ルートU
ここが僕らのアルカトラズ!



 ロックアース。
 この町の悪名は、リーザスやヘルマンにも届く。
 自由都市にありながら、暴力と謀略が支配する町。
 弱きものは淘汰され、ただくじけるのみだ。
 しかし、自由が束縛からの解放なら、暴力すら自由の体系なのだろう。
 そう、ここは悪の町。
 深い闇の永久に、黒い悪がのさばる世界。
 平和と安全から解き放たれ、死と危険が隣り合わせの楽園。
 ここが僕らのアルカトラズ。
 今日も今日とて路地裏で。
 一人の若者が暴力に駆逐されていた。

 ●〜〜〜●

「まったく、手間をかけさせてくれる」
 グラック=アルカポネの瞳は冷たく、そこには人の情が宿っていない。
 ただ単純な利害関係と損得勘定によってその手に握られた黒の鉄は火を放つ。
 銃身を恐ろしげに見上げた男は、恐怖に顔をゆがませる。
 その表情はアルカポネの嗜虐心を刺激した。
「怖いか?」
 若者は頷く。
 わずかな希望に擦り寄って。
 けれども、グラックは顔をしかめるだけだった。
「気に入らないな」
「……へっ?」
 若者が呆然とグラックに見入る。
 グラックは頭に指を当てて、落胆と失望をまじえながら呟いた。
「気に入らない。ものすごく気に入らない。そういう態度は気に入らない」
「……は?」
「なぜ、覚悟しない。なぜ、希望を求める。貴様はもしや助かるとでも思ってるのか。闇の世界に足を踏み入れた愚かなる若造め、貴様の命に価値があると思っている子供の時代はいい加減に終わりなのだよ。死に、絶望し、失望し、乾き、呻き、嘆き、滅び、自分の全てが結末を迎えようとしてる。今は夜なのだ。もう、夜なのだ。永遠に夜なのだ。最後の夜なのだ。だから、この夜を楽しみ、絶望を楽しみ、そして最後の瞬間を楽しむ。その享楽をなぜ持たない。ああ、私は失望した。こんなのはうんざりだ。もう見ていたくない」
「……そんな」
 男の顔がはじめて絶望を受け入れ、死を覚悟した。
 グラックはその表情に満足げな笑みを浮かべる。
「そうだ、その顔だ。その顔でいろ。その顔なら私も……」
「……!」
 男がわずかに希望を灯す。
 しかし、グラックは残虐に笑うと。
 告げた。
「その顔だと、殺しがいがあるというものだ」
 
 銃の引き金が引かれた。

 男は目を閉じる。
 そして、今や世界を滅ぼすことしか望まぬ愚かな神に祈りを捧げた。
 けれども、その祈りもむなしく。
 男の顔に一状の水がかかった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
 男が叫ぶ。
 グラックは嗜虐に喜びながら更に引き金を引いた。
「クハハハハ! 冷たかろう! 冷たかろう! 三日間冷蔵庫で冷やした氷水だ! 顔にピューって当たって、ものすごく悔しかろう! ほら、お前らも水をかけろ!」
 グラックの一声で、周りにいた部下が動く。
 部下達は残忍な表情で冷徹にショットガンの引き金を引いた。
 ショットガンからは洪水のような氷水が放たれた。
 大量の氷水は、男の全身にかかり、男が苦悶に喘ぐ。
「うぐっ! うぐうっ! がおっ! そんな事言う人嫌いですゥゥゥゥ!」
 男はわけのわからんことを叫びながら七転八倒。
 地面を転げまわる。
 その醜態にグラックは更に顔をゆがませた。
「クハハハハッ! もっと叫べ! もっと喘げ! もっと他の会社のネタフリをしろぉ!」
 なんと悪辣なり、グラック=アルカポネ。
 この罪なき若者に、このような苦悶の仕打ちをするとは。
 まさにこれは、この世界の生き地獄。
 修羅の光景。
 そう、この悪鬼のような男こそ。
 僕らのアルカトラズ、ロックアースの支配者。
 DXの会、会長。
 グラック=アルカポネ、その人であった。

 ●〜〜〜●

「もっ! もっと! もっと僕の金剛球に聖水をかけてください! バカ! マ○コ!」
「……ふん」
 グラックはつまらなそうに水のなくなった銃を捨てる。
 そして、すぐ側の部下に言った。
「始末しろ」
「はっ」
 部下の一人は男を抑え、もう一人が電気あんまを始める。
 あんあんと、男は再びもだえる。
 グラックはその光景をつまらなそうに見ながら、タバコをくわえる。
 そして、別の部下に火を吐けさせた。
 一服して呟く。
「つまらないな」
「何が、でしょう?」
 グラックはタバコを投げ捨てて部下達に言った。
「あっけなさ過ぎる。闇の頂点に立ったところで待っているのは退屈な日々だ。生活に潤いがない。昔は良かった。スリルがあった。いつ、敵対組織の連中が巨大な風船爆弾を持って脅かしに来るかひやひやしたものだ。そして、私は手榴弾の中に大量の花火を詰め込んでそれを連中の懐に投げる。連中はあちあち言いながら走り出すのだ。しかし今はなんだ。こんなひよっこを始末するぐらいしかすることがない。本当に退屈だ」
「しかし、それは平和なことでは……」
「平和?」
 グラックの顔がひきつる。
「平和だと? どこに平和を望むマフィアがいる? 映画か? 漫画か? アニメの中か? 子供じみた稚戯に悶えながらギャングゴッコをしている餓鬼どもとは違うのだ。我々は支配者であり征服者だ。常に闘争を繰り広げ領地を拡大しなければならない。平和などクソッタレだ」
「はい。すいません」
 恐縮する男を見て、グラックは気をそがれる。
「だが、側面ではお前の言うとおりだ。私は平和に埋没している。スリルと闘争の日々を望みながら、快楽に堕落している。これではいけない。だから、我々は……」
 すると。
 路地の向こうから何か、殴りあうような音がした。
 グラックは顔をしかめる。
「なんだ? 監視が争ってるのか?」
「おそらく、そうでしょう。この辺りには野良犬が多いです。しかし、すぐに片がつきます」
「もし、こっちに来たら……わかっているな」
「……ええ」
 部下はロープと鞭と蝋燭を取り出した。
 グラックはつまらなそうに顔をしかめる。
 しばらくすると、音がやんだ。
「……終わったか」
 部下の誰かがそんな言葉を漏らした。
 すると、路地の向こうから影が伸びてきた。
 そして、月明かりに照らされてそのフォルムが見え始める。
 紫の髪。
 すらりとした長身。
 子供っぽい様相だが、着飾れば美人になるだろう。
 そんな少女だった。
 月下夜行に姿をあらわす不思議な彼女は、さしずめルナかアルテミス。
 グラックは目を見開く。
 彼は女性を多く見たが、心ときめくのは初めてだった。
 幾多の女を侵し、犯し、冒し、食し、それでも芯に好きになれる者はいなかった。
 けれども。
 グラックは三十六年の生涯の中で始めて、胸を打たれるほどの女性に出会えた。
 女は、両手にボロ雑巾のようなグラックの部下を引きずりながら叫んだ。
「おい! テメエら、こいつは仲間か!」
 部下の一人がロープを構える。
 女は憤った様子で再び怒鳴りつけた。
「すぐそこを通ったらこいつらがイチャモンつけてきた! 気に入らないからボコッた! 文句あるか!」
 ……若いな、活きも良い。
 グラックは感嘆したように内心で呟く。
 目の前には十数人の屈強な男。
 みんな、SMグッツで武装している。
 それを目の前に、この女はケンカ上等、やる気満々である。
 恐れを知らない向こう見ず、まさに逸材だ。
 グラックは男を手で制して、一歩前に出る。
 女は引くことなく、逆に睨みつけた。
「……なんだよ」
「気に入った」
「はあ?」
 グラックはそのまま、女の手をとる。
 そして、言った。
「今日から、私がパパだ!」

 それが、グラックとシャルムのなんとも馬鹿げた出会いだった。

 ●〜〜〜●

「DXの会って知ってます?」
「DXの会?」
 ここは、ロックアースのレストラン。
 その一席で、ドリンクバーのジュースを飲みながらのフィアの言葉。
 アリサが聞き返すと、フィアは言葉を続ける。
「ロックアースの裏社会にはびこっている悪党なんですけど、なんでもすごく悪辣みたいなんです。鞭打ちや水責めはもちろん、女を玩具にしたり、売り物にしたり、そういうすごく悪いことをやってる裏世界のドンみたいな組織なんです」
「へえ、それは怖いわね」
 ウィンディは興味なさげに言葉を返した。
 今日は、この三人でお出かけである。
 実はけっこう珍しい組み合わせだ。
 ウィンディは聞き返した。
「で、そのDXの会がどうしたの?」
「そうなんです。今まではDXの会も体制が磐石のために大人しかったんですけど、最近になって再び、水面下での動きが激しくなってきたとか」
「へえ。なるほどなるほど」
「実はそれほど、くわしいことはわからないんですけど」
「お話しましょうか」
 別の方から声が聞こえる。
 三人が振り向くと、目の前にはピンクのもこもこ髪をしたウエイトレスがいた。
 ウィンディが聞く。
「あなたは?」
「あたしはここのウエイトレスです。アイスから出稼ぎに来たんですけど、少し暇になって。DXの会のことにはくわしいので」
「へえ。教えてくれない?」
「はい」
 ウエイトレスは指を立てて言った。
「DXの会。いわゆる悪の組織で会長はグラック=アルカポネ。けれども最近は大人しかったんです。一説には死んだとも言われてるぐらい。けど、最近になって養子をとったらしいんです」
「養子?」
「はい。若いけど美人でやり手の女の子です。その子と養子縁組したおかげで、グラックさんも活力を取り戻したみたいで、現在は親子で頑張ってるみたいです」
「なるほど」
 ウィンディは納得したように頷く。
 すると、調理場のほうで「新入り、戻ってこい!」と叫び声が聞こえる。
 桃色の髪のウエイトレスはニコリと笑うと。
「それでは失礼します」
 と立ち去っていった。
 ウィンディはスプーンを手持ちぶたさに振りながら呟く。
「ふーん、DXの会ね」
「シャルムが二週間前から姿見せないことと関係あるのかな?」
「まったく、関係ないわね」
「と、いうか二週間も雲隠れしているんですから探した方が良いんじゃないですか?」
「平気よ。シャルムは七つの魂を持ってるから」
「……はあ」
 何てくだらない話をしていると。
 外から耳をつんさくような悲鳴が聞こえた。
 その悲鳴はレストランにも響く。
「何かしら」
 ウィンディは驚いた表情をしてあたりを見回す。
 けれども、なぜかレストランの客も店員もみんな、顔を伏せたまま知らぬ存ぜぬだ。
 ウィンディはそれがやけに引っかかり、さっきのウエイトレスを捕まえる。
「ねえ、どういうこと?」
「どういうことって……なにがでしょう?」
「今、悲鳴が聞こえたじゃない。なのに、何で誰も助けに行こうとしないの?」
 すると、ウエイトレスは寂しげに視線を落とす。
「ここでは、これが普通なんです」
「……え?」
「アルカトラズを侵すもの、アルカトラズに裁かれる。つまり……ここでは極力厄介ごとに関わらないことが処世術なんです」
「知らぬ存ぜぬ美徳なり、か。厄介な町ね」
 ウィンディは眉をひそめる。
 正直、助けには行きたかったがどうやらこの町は思ったより複雑な事情らしい。
 なので、あえてウィンディは足をとどめることに決めた。
 だが。
「……っ!」
「あっ! ちょっと、アリサッ!」
 アリサは、それでも見過ごすことができずにレストランから飛び出した。
 ウィンディはあっけにとられてそれを見過ごす。
「……行っちゃいましたね」
「そうね……って、ボーっとしてる場合じゃないわよ! フィア、行くわよ!」
「あ、はい」
 アリサの背中を追って駆け出すウィンディに、フィアは慌ててついていく。
 その背中から先ほどのウエイトレスが。
「頑張ってください」
 と、希望に喜ぶかのような笑みで見送った。

 ●〜〜〜●

 駆けつけたときにはすでに、そこは惨事であった。
 五、六人の小悪党と思われる若者が、十数人の男に囲まれている。
 その中心には、長身長髪の女性がいた。
 その容姿は端正で、黒のドレスは魔性の色香を発している。
 まさにアルカトラズの娘の名が相応しい。
 女は、最後の一人が打ち付ける鉄棒をかわし、そのまま蹴りを放つ。
 こめかみに当たった鋭いハイキックは脳を揺らす。
 最後の一人が音を立てて地面に倒れた。
 女はパンパンと、埃を払う。
「まったく、雑魚どもが……」
 落胆した様子で女は髪を払う。
 すると、近くの男が香水をふりかけ、もう一人が洋装を整える。
 女はそれがさも当然といった風に、振り返る。
 すると、そこに。
 アリサとウィンディ、フィアが現れた。
「コラッ! やめなさいっ! ……え!」
 アリサの驚いた表情に、ウィンディが戸惑いを見せる。
「え? アリサどうしたの? と言いつつ氷の矢っ!」
 戸惑いつつも実はまったくためらわずに放たれた氷の矢。
 冷気の破片を散りばめながら女に向かって飛翔する。
 肉を裂き、骨を穿つ氷の刃。
 しかし、女はまったく怖気づかずに。
 手に、気を溜める。
 そして、それを氷の矢に向かって叩きつけた。
「波動掌!」
 気の塊とぶつかり、氷が四散する。
 ウィンディは舌打ちした。
「チッ、やるわね。今ので倒れないなんて。それでは今度こそ……って、あんた!」
「シャルム!」
「うす」
 女は、そう言い手を振る。
 そう、その女は長い髪にスレンダーな容姿。
 そして、何よりも紺の肌を際立たせる黒のドレス。
 けれども、やはりその姿はシャルムだった。
 シャルムはけだるそうな様子で手を差し出す。
 すると、男達がその手を最高級品のシルクハンカチで拭き始めた。
 そして、拭き終わるとそれをポイ、と捨てる。
 ウィンディは思わず落ちたそれを拾って、ポケットに入れてしまう。
 そして、聞いた。
「あんた、何やってるの?」
「悪人成敗」
「はあ?」
 シャルムは、地面に転がってる男達を指差して言った。
「こいつら、最近町でチーム組んで、夜な夜な女をさらってたんだ。だから、いっぺんしめとこうとおもって。ほら、あたしって正義の味方じゃん」
「シャルム! 肌の色が黒いと心まで黒いと思っていたけど、なんかわけのわからない正義感に目覚めたん」「波動掌」「ぐへっ!」
 フィアは余計な発言によって早々にリタイヤ。
 まあいつものことなので、あえて放っておくが。
 ウィンディはあきれた様子でシャルムに聞いた。
「それはともかく……そのヤバゲな黒服、誰?」
「うん、親父がつけてくれたボディーガード」
「……オヤジ?」
「おう」
 シャルムが頷くと、黒服の一人が戸籍謄本を見せる。
 そこには、グラック=アルカポネと、シャルム=アルカポネの名前が書いてあった。
 ウィンディもさすがに、これには絶句した。
「……なに? あんた、なに? いや、ごめん。頭がまわってない。それ、どういうこと?」
 シャルムは自分を指差して答える。
「あたし、アルカポネの娘。よって、DXの会、時期後継者」
「……えーと、帰って良い?」
「ちょっと、シャルム!」
 そう叫んだのはアリサである。
 さすがのアリサの言葉だからシャルムも黙って聞くことにする。
「シャルム、一体これはどういうこと? 一から十まで全部説明してよ」
「……説明しろって言われても。こういうことなんだけど」
 シャルムはピン、と親指を立てる。
「街中でグラックの親父と出会ってさ、スカウトされたんだ。『今日からお前は私の娘だ。二人でマフィアのサクセスロードを歩こうではないか』って。それで、現在に至る」
「……マフィアって」
 アリサは顔面を蒼白にする。
 シャルムは対して、あっけらかんと笑って。
「別にマフィアって言っても大したことやらないし。人身売買とか、調教とか」
「十分大したことでしょ! それは!」
 ウィンディが叫ぶ。
「大体、なによ、マフィアって! あんた、自分がマフィアの才能でもあると思ってるの?」
「いえ、お嬢はわずか二週間で立派なマフィアになられました」
 横の黒服が言い切る。
「お嬢の功績は立派です。対立組織のゴットファーザーを壊滅させ」
「内部に流れる麻薬の類を切り捨てて、組織のインテリジェンスを向上させ」
「より、理論的な組織展開に乗り出し、今やDXの会は自由都市最大の組織に成りあがり」
『そう、彼女が僕らのアルカポネ!』
「黙ってろ!」
 ウィンディはバン、と近くの壁を叩く。
「とにかくっ! 許せないわね! 正義と愛を信じる夢見人が生々しい悪の世界の溺れ、挙句には快楽に浸り、理由なき暴力の毎日! そう、シャルム、あなたは悪よ!」
「いや、お前も十分小悪党だと思うけど」
「それは今はいい話よ! シャルム、かつての友人として、アンタの野望はあたしが律する! さあ!」
 ウィンディはフィアを押す。
「あんた達の相手はこのフィア一人で十分よ! 行きなさい! フィア!」
「えっ! えっ!」
 フィアはもうワケがわからず、シャルムにかかっていく。
「もうこうなったら! フィアパーンチ!」
「ジョルト!」
 フィアのストレートに容赦ないシャルムのジョルトカウンター。
 体重を乗せたそれは……なんていうか、すっごくひどいことになってしまった。
 フィアはそのまま、ポンポンと飛んで、ころころと転がっていく。
 思わず、ウィンディは口を押さえた。
「うわ。人間ってこんな動きをするんだ」
 シャルムは腰に手を当てて聞いた。
「もう終わりか? 案外大したことないのな。もしかして、ウィンディってヘタレ?」
「誰がヘタレだ! ……こうなったら、見てなさい。地獄の果てで後悔させてあげるわ!」
 ウィンディが呪文を唱え始める。
 必殺、スノーレーザーだ。
 氷の閃光がウィンディの左手に宿り強大なエネルギーを精製する。
 ウィンディはそれを振りかざし、叫んだ。
「氷雪の大河よ! 光溢れる凍えし楽園よ! 今、ここに全てを滅する力を与えよ! スノー……」
「黒服、一斉掃射」
「……へ?」
 黒服が銃をカチッと構える。
 そして、その銃口から。
 銃弾が溢れ出した。
 銃のマズルフラッシュが街中に響く。
 共に、火薬の光と硝煙が立ち込めた。
 地面にめり込み、砂煙も起こる。
 そして、銃声が収まり。
「掃射、やめ」
 そう、シャルムが手をかざす。
 黒服は銃をおろした。
 そして、煙が収まるのを待つ。
 煙の果てにいたのは、ウィンディ達だった。
 ウィンディが、ポタリ、と鼻血を出しながら言う。
「あんた……マジで殺す気バリバリだったわね」
 シャルムも意地の悪い笑みを浮かべながら答えた。
「まさか、脅しの為に軽く地面を抉っただけだよ」
「地面を抉った? 嘘付け。もろ直進コースだったわよ! 手近に防ぐものがあったからいいけど、それを取らなきゃ、あたしもアリサも今頃蜂の巣よ」
 アリサがウィンディの手元を恐る恐る指差す。
「ウィンディ……それ」
「って、フィア?」
 ウィンディは白目をむいて銃弾を受けた傷から血を流しているフィアを、投げ捨てた。
「うわっ! つぶれたカラスを握っちゃった! キチャナ!」
「……お前、何気にひどいな」
 あきれた顔のシャルムが、気を取り直して言葉を続ける。
「さて、小汚いカラスのウィンディちゃん、まだ続けるかい?」
「うぬぬぅ。この、腹黒アニマルがぁ!」
 ウィンディの言葉に、シャルムは高笑いを浮かべる。
 いつもとは逆の構図だ。
「いやあ、腹黒アニマルかぁ? ウィンディちゃんは本当に言葉がうまいなぁ! さあ、どうするのかなぁ? ハッハッハッハ!」
「くそぉ。なんか、こんな脳みそ筋肉バカに負けるなんて、やけに悔しい」
 そこで、アリサが一歩前に出る。
 そして、力の限り叫んだ。
「シャルム!」
「んにゅ?」
 アリサは胸に手を当てて、力のかぎり叫んだ。
「シャルム! もうやめよう! あなたはそんなことをする人じゃないはずだから! あなたの胸にある愛や夢を忘れたの? あの日、あたしとあの夕日を見ながら誓ったよね。将来は立派な漁師になるって!」
「……いや。なんというか……漁師は……やっぱりやめる……」
「シャルムは、マフィアなんて似合わない! だってシャルムはバカだから! あの、太陽の照らす庭であたしと二人、ううん、フィアと三人……」
「フィアは今、殉死したぞ」
「やっぱり、シャルムと二人で! あの庭でアホみたいに駆け回る日々に、あたしはもう一回戻りたいの! だからシャルム、そんなバカな真似はやめて!」
「うーん」
 シャルムは腕を組んでしばらく思案にふけってから、キッパリ答えた。
「やっぱりダメ」
「そんなぁ! シャルム! 帰ってきてよ!」
「と、いうかあんたらも、二週間も雲隠れしてたのにまったく放置だったよな」
「そんなことは水に流して」
「流せるか!」
 シャルムはプンスカと肩をいからせるとキッチリ告げた。
「とにかく、あたしは親父とマフィアのサクセスロードを歩くんだよ。その道に、なんびとたりとも立ちふさがることユルサン。そういうことだから、よろ」
 シャルムはそういうと、くるりと背中を向ける。
「ちょっとシャルム!」
 アリサの言葉が耳に届くが。
 シャルムは振り向きもせずにその場から立ち去っていった。

 ●〜〜〜●

 ここはロックアースにある、アルカトラズタワー。
 自由都市に溢れるいくつもの企業が、身を置く高級な建物である。
 そして、その六十階。
 レストランアルカトラズ。
 ロックアースを見渡せる展望と、最高食材をつかった料理がウリである。
 そして本日、この高級レストランは貸切になっていた。
 たった一組の親子の為に。

『乾杯!』
 グラックとシャルムのワイングラスがキン、とぶつかる。
 二人はそのまま、互いのワインをコクリ、と飲み干した。
 リーザス王宮の蔵に眠っていた二十年物だ。
 特殊なルートを使って手に入れた。
 苦く、味が濃く、それでいて喉越しも悪い。
 けれども、飲み終えた後の感触は心地よいの一言であった。
 グラックが聞く。
「どうだ? シャルム。上手いだろう」
「ああ。最高だ」
「ワインは苦い方がいい。苦くあるべきだ。苦くなければワインではない。それを含めて、このワインは我々の門出にぴったりな味だ。そう思わないか」
「うん、そう思う」
「それよかった」
 グラックは優しく微笑む。
 もし、グラックを良く知るものがこの笑みを見たなら、どちらかの感情をいだくだろう。
 理由のわからぬ優しさに対する恐怖か。
 優しさの奥にある残酷さに対する恐怖か。
 しかし、シャルムに対する笑みはその二つのどちらでもない純粋な笑顔だった。
 グラックはテーブルに肘を乗っけて告げる。
「……少し、つまらない話をするが聞いてくれるかな」
 口に料理を詰め込んだシャルムはコクリと頷く。
 それを確認してから、グラックは静かに語り始めた。
「私は……幼い頃からこの道で暮らしてきた。もちろん、マフィアなどというものは陰惨なものだ。損得の感情がなければ心から他人を信じられない。いや、これは我々だけではなくあらゆる人間が同様の葛藤を抱いているのだろう。ただ……」
 そこで、息を吐く。
「ただ、私は少々疲れていたようだ。他者を信頼せずにただ、悪党でいることに。もちろん、人が聞けば笑うだろう。私はそういう立場にいる。けれども、そろそろ独りでいることに苦痛を得るようになって来た。弱ってきたのかな」
 視線を落とす。
「だが。どいつもこいつもくだらない連中ばかりだ。金、名声、富、そんなものに執着しておきながらいざとなったら逃げ出す腰抜けどもだ。私はそいつらにいろいろ与えたよ。金の塊を加工して彫像をつくり、組織をたばねるボスにしてやった。だが、そいつが私に返したのは銃弾だ。ウンザリした。ウンザリしたのでティティ湖の水深くにバカンスに向かわせた。まだ戻ってこない」
 指をかむ。
「元に、こうして娘として食事をしたのもお前が初めてじゃないんだ。寂しさを癒してくれると思って傍においたものは多いが、みんなくだらない連中ばかりだった。結局、渇きを潤してくれなかったよ。だから、そいつが乾かないようにしてやったのだが。結局、それでも寂しさは変わらなかった」
 シャルムは、ふと背後を見る。
 そこには、いくつもの彫像が飾られていた。
 みな、美女の彫像で十代前半もいれば二十代後半もあった。
 なるほど、と思った。
 グラックは、寂しげに告げた。
「シャルム……お前は何がしたい」
 シャルムは、間髪いれずに答えた。
「あたし。ジェットコースターに乗ったことないんだ。明日、乗りに行きたいな」
 グラックは満足げな笑みを浮かべた。
「ああ。ジェットコースターか。簡単だ。乗りに行こう」

 ●〜〜〜●

 ここは、Mランド。
 とっても売れない遊園地だが、今日も元気に開店休業中である。
 クルクルまわるコーヒーカップ。
 ビューンと滑るジェットコースター。
 パカパカ走るメリーゴーランド。
 まさに、おとぎの国だ。
 今日も今日とて、若き未亡人である運河さよりは優しげな笑顔でそれを眺めていた。
「あなた、今日もMランドは子供達の声で溢れていますよ」
 さよりの眼前には、元気にはしゃぎまわる子供達がいた。
 ある子供は広い園内で鬼ごっこをして。
 別の子供はクマのぬいぐるみに風船を貰って喜ぶ。
 また別の子供は、親と一緒にお弁当を食べている。
 ここには子供の笑顔が溢れている。
 幸せいっぱい夢いっぱい。
 楽しい乗り物と幻想の動物。
 一生懸命に遊んだ後は、帰りにレストランで食事をするのだろう。
 そんな、子供達の笑顔を見るとさよりも幸せになってしまうのだった。
「この、Mランドは子供達のためにも守り続けますわ。あなた……」
 さよりは、そのような決意を子供達の前で再びするのだった。
 そこに。
 ババババン、と銃声が聞こえた。
 すると、慌てたすずめのように逃げ出す子供達。
 それと共に、子供達を追い回す黒服部隊。
 駆けつけた両親を、バコシンと殴り飛ばす。
 足にすがりつく子供をゲシンと蹴り飛ばす。
 ついでに、ニ、三発、銃弾を空に向かって放つと。
 あっという間にMランドから人影はなくなってしまった。
 さよりは唖然とする。
 そこに、一組の男女が現れた。
 グラックとシャルムである。
 シャルムは、我を失うさよりにニッコリと契約書を見せた。
「今日からMランドはDXの会の管轄にはいるから」
 さよりは、あまりの言い分に言葉を返す。
「ちょっ! ちょっと待ってください! ここは私の夫がつくった……」
「知らん。あんたの処分は決まってるから。おい、篠田」
 シャルムが、パチンと指を鳴らすとどこからかごつい、アメフト野郎が現れた。
「はっはーん、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! 参上仕りました、お嬢!」
 さよりは思わずたじろいでしまう。
「なっ! なんです! この臭そうなアメフト男は?」
「篠田源五郎、今日からこいつがアンタの旦那だ」
「い、いやです! こんな触ったら妊娠しそうな……」
 すると、篠田は顔をうつむかせて震え始めた。
 さよりは、恐る恐る聞く。
「あの? 篠田さん?」
 すると、篠田は顔を少しずつあげて叫び始めた。
「うっうっうっうっ! 運がさぁぁぁぁぁぁぁん!」
「うっぎゃっぴぃ!」
 篠田はさよりをアメフトボールみたいに担ぎ上げると叫びだした。
「運河さよりさぁぁぁぁん! ぼっぼっぼっぼっくんと夜明けのラブタッチとしましょうかぁ! さよりさぁぁぁぁぁぁん! おっぱおっぱおっぱおっぱいもませてタッチタッチタッチダウンでいきましょうかぁぁぁぁぁぁああ!」
「うっぎゃぁ! 妊娠しますぅ!」
 篠田は、鼻息を荒くしてシャルムに聞いた。
「おっおっおっお嬢! メリーゴーランドは貸切でいいんですよね!」
「うん、乗らねえし」
「ウッヒョォォォォイ! さよりさぁぁぁぁん! 僕と一緒に一日中メリーゴーランドでくんずほぐれずしましょうかぁぁぁぁあ! 子供は百五十七人ぐらいがちょうどいいですよねぇぇぇぇぇ!」
「助けてくださいぃぃぃぃ!」
 篠田はさよりを担いだまま、どこかに消えていった。
 おそらくは、メリーゴーランドでスクラムでもするのだろう。
 まあ、それはそれで近寄らなければいいか、とシャルムは思った。
 その横で、グラックが聞く。
「次は何がしたい?」
 シャルムは答える。
「ガンダムに乗りたい」

 ●〜〜〜●

 自由都市カスタム。
 高名な科学者であるマリア=カスタードは今日、自宅にておかしな客を招いていた。
「……巨大ロボット、ですか?」
「うい」
 と、シャルムは頷く。
 考えてみればこれは、ものすごい出会いなのだがその辺の突っ込みはやめておこう。
 マリアはうーんと、考えるそぶりを見せて。
「できないこともないですけど、それにはものすごい予算が必要なので。だから、個人で払える額とは思えないんですが」
「いくらぐらい必要なの?」
「えーと、十億Gぐらいあれば完成すると思うんですが」
「親父」
「うむ」
 グラックは、ピンと指を鳴らす。
 すると、黒服が次から次へとやってきてアタッシュケースを開いた。
 そこには、一本一万ゴールドはする金塊が十本は入っていた。
 それが、次から次へと積み重なり。
 そのうち、家の中には入りきれなくなり外に向かう。
 そして、外に金塊がドンドン積み重なり、しまいには百万本を越えてしまう。
 マリアは唖然として、その前人未開の金の山を見上げた。
 シャルムはニッコリ笑って聞いた。
「これで足りる?」
 マリアはあっさりと答えた。
「任せてください。ガンダムでもザクでもグフでもビクザムでも、何でも作ってみせます」
 グラックは呟いた。
「次は、場所か……」

 ●〜〜〜●

 今日もラジールは平和だった。
 市役所ビルで、市長のアムロは平和なラジールを眺める。
「今日も赤い彗星は来ないか」
「そのようですね」
 秘書のレィリィは、ニッコリと市長の横に立つ。
「レィリィくん」
「市長。これは今日の会議の資料です。そして……」
 レィリィはアムロの唇に、自分のそれを重ねた。
 二人の口内で舌が絡み合う。
 しばらく、互いが互いの熱を分け合い。
 そして、どちらかだろうか、唇をそっと離した。
 レィリィは少し赤面して、呟いた。
「これが、今日の朝の挨拶……迷惑でしたでしょうか」
「いや。そんなことはない。君がいてくれることは、私の助けでもある」
「市長」
「レィリィ。アムロと呼んでくれ」
「アムロ」
「アムロ、行ってもいいかな?」
「はい。人が来ないうちにあたしのあそこにコアファイターを……」
「レィリィ。愛してる」
「アムロ、あたしもです」
 二人の、もうわけわからん十八禁展開が始まろうとした瞬間。
 突如、轟音が響いた。
「なっ!」
 そう、空から降ってきたのはガンダムであった。
 それも、RX―78の二号機だ。
「これは一体?」
 アムロがあっけにとられていると、再び何かが降りてくる。
 ザク、ザク、グフ、ドム、ドム、ドム、ゲルググ、ズゴック。
 そして、巨大なスピーカーから音楽が聞こえ始めた。
『よみがえーれ、よみがえーれ、よみがえーれ、がんだむー!』
 ガンダムがガンダムハンマーをぶん投げる。
 それが、市役所ビルの一階玄関に突き刺さった。
 下の方から叫び声が聞こえる。
「なっ、なっ、なっ!」
 そして、ビームライフルを掲げた。
 無骨なオプションがついているわけではない、純正のものだ。
 近頃は、やたらと強さのインフレを起こして今ひとつ面白くないがこれは違う。
 正真正銘の純正品である。
 ガンダムはビームライフルを撃った。
 ザクが沈む。
『壱つ!』
 もちろん、核融合炉を積んであるので爆発はものすごかった。
 巨大な入道雲が上がり、核の炎がラジールを包む。
「やっ、やめろ!」
『弐つ!』
 再び、ビームの閃光がザクを打ち抜く。
 核爆発、ドッカーン。
 もう、救いようもない大惨事だ。
 すると、今度はグフとの抗戦をはじめた。
『ザクとは違うのだよ! ザクとは!』
『僕は、あなたに勝ちたい!』

 ドカドカバッコンズガガガガン!

 ラジールはたちまち、地獄のような惨劇に陥った。
「ラジールが! 我々のラジールが陥落していく! レィリィ!」
 アムロが振り向くと。
 レィリィは、ウィスキーをストレートでグラスに注ぎ一気飲みする。
 アムロはたじろぐ。
「……レィリィ?」
「ギャグだからってそこまでやっていいわけねえだろ! やってられっか! ノーギャラだぞ! ノーギャラ!」
「……」
 ラジールももう終わりだと、アムロは確信した。

 ガンダムのコックピットが開く。
 そこから出てきたパイロットスーツ姿のシャルムに、グラックは聞く。
「今度は何がしたい?」
「今度は……」

 ●〜〜〜●

 ポロンは、森の中を歩いていた。
 そう、フィアと出遭った魔の森である。
 森は陰鬱に茂り、そこには魔性の妖気を放っていた。
 ポロンは恐る恐る、一歩一歩足を踏み出す。
 そして、しばらく歩くと。
 そこには、泉があった。
 そう、フィアと出遭ったあの泉だ。
「……ここは?」
 ポロンは、泉の前まで歩く。
 すると、あたりに光が立ち込めた。
 光は、幽鬼のようにふわふわと浮き、一緒に集まっていく。
 そして、光が集合し。
 そこに、一つの形が現れた。
「……君は」
 ポロンの目の前には。
 スクール水着姿のアリエッタがいた。
「……アリエッタ」
 アリエッタはニッコリと微笑んでこう言った。
「ポロンお兄ちゃん。久しぶりにょ」
 ポロンの鼻から血が噴出した。
「もう一度、君の口から聞かせて欲しいんだ。今の言葉を」
「ポロンお兄ちゃん、にょ」
「そっ、そうか……」
 ポロンは鼻血を袖でぬぐい、言葉を続ける。
「アリエッタ。どうしてここに?」
 アリエッタは天使のような笑みで微笑む。
「お兄ちゃんを待っていたにょ」
「僕を待っていた」
「そうにょ。これから話すことは世界の存亡に関わるにょ」
「……わかった。聞くよ」
 アリエッタは満足げに頷くと。
 どこからともなく、やっとこを取り出した。
 ポロンが、聞く。
「……それは?」
「これから、アリエッタがお兄ちゃんの金剛球をこのやっとこで叩くにょ。一回一万ゴールドにょ。強さ調整も受け付けてるにょ。弱は九千八百ゴールド。強は一万二千ゴールドにょ。なお、カスタムで角度の調整もやってるにょ。これは、カスタムプライスにょ」
「……わかった」
 ポロンはポケットから一万ゴールドの札束を十束差し出した。
「回数は三回、強さは強で。角度は六十度。鋭角で」
「五万ゴールドにょ。オプションで、恥じらいモードもやってるにょ。一万ゴールドで恥じらいモードにはいるにょ」
「それじゃあ、それもオプションで」
「わかったにょ。それじゃあそこのベットに横になるにょ」
 すると、目の前にベットが現れた。
 ベットの足掛けの部分が、股を開かせるようにY字になっている。
 ポロンはその足掛けの部分で股間を開いた。
 アリエッタがやっとこを構える。
「準備はいいかにょ?」
「うん。いいよ」
「それじゃあ、行くにょ」
 アリエッタがやっとこを振り上げる。

 ●〜〜〜●

「×○▼◆&#*'"=$&"〜%'&"#っっつツアアアアアアッギャア!」
 ポロンは悶絶する。
 エロゲーの美形主人公だと思ったらこの仕打ち。
 だから、この小説は恐ろしい。
 しかし、体を動かそうにも、手足を拘束されていて動けなかった。
 しばらく、意識が遠のく。
 そして、戻ってきたときには、目の前の状況がはっきりとわかった。
 目の前にいたのはシャルムである。
 今はドレス姿で大人びた印象だ。
 シャルムはポロンを見下げて呟く。
「起きたか」
「シャシャシャシャルム?」
 そして、視線を移すと。
 そこにいたのは。
「キャロット」
「俺をキャロットと呼ぶな!」
 股間にやっとこがバキン。
 再び、ポロン悶絶。
 キャロット……ッポイ人が叫んだ。
「俺の名前は細川ふみえ。ふーみんと呼べ! わかったか、この大衆の下僕」
「わ、わかった……と、いうか」
 シャルムを見上げてポロンが聞く。
「シャルム、何をやってるんだよ?」
「拷問」
「は?」
「拷問」
「へ?」
「拷問」
「それってどういう」「ふーみん」「#%&*ッッガア!」
 そろそろ、つぶれる。
 シャルムはポロンを嘲るような瞳で見つめて、告げた。
「いやさ。最近やけにヘタレだから、今回がいい機会だし少しばかり気合を入れといた方がいいかな〜って思って。だろ?」
「いや、気合が入る前に死ぬって。これ」
 シャルムは、ポロンに顔を近づける。
「一つ、聞いておくことがあったんだよ。ポロンくんに」
「な、なに?」
 シャルムは、ゆっくりと、しかしはっきりと聞いた。
「あんた、好きな人がいるんだって?」
「あ、うん」
「それは誰?」
「えーと、フィ」「ふーみん」「*#$%ッググガガ!」
 悶絶するポロン。
 シャルムは意地の悪い笑みを見せて再び聞く。
「あれ? 聞こえなかったな。もう一度聞かせてくれるかな。できれば、あたしの望む答えを。簡単だろ」
 ポロンはコクコク頷く。
「それじゃあ、好きな人は誰?」
「だから、フィ」「ふーみん」「&#L$#+ギガアガア!」
 もはや、泣き声が普通ではない。
 そろそろやめなければ死ぬ。
 シャルムは怒り心頭に見下げて、顔を引くつかせながら再三聞いた。
「いやあ、あたしも耳が悪くてさ。だから、ポロンくんの言葉が変な風に聞こえちゃうんだよね。きっと、あたしの一人空耳アワーって感じ? ごめんね。これで最後だから。ちゃんと答えてね」
 ポロンがコクコクと頷く。
「あんたの好きな人は、誰?」
「それは」
 バキン。
「……あ」
 ふーみん、誤爆。
 間違ってやっとこを降り下ろしてしまった。
「おい、なにをやってるんだよ」
 シャルムは思わず呆れ顔だ。
 そして、ポロンの傍に顔を近づけてそのまま軽くビンタする。
「おーい。大丈夫か〜?」
 しかし。
「駄目だ。完全に昇天してる」
 と、肩をすくめた。

 ●〜〜〜●

 今日もシャルムは、ロックアースの街を闊歩する。
 父であるグラック=アルカポネと共に。
 周りには、黒服の大隊。
 もはや、ロックアースは即席アルカポネ親子の天下。
 この街にはすでに、逆らうものがいなかった。
 シャルムはケラケラ高笑いを浮かべながらグラックに言う。
「いやー、気分いいな。マフィアっていうのも悪くないぜ」
「そうだろ、そうだろ」
 グラックも、ゲラゲラと笑う。
 二人の笑い声が狂気となり町に響く。
 僕らのアルカトラズでそれの意味するものは、死の輪唱だった。
 そう、二人の悪行を止められるものは。

 ―――もはや、この町にはいないのか?

 そこに。
「待ちなさい!」
 と、立ちふさがる影。
 それはツインテールの美少女、アリサだった。
 グラックが不機嫌そうにシャルムに聞く。
「なんだ、この娘は?」
「……アリサ」
 かつての親友の姿に、シャルムは驚く。
 そして、その横にはウィンディとフィア(生きてた)の姿。
 ウィンディは腰に手をあてて、不敵な笑みを浮かべたままシャルムに向かって言う。
「あんた、最近あちこちで悪さしてるみたいじゃない。すごいわね〜。いや、あんたこそ小悪党の中の小悪党、ベストオブ小悪党よ」
「ウィンディ」
 そして、最後にフィアが一歩前に出た。
「……シャルム」
「フィア」
「シャルムみたいな筋肉バカにはこういうことは絶対に似合わないので今すぐにやめないととてつもなくひどい目に」「ふーみん」「ってなんですかキャロットさんと黒服軍団さんあたしを亀甲縛りにして一体どこに連れて行くつもりですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
『……』
 ドボン。
 今の時期、ティティ湖はさぞかし冷えることだろう。
 それはともかく。
 シャルムは二人を睨みつける。
「……なんのようだよ?」
 ウィンディは軽く髪をかきあげ。
「何の用? 何の用とはないでしょう。あたし達はアンタを迎えに来たのよ。いい加減、こんなくだらない悪党ゴッコはやめて、帰りましょう。シャルム」
「ウィンディ」
「そうだよ!」
「アリサ」
 アリサは胸に手を当てて力説する。
「帰ろうよ、シャルム。マフィアなんて悪いことはやめて、あたし達と一緒に戻ろう」
「……」
 シャルムは口元に手を当てて、しばらく考えたあと。
 ぽんと、手をうち。
 なるほど、と呟き。
 うん、と頷き。
 ニッコリ笑って。
「わかった、やめる」
「なんだとぉぉぉぉ!」
 グラック驚愕。
 三十六歳にして、裏切られるマフィアの親玉。
 思わずたじろぐグラックに、シャルムはにへらと笑顔で言った。
「そういうことだから。今まで楽しかったよん」
「くっ!」
 グラックは、裏切られた悲しみを怒りに昇華し。
 その手に持った拳銃をシャルムに向けた。
「シャルム! 私を裏切るのか!」
「うん」
 グラックは胸に手をやり叫ぶ。
「なぜ! 私は欲しいものを全て買い与えた! 何でもしてやった! その恩を忘れ私を裏切るというのか! シャルム!」
「……」
 シャルムは、眉間に指をやり答える。
「あのなあ。信頼と愛情は金で買えるものじゃないんだ。いくら貢がれても、信頼できない奴は信頼できない。いい加減、利用されたのに気付け」
「利用だと! 貴様、私を利用したというのか!」
「うん」
「私には、愛情がなかったというのか!」
「うん」
「貴様ぁぁぁぁ! この裏切り者の女狐が! 地獄に落ちろ!」
 グラックは拳銃の引き金に手をかける。
 しかし、シャルムの蹴りが銃を落とす方が速い。
「なっ!」
 そのまま、シャルムのハイキックがグラックのこめかみに当たる。
 倒れるグラック。
 自分の親玉を倒されたことで動揺した黒服たちは一斉に獲物を構えた。
 しかし。
「氷雪吹雪!」
 ウィンディは魔法を放つ。
 沸き起こる零下の突風。
 黒服たちは一斉に吹き飛ばされる。
 あとに残ったのは、グラックだけだった。
 地面に倒れたまま、シャルムを見上げるグラック。
 対して、シャルムはしゃがみこんでグラックと同じ目線になる。
 グラックは聞く。
「なぜ、裏切った。私の与えた生活が嫌だったのか? 私の買い与えたものが気に入らなかったのか? それとも……」
 そこで、言葉を区切る。
「私のことが嫌いだったのか?」
 シャルムはしばらく黙ったあと。
 静かに首を振った。
「違うよ。あんたと一緒の生活は楽しかった。刺激的でスリリングで、今までにない体験だった。そんな世界を見せてくれたあんたには今も感謝してる。でも、あたしにはあたしの生き方がある。だから、あたしはあんたと一緒に入れない……でも」
 そこで、カラッとした笑いと一緒に答えた。
「あんたは大好きだ」
 グラックは、顔に驚きの色を浮かべる。
 それと共に、しばらく思案にふけり。
「そうか、私に足りなかったのはそれだったのか」
 と納得した。
 グラックはシャルムの手をガッと握る。
「そう、私に足りなかったのは人を愛することだ!」
「え?」
「私は愛されることのみを望み、無償の愛というものに対して着眼しなかった。よってそれから起こる弊害は他者を切り捨て自分が高みに登ることのみ。その愛し合いされることに対する矛盾に対する難点を私はただ単純な力によって解決しようとしたがそう言うことだったのか。ありがとうシャルム、私は愛することの大切さを始めて身をもって知った」
「あ、いや」
「そうか、愛することが大事なのか。よくわかった。マフィアとして三十六年間生きていて愛の大切さを知らなかった私は愚かとしか言いようがないな。そうか、愛か。愛憎、愛着、恋愛、慈愛、博愛、愛は世界で一番大事なものだったのだ」
「ちょっと」
「シャルム、私はお前を愛している。だから、結婚しよう。いや、家族になろう。親子になろう。兄妹になろう。親友になろう。恋人になろう。とにかく、愛して愛して愛しまくってやるからシャルム、ほら私の胸に飛び込んで」
「チェイ!」
「ガフ」
 シャルムキックによってグラックは一撃で昇天した。

 と、まあこんな感じにロックアースを震撼させたマフィア騒動は幕を下ろした。

 ●〜〜〜●

 そして、そんなこんなで一週間の日々が過ぎた。
 ロックアースでのDXの会は権力を失墜させた。
 DXの会は力を失い、ロックアースに収まるだけの組織に成り下がる。
 そして、ロックアースの治安は向上した。
 それはアルカトラズのつかの間の平和に過ぎない。
 そう、我々の足元には暗黒の坩堝がいつも姿をのぞかしている。
 いつの日か、再び牙をむくときもある。

 さて、それはそうとして。

 昼下がりのレストラン、相変わらずの五人娘は昼食をとっていた。
「でも、今回はひどい目にあいましたね〜」
「……あんた、何で生きてるの?」
 ウィンディが恐ろしいものを見るような目でフィアを睨む。
 そして、今度は桃色の髪の少女に視線を移す。
「で、キャロ。アンタ一体どこで何をしていたのよ?」
「えーとね。アシスタントかな?」
「どっかの芸能プロダクションで住み込みのバイトをしていたって聞いたけど?」
「うん。そうそう。そういうことにしておいて」
「……」
「そういえばキャロットさん、シャルムと一緒にDXの会に」「チェイ」「杖が目にぃぃぃぃいいい!」
「まあ、それはおいといて」
 今度はシャルムに視線を移す。
「結局、あんた、何であんなことをしたの?」
「うーん」
 シャルムはしばらく考えてから。
「刺激かな?」
「刺激?」
「なんか、退屈だったんだ。そんだけ」
「あんたねえ」
 ウィンディは思わず呆れ顔。
「あんたのせいで、あたし達はものすごい迷惑したのよ。少しは反省して……」
「反省してるよーん」
「アンタに説教しても無駄みたいね」
 肩を落とすウィンディ。
「ところで……誰か、DXの会がどうなったか、知ってる?」
「うん」
 アリサが頷く。
「あれから、規模縮小したDXの会なんだけど、理由は……会長の失墜」
「グラック=アルカポネ、失墜したの?」
 ウィンディは身を起こして聞き返す。
「ううん。正確には引退かな?」
「引退?」
「なんか、マフィアに嫌気がさしたんだって。……シャルム?」
 アリサは、そこで唐突にシャルムのほうを向く。
 シャルムはアリサの視線に気付き、向き直る。
「……何?」
「ううん。なんかボーっとしてるから。平気?」
「オッケーオッケーオッケー牧場」
「ならいいけど。それでね……」
 いろいろ話し出すアリサの横で、一人外を見ながら物思いにふけるシャルム。
 そして、口元を少しだけ動かし、小さな声で呟く。
「親父、大丈夫かな?」

 ●〜〜〜●

 レッドの街。
 ここには、かの有名な魔剣、カオスの封印されているセルの教会がある。
 セル=カーチゴルフは今日も、庭の水撒きに精を出していた。
 するとそこに。
 一人の男が現れた。
 セルはこわもてだが、妙にみすぼらしいその男に声をかける。
「あの。どうしました?」
「実は……入信希望で」
 セルはその言葉に、思わず顔をほころばせる。
「入信ですか! それは素晴らしいです! 信じるものは救われます! さあ、中に!」
「はい」
 セルはそそくさとバケツを横に置くと、男に聞いた。
「なぜ入信を希望に?」
「愛に目覚めたんです」
「そうなんですか。前はどのようなご職業に?」
「人を騙してお金を貰う職業です。このような人間が入信など、おこがましいですか?」
「いえ、神は信じるものに平等です。それでは、お名前は?」
「はい」
 男は答えた。

「グラック=アルカポネです」