レリューコフ軍とヘルマン軍。 両軍は一進一退の攻防を繰り広げいてた。 だが、開戦から三十分。 戦況は変わりつつあった。 レリューコフ軍がおされつつあるのである。 その光景に、ルーディンは微笑んだ。 「レリューコフの老いぼれめ。ついに弱点をさらけ出しおった。しょせん、正規軍に付け焼刃のままごと市民軍団が敵うはずないのだ」 ルーディンは戦況を見ながら嘲笑する。 「ほら、もはや戦線は乱れつつある。こちらは六メートルの槍を使ってるのだ。四メートルの槍と薄い盾で防げるはずがないだろう。レリューコフ。愚かなり。ハッハッハ」 対する、レリューコフ陣形。 レリューコフは防戦に出た軍隊を黙って見ていた。 レリューコフに、ポロンが聞く。 「あの……これでよろしいんですか?」 レリューコフはポロンを見下ろして答えた。 「ああ。これでいいんです。……さて、そろそろか」 レリューコフは叫んだ。 「全軍、後退!」 ルーディンは狂喜に震える。 レリューコフが撤退を始めた。 市民兵は皆、背中を向けて逃げ出す。 そう。 レリューコフはこの戦に勝てないと知り、臆病風に吹かれたのだ。 「ククク。愚かだ。レリューコフめ。この戦線で撤退を始めるなど」 それは、教本でしか戦いを知らないルーディンだからこその誤解だった。 ルーディンは言った。 「全軍。レリューコフ軍を追撃。一人も生きて逃すな。騎兵隊、前に! 敵の尻を刺してやれ!」 騎兵隊の隊長はおかしいと思っていた。 レリューコフは歴戦の勇士である。 その勇士が、この状況で退却など。 なにか、策があるに違いない。 しかし、隊長がそう言うと。 「策など、無い。レリューコフは古い将軍。力任せの戦法しかできぬ男だ。大方、負傷兵が増えぬうちに負け戦を終わらせようという魂胆だ。ここで敵を殲滅しなければ次、どれほどの戦力で来るかわからんからな」 「……了解しました」 騎兵隊長は、シブシブと頷く。 そして、騎兵隊を動かした。 重装歩兵隊が迫る。 後ろからは、軽装歩兵の長距離射撃が行われていた。 それでも、レリューコフは耐えた。 勝利の為に。 そして。 ついに、虎の子の騎兵隊が前に出た。 重装歩兵では、軽装備の市民兵に追いつかない。 だから、騎兵隊で追撃するのだ。 レリューコフはそれを待っていた。 騎兵隊が迫る。 レリューコフは、再び、先陣での戦闘指揮を行い始めた。 市民兵を後ろに逃す。 そして、機の熟すのを待つ。 騎兵隊が更に迫る。 まだだ。 ついに騎兵隊が目前まで迫った。 レリューコフは叫んだ。 「魔法兵団、前に!」 ルーディンは驚愕した。 騎兵隊は敵市民兵を一網打尽にしようと突っ込んでいった。 だが。 レリューコフの隠し玉が現れた。 それは、魔法兵団。 そう。 第一兵団総員千六百。 そのうち、三百は魔法兵団だったのだ。 正規の部隊ではない。 それは、少し前にさかのぼる。 ルーディンの騎兵隊を破るためにある策が考えられた。 それは、即席の魔法兵団である。 魔法の才能がある者、魔法をかじった者。 そういう者を集める。 意外と数が多く、五百人ほど集まった。 ウインディとキャロットは、彼等に魔法を教えた。 期限はニ週間。 付け焼刃の魔法特訓だった。 もちろん、脱落者も多く出た。 それほど、過酷な訓練だった。 だが、その結果。 三百人の市民兵が、炎の矢と氷の矢を覚えるに至った。 三百の魔法兵団は一斉に呪文を唱える。 炎と氷が、戦場に舞った。 騎兵隊の突貫力はすさまじい。 だが、今はその突貫力が仇となった。 目前の驚異に止まることができない。 次々と、魔法の餌食になっていく。 騎兵親衛部隊総勢百二十。 あっという間の全滅だった。 レリューコフが叫ぶ。 「騎兵隊の驚異は去った! 全軍、突撃! 重装歩兵部隊を叩き潰せ!」 レリューコフ軍の大反撃が始まった。 ●〜〜〜● 初めから、攻撃が見えるなんて考えていなかった。 ポロンには、力は無い。 ライラのように剣が強いわけじゃない。 ウインディやキャロットのように魔法が上手なわけじゃない。 シャルムのようにセンスがあるわけじゃない。 だが。 それでも、許せなかった。 フィアとアリサを汚されたことが。 ポロンが、駆ける。 ラケシスは剣を収め、笑って答えた。 「いらっしゃい」 ポロンは、ハイキックを放つ。 だが、ラケシスは軽く払う。 ポロンは続けて、蹴りを放った。 上段。 下段。 中段。 簡単なコンビネーションだからこそ、あっさりと防がれる。 「大したこと無いわね」 「クッ!」 ポロンはそのまま飛び上がる。 そして、横に足を薙ぐ。 旋風脚である。 ラケシスはその足を掴むと。 投げ飛ばした。 ポロンは受身を取り、すぐに立ち上がる。 「まだ、やる気?」 ポロンは答えない。 その変わり、拳を突き出した。 掌で、相手の腹を撃つ。 ガンッ、と重い音が響く。 闘気掌。 気を掌に当てて放つ技だ。 パランチョ王国で教わった体術の基礎的な技である。 ラケシスは、それを両手の腕で受け止めた。 「やるじゃない。坊や」 ポロンの目の前を、何かが横切る。 それは、剣だった。 ラケシスは再び、剣を抜いた。 「お遊びをするつもりだったけど、あなた。けっこう強いわね。さっさと決着つけることにしましょう」 そして、ポロンから視線を動かす。 「そちらのお嬢さんも眼を覚ましたようだし」 ポロンが振り向くと。 そこには、眼を覚ましたシャルムがいた。 「頭がガンガンする……」 そして、ラケシスを睨んだ。 「テメエ。よくもやってくれたな……これは、倍返しにしないとなっ!」 どうやら、頭に血が上っているらしい。 短気なシャルムらしい。 ポロンは言う。 「強いよ」 「わかってるっ!」 シャルムが叫ぶ。 ポロンは頷き。 そして、言った。 「行くよ」 二人は一斉に駆け出した。 ラケシスは剣を薙ぐ。 ポロンは寸前でかわす。 シャルムはその隙に、蹴りを放った。 だが、ラケシスは片手でそれを払う。 しかし。 更に、空中でもう一度蹴り飛ばす。 ラケシスの顔面に蹴りが当たった。 「クッ!」 ポロンが間を詰める。 ラケシスは再び、剣を薙いだ。 ポロンはその手を掴むと。 腕を掴んで、投げ飛ばした。 シャルムは、一回転する。 そのまま、体重のかかったカカト落としを放つ。 ラケシスはすばやくかわす。 そして、剣を薙ぐ。 シャルムはそこから身をかわした。 ラケシスは起き上がる。 ポロンは、間を詰めた。 ラケシスは剣を薙ごうとした。 だが。 「波動掌!」 気の塊がラケシスの腕に当たる。 ポロンはその隙を逃さなかった。 低い姿勢をとり。 一気に、跳ね起きる。 「ハッ!」 円迅天武。 起き上がる要領で、掌低を放つ。 気を溜めて放った一撃。 かなりの衝撃に、ラケシスの体が宙を舞った。 ポロンはそのまま飛ぶ。 そして、ラケシスの頭上にのぼった。 そのまま、円を描く要領で追撃の掌低を放った。 「ッツァァア!」 落華円迅。 空中で円を描くように放つ気の技である。 ドン、という音と共にラケシスは地面に落下する。 地煙が沸く。 ラケシスの姿は見えない。 しかし、これでかなりのダメージを与えたはずである。 「シャルム、気を抜かないで」 「分かってる!」 二人は地煙が納まるのを待つ。 そして。 そこから現れたのは、表情一つ変えないラケシスだった。 「……で?」 ラケシスはニコヤカに聞いた。 「次は、どのような大道芸を見せてくれるのかしら?」 そう。 ラケシスには、まったくダメージが無かった。 二人は、ラケシスの強さに圧倒される。 ラケシスはそんな空気を読み取ると、ニッコリと笑った。 「あら。もう終わり? なら……次は私から行かせて貰おうかしら?」 ラケシスは飛んだ。 ●〜〜〜● 光が、収まる。 かつて玉座があった部屋は砕かれた。 崩壊したその部屋には、巨大な穴があいていた。 外につながる穴だ。 アトロポスは、肩で息をする。 アブソリュート・ヘイロウ(絶対なる天使の光輪)。 アトロポス最強の技にして、全てを消し去る脅威の光。 その威力は、竜すらも滅ぼす。 食らえば、人の身で助かるわけが無い。 そう、それが防ぎようの無い必殺の所以。 アトロポスは、嬉しそうに顔をひきつらせる。 「ライラ……確かにあなたは強かったわ。けれども、しょせん人間。もしあなたが魔人だったら、もっと素晴らしい時間が過せたでしょうに……アッハッハッハ!」 アトロポスの笑い声が響く。 すでに、人の姿無きその空間に。 その時。 ガタ、と音がした。 「……ナッ!」 アトロポスは驚愕する。 瓦礫を押し退けて現れた影。 それは、ライラだった。 「……少し、派手だね。もう少し大人しくできないものかね」 ライラはほこりを落とし、呟いた。 アトロポスは、動揺を隠せないまま聞く。 「貴様っ! なぜ、生きている?」 ライラは答える。 「なぜ? 防いだからに決まってるじゃない」 「防ぐ? 人の身で、あの技が防げるわけない!」 「ああ。そうだよ。防御はできない。ただ……」 ライラはにやりと笑う。 「かわすことはできる」 アトロポスは、ハッとする。 ライラのすぐ後ろ。 そこには、人が入れるぐらいの穴があった。 あの技が炸裂する瞬間。 ライラは、咄嗟に岩斬烈破で岩を砕いた。 岩斬烈破。 いわゆる、岩砕きの技と思って良い。 咄嗟に地面を砕き、そこに身を投げた。 それで、直撃だけは防げた。 けれども、ダメージを負ってないわけではない。 あの技の衝撃で左肩はいかれてるし、体中に打撲がある。 もしかしたら、体のどこかにヒビが入っているかもしれない。 それほどの衝撃だった。 アトロポスは、ひきつった笑顔を見せる。 「そう。よく防いだと誉めてあげる。けれども……」 そして、剣を構えた。 「その怪我で、まともに戦えると思って?」 「たしかに……少ししんどいね……でも」 ライラは、痛む腕で剣を取った。 「あんたには負けない。負けられない。あたしには生きる義務があるからね」 アトロポスが、吼える。 「ほざけっ!」 それが、第二ラウンドの始まりだった。 アトロポスの斬撃は先ほどより脅威を増す。 斬撃の威力は岩切り。 斬撃の速さは疾風。 上下左右から、縦横無尽に剣を振るう。 ライラはそれを薙ぎ、払い、防ぐ。 だが、今度おされているのはライラだった。 怪我の痛みがひどい。 一撃を受けるだけで、体が悲鳴をあげるようである。 けれども。 それでも、負けるわけにはいかない。 「くたばれ!」 アトロポスの横薙ぎを、ライラは後ろに下がってかわした。 アトロポスは、更に反対から返す刀で斬ろうとする。 だが、ライラはすでに剣を振り切っていた。 下段から上段。 上段から、下段に斬る。 燕天武である。 一撃目は、慌てて左にかわす。 だが、追撃のニ撃目。 アトロポスは、肩から斬りつけられる。 「ッツウ!」 アトロポスは下から薙ぐ。 ライラはそれを右にかわす。 上から薙ぐ。 左から薙ぐ。 右下から斬り上げる。 左上から斬り下げる。 すさまじき猛攻。 直撃は防ぐものの、時々かすり、ライラは疲弊していく。 「ハハッ。もう終わりかっ?」 そう、終わりだ。 もう、終わりにするつもりだった。 どのみち、これ以上は体が持ちそうもない。 限界は、近づいている。 だから。 ケリをつける。 ライラは、無数の斬撃を防ぎながら罠をはった。 アトロポスを、外に続く巨大な穴の方に追い込む。 少しずつ、立ち位置が変わっていく。 そこで、アトロポスが飛んだ。 「ホワイトレーザーッ!」 ライラはかわす。 だが、一発が足にかすった。 「痛ッ!」 アトロポスは、構える。 「さて。終わりよ。楽しかったわ。ライラ」 アトロポスはそう言うと。 再び、目の前に光輪を出現させた。 二発目のアブソリュート・ヘイロウを放つつもりだ。 だが、させない。 ライラは駆けた。 「無駄なことを」 ライラは、矢のような一撃を放つ。 アロースイングである。 だが、すでに見切られている。 アトロポスはライラの剣を払う。 そして、隙だらけなその体を両断しようとした。 だが、その時。 呪文が放たれた。 「氷の矢っ!」 ライラが放った呪文。 それは、アトロポスの足を凍らせた。 「何っ!」 傭兵とは戦う職業だ。 闘うからには勝たなければならない。 だから、勝つためにはどのような努力もするし、どのような策も労す。 例えば、才能がないのに魔法を覚えたり。 死に物狂いで覚えた呪文。 それが、この氷の矢だった。 ライラに、魔法使いとしての才能は無い。 だから、この魔法を覚えるのも血のにじむ努力だった。 しかし、だからこそ。 そのたった一ミリの努力が、勝利に導く布石となる。 ライラはそのまま、アトロポスに体当たりをした。 二つの影は、壁にひらいた巨大な穴から飛び出す。 アトロポスは、ライラと共に落ちていく。 二階からのダイブ。 高さは十メートル。 アトロポスは飛ぶことができない。 それだけで、勝利の布石は十分だった。 ライラは、気を溜める。 そして。 剣を振り上げた。 「鳳凰―――」 剣の先に炎の奔流が起こる。 炎は鳳凰に姿を変え、いまにも暴れだしそうだ。 ライラはその鳳凰を押さえ込む。 そして、そのまま地面に落下する。 敵は、アトロポス。 ライラは剣を。 振り下ろした。 「―――燕天武!」 炎を纏った鳳凰が、アトロポスに向かって飛翔する。 その鳳凰は、巨大な炎を撒き散らし。 天使を、燃やし尽くした。 しかし、まだ鳳凰の怒りは収まらない。 鳳凰は叫ぶ。 炎は、更に勢いを増した。 そして。 炎の柱が天を貫いた。 ライラは、地面に落ちた。 幸い、芝生だったためにそれほどのダメージは負わなかった。 だが、体はガクガクで、動くこともままならない。 ライラは、痛む体が悲鳴を上げるが、それでも立ち上がった。 なぜなら。 そこに、まだ敵がいたからだ。 「……ライラァァァァァアアア!」 炎が収まり。 そこには、天使の姿があった。 いや、その表現はおかしい。 なぜなら、それはすでに天使ではなかった。 両の羽根は焼け焦げ。 全身は黒く爛れ。 腕と足が取れかけていた。 アトロポスは美貌を失ったその姿態を醜悪に見せ、叫んだ。 「もう終わりか! 私はまだ、まだまだ闘えるぞ! 闘おうぞ! ライラ! 私と! 永遠に!」 アトロポスは剣を構える。 ライラも、剣を構えた。 アトロポスは、足を前に出す。 そこには、かつての天使の美しさは無く汚らしい女がヨタヨタと歩いているだけだった。 ライラは、駆けた。 痛む体に鞭を打って。 二人の間合いが近づく。 そして、剣がぶつかった。 アトロポスの剣は、ライラの剣に弾かれた。 そして、その胸を。 貫かれた。 「……ライラァァァア!」 アトロポスが、憎々しげな視線をライラに向ける。 だが、ライラは静かに呟いた。 「うっとおしいんだよ。オマエ」 ライラは、アトロポスを蹴り飛ばし。 気を溜め。 レダ・スラッシュを放った。 黄金色の剣筋がアトロポスを斬り裂く。 アトロポスは、断末魔の悲鳴を上げ。 虚空に霧散した。 ●〜〜〜● クロトが微笑む。 その眼前には、崩壊した別館があった。 ライトビームの威力。 果たして、奴等は生きているか。 否。 愚問だ。 生きているはずが無い。 クロトは、哄笑した。 一方、壊れた別館では。 ウインディが頭を抱えて、起き上がった。 視線を動かす。 そこは、残骸の山だった。 ウインディはため息を吐いた。 「これは、ひどいわね〜」 そこで、一つ、虚ろになっている記憶をたどる。 「……あたし、どうしてこんなになっても生きてるんだろう」 視線を動かす。 すぐ傍にいたのは、桃色の髪をした少女だった。 「キャロット!」 ウインディは慌てて駆け寄る。 そして、その傍に座り。 口元を押さえた。 ひどい怪我だった。 頭からはおびただしい出血をしている。 体中には多くの裂傷が見られた。 そして、足の膝が大きく膨らんでいた。 それは、骨折だった。 もはや、満身創痍で動ける状況じゃない。 ウインディはキャロットに呼びかける。 「キャロット! ねえ、キャロット!」 すると、キャロットはうっすらと目を開ける。 そして、ウインディの姿を見ると微笑んだ。 「ウインディ。良かった。無事だったんだ……」 「無事だったって……あんた、ぜんぜん無事じゃないじゃないの!」 「え……そう? 足の感覚とかないから……」 「……キャロット」 ウインディはそこで、思い出した。 そう、キャロットはウインディを庇って大怪我をしたのだ。 キャロットが矢面に立ってマジックバリアを唱えた。 その結果、ウインディは助かった。 けれども、キャロットは…… 「キャロット! 馬鹿じゃないの! あんた、自分だけこんなになったらどうしようもないじゃない!」 キャロットはにへら、と笑う。 「うん。でも、ウインディは無事だったんだからいいかな……」 「……馬鹿。あんた、最高の大馬鹿よ……」 「ウインディだって……臆病のくせに……」 キャロットは、目を閉じた。 眠ったのだ。 出血はおびただしいが、血はふさがっている。 だが、放っておけばいつ、終わってしまうか分からない。 だから。 早急に、治療しなければいけない。 しかし、その前にすることがあった。 キャロットをこんな目にあわせた馬鹿天使をしばき倒すのだ。 ウインディはキャロットの手から、クリスタルリングを取る。 そして、それを握った。 「あんた、ちょっと寝てなさい。あいつはこの天才魔法使いがパパってやっつけてくるから」 気のせいだろうか。 その言葉に、キャロットが微笑んだような気がした。 ウインディは、クロトから見えるところに歩いていく。 クロトはその影に気付いて、ゆっくりと降りてくる。 そして、言った。 「あら。生きてたの? てっきり、二人仲良く死んだのだと思った」 しかし、ウインディは表情を変えない。 そのかわりに、目の前のクロトに聞いた。 「二つ、質問するわ。どうやってあの魔法を防いだの?」 「……ああ」 クロトは理解したように頷く。 「簡単よ。空間を転移したの」 「なるほど」 続けて、ウインディは聞いた。 「ねえ、あなた」 「何かしら?」 「もし、あなたが一番大切な人を傷つけられたとするわね。あなたは、どれぐらい怒る?」 「さあ? 大切なものなんて無いから分からないわ」 「良かった」 ウインディは微笑んだ。 「なら、遠慮なくアンタをぶっ潰せるわ」 ウインディは、クリスタルリングを握る。 クロトがくすり、と笑った。 「あら、何? もしかして、それの力であたしと戦うつもり? ちょっとぐらい魔力を底上げしても、人間ごときに私は倒せないわよ」 ウインディは、その言葉に答えもせずに。 クリスタルリングを空高く投げた。 そして、呪文を唱える。 それは、解呪の呪文だった。 それも、高レベルの。 解呪とは、なにかの呪いや封印を解く魔法である。 つまり、封印された対象が無くてはならない。 強い呪いに拮抗するには、強い魔力が必要になる。 最高レベルの強力な呪いには、それこそ最高レベルの呪文が必要だ。 そして、時には魔力の媒体も要る。 クリスタルリングはいわゆる、媒体である。 そして、解呪の対象は。 自分。 ウインディは呪文を唱えた。 「解呪っ!」 ウインディの体が、桃色の光に包まれる。 それと同時にクリスタルリングが、割れた。 桃色の光が、霧散する。 その瞬間。 ウインディの魔力が、一気に高まった。 「なにっ!」 クロトが驚愕する。 一方、ウインディは落ち着いた様子で腕を握り締める。 「……よし、解呪成功っと」 そして、クロトに向かって強気に笑う。 「ポロンくんのカードを無断使用して買った高額のクリスタルリングを犠牲にしたんだからね。それ相応の償いはしてもらうわよ」 風が起こる。 「さて。行ってみましょうか」 ウインディは、そのまま手を振りかざした。 「黒色破壊光線!」 黒の光が放たれる。 その光は、遥かなる上空を刺し貫いた。 クロトは咄嗟に射線からかわす。 だが、その衝撃の余波を浴びてしまった。 「ガァッ!」 クロトは、衝撃に身をもだえさせ。 そして、動揺する。 それは、今までの力と桁違いだった。 「……貴様。実力を隠していたな」 「隠さざろう得なかったのよ。魔封じのせいで」 「ほう。貴様。呪いを受けていたのか。だから、魔力を十分に発揮できなかったのだな」 「まあね。でも、呪い、解けたし。多分、十五分ぐらいだけど」 「十五分? 安心しろ。その前に貴様は地獄逝きだ」 「あら? アンタのホテルの宿泊先、そこじゃなかったっけ?」 「ほざけっ!」 クロトは、掌を掲げた。 「白色破壊光線!」 ウインディも、反撃する。 「黒色破壊光線!」 二つの破壊光線が、激突する。 そして。 巨大な爆発が起こった。 その閃光は、まるで混沌の光のようだった。 光が、収まる。 そのあとには、激昂したクロトと、やけに落ち着いた様子のウインディがいた。 「……人間風情が」 一方、ウインディは何かの計算をしている。 「黒色破壊光線は疲れるわね。あと、三発ってところか。でも、他にも唱える魔法あるし……ニ発までにしておいたほうがいいわね」 ウインディはクロトに視線を移した。 「と、いうわけで。よろし?」 「ふざけるなっ!」 クロトは、呪文を放つ。 「ホワイトレーザーッ!」 「スノーレーザーッ!」 またもや、光が相殺される。 これでは、イタチゴッコの繰り返しだ。 ウインディは考える。 「どうしたものかね」 そして、思いついた。 「なら、相殺されない魔法を使えばいいか」 ウインディは、呪文を唱え始めた。 「氷雪吹雪ッ!」 その瞬間、クロトの周りを雪の嵐が吹雪いた。 クロトは手から、足から氷付けにされる。 「チイッ!」 だが、魔力が唸る。 クロトは、魔力の爆発だけでその雪の嵐から逃れた。 ウインディが苦笑いを浮かべる。 「さすがね。桁が違うっていうか……」 「……チ」 クロトは舌打ちする。 この娘の魔力、想像以上。 もしかしたら、エターナルヒーローに通じるかも知れぬ。 まあ、だからどうということも無いのだが。 しょせん、強いだけの力は恐怖に値しない。 たとえ、伝説の力といえども、である。 クロトは、顔をゆがませる。 「今度は、こちらから行くぞっ!」 そして、飛翔した。 クロトは魔力の塊を掲げ。 放った。 「ライトビームッ!」 ホワイトレーザー並みの威力を持った光線が無数に降り注いで来る。 ウインディは咄嗟に防御呪文を唱えた。 「マジックバリア!」 ウインディの前に魔法の障壁が生み出される。 クロトは笑った。 「そんなもので、防げるか!」 しかし、ウインディは更に魔法を唱える。 「マジックバリア!」 クロトは驚愕する。 「魔法の重ね撃ちだと!」 光の束が、地上に落下する。 無数の光は、大地を穿つ。 そして、硝煙。 そのあと。 硝煙の中から煤だらけのウインディが現れた。 ウインディはいささか、疲労した表情をしている。 「くそっ。さすがにやるわね」 クロトは再び驚かされた。 ライトビームの直撃を防ぐなんて、人の身でできることではない。 クロトは、ウインディを睨みつける。 ウインディはクロトを挑発するように睨み返し。 そして。 そのまま、腕を振り上げた。 「さて、そろそろ決着をつけるわよ」 ウインディは呪文を唱え始めた。 先ほどまでの呪文とは違う。 更に、強大な魔力の奔流を感じる。 クロトは顔をゆがませた。 ウインディは、巨大な魔力を掌に掲げ。 放つ。 「絶対零度!」 全てが、凍った。 一瞬にして、クロトの周りの世界は冷たき空間と変化する。 そこに、熱は無い。 ただ、純然とした冷気が存在するだけだ。 マイナス二七三度。 それは、すべてを凍らせる大気の渦だった。 「なにっ!」 クロトは動きを封じられる。 そして、ウインディを睨みつけた。 ウインディは、頭上に巨大な黒の固まりを掲げる。 それは、全てを滅ぼす黒き光。 闇より黒き破壊の光。 クロトは、叫んだ。 「人間がぁぁぁぁぁぁぁっ!」 ウインディは、掌の魔法を振りかざし。 「黒色―――」 放った。 「―――破壊光線っ!」 光が、貫く。 その巨大な黒は、全てを飲み込む。 大気も。 物質も。 そして。 天使も。 クロトは黒の光に体を粉々にされていく。 腕を。 足を。 体を。 あらゆる事象は、塵へと帰す。 最後に、響くような奇声をあげて。 光は。 天を貫いた。 「……ふう」 クロトが滅びたのを確認して、ウインディは再び息を吐く。 そして、呟いた。 「ちょうど、魔力もリミットか。よくもったわね」 すると。 ウインディの周りを、再び桃色の霧が纏った。 そして、それはウインディの中に戻っていく。 ウインディはため息。 「あ〜あ。呪いもそのままか〜」 昔、ゼスにいたときにかけられた呪い。 それは今だ、ウインディの体をむしばんでいる。 ウインディは、ヨタヨタと、キャロットのほうに歩いていった。 そして、桃色の髪をした少女の横に座る。 「キャロット。終わったわよ」 髪を撫ぜる。 キャロットはスースーと寝息を立てて静かに眠っていた。 ウインディは嘆息する。 「まったく。この子はいつもバカでポケポケなんだから。保護者の身にもなれってーの」 すると、急にめまいがした。 ウインディは頭を抱える。 「……あれ?」 そのまま、キャロットの横にバタ、と倒れた。 「あー、あたしも限界か〜」 薄れる意識の中でウインディは、まあそれも悪くないな〜と思った。 そんなわけで二人。 仲良く並んで、眠り始めた。 ●〜〜〜● レリューコフ軍はもはや、破竹の勢いだった。 六メートル、市民兵の装備より二メートルも長い槍。 だが、市民兵は死を恐れずに果敢に突撃していく。 対して、ヘルマン軍の重装歩兵部隊は、士気を落としていた。 後ろに控えていた騎兵隊を失ったからだ。 騎兵隊の後ろ盾を失ったのは、ヘルマンにとって痛手だった。 明らかに、ヘルマン軍の士気は低下する。 結果、士気の高いレリューコフ軍に次々とやられていった。 後方に待機する軽装歩兵も停止していた。 なぜなら、弓が放てない。 重装歩兵団と市民兵が混戦になっているからだ。 下手をすれば味方に被害がでかねない。 だが、それに関わらずルーディンは言う。 「味方を巻き込んでもかまわぬ! 今、撃たなければやられるのはこちらだ!」 その言葉が、士気を落とす原因になってた。 肝心の司令官が冷静ではない。 対するレリューコフ陣営は、デシンと、戦線にレリューコフ=バーコフが控えている。 この差は大きかった。 時折、レリューコフに向かって矢が流れてくるが、当たるほどマヌケではない。 剣で払いながら、声援を送る。 「勝利は目前だ! 全員、奮起せよ!」 もはや、言葉はいらない。 レリューコフ軍は一つになっていた。 ルーディンは叫んだ。 「おい! 戦況はどうなのだ?」 すぐ傍の将軍補佐が答える。 「決して良いとは言えません。現在、重歩が踏ん張っていますが戦線は崩壊寸前です。軽装歩兵隊は今の状態では戦力になりません。早急に撤退命令を」 ルーディンは取り乱したように言う。 「ラケシス達は? そうだ、あいつらを呼べ。そうすれば、この戦況は打破できる!」 「あのような者達をあてにするのはおやめください。あの者達は信頼できません」 「わが寵姫を愚弄するか!」 「そうではありません。私はグランバーグ将軍の身を案じて……」 ザン。 将軍補佐の首を斬ったのはただの八つ当たりだった。 「逆らうような者は、いらん」 そして、別の補佐官に言う。 「おい、本陣を後退させる」 「ですが……今、本陣を後退させれば士気が……」 「士気など、もはやどうでもいい。この戦闘には勝てないだろう。ならば、完全な敗北の前に退却する」 「しかし、前線の兵士達は?」 「時間稼ぎの役にはたつ。我等はラング・バウに帰還しこの反乱の報告をしなければならない。意義在る撤退だ」 ものは言い様である。 補佐は怪訝な顔をするが、仕方無しに頷いた。 「わかりました。本隊に撤退命令を。我々も撤退準備にかかりましょう」 「待て。本隊に撤退命令を出すな。逃げるまで時間を稼いでもらわなければならない」 「……了解しました」 補佐は頷く。 そして、ヘルマン軍の本陣は撤退を始めた。 レリューコフは異変に気付く。 それは、ヘルマン軍の本陣が後退を始めたことだ。 レリューコフは勘付いた。 ルーディンが、我が身可愛さにヘルマン兵を犠牲にしたことを。 ギリ、と唇を噛む。 「卑劣なり。ルーディン=グランバーグ。我が身を護るために自らの兵を犠牲にするとは」 ルーディンの退却に気付いたのか、ヘルマン兵が徐々に士気を失っていく。 一人、二人と後ろに下がっていく。 中には、逃げ出すものも現れた。 そんな様子が前線にも伝わり、明らかに槍を振るうのをためらうようになる。 レリューコフにも、それが感じ取れた。 なので、言った。 「攻撃、止め!」 馬で戦場を走りながら、そう叫んだ。 「攻撃、止め! 攻撃、止め!」 そのレリューコフの言葉に、徐々に兵士達が攻撃を止めるようになる。 始めは戸惑っていた者もいた。 しかし、レリューコフ軍の攻撃が終わると、自然とヘルマン軍も大人しくなった。 ヘルマン軍にはもはや、抵抗する意思は無かった。 レリューコフの、攻撃停止命令は的確だった。 そして、レリューコフはヘルマン軍の隊長達に向かって言った。 「敵将、ルーディンは退却した。お主等を捨て駒にして、我が身可愛さに撤退したのだ。ルーディンはお主等を見捨てた。お主等に問う。将が逃げ出し、旗を失っても闘い続ける気があるか?」 ヘルマン軍は黙っている。 レリューコフは言葉を続けた。 「もう一度、問う。お主等は逃げ出した将の為に剣を取るのか? 否か? もし、取るというなら止めはしない。その命尽きるまで、相手になってやる! 我が率いる革命軍、命を賭する覚悟有り! 勝てるものだと自惚れるなら剣を取れ!」 ヘルマン兵は、誰一人槍を握り返さなかった。 変わりに、槍を置き、白い旗を上げた。 レリューコフは頷く。 「よし! 全軍に告ぐ! 投降した兵士は捕虜にせよ! 決して殺すな! 分かったな!」 頷くものがチラホラ。 レリューコフは各隊の隊長に捕虜の扱いを注意したかったが時間は無かった。 ルーディンを追いかけなければならない。 レリューコフは傍にいた数名の騎兵に告げた。 「お前等、ついて来い!」 ●〜〜〜● ルーディンは馬で駆けていた。 側近十二。 かつて二千の兵を従えたものとは思えなかった。 アークグラードから、ローゼスグラードへの道を急ぐ。 だが、道はデコボコしていて、馬ではなかなか早く走れなかった。 「クソッ!」 ルーディンは焦燥する。 このままでは、レリューコフの部隊が追い着く。 ルーディンはあせりを浮かべていた。 すると。 ローゼスグラードの方角から三十ほどの馬がやってきた。 増援だ。 ルーディンは手を振る。 「おい! ここだ!」 馬が近づいてくる。 ルーディンは大きな声で叫んだ。 「反乱だ! 反乱が起きた! レリューコフ=バーコフ率いる反乱軍だ! 俺は最後まで闘ったが、敵軍にはパランチョという王国が後援していて勝負にならない! 助けてくれ!」 救いの手が近寄ってくる。 ルーディンは笑みを浮かべた。 しかし、それを見たとたん硬直した。 目の前の騎兵隊三十。 それは、レリューコフ率いる隊だった。 「レ……レリューコフ、何故!」 「何故?」 レリューコフは答える。 「アークグラードはかつて、ワシの率いる東部方面軍の駐屯地。地理の把握ぐらいできている。お前がどの経路で逃げてくるかわかれば、先回りもできよう」 「クソッ!」 ルーディンが剣を抜く。 「老いぼれめ! 黙っていればアークグラードぐらいはくれたもの。欲をかきすぎたな。このルーディン=グランバーグ、貴様のような老いらくの身に負けるほど、弱くない」 レリューコフも剣を抜く。 「老いらく? 侮られたものだ。このレリューコフ、痩せても枯れても、貴様のような者に愚弄されるほど老いてはいないわ!」 二つの馬が駆けた。 戦闘が始まる。 勝負は、一方的だった。 敗北の上の撤退で疲れ果てている十二人の騎兵。 対して、勝利に高揚する三十の騎兵。 あっという間にルーディンの騎兵は殲滅される。 「クッ」 孤立するルーディン。 すると、その前に影が立ちふさがった。 レリューコフだ。 レリューコフは馬から下りる。 「ルーディン=グランバーグ。勝負」 「……」 ルーディンも馬から下りる。 そして、互いに剣を抜いた。 二人は、ジリジリと間を詰める。 先に剣を突き出したのは、ルーディンだった。 「ハアッ!」 上段から斬りかかる。 レリューコフはそれを払う。 ルーディンは更に一歩踏み出し、上段を再び払った。 レリューコフはそれを受ける。 ルーディンが、力を込める。 レリューコフは押される。 「……ハッ!」 レリューコフはルーディンの剣を払った。 ルーディンが笑みを浮かべる。 そのまま、一気に首を薙ぐ。 だが。 レリューコフは、それをかわしながら足を一歩踏み出し、剣を払った。 剣は、ちょうど防具のない場所、腹を斬り裂く。 腹から、臓腑が血と共に垂れ落ちた。 そして、ルーディンは口から大量の血を吐く。 「ガ……ハッ……」 ルーディンは倒れた。 レリューコフは剣を鞘に戻す。 そして、騎兵隊に告げた。 「勝負は決した。ルーディンは討ち取った」 レリューコフは、そこで初めて安堵の笑みを浮かべる。 すると。 遠くから早馬がやってきた。 レリューコフが目を凝らすと、それはポロンだった。 「レリューコフさん!」 ポロンは、数人の兵士に護られながら駆けてきて、レリューコフの傍に立った。 「レリューコフさん。大丈夫ですか」 「ええ」 レリューコフは頷く。 そして、少しだけ表情を崩し。 「もう、いいですぞ。エレーン殿」 「……え?」 エレーン、ポロンに変身したエレーンは顔を驚かせる。 そして、聞いた。 「あの……いつから?」 「初めから。ただ……殿下がそうしたいのならそれも良いと思い、黙っていた」 「そうですか……」 エレーンは頷く。 「あの……」 「なんですかな?」 「お疲れ様でした」 その言葉が、あまりにも的外れで。 レリューコフは笑った。 それは、何ヶ月ぶりの笑いだったか、それぐらいの大笑いだった。 ●〜〜〜● ラケシスは剣を払った。 シャルムは、それを小手で流す。 だが、小手ごと弾かれてしまった。 「クソッ!」 シャルムは間を詰めて左の肘打ち。 顔に当たる。 顎に向かって右の掌低。 脇腹に左の貫手。 ラケシスは一歩下がる。 そこに、胴廻し蹴りを放った。 顔面に蹴りが放たれる。 だが、ラケシスは倒れない。 顔の埃を取ると、にやっと笑った。 「クッ!」 ポロンは駆ける。 その勢いで、斜め後ろから蹴りを放つ。 肝臓への蹴り。 ラケシスは顔色を変えずに剣を振る。 ポロンは剣をかわして、腕を取る。 そのまま、背負い投げしようとするが。 「何をしているの?」 ラケシスは動かない。 ポロンは、逆に押し倒そうとする。 だが。 ラケシスの膝がポロンの腹にめり込む。 「邪魔よ」 そのまま、脊髄への肘打ち。 ポロンは痛みに沈む。 「ポロンくんっ!」 シャルムが叫び、ラケシスに反撃の蹴りを放つ。 右からのミドルキック。 ラケシスはその足を取る。 そして、軽く押した。 シャルムは体勢を崩すが、すぐに立て直す。 「チィ!」 シャルムは飛ぶ。 顔面への廻し蹴り。 更にそれを起点にしてからの、左のサマーソルト。 強烈な一撃が命中する。 だが、それでも。 「かゆいわね」 ラケシスは平然としていた。 少し間を置くシャルム。 そのシャルムにラケシスは聞く。 「ねえ、正拳突きって……」 拳を構える。 「……こうやるのかしら?」 そして、撃つ。 強大な気が、放たれる。 その力に跳ね飛ばされ、シャルムは壁に叩きつけられた。 ラケシスはおかしそうに笑う。 「私の方が、武道の才能がありそうね。武道家に転身しようかしら」 そう、冗談を言った。 ポロンとシャルムはよろよろと立ち上がる。 ラケシスはその光景にうれしそうな表情を見せる。 「そうこなきゃ。私、まだ遊び足りないのよ」 |