プロローグ


               ・・・「世界」・・・

         ・・・それは「今、自分がいる場所」のこと・・・

         ・・・それは「世界」という名の一冊の絵本・・・

         ・・・それは「現世」と言う、1枚のページ・・・

     ・・・現実世界(リアリティ)は、その中の1ページの物語・・・

     ・・・幻想世界(ファンタジー)は、その「裏側」のページ・・・

     ・・・そこは「お互い、背中合わせに存在する世界」なのに・・・

     ・・・そこは「絵本を閉じたら、共に触れあう世界」なのに・・・

      ・・・それは、誰も知らない「現実と幻想」の、お伽話・・・

           ・・・それは、それは、それは・・・


                    


           ・・・大きなる星、東より西に流る・・・

         ・・・時の人曰く、「流星の音なり」といふ・・・

           ・・・亦は曰く「土雷なり」といふ・・・

             ・・・是に、僧旻僧が曰く・・・

    ・・・「流星に非ず。是天狗なり。其の吠ゆる聲雷に似たらくのみ」・・・

                ・・・といふ・・・

                           ・・・「日本書紀」より。


            ・・・持統三年(689年)・・・
                〜内裏、同中庭〜


「不比等(ふひと)よ・・・」
 月明かりに照らされた内裏の廊下・・・
 白髪の皇太子(ひつぎのみこ)の声に、後ろで控えていた一人の家臣が傅く。
「ここに・・・」
 だが、皇太子は傅いた家臣に振り向くことなく、言葉を続ける・・・
「我は・・・何故に此処にいるのであろう・・・」
「この國を統治し、民を争いと飢えから守る為に御座います」
「ぁ・・・そうではなく・・・はぁ・・・」
 直ぐさま返ってきた用意されていたかの様な答に、皇太子は俯を向き溜息をついた。
 そんなコトは痛いほど判っている・・・
 己の立場は「人の命に変えられぬほど重いコト」は、判っている・・・
 そうではない・・・
 聞きたかったのは・・・
 言って欲しかったのは・・・
 言葉で確かめたかったのは・・・
 そして重く、長い沈黙の後に、皇太子は口を開いた・・・
「それは・・・それは『弟を死に追いやった者』が、すべき事であろうか?」
「・・・」
 皇太子の問いかけに、家臣は言葉に詰まる。
「それは、正妻でないとは言え『我が子の死に、安堵の息をついた者』のすべき事であ
 ろうか?」
「っ・・・」
 そんな黙り込んでしまった家臣に、皇太子は微笑みかけた。
「・・・すまぬ。無理を言ってしまった・・・それよりも不比等よ・・・近う」
「はっ・・・」
 皇太子は家臣を呼び寄せると、腰に下げていた黒塗りの刀を差し出す・・・
「これを・・・そなたに授けよう」
 刀を授ける事・・・それは絶対的な信頼を持つ者に対し、正当な後見人として認める
証(あかし)なのだ。
「な?!皇太子?!何故に佩刀(はいとう)を?!」
「我は・・・疲れたのだ。これより・・・旅に出ようかと思う」
「お戯れを・・・皇太子は天皇(すめらみこと)と、なられ・・・」
「阿閇(あへ)と、氷高(ひだか)に吉備(きび)と珂瑠(かる)を頼む。特に珂瑠は
 私に似て気弱だからな・・・それと皇后様には・・・あの御気性だからな・・・そう
 だ、身代わりの遺骸を用意して、私は流行病で死んだと伝えてくれないか?そうすれ
 ば、殯(もがり)の際に、近づくこともあるまい・・・」
「皇太子・・・本当に・・・」
 戸惑う家臣には答えず、皇太子は静かに頷く。
「・・・ん?」
 そんな皇太子の視線が、つい、と庭の片隅に止まった。
 そこにあったのは・・・
「蜘蛛の巣・・・あぁ・・・蜘蛛はなんと幸せなのであろう・・・蜘蛛にとって、あそ
 こが全ての世界なのだから・・・そうだ・・・私も行こう・・・」
 皇太子はそう呟くと、懐に手を伸ばす。
「私は誰も守れなかったのだ。もはや、皆に合わす顔もない・・・」
 そして、再び手が現れた時には、一つの水晶玉を握りしめていた。
 それは宝物庫に納められていた筈の「禁忌」の珠・・・
 昔に、偉大なる父親が拾ってきた「黄泉」の珠・・・
「皇太子!?その珠は!?それは『長星(ながぼし)』の欠片では?!」
「私は・・・もう一度・・・」
「な、なりませぬ!」
 ゆっくりと振り上げられる皇太子の手に、慌てて縋り付こうとした家臣だが・・・
「私は『星』となりてでも、人を守りたいのだ。星よ、我の力を必要とする、守るべき
 世界へと誘いたまへ!(パリン!)」
 一瞬速く、皇太子は珠を床に叩き付けたのだ!
「おやめくださ(カッ!ゴォオオオオオ!)ぉおおお!?」
 砕けた珠から放たれた閃光は家臣の視界を覆い、轟音は雷鳴の如くその耳を襲う。
 あまりの出来事に暫くの間、床の上にひれ伏していた家臣であったが、周囲になんの
異変も感じない。
 恐る恐る顔を上げる家臣だが・・・
「皇太子・・・皇太子!?」
 何も変わってはいない・・・
 庭では草木が風に靡き、石は静かに佇んでいる・・・
 そう・・・
 そこに「皇太子の姿が無い」こと以外は、何も変わっていないのだ。
「皇太子・・・皇太子・・・」
 庭に降り、皇子を探す家臣だが、その姿は・・・無い。
 遂には途方に暮れ、授かった刀を抱え天を仰ぐ家臣の目に・・・
「何処へ行かれて(ゴォオオオオオ!)・・・はっ?!」
 闇夜の空を切り裂き、轟音を発しながら流れる「流星」が映る。
 手にしていた刀を落とし、家臣は呟いた・・・
「(カチャン)・・・皇太子は・・・天狗(あまきつね)になってしまわれた・・・」
 桜の花びら舞う春の夜・・・
 それは、正史に残らない、長い物語の始まりであった・・・


                    


・・・強行突入してきた、言霊の魔人「ゼルパ」に、司令官は闘神と闘将を以て対抗す
   るように命令をしてきましたが、その時、出撃可能な闘神は1体もありませんで
   した。私がそう言うと、司令官は「闘神FSX」を出せと言ったのです。私は、
   まだ試作段階の、あの機体を出したくはありませんでしたが・・・仕方ありませ
   んでした。このままだと、間違いなく、この要塞は壊滅します。そして、今、私
   は「闘神FSX」を出撃させました。死にたくありません・・・神様、お願いで
   す。どうか、闘神を勝たせて(以下、血痕と思しき汚れで判読不能)

           ・・・遺跡「空中要塞、闘神都市」に残されていた手記より。


               ・・・GL442年・・・
             〜聖魔教団、空中要塞「闘神都市」〜


「(ピッ!)下方から大型の魔力を確認!魔人クラスと思われます!」
 魔導念波索敵士(ナビゲーター)からの報告に、直ぐさま上官と思われる初老の男の
目が見開かれ、指示が飛ぶ。
「全魔導砲を回せ!集中砲撃で地上に叩き落とすんだ!」
 だが、その声に復唱は返ってこない。
 それどころか、返ってきたのは悲鳴にも似た叫びであった。
「ダメです!凄いスピードで、とても間に合い・・・あっ!?今、魔人は都市北部に上
 陸しました!(ピピィ!)魔導鏡からの映像が来ましたので敵を目視で確認します!
 敵は・・・あぁ?!あれは『言霊の魔人ゼルパ』です!」
「ゼルパだぁ?!民間人は退去させろ!魔導部隊は撤退!闘将と闘神を出せ!」
 拳を握りしめ、的確とも思える指示を出す初老の男だが、その言葉は直ぐさま叩き潰
される。
「了解!現在可動可能な闘神は・・・あ、ありません!全機出撃中です!」
「なんてこった!」
 男の額に脂汗が浮かぶ・・・
 魔人相手に、もはや打つ手だてが・・・
 いや・・・一つだけ・・・ある。
 しかし、その手は・・・
 この世界を崩壊させる恐れが・・・
 いや、この崩壊するのが「この世界だけ」なら、まだましだ・・・
 されども、このままでは・・・
 男の心中で吹き荒れる葛藤・・・
 そして・・・
「よし・・・3番格納庫から『アレ』を出せ」
「3番格納・・・まさか『FSX(サテライト)』ですか?!まだ試作ですよ!?」
「今を逃して・・・いつ使うんだ?!」
「ぅ・・・りょ、了解!『闘神FSX』を稼働します!全隊員に通達!これから3番格
 納庫より『闘神FSX』を出撃させます。全員、退去してください!繰り返します!
 これより・・・」
「・・・頼むぞ・・・」
 これもまた、正史に残らない、影の戦いの序曲であった・・・


                    


・・・○月×日、晴れ。今日もこの世界はとってもいい天気でした。でも、今日はいつ
   もと違って、大変なコトが起きました。朝、健太郎君が私がヴァンパイアになら
   ないようにと、ヒララレモンを採りに出かけて行った後のコトです。私がお家で
   お留守番をしていると、すっごい地震が起きたのです。びっくりしました。その
   後でとても怖くなりました。でも、出かけていた健太郎君がすぐに戻ってきてく
   れたので、安心です♪でもでも、ナンか良くないことが起きそうな・・・

                     ・・・魔王「来水 美樹」の日記より。


              ・・・LP××年(現在)・・・
                  〜自由都市〜


 そこは、剣と魔法が「ごく当たり前」に存在し、人間だけではなく、鬼や悪魔、それ
に沢山のモンスター達が住む不思議な世界・・・
 その人間と魔物達が背中合わせに暮らしているが故に、生存を懸けた壮絶な戦いが繰
り広げられ・・・ってのは昔の話で、今は人と魔物は互いを割り切り、共存の道を歩む
為に、領土を「出来るだけ」分けて住んでいたので、日々、阿鼻叫喚で地獄絵図の世界
になんてコトは、ありませんでした。
 まぁ、ここ数年の間にあったコトと言えば、また魔物と人間が戦争をしたり、空に浮
かんでいた「浮遊都市」が急に落っこちてきたり、たった一人の「鬼畜な人間」が、全
世界を巻き込んだ挙げ句に、神様を相手にケンカ吹っ掛けたりと、割と忙しかったので
すが・・・
 でも、最近は特にナーンにも無く、人々は「今日も平和だ」と、毎日のゴハンを美味
しく食べていた、そんなある日のこと。
 場面は「ドコにでもあるけど、割と都合良くあった家」にクローズアップ。


「ママー、おかわり☆」
「はいはい、しっかりと噛んで食べるのよ♪」
 どうやら家の中では朝御飯の最中であるらしく、子供が差し出した茶碗を、母親らし
き女性が笑顔で受け取っている。
 小さいながらも、何ごともない平和な我が家・・・
 ナンともはや、絵に描いた様な「幸せ家族」である。
 そんな平和な朝食風景に、斧を片手にした髭面の男が、そっと近寄ると・・・
「・・・行って来る・・・」
「あら、あなた。まだいらしたんですか?」
「パパ、早く行ったら?」
「くっ・・・」
 妻と子供の冷たい言葉に、一家の大黒柱である父親の握りしめた斧が震えた・・・
 どうやら、日頃から「ぞんざい」な扱いを受けているらしい。
 毎日毎日、汗水垂らして働いているのにも関わらず・・・
 一体、誰のおかげで毎日を平和に暮らせていると思うんだ?
 オヤジの心の中に吹き荒れる嵐・・・
 今流行のビジュアル系みたいに「タ・タ・キ・ツ・ブ・ス」か?
 それとも、古式ゆかしき「忍」の一字に、ひたすら堪え忍ぶか?
「ぐぐぐぐぐ(プルプルプル)・・・」
 オヤジの斧が、いよいよ大きく震えだした・・・
 だが、そんな「あと、もうちょっと」で、R指定は軽ぅ〜くクリアーの、放送禁止に
バンジージャンプな、衝撃的映像が繰り広げられるであろうかと言う、次の瞬間!
「今日と言う今日は(グラッ)お?」
「え?!(グラグラ・・・ゴゴゴゴゴゴゴ!!)きゃーーーー!?」
「わーー!?(ゴゴゴゴ!)ママぁー、怖いよぉ!」
「な!地震か!?(メキメキメキ)おわぁ!?お、俺の家があぁ!(ズズーーン!)」
 激しく大地が揺らぎ、複雑な事情を持つコノ家庭は、文字通りに倒壊した・・・


 さて、地震はモチロンこの家庭だけではなく「この世界」の全土を揺るがしており、
遙か彼方に聳える、この世界の人々が「サーレン山」と呼ぶ山の中腹にあった古ぼけた
城も例外では無かった。
 その廃墟と化した城の中も、激しい振動により、あちこちの壁が落ち、あるいは装飾
品が倒れていく。
 そんな中、王との謁見の間であろうか?一番に天井の高いその部屋では、玉座の後ろ
の広い壁に、亀裂が走っていく。
(ビシ・・・ビシッビシッ!)
 そのヒビ割れは、素早く広がり・・・
(ビシビシビシ!)
 導かれるかの様に、壁に突き刺さっていた「錫杖」に向かい・・・
(ビシ!・・・カラン!カチャン!)
 そして、ついには「錫杖」を床に落とし、先端に取り付けられていた漆黒の珠が、床
の上で砕け散った・・・
(ゴゴゴ・・・)
 それと、ほぼ同時に地震がおさまり、世界は何事もなかったかの様に、再び時が刻ま
れていく。
 だが主の居ない城の中は、もはや今までの装いには戻れない・・・
 それは、床で砕けた「珠の欠片」から・・・
「く(シュウ〜)・・・くくく(シュウ〜)」
 吹き出して来た、禍々しい霧が・・・
「ぉぉおおお・・・」
 邪念に満ちた声が、この世界と「もう一つの世界」を紡ぐであろう・・・


                    


             ・・・「ねぇ、聞いた!?」・・・

               ・・・「ナニを?」・・・

      ・・・「またあの『拐かしの木』で、人が消えたんだって!」・・・

             ・・・「え?!またぁ?!」・・・

      ・・・「そうなのよ。やっぱ、あの木の噂はホントよ・・・」・・・

         ・・・「んじゃ、消えたのは、また恋人同士?」・・・

           ・・・「ううん。今度は集団で・・・」・・・

           ・・・「ホント、やばいんじゃない?」・・・

     ・・・「でも、消えたら、ホント『ドコに』行っちゃうんだろ?」・・・


            ・・・日那高近くの甘味処「おかめばやし」での会話より。


             ・・・20××年3月吉日・・・
              〜私立日那高校、同体育館〜


「んぁおーげばぁぁぁとおぉぉーとしぃぃぃ、和ぁ菓ぁ子ぃのぉぉ恩ぉぉん〜♪」
「・・・おい!」
 龍は自分の隣で、大声で・・・しかも、何故か演歌調で歌っている夏美のブレザーの
袖を引っ張った。
「ぅぉ教えぇぇぇのぉぉぉぉぉ、にわぁぁぁぁぁにぃぃぃもぉぉぉ♪はぁぁぁぁやぁあ
 ああああいぃぃぃぃぃいいイクぅぅぅぅぅ!(グイッ!)ん?なに?龍?」
「あのな夏美。お前、さっきの歌詞がナンか違うぞ?ついでにメロディーも・・・」
「別にいいじゃないの。あたし、美奈子先生に苺だいふく御馳走になった事あるもん。
 これこそ和菓子の恩ってヤツよ☆おぉぉもぉぉおおおえぇぇぇばあああ〜♪」
「恩なぁ・・・だったら!その手に持ってる『ド派手なマイク』はナンだ!?」
「うっさいわね?!これが無いとチョーシが出ないのよ!!」

 さて、時は春うららかな3月吉日。
 今日は、泣いても笑っても最後の「卒業式」である。
 学校の庭先では気の早い桜が花を咲かせ、今日の良き日に、盛大且つ厳かに、体育館
で行われている「私立日那高校」の卒業式を見守っていた。
 そして、体育館には全校生徒が集い、卒業の歌を・・・

 卒業生は教師達への「最後の思いと憎しみ」を込め・・・
 在校生は先輩達への「最後の感謝と恨み」を込め・・・
 教師達は卒業生達の「最後の一太刀から逃れる術」を考えながら・・・

 とまぁ、いろんな想いを込めて歌っている。
 その体育館の最後尾、同席している父兄達の間からは、我が子の晴れの姿を見る為の
筈であるのに、気合いを入れて化粧をしまくった母親達からの、頭を鈍器で殴られる様
な化粧の匂いが立ちこめ、生徒達の疲労と不快指数を倍増させていた。
 ともすれば、ファンデーションが宙を舞うのが見えそうな上、油断をすればトリップ
しそうな匂いである。
 もしかすると・・・体育館の後ろの席、つまりは父兄に近い所の生徒達などは、既に
中毒になっているかも知れない。
 ナニせ前の方にいる自分ですらこんなに頭が痛いのだから・・・
 その強烈な化粧と安物の香水の匂いに、和美は思わず鼻を鳴らした。
「むふっ・・・うぅ・・・すっごい臭い・・・」
 そんな漂ってくる有毒ファンデーション兵器(?)で生じてくる目眩を必死に堪え、
和美は前の生徒の隙間から、これから卒業する3年生の列を覗いてみる。
 これから卒業していく3年生の女子生徒のその多くが、ハンカチで目元を押さえてい
る中に・・・いたいた。
「いぃぃとぉぉぉとぉぉおぉおおしぃぃぃ!こぉのぉおおおとぉしぃつぅきぃ!!」
「や、やかましい!シャウトをするな!」
 声を張り上げて歌っている夏美と、その隣で耳を塞いでいる龍の姿が・・・

・・・さすが夏美さん。気合い入ってるなぁ・・・それにしても卒業式、早く終わんな
   いかなぁ?

 だが、あくびを必死に噛み殺している、この和美・・・
 この後に「更に長い旅」が待ち受けているなどとは、知る由もなかった・・・