ルートY
ランス5D的桃太郎侍



「うにゅ?」
 アリエッタは、まぶたをこすりながらベットから起き上がった。
 頭はまだもうろうとしている。
 そんな寝ぼけ眼のまま。
 アリエッタは、部屋から出た。
 一緒に眠っていたはずのエレーンはもういない。
 おそらく、どこかに出かけたのだろう。
 アリエッタはエレーンが大好きだった。
 もちろん、他のみんなも大好きだ。
 特に、ポロンくんはお気に入りである。
 けれども、エレーンは別格だった。
 なぜなら、お母さんの匂いがするからである。
 物心つくまえに、実の母親をなくしたアリエッタ。
 エレーンは、とても大事な姉だった。
 もちろん、実際に血がつながっているわけではないが。
 アリエッタは、階段を下る。
 そして、リビングに足を踏み入れた。
 そこには、みんながいるはずである。
 アリエッタは、リビングの扉を開く。
 すると。
 そこには、ポロンとライラ、そして見知らぬ老人がいた。
 三人は、何かについて真剣に話していた。
「……なんとかなりませんかのう」
「うーん」
 老人の言葉に腕組みをして思案にふけるポロン。
 ライラはその横で、ポロンの答え待ちをしている。
 アリエッタはポロンの元に歩いていって、その袖を掴んだ。
「ポロンくん、どうしたにょ?」
 ライラは、アリエッタをポロンから引き離した。
「アリエッタ、あっちにいってな」
「どうしてにょ」
「今、大事な話をしてるから」
 アリエッタは少しだけ考えてから。
 顔を膨らませた。
 子ども扱いされたからである。
 子供だからと、いつもみんなアリエッタを仲間はずれにする。
 そんなこと言ったらポロンくんだって子供だ。
 アリエッタはライラの態度が許せなかった。
「いやにょ、ここにいるにょ」
「聞き分けわるいよ。ほら、アリエッタ」
「だから、いやにょ」
 ライラは困ったように頭をかく。
 ここでエレーンがいたら一発なのに、と思いつつもポロンに視線を向けた。
 ポロンは頷き。
「別にいいよ。聞かれちゃ駄目な話じゃないし」
「まあ、いいか。アリエッタ、大人しくしてるんだよ」
「わかったにょ」
 そして、再び話が始まる。
 まず、口を開いたのはポロンだった。
「それで……このジフテリア西の海洋にある島に、鬼が住み着いたと」
「はい」
「その鬼が、女やお金を強奪してるために困ってると」
「はい。それで、通りかかった冒険者の方々に何とかしてもらいたいと思ったのです」
「でも、それなら冒険者ギルドに問い合わせたほうがいいんじゃないの?」
 と、言ったのはライラ。
 しかし老人は首を振る。
「いえ、すでに問い合わせましたが現在は冒険者が出払っていまして、どうにも対応に時間がかかるようです。だからといって、どこぞの馬の骨ともしれぬやからに頼むわけにもいかず、その時、ここにポロン王子とお付きの方々が訪れたと聞いたので、なんとかお願いできぬかと頼みに訪れたしだいでおります」
「うーん」
 ポロンはしばらく考えてから。
「ええ。大丈夫です。急ぐ旅でもありませんし。僕らが何とかします」
「ありがとうございます! このご恩は一生忘れません!」
 ライラは老人の横顔を見ながら肩を落とす。
「まったく。またただ働きか。人がいいにもほどがある」
「困っている人間を放っておけない性分なんだ。我ながら厄介だけど、放っておくのはものすごく気持ち悪い。偽善者だからね」
「じゃあ、偽善者のポロンくん、行こうか」
「二人で?」
「十分」
「そうだね」
「さて、危険なデートを楽しもうか」
 ポロンは頷く。
 そして、ライラと二人で出て行こうとするとき。
 アリエッタが口を挟んだ。
「ポロンくん、アリエッタも連れてくにょ!」
「……え?」
 戸惑うポロン、すこしたじろいでからアリエッタに言い聞かせる。
「駄目だよ。ものすごく危険なんだ。アリエッタを連れて行けない」
「大丈夫にょ! アリエッタは自分の身ぐらい自分で護れるにょ!」
「だから……」
「それに、アリエッタはとっても強いにょ! バンバン、敵をやっつけるにょ!」
「うーん、なんと言ったらいいんだろう」
「だから、連れて行くにょ!」
 ポロンは、少し肩をすくめる。
 そして。
 強い口調で言った。
「駄目だ」
「どうしてにょ!」
 アリエッタが訊き返す。
 ポロンははっきりと答えた。
「だって、アリエッタはまだ子供じゃないか!」
 その言葉に。
 アリエッタの堪忍袋の緒が切れた。
 アリエッタは怒りぷんぷんでポロンに食ってくかった。
「誰が子供にょ! アリエッタはもう大人にょ! 子供はポロンくんにょ!」
「こ、子供っ?」
 ポロンが狼狽する。
 その横では、ライラがおかしそうに笑った。
 それが余計に単純なポロンの頭に血をのぼらせ。
 禁句を言わせるに至った。
「赤飯だって食べてない子供にそんなこと言われてたまるか!」
 ライラが思わず一歩引く。
 それぐらい、とんでもない台詞だった。
 もちろん、アリエッタはそれがどういう意味かわかっていないが。
 それでも、悪口だとは勘付いたようだ。
 おもわず、怒る。
「バカにするんじゃねえにょ! アリエッタはめちゃくちゃ怒ったにょ! ポロンくん、見てるがいいにょ!」
「何をするって言うんだよ」
 アリエッタは、パラソルを取り出す。
 魔力の宿ったマジカルパラソルだ。
 攻防兼用のとても優れた武器である。
 それを握りしめて叫ぶ。
「アリエッタが、鬼退治するにょ!」
「は?」
 唖然とするポロン。
 しかし、アリエッタはそれを無視して背中を見せた。
「大判小判ざっくざく持って帰ってくるにょ! 楽しみに待ってるがいいにょ!」
「あ、アリエッタ!」
 ポロンがとめるのも聞かず。
 アリエッタはそのまま、飛び出していった。

 ●〜〜〜●

 と、まあ。
 そんなこんなでアリエッタの鬼退治が始まったわけだが。
 とりあえず、どうしたものかと途方にくれる。
 道は一つ。
 鬼ヶ島に向かう道だ。
 しかし。
 アリエッタは足が止まってしまった。
 一人で、旅に出るのは初めてのことである。
 お金がない。
 食べ物もない。
 オマケに仲間が一人もいない。
 この状況は如何ともし難いことである。
 思わず、心細くなるアリエッタ。
 しかし、そこで一つ思い出す。
 ウィンディやキャロットはアリエッタぐらいの年齢で旅に出たらしい。
 それを思うと、アリエッタも弱音を吐いていられなかった。
 キッと決意すると、どこまでもまっすぐ前を向いて歩いていく。
 頑固者な性分なのだ。
 トコトコと、ちっちゃな体で歩く。
 歩く。
 歩く歩く歩く。
 だが。
 三十分ぐらい歩いたところで、いい加減に嫌になる。
「旅は、本当に大変にょ」
 そう呟いた。
 するとそこに。
「おおっ、いつかのガキンチョじゃないか」
 その声に、振り返るアリエッタ。
 すると。
 そこにいたのは歳の頃なら二十ぐらいの青年。
 目つきが悪いが、性格はもっと悪い。
 そう、鬼畜戦士のランスくんであった。
 ランスは、親しげに笑いながらアリエッタに近寄る。
「えーと、確か前にあったのは、うーんと、覚えていない。そう、今思い出した。あの薄汚い旅館に泊まったときだから、そうか、半年前か。ずいぶんと久しぶりだな。元気だったか? ガキンチョ」
「……オマエ、誰にょ」
「ほら、おかしのお兄さんだ」
 そう言い、ランスはアリエッタにお菓子を上げる。
 くりりぷという高級菓子だ。
 アリエッタはくりりぷを一口食べる。
 そして、思い出した。
「あの、お兄ちゃんにょ」
 うむ、とランスが頷く。
 二人の出会いは半年以上前の話だ。
 温泉宿に泊まったアリエッタはその夜、強姦まがいの夜這いに来たランスと出遭った。
 疲れ果てた上に、収穫無しのランス。
 そこにいたのがアリエッタ。
 ランスは、「こいつは将来美人になる」と勘付き、アリエッタをキープすることにした。
 それが、邂逅劇。
 参照、ルートCである。
 アリエッタはランスを見上げ、訊く。
「名前、まだ知らなかったにょ」
「おお、教えていなかったな。俺様はランスだ。世紀末の天才剣士にして人類最強の男、いずれは世界の帝王になる予定だ。お前は?」
「アリエッタにょ。旅をしているにょ。ポロンくんと一緒に旅をしていたんだけど、ケンカして出てきたにょ」
「ケンカ? 何が原因だ?」
「ポロンが、アリエッタを子供だって馬鹿にしたにょ」
「まあ、ガキンチョだな。大人じゃないな」
「でも、悔しいにょ」
「うむ。ならこの俺様がそのポロンとかいうクソガキをこらしめてやろう」
「でも、ポロンくんはランスより美形にょ。ランスは勝てないにょ」
「ガッハッハ。俺様より美形はこの世界に存在しない! アリエッタ、男を見る目がないな! だから、ガキンチョと言われるんだ!」
「ランス、嫌いにょ」
 拗ねるアリエッタ。
 ランスは訊く。
「で? これから何をする気なんだ?」
「鬼退治にょ」
「鬼退治?」
「ジフテリアで頼まれたにょ。鬼ヶ島にいって鬼を倒すにょ」
「ふむ、礼金はいくらだ?」
「貰わなかったにょ」
「なんだと! 礼金を貰わないバカがこの世界に存在するとは! ポロンとかいうガキは救いようのないバカだな!」
「でも、ポロンくんは金持ちにょ。ランスより数倍金持ちにょ。ランスは金の力ではポロンくんに勝てないにょ」
「うむ、それに関しては反論しようがないぞ。俺は、あぶく銭を持たない主義だからな。まあ、俺様が少し活躍すれば一国一城の主になるぐらい容易いが」
 ガッハッハと笑うランス。
「で、ガキンチョ。一人で行くのか?」
「そうにょ」
「うーむ。ついていきたいのは山々だが、はっきり言って俺に徳はないからな。正直面倒くさい。そうだ、アリエッタ。お前の仲間を抱かせろ」
 抱く。
 アリエッタは瞬時に、『抱擁』という意味だと受け取った。
 本当は、『交尾』だが。
 だから、アリエッタはそのつもりでランスに答える。
「駄目にょ。みんな男というものに不信感と嫌悪感を抱いているにょ。唯一彼女達に近づけるのが女々しいポロンくんにょ。でも、ポロンくんは男としてみなされないにょ。だから、ランスは近づけないにょ」
「そういわれると余計に挑戦したくなるな。うむむ」
 かなりの曲解だが、後半の部分だけ完全回答なのが物悲しい。
 アリエッタは注釈する。
「まあ、ランス程度の男でも抱ける女がいるから安心するにょ」
「ほう。名前は?」
「エレーンにょ。エレーンは女盛りのくせして年中発情しているようなどうしようもない女にょ。常に男を受け入れる準備が出来ているくせに、男運が悪いせいで自分で慰めるしかないような救いがたい女にょ。ちなみに、これはウィンディからの受け売りにょ。とにかく、エレーンなら抱けるにょ。ランス、喜んでいくらでも抱くがいいにょ」
 意味を知らないとは恐ろしい。
 ランスはうむ、と顎を押さえて訊く。
「その、エレーンというやつは美人か? どうしようもないブスとしか思えないのだが」
「美人にょ。みんな美人だと言うにょ。歩いていると男が振り返るぐらいの美人にょ」
「なら、なぜもてない」
「男運のない女はどこにでもいるもんだにょ」
「なるほど」
 ランスは納得する。
「それに、鬼ヶ島には美人のお姉さんがたくさんさらわれているにょ」
「何、それをはやく言わんか!」
「でも、ランスは来なくていいにょ。やる気のないやつが来るのは迷惑にょ」
「いや、俺様は行くぞ! アリエッタ、案内しろ!」
「そんなに言うなら、連れて行ってやってもいいにょ。さあ、今からランスはアリエッタの子分にょ。アリエッタの後ろをついてくるがいいにょ」
「おおっ! ガハハッ、待っていろよ。カワイコちゃん!」
 ランスは哄笑した。
 ランスという男を操るのは意外と簡単なのである。
 色欲というプレートを目の前にぶらさげておけばどこまでも走る名馬だ。
 しかし、なぜかランス世界の住民にこれを実践しようとする人間はそれほどいない。
 どうせ、その場のノリと勢いで生きているのだからこっちもノッてやればいいのだ。
 しかし、それを差し置いても。
 ランスを子分にした子供はこのアリエッタが初めてだろう。
 ついでに言うと、ここまでぞんざいな口をきけるのもアリエッタぐらいなものである。
 それはともかく。
 こうして、アリエッタという桃太郎は大陸最強の子分を手に入れたのである。

 ●〜〜〜●

 道なりに進んでいくと、街道は森に向かっていた。
 なかなか広い森である。
 アリエッタとランスはその森に入っていく。
 そのまま進んでいく。
 しばらくすると、太陽の光がさえぎられていった。
 薄闇にとざされるが、それでも木漏れ日が少しだけ差し込んでくる。
 そんな暗い森。
 二人は、一歩ずつ歩いていった。
「なかなか、しんどいな」
 と、ランスは苛立ちながら呟く。
 アリエッタはむすっと。
「嫌ならついてこなくていいにょ」
 言い捨てる。
 ランスは参ったといわんばかりに鼻息を吐いた。
「そういうわけにもいかんだろう。俺様がいないと多くの美女が……じゃなくて、アリエッタがどうなるか心配だからな」
「余計なお世話にょ」
「むう。可愛くないガキだ」
 しかし、ランスはそれでもアリエッタについていってしまう。
 なんというか、放っておけないのだ。
 どうも、アリエッタは危なっかしい。
 しかしそれ以上に、一緒にいて楽しいのだ。
 ランス自身は、その感情をそれほど自覚していない。
 それどころか、厄介ごとに巻き込まれてしまったぐらいに考えている。
 しかし、それでもアリエッタと一緒にいる時間がつまらないとは感じられなかった。
 ランスは、ふと脳裏に子供の姿がよぎる。
(リセット、二十一、元気にやってるかな?)
 そうなのだ。
 アリエッタといると、リセットの姿が思い出される。
 小さな体で、「パーパ」と抱きつかれる感触。
 もう、三歳ぐらいになっただろうか。
「……感傷に浸る歳でもないだろうが」
 ランスは苛立ちながら頭をかく。
 そして、アリエッタに訊いた。
「あと、どれぐらいだ?」
「えーと……」
 何かを考えるアリエッタ。
 すると。
 ポコン。
「にょっ!」
 アリエッタの頭に、りんごが落ちてきた。
 どうやら、意図的に落とされたものみたいだ。
 猿かな、と思いランスが上を向くと。
 そこには。
 そう、木の上には人がいた。
 赤い和服に同色のリボン。
 少しつり目の、金髪美人である。
 そう、和服の金髪美人が木の上で怯えていたのである。
 金髪美人はぶるぶると震えながら叫んだ。
「こっ! この森は立ち入り禁止です! なんびとたりとも進入禁止です! 特に、鬼畜な人間は入国拒否です! 今すぐ、家に帰ってください!」
 ランスはあきれた顔で金髪美人に訊いた。
「リズナ、何やってんだ?」
「何ヤッテルンダ! じゃありません! 騙されませんよ! 騙されません! ランスさんは私をさらいに来たんでしょう! 誰の命令ですか? ガンジー国王ですか? それとも、ランスさんの独断ですか? もしかして、また私にエッチなことをするつもりですか? そんなことは許しませんよ! 早く帰ってください!」
 そう言って、ブルブルと震えるリズナ。
 思いっきり挙動不審である。
 アリエッタがあきれた顔でランスに訊く。
「知り合いかにょ?」
「おう、俺様の穴奴隷だ!」
「違います!」
 リズナが大きな声で反論する。
 その瞬間。
「おへっ?」
 つるっと、手が滑った。
 そのまま。
 バッターンと、地面に落下。
「あいたたた……」
 と、頭をこすりながら顔を上げる。
 すると、そこにはリズナを見下げるランスとアリエッタの姿があった。
「ひっ!」
 リズナはそそくさと、草葉に頭を隠す。
 しかし、でかい尻が出ていた。
 ランスはあきれた表情で言う。
「それは、尻を犯せということか?」
「ひっ、駄目です!」
 草葉から慌てて頭を出すリズナ。
 そして、どこか隠れる場所を探して右往左往する。
 ランスはため息を吐いた。
「なにもせんから落ち着け」
「うっ、嘘です! どうせランスさんはその場限りの冗談で私を犯そうとするんです! 騙されません! 騙されませんよ! 私は、自立するんです!」
「……」
 アリエッタはランスに訊いた。
「クスリでもやってるのかにょ?」
「いや、むしろ調教だな」
 ランスはリズナの首根っこを掴み、持ち上げた。
「ひぃ! 犯される!」
「いや、犯さんから。あー。良いかよく聞け! 俺様はこれから鬼ヶ島にいって鬼退治をする! そして、鬼のつくったハーレムで遊んだあと、アリエッタの姉ちゃんと一発やるんだ! だから、今回はお前の相手をしない?」
「……本当でしゅか?」
「本当だ」
「信じられません。どうせ、嘘です」
「俺様が信じられないか? あー、俺様はものすごく傷ついたな〜」
「ごっ! ごめんなさいっ! 信じます!」
 リズナは慌てて頭を下げた。
 騙されてる。
 リズナは頭を上げると、ランスに訊いた。
「それで、鬼退治というのはなんでしょう?」
「うむ。まあカクカクジカジカだ。俺様はその悪い鬼を倒す桃太郎というわけだ」
「桃太郎はアリエッタにょ」
 そこで、リズナはアリエッタに気付く。
 そのまま、口元を押さえた。
「ランスさん! まさかその子っ! ランスさんは子供に興味がないって言ってたじゃないですか!」
「違う! 誤解するな! こいつはただの連れだっ! 子供に手を出すほど俺様は落ちぶれていない!」
「嘘です! 誘拐です! 騙されません!」
「だあ、アリエッタ、説明しろ!」
「ランスはアリエッタに手を出すような変態じゃないにょ! ランスは十歳の女の子に何にもしないにょ! たとえ、その女の子が魔法で大人になっていても何もしないにょ!」
「うぐっ!」
 ランスのハートに五ポイントのダメージ。
 しかしリズナは首を振り。
「騙されません! 騙されませんよ! アリエッタちゃんはランスさんに脅かされているんです! 騙されません!」
「いいから騙されんかバカモノ! 話がこじれる!」
 ランスは頭を引っつかんでリズナを黙らせる。
 人間不信もここまでくると大したものである。
 五分ぐらいたってようやく落ち着くリズナ。
 本当に疲れるものである。
 ランスが訊く。
「それで……どーしてお前はこんなところにいるんだ?」
「えーと、実はお猿さんのボディーガードをしていました」
「お猿さん?」
「ええ。出てきておいで」
 リズナの声に。
 十数匹の猿が現れた。
 そして、リズナの後ろに並ぶ。
「右からモンキチ、モンジロウ、モンザエモン、モンモン、モンクロウ……」
「いや、それはいいから。理由を話せ」
「実は」
 リズナが語り始める。
「話せば長くなるんですが。ガンジー王のところに遊びに行ってその帰り、通りすがりのうし車に乗車しました。すると、そのうし車は野党の車だったんです。なんとか、逃げ出したんですが、お金を置いてきてしまって。ロックアースまでは辿り着いたんです。そこで、途方にくれているとグラックという人にバイトを斡旋してくれると言われて。けど、そこは売春宿だったんですよね。売春宿から何とか逃げ出したんです。そして、火星に着きました。火星でおなかがすいて倒れているところを、火星大王という方が助けてくれて。家に招待してくれたんです。けれども、そのまま監禁されてしまって。なんとか逃げ出したんです。そして、ハンナという町に辿り着いて。そこで、篠田という方にお世話になりました。しばらく篠田さんのお世話をしていたんですが、なんだか気に入られて。着物に着替えさせられて危うく結婚させられそうになりました。それで、何とか逃げ出して。もう、そのあとはどこをさまよったのか覚えていなくて。気付いたらヘルマンに行っていました。そこで、ウィンディさんという魔法使いにお手伝いのバイトを紹介されました。けれども、それがレリューコフ将軍率いる革命軍のお世話係で。気がついたら戦場で戦っていました。そのままアークグラードを逃げ出して。そこから、南下して。砂漠を超えようと思ってうし車を買ったら、不良品で。なんとかシャングリラという場所に辿り着いたんです。そこで、しばらくハニーと一緒に暮らしていました。その日々は本当に幸せでしたが、やはり女である以上は自立しなければいけません。シャングリラを出てから再び南下。リッチの町に辿り着いたと思ったらプアーの町で。そこで、再びグラックという人にあって。入信を勧められたんです。今度こそ騙されないと思ったらグラックさんは本当にいい人になってしまって。信じてみたんです。私。グラックさんの言うとおりAL教に入信したんです。そしたらつまらなくて。しかも、セルさんと一緒に本山に行ったとき、教祖の偉い人に危うく犯されそうになったんです。それで身の危険を感じて何とか逃げ出して。やっと辿り着いたのがこの森でした。そしたら、お猿さんが魔物に襲われていたんです。それで助けて。そしたらお猿さんになつかれちゃって。たくさんのご馳走を頂きました。そしたら、お猿さんにボディーガードを頼まれてしまって。今はここでこうしているわけです」
 なかなか波乱万丈な人生を送っている。
 これ以上ないという騙されっぷりもすごいものである。
 ランスは呆れ顔で言った。
「まあ、状況は良く分かった。で、猿ども。お前たちは騙しているのか?」
 すると猿はキーッと、悪びれた表情でプラカードを掲げた。
 そこには一言。
『ごめんなさい、騙しました』
 と書かれていた。
「そっ、そんなっ!」
 リズナはショックをうける。
 そして、よよよと地面に膝をついた。
 まあ、これしきで落ち込んでいたらリズナはやっていられない。
 あっさりと立ち直ると。
「ランスさん、鬼退治に行かれるんですね?」
「ああ」
「私もついていっていいでしょうか」
「おう。来い!」
「では、お供させていただきます」
「おう!」
 リズナはランスの言葉に、深々と頭を下げた。
 その隣でアリエッタが訊く。
「大丈夫かにょ?」
 ランスは顎をおさえながら言った。
「まあ、大丈夫だろう。騙されやすいが一応、強い」
「わかったにょ。リズナ、ヨロシクにょ」
 よろしく、と答えるリズナ。
 そして、ランスに向かって強い口調で言った。
「ランスさん、決めました!」
「なんだ?」
「私、成長します!」
 無理だ、とランスは思った。

 ●〜〜〜●

 海である。
 正確には海ではなく、巨大な大河だが。
 まあ、そんなことは些細なことだ。
 アリエッタたちは巨大な海の前で途方にくれていた。
 水平線の向こうには、うっすらと鬼ヶ島。
 けれども、そこまで行く足がない。
 思わず、声をもらす。
「まいったな」
「まいったにょ」
「まいりましたね」
 三者三様に、肩をすくめる。
「そうだ! 泳いでわたるか?」
「え? 水着持って来てません!」
「嘘だ。騙されるな」
「……はい」
「でも、夜になると巨大な鳥が現れて鬼ヶ島運んでくれるって聞いたにょ」
「そうなんですか? ならそれで!」
「嘘にょ。騙されるなにょ」
「……はい」
 肩を落とすリズナ。
 その時、アリエッタは気付いた。
 海岸岸に大きな船があるのを。
「ランス、あれを見るにょ。船だにょ」
「おおっ、グッドタイミングだ! リズナ、行くぞ!」
「騙されません! 船なんてありません! ランスさんもアリエッタちゃんも私を騙すのはやめてください!」
「騙してないにょ」
「騙してます! 騙してます! 騙しているんです! 騙されません! 私は自立するんです!」
 ランスとアリエッタは嘆息し。
 船の方に歩き出した。
 リズナが騙されていないと知ったのはそれから十分後だった。

 ●〜〜〜●

「おおっ、でかい船だな!」
「そうですね」
 そう言いながらランスとリズナは船の傍を歩く。
 すると、船の中から船乗りらしい男が現れた。
「おい、お前ら、何してんだ?」
 ランスは男に答える。
「鬼ヶ島に行きたいんだ。船を貸せ」
「ちょっと待ってろ。オーナーと相談する」
「オーナー?」
 ランスの問いにも答えず。
 男は船の中に引きこもっていく。
 そして待つこと五分。
 オーナーの女が現れた。
「おっす。久しぶりやな」
 そう言ったのはコパンドンだった。
 一見すると巫女さんスタイルだが、下はミニスカート。
 青いセミショートの美少女である。
 まあ、とっくに三十路だが。
 コパンドンはにこにこと笑いながら船から下りるとランスに抱きついた。
「ランスゥ、うちを迎えに来てくれたん?」
「違うぞ。俺様は船を貸して欲しいだけだ」
「ん? リズナはわかるけど、そっちの子は?」
「おう、アリエッタだ」
「そうにょ。よろしく頼むにょ」
 コパンドンが、「おおっ」と手を合わせる。
「可愛い子やな。ランスの子?」
「んなわけあるか。連れだ」
「そうにょ。ランスは連れにょ」
「おい」
 コパンドンはニコニコ笑いながらアリエッタの頭に手を乗っけた。
「ほんまに可愛い子やな。よし、サービスに占っておこ」
「占い?」
「おおさ。うちは占い師や。だから、占い、めっさ得意なんやて」
「なら、お願いするにょ」
「おお。それじゃあいくで」
 コパンドンは巨大なおみくじを抱きかかえる。
 そして。
 それを空高く投げ飛ばした。
「ほっ!」
 そして、ジャンプ。
 空中でおみくじを掴む。
 更に、一回転。
 もう一回転。
 三回転。
 まだ回転は止まらない。
「おおっ、パワーアップしているぞ!」
「すごいです! コパンドンさん!」
 そして、緩やかになる動き。
 吼えるコパンドン。
「チェイストァァァァ!」
 コパンドンは更にそこからおみくじを地面に叩きつけた。
 浜辺に砂しぶきが上がる。
 コパンドンが着地。
 その瞬間。
 おみくじから一本の棒が現れた。
 そこには。
「……なっ!」
 コパンドンは驚く。
 そう。
 それは驚愕。
 それは慟哭。
 それは畏怖。

 コパンドンのおみくじには一本だけ、決して出てはいけない棒がある。
 それは、伝説の棒。
 伝説の棒と名付られたそれは千年に一度しか現れないと言われている。
 そう、その棒に書かれている文字。
 その言葉は。


 超大吉。


「まさかっ! この子が伝説中の伝説、超大吉の持ち主だというん?」
 さすがのコパンドンも驚きを隠せない。
 世界を変える伝説の勇者、ランスくんだって大吉どまりだ。
 それをこの子は。
 そう。
 まさにこの瞬間。
 世界の命運を握る少女が爆誕したのだ。
「……素敵や」
 コパンドンの両目がキラキラと輝いた。
 そのまま、コパンドンはアリエッタに抱きついた。
「素敵や! アリエッタちゃん! うちのスールにならへん?」
「スール?」
「義兄弟という意味や! ええやろ? ええやろ?」
「考えておくにょ」
「そんな意地悪いわへんで。うち、一生アリエッタちゃんについていくで」
「なら、船を貸せにょ」
「よろこんで貸すわ。だから、アリエッタちゃん、好きやねん。結婚しよ」
「考えておくにょ」
「うち、アリエッタちゃんの為なら、なんでもするわ。アリエッタちゃん、大好きや」
 ランスがボォーッとその光景を眺めている。
 その横で、リズナは小型のおみくじを何度も引いていた。
 そのあと、呟くような声でランスに言った。
「ランスさん、私、騙されています」
「ん?」
「このおみくじ、大凶しかはいっていません。騙されています」
「うむ」
 ランスがおみくじを引く。
 すると、あっさりと大吉が姿を現した。
 リズナが顔をしかめて言った。
「やっぱり、騙されています。私が振ったときは大凶しか出ませんでした」

 ●〜〜〜●

 んなこんなで。
 一向はようやっと鬼ヶ島に到着した。
 鬼ヶ島はものものしい雰囲気。
 一行は恐る恐る、岩盤に寄せ付けた船から鬼ヶ島に足を下ろした。
 ランスが言う。
「気持ち悪いところだな」
 リズナも嫌悪を浮かべる。
「一体どんな鬼が住んでいるんでしょう」
 コパンドンは呆れ顔で。
「まあ、ろくなやつじゃないのは確かやね」
 最後にアリエッタが。
「とにかく、都を脅かす悪い鬼はアリエッタたちが成敗するにょ! 気合にょ!」
 叫んだ。
 一行も手を振りかざす。
『おうっ!』

 ●〜〜〜●

 鬼ヶ島は魔物の住処だった。
 ランスは剣を振り下ろした。
 魔物の一体が絶命する。
 そのまま、横に薙ぐ。
 一見すると力任せの剛剣。
 だがその実態は、やはり乱雑な我流剣法である。
 しかし、ランスの剣はもはやランス流の看板をあげてもいいほど洗練されている。
 それは、試合の技術ではない。
 戦いの技術である。
 ランスの強さは、実戦での成長率にある。
 世の中には二種類の人種がいる。
 実戦向きと試合向きの人間である。
 試合向きとは、練習に練習を重ねて強くなる人間。
 対して実戦向きとは、死線を潜り抜けて強くなる人間である。
 そういう意味で言うと、ランスは明らかな後者だった。
 敵の剣をギリギリでかわし、一撃を見舞う。
 そのまま、更に深く斬り込んで敵を押し退けていく。
 瞬く間にランスの歩む線上から敵は消えていった。
 対するリズナは試合向き。
 丁寧に薙刀を振っていく。
 魔物の剣が振り下ろした瞬間、後の先を取ってその心臓を貫く。
 それをすぐ抜いて、次の魔物に先の先で攻撃した。
 とても丁寧に一匹一匹倒していく。
 絶え間ない修行の成果である。
「ランスアタック!」
「エンジェルカッター!」
 巨大な爆音と、まばゆい閃光。
 瞬時に敵は姿を消す。
 アリエッタは驚いた。
「すごいにょ」
「ガハハッ! そうだろ!」
 高笑いを浮かべるランスに。
「油断しないでください」
 そう、たしなめるリズナ。
 しかし実際、油断できるほどに敵の勢力は弱かった。
 一歩一歩進むうちに、敵の姿は消えていった。
 そして。
 ついに、鬼ヶ島の中枢に訪れた。
「うむ、ここか」
 そう呟いたのはランス。
 リズナも頷く。
「そのようです。ランスさん、あれを見てください」
 リズナが指差した先。
 そこには玉座があった。
 そして。
 その上には。
 人が座っていた。
 ランスは肩にロングソードを乗っけて、笑った。
「あいつが親玉か。さて、成敗してやるか」
「ええ、痛い目にあわせましょう」
「二人とも、がんばってや」
「応援するにょ」
 リズナが微笑んで答える。
 そして、歩いた先。
 男がいた。
 その男は、不敵な笑みを浮かべる。
「よく来たな。ランス……待っていたぞ」
「……おまえは!」
 男は立ち上がる。
 美麗な顔。
 金色の鎧。
 青い長髪。
 そしてなにより、切り落とされた右手に装着したカノン砲。
 そう、その男こそ。
「……誰だ?」
「バードだ! 忘れたとは言わさんぞ!」
「……忘れた。女の顔は忘れないんだが」
 男、バードは怒り任せに立ち上がる。
「貴様っ! ここであったが百年目! つのるは山のような怒りだが、その怒りも今日終わる! 貴様を倒して!」
「なあ、あんた」
 コパンドンが話しかける。
 すると、バードは怒り顔をコパンドンにも向けた。
「君もだ! 僕を振った魔性の女! コパンドン、君にも同様の苦しみを味合わせてやる! だが……」
 そこでにやりと笑った。
「僕の元に帰ってくると言うなら許してやってもいい」
「それはいいんやけど」
 コパンドンは真顔でバードに訊いた。
「あんた、うちとどっかであったことあらへん? よく思いだせんのや」
「ガビーン」
 大口開けて、ショックのバード。
 まあ、バードなんてどうでもいい。
 アリエッタはバードを指差す。
「お前が今回の大ボスかにょ? 都でいろいろ盗んだのはお前かにょ!」
「そうだと言ったら?」
「お前を倒すにょ!」
「ふっ。ガキが。その稚拙さを後悔するんだな!」
 バードは立ち上がった。
 そして、その右腕のカノン砲を掲げる。
 ランスは思わず肩をすくめた。
「なんだ。ドリルだのなんだのつけていたと思ったら、今度はカノン砲か。まったく、懲りないやつだな」
「どうやら、思い出したようだな」
「ああ、片腕にドリルつけている個性的な野郎はてめえぐらいだからな。まあいい。かかってこい」
「ふっ、後悔するなよ」

 戦いが、始まった。

 バードが左腕でロングソードを抜く。
 そして、斬り下ろした。
 ガン、と音か響く。
 一瞬で、バードのロングソードはランスの剣によって叩き折られてしまった。
「弱いな」
「くそっ、ならこれは」
 バードはどこからともなくハルバードを取り出す。
 そして、突いた。
 ランスは左にかわし、ハルバードを叩き斬る。
「くそっ」
 真っ二つになったハルバードを投げ捨て、今度はハンドアックスを取り出した。
「ウオォォォォォォ!」
 バードはアクスをブン、と振り下ろした。
 振り下ろしたところを、ランスの蹴りがめり込む。
 バードはアクスごと吹っ飛んだ。
 ランスはあきれた様子で言う。
「やめとけ。お前、弱いんだから」
「くっ、くそ!」
 バードはついに、右腕のカノン砲をランスに向けた。
 ランスはアホ臭いといった顔で言う。
「今度はそれか? まあいい、来い」
 バードは怒りと苦渋を顔に浮かべ。
 叫んだ。
「死ねっ! ランスッ!」
 右腕にものすごい魔力の塊が収束していく。
 そして、カノン砲が力を充填させた。
 リズナが叫ぶ。
「危険です! ランスさん!」
「うん?」
 ランスが振り向いた瞬間。
 カノン砲はエネルギーを放った。


「オメガチューリップブラスタァァァァァー!」


 雷鳴一閃。
 巨大な熱光線はランスに向かって伸びていく。
 強大無比なエネルギーの奔流。
 喰らったら、さしものランスくんでも生きていられない。
 バードが笑みを浮かべる。
 しかし、その時。
 ブラスターの目の前に、アリエッタが立ちふさがった。
 アリエッタは傘を開くと、ブラスターから身を護る盾にした。
 光が傘に衝突する。
 同時に、巨大な光が爆散した。
 そして。
 光のあとに残ったのは。
 呆然と立ち尽くすバードと。
 驚きの表情をしたランスと。
 傘をたたむアリエッタの姿だった。
「……すごい傘だな。それ」
「特別性にょ」
 ランスの言葉に、アリエッタはそっけなく答える。
 そして、その傘をバードに向けて言った。
「さて、都に住まう鬼。この桃太郎が退治してやるにょ。観念するにょ!」
「そ、そうはいくか!」
 バードは再びエネルギーをカノン砲に溜め込む。
 しかし。
「光の矢!」
 リズナの放った閃光がバードのカノン砲に命中。
 カノン砲は爆発した。
「なあっ!」
 バードは慌てふためき、一歩下がる。
 そこで。
 誰かにぶつかった。
 バードが振り向くと。
 そこには、ニコニコと笑って棍棒を掲げたコパンドンがいた。
「あ、あうっ」
 そして、もう一度前を向くと。
 剣を構えたランスと。
 傘を握り締めたアリエッタの姿があった。
 バードは、汗びっしょりのまま言った。
「こ、降参だ。降参。ほら、盗んだ宝も女達もみんな返す。だから……許して?」
 四人は顔を見合わせる。
 そして。
 頷きあった。
 心は一つ。
 都に逆らう逆賊は。
 徹底的に制裁するのだ。

 ●〜〜〜●

 ここは再びジフテリア。
 ポロンとライラは心配そうな表情で街道の果てを眺めていた。
「大丈夫かな」
 ライラが呟く。
 ポロンも、不安げな表情をしたまま同じことを考えていた。
 すると。
 街道の果てに巨大なうし車の姿が見えた。
 うし車の上には。
 大量の金銀財宝。
 二人の女性と一人の少女。
 そして、男にもたれかかる大量の女達。
 最後に。
 顔面が三倍ほどまで腫れ上がり。
 ケツに傘を刺し込まれ。
 頭に大凶という焼印を押され。
 素っ裸で十字架にかけられているバードの姿があった。
 近寄ってくるうし車に、ポロンとライラは近づいた。
 そして、ポロンはその一番前に座っている少女に声をかけた。
「あ、アリエッタ! 無事だったのか!」
 アリエッタが頷く。
「そうにょ。都に住まう鬼はアリエッタが退治してきたにょ」
「……こりゃあたまげた」
 ライラが驚きのあまり頭を抑える。
 アリエッタはポロンを見つめ、言った。
「ポロンくんに訊くにょ」
「え?」
「アリエッタは子供かにょ?」
「あ、いや」
「子供かにょ?」
「……違います」
「それでいいにょ」
 アリエッタはニッコリと笑う。
 そして、ポロンに尊大な態度で言い放った。
「これからはアリエッタを大人扱いするにょ。お子様ランチを勝手に頼むなにょ。ジュースも一日三杯まで飲ませるにょ。五時過ぎて帰ってきても怒るなにょ。お小遣いも十ゴールドに値上げするにょ。アリエッタは大人にょ」
「あ、うんわかった。それで、そっちの人たちは?」
「コパンドンや」
「リズナです」
「あ、そう。いや、すいませんいろいろ迷惑かけちゃって」
「いえいえ」
「いいんやいいんや」
「それで……」
 ポロンは訊いた。
「もう一人、いませんでした?」
「バードか? ここにいるで」
「いや、そうじゃなくて、なんか男の人がもう一人」
「ああ。それか」
「それは今頃……」
「え?」
 意味深に顔を見合わせる二人に。
 ポロンは疑惑の念を晴らせなかった。

 ●〜〜〜●

「ふんふんふふーん、ふんふんふふーん」
 エレーンは宿屋の個室で鼻歌を歌っていた。
 今日はとっても気分がいい。
 朝は五時に目がさめた。
 そして、外に行くと河で亀に出遭った。
 頭の大きな可愛い亀だった。
 朝食はうな重だった。
 すっぽんの生血もついてきた。
 さらに、うなぎパイもついてきた。
 朝から元気になった。
 昼には指圧に行った。
 すると、指圧師が精力上昇のツボを強く押してくれた。
 なんか、体中から活力が溢れるようだった。
 昼はステーキだった。
 素敵なステーキだった。
 三百グラムのステーキで、もう食べきれなかった。
 おかげで、鼻血が出てしまった。
 午後はショッピングだった。
 すると、街角でミラクルゼリーというゼリーが売っていた。
 ミツバチのロイヤルゼリーを原材料にしているらしい。
 どうやら、血流を活発にするらしい。
 一個食べたら美味しかった。
 おかげで、三つも食べてしまった。
 宿屋の夕食はカツだった。
 勝負にカツ。
 たくさん脂のあるカツで、もう太ってしまうんじゃないかというほど食べた。
 そして、夜。
 お風呂が温泉だった。
 どうやら、美容や神経痛に効くらしい。
 おかげで肌はツヤツヤだ。
 もう、誰か夜這いに来てもオッケーである。
 まあ、そんなことはあるはずがないが。
「もう、ポロンくんでも夜這いに来ないかな。そしたら、大人の魅力でノックダウンしちゃうのに」
 言ってて悲しくならないか。
 エレーンはネグリジェに着替えて。
 布団にもぐった。
「あーもう、いい気分。今夜はぐっすりと眠れそう」
「そうはいかないぞ。今夜は寝かせないぞ。ガッハッハ」
「……え?」
 布団にもぐったもう一つの影。
 それがエレーンの体に手を伸ばした。
「さてさて、エレーンちゃんは処女かなあ?」
「ひっ」

 宿屋に、エレーンの叫び声が響いた。

 ●〜〜〜●

「はっ!」
 エレーンが目覚める。
 額には汗びっしょりだった。
 そして。
 しばらく呆然としたあと。
 ひきつった笑顔。
「……夢オチ?」
 そして、呆然としたまま立ち上がり。
 再び、ベットに倒れこんだ。
 そして。
 笑った。
「アハ」
 笑った。
「アハハ」
 笑いまくった。
「アハハハハハハハハハハハハハッ!」
 そのまま、枕に顔をうずめる。
「うーん、溜まってるのかしら」
 ベットの上を転がる。
 そして、枕を抱きながら。
「素敵な恋がしたいわ〜」
 と、呟いた。
 そこに。
「腹減ったぞ!」
 備え付けのシャワー室から鬼畜な声が響いた。


 素敵な恋の予感である。