それは、突然の出来事であった。 レリューコフ軍は、ヘルマン軍左翼を完全に沈黙させた。 敵左翼は投降し、レリューコフ軍左翼とヘルマン軍右翼の戦いが繰り広げられる。 騎兵隊は撤退し、レリューコフ軍右翼はすでに、追撃戦を準備していた。 その時、事態は急転した。 突如、降ってきた幾状もの光はレリューコフ軍中心部を穿つ。 その光による被害、敵味方あわせて百二十。 しかし、悲劇は次の瞬間だった。 高き天から降りてきた天使は、美しい容姿で兵士達を魅了する。 そして、笑った。 「さて、殺しましょうか」 殺劇が始まった。 まず、天使がスッと舞った瞬間、十のレリューコフ軍が消え去った。 天使は、まるで舞踊を踊っているかのように舞う。 しかし、その刃は幾人もの兵士を斬り裂いていった。 一人。 二人。 十人。 百人。 戦況は、途端に一転した。 ヘルマン軍右翼重装部隊は混乱するレリューコフ軍兵士を追いかけまわす。 逃げるものを槍で刺し。 転ぶものを槍で刺し。 謝るものを斬り殺した。 それは、餓鬼の喧嘩のような光景であった。 レリューコフは動揺を隠せない。 まさか、敵軍にこのような隠し玉があるとは夢にも思わなかった。 戦況は、ヘルマン側になびいていた。 レリューコフは叫ぶ。 「全軍、撤退! 怪我人を先行させろ! 怪我を負っていないものは撤退戦準備! 追撃部隊を食い止めろ!」 命令が伝わる。 しかし、状況は混乱を極めその伝令が右翼には伝わり切らない。 右翼に多大な被害が出る。 確かに、レリューコフは優秀な軍人であったが。 その撤退命令は遅すぎた。 ●〜〜〜● アトロポスは手持ちぶたさだった。 少しいじっただけで、あっさりと勝敗は覆る。 人間の戦争というのはなんと、くだらないものだろう。 これでは、ストレスの解消にもならない。 「もう少し、遊びたいわね」 アトロポスは呟く。 そして、思いついたこと。 それは、敵の旗を叩くことである。 アトロポスは、敵の本陣を見出し。 降りていった。 ●〜〜〜● 「ここは危険です! 王子、お逃げください!」 レリューコフが叫ぶが、ポロンは動かない。 「いえ、まだ撤退戦が残っています。追撃部隊を食い止め、一人でもみんなを生きて残さないと!」 「けれども、我々は王子を殺すために旗にしたのではありません!」 「僕は、不覚悟で旗になったのではありません。この戦、最後まで見届けます!」 「ここで、死ぬとおっしゃるのですか?」 「僕が死ぬことで多くの人が助かるなら、それもやむ得ないでしょう」 しかし、ポロンのその言葉にレリューコフが叱責した。 「旗が折れてどうする!」 ポロンがあっけに取られる。 だが、レリューコフは言葉を続けた。 「旗が折れて、どうするのです! 旗は最後まで立ち続けなければならない! 時には誰かの屍骸を乗り越えて! 一国の主となられる方なら、そのぐらいの覚悟を持つべきです! 貴方の命は、貴方だけのものではない、貴方の国のものなのです! 貴方が死ぬときは国が死ぬ時だと考えてください!」 ポロンが呆然とする。 その言葉は、あまりにも胸に突き刺さるものだった。 ポロンは、今まで兄であるピッテンが国を継ぐものだと考えていた。 だから、責任感や使命感を持たずに育った。 けれども、今。 自分の命が、自分だけのものではなくなっていた。 いや、それは違う。 ポロンの命。 それは、パランチョ王国の国王となると決まったときからポロンだけのものではなくなっていたのだ。 レリューコフは頭を下げる。 「一国の長に失礼を申し上げました。けれども、ここは逃げてください」 レリューコフの言葉に。 ポロンは、頷いた。 レリューコフは叫ぶ。 「総員、撤退! ポロン殿下を全力でお護りしろ!」 ポロンは本陣を立ち、背中を見せた。 多くの仲間達の屍骸を背に、逃げた。 (……ごめん) やはり、自分は戦いに向いていない。 ポロンは、そう痛感した。 後退する本陣。 撤退戦は簡単でないが、可能と思われた。 しかし、そこに。 女が現れた。 「何奴!」 レリューコフは剣を抜く。 女、アトロポスは意地悪そうに笑う。 「あら、精悍なおじい様。好きになりそう」 アトロポスは辺りを見回す。 そして、一人の少年に目を向けた。 「ねえ。坊や。誰が本陣で一番偉い人なのか教えてくれない?」 「黙れ。女っ!」 レリューコフは剣を振り上げる。 しかし、アトロポスはつまらなそうに腕を振った。 バンッ! レリューコフがその一撃に吹き飛ばされた。 「あなたに聞いてないわ」 そして、アトロポスはポロンを見下げるとニッコリと笑みを浮かべた。 「あなたが、ポロン=チャオ殿下?」 「……そうだ」 ポロンは、女に圧倒されながらも答える。 「そう」 女は頷き。 一振りの剣を抜いた。 「なら、死んで」 一瞬にして、間合いに入られる。 ポロンは、その速さについていけない。 アトロポスは、剣を振り上げ。 そのまま、縦に一閃した。 ガキッ! 「なっ!」 アトロポスが驚愕する。 ポロンを両断すると思われたその剣筋、それは人間の女に止められていた。 「旗は、折らせないよ」 「チィ!」 ライラは、アトロポスと拮抗したままでポロンに叫んだ。 「ポロンくん、逃げるんだ!」 「でもっ!」 「大丈夫。あたしは簡単にやられないよ」 ライラは、アトロポスの剣を弾き返す。 そして再度。 「さあ!」 そう、促す。 ポロンは、レリューコフを始め、仲間達と共に逃げ出した。 ライラは、バスターソードを構える。 アトロポスは、ライラの立ち姿に向かって嘲笑する。 「あら、人間風情がこのあたしに太刀打ちできると思ってるの?」 しかし、ライラは落ち着いた様子だ。 そして。 口元に微笑。 「来な」 そう呟く。 それは、傭兵時代に戻ったかのようであった。 アトロポスはその様子に苛立ちを隠せない。 「……わかったわ。死にたいというなら殺してあげるわ!」 その一言で、戦いが始まった。 アトロポスは目に見えぬ残像を残し、ライラの間合いに入る。 そして、右左、と打ち込んだ。 けれども、ライラは後ろに下がり、かわす。 「くっ!」 そのまま、上段から一合。 アトロポスは、ライラに剣を重ねていく。 二合。 三合。 四合。 それは、人間には見えぬほどの速さ。 そして、一撃で巨木を斬り裂く太刀筋。 けれども、ライラはその攻撃を的確に捌き、かわしていった。 「人間風情がっ!」 アトロポスが思わず大振りになる。 ライラはその隙をのがさなかった。 ザッ。 腹が薙がれる。 白い粒子が飛び散り、アトロポスは腹に手傷を負った。 アトロポスは、わからなかった。 何が起きたのか。 そして、腹を触り、初めて自分が人間に手傷を負わされたのに気付いた。 その瞬間。 アトロポスの顔色が変わった。 「……メスブタがぁぁぁあああ!」 アトロポスが、手を振りかざす。 そこから、白き閃光が放たれた。 ライラはそれをかわすが、そこにアトロポスの追撃が待っていた。 ライラは、それを弾く。 だが、アトロポスが二つ目の白き閃光を放つ。 ライラは首を動かす。 すると、今まで頭のあったところを閃光が抜けていった。 そして、ライラが初めて攻勢に出た。 剣を振り下ろす。 単純な動き。 しかし、全ての動作はここから始まる。 力では勝てない。 剣の速度や斬撃の数も負けている。 人間であるライラに、アトロポスに勝るものは一つもなかった。 けれども。 ライラはアトロポスを圧倒していた。 激しい斬撃をかわし、深く、強く、断ち切るような一撃を放つ。 アトロポスは、その一撃を明らかに警戒し、手数を減らしていった。 逆に、ライラの手数は徐々に増えていった。 十合、二十合。 斬撃が重なるにつれ、アトロポスは憔悴していく。 人間をはるかに凌駕する存在。 だが、それは一人の人間に敗北しようとしていた。 「チッ!」 アトロポスが、咄嗟に宙に逃げようとする。 しかし、ライラはそれを見逃さなかった。 自分も飛び上がり、蹴り落とす。 「ガッ!」 そのまま、ライラは跳ね上がり、必殺のモーションに入る。 「鳳凰―――」 しかし。 アトロポスは空中で姿勢を整えるとそのままの体勢で白き光線を放つ。 無理な体勢で放たれたものだから、それは肩にかするだけだった。 だが、それはとどめとなるべき攻撃を封じる手となった。 ライラは、そのまま回転して地面に落ちる。 その時、アトロポスはすでに遥か上空に逃げていた。 「猿にも劣る下位種族の人間風情が! この借り、百万倍にして返してやる!」 アトロポスは怪我した腹をおさえて、逃げ出した。 ライラはそれを見て、息を吐く。 「負け惜しみか。みっともない」 前を見ると、すでに敵軍がかなりのところまで迫っていた。 ライラは、状況を判断してすぐに逃げ出した。 ●〜〜〜● しばらくやんでいた喧騒は、急によみがえる。 騒がしくなるルーディンの屋敷。 その一室で、アリサとフィアは様子をうかがっていた。 「戦争、終わったんですかね……」 フィアの言葉にアリサは口ごもったあと。 「そうかもしれない」 と、頷いた。 「どちらが勝ったんでしょう」 「フィア、縁起でもないこと言わないでよ!」 「あ、ごめんなさい」 二人とも、信じていた。 ポロンが勝ったことを。 それが、二人の望みだったから。 けれども、その時。 ラケシスが扉を開いて入ってきた。 「え?」 そのまま、フィアに近づき。 バン、と平手で打った。 アリサが倒れたフィアの元に駆け寄る。 そして、ラケシスを睨んだ。 「何をするのよ!」 アリサの叫びに、しかしラケシスは嫌悪を含んだ視線で刺す。 ラケシスは怒りまかせに、しかし口調を落ち着けて語り出した。 「あたしの姉妹のアトロポスが、あんた達の仲間に傷つけられたわ」 「え?」 「あたし、今、物凄く怒っているのよ。それこそ、誰かにやつあたりしたいぐらい」 ラケシスは、アリサを掴み上げて、軽く押し倒した。 「まあ、いいわ。それを言いに来たんじゃないから」 ラケシスは肩をすくめる。 「あなた達に戦況を教えてあげようと思ってね」 「戦況?」 「ポロンくんは勝ったんですか?」 ラケシスは二人の様子に、おかしそうにクスリ、と笑った。 「負けたわ。反乱軍の大敗」 残酷な響き。 その言葉は、二人を失意のどん底に落とした。 アリサが、震えた声で聞いた。 「……ポロンくんは? ポロンくんは、無事なの?」 「さあね。死んじゃったかもしれないわ。期待しないことね。アハハハッ」 ラケシスはそう言うと。 おかしそうに笑い、去っていった。 そして、取り残されるアリサとフィア。 沈黙が場に流れる。 二人の間に、気まずい雰囲気が宿った。 俯き、失意に震えるフィア。 明らかに落ち込んでいる。 アリサは、フィアの横顔に優しく声をかけた。 「フィア、心配しないで。ポロンくんが負けるわけないじゃない」 しかし、フィアは。 「どうして、言い切れるんですか……」 「……え?」 「どうして、言い切れるんですか? そんなこと!」 「……フィア」 フィアは、アリサを見上げるように言う。 「だって……戦争なんですよ……人が死んじゃう戦争なんですよ……ポロンくんが生きてるだなんて……信じられない!」 「……」 アリサはすこし呆然としたあと。 ニッコリと微笑み。 フィアの肩を抱いた。 「あたしは、信じているよ。ポロンくんが生きてること」 フィアが信じられなそうに聞く。 「……どうして?」 「だって、ポロンくんのこと、好きだから。大好きだから。もちろん、シャルムや、ウインディや、キャロットや、ライラや、エレーンや、アリエッタ、みんな、大好きだけど。けど、だから、あたしは信じられる。ううん、信じてあげようって思う」 「……アリサさん」 「フィアも、みんなが大好きなんでしょ。なら、信じてあげようよ」 「……はい」 アリサが、再び笑った。 けれども、次の質問はアリサの笑みを凍らすものだった。 「でも、ポロンくんへの好きと、みんなへの好き、それって同じものなんですか?」 「え?」 アリサが戸惑う。 その言葉に、深い意味は無いはずだ。 そう、無いはずなのである。 「うん。同じだよ。あえていうなら、シャルムが一番好きかな。親友だし」 「それって、おかしいです」 「どうして?」 「なんか、アリサさん、無理してるように見えます」 「……無理なんてしてないよ。あたし」 「そうですか?」 「そうだよ。あたしはみんな好き。みんなが、同じぐらい好き。大好き。だから、一番なんて選べない」 「さっき、シャルムさんを一番って言ったのに」 「それは……それだから……」 「アリサさん、なんか、ずるい。わざとみんな好きになって、それで自分の中で一番をつくらないように逃げてるように見える。本当は、ちゃんとした一番がいるのに。誰かと争いたくないから。仲良しなのを壊したくないから。みんなに良い顔したいから。だから、みんな好きだ。みんな同じぐらい好きだって言って、争うことから逃げてるように見える」 「違うっ!」 初めて、アリサが声を荒げる。 「違う! そんなことない! あたしは、みんな大好き! だから、傷つけたくないだけ! あたしは、好きとか嫌いで他人を傷つけるようなイヤな子じゃない!」 「それって、ずるいです! 結局、イイ子を演じて他人と争うのから逃げてるだけじゃないですか!」 「なら、フィアはどうなの?」 「え?」 「前から言おうと思ってたけど、フィアはあたし達に一線引いてる。明らかに、あたし達に対する態度とポロンくんに対する態度が違ってる。あたし達には敬語で話すのに、ポロンくんには敬語を使わない。明らかにあたし達に遠慮している。違う?」 「違います! あたしはただ、みんなとは違うから……アリサさん達の家族に乱入した居候だから! だから、あたしは遠慮しなきゃいけないと思って……」 「それが、一番イヤだ! あたし達がフィアを本当の家族だと思って、仲間だと思って、必死に寄っていくのに、フィアはどこかで仲間になることを避けてる! それじゃあ、あたし達はフィアと一生友達になれない!」 「……あたしは……」 互いに見合った二人の確執。 それは、似ているようで。 それは、違うようで。 結局、それは似て非なるものであった。 他人と仲良くしたいという過剰な感情と。 他人に一線をおきたいという強い感情と。 二人は、そんな対するものを同じように持っていたのだ。 仲良しゴッコのしたいだけのアリサ。 いつでもそこから逃げるようにしているフィア。 二人はぜんぜん違うようで。 やはり、似ていた。 「……ごめんなさい」 「……こちらこそ、ごめん」 二人は、同じように謝る。 似ている、二人だから。 「……フィアは、ポロンくんのこと、どう思うの?」 「好きです。大好きです。多分、一番……」 「あたしは……わからない。好きなのか、嫌いなのか。……ううん、好きなんだと思う。でも、他の人に対する好きとはちょっと違う。シャルムが、ウインディやキャロットと話していてもなんとも思わないけど、ポロンくんがシャルムとかと話していると邪魔したくなるんだ。……変かな?」 「変じゃないです。あたしもそうだから。あたしも、ポロンくんと誰かが話してると嫌だし、自分がポロンくんと一番話していたいと思うし、ポロンくんが一番あたしを好きでいて欲しいと思う。そういう感情ってたぶん、誰でも持ってるものであたしもアリサさんもそれでいいんだと思います。そんな自分が嫌になるときもあるだろうけど、それでも、いいと思います」 「……なんか、フィアの方が大人だな」 アリサはため息を吐く。 でも、フィアは自嘲気味に笑って言った。 「あたしも、子供です。だって、あたしだってみんなに……仲良しなみんなに、憧れて、遠目に見ているだけなんですから……」 「……違うよ。仲良しなんかじゃない。そう見えるだけ。フィアは、その中にいなかったから」 「……どういうことですか?」 「昔話になるんだけどね。あたしは昔、少し引きこもりがちな子供で、そんな中で初めてできた友達がシャルムだった。でもそのあと、いろいろあって孤児になって、エレーンと知り合って。当時、シャルムとエレーンは物凄く仲が悪くて……ううん、そんな次元じゃなくてシャルムはエレーンを殺したいぐらいに憎んでた。そのあと、いろいろあってみんなと知り合って。それで、少しずつ仲良くなって。でも、今でも喧嘩はするしお互いのことを嫌だと思ってる部分はある。シャルムはウインディの高飛車な部分を嫌ってる。けど、ウインディがそうなのはエリートだったからで、けっこうそのことにコンプレックス持ってる。ウインディとキャロットが仲良いのはキャロットの昔のことをウインディが良く知ってるから。キャロットはもっと暗い女の子だった。エレーンは一番しっかりしてるけどそれでも無理してると思う。だから、ライラはそれを気遣うようにいつもそばにいる。ポロンくんはそんなみんなの活性剤になっている部分が強いと思う。同じ場所に住んでいた人間が一緒に過すなら遠慮も何もいらないんだろうけど、違う場所で生まれて育った人間が同じ場所で過すんだから、そこにはいろいろな感情が生まれるのは普通だよ。でも、それを認めて一緒に過すのが家族、そして仲間だと思う」 「でも、自信ないです。みんなの場所にあたしが入るなんて。それって、みんなの仲良しの場所を崩すようなことじゃないですか」 「うん。かもしれない。でも、みんなは、少なくともあたしの知っているみんなは、独りぼっちの子を放っておくようなことはしないから。ゼスの奴隷制から逃げ出してきたライラを助けたのもエレーンだし、姿を変えられたポロンくんだってあっさりと受け入れてくれた。だから、フィアも仲間に入れるよ」 フィアはアリサを見上げる。 「あたしも……仲間に入っていいんですか?」 アリサはニッコリと微笑み。 「うん」 と、頷いた。 フィアはしばらく呆然としたあと。 崩れた泣き顔のように、微笑んだ。 「とりあえず、まずは敬語を直さないとね。フィア」 「はい。アリサさん」 「呼び付けでいいよ」 「はい。えーと、アリサ……」 「上出来」 「でも……なら、アリサさん……アリサも、直さないと……」 「直した方が……いいかな?」 「そう思う」 「わかった。これからは、遠慮しない。もう、そういう気持ち、認める。だから……同盟を組もう」 「恋愛、同盟?」 「それは……どうだろう?」 「なら、なんて名前にする?」 「……うん」 二人は少し思案し。 その二人だけの約束の名前を考える。 そして、同時に。 口をそろえて言った。 『ぱにょーん同盟!』 ●〜〜〜● 少し、昔のことだった。 ピッテンが、パランチョ王国将軍に就任した日。 ポロンは、宴の席でピッテンに言った。 「兄さんはすごいや。この国の将軍にまでなっちゃうなんて」 「なに。大したことではない。人には向き、不向き、そして生まれつきの才がある。俺はたまたま、将軍としての器を持っていただけだ。お前にはお前の才能がある。お前にしかできないことがあるはずだ」 「そうかな?」 「そうだ。自信を持て。お前に足りないのはそれだ」 「……でも、兄さんは本当にすごいよ。僕はとてもじゃないが勝てないや」 「お前は、またそれだな」 ピッテンは嘆息する。 ポロンは、少し興奮気味に聞いた。 「でも、兄さん。これからは国を背負って戦争するんでしょう? すごいな」 「戦争はしないさ。ただ、軍備を整え他国の侵略に備えるだけだ」 「でも、戦争が起きたら戦うんでしょ。すごいな」 「……」 「僕も、戦いたいな。剣を持って。悪いヤツラと。カッコよく」 「……」 「あーあ。僕も将軍になりたいな」 「……ポロン」 ピッテンが鋭い視線でポロンを見下げ、聞いた。 ポロンは答える。 「何?」 「お前は、戦いに勝つために、恋人に死ね、と言えるか?」 「え?」 「どうなんだ?」 「……言えないよ。好きな人に、そんなこと」 「なら、お前は戦いに向いていない。戦争は俺に任せろ」 ピッテンはそう言い、背中を見せる。 その背中に、ポロンは聞いた。 「兄さんは、戦争に勝つために好きな人に、死ねって言えるの?」 ピッテンは顔を振り返らずに。 あっさりと、答えた。 「言えるさ」 ●〜〜〜● あの時から、わかっていた。 僕が、戦争に向いていないことを。 あの戦いで僕にできることは。 ただ、見ていることだけだった。 「……」 ポロンは、私室のベットに座り苦悩する。 あれから、紛争は終わった。 レリューコフ革命軍の被害は多かったものの、撤退戦には勝利した。 被害はほぼ、イーブン。 レリューコフ軍がやや、敗北している。 しかし、それ以上に。 戦いの疲れによる反動が大きかった。 「……甘く見てた」 ポロンは呟く。 戦争は、もっと簡単なものだと思っていた。 しかし、実際には違った。 何が違うかは言い切ることはできない。 だが、想像していた戦争よりもっと泥臭いものだった。 「……辛いな」 ポロンは呟く。 そして、窓から外を見た。 すると、表ではライラが革命軍の仲間と共に何かの作業をしていた。 頭がさえない時は、身体を動かすのがいいだろう。 ポロンは、ライラのところに降りていくことにした。 ●〜〜〜● 部屋から出ると、そこにはシャルムが待っていた。 「……シャルム」 シャルムはポロンを見ると襟首をつかみ。 扉のところに叩きつけた。 「シャルム?」 「……いつ、助けに行くんだよ?」 「え?」 「いつ、アリサ達を助けに行くんだよ!」 「……それは」 「もう、十日だ! とっくに助け出しに行ってもいい頃だろ!」 「……そうだけど」 「なんで、こんなところでグダグタしてんだよ!」 「……」 シャルムはそこで、手を離す。 解放されたポロンは、呆気に取られていた。 そして、謝る。 「ごめん」 「……別にいいよ。ポロンくんのせいじゃないから」 「でも、僕は」 「……心配なんだ」 「え?」 「アリサが……」 シャルムはそのまま、背を見せる。 「部屋に戻るから。ゴメン」 ポロンは、シャルムの背を追えなかった。 ●〜〜〜● 裏庭に向かう前に向かう場所があった。 それは、ウインディの私室である。 ウインディは、あの戦闘以来、情緒不安定で寝込んでいた。 だから、ポロンはウインディを励ますために私室に向かっていた。 私室の前。 そこで、キャロットに出会う。 「……キャロット」 ポロンは、キャロットに微笑む。 しかし、対してキャロットは怒りの視線をポロンに向ける。 「……キャロット?」 ポロンを睨みつけるキャロット。 ポロンは、その視線の意味が分からなかった。 沈黙。 ポロンは、それを打ち破るように声をかける。 「あの……キャロット……」 「ポロンくん」 「何?」 キャロットが聞いた。 「あの、作戦を考えたの、ポロンくんなの?」 「あの作戦?」 「……魔法で、ヘルマン軍を威嚇するっていう作戦」 ポロンは黙る。 確かに、あの作戦を考えたのはポロンだった。 ポロンは、静かに頷いた。 「うん。そうだよ。あの作戦を考えたのは僕だ」 「……そう」 ポロンは、キャロットに聞き返す。 「ウインディの具合はどうなの? 元気?」 「今、寝てる。かなり憔悴しているみたい。まだ、療養が必要だと思う。多分……長引くと思う」 「そんなに、魔力の消費、激しかったんだ……」 「違うっ!」 キャロットが声を荒げる。 「違うっ! 魔力なんてとっくに回復してる! 肝心なのは精神のほう! 精神が、ボロボロになってるの!」 「え?」 「当然だよ。人を、たくさん殺したんだから。ウインディにそんなこと、耐えられるはずが無いんだから」 「……」 「あの子、強がってるけど本当はすごく弱いの! ポロンくんだって長い付き合いなんだしわかるでしょ!」 「……うん」 「なら、どうしてあんなこと頼んだの? ウインディが断るはず無いじゃない! ウインディが弱音を吐くわけないじゃない!」 「……ごめん」 キャロットがポロンを睨みつけた。 「ポロンくん、友達にこんなことを頼める人間だったんだ……」 「……」 「なら、あたし達は、もうポロンくんと旅を続けていけないと思う」 キャロットはそう言い、去っていった。 ポロンは、あそこまで言われてウインディの部屋に入ることができなかった。 ポロンの安易な思慮の責任なのだから。 無知は罪。 愚者は罪。 その罪に、ポロンは耐えられなかった。 ●〜〜〜● アジトを、一階に降りて裏庭にわたる。 そこでは、ライラが大勢の青年と共に何かをしていた。 それは、穴掘りだった。 なぜ、こんなところに穴を掘る必要があるのだろう。 ポロンはわからなかったが、とりあえずライラに声をかけた。 「ライラ、手伝うよ」 ライラが、ポロンの方を向く。 その言葉の意味に気付くと、首を振り。 「やめておいた方が良い」 そう、言った。 けれども、ポロンは食い下がる。 「みんなが何かしているときに、僕だけ何もしていないのはいやなんだ。だから手伝わせてよ」 「わかった」 そう言うと、ライラはポロンを少し離れた場所に案内する。 そこに見えたのは、巨大な山だった。 近づくにつれ、なにかの腐臭がするようになる。 そして、そこに着いた。 ライラは、その山の中から人を抱きかかえ、地面に運ぶ。 そして、その人の胸に腕を回し、ポロンに言った。 「ポロンくん、足、掴んで」 「……え?」 「どうしたの?」 「でも……」 「手伝うんじゃないの?」 「……わかった」 ポロンは、死体の足を掴んで、持ち上げた。 そして、その死体を運び、先ほどの穴に投げ入れた。 ライラは、泥も落とさないで言った。 「まだ、あるから」 ポロンは、吐き気をこらえながら作業を手伝った。 ●〜〜〜● ポロンは、もはや何も話すことができなかった。 今日は、昼食と夕食も喉を通らないかもしれない。 それほど、胃がムカムカして吐きそうだった。 けれども、その時。 「昼食は、残さないでね」 横を歩いていたライラが言う。 「ポロンくんや前線の兵士への配給は特別多くしてあるから」 「……でも、食べられそうも無い」 「ヘルマンは食糧事情が悪いの。戦わない子供や女へは一食しか配給されていないわ」 「え?」 「食わせるから戦え、そういうことよ」 「……」 「優遇されてるのよ。あたし達は」 「……そうなんだ」 ポロンが呟く。 そこに、アリエッタが駆け寄ってきた。 「ポロンくんにょ!」 「アリエッタ」 遠目にエレーンが見える。 何人もの少年や少女を相手に遊んでいるようだ。 アリエッタがポロンの胸に飛び込んでくる。 ポロンは、アリエッタの頭をなぜた。 その時。 「臭いにょ。ポロンくん」 「あ……」 ポロンは、先ほどまで死体処理の手伝いをしていたことを思い出した。 「ゴメン」 「ポロンくん、元気ないにょ」 「そうかな?」 「元気出すにょ」 「アハハ」 力なく笑う。 しかし、今はアリエッタの励ましもありがたかった。 ポロンは聞く。 「アリエッタ、何をしていたの?」 「遊んでたにょ」 「誰と?」 「ここに来てできた友達にょ」 すると、アリエッタの友達らしき子がやってきた。 「こんにちは」 少年が元気よく挨拶する。 ポロンも、ニッコリと笑って少年に挨拶を返した。 「こんにち……」 そこで言葉がとまる。 少年は片足がなかった。 変わりに、松葉杖をついていた。 「……どうしました?」 少年が聞く。 ポロンは、ひきつった笑顔でうろたえながらも笑い返した。 「ううん。なんでもない。アリエッタをよろしく」 「はい」 「行くにょ」 アリエッタはそう言うと、再び少年達と遊び始めた。 そこには、手の無い子や足の先が無い子などが多くいた。 「ヘルマン兵にやられたんだって」 隣を見る。 そこには、エレーンがいた。 「ヘルマン兵にやられたのよ。遊び半分で」 「……」 「レリューコフ将軍の時代から、こういうことはあったみたいよ」 「え?」 「酷いわよね」 エレーンはそこまで言うとニッコリと笑う。 「それじゃあ、あたしはあの子達の面倒を見ているから」 そこまで言って去っていった。 ポロンが絶句している横でライラが呟く。 「これが軍国主義の一面だよ。見ておくといい」 そこに、革命軍の若者がやってくる。 「ライラさん。あの……実は……」 ライラは、その男と面識があるらしく、用件を理解して頷く。 「わかったわ」 「それと……そちらの方はもしかして」 「ええ。ポロン=チャオ殿下」 青年が深々と頭を下げる。 ポロンはニコリと笑い言う。 「いいですよ。頭を上げてください」 「はい」 そこで、青年が聞いた。 「それで、もしよろしければ……」 「ポロンくん、どうする?」 「どうするって?」 「死ぬ前に、ポロンくんの顔を見たい兵士がいるんだけど。会ってやるかってこと」 ●〜〜〜● すでに、その少年は療養施設から出され、地面に横たわっていた。 ポロンとライラ、二人が近づくと少年は破顔する。 「ポロン殿下! お会いできて光栄です!」 少年は元気そうだった。 腹が裂け、腸が破けていることをのぞけば。 腸が破ければ致命傷で、助かりようがない。 すでに、死相が現れていた。 栗色の髪で、運動より勉強の方が得意そうなタイプだった。 奥手な様子で、勤勉な雰囲気の青年だった。 歳は、十四か、十五。 これからが成長期、といった様子の青年だった。 青年はニコヤカに笑う。 「殿下。僕、頑張りました。敵兵を二人も倒しました。槍で、やられましたけど」 「誇りに思っていいよ。坊やは、解放軍の為に戦った英雄だ」 「そうかな。アハハ。照れるな」 ライラが、代わりに答えてくれる。 なぜなら、ポロンは言葉が出なかったからだ。 そう、気付くと泣いていた。 決して泣かないと考えていた。 けれども、涙は止まらず、手で押さえても嗚咽はやまなかった。 無性に悲しかった。 「殿下? 泣いてくれるんですか? 僕の為に。泣き止んでください。殿下が泣くなんてもったいないです」 「……ゴメン」 「謝らないでください。僕は、祖国解放の為に戦っただけなんですから。誉めてください」 「……ゴメン」 ライラに肘で叩かれる。 ポロンは感情を抑え。 涙を拭き。 青年を見つめた。 「……君は立派だった。自由と解放の為に精一杯戦った勇者だ。君の名前は?」 「クリス=ウォーレス」 「クリス、君の名前は忘れない。今日から、友達だ」 ポロンは、腰をかがめて手を差し出した。 クリスは少し照れる。 「うれしいな。パランチョ王国の王子様と友達になれるなんて。母さんに自慢できる」 「……自慢していいよ。僕も、兄に君と友達になれたことを自慢するから」 「はい。あと、母にこれを」 クリスが渡したもの。 それは、ダイヤの指輪だった。 「これがあれば、あと半年は食事に困らないはずだから。母に渡してください」 「……うん。必ず渡す」 「ありがとうございます。殿下の為に戦えてよかったです」 クリスが目を閉じる。 そして、胸に手を置いた。 クリスの目から、初めて涙がこぼれる。 死にたくないのだ。 死ぬのが怖いのだ。 だから、泣いた。 「母さん。レリューコフ様。ポロン王子……」 ライラが、剣を抜いた。 ポロンは、すでにライラが何のために呼ばれたのかわかっていた。 ライラは、この三日間、ずっとこんなことをしていたのだ。 ポロンや仲間に何も言わず。 ザ。 ライラは、クリスの首をはねた。 ポロンが、再び顔を抑える。 駄目だった。 耐えられなかった。 ポロンは、一人の青年の為に泣いた。 声がかれるまで、泣いた。 ●〜〜〜● 「初めて、死体の処理をしたのは十ニの頃だった」 ライラが、呟くように言う。 「いや、もっと前かもしれない。あたしは、十の頃にフェル=ラミアスという傭兵と旅だって、各地の紛争地帯を回っていた。自由都市の紛争にも参加した。あたしみたいな子供は戦争に参加できなくて、やることは怪我人の手当てや死体の処理だった」 「……」 「初めて、人を介錯したのは十六の時だった。やっと、人を苦しまずに殺せる技術を身につけて任された仕事だった。初めて仲間を殺した時は吐いた。そのあと、食事がのどを通らなかったけど、戦う為にむりやり水で飲み込んだ」 「……」 「あたしは、エレーン達と出会うまで傭兵だったから、上の人間が何を考えてるかはわからない。でも、下の人間の為に泣く奴ははじめて見た」 「……」 「上でいるなら、下の人間の為に泣くべきじゃない。一人の為に泣いている間に三人は殺される。冷徹でいるべきだ。でも、下でいるのなら優しくあり続けるべきだと思う」 「……」 「聞きたいんだけど、ポロンくんは国王になりたいの? それとも、このままパランチョに戻らずに旅を続けたいの?」 「……」 答えられなかった。 いろいろ、自責してしまう。 その怒りと哀しみは、別のところに昇華される。 自分を勝手に国王にした兄。 国王になんてなる気はない。 そう、なる気はないのだ。 だから…… ライラが、ため息を吐く。 「考える時間はいくらでもある。まだ、冒険は続くんだから。でも、いつかは決着をつけなければいけない問題よ。このまま、冒険者になるのも良し。ピッテン殿下に王位を継がせるのも良し。ピッテン殿下なら本気でポロンくんが断れば、王位を継いでくれるでしょうね」 「……」 「じゃあ、行くから」 ライラが背を向ける。 ポロンは、咄嗟に訊ねた。 「ねえ!」 ライラが振り返る。 「何?」 「僕が、国王になったら僕等はどうなるんだろう?」 「……あたしは、パランチョ王国軍に志願しようと思ってる。今の腕ならピッテン殿下がかってくれると思うし。他のみんなはわからない。でも、覚悟はするべきだと思うわ」 「……そう」 「他に?」 「……君が、パランチョの兵士になるなら、君は……ライラは、僕の為に、僕の名前を叫んで死ぬの?」 ライラは少し黙ったあと。 静かに、頷いた。 そして、背中を見せて去っていく。 それは、あの日、ピッテンの見せた背中のようだった。 ●〜〜〜● 翌日、ポロンはレリューコフに呼ばれる。 すでにその場には、レリューコフとライラがいた。 他にも、大勢の軍団長が顔を揃えていた。 「遅れてすいません」 「お気になさるな。ポロン殿下。さて、話し合いを始めようか」 他の人が遅れたなら怒られるんだろうな、と思いつつもポロンは席に着く。 レリューコフの隣だ。 レリューコフが言葉をはなつ。 「さて、それでは会議を始めよう。この前の大戦。我が軍の被害状況は第一歩兵部隊、損害百二十七、第二歩兵部隊、損害二百八十四、そして……第三歩兵部隊、損害六百八」 第三歩兵部隊は右翼を担当していた。 あの大戦で完全に主力と離されて一気に殲滅させられた。 その被害状況は二五パーセント以上だった。 総被害率、二十パーセント強。 大敗といってよいだろう。 「次に、敵軍被害状況。これはあくまで予測だが、第一騎兵部隊は開戦からしばらくして戦線を離脱。第二騎兵部隊と代に重装歩兵部隊も開戦からすぐに投降したが、あの……忌まわしき天使の仕業で戦線を離脱。捕虜できたものはいなかった。比較的初期から敵重装歩兵に大体的被害を与えたものの、被害率は敵のほうが低いだろう。おそらく、三百から四百といったところか。予想損害率は二十パーセント程度。ほぼ、同程度の被害数だ。実質、戦況に変化は無いといっても良い。ルーディンが己の失脚と共に中央政府に助力を求むならとにかく、それは無いと言ってよいだろう」 そこで、咳払いして話を続ける。 「さて。これで自信を持って欲しいのは、我々革命軍は総合的には正規軍とまともな勝負ができているということだ。これは自信をもってよい。我々は正規軍とほぼ、互角な勝負をしている。この戦争に勝機有り」 歓声が、場にあがる。 しかし、一部の人間、ライラなどは喜びを表していなかった。 脅威が残っているからだ。 「さて、しかし問題がある。確かに我々と敵現状戦力は互角といってよいだろう。だが、逆に。ルーディンには切り札がある。あの天使だ」 再び、場が騒然とする。 しかし今度は、歓声ではなく恐怖だ。 特に、あの天使の恐ろしさを垣間見た第一部隊、第三部隊の前線指揮官は恐怖をあらわにしている。 「そう。あの天使である。密偵の報告によるとルーディン=グランバーグは常にあの天使を三人、身の回りにはべらせていて片時も離れない。もし、あの天使が再び場に現れるなら我々に勝機は無いだろう。一人であの脅威、三人いればたちまち戦況が覆る」 沈黙する一同。 レリューコフは反乱軍の将として事実を語っているだけだ。 「だが、打開策もある。この中に、あの天使を相手に互角以上の戦いをした人間がいる」 ライラが前に出る。 ポロンは、驚いた。 あの戦いを見ていないポロンは、ライラがあの殺戮の天使と互角に戦えたとは信じられなかった。 「彼女はあの天使と互角以上の戦いを繰り広げた。その彼女からあの天使打倒への打開策を聞きたい。ライラ殿」 ライラが言う。 「正直なところ、ありません。あれは、人が相手にするには強すぎます」 明らかに、動揺が感じられた。 しかし、ライラは言葉を続ける。 「落ち着いてください、といっても無理でしょう。あの天使達は殺戮兵器のようなものです。虐殺を得意としている。だから、並の人間ならたとえ束になっても敵いません」 レリューコフが口を挟む。 「ランス王配下でリーザス軍として戦ったとき、エンジェルナイトというのを相手にした覚えがある。あの時も同じだった。たった十の天使に、我が重装部隊が全滅させられた」 「ええ。あの戦争には少ししか参加しなかったので詳しい話はわかりませんが、今回刃をまじえて、敵の強さがわかりました」 「対策などはないのか?」 「まず、地上に下ろすこと。空中に逃げられたら終わりです。特に、魔法が使えない人間は。ホワイトレーザーで狙い撃ちされるでしょう。そうしたなら、屈強な戦士も檻の中のライオンです」 「しかし、相手が空中にいる以上、こちらからは手の出しようが無い」 「空中以外を戦闘の舞台にするのです。例えば、どこかの屋敷の中とか。彼女達との戦いに平原などはもっとも不適格でしょう」 「屋敷か……ならば、少数精鋭になってしまうが」 「それでいいと思います。敵は実力の無いものを相手に実力を発揮するタイプ。並みの剣士なら足をひっぱられるだけです」 「確かに……ワシは、あの者の動きが見えなかった。剣を取った瞬間、一瞬で間合いに入られ、叩きのめされた。しかし、ライラ殿はまともに剣をまじえられた。なにか、秘訣でも?」 「センスを磨くには場数をこなすしかありません。あたしだって攻撃が見えてたわけじゃないし、ただ、相手の動きがわかったから。もし、数ヶ月前に相手にしていたならあたしでも一瞬で切り伏せられていたでしょう」 「ふむ……」 レリューコフが息を吐く。 「結局、あれを人の身で相手にするには分が悪すぎるということか。しかし、我々の目的はあれを倒すことではない。戦争に勝つことだ。結局、ルーディンとの交戦中に奴等を足止めしておけばことは足りるのだが、それほどの戦士は……ライラ殿」 「うん。かまわないよ。どのみち、そのつもりだったし」 ポロンが叫ぶ。 「ライラッ!」 しかし、ライラは逆にニコッと笑う。 「心配しないでいいさ。あたしは死なない。ポロン王子様のお守りが終わってないからね」 「……」 ポロンが心配そうな視線でライラを見つめる中、レリューコフが再び口を開く。 「結局、少数精鋭ということだ。現時刻をもってライラ殿を対天使戦への隊長とする。他に、我が軍であの天使と戦えるものを選抜したいのだが……」 レリューコフの言葉に。 しかし、誰も手をあげなかった。 当然である。 あの天使は、人が相手にできる強さではない。 戦うということ。 つまりは、死ぬということである。 レリューコフは息を吐いた。 「まあ。居ぬな。この部隊にライラ殿と並ぶ剣士は存在しない」 ヒゲをさすり。 「それでは、どうするか……」 と、思案にふけっていると。 扉が開いた。 そこには、三人の娘がいた。 「話は聞かせてもらったわよ」 ウインディが、ピッとかっこよく復活サインを出す。 「ここはこのあたし、天才魔術師のウインディ様が必要なようね」 「ウインディ!」 ウインディはポロンに近づくと。 グイ、と頭を押した。 「ごめんね、ポロンくん。あのバカ娘がポロンくんにポケポケなこと言ったみたいで。ほら、キャロット、謝りなさいよ」 キャロットが歩いてくる。 しかし、ポロンの前に来て、視線を合わせようとしない。 「……」 「……ゴメン」 先に謝ったのはポロンだった。 ポロンは、自分が悪いと思っていた。 何の考えもなしにあんなことをさせてしまったのは自分だし。 結局、仲間のことを何一つ考えていない人間だったのだ。 でも、キャロットはバツが悪そうに見上げると。 「……いいよ。こちらこそごめんなさい。言い過ぎた」 「良かった。許してもらえないと思った」 「こっちも」 二人は、笑いあう。 そのホンワカムードに、ウインディが怒った。 「そうじゃないでしょ! コラァ!」 ポロン達は気付いたようにウインディに視線を戻した。 そして、バツが悪そうに笑う。 続いて、シャルムが言った。 「あたしも、行くよ。正直、頭にきてるんだ。あいつらには。あたしの親友や仲間をさらったあいつを。だから、あたしは行くよ。誰が止めても。アリサとフィアを助けに」 ウインディがそんな三人を代表してニッコリと笑った。 「まあ、そういうことだから。ライラ隊長、よろしくね」 ライラが顎に手を乗せて、考える。 「確かに、シャルムは格闘家として強くなってるし、ウインディやキャロットも物凄く役に立つ。いい人選かもしれないね」 「でも! あぶないよっ!」 ポロンの言葉に、ウインディは首を振る。 「別に、そんなの承知してるわよ」 キャロットもニッコリと微笑む。 「仲間を助けるためだもん」 シャルムもキッパリと言った。 「とめても無駄だぜ」 ポロンは、ライラに助け舟を出した。 ライラは言った。 「あんた達。この仕事は正直、あんた達には荷が重過ぎる。だから、やめておいた方がいい。生きて帰れるかわからない……というより、生きて帰れない可能性のほうが高いだろう。それでも、行くのかい?」 三人は、迷わず頷いた。 ライラは肩をすくめる。 「どうやら、とめても無駄みたいね。この子達、蹴り飛ばしてもついていくよ」 「……わかった」 レリューコフが言う。 「では、作戦の概要は決まった。詳細な打ち合わせは後日にする。以後、この作戦をアークグラード解放作戦と名付ける。皆、勝利の為に全力を尽くそうぞ!」 その場のものが全員、声をあげた。 作戦決行は、二週間後に決定した。 |