闘神都市2
「剣士死ににゆく」
作:18
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第三章 闘神がきた


1 シード来る

 月光が大地に霜をおろしていた。
 その白銀の中を馬上の剣士達が駆けていく。
 彼らが持つ松明の光が真っ赤な光の尾を引き、それに続く。

 小高い丘を登りきり、眼下に多くの街灯を見た。闘神都市だ。
 旅装束の剣士七人のうち、先頭にいる頭巾の男にとっては約二十年ぶりの、若い六人にとっては初めての闘神都市であった。若い剣士達は、走り気にはやる馬をなだめながら、闘神都市の姿に感嘆の声を上げた。

「このあたりだ。馬からおりて、街道の脇を探せ。」
 先頭にいた男が声をかけ、馬からおりた。腹からひびく良く通る声だ。
 柿色の袖頭巾をつけて顔こそ隠れていたものの、一挙一動からにじみ出る威厳は隠そうにも隠せない。
 若い剣士たちも続いて飛び降りると、左右の街道沿いに何かを探し始めた。

「シード師範、ありました!」
 しばらくして、右手の森をさがしていた剣士の一人が声を上げた。
 彼らが探していたのは二本の剣であった。
 二つの小さな盛り土にそれぞれ剣がつきささり墓標を形作っていたのだ。

 剣士たちは鞍に結ってあった耕具を取ると、それを持って盛り土の周りに集まった。怯えるようにちらちらとシードの顔を見たり、互いの顔を見合わせていたが、やがて覚悟を決めたように墓に鍬や鋤を入れた。

 かつかつ、という音を響かせ穴を掘り続けていると、じきに剣士達の動きがビクリと止まり、恐る恐る穴に松明をかざした。
「……居ました。」
 誰かの声がした。
 それが合図であったかのように、剣士たちは松明を放り出すと、青い顔をして駆け出していった。そして思い思いの場所で犬のようにうずくまって、しきりに反吐を吐いていた。

(やはり刺激が強かったか。)
 それを横目で見ながら、拾い上げた松明をかざしシードも掘り返された墓穴を覗き込む。土中から肩までのぞかせた門弟の遺骸とむせ返るような悪臭がシードを刺激した。

 この墓に眠るのは闘神都市近くまで長月を追い、倒されてしまったのっぽとずんぐりの二剣士だ。
 だが、二週間近くたっているためであろうか、眼球は既になく、黒々とした穴となっていた。唇は腐り落ち、鼻のあたりまで歯ぐきの骨がのぞいている。
 加えて、それらの上には無数の蛆が這い回っているのだ。
 生前の姿は見る影もなかった。

「死んでからも面倒をかけてすまないな。連れて帰ることはできないが、ゆっくりと休んでくれ。正直、長月がお前達を倒すほど腕を上げているとは思わなかった。」

 シードにとって闘神都市はあまりいい思い出が残る場所ではなかった。
 大きな過ちを何度となく犯した街であったからだ。

 あのころは若かった。
 先代師範の、「優勝すれば葉月との結婚を認める、負ければ諦めろ。」との条件をうけて、姉貴分のセレーナと参加した闘神大会。
 その中で凄まじい勢いで腕を上げる自分に自信をもったのと、大会ルールに助長され、シードは次々と暴走を繰り返した。
 闘神になってからはアプロスに、セレーナを人質に取られ奴隷のように扱われ、死が解放に思えるような延々と続く絶望の中で、半ば自棄になり、やはり暴走を繰り返していった。

 シードが生きながらにして地獄に落とされなかったのは、ほとんど奇跡や偶然の賜物であり、後々葉月に、「鬼王様にシードの悪事を暴露されたとき、シードを助けるか真剣に悩んだ。」と告白されるという有様であった。

「全ては俺の罪だ。許せとは言わない。俺が死んだ時に、地獄の鬼王の前で好きなように罵り断罪してくれ。」
 シードは覆面をはずし、二人に頭を下げた。
 そこには長月とよく似た――実際には長月の方が似た、壮年の顔があった。




 若い剣士達は、多少落ち着くと、草原に座り込みながらボソボソと囁きあっていた。剣士達の視線の先には森の中に佇むシードの背があった。

「あんな弱弱しいシード師範の背中は初めてだ。やっぱり辛いのかなあ。」
「事情が事情だからな……。長月の親不孝者め。」
「あの長月にここまでさせるとは、アナさんは魔性の女だな。いくら俺たちとは違うとはいえ、許されねぇよ。」
「長月が斬った門弟は十をこえる。しかも全て瑞原の高弟達だ。こうなると師範みずからけじめをつけるしかない。せめて、ビルナス様とセレーナ様が旅に出ていなければ、師範も心強かっただろうが。」

 剣士達の胸にあるのは出発する時の、瑞原葉月の辛く悲しそうな顔だ。
 門弟達全てを愛する者として、口が裂けても長月への想いを口に昇らせるわけにはいかない。それでも長月に無事であって欲しい、二度と会うことはなくても無事に生きていてくれればそれでいいという母親の愛情が滲み出ていた。

「だが、俺達が捕まえれば、まだわからない。長月を手土産にして、シード師範に全員で土下座すればなんとかなるはずだ。」
「ああ。それしかない。今こそ孤児であった俺達を、住み込みの弟子にしてくれたシード師範と葉月師範に恩返しをするべき時だ。」




 シードが二人の墓を埋めなおし、剣士達のもとへ歩いてきた。
 剣士達はシードがやってきたのを見ると次々立ち上がったが、まだまだ足元はおぼつかない。
「みんな、よく聞いてくれ。あの姿が刃を振るうということの結果であり、殺す、死ぬということだ。」
 シードは剣士達を見回した。
「あの意味をよく考えながら、覚悟を決めろ。モンスターも切れば血を流す。心臓を貫いてもまだ襲ってくる事もある。昔、それで思わぬ不覚をとりそうになった女の子を知っている。生きることに必死なのは人に限らない、常に刃をふるい命のやりとりをする意味を考えておいて欲しい。」

 シードはそれまで以上に声に力をこめた。
「決して死ぬな、これは師範命令だ。必ず生きて帰れ。」





2 捕まったアナ

「シードさまが闘神都市に入られたかもしれません。」
 アナがそう言ったのは、二回戦も終盤にさしかかり、三回戦が始まろうというころであった。ここまで臥路も長月も危なげない戦いぶりで勝ち残っている。
 既に闘神大会が始まってから二週間近くたっていた。

 このごろ思案に暮れることが多くなっていた彼女が、長月とともに臥路の部屋を訪れて相談してきたのである。
 臥路が見るところ、彼女はシードの影を強く意識しているようであった。もっとも、息子である長月にも似たような傾向はあるが、彼女はそれ以上のように思えた。

「どこに潜んでいるのかはわかりません。でも、心なしか闘神都市の空気が変わった気がするのです。あの瑞原道場の空気に近くなったような。」
 そう言われても困る。そんな漠然としたものでは具体的に答えようがない。
 臥路は「無闇に外に出ないようして、尾行に気をつけるように。」とありきたりの返答をすると、その時は帰ってもらった。




 それから数日はなにもおこらなかった。
 闘神大会の日程も三回戦を迎え、その三回戦も最終日になっていた。空は青く晴れ渡り、戦うには絶好ともいえる天候だった。
 そして、この日は瑞原長月の試合が行われる当日でもあった。

 長月の戦いが始まる前の時間に、狐嫁女は鼻歌まじりにラグナード迷宮の入り口に出かけていた。特に用という用はなかったのだが、久しぶりに闘神都市に帰ってきたことと、この青空に誘われて里心が首をもたげてきたのだ。
 普段は意識していなくても、ふとしたことで懐かしく思い出すもの。
 故郷とはそういうものかもしれない。

 そんなことを考えながら大水車の緩やかな屋根に腰を下ろし、髪長姫らしい冷たくツンとした表情で迷宮の入り口を眺めていた。
「冒険者に縛りあげられたときは、帰ってこられるとは思わなかったな。まして私が人間の妻になって戻ってくるなんて。」

 狐嫁女はキョロキョロと辺りを見た。
「へへへ。妻かあ。」
 誰もいないのを見て狐嫁女は呟いた。
 そして恥ずかしそうに両手で顔を隠し、ぽっと頬を染めた。

 もう短くはない時間付き従っているが、臥路にそういう表現をされたのははじめてだったし、人間とモンスターという間柄を考えればむしろ意外な一言だった。
 臥路に対して少なからず想う所はある狐嫁女だが、口に出してそう言われるとどうしても照れてしまう。それが、あくまで便宜上としての言葉であってもだ。

 しかし、甘美な自分の世界は長く続かなかった。
 かすかな女の悲鳴が狐嫁女を現実に引き戻したのである。
「いやっ、離して。」
 聞き覚えのあるアナの声に狐嫁女は眉をひそめると、屋根から飛び降りて声の方へ歩き出した。
(あの娘はなにをやってんだろうかね。)
 シードが闘神都市にやってきたのではないかと悩んでいた割に警戒が甘い。

「アナさん。お願いですから我々とともに戻ってください。」
 続いたのは怒鳴り声というよりも、懇願しているような男の声だ。
「頭、だいじょうぶ?」
 対して、取り付くしまというものをまったく感じさせない、ぴしゃりとした女の声。
 声色だけ聞いていると、どちらが有利な立場にいるのかさっぱりわからない。

「それはわかっています。わかった上で戻って欲しいと言っているのです! 我々があなたと長月を捕まえれば、まだ長月の命は助けられるかもしれないのです。我々も、シード師範も、葉月師範も、できれば長月の命を助けたいのです。あなただってそうでしょう、協力してください!」

 声の現場はラグナード迷宮の入り口から、すこし離れた物陰だった。狐嫁女がひょいと姿を現すと、そこではアナが六人の男に壁際まで追い詰められていた。
「聞き分けてくださいっ。これ以上抵抗するならば、長月の目を覚まさせるためにあなたを切ります。さあ我々と師範のもとに来て下さい!」

 男達の年はまちまちだが、だいたいアナや長月と近しい年齢の若者たちだ。それぞれ旅装束に同じ剣を腰に差していた。
 狐嫁女からみても、それぞれ動きは機敏だ。天下一の道場を自負するだけあって、各々が闘神大会にでてもそれなりに上位を窺がえるだろう。

 狐嫁女がアナと男たちの眼前に、ずいっと進みでた。
「か弱い少女を、数人がかりで力づくとは感心しないね。」
 突然の闖入者に、男達の視線が狐嫁女に集まった。

「狐嫁女さん!」
 アナはその隙に手を振り払うと、狐嫁女の背にさっと隠れた。
「部外者は黙っていろ。これはこちらの問題だ。」
「はっ! すまないが、瑞原のお家騒動なんざ知ったことじゃないね。こっちも、この可愛いのとはかかわりがあって、このまま見逃すと寝覚めが悪いのさ。」
「その女に、友の生き死がかかっているのだ。邪魔をするな!」
 男達はばっと狐嫁女を囲み、次々に剣を抜いた。

「ふん、こしゃくな。」
 狐嫁女は追っ手達を見回してにやりと笑った。
「絡まれ、我が髪よっ!」
 狐嫁女が上半身を軽く回すと、空気を引き裂く音とともに、髪が網のようにひろがって門弟たちに絡みついた。鋼のようにも思えるそれが、足や腰に巻きついて彼らを大地に引き倒したのだ。
 門弟達は抵抗する間もなく、蓑虫のようになって地面の上でもがいていた。

「見た目より、ボリュームがあるだろ。」
 必死に髪を振りほどこうとする門弟たちを前に、狐嫁女が懐から取り出した短剣をちらつかせた。そして闘いを肩越しに覗いていたアナに笑いかけた。
「ここで後腐れなくしとくかい?」
 アナはびっくりしたように、ぶんぶんっと首を横に振った。
 狐嫁女は「そうかい。」というと、大きな掛け声とともに、軽々と門弟たちを宙に振り回した。そして次の瞬間には、門弟達は大地に叩きつけられていたのだ。

 門弟たちが気を失ったのを確認した後、狐嫁女はアナをジロッと睨んだ。
「じゃ、コロシアムにいこうか。まったく、追っ手が来ているような気がするって言ったのは自分だろ? しっかりしなよ、まったく。」
「すいません。ここは両親の思い出の地なんです。だから、どうしても。」
 アナは小さくなって答えた。





3 闘神降臨

 狐嫁女はアナを控え室に送ると、適当な通路に立って試合を眺めていた臥路のもとへ向かった。
 すり鉢上の巨大なコロシアムでは、人が鈴なりになり熱心に中央の闘技場の選手たちを見つめていた。決着がつくたびに沸きあがる歓声が、地を揺らし天にむかい咆哮する。コロシアムは狂騒の渦の中にあった。

 集中して試合を観戦している臥路は、狐嫁女が何度か話しかけても生返事しか返さない。
 狐嫁女は、二十年前の段階で準々決勝に進み、それからさらに腕をあげている臥路の実力ならば闘神大会くらいで負けるはずないと思っている。
 実際、臥路の強さは突出しており三回戦も悠々と突破を決めていた。ここまで臥路を苦しめたのは、勝者の権利のみという状態だったのだ。
 なので、「試合なんか見てないで私の相手をしてよ!」と面白くない。

 そうやすやすと負けないだろうと思っているのは臥路も同じであった。
 ただ臥路は、大会期間を通じて急激に成長する人間がいるということを、嫌と言うほど実感していた。そして臥路が前回敗れたシード・カシマこそ、まさしくその典型例と言うべき存在だったのだ。

 長月の試合が近づくと、コロシアムは一種異様な雰囲気に包まれていった。
 まず、本来三回戦程度では姿を現すはずのない闘神アレキサンダーが、実娘であるクミコと娘婿である将軍カスタムとともに、貴賓席に姿を現したからである。
 彼らは別に長月の試合を見に来たというわけではなく、観客席にいるたった一人の人間の為だけにやってきたのだが、その真意を測ることの出来る人間はごくわずかであった。

 胸から心臓を抉り出すような圧迫感を持つアレキサンダーと、実力は義父を凌駕するとも言われる精悍なカスタム。そして、繊細なガラス細工のような優美さを湛えるクミコ。
 彼らが三人揃って現れた姿は、それだけでコロシアムの中にいる気の弱い観客を卒倒させんばかりの幽玄な力があった。

 意外ともいえるタイミングでの闘神たちの登場に、落ち着きなくざわめくコロシアムの中で、臥路はさらに驚くべき姿を客席に見た。
 ――シード・カシマ。
 頭巾をしている為、コロシアムのほとんどの人間は気がついていなかったが、いつのまにかシードが居たのだ。彼は使い古された旅衣を身につけ、一般席に腰をおろしていた。ときたま油断なく貴賓席に目をやりながら、武舞台を睨んでいた。

 頭巾越しにも、多くの年をとり道場主として相応の威厳を備えたのがわかる。そして鍛え上げられた肉体は昔とは変わっていない。
 だが、問題はそこではなかった。
 シードの剣気はまるで人間のものではなく、臥路はその目を疑った。
 以前戦った時は、成長株といえども臥路より大きく力量が劣っていた。
 それにもかかわらず、現在その目に映るシードは、あまりに人間離れした、あまりに超人的な剣気をまとった存在だった。
「……ばけもの。」
 気がつけば狐嫁女もぶるぶると震えながら、両手で力いっぱい臥路の右腕を握り締めていた。

 アプロス時代を生き残った最古の闘神と、アプロス後に強さを讃えられる闘神・将軍。彼らの闘気はぶつかり合い、まじりあった。
 臥路ほどの人間でも、いや臥路ほどの人間だからこそ、寒気を禁じえないほどの濃密な死の気配をコロシアムに撒き散らしていたのだ。




 試合の方は、長月が一瞬でケリをつけた。
 長月もまたコロシアムを覆う異様な空気と、客席のシードに気がついていた。長月は試合を通して、狂った様な妖しい光を瞳に宿しながら父だけを凝視していた。
 それでいて、いざ試合が始まると、放たれた魔法を華麗に避けながら、流れるような太刀筋で軽々と相手の胴を薙いだ。

 血の霧にけぶるなか、立ち尽くして父だけをにらみつける長月。
 ふいに長月が、高々と腕を掲げたかと思うと、その掌から巨大な炎の矢がほとばしった。奇声を上げながら腕を振りおろして、観客席に火爆破の魔法を叩きこんだのだ。

 目標は実の父シード・カシマ!
 事情を知らぬ観客たちは阿鼻叫喚の渦となり、臥路と狐嫁女すらも仰天して思わず通路の柵から身を乗り出した。
 だが、標的にされたシードだけは、口に笑みさえ浮かべてすっと立ち上がった。
 腕を伸ばし火爆破に軽く触れる。
 それだけで、炎の壁ともみまごう火炎魔法は光とともに霧消したのである。

「あれが『絶対火炎防御』……っ!」
 長月はぎりっと歯軋りすると、父を睨みつけて、控え室に戻っていった。
 こってりとシュリから搾られた長月だったが、そんなものは馬耳東風であった。
 彼の頭の中では、父との圧倒的な差や様々なことばかりが渦巻いていた。




 長月がアナと寄り添うように控え室を出たのは二時間ほどたってからだった。
 部屋を出ると、扉の外には腕組みをしながら立っている臥路と狐嫁女がいた。
 廊下は四人の他に人気がなく、不気味なほど静まりかえっていた。

「長月殿、見事な戦いだったな。」
「ありがとうございます。」
 臥路は長月の目を正面から見据えた。臥路の表情は厳しい。
「客席にシードがいたな。」
 長月がそっと幼馴染の指を握りしめると、アナは静かにそれを握り返した。

「ええ。町でも何人か見知った顔を見ました。アナも追っ手に捕まりそうになったそうですし、僕達の宿がばれるのも時間の問題でしょう。」
 臥路は長月とアナに近づき、声をひそめた。
「そこでだ、近いうちに拙者と長月殿で、連中を迷宮におびき寄せて一網打尽にしようと考えたのだ。やってみる気はないか。」
 長月は少し考えた後に
「面白いですね。確かにこれからは試合数も減りますから。やるなら、早ければ早いほうがいい。」
「ならば再抽選の日だな。勝ち残った連中が一堂に会する。撒き餌ととしてこれ以上のものはあるまい。」

 長月は顔をしかめ、厳しい口調で言った。
「ただ、臥路さんも気をつけて。こちらから反撃するとしても親父が来たら逃げてください。親父には剣と魔法、そして見ての通り異能の力があります。臥路さんでも勝ち目はありません。」

 それまで無言で聞いていた狐嫁女がぼそぼそと口を開いた。
 眉間の皺が深い。
「あれは一体なんなんだ! 炎をかき消すだと、奴は本当に人間なのか?」
 長月が厳しい顔で答えた。
「天使食い。父は一時期、天使を犯して能力を奪う力を持っていたそうです。親父が何人の天使を犯してどれだけの異能の力を奪ったのか。僕にもほとんどわかりません。」
「なんてこった。あんな怪物からあと一週間も逃げなければいけないなんて!」
 狐嫁女が臥路に真剣なまなざしを向けた。
「シードがあんな地獄の鬼とも魔人とも思えるような奴だと知ってさえいれば、臥路を君達に関わらせはしなかったぞ。」