「え?(ばぼーーーーん!)うきゃ?!」
 早苗が紐を引っ張った瞬間、宝箱からピンクの煙が吹き出して立ちこめ、瞬く間に周
囲の視界をゼロにする。
 和美は手で煙を払いながら叫んだ。
「綾子!早苗!由香里!どこ!?」
「げほっ!げほっ!か、和美!」
「こほっ!和美さん・・・」 
 煙の中から由香里と綾子が出て来たが、早苗だけは出てくる気配を見せない。
「由香里、早苗は!?」
「さぁ・・・爆死したかな?」
「馬鹿な事を言わないで!早苗!早苗!」
 和美は煙の消えてきた宝箱の辺りに飛び込むと、手探りで進んで行った。
 すると・・・
「(がし)ん?」
 何者かが和美の腕を掴む・・・その手には覚えがあった。
「早苗ね!?」
「和美ちゃーん!恐かったよぉ〜」
「あ〜、よしよし。泣かない泣かない・・・」
 和美はその腕を手繰り寄せて「早苗」を胸に抱きしめたが・・・
「(がし)え?!」
「和美ちゃーん!」
 なんと、背中からも和美に抱きついてくる「早苗」がいるではないか!?
「ど、どうゆーこと!?」
 和美は「二人の早苗」を突き放すと、綾子と由香里の所に飛びすさる。
 既に煙は消え、この光景を綾子と由香里にも見る事が出来た。
 目の前に二人の早苗・・・
 服装も背丈も声も同じ・・・
 そのうえ、二人とも同じ仕草をするのだ。
「さ、早苗ちゃんが2人・・・」
「・・・どっちかが偽物よね」
「ええ・・・」
 グレイブを構えて、じっと睨む和美に、両方の早苗はいつもの声を出す。
「和美ちゃーん!こっちが本物だよぉ」
「和美ちゃーん!早くぅたすけてよぉ」
 どちらも「早苗」である。
 和美ですら見分けがつかない・・・
「こ、困ったわね・・・ナニか本物にしか解らない事は・・・」
「う〜む・・・よし。早苗、和美の背中には、いくつほくろがある?」
「な!なによ!その質問は!?」
 由香里の突拍子もない質問に、真っ赤になって怒る和美。
 だが、二人の早苗はハッキリと答えた。
「左肩に2つ!」
「左肩に2こ!」
「・・・」
「二人とも同じ答か・・・どれどれ(ばこっ!)おぶっ?!」
 いきなり和美のシャツをめくろうとした由香里に、鉄拳が見舞われた・・・
 そして今度は綾子が二人の早苗に質問をしてみる。
「あの・・・早苗ちゃんの大好きな食べ物は?」
「和美ちゃんの活き作り☆」
「和美ちゃんを生でペロッと♪」
「まぁ!・・・両方とも・・・甲乙をつけがたいですわね・・・」
「あ〜や〜こぉ〜!」
「よぉし、次は・・・(つんつん)ん?(チャキン☆)ひぃ?!」
「・・・変な事を言ったら、コレの斬れ味・・・あんたで試すわよ」
 和美に首筋をグレイブの刃先でつつかれ、由香里の額に妙な汗が浮かんだ。
「わ、判ったわよ・・・えーと、そうね・・・」
 今度は自分の身がかかっている・・・由香里は真剣に考えた。
 早苗にしか判らないこと・・・
 突然にそう言われても、良い考えは浮かぶモノではない。
 そこで由香里は、取り敢えず「最近、身近にあったこと」で探ることにした。
「う〜ん・・・あ、そだ。この間に期末試験があったことだし、国語の問題でも出して
 みるか?」
「なるほど・・・結構、良いアイディアかも知れないわ。私も考える」
「では、私も考えますわ」
 和美と綾子が問題を考える間、由香里は二人の早苗の前に一歩踏み出す。
「いい?二人とも?!国語の問題・・・いくわよ?!」
「うん♪」
「うん☆」
「よし、それじゃナンでもイイから『四文字熟語』を言ってみなさい!」
「西方浄土!」
「東方不敗!」
「んん〜??・・・ナンか、びみょぉ〜に違うなぁ〜?」
 いや、全然違うって。
 そんな微妙すぎる答えに、腕を組んで考え込んでしまった由香里に、今度は綾子が前
に出ると・・・
「では、私からは英語の問題を・・・問題です。英語で『勝利』は?」
「Sieg!」
「Champion!」
「えーと・・・はい?」
 綾子とて、まともな解答を期待していた訳ではないが、ココまで違う解答とは・・・
 思わず聞き直す綾子に、由香里も首を振っていた。
「あ、あのねぇ〜・・・二人とも、答え違うわよ?右の早苗は意味は一応あってンだけ
 ど『ドイツ語』だし、左の早苗は英語だけど『意味が違う』じゃない」
「え〜?!」
「ぅ〜?!」
「すみません由香里さん」
「いいのよ。それより、次の問題を・・・」
「あ、はい。それでは、続いて数学の問題をいきます・・・」
「数学?早苗には難しいんじゃない?」
「いえ、簡単な問題です。底辺を3センチ、高さを・・・あら?」
「く〜♪」
「す〜☆」
「寝るな!」
 綾子が問題を言い始めた瞬間、居眠りをこき始めた二人の早苗に、由香里は額に血管
を浮かび上がらせながら怒鳴った・・・
 ななかなか手強い力を発揮する二人の早苗に、綾子も由香里も首を捻るしかない。
「ダメですわね・・・」
「もとがダメだからなぁ・・・」
 と、その二人の後ろで、もう一人、腕を組みながら唸っている人物が・・・
「ん〜・・・」
「ん?和美、ナンか問題出来た?」
「そうね〜・・・んじゃ、家庭科の問題ナンてのは?」
「家庭科か・・・まぁ、いいんじゃない?」
「確かに家庭科でしたら、早苗ちゃんも授業中は起きていましたし・・・」
「よし、んじゃ早苗。家庭科の問題出すわよ?」
「うん!早苗、お料理は大好き♪」
「うん!早苗、お洗濯は大得意☆」
 和美が問題を出してくれるとあってか、二人の早苗は嬉しそうに頷く。
 だがやはり、早苗は一筋縄ではいかなかった・・・
「・・・取り敢えず、二人とも『嘘』は吐かないよぉに。んじゃ、問題。料理の基本で
 調味料を表す『さ・し・す・せ・そ』があるけど、それじゃぁ『さ』は?」
「サプリメント!」
「ささかまぼこ!」
「・・・『し』は?」
「ショートケーキ!」
「シュークリーム!」
「っ・・・『す』・・・」
「スルメの一夜干し!」
「すり下ろしリンゴ!」
「・・・『せ』?!」
「背脂のスープ!」
「背肉のソテー!」
「『そ』?!」
「ソース煎餅!」
「ソーキソバ!」
「・・・由香里」
「なに?」
「二人とも偽物。構わないから両方ともサクッと!?」
「お、落ち着きなさいよ和美!」
「和美さん、いけませんわ!」
 と、まぁ、ロクな回答が出てこないが、コレが全て正しい「早苗」の答えである。
 コレにはさすがの由香里もすっかり困り果ててしまった。
「参ったなぁ・・・同じ反応されたんじゃ、区別がつかないわ・・・」
「どうしましょう?」
「むむむ・・・ねぇ和美。早苗って、ナンかまともに受けてた授業ないわけ?」
「えぇと・・・あ、歴史の授業かな?」
「確か・・・今度居眠りしたら、罰として『テストを晒し者にする』って先生に言われ
 てましたよね?」
「歴史ねぇ・・・でも、歴代の徳川将軍なんて質問しても、どぉ〜せ、まともに答える
 わけがないだろうし・・・」
「一応・・・聞いてみるか。早苗!徳川八代目将軍は?!」
「松○ 健!」
「暴れん坊!」
「うわ・・・滅多切りにしてぇ〜・・・」
「やっぱ無理か・・・」
「時代考証もナニも・・・ん?・・・時代か・・・この手は使えるかな?」
「由香里、なにかイイ考えが浮かんだ?」
「試してみる・・・早苗。もう一回、歴史の問題を出すわよ!」
「うん、頑張るね!」
「うん、負けない!」
 そんな早苗達の姿に、由香里のメガネが光る・・・
「出題は、この間の期末テスト範囲から・・・いい?答えられた方が本物の早苗よ?」
「うん・・・」
「・・・うん」
 二人の早苗が頷くのを見て、由香里は大きく息を吸い込み・・・
「それじゃ行くわよ?(スゥ〜)さて問題!第二次世界大戦の終戦は1945年だが、
 1975年に終戦を迎えたのは?!」
「ベトナム戦争ぉ!」
「ヴェトナム戦争!」
「ですが!では、それは『昭和』で言うと何年!?」
 一気にまくし立てた由香里のその言葉に、右側の早苗は・・・
「えぇ!?えと、えーと・・・」
 指折り、ナニかを数えている。
 だが、左側の早苗は・・・
「昭和50年!」
 即答したのだ!
 今度は回答が分かれた・・・どちらかが偽物だ。
 その解答に由香里は大きく頷き、軍刀を抜き放つと・・・
「正解(チキッ)・・・あんたが偽物よ!たぶん!違ったらゴメン!」
 なんと「早苗の肩」めがけて、鋭く突き込んだのだ!
 にしても・・・ナンだその「たぶん!」と「違ったらゴメン!」ってのは?!
「な?!(ズブッ!!)うぎゃああああぁぁぁ!」
 突然の由香里の攻撃に「正解をした早苗」は避ける事も出来ず、もろに剣先を肩に食
い込ませる。
 そして、その肩口から溢れ出ているのは・・・異様な「血」であった。
「み、緑の血が?!」
「あんたが『偽早苗』ね!?」
「おのれ!バレたからには・・・ぉお?!」
 身体を捻り、流れ出る体液を手で押さえながら逃げようとした「偽早苗」だが、その
正面に、由香里が大上段で立ち塞がる。
「ば、化けモノめ・・・覚悟ぉ!」
「(ゾポッッッッ!)クアァアアアアア!なぜだぁああ!」
 渾身の力による袈裟斬りに、緑色の血潮をまき散らしながら「偽早苗」が、ゆっくり
とその姿を変えていく。
 その正体は黄色の体に奇妙な触覚を頭から生やし、手足の延びた蛙を連想させ、相手
そっくりに変化するのを得意としたモンスター(まねした)であった・・・
 醜くその正体を現しながら、(まねした)は苦しげに呻く。
「な・・・なぜだ・・・問題は・・・記憶では正解の・・・」
 由香里は震える手を押さえながら、刃に付着したモンスターの体液を払う。
「た、確かに・・・問題は正解だけど、コレ、引っかけなのよ・・・」
「な、なんだと!?・・・」
「早苗がそんなに早く『計算』できるわけナイもん。姿や記憶をコピーできても、根本
 的な基本能力までは写せなかった、あんたの負けよ」
「・・・」
 だが早苗に化けたモンスターは既に溶けており、由香里の言葉を最期までは聞くこと
は出来なかった・・・そして後に残ったのは宝石のみ。
 偽早苗が崩れ落ちると、残った早苗が、和美の胸に飛び込んでくる。
「和美ちゃーん!こぁかったよぉ〜〜!」
 そんな泣きじゃくる早苗の頭を撫でていた和美だが・・・
「あ〜よしよし・・・って、本当に本物の早苗でしょうね?!」
「ぶーーー!本物だもん!」


 陽が落ちる。
 いつしか鳥達もそのにぎやかな声を潜め、塒(ねぐら)に向かって羽ばたき始めた。
 それはまるで自分達の演出は終わったかの様にしての急ぎ足・・・・
 そして夜は全てに平等に訪れる。
 だが闇はそうではない・・・闇は限られた者達の楽園。
 その限られた者達の多くは夜行性の動物・・・
 時にはそれ以外の者達が彷徨い歩く時でもある・・・
 由香里としては森がその禍々しさを現す前に森を抜け出したかったのだが、周囲が闇
に潰されていくのを見て、今日は諦めてテントを張る事にした。
「むむむ・・・ここで一夜を過ごす事になるとは・・・和美、テントは任せるわよ」
「判ったわ。早苗、そっちをしっかり持って」
「うん・・・」
 大きな敷き布の上に木の枝を組み合わせ、更にその上に防水布を掛けただけと言う、
実に簡単なテントだが、今は4人の宿であり城でもある。
 しっかりとテントを組み立てていく和美と早苗の隣では、由香里と綾子が火を起こす
準備に取りかかっていた。
 簡単な「発火」に慣れた和美達にとって、この火を起こす作業こそが最大の難関かと
思われたのだが・・・
「やれやれ・・・よっと(ガチン!)誰か魔法使いにでもなれば(ガチン!)簡単なん
 でしょうけどね・・・(ガチン!)ほっ!」
 随分と手慣れた手つきで、大鋸屑(おがくず)の固まりに向かってナイフと火打ち石
を打ち合わせている由香里。
 そんな初めて目にする「火打ち」に、由香里の背中越しに綾子は興味津々で覗き込ん
でいた。
「そうですわね・・・でも、由香里さん。その様な石で火がつくのですか?」
「ん?えぇ。大丈夫よ。龍さんから習ったんだから、間違いなし♪」
「龍さんから?」
「うん(ガチン!)龍さん達と、この間にキャンプに行ってね(ガチン!)そん時に、
 剣術とナイフの扱い方と、ついでに簡単なサバイバル訓練を・・・」
「・・・由香里さん」
「なに?」
「私の知らない間に、龍さんと一つ屋根の下で過ごされたわけですか・・・」
「へ?・・・あぁ・・・まったく、この子は龍さんのコトとなると、ホントに見境が無
 くなるんだから・・・綾子。あたし『龍さん達と』って言ったでしょ?剣道部の合宿
 に同行しただけ。それに寝泊まりしたのも公民館の道場だから、一つ屋根広すぎ♪」
「あ・・・そうでしたか・・・」
 いぢわるそうな由香里の視線に、誤解に気づき、顔を赤らめる綾子。
 そんな耳まで真っ赤になっている綾子の姿に、由香里は溜息をついた。
「はぁ・・・その『嫉妬の炎』が実際に使えたら、どんなに便利な・・・かえって危な
 いか。この森が火の海になりそぉ・・・せぇのぉ(バチン!ポッ)お!点いた?!」
 その「嫉妬の炎」かどうかは知らないが、火打ち石から弾けた火花が、固めた大鋸屑
の中でくすぶると、由香里はそれを逃さないようにして息を吹きかける。
「ふーーーっ・・・」
 小さな「火種」はやがて「火」となり、焚き付けの藁を巻いた木の皮を近づけると、
それは燃え移って「炎」となり・・・
(ボゥッ・・・パチパチパチ)
 そして、小さな「焚火」が出来上がった頃、森の中は暗闇に包まれていた。
「よし・・・さて、食事にするか・・・」
「わーい!ご飯だご飯だぁ♪」
 4人は火を囲み座り、由香里が手渡しで食料を渡していく。
 だが、その食料に首を傾げている者が、約1名。
「・・・?」
 早苗は眼の前の焚火の明かりに照らされた食料を見つめる。
 手の中にあるのは何やら干し柿の様な黒っぽい塊と、随分と厚いビーフジャーキーの
焦げた様な物・・・それだけなのだ。
「由香里ちゃん、これだけ?」
「そうよ」
「・・・で、これは?」
「干し果物と、干し肉よ」
「・・・早苗、我慢しなさい」
「うん・・・」
 事態が事態だけに、さすがの早苗も文句は言わない。
 黙って干し果物にかぶりついていった・・・
 そんな簡単な食事はあっと言う間に終わり、最後に皆で水筒の水を一口づつ飲むと、
由香里は今夜の見張りを決める事にした。
「えーと、夜の見張りだけど、あたしと和美が最初にするわ。綾子と早苗は先に眠って
 ちょーだい」
「はい。では、時間がきたら起こしてくださいね」
「いいわ。時間がきたら・・・あ・・・どうやって時間を?」
「そうでした。この世界では時計が動かないんでしたね・・・」
「ん〜・・・んじゃ、あの木に月が差し掛かったら交代ってのは?」
「解りました。さぁ、早苗ちゃん。気合いを入れて眠りましょう」
「・・・それ、ムズかしーと思うよ・・・」
 だが綾子と早苗がテントに入ると、すぐに静かな寝息が聞こえ始める・・・
 由香里はその寝息を聞きながら、軍刀を肩に乗せると溜息をついた。
「やっぱり2人共、疲れていたのね・・・」
「そうみたいね・・・ねぇ由香里・・・私達、帰る事ができるのかな?」
「・・・和美・・・それは言わないで・・・あたしだって、結構心細いんだから」
「ごめん・・・」
「それより、今日は寝ないで番をするわよ。あの二人には、どっちの番をしても無理だ
 と思うから・・・」
「そうね・・・」
 こうして最初の長い夜は更けていった・・・


                    2


 翌朝。
 昨夜の雰囲気が嘘のように、森は爽やかさを見せていた。
 どうやら日暮れで解らなかったのだが、和美達は森を抜けかけていたらしい。
 木々の隙間から、少し先に草原が広がっているのが見えるのだ。
 そんな少なくなった木々の葉からこぼれ落ちた一滴の朝露が優しく頬を打ち、和美を
目覚めさせる。
「ん・・・(ピチョン)んあ・・・ん・・・あ!」
 見張りをしていた筈だが、いつしか眠ってしまった様だ。
 和美は慌てて起きあがると、一緒に見張りをしていた由香里を探す。
 だが周囲に由香里の姿は無い・・・
 和美は、自分にかけられていた毛布に気がつき、今度はテントの中を覗く。
 もしかしたら、由香里はテントの中で・・・
「くー・・・」
「すーー・・・」
 しかし中では綾子と早苗だけが、大きな毛布の中で寄り添う様にして眠っている。
 それでは、由香里はどこに行ってしまったのだろう?
 和美は二人を起こさないように、声を出さずに由香里を探し回った。

・・・由香里、一体どこに・・・ん?・・・あっちから水の音が・・・

 和美は微かに水しぶきの音がする方に向かって進む。
「(チャポッ)・・・あ・・・」
 そして・・水しぶきの音の正体が姿を現した。
「はぁ・・・冷たい・・・」
 それは小さな滝がある泉の中で沐浴をする由香里であった。
 泉の周囲に衣服を散乱させ、生まれたままの姿をした由香里は、スイと泉の中に身を
くぐらせる。
 由香里は太陽の光りを受け、その身体の水滴を輝かせながらひとしきり泳ぐと、泉の
縁に腰をかけ、普段は頭の両脇でまとめただけの濡れた髪を指でけずっていった。
 その姿は、まるでニンフかフェイの様・・・
 そんな由香里を見て、ホッと息をついてグレイブを担ぎ直す和美に、ふと、悪戯心が
沸き上がった。
 ゆっくりと由香里の背後に忍び寄る和美。
「フンフン・・・I’w○s born♪・・・奏で○ため♪」
 だが由香里は気付かずに歌などを歌っている。
 和美はすぐ背後にまで忍び寄ると、両手を広げ、そして・・・
「ゆっかりぃ!おっはよぉーーー!」
「え!?(もにゅ☆)うきゃあああああ!?」
 背後から突然胸を鷲掴みにされた由香里は悲鳴を上げた。
 一方の和美の方はと言うと、振り払われた手を、じっと見つめて・・・
「んん〜・・・(グッ!)勝った♪」
 小さなガッツポーズを作っていた。
「ったく和美!いきなりなんて事をすんのよ?!早苗みたいな事しないでよ!」
「あ、あはは。ご、ごめん。でも、気持ちよさそうね」
「うん。和美も水浴びをしたら?早苗が来たら、水浴びどころじゃなくなるわよ♪」
 由香里の言う通りである。
 早苗と一緒に沐浴など・・・自ら生贄になる様なものだ。
 綾子には悪いが、和美も衣服を脱ぎ捨てると泉に身体を沈めていった・・・
「ぅ(チャプン☆)ぅぅうう!」
 少々、冷たいが、耐えられないほどではない。
 和美はゆっくりと手で身体を擦っていくと、座ったまま眠った為に、こわばっていた
身体から痛みが抜けていく。
「あぁ・・・いい気持ちぃ〜♪」
 和美がうっとりと目を閉じて、水の感触に酔いしれていると・・・
「(ばしゃ!)わぷっ!?」
 突然、由香里が和美の顔に水をかけたのだ。
「アハハ!さっきのお返しよ☆」
 顔に水をかけられた和美は、笑っている由香里に向かって黙って進む。
「お?やる気?・・・あ!ちょっと待って!」
 由香里は和美が足元に手を伸ばすのを見て、逃げようと・・・
「・・・せーの、とりゃ!」
 だが一瞬早く、和美は由香里の足をとると一気にひっくり返した。
 その和美の一撃に、由香里の方はあられもない姿で泉に頭から突っ込む。
「(ザボッ!)ぷわっ!・・・し、死ぬぅ!」
「まてぇい!」
 急いで飛び出し、何とか縁に這い上がろうとする由香里を和美は押さえつけた。
「ひぇぇ!和美!ごめんってばぁ!・・・?」
 だが、和美はじっと由香里を見つめると、ふっと微笑んだ。
「・・・由香里、昨日はごめんね。由香里一人に見張りをさせて」
「・・・いいのよ・・・あっ・・・」
「きゃ・・・」
 不意に胸の先が触れ合い、身体を震わせる二人。
「・・・」
「・・・」
 しばらく見つめ合っていた二人であったが・・・
「早苗の気持ち・・・何となく判るような気がする・・・」
「え・・・あ・・」
 由香里はそう呟くなり和美の背中に手を回すと、そっと抱きしめてきたのだ。
 身体が冷えきった二人に、互いの温もりが伝い合う。
「由香里・・・だめだってば・・・」
「・・・」
「・・・由香里ぃ・・・ちょっと・・・」
 和美は何とかして身をよじらして由香里の手を掴もうとするが、力が抜ける・・・
 早苗で免疫が多少は出来ているとは言え、感じやすい体質に変わりはない様だ。
 そして、最初は冗談のつもりであったハズの由香里はと言うと・・・
「ゴメン・・・ナンだか・・・こうしていたいの」
 和美の温もりに、何故か動けないのだ・・・
 人の温もりとは、こうまでして温かいのか・・・
 このまま・・・離れたくはない・・・
「・・・もぉ」
 仕方なく和美も由香里を抱きしめるべく、腕を上げたのだが・・・
「かずみちゃーーーん!どこにいるのぉーーーー!」
「和美さーーん、由香里さーーーん」
 突然の綾子と早苗の声に、和美と由香里の意識は一気に現実に引き戻される!
「ま!まずい!」
「由香里!早く腕を!」
 慌てまくる和美と由香里だが、それは「2人にこの姿を見られては・・・」と言うの
ではなく「早苗に襲われたらどうしよう!?」と言う考えだったのだ。
 だが、あまりにも慌てたせいであろうか?
 和美も由香里も「同じ方向」へ逃げようとして・・・
「早く服を(ドカッ☆)きゃあ!」
「下着だけで(どん☆)もわ!?」
「和美ちゃ〜(どっぷーん!)あ、綾子ちゃん!和美ちゃん達が!」
「大変!溺れているじゃないですか!?」
 綾子と早苗の見たのは、全裸のまま土左衛門の様に浮かんでいる和美と由香里。
 タイトル「異世界旅情サスペンス〜女子高校生連続殺人事件!泉に消えた女子高校生
達を待ち受けていた恐るべき罠!?」と言った所であろうか?
「へんな冗談はやめて下さい!」
 申し訳ない・・・


 さて、和美達は昨夜と同じ簡単な食事を済ませると、テントをたたみ、火の始末をす
るなどして出発の準備を整えた。
「さてと。今日中にはナンとか、村か町に着きたいわね♪」
「うん。コレットちゃんの話だと、もうすぐ町が見える小高い丘があるはずだよ!」
「由香里さん、みんな準備が出来ましたわ」
「よし、それじゃ出発!」
 由香里の号令で、和美達は元気に歩き始める。
 今日は天気もよく、おまけにモンスターも出ては来ない。
 そして、順調に歩き続けた結果、4人は2時間程で目的地の小高い丘の上にまで辿り
着く事が出来た。
 背負っていた荷物を足下に置くと、丘から町を見下ろした和美達だが・・・
「へぇ・・・へぇ・・・とうちゃーく!(ブワッ!)わ!?」
「(ブオッ!)きゃ!?」
 そんな丘の上に着いた一行を出迎えたのは、吹き上げる突風であった。
 その突風に綾子はスカートを押さえたが、早苗はモロにめくられている。
 一方、ジーンズの和美と由香里は・・・一応、由香里もスカートだが、レザーは重い
ので、めくられる事もなく、顔をしかめながら眼下の光景を見下ろしていた。
「ふぅ、やっと町にたどり着けたわね」
「そうね。今日はあの町で・・・ゆっくり休めそうね」
 由香里の言った通り、眼下には大きな町がある。
 さすがにコレットのいた村より活気があり、メインストリートらしき所では、沢山の
人々が行き来をしているのが見えるのだ。
「早苗、綾子。今日はあの町で休むわよ」
 だが、由香里にそう言われても・・・
「和美ちゃん、それより(ブワッ!)こ、この風!」
「なんとか・・・(ブオッ!)きゃあ」
 スカートをめくりまくられている綾子と早苗は、それどころでは無かった・・・


 さて、一気に丘から町の中に駆け込んだ一行であるが・・・
「あぅ・・・町だぁ〜・・・文明の香りがするぅ〜♪」
「由香里、そんな大げさな・・」
 涙を流して感動している由香里に、和美は苦笑いをしていた。
 さてさて、その由香里を感涙に噎ばせるほどの町の中では、まるでアニメやゲームに
出てくるような露店が連なり、賑やかな売り子の声が絶え間無く響いている。
 よく似た風景と言えば、中近東や東南アジア等の市場であろうか?
「なんだか映画のセットみたいね♪」
「縁日の風景にも近いわ☆」
「見たことも無い果物が売ってますわ♪」
「ん?・・・ありは・・・」
 そんな風景を珍しげに、あちらこちらを見ていた和美達だが、突然、早苗が足を止め
ると和美の袖を引っ張ってきた。
「(クイッ)ん?どうしたの早苗?」
「和美ちゃん、アレ食べたい・・・」
「え?」
 早苗が指さしたのは、一軒の屋台・・・そして、そこからは何やら肉の焼ける、良い
匂いが漂って来ているのだ。
「(ごきゅ)う〜・・・」
 どうやら売っているのはスペアリブの様な物らしい。
 店にいた兄ちゃんは、指をくわえて「こちら」を見ている早苗に気がつくと、早苗に
向かって、肉をチラつかせてくる。
「ん?お嬢ちゃん達、一つどうだい?1本、たったの6ゴールドだよ♪」
「和美ちゃ〜ん・・・」
 瞳を潤ませ、無言で「おねだり」をする早苗。
 だが、和美とて無い袖は振れない。
「早苗、お金がないの。我慢して」
「そういえばあたし達、この世界のお金、持ってなかったわね」
「あ・・・和美さん、確かモンスターを退治した時の宝石は?」
「そっか、それがあったっけ・・・ねぇ、お兄さん」
「ヘイらっしゃい!」
「この宝石じゃ駄目ですか?」
 しかし、そう言って和美が差しだした宝石に、店員は変な顔をしていた。
「別にいいけど・・・これじゃ、8本は買えるよ」
「でも、お金がないんです・・・」
「はぁ?早く換金してきたらどうだい?」
「換金?」
「・・・なんだ、お前さん達知らないのかい?」
「・・・はい」
「田舎もんか?・・・うかうかしてっと、だまくらかされるぞ?」
「すみません・・・」
 店のにーちゃんの話では、どうやら、この町にはモンスターから出た宝石を換金して
くれる場所があるらしい。
「宝石換金店ならほれ、この向かいだ」
 肉屋の兄ちゃんはそう言って、目の前の家を指さした。
「ありがとうございます!」
「換金したら肉買ってくれよな♪」
 親切な肉屋に和美達は一礼をすると、言われた通りに向かいの宝石店に入る。
 だが・・・中は和美達の知っている宝石店とは大きく異なっていた。
 別段、宝石を飾っている訳でもなければ、お客もいない。
 どちらかと言えば(まぁ、ご存じない方も多いでしょうが)パチンコ店の景品交換所
の雰囲気である・・・
 つまり、店の中はガランとしていて、奥に小さな窓口があるだけなのだ。
「・・・いらっしゃいませ」
 店に入ると、くぐもった声が窓口の奥から聞こえてくる。
 和美は小窓の前に行くと、おずおずと宝石を取り出した。
「あ、あの・・・宝石を換金したいんですけど・・・」
「・・・箱に入れて下さい・・」
 見れば窓口に小さな箱が置いてある。
 和美は言われるままに、袋から取り出した宝石を箱の中に入れた。
 ぷりょぷりょを倒した時の赤い宝石と、偽物早苗を倒したときの黄色い宝石だ。
 和美が宝石を入れ、その蓋を閉めると・・・
「(シュン!)あっ?!」
 突然、箱は姿を消したのだ。
「・・・なくなっちゃった」
「やられたかな?」
「そんな・・・」 
 しかし、4人の心配をよそに、すぐに箱は出現して・・・また、あのくぐもった声が
聞こえてくる。
「・・・ありがとうございました・・・コインをお受け取り下さい」
「・・・」
 和美は恐る恐る蓋を開けると・・・中には大きなコインが1枚と、それより一回り程
小さなコインが1枚入っていた。
「・・・へぇ・・・ん?」
 和美はコインを手に、ふと顔を上げると、窓口の上に張り紙がしてある。
 由香里もそれに気がつき、読み上げていく。
「えー、なになに?『赤50G。黄100G。白500G』か・・・なんだかホントに
 パチンコ屋さんみたいね・・・」
「え?パチンコ屋さんは、お菓子と交換してくれるんじゃなかったっけ?」
「はいはい、お子様には解らなくていいのよ」
「ぶーー!由香里ちゃん、早苗と同じ歳だよ!」
 文句を言いながら和美達が宝石店を出ると、待っていたのは元気な声であった。
「お嬢ちゃん達!お肉はいかが?!」
「いるぅ☆」


                    3


「ふーん・・・あんた達、異世界から来たのか・・・」
「はい・・・あの、この町は何という町なのですか?」
「ここかい?ここは忘却の都市『アルツハイマー』だよ」
「・・・」
 和美達は焼き肉売りの横で、スペアリブを頬張りながら店員と話をしていた。
 とは言え・・・もっぱら店の兄ちゃんと話しているのは和美と綾子で、由香里と早苗
は旺盛な食欲を見せ、肉に食らいついている。
「んで、どこに行くんだい?」
「私達は西の山に住む魔女を退治しに行く途中なのですが・・・」
「な!?・・・悪い事は言わねぇ!そいつだけはやめたほうがいい」
「え?なぜで(ばりぼりばりぼりばり!)い?!」
 隣から響く凄まじい音に、和美がおそるおそる隣を見ると、それは由香里と早苗がス
ペアリブの骨を咬み砕いている音であった。
「・・・あんたらは・・・」
「お兄ちゃん!もう1本!」
「あたしも!」
「へいへい毎度!・・・なんでって、あの魔女を倒すために、ヘルマン帝国直属の近衛
 兵師団が全滅したんだぜ?お嬢ちゃん達じゃ・・・無理無理」
 兄ちゃんは早苗と由香里に肉を差し出しながら首を振る。
「そんな・・・」
「それに最近じゃ、その魔女よりも恐ろしい奴らがいるし・・・」
「魔女よりも恐ろしい?」
「あぁ。つい昨日の夜の事だ・・・確か・・・あんた達が来た村、あそこは四足の化け
 物がいたろう?」
「はい。石で出来た・・・」
「ところがだ、その石の化け物を『素手』で殴り殺した奴がいるそうだ」
「素手ですか!?」
 和美と綾子は驚いた。
 あの由香里の軍刀の一撃ですら全く効かなかった石の狼を素手で・・・
「んで、その後、そいつらは村から食料を奪ってったんだとか・・・」
「一体どんなモンスターなのかしら・・・」
「なんでも、凶悪な獣(けだもの)が2匹と、それを操るのが1人で、あっちこっちの
 町や村を襲っては、食料だけを奪っていくそうだよ」
「恐いですね・・・」
 おびえる綾子の横で、和美は手にした肉を黙ってかじる。

・・・私達に・・・家に帰る手段は無いのかも・・・

 和美の頭に、一抹の不安がよぎった時・・・
「(どっっかーーーん!)な、化け物だぁ!」
 轟音と共に叫び声が響き渡ってきた。
 人々は逃げまどい、周囲はパニックに陥る。
「な、なんだぁ?!魔女のモンスターがこの町にも来たのか?!」
「なに!?(モグッ!)」
 そんな、わたわたと店を畳もうとするにーちゃんとは反対に、由香里は軍刀を手に、
更には肉を口にくわえて、爆発音のした方に駆けていく。
「あ、由香里さん!」
「待ってよぉ〜!」
 その後を追って、綾子と早苗も走る。
 和美も走りだそうとしたが、兄ちゃんに肩を掴まれた。
「二人とも、待ちなさ(がしっ!)ん!?」
「おい!お代お代!全部で8本!48ゴールド!」
「え!?まったくもぉ!早苗と由香里で6本も食べたの?!はい、50ゴールド!お釣
 りはイイです!」
「ありがとよ!」
 愚痴をこぼす暇もなく、和美はグレイブを担いで由香里達の後を追いかける。
 どうやらモンスターは町の中心街に出現したようだ。
 遅れながらも和美はようやく追いつくと、綾子の肩を掴む。
「はぁ、はぁ・・・綾子!モンスターは!?」
「熊さんです!」
「熊!?月の輪!?それともヒグマ!?まさか灰色熊(グリズリー)じゃ・・」
「それが・・・モンスターは『くまのブゥさん』なのです・・・」
「・・・へ?」
 思わず聞き直してしまう和美だが、敵は綾子の言う通りであった。
 建物を壊し、人を踏みつけているのは、ぬいぐるみでお馴染み・・・

・・・「ちょっと、おっちょこちょいで、蜂蜜が大好き♪」

 の(くまのブゥさん)だ・・・
「ちゃおおおおおおん!(ぐしゃ!)」
 愛くるしい声とつぶらな瞳とは裏腹に、やっている事は凶悪だ。
 そんなモンスターの姿に、思わず現実から逃避してしまった和美・・・

・・・そういえば小さい頃お父さんにねだって、あのぬいぐるみ買ってもらったっけ。
   あのぬいぐるみ、どこにいっちゃったかなぁ・・・

「和美ちゃん!なにしてんの!?」
 早苗の声で我に返った和美は、額に血管を浮かび上がらせながらグレイブを構えた。
「ったく・・・もうちょっと、まともなモンスターいないわけ!?」
 だが、和美のやる気を更に殺いでいくのが・・・
「(もぐ)抜けば(もぐもぐ)たまひる(もぐもぐもぐ)こほりの・・・」
「口上を述べるか、肉を食べるかどっちかにしてよ・・・」
 やる気がどっと落ちる和美。
 だが、由香里の方は平気な顔である。
「(もぐもぐ)ん?・・・(シーー)・・・あ、スジとれた♪」
「はぁ・・・」
 更にやる気が無くなっていく和美を横目に、爪楊枝で歯に挟まっていたた肉のスジを
取り終えた由香里は、腰から軍刀を抜くと・・・
「さてと・・・んん〜・・・見たカンジ、大したことは無さそうなぁ。ま、食後の運動
 くらいにゃなるでしょ・・・おりゃあああああ!」
「(ずぱっ!)ちゃおおおおおん!」
 随分と余裕の発言だが、その発言通り・・・由香里の振るった一太刀で、モンスター
の右腕が吹き飛ぶ!
 ようやく立ち直った和美も、怒りに任せてグレイブを叩きつけた。
「由香里の馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!」
「(すっぱーーーん!)ちゃおおおおぉぉぉん!」 
 和美、会心の(怒りの?)一撃!
 哀れ、(くまのブゥさん)は真っ二つになり灰となって消えていった・・・
 すかさず、早苗はモンスターが残した宝石を拾い上げる。
 数は1個で、黄色・・・つまりは100ゴールドを獲得したのである。
「やったぁ♪和美ちゃん、これでまたお肉が食べられ(シュン!)あれ?」
 そんな喜々として宝石を和美に見せていた早苗であったが、その手から、瞬時にして
宝石が消えていた。
「あれ?あれれ?」
「あんたに預けると、全部、食費になりかねないから、私が預かる!」
 そんな早苗から宝石をひったくり、自分のウエストポーチに宝石をしまっている和美
の後ろから、軍刀の峰で肩を叩きながら由香里もやってきた。
「やれやれ、もうちょっと手ごたえのある敵が欲しいわね。あの石の狼くらい・・・」
 そんなロクでもないことを言っている由香里に、和美は溜息をつく。
「やれやれ・・・そりゃ残念だったわね。石の狼ならもう退治されちゃったわよ」
「ぬわぁにぃ!?あたしの獲物を横取りしたのはどこのどいつだ?」
「なんでも獣使いらしいわよ・・・それよりさぁ・・・早くここからでましょうよ」
「ちょっと・・・恥ずかしいですわ」
「え?ナンで?」
 モジモジとしている和美と綾子の様子に、由香里がふと周囲を見れば、いつのまにや
ら和美達の周囲には人垣ができ、盛んに拍手を送っている。
「おぉ〜!」
「大したモンだ!」
 確かに・・・悪いことをしたわけでは無いが、コレはちと照れくさい。
 だが、由香里は・・・
「あ、どーもどーも♪」
「い、いくわよ!」
「早苗ちゃん!いきますわよ!」
「いぇ〜い♪(グイッ!)わわわ?!」
 和美と綾子は、人々に手を振る由香里と早苗の手を引っ張り、走りだした・・・


 さて、そんな人垣から逃げるようにして抜け出した和美達であったが、走り抜けたそ
の先で宿を見つけると、真っ直ぐに入っていく。
 これ以上、ギャラリーを引きつけるのは、なんともはや・・・恥ずかしい。
 宿に駆け込むと、和美はポケットから先程の黄色い宝石を取り出し、カウンターに叩
き付けた。
「おや?いらっしゃい♪」
「あの、すいません!お願いです!(ガツッ!)泊めてくださいぃ!」
 そんな和美の姿に、店の女将は・・・
「・・・フフフ♪いらっしゃい。英雄さん♪」
「ぅ・・・」
 既に女将の耳に、たった今の和美達の武勇伝は届いているようだ。
 思わず後ずさりをした和美であったが、女将は豪快であった。
「はっはっは♪別に気にしなくても良いんだよ♪そうだねぇ、この町を魔物から救って
 くれた英雄さんだから、一泊・・・えーと、ひぃふぅみぃ・・・4人で20ゴールド
 でいいよ!はい。お釣りの80あげるね♪」
「あ、ありがとうございますぅ〜・・・」
 さてさて、よぉ〜やく落ち着いた部屋に辿り着いた4人であるが・・・
「はぁ・・・拍手を浴びるって、気持ちいいぃん♪」
 部屋の中、まだ一人余韻に浸っているのは、言わずと知れた由香里である。
 それに比べて和美の方はと言えば?
「・・・精神が(ボフッ☆)崩壊する・・・」
 早くもベットに倒れこんでいた。
 そんな和美に、綾子は労いの言葉を掛けるが、早苗の方は容赦がない。
「和美さん、ご苦労様・・・」
「あ!和美ちゃん、レベル上げよ!レベル!」
 早苗はベットに倒れている和美の上にのしかかってきたのだ。
「んーーっ?あ、そうかぁ・・・よいしょっと(ゴソッ)」
 和美はゆっくりと起きあがると、ダルそうにして女神の指輪を取り出す。
「やれやれ・・・これでレベルが上がっていなかったら、泣くわよ・・・えーと、経験
 の女神様、お出で下さい!」
 和美は高々と指輪をかざすと、指輪から淡い光りがこぼれ、部屋の中を満たす。
 そして、弾けるような音と共に裸身に薄い衣に身を纏った女神が現れた。
「初めまして(ポン♪)みなさん♪・・・私はレベル神、ウンディーネ。以後よろしく
 お願いしますね♪」
「綺麗・・・」
 そのウンディーネの姿に、早速、早苗の眼が輝いた。
 万年発情期である。
 だが・・・
「いけませんよ早苗様。見るだけです。触れてはいけませんの♪」
「ちぇ・・・」
 やろうとした事を見透かされた早苗は、つまらなそうにしてベットに腰掛けた。
 一方、ウンディーネの方はと言うと、ふわふわと宙を舞い、なにやら呪文らしきもの
を唱え始めながら和美に手をかざす。
「それではレベルを上げさせて頂きます・・・シェザーラ、クメーラ、イア、ヨット、
 イフリート、ヘェ、ニミュエ、ヴァ、アブドゥーラ、ヘェー・・・」
「・・・ぁ」
 すると、ウンディーネの呪文の詠唱と共に、和美の身体の奥からなにやら熱い物がこ
み上げて・・・あ〜、ちなみに「ゲ○」ではない。
「汚いわね!」
 失礼。
 それはさておき・・・ウンディーネは呪文を唱え終わるとニコリと微笑む。
「おめでとうございます。和美様は、今のでまとめてレベルが上がり、10レベルとな
 りました。でも異世界の方なので、この世界では30レベルくらいの力があります。
 あと、クラスチェンジが出来ますが、いかがなさいますか?」
「クラスチェンジ・・・って?」
「はい。今のクラスは『ふつーの女子高生』ですが、和美様の潜在素質から『戦士』に
 クラスチェンジが出来ます。そうすれば、攻撃力等が上がりますよ♪」
「でも、元の世界に帰っても『戦士』じゃ・・・」
「・・・別に、今と大差ないと思うけ(ギュムッ!)ごめんなひゃい」
「大丈夫です。あくまでこの世界だけです」
「ほっ・・・それじゃお願いします」
 ウンディーネは再び和美の頭に手をかざし・・・
「・・・はい。これで和美様は『戦士』です」
 かくして、和美達は次のようにレベルがアップした。

 和美・・・レベル11。クラスは戦士・・・・・・特殊技能、乱撃。
 早苗・・・レベル10。クラスは魔剣士・・・・・特殊技能、乙女の蜜。
 綾子・・・レベル10。クラスは白魔法使い・・・特殊技能、愛の涙。
 由香里・・レベル11。クラスは狂戦士・・・・・特殊技能、バーサーク。

 ・・・である。
「それでは皆さん、ご機嫌よぉ〜♪」
 ウンディーネは皆のレベルを上げると、そそくさと指輪の中に戻っていく。
 しかし、ウンディーネが消えるなり由香里は膨れているのだ。
「・・・ナンか納得がいかないわ」
「どして?」
「だって『品行方正』で『平和主義者』のあたしがなんで『狂戦士』なのよ?!」
「・・・由香里、あんたいつから平和主義者になったの?」
「昔から」
「へぇ・・・そんじゃ平和を乱す奴は?」
「斬る♪」
 和美は再び頭痛のしてきた頭を押さえた。


 さて、まだ食事まで時間があると言う事で、足が痛いと言う早苗と疲れたと言う綾子
を宿に残し、和美と由香里は町をブラついていた。
 町の中では、昼間から飲んだくれている親父達が奇声を上げ、道では急に人だかりが
出来たかと思うと、乱闘か決闘が始まる。
 そして人々は自由に剣を腰にぶら下げ、あるいは槍を担いで町の中を闊歩(かっぽ)
して歩き、酒場では自分の武勇伝を語りながらグラスを傾け一夜を明かす・・・
 剣と魔法と魔物と人間が、背中合わせに暮らす世界ならではの光景だ。
 これぞ正に由香里の望んでいた「世界」である。
 由香里はそんな光景に、改めて瞳を輝かせて感動していた。
「あぁ・・・これよ・・・これが・・・あたしの求めていた世界なのよぉ〜♪」
「はぁ?由香里、あんたの趣味は古代史を調べる事じゃなかったの?」
「そうだけど・・・それは調べていく内に、こんな世界があるのかなぁ〜、っていう、
 想像力が働くじゃない・・・でも、やっぱり現実にこーゆー世界を満喫するのはホン
 トにいいわぁ☆・・・あぁ、まるでRPGの世界そのまんまだものぉ〜♪」
「・・・私も綾子と一緒に宿で休んでいればよかった・・・」
 完全にトリップしている由香里の姿に、毎度のコトながら、和美は津波の様な後悔に
襲われていたのだが・・・その頭を押さえている和美の腕が激しく引っ張られた。
「ん?あれは・・・和美!情報収集よ!」
「はあぁ〜・・・(グイッ)わ?!いきなりナニよ?!」
「RPGの基本は、まず、情報を集める事から始まるのよ!」
「情報って・・・ははーーん。成る程ね・・・」
 和美は由香里が行かんとしている場所が解った。
 由香里の襟首を掴むと、こっちを向かせる。
「あんた(グイッ!)酒場に行こうとしていない?」
「あ・・・わかった?」
「当たり前でしょ!ぜっっっったいにダメだからね!大体、私達は未成年でしょう!?
 酒場なんて行かせないからね!!」
「そんなぁ・・・和美ぃ、お願い!一生のお願い!」
 だが、必死に拝みこむ由香里を、和美は横目で睨んだ。
「由香里・・・その一生のお願い・・・何回目だったかしら?」
「う゛・・・」
「確か・・・この間は私が買った焼きそばパンを譲ったとぉき、その前は英語の宿題を
 忘れたとぉき、その前の前は掃除当番を代わったときぃ・・・」
「あぅ・・・」
 何も反論できない由香里。
「さて、RPGならセオリー通り、最初は武器屋さんにでも行きましょうか?」
 和美は未練がましく「酒場ぁ〜、おちゃけぇ〜」と呟く由香里を引っ張ると、看板に
デカデカと「武器のお店」と描かれた店に入っていった。
「(ギィイ〜〜)ごめんくださーい」
「いらっしゃい・・・」
 店の中にはびっしりと武器が飾られ、カウンターの奥には店の主人と思しき、髭面の
親父が一人、ボロ布でナイフを磨いている。
 和美は壁一面に並べられた武器を見て、感嘆の声をあげた。
「へぇ・・・一杯、武器があるのね」
「ほぉ・・・ブロードソードにグラディウスに・・・ん?これは?」
 膨大な武器の数に、早くも酒場のショックから立ち直った由香里は、メガネをかけ直
しながら、感心した様に剣や槍を眺めていたが、ふと、一本の剣を手に取る。
 その剣は長さこそショートソードだが、柄の握り部分に、見事な銀嶺の彫刻が施され
ているのだ。
 通常であれば、こんな剣を握り難くする様なコトなどはしないはず。

・・・これじゃ、剣が滑りやすいのに・・・それとも、特別な物なのかな?

 そんな由香里の疑問を見透かしたかの様に、親父がニヤけ顔で剣を指さす。
「あぁ、そいつは『氷山の剣』だ。斬ったところから凍りつかせる魔法が掛けてある。
 うちの商品はいろんな魔法が付いているぜ」
「へぇ。さすがは魔法の世界・・・うーむ・・・確かに、このフランベルジュも、クレ
 イモアもいいわね・・・でもやっぱ、この『長船に勝る刀はこの店にない』わね」
 その由香里の声に、親父の耳と、こめかみの辺りがピクリと動いた。
 心なしか・・・顔も引攣っている。
「お・・・お嬢ちゃん。うちの商品にケチつけんのかい?」
「あら?あたしは正直に言っただけよ」
「こ、こら、由香里・・・」
 和美は慌てて由香里を止めようとしたのだが、既に店の親父と由香里の間には随分と
険悪なムードが漂っており・・・
「おもしれぇ。この店に喧嘩うろってのかい!?」
「まさかぁ〜♪この程度の品揃えの店に、ケンカ売ったって儲からないしぃ〜☆」
「上等だ!(バタン!)表に出ろ!」
「喧嘩上等!受けてたってあげるわよ!夜露死苦ぅ!!」
「由香里?!」
 勢いがついた由香里と店の親父は、店の外に飛び出して行ってしまった・・・


 あ、さて・・・睨み合う由香里と武器屋の親父の周囲に人垣が出来るのに、それほど
の時間はかからなかった。
 とは言え、普段ならば、さほど珍しい事ではない。
 何しろ決闘は日常茶飯事の筈・・・
 だが、決闘に女の子が出ているとなれば、話しは別なのである。
 そんな人垣の周りに、すかさず「ザル」を手にした男が躍り出た。
「さぁさぁ!本日の対戦は元アウトローで現武器屋の、むさ苦しいボルティー親父!」
「悪かったなぁ!」
「そして対するは・・・おや?見慣れない謎の可愛い眼鏡っ娘!旅人かなぁ?」
「えへ、照れるな・・・」
「さぁて、現在の賭率は・・・おっとぉ!?10対1で圧倒的にボルティー親父だぁ!
 くぅー、これじゃ胴元が破産しちまう〜・・・でも!さぁ!賭けた賭けた!」
 どこにでもこの手の奴は居る・・・
「ちょっと由香里!やめなさいって!」
 そんな人混みの中から叫んだ和美にも、コインが沢山入ったザルが差し出された。
「おやぁ?お嬢ちゃん!あんた、もしかしてあの子の知り合いなのかなぁ?」
「え?!えぇ、まぁそうですけど・・・」
「それじゃ、どうだい?あの子に一つ賭けてみちゃぁ?」
「でも、私・・・お金は・・・」
 和美はポケットから、先ほどの残金を取り出す。
 熊のブゥさんを倒した時の宝石は宿代で消えてしまったので、残っているのは・・・
「80ゴールド・・・しかないんです」
「んーーー、まぁ、そこそこだねぇ・・・」
「はぁ・・・」
「しかぁし!あの子が勝てば800ゴールドになる!(ジャリ)はい!これ半券ね♪」
「え(ギュッ!)ぇえ!?」
 男は問答無用で和美の手から金を取り、代わりに手の中に由香里のチケットの半券を
押し込めると、他のお客の方に行ってしまった・・・
 もし由香里が負けたら?
「・・・ご飯を食べるお金が・・・無い」
 こうなれば、ヤケである・・・
 和美は握りしめたチケットを振り回して叫んだ。
「あぅ・・・由香里ぃ!負けちゃだめよっぉ?!晩ご飯抜きなのよぉ?!」
「まっかせなさい(スラッ)・・・」
「ほぉ・・・東洋の剣か(シュカシュカッ!)珍しいモン持ってるな♪」
 由香里が軍刀を抜き放つと、ボルティー親父もカトラスを「両手」に構えた。
 初めてのセメント(真剣勝負)の相手が二刀流・・・
 由香里の「顔」に笑みがぼれ、代わりに「心」に緊張が走る。

・・・二刀流かぁ・・・連続技で来るかな?それともフェイントを使ってくるかな?ど
   ちらにせよ、最初は出方を見ないとマズいな・・・

 そう考えながら油断なく軍刀を「正眼」に構えた由香里に、ボルティー親父がニヤリ
と不敵な笑みを浮かべる。
「嬢ちゃん。今なら許してやるぜ・・・」
「ふん・・・おいちゃんこそ、今なら逃げても卑怯者よばわりしないわよ・・・」
「よく言うぜ・・・そうだ。俺に勝ったら、店にある好きなモンくれてやる」
「あたしは・・・ナニもないわよ?」
「・・・あるじゃねぇか。その「体」がよぉ・・・」
「・・・いいわ」
「そんじゃ・・・そりゃあああ!」
 先に仕掛けてきたのは親父の方であった。
 高々と掲げた右手のカトラスを「上段」から斬り込んでくる!
「ハッ!(ぎんっ!)」
 由香里はすかさず軍刀を返して弾き返したが、次の瞬間、ほぼ同時に顔に迫ってくる
風圧に、由香里は身体を仰け反らせた。
「ッ!フン(ぶぅおん!)っ!」
 由香里の詠み通り、下から切り上げてきた左側の剣が、唸りと共に由香里の髪を何本
か宙に舞わせたのだ。
 だが・・・

・・・結構、速い連続技だわ・・・こりゃ、余計にフェイントに気を付けなきゃ。

 予想通りの太刀筋ではあったが、親父の剣の腕に由香里は舌を巻いていた。
 先程のレベルアップで、幾らか動体視力等も上がっているとは言え、その無駄の無い
鋭い斬り込みに、親父が侮れない相手である事を瞬時に悟る。
 軽いステップを踏んで間合いを取った親父に、由香里は油断無く軍刀を構えた。
「ふむ・・・無理を頼んで桂さんと美貴さんから剣道を習っておいて良かったわ・・・
 あと、龍さんから習った剣術と短剣術も・・・役に立つわね・・・」
 妙に落ちつき払っている由香里に、ボルティー親父はほくそ笑む。
 親父も由香里が手応えのある相手だと悟り、嬉しいのだ。
「ククク・・・嬢ちゃん、楽しませてくれよ・・・」
「・・・いいわよ・・・」
 親父の言葉に微笑み返した由香里は、軍刀を右逆手に持ち、左手を柄頭に添えると、
刀身を右の小脇に抱えるようにして刃を隠し・・・
「・・・面白い技・・・見せたげる♪(ダッ!)てぇえい!」
 そう呟くや否や、気合いと共に親父に向かって走り出す!
「そんな子供騙しが(ブォン!)おおぉっ!?」
 てっきり逆手に持った軍刀で「切り上げ」が来るモノと思っていた親父は、由香里の
疾風の様な「片手袈裟斬り」に、ナンとか左手に持っていたカトラスで受け止めたまで
は良かったのだが・・・
「(ザギン!)い、いつの間に?!」
 この予想外の・・・いや「予定外の間合い」に、親父の左手から、握りが甘かったカ
トラスが弾き飛ばされてしまった。
 由香里は軍刀を振るう直前に「左手」に握り直し、更には片手で振るうことによって
間合いを「半歩」稼いでいたのだ。
「くっ!?外したか?!(カチャッ!)ならば!」
 初太刀こそ決まらなかったモノの、今度はその無防備になった親父の胸板に由香里は
軍刀の刃を返し、鋭い突きを放つ!
「今度はもらったぁ!」
「ぬおっ!」
 しかし由香里の放った必殺の一撃を、親父は状態を反らしてコレをかわし、更には置
き土産にとばかりに、バック転で逆に由香里の手首を蹴り上げる!
「(ゲイン!)っ!?」
 直撃こそはしなかったものの、親父の革靴は由香里の手首の皮を擦りむかせるには十
分であった。
 裂傷した部分から、じわりと赤い血が滲み出る。
「ゆ、由香里しっかりぃ!」
 拳を握りしめて応援をする和美に、由香里は手の傷を舐めながら頷く。
「判ってるわよ!・・・にしても、思ったより・・・やるわね。逆抜刀が見破られると
 は思わなかったわ・・・」
 その由香里を眺めながら再び嬉しそうに笑うボルティー親父。
「ふぅ〜、あぶねぇあぶねぇ。嬢ちゃんこそ大したモンだ・・・とは言え、俺も店の方
 が忙しいんだ。そろそろ仕舞いにしようかと思うんだが・・・」
 この提案に、由香里も頷く。
「そうね。あたしもそろそろお腹が空いたから、晩御飯にしたいわ・・・」
「飯か・・・」
「えぇ・・・」
 互いに軽口を叩いた後に、その2人の間をピーンと張りつめる空気・・・
 そして・・・
(カタン!)
 誰かのたてた物音を合図に、2人は地を蹴った。
「でやーーーーっ!」
「やああああああ!」
(ガッギーーーーーーーン!)
 激しい火花と金属音が響きわたり、2人は同地に地に足をつける・・・
 パラリと親父の額に巻かれていたバンダナが落ち、そして、その由香里の左頬にも、
赤い筋が・・・
「くっくっく・・・よくかわしたな・・・」
 親父はバンダナの残骸をむしり取ると再び構える。
 結果は相打ち・・・それも、互いに決定的なダメージを与えられずに・・・
 しかし、親父は一つの「誤算」に気がついていなかった。
 それは、相手が「女の子」であると言う事だ。
 見れば由香里は振り返りもせずに、頬に手を当てている・・・
「ん?」
「血が・・・斬れて・・・傷が・・・」
 ブツブツと呟く由香里・・・
「おい、どうした?」
「よくも・・・よくも・・・」
 由香里の頭で何かが弾け、眼鏡が真っ白になっていく・・・
「よくも・・・よくも・・・乙女の顔に傷をつけたなぁ!?」
 顔に傷を付けられたショックで、由香里の「バーサークモード」が発動!
 狂戦士と化した由香里は、全くの「モーション無し」で親父に飛びかかっていく!
「ォォォぉぉぉおおおオオオ!」
「おわ!?」
 由香里のこの突然の攻撃に、親父は咄嗟に身をかわすのが精一杯で、とても反撃に転
じる事ができない。
 一見すると、どれもが大振りで隙だらけの攻撃に見えるが、こうも連続で攻撃されて
は手の打ちようがないのだ。
「(ギンギンギンギン!!)な、なんなんだ!?一撃が!重すぎる!」
「でやぁぁぁぁぁ!」
 一撃を受け止める度に、親父の腕に凄まじい振動が伝わる。

・・・な、なんだこりゃ?!コレが小娘の力かよ?!まるでバケモンじゃねぇか?!こ
   のままじゃ、腕がもたねぇ!

 不覚にも相手を侮り、後悔をしていた親父であったが、自分の腕よりも先に「耐えき
れなかった」のは・・・
「(バギン!)なんだとぉ!?」
 自分の店の中でも決して安物ではなく、頑丈で信頼の置ける一品として扱っていた筈
のこのカトラスが・・・ついに由香里の重撃に耐え切れず、へし折れたのだ!
「(ドカッ!)うぉっ?!」
 そんな折れたカトラスに我が目を疑い、思わず動きを止めてしまった親父に、由香里
の横蹴りが決まった。
「クッ!(ドサッ!)ま、まいった!俺の負けだ!」
 強烈な蹴りに吹っ飛ばされた親父は地面に倒れ込むと、潔く、両の手をあげる。
 確かに、これ以上戦ったところで、親父に勝ち目はあるまい・・・
 だが・・・
「フーーーッ!フーーーーッ!」
 頭に血が昇った由香里にはそれが解らない。
 ゆっくりと・・・軍刀を振り上げながら歩み寄ってくるのだ!
「お、おい!参ったって!俺が悪かったって・・・しまった?!バーサークか?!」
 そして高々と振り上げられた軍刀が、今まさに親父の頭上に振り降ろされんとした、
その瞬間!
「由香里!ごめん!」
「フーーーー(ごいーーーん!!)ふんぎゅぅ・・・」
 力一杯にグレイブの柄で和美にブン殴られた由香里は、その場に崩れるように昏倒し
たのであった・・・
 正に迷惑極まりない、由香里の特殊技能である。
「ふぅ・・・え?」
 グレイブを片手に、流れる冷や汗を拭っていた和美であったが、周囲の異様な空気を
感じて周りを見回すと・・・
「・・・」
 みんな・・・無言で和美を見ているのだ。
「え・・・あ・・・私・・・何か・・・」
 和美がおろおろとしていると、先程の胴元の兄ちゃんがつかつかと歩み寄る。
「・・・」
「あ、あのゴメンなさ(ガシッ!)ひぃっ!?」
 そして、ガシッと和美の腕を掴むと・・・
「勝者ぁ!(グイッ!)この、ねーーーちゃーーーん!」
「おおおおおおおおぉ!」
「え・・・ちょっと・・・」
 高々と和美の手が上げられた・・・


「っ・・・つぅ・・・」
 頭に真に刺し込むような痛みに、由香里は眼を覚ました。
「あ、起きた?」
「おぉ、起きたかい」
 由香里は自分にかけられていた毛布を払うと、頭を押さえて起きあがる。
「っつぅ・・・和美・・・ここは?」
「殺気の武器屋さん」
「武器屋・・・あ、そっか・・・んもう・・・和美、もうちょっと加減してくれてもい
 いんじゃない?」
 どうやら誰にやられたかは記憶にあったらしい。
 そんなふてくされている由香里に、和美はチロリと舌を出した。
「ごめん・・・でも、お金が(ザラッ!)ほら♪」
 和美が自分の革の袋からザラザラとコインを机の上に散らばせるのを見ると、一気に
目が醒めた由香里はベッドから飛び降りコインを指ですくう。
「どうしたのよ!?こんなに沢山?!」
「へっへぇ〜☆ほらぁ、私は由香里に賭けていたんだけど、結局は私が由香里のコトを
 殴っちゃったでしょ?そしたら、胴元の人がこんなに・・・」
「あれ?あたし勝ったっけ?」
「いや試合の方は、両者敗北で乱入者の勝ち。賭試合としては『無効試合』となってし
 まったんだが・・・この町のルールで、乱入者の勝利は親の総取り・・・胴元はそん
 くらいの礼金を乱入者に出しても痛くも痒くもない・・・ふん」
 そう言ったボルティー親父は、まだつまらなそうにしている。
 まぁ、当然と言えば当然であろう・・・
 本人とて、自分がこんな小娘に負けたのがまだ信じられないのだ。
「さて、あたしが勝った・・・って訳じゃないけど・・・一応勝ったんだから、なんか
 商品ちょーだい☆」
 ひとしきりコインをすくっていた由香里は、そう言って親父に向かってキチンと両手
を差し出したのだ。
 やはり、由香里はしっかりしている。
「・・・いよっと!(ズトン!)」
 親父はナイフを壁に向かって投げつけると、椅子から腰を上げた。
「はいはい・・・俺もついてねーよな・・・そっちの嬢ちゃんから聞いたぜ。異世界か
 ら来た戦士と知ってりゃ、賭なんかしなかったんだ・・・で、何が欲しい?武器か?
 防具か?情報か?」
「うーん・・・全部欲しい♪」
「そりゃひでぇ・・・わはははっは!ま、いっか!命があるだけめっけもんだからな」
 豪快に笑っている親父を横目に、和美は由香里の袖を引っ張る。
「由香里、それじゃボルティーさんに悪いわよ。どれか一つに・・・」
 だが、親父は豪気に首を振る。
「いいって。武器と防具は適当に店のを見繕ってくれ。で、情報ってのは?」
「そうね・・・あたし達、西の山に住む魔女を倒しに行くんだけど、何か知っている事
 はないですか?」
「西の魔女か・・・」
 親父は上着から葉巻を取り出し、蝋燭の火でつけると、高々と煙を吐き出す。
 そして、店の中に紫煙がくゆらぐのを眺めながら、親父は話し始めた。
「あれは・・・精霊が建てた城でな。魔王の城に似せて造られたと言われている」
「魔王の城にですか?」
「そうだ。遥か昔・・・約600年くらい前かな?人間と魔族とが壮絶な戦闘を繰り広
 げたことがあった」
「あの・・・魔族って何です?」
 聞き慣れない言葉に和美が首を傾げると、オヤジは顎を撫でながら答える。
「うーん、なんつったらいいのかな?魔王を頭にした凶悪な奴等で・・・まぁ、早い話
 がバケモンの団体さんだ」
「ふーん・・・で?」
「その戦闘の際に聖魔教団が創り出した闘神兵器の中で・・・」
「チョイ待った!聖魔教団ってナニ?あと、闘神兵器ってのも!」
 今度はメモをとっていた由香里が手を挙げる。
「聖魔教団ってのは・・・魔法が絶対って言ってた割に、人海戦術に破れた偏屈の集団
 のこった。あと、闘神兵器ってのは・・・魔法を使った人間型の兵器らしい。なんせ
 俺も実物を拝んだ訳でもねぇしよ」
「へぇ・・・んで続き」
「ところがその闘神兵器ってヤツの中で、たった一つだけ、変わったヤツがあったんだ
 そうだ。なんでも、そいつは試作型の闘神兵器でニュートリノ魔力により、霊体のみ
 の存在で・・・ん?」
「ぅ〜・・・難しい」
「あ〜・・・つまりは幽霊だ。得意技は相手の魂を抜き取ること。これでどうだ?」
「よく解った」
「んじゃ、超必殺技は?」
「はは・・・そんなモンあってたまるかよ。んで聖魔戦争は人間側の圧倒的な敗北、闘
 神兵器も多くがブッ壊れたとのことだ。で、これからが重要だ・・・ん?ちゃんと聞
 いてるのか?」
「は、はい」
「え、えぇ」
「なにコソコソしてんだ?」
「いいえ、なんでも」
「続きをどうぞ」
「ふむ・・・で、戦争が終わりに近くなった頃、その例の変わった闘神兵器ってヤツは
 聖魔教団が滅びる寸前に、一人の女の魔人に乗り移って、ナンとか生き延びようとし
 たらしい。その相手が魔人ゼルパ・・・言霊を操る魔人で、その魔力と呪言と美貌は
 多くの聖魔教団の兵士達を苦しめたと言われている」
「ふーむ・・・」
「へー・・・」
「だが、乗り移ろうとしたまでは良かったんだが・・・相手も魔人だ。その闘神兵器に
 完全に乗り移られる直前、魔女はナンか魔法を使って、逆に闘神の霊体を吹き飛ばし
 たそうだ。しかし、闘神の方もタダじゃぁやられず、魔女の持っている肉体を滅ぼし
 て、魔王軍から孤立させたそうだ・・・んで、こーして出来上がったのが、強力な力
 を持ち、人間に驚異をもたらす実体を持たない魔女・・・つまりは魔女の幽霊・・・
 いや、生霊ってわけだ」
「ふむふむ(もぐもぐ)」
「それで?(じゅこっ)」
「それで・・・お、おい!?それ、俺の楽しみにしていたおやつ・・・」
 奇妙な音にふと見れば、由香里は饅頭をかじり、和美は紙パックのジュースを飲んで
いるのだ。
 先程からゴソゴソとしていたのは、コレを見つけたためであったらしい。
 可哀想に・・・親父は泣きそうである。
 だが、由香里はピシャリと言い放つ。
「店にあるモンはなんでもイイって言ったじゃん。いいから続き!」
「おぅ・・・んで、その魔女は魔王にも人間にも属せず、自らの欲望のままに活動を始
 めたんだ。魔女は一体の精霊を創り、さらには精霊と共に手足となるべく邪妖精まで
 もを造り、世界を侵略し始めた。特に精霊は闇を司り、実体を持っている分だけ、魔
 女よりも物理的な攻撃が強く、残酷な性格だったそうだ」
「魔女が精霊を産んで・・・えと、創った妖精って?」
「炎の妖精に水の妖精に土の妖精に・・・時の妖精に・・・雷と・・・えーと、あとは
 忘れちまった」
「ふむ・・・ま、ありきたりね」
「で、その後は?魔女と精霊と妖精は?」
「ふむ、世界が再び大戦争をおっぱじめようかっつー時に、どうも邪妖精の一人が魔女
 を裏切ったらしくてな・・・」
「裏切った?」
「あぁ。この世界の昔話では『光と闇の裏切り者』って言い伝えられ、俺の読んだ文献
 には『大いなる魔女の放つ、裏切りの光』とあるが・・・まあ、一緒だろ。どうやら
 コイツが嬢ちゃん達と同じように、異世界から賢者を呼び寄せ、そのやって来た賢者
 によって、邪妖精達はぜーんぶ封印されたそうだ・・・ふぅ」
「封印?」
「あぁ、なんでも、精霊は賢者の持っていた杖のクリスタルに、邪妖精達は賢者の首飾
 りのクリスタルの中に封印され、魔女はその杖で壁に貼り付けにされたそうだ。んで
 賢者の方は魔女の最期の呪いにかけられ行方不明・・・」
「へえ・・・それにしても、おいちゃん・・・随分と詳しいのね」
 ようやく一息をつき、煙草をくゆらしている親父を眺め、由香里のメガネが光る。
 あまりにも知りすぎていると思ったのだ・・・
 そんな由香里の鋭い眼光に、親父は頭を掻く。
「まぁね。これでも王宮にいた時は、考古学の研究をしていたんだ・・・」
「・・・王宮?」
「・・・恥ずかしい話だが、昔、俺はゼス王国という国の、参謀次官をしていたんだ」
「へぇ〜〜?!人は見かけによらないわね」
「んでも、どーして今は・・・」
「ま、ちぃとばかし・・・悪さをしてな」
「・・・大方、今の話しも・・・その『悪さ』の一つなんでしょ?」
「・・・嬢ちゃんにはかなわねぇな。それでだ、ここからが重要なんだ。この間の魔女
 討伐に行った、ヘルマン帝国の討伐隊の生き残りの奴から聞いたんだが・・・」
「え?全滅したんじゃ?」
「いや、隊長と数人だけ奇跡的に生き残ってた。それに、生き残りと言っても・・・そ
 いつはゼス王国の魔導病院に運ばれた、右腕と左足、それに左目と腹を少し食われて
 死にかけたヤツだったんだけどな・・・なんでも、部隊が城の回りで夜を明かそうと
 した時、その『闇』に襲われて、城に入る事すら出来なかったそうだ」
「ふーん・・・あと、村娘がさらわれたって話しだけど?」
「うむ、それなんだが・・・俺が昔の文献を探ったトコ、どぉも娘達は邪妖精にされた
 んじゃねぇかと思うんだ」
「邪妖精に?」
「あぁ。邪妖精の核(コア)にされたらしいんだ」
「核か・・・触媒かしら?それともエネルギーの供給源?」
「どうだか・・・おそらく、力が落ちているんじゃねーか?なんせ600年も前に封印
 されたっきり、飲まず食わずだしな。だがな、めんどーな事に・・・」
「うかつに邪妖精を殺せば・・・」
「中の娘が死ぬ・・・?」
「・・・ってわけだ」
「なるほど・・・ん?そーいえば、各国の軍隊は動いていないの?」
「それが、この間の大地震の復旧作業に忙しいんだ・・・」
「そっか・・・ありがとね!あたし達はそろそろ宿に戻るわ」
「いろいろ有り難う御座いました」
 由香里がそう言って軍刀を持って立ち上がると和美もグレイブを手にする。
「そうか。ま、気ぃつけてな」
 親父は手を上げると、和美達を見送った。
「やれやれ・・・頼むぜ、異世界の戦士達・・・どっこいしょっと。国王と関係各国に
 報告書でも書くか・・・あとは、ホ・ラガのジーサンの言うとおりに動いて・・・」
 和美達が店から姿を消すと、親父は葉巻をもみ消し、立ち上がった・・・その時。
「もう一回ごめんください」
「ん?忘れ物かい?」
 帰った筈の由香里が戻ってきたのだ。
「ええ。武器と防具を・・・ね。今も現役の参謀次官さん♪」
「・・・まいった」
 にっこりと微笑む由香里に、親父は天を仰いだ。


                    4


「ふーん・・・」
「精霊さんが造ったお城だったんですか・・・」
 早苗と綾子は和美と由香里の話しに、深いため息をつく。
「ほーんと、まいったわ・・・おまけに精霊の創った妖精まで復活・・・ホント裕美は
 なんて事してくれたのかしら!?(ぼふっ!)」
「枕に当たってもしょうがないでしょ・・・(ぽふっ)ふぅ」
 頭にきた由香里は枕に拳を叩きつけ、和美はゴロリとベットに転がった。
 いくら自分達が他の世界の住人で、この世界で強いとは言え・・・
 和美達は所詮は「タダの高校生」なのだ。
 魔女になっているのが裕美だけならば、何とか「説得」できるかも知れないと、甘く
考えていた和美と由香里であったのだが・・・
「はぁ・・・国の兵隊さんをも全滅させる化け物かぁ・・・」
「あたし達が・・・勝てるわけがないよねぇ〜」
「で、でも・・・でもですよ?その精霊さんを倒す事が、私達が元の世界に帰るための
 クエストと言うわけでは・・・何とか裕美さんだけを連れて・・・」
「・・・クエストの可能性の方が高いわよ。それに精霊を倒さずに裕美の・・・魔女の
 トコまで行けるわけがないでしょ?」
「・・・」
 更に部屋の中が重苦しくなった。
 そして、その沈黙を破ったのは・・・
「(ぐぅぅぅぅ)ん、和美ちゃん。お腹減った♪」
「はぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
 早苗の腹の虫であった。


 さて、和美達は食事をする為に、夜の街に出た。
 暗闇が覆い被さる中、街のあちこちには篝火が焚かれ、その淡くも確かな光は夜の街
を浮かび上がらせ、昼とは違う雰囲気を醸し出している。
 そして今や和美達の服装は、由香里が武器屋から頂いて(強奪して?)きた商品で、
その雰囲気に見事にとけ込んでいた。


 和美・・・防具:プレートメイル。
      武器:グレイブ、ショートソード。

 早苗・・・防具:革のライトメイル。綾子からもらったスモールシールド
      武器:モーニングスター、綾子からもらったフレイル。

 綾子・・・防具:聖母のローブ。
      武器:魔法の杖。焔の懐剣。

 由香里・・防具:材質不明のライトメイル。
      武器:長船、妖刀春雨(小太刀)


 と、なっている。
 そんな装備を調えた和美達は、町の中を歩きながらレストランを探していた。
「ねぇ、和美ちゃん。早苗、和風はんばーぐがいい♪」
「なに言ってんのよ。ここの世界にあるわけないでしょ?」
「あぅ・・・」
「それにしても、レストランがありませんねぇ・・・」
 綾子の言う通り、いくら探してもレストランらしき建物はないのだ。
 時折、肉の焼けるような、いい匂いがするのだが、行ってみると酒場だったりする。
 和美は嫌な予感がしてきた。

・・・まさかねぇ・・・

 そして、その予感を察知したかの様に由香里がニヤけた。
「和美ぃ・・・この世界の食堂って、酒場が兼用してるんじゃないのぉ?」
「う・・・なんで今、私が不安に思った事をあんたは当てるのよ」
「酒場にれっつごーーー☆!」
「ごぉーーーー♪!」
「ひぇぇぇぇ!?」
「由香里さん!?早苗ちゃん!?」
 由香里に腕を引かれ、早苗に背中を押されて、和美と綾子は酒場に入っていく。
「(ばたん)いらっしゃいませーーー!」
 入るなり、元気な店員の声が飛んでくるその店内は、タバコの煙が蔓延し、えらく騒
がしい。
 だが由香里と早苗は構わずにズカズカと中に入っていくと、4人が座れる席に和美達
を押し込める。
「さぁさぁ、ここが空いているわよ♪」
「ゆ、由香里さん、そんなに・・・」
「和美ちゃん、座って座ってぇ☆」
「コラ早苗!押すなっての!」
 そんな落ち着きのない席に、この店の制服であろうか?ほぼ「下着に近い格好」をし
たウエイトレスがメニューを手にやってきた。
 すぐさま目を輝かせた早苗が、その腰に抱きつこうとするが・・・
「いらっしゃいませぇ〜☆ご注文は何になさいますか?」
「お、おねぃさんを2〜3人見繕って(ガン!)あうっ!?(ゴキャ!)おブッ!?」
「やめなさいっつ〜の!」
「異世界に来てまで恥をさらすな!」
「んきゅ〜・・・」
 由香里と和美の鉄拳に撃沈され、イスに沈んでいく・・・
「え、え〜と・・・メニューをどうぞ♪」
「どうもすいません・・・え?」
 心なしか顔の引攣ったウエイトレスからメニューを受け取った綾子だが、メニューを
開くなり、その目はテンになってしまった。
「えーと『うっぴーの姿焼き』に『コカトリスのつくね』とありますが・・・コレでは
 どのような料理か・・・解りません・・・」
 意味不明に近い単語が並ぶメニューに、一緒に覗き込んだ和美と由香里も眉をひそめ
ている。
「う〜ん。でも『つくね』ってくらいだから・・・焼き鳥みたいなモンじゃない?」
「下手に注文して、あんまし変な食べモンが来ても困るし・・・」
「あの・・・オススメのメニューってあります?」
「はい♪本日のオススメは、こちらになります☆」
「なになに?えーと『本場リーザスで修行をしてきたシェフが作る、このトロけるよう
 な(ちゃそばシチュー)の前では、屈強な闘神も負け犬同然!』か・・・」
「それって、シチュー・・・よね?」
「えぇ・・・ただ『ちゃそば』って単語が気になるけど・・・」
「取りあえず、煮込まれているから大丈夫でしょ?んじゃ、それを人数分で頼みます」
「はい!『ちゃそばシチュー』を4人前で・・・それと、お飲物の方は?」
「そりゃ、もちろん♪ハードドリン(ぎゅ!)うげげげ!?」
「ジュースをお願いします!」
「さ、酒を(きゅう〜〜〜♪)うげげげげげ!!」
「ジュースをお願いしますねぇ!」
「は・・・はい!」
 ウエイトレスは「仲間の首を絞めている」この奇妙な客に一礼をすると、逃げるよう
にテーブルから離れていく・・・
 そんなウエイトレスの背中に手を伸ばしていた由香里だが、その姿が見えなくなるや
否や、憤然と腕を組んでいる和美に掴みかかった。
「あ〜!あたしのおちゃけぇ〜・・・和美・・・なんかあたしに怨みでもあんの!?」
「いっぱいね!特にお酒を飲んだアンタには!!」
「う・・・う〜・・・」
 コレ以上ないくらいハッキリと理由を言われては仕方がない・・・
 由香里は不貞腐れると、暇つぶしに店内をぐるりと見回す。
 店内には、この街の住人の他に、旅をしているような格好の者が、ちらほらと見あた
る・・・と、そんな中、由香里の眼に妖しげな人物が入ってきた。
「・・・(ちゅ〜)」
 頭からスッポリと黒いフードを被り、顔すら見えないその人物は、時折、手にしたグ
ラスのジュースらしき物をストローで飲んでいる・・・見るからに妖しい。

・・・裕美かな?背格好もそれなりに似てるし・・・

「おまちどうさまぁ〜♪」
 和美達のテーブルに、料理が運ばれてきた。
 それは、ホカホカと温かな湯気を立てているシチュー・・・
 和美達は、それぞれの器に盛りよせると、早速、口に料理を運んだ。
「あちあち・・・もぐ・・・」
「おいしい!このお肉!とっても柔らかい!」
「本当ですわ!・・・あら?由香里さん、食べないのですか?」
「え?・・・あぁ、食べるわ・・・」
 だが、綾子の声で我に返った由香里は、料理には手を付けず、前に置かれた飲物で唇
を濡らすだけに留める。

・・・気になるわね。にしても、顔が全く見えないなぁ・・・

 視線の先の人物が、どーしても気になるのだ・・・と、その時。
「ふざけんナァ!(ドガシャアアン!)」
 和美達の側で、激しい音と怒鳴り声と共にテーブルがひっくり返された!
「んむ!?」
「何事でしょう?」
 和美達がフォークを止めて振り返ると、二人の男が真っ赤になって何やら言い争いを
始めている。
「貴様!俺がイカサマをしたって言うのか!?」
「あたりめぇだ!そうでなきゃ、何で12回も連続で一人勝ちなんだよ!?」
「そりゃてめぇーが、マヌケだからだ♪」
「んだとぉ!?(シャラン!)野郎ぉ!」
 ついに男の一人が腰に下げていた剣を抜いた!
 途端、店の中に殺気がたちこめる。
「お!?(シュカシュカ!)上等じゃねぇか!」
 相手の男も、背中から2本の大型ナイフを抜き出して構えた。
 無論、その様子は和美達にも、よく見えている。
「和美さん、止めた方がよろしいのでは?」
「い、いや逃げた方が・・・ね、由香里・・・由香里ってば!」
 心配そうに和美の手を取る綾子に、和美も由香里の腕を引っ張る・・・が、この騒ぎ
にも関わらず、由香里は別の所を見ていた。
「むむ〜・・・もうちょっとなんだけど・・・見えないなァ〜」
 由香里はナンとか黒いフードの人物の顔を見ようと、そちらの方に夢中になっていた
のだ。
 その間に男達のケンカはエスカレートし、遂には一人の男が「由香里の目の前」に転
がってきた!
「うりゃああ!(どかっ!)」
「おぉ?!(ゴロゴロ!)」
 そんな突然、目の前に転がってきた男に、由香里は・・・
「む?・・・ちょっと、そこ邪魔よ」
 と、邪険に手を振るだけ。
 だが、目の前の男が頭を抱えるのと、和美の声に由香里が振り返ると・・・
「由香里!後ろ!」
「くそっ!邪魔だぁ!どけぇ!」
「え?・・・うわ!?」
 別の男が、エラい剣幕でロングソードを振り上げているではないか?!
「きゃああ!由香里ちゃーーん!」
「くっ!?」
「一緒にブッた斬ってやる!」
 早苗の悲鳴と、由香里が腰の小太刀を抜きかけたのと、男のロングソードが振り下ろ
されかけた、その時!
「(ビシャアアアアン!ギィイイイイン!)うぎゃああああ?!」
 突如、何処からともなく飛んできた青い稲妻が男に襲いかかり、男の振りかざしたロ
ングソードを吹き飛ばしたのだ!
 ロングソードは回転しながら店の床に突き刺さり、そして、男の方も黒焦げになって
床に倒れ伏す。
「な、なに?」
「雷・・・?」
 和美が雷の飛んできた方を見ると・・・
「・・・」
 そこには由香里のマークしていた、黒いフードの人物が手を突き出していた・・・


 和美達は黒いフードの人物に接触を試みようとしたのだが、その人物は騒ぎのすぐ後
に店を出て行ってしまっており、礼を述べることは出来なかった。
 そして、和美達が食事を終え、店を出て宿に戻る、その帰り道。
「困りましたねぇ・・・せめてお礼だけでもしておかないと・・・」
 礼を述べられなかった事を気に病む綾子に、和美も頷いたのだが・・・
「そうねぇ・・・ね、由香里」
「・・・」
「ん?由香里、さっきから何を考え込んでいるの?」
「うん・・・気になることがあって・・・」
 由香里の頭の中では、先ほどの光景が繰り返されていたのだ。

・・・あの時・・・あの人が魔法を使った時・・・あの人の手・・・間違いなく、女の
   人だったなぁ・・・何とかして・・・もう一度、引き返して店にいこっかな?

 だが、そんなコトを考えている内に、宿の前まで来てしまったのだが・・・
「・・・あれ?和美ちゃん・・・あの人・・・さっきの人じゃない?」
「なに?!」
 早苗のその声に由香里が顔を上げると、確かに、早苗が指差したその先に、あの黒い
フードの人物が・・・しかも、自分達と「同じ宿」に入っていくではないか?!
「なんだ、同じ宿だったのか・・・」
「それでは、後ほど御挨拶に・・・あ、ただいま帰りました」
「お帰り!はい、お部屋の鍵」
「有り難う御座います」
 和美達もその後を追って宿に入り、綾子が鍵を受け取っている間に、由香里は宿帳を
めくっていた。
「(パラパラパラ)えーと・・・」
「ん?由香里、何してんの?」
「ちょっとね・・・」
 パラパラとめくる宿帳には、和美、早苗、綾子、由香里の名前の他に・・・

・・・なんだ。あたし達以外に、お客さんは一人しかいないんじゃない。えーと、なに
   なに?「サーティス・アネーロ」か。部屋はあたし達の二つ隣ね・・・う〜ん、
   裕美じゃないのかな?・・・それとも偽名かな?

「由香里。部屋行かないの?」
「え?あぁ・・・」
 その声に、ふと宿帳から顔を上げると、既に綾子と早苗の姿は無く、和美が階段口で
待っている。
 由香里は宿帳を閉じると、部屋に行こうかと足を踏み出したのだが・・・
「ん〜・・・和美、お金ちょーだい♪」
 和美の側まで来ると、考えが変わった。

・・・もう少し・・・一人で考えたいな。

 だが、そんな由香里の考えとは裏腹に、和美は半目で由香里を見ている。
「・・・お酒を飲みに行きたいなんて言わないでしょうね?」
「んにゃ、ちょっとジュースを・・・」
「・・・ホントに?」
「ホントだってば」
「・・・すいませーん!そこの飲み物は一つ幾らですかぁ〜?」
「全部、一つ2ゴールドだよ!」
 身を乗り出してカウンターの女将に向かって叫んでいる和美に、由香里はガックリと
首を項垂れた。
「あんた・・・そこまで、あたしを信用できないわけ?」
「うん」
「もぉ・・・いい・・・お金ちょうだい」
「はい、2ゴールド。んじゃ、あんまり遅くならない内に部屋に戻ってね♪」
「(チャリン)・・・あぅ」
 和美からコインを「2枚だけ」受け取ると、由香里はカウンターの女将に差し出す。
「はい・・・お金」
「どうも!好きなの取ってね」
 カウンターの女将さんにコインを渡すと、奥にあるベンチに座り、蓋を開けて一口飲
んだのだが・・・
「ふぅ・・・ん?・・・これは?!」
「ふふ♪」
 一口飲むなり、由香里は顔を輝かせて女将の方を見ると、女将は笑顔で親指を立てて
いるではないか?!
「・・・か、感謝しますぅ!」
 中身はシードル(発泡酒)であったのだ。
 だが、喜々として由香里がシードルを飲んでいると、誰かが階段から降りてくる気配
がしてくる。

・・・やばい!・・・和美だったら・・・

 慌てて瓶を隠す由香里だが、降りてきたのは黒いフード・・・
 確か、アネーロの名前で泊まっている人物だ・・・まだ、由香里には気がついていな
い様子である。
 由香里は極力気配を押し殺して、じっと見つめた。
 その人物も、由香里と同じように飲物を買い、ベンチにやって来る。
 そして、由香里の真正面に来た・・・
「こんばんは。先ほどは助けてくれて、ありがとうございます」
「あ!あわわわ?!」
 不意に呼びかけられ、フードの人物は狼狽えたらしい。
 手の中で飲物の瓶が踊り、瓶を取り落としそうになったのがナニよりの証拠・・・
 更に由香里は、その押し殺した悲鳴の様な声を聞きのがしてはいなかった。
「・・・女性の方でしたか。それも、魔法使いの・・・裕美じゃないの!?」
「・・・!」
 いきなり逃げようとする黒フードだが、由香里はその細い手を捕らえた。
「(がしっ!)待ちなさい!!」
「きゃ!」
 由香里がその手を引くと、あっさりと倒れこんでくる。
 そして、その勢いで・・・フードが外れた。
「あり?あなた裕美じゃ・・・ん?!人間じゃない!?」
「ゆ、許して!お願い!クリスタルだけは・・・」
 流れるような蒼い髪を由香里の胸に散らしながら、女が涙を流しながら哀願する。
 だが、その女は由香里の言葉通り・・・長い耳に、エメラルドグリーンの瞳。
 そして、額に埋め込まれた蒼いクリスタル・・・明らかに人間ではなかったのだ。
「どうしたんだい?」
 その騒ぎを聞きつけた女将が、カウンターから身を乗り出して顔を覗かせてくると、
由香里は慌ててフードを女にかぶせた。
「な、なんでもないです!チョッとブツかっただけで!はい!」
「そうかい?・・・」
 女将の姿が見えなくなったのを確認すると、由香里はまだ胸の中で震えている女に優
しく語りかけた。
「大丈夫よ、アネーロさん・・・」
「な、なぜ私の名前を!?」
「あのね・・・だったら、宿帳には偽名を使いなさい」
「・・・あ」
 アネーロはそっと立ち上がると、フードを被り直して由香里の隣に座る。
 そんな、心なしか落ち着いた様子を見せたアネーロに、由香里はそのフードの中を覗
き込んだ。
「あなた・・・何者なの?」
「え?解りませんか?!」
 意外と感じた様な驚きの声を上げるアネーロに、由香里は頷く。
「えぇ・・・あたしは・・それに店にいた連れもだけど・・・この世界の住人じゃない
 ものだから・・・」
「・・・え?」
「あたし達は、他の世界から来た者なの」
 その由香里の言葉に、アネーロは複雑な表情を浮かべた。
「そうでしたか・・・あなた達が・・・判りました。それでは説明します・・・私は、
 一般にカラーと呼ばれている種族です。普段はこの額のクリスタルを人間に取られる
 のを恐れ、人里に姿を見せないのです」
「それじゃぁ・・・なぜ街に来たの?」
「はい・・・魔女を倒せと、神託がありましたので・・・」
「あなたも?・・・実はあたし達も魔女を倒しに行くところなのよ」
「・・・はい、私もあなた達を探していました・・・でも・・・」
「でも?」
「でも・・・大丈夫でしょうか・・・カラーなんかと一緒にいたら・・・」
 そんな戸惑いの表情を見せるアネーロに、由香里はドンと胸を叩く。
「大丈夫だって!あたしに任せなさい!!」
「・・・はい!」
 胸を張る由香里に、アネーロは羨望の眼差しを送っていた。
 和美だったら、「当てにならない」の一言で片づけられるのだが・・・


 さて・・・由香里はアネーロを部屋に連れて帰ってくると、早速、和美達に紹介した
のであったが・・・
「えーと、『かくかくしかじか』ってな訳なの!みんなも協力してね♪」
「はい」
「はーーい♪」
「かくかくしかじか?」
「・・・和美、あんたは暗黙の了解っての知らないの?」
「あはは、ごめん。理由は解ったわ。私達こそ、よろしくお願いしますね」
「んで、何か質問のある人は?」
 そう尋ねる由香里に、話の大まかな内容を聞いた和美達はそれぞれ考え込む・・・
 その中で、和美が何やらアネーロに手を挙げて質問をした。
「あの、アネーロさん」
「はい?」
「神託があったとお聞きしたのですが・・・どの様な内容だったのか、よろしかったら
 聞かせていただけませんか?」
「・・・」
 和美の質問に些かの戸惑いを見せていたアネーロだが、小さく頷くと、ゆっくりと語
り始めた。
「あれは、2週間位前の事です。私達のいる森の樹々が突然ざわめき、天が赤く染まり
 それと同時に大地震がこの世界を襲いました・・・ただ事ならない事態を察した私達
 は、神である『ルドラサウム』に祈りを捧げました。そして、それにより下された神
 託が『アネーロよ・・・汝、4人の外なる戦士と2匹の獣、一人の獣使いと共に、闇
 を斬り、魔女を倒し、この世界より我が夢を騒がす外なる者を追い返せ』との事でし
 た・・・でも、何故に神様はまだ見習いの私なんかを・・・」
「それで私達を探していたのね・・・でも、4人の外なる戦士は私達だから解るけど、
 2匹の獣と、その獣使いって・・・なんだろ?」
「確か・・・最近、街や村を荒らして、食料を奪っているってお話しですけど・・・」
「うーん、わかんない・・・」
 和美も必死に考える。
 なにしろ、自分達が元の世界に帰れるかどうかが掛かっているのだ。
「んん〜・・・獣かぁ・・・獣って事は、猛獣よね・・・熊、ライオン、豹・・・虎に
 龍・・・ん?龍?・・・龍さん、夏美さん・・・それから・・・」
 まぁ・・・確かに「イロんな意味で猛獣」を考えていた和美であったが、次の瞬間、
和美の頭の中に躍り込んで来た「獣達」がいた!

・・・「ンンーーンンンッ!(ムキャッ!!)セクシィィィィーー!!」
・・・「ンンーーンンンッ!(ムキャキャ!)ダイナマイッ!ッス!!」

・・・お、大下さんに、村田さん?!た、確かに、あの人達もこの世界に来ていたら、
   ある意味で「猛獣」には違いないでしょうけど・・・ん?でも、あと「獣使い」
   って事は・・・

・・・「大下さーん!村田さーん!もう帰りましょうよぉ〜!」

・・・孝司!?確かにそうだわ!村田さんを「使役出来る人間」が、この世界に来てい
   る可能性があるのは孝司以外に・・・あと、由香里か。

 そして、更には同じ時にいなくなった孝司も、幸いにも思い出された。
「ねぇ!」
「どうしたの和美。さっきからブツブツ言っていたかと思ったら、今度は大声なんか出
 しちゃって?」
「あのさ!もしかしたら獣って、行方不明になっている大下さんと村田さんの事じゃな
 いの!?んで、獣使いってのが、孝司じゃない!?」
「まぁ、和美さん。獣だなんて、大下さんと村田さんに失礼ですよ?」
「そーだよ和美ちゃん。どっちかって言うと『猛獣王』だよ?」
 だが、そんな二人の後ろで由香里は深々と頷いたのであった。
「ふむ・・・有り得る」