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魔族との戦いの中で親を失い、姫であるルーシアが王位を受け継いだ。 このままでは国が滅ぼされてしまうと宝玉を取りに王家の墓に行くが、宝玉は魔族に奪われ親しい側近の剣士トーラスも失った。 宝玉を失ったルーシアは結界が張れなくなってしまった。 女神神殿のエルラーゼに相談したところ王家の血を受け継ぐ者の命と引き換えに結界が張れるという。 自分の命と引き換えにでも守りたいものがルーシアにはあった。 弟、妹のように慕っている市場の外れの子供たち、レナシアムの人たち、そして大好きなザンバ。 両親を失ってから毎日のように夢を見続ける。 わたしはまた一人だけ半壊する城に取り残されていた。 目の前では大切な人が一人ずつ切り裂かれていく、倒れていく者に手を差し延べようとしても決して触れることは出来ない。 わたしはどこにいるのだろう・・・。 魔族の奇声のような雄叫びと人々の恐怖に彩られた叫びだけが虚しく頭に残るのだった。 魔族との戦いで残される悲しみを思い知らされた。 残される悲しみは残された人にしか分からない。 もうこれ以上大切な人を失いたくはなかった。 例えそれが自分の命を引き換えにしたとしても惜しくはないと思えた。 心残りと言えば、弟、妹のように慕っている市場の外れの子供たちのことだろうか。 自分がいなくなってもちゃんと生活が出来るだろうか。 きちんとご飯を食べているだろうか。 喧嘩なんかしていないで仲良くしているだろうか。 ・・・わたしがいなくなったことで・・・・・悲しみに心を閉ざしてはいないだろうか。 優しい子達ばかりだから・・・・・。 ルーシアの瞳から涙が零れた。 涙を流している自分に気付いたルーシアは思わず苦笑する。 自意識過剰だな・・・。 わたしは・・・馬鹿だな・・。 苦笑いを浮かべながら、ザンバのことを想う。 わたしが死んだらザンバさんは悲しんでくれるだろうか。 せめて死ぬ前に想いを遂げたかった。 でもそれは決して叶わぬ想い・・・・・・。 わたしはあの人より先に行ってしまうのにどうして想いを遂げられるだろうか。 いや、遂げられはしない。 この想いは永遠にわたしの心の中に・・・・・・。 そして今日も静寂の間に向かうのだった。 静寂の間。 それはレナシアム城の地下にある、結界魔法を唱えるための場所である。 彼女の瞳には一点の曇りもなく迷いがなかった。 そこにいるのは高貴なレナシアム姫の姿だった。 今日もまた俺はレナシアム城に向かっていた。 日に日に弱っていく彼女を見てはいられなかった。 それでも見届けなければならない。 俺に出来ることは彼女の側にいることくらいしか出来ないのだから。 こんなことは自己満足だということくらいは分かっている。 俺はどんなことをしたって彼女を救いたい。 変われるものなら変わってあげたい。 お姫さまだからといってなにが違うのだろう。 普通の女の子と何も変わらないじゃないか。 恋だってしたいだろうし、友達とだって遊びたいだろうし・・・・・・俺には何もできないのかっ!! ザンバは歯を食いしばり、指が食い込むほど拳を握り締めた。 次第に指が食い込んだ拳からは血が浸り落ちていく。 拳から流れる血を見たザンバは次第に冷静になっていった。 こんなくだらない怪我で彼女に心配は掛けたくはない。 俺は決めたんだ。 彼女に会うときくらいは笑顔で接しようって。 それなのになにをしているんだ俺はっ・・・・・。 目が涙で霞む。 無力で弱い自分がたまらなく悔しかった。 静寂の間では、ルーシアが結界魔法を唱えようとしていた。 「セルド・クム・エルスィーゼ・・・ ファル・セザート・スフィート・・・」 「聖なる力の象徴たる秘宝と、聖なる魔法の印、破魔の力を目覚めさせん・・」 呪文を唱えるルーシアの表情が、苦しげなものになる。 額には玉の汗を浮かべている。 「セルド・クム・エルスィーゼ・・・ ファル・セザート・スフィート・・・」 キィィィィィィン!!! 魔方陣が、さらに眩しく耀き出す。 「退魔の結界よ!今こそその力を発言させよ!我が命の力を受けて!!」 「結界魔法・・発動・・・」 「っ・・・」 ルーシアは跪くと、苦しげに息を荒げた。 ルーシアが結界魔法を使い始めてから、何日が経過しただろうか・・・。 こんなことを続けていたら、ルーシアの命は・・・。 俺は遠慮気味にドアをノックした。 「起きてるかい、ルーシア・・」 「ええ・・どうぞ・・」 か細い声に胸が締め付けられる思いがする。 部屋に入って来た俺を見て、ルーシアが、はかなげに笑みを浮かべる。 「ありがとう・・・来てくれたのね・・」 頷いただけで、それ以上何も言うことが出来ず、俺は、黙ったままルーシアを見つめた。 口を開けば、彼女の決意を否定する言葉しか出てこないのが分かっていたからだ。 彼女の決意は固い・・・今、俺がどんな言葉で結界魔法をやめるよう言っても聞き入れてはくれないだろう・・。 ルーシアも、何も語らず、黙って俺を見つめている。 そして沈黙の中、静かに時が流れていく。 「ねぇ・・・ザンバさん」 ようやくルーシアが口を開く。 「一つお願いがあるのだけれど・・・いい?」 「あのね・・・私が眠るまでの間、手を握っていて欲しいの・・・・」 ルーシアの手をそっと握り締める。 「ありがとう・・・わたしね、こうしてると、不思議と安らかな気持ちになれるの・・・だから・・」 そう言って、ルーシアが、弱々しい力で、俺の手を握り返してくる。 「ルーシア・・・今は、ゆっくりとお休み・・・いいね?」 ザンバは不器用ながらも自分に出来る最高の笑みを浮かべた。 「はい・・・おやすみなさい、ザンバさん・・」 ルーシアは静かに目を閉じる。 俺は彼女が寝入るまでずっと側にいた。 彼女が眠ったのを確認し、髪を撫でる。 とても優しく・・ゆっくりと・・・。 ピンク色の柔らかな美しい髪にキスをして、俺は静かに部屋から出た。 「・・・・・このままじゃ、ルーシアの命はっ!・・・」 だが、彼女はその時まで、結界魔法を唱えるのを止めないだろう・・・・。 彼女に、結界魔法を止めさせる方法があるとしたら、ただ一つ・・。 それは、魔王を倒すことのみ・・・。 しかし今のザンバには魔王がどこにいるのかさえ分からなかった。 今日もザンバはルーシアの代わりに闘技場に出ていた。 子供たちに食料を渡すためにお金がどうしても必要だったのだ。 正直人間とは戦いたくはなかった。 しかしザンバがルーシアの代わりに出来ることといったらこの程度しかなかったのだ。 俺は闘技場の中心にいる。 目の前には舌なめずりをした男が俺を見下ろしている。 ヘラヘラと大きな剣を肩に担いで顔を近づけてくる。 回りからは歓声やら罵声やらが飛び交っている。 ・・うるさい・・・耳障りだ・・・・・。 ザンバはキリキリと歯軋りをする。 こんな奴らのためにルーシアは命を落とすというのかっ! 俺は悔しくてたまらなかった。 試合開始の合図がなる。 男は剣を大きく振りかぶり、斬りつけてきた。 剣と剣が交じり合い閃光が走る。 俺は一度後退してから一気に相手との間合いを取る。 俺は足をなぎ払い、尻餅をついた男に逆手に持った剣で馬乗りに覆い被るように飛び乗った。 男の耳から1cmのところに剣を突き刺す。 歓声と罵声の中で、試合は終わった。 ザンバは大市場で食糧を買い、市場の外れにある子供たちに会いに行った。 「お兄ちゃんだっ!」 「お兄ちゃんいっしょに遊ぼうよっ!」 ザンバが足を踏み入れると一斉に声が飛び交う。 相変わらず子供たちは元気そうだった。 遊び相手のルーシアが来ないので寂しかったのだろう。 子供たちにはルーシアは仕事が忙しくて来れないんだよと話をはぐらかしていた。 はじめの内は、 「お姉ちゃん、わたしたちのこと嫌いになったの」 とか 「お姉ちゃんじゃなきゃ嫌だっ!!」 とか言われていたが、最近は俺にも懐いてくれるようになってきた。 子供の遊び相手に疲れたザンバは木陰で休んでいた。 「・・・お兄ちゃん、あのちょっといい・・?」 遠慮気味に話し掛けてきたのはケインという男の子だ。 「なんだい?」 「お姉ちゃん、本当はどうしたの?」 「こんなに何日も会いに来てくれないなんておかしいよ!」 ケインは苛立ちが隠せないといったように絞りだした声を出す。 ルーシアは例え風邪をひいても毎日のように会いに来てくれていたのだ。 そんなルーシアが一月以上も顔を出さないなんて、いくら子供といえど、なにかあったのか位は安易に想像出来る。 「・・・・・」 ザンバは言葉に詰まってしまった。 回りの子供たちもザンバたちに耳を傾けている。 「必ず、お姉ちゃんは帰ってくるよ。俺が約束するから」 ザンバは一期一句丁寧に言った。 気休めだとは分かっていてもこんなことくらいしか言えない自分に腹が立った。 居たたまれなくなったザンバはその場を逃げるように立ち去った。 ルーシアの見舞い、闘技場での戦い、子供たちに食糧を持って行き、魔王の情報を集める。 こんな毎日の繰り返しだった。 いつまでも永遠に続くのではないかと錯覚してしまうほど単調な日々だった。 そして今日もまたザンバはレナシアム城に向かっていた。 カーテンから漏れる眩い光に目を細め、わたしはゆっくりと身体を起こす。 自分の両手を見つめ、グーにしたりパーにしたりと繰り返す。 まだ身体には感覚が残っている。 ああ、わたしは生きているのだなということを実感する。 この身体で後何回朝を迎えることが出来るのだろうか。 重い身体を引きずってレナシアム城の地下、静寂の間へと向かうのだった。 静寂の間では、ルーシアが結界魔法を唱えようとしていた。 「セルド・クム・エルスィーゼ・・・ ファル・セザート・スフィート・・・」 「聖なる力の象徴たる秘宝と、聖なる魔法の印、破魔の力を目覚めさせん・・」 呪文を唱えるルーシアの表情が、苦しげなものになる。 彼女の口から血が嘔吐された。 「・・・ゲホッ・ゲホッ・・ゲホッ!!」 「ルーシアっ!!」 俺はルーシアのいる魔方陣に駆け出した。 「来ないでっ!!!」 「ここで止めるわけには行かないの・・・」 ルーシアははかなげな笑みを浮かべる。 そして呪文を唱え続ける。 「・・セルド・・・・クム・・・・エルスィーゼ・・・ ・・・・ファル・・・・・・・セザート・・・・・スフィート・・・」 キィィィィィィン!!! 魔方陣が、さらに眩しく耀き出す。 「・・たいまの・・・けっかいよ・・・・いまこそ・・そのちからを・・はつげん・・させよ・・・ ・・わが・・いのちの・・・・ちからを・・うけてっ・・・・・・」 「・・けっかい・・まほう・・・・・はつどうっ!・・・・・・・・」 「っ!・・・・・・・・・」 ルーシアは跪くと、苦しげに息を荒げた。 彼女の口からは血が流れている。 俺は駆け寄ると彼女を抱きしめた。 ルーシアは顔に暖かいものがぽたぽたと落ちてくるのに気付いた。 「・・ざんば・さん・・・・・・なぜ・・・なく・の?・・・・・・」 「・・・・・」 ザンバはなにも言うことが出来なかった。 暖かな体温がだんだんと冷たくなっていくのを感じていたから・・。 ルーシアはこんな時なのに野暮な事を聞いている自分に苦笑する。 わたしは最期までわたしのまんまなんだって・・・。 泣かないでなんて言えない、わたしのために泣いてくれているのだ。 普通の女の子として恋をさせてもらった。 この人からたくさんの優しさを貰ったのだから。 こんな幸せなことはない。 「・・俺は、君を失いたくないんだっ!」 「俺は・・俺はっ!・・っ!!・・・」 子供のように泣きじゃくるザンバを見て胸が痛んだ。 わたしはこの人を置いていかなければならないんだ。 こんなにもわたしのことを想ってくれているこの人を・・・。 許されないと分かっていても、この人を苦しめるだけだと分かっていても応えたいと思った。 しかし口を開いたが声が出なかった・・・。 やはりこの世に神などいないのだと思った。 こんな些細な願いでさえ、叶うことは許されないのだ。 ルーシアの瞳は涙でいっぱいになっていった。 目が霞んできた。 涙が滲んでいるからかな。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・!!」 ザンバさんがなにか言っている。 声が遠くて聞こえないよ。 どうしたんだろうわたし・・・。 ザンバさんの声が聞きたいよ。 怖いよ・・助けてよザンバさん!・・・わたし死にたくないよ!! 薄れていく視界の中で涙でくしゃくしゃになったザンバさんが微笑んでくれていた気がした。 そんな顔を見て、わたしは安らいでしまった。 怖くて怖くてたまらなかったのに、この人の温もりに満たされていく。 今のわたしは笑えている気がした。 もう目も見えないし、耳も聞こえないけれど、大好きなこの人に大好きだという想いを込めて・・笑えている気がした・・・・・・・・。 悲しみの果ては永久の眠りの中で永遠に・・・・・。 |