青い空。 白い雲。 そして、陽気な仲間たち。 そう、ここは自由都市の火星。 ポロンたち一行は、今、火星にあるぷららららんビーチに訪れていた。 ●〜〜〜● 青いビーチパラソルの下に、ビーチソファーに寝転んでいる水着姿の少年がいた。 髪は栗色のショートで、顔立ちは童顔。 細身だが体つきはしなやかでスマートである。 その傍を、二人連れの女が通る。 女の片割れはその少年を見て、言った。 「ねえ、あの子、かっこよくない?」 「うん、いいかも。声かけてみる?」 「そうしようか?」 女たちは、互いに頷きあって少年に声をかけようとする。 しかし。 「だーれだ?」 少年に後ろから声をかけてくる女性がいた。 ウエーブのかかった金髪を後ろで縛り、スタイルの良い長身に暖色の緑色をしたワンピースが似合っている。 百人が百人、美人と言うだろう、美しい女性であった。 女たちは瞬時に。 (……負けた!) そう確信して、立ち去ってしまった。 ポロンは振り返る。 「エレーン」 「はろー」 「もう、みんな、着替えは終わったの?」 「ううん、まだもたもたしているみたい。あたしみたいに、私服の下に着てくればいいのにね」 「それはおばさん……いや、なんでもない」 ポロンは、エレーンの視線が怖かったのでそれ以上いうのをやめた。 そこに。 「あ、来たみたい」 ポロンはエレーンの指差すほうを見る。 そこには。 「はよーん」 と、手を振るアリサの姿。 白のタンキニがあまりにも似合っていたので、ポロンは見とれてしまう。 キャロットは青のラインが入った文字入りの白ビキニ。 ウインディはスクール水着のような紺のワンピースである。すこし、マニアックかも。頭には、大きな麦藁帽子。 「ポロンくん、こっちにくるにょ」 腕をひっぱるのは、アリエッタ。 オレンジの腿の部分がフリルになったビキニで、胸にはひまわりのワンポイントアクセ。 ポロンは、十年後に期待かな、なんて思いつつも立ち上がる。 その傍に、緑色の髪の少女。 フィアである。 フィアは髪と同じ緑色のタンキニを着ているのだが、その上にフードつきのシャツを着込んでしまっている。 「泳がないの?」 ポロンが聞くとフィアはうん、と頷いた。 「あれ、シャルムとライラは?」 そう言い、ポロンは辺りを見回す。 すると、そこにライラが現れる。 ライラは露出度の高いみどり色のストラップレスのビキニに、いつもの皮のベストを羽織っていた。 サングラスがやたらと合っている。 「似合うね、ライラ」 「ありがと。でも、真打ちはこっちだよ」 そう言い、ライラは腕をひっぱる。 その先にいたのは。 褐色の肌。 長い紫の髪。 それと相対するような暖色の白ビキニ。 スタイルは良く、手足はスラリとした、美麗な容姿の女性だった。 その女性は少し照れながらポロンの方を除き見る。 ポロンの方はというと、思わず、顔を赤らめてしまうのである。 ポロンは聞いた。 「あの……その子は?」 ライラはしばらく呆気に取られるが、すぐにぷっと吹き出す。 それにつられ、他のみんなも笑い始める。 ひとり、その意味がわからないポロン。 そこに、ウインディが耳打ちする。 「シャルムよ」 「え!」 ポロンは思わずその褐色の女性を見回す。 それは、確かにいつもと雰囲気は違うが、髪をほどいたシャルムであった。 シャルムは、ポロンを軽く睨んで言う。 「……そんなに、ジロジロ見ないで」 「あ、ごめん」 「惚れ直しちゃった?」 ウインディがにやりと笑いながらポロンに耳打ち。 ポロンは頬をかきながら顔を真っ赤に染めた、 「さてっ!」 ウインディは、にっこり笑って腕を振り上げる。 「それじゃあ、みんな、海にくりだしましょうか!」 『おーっ!』 みんな、一斉に声をあげて、青い海原に駆け出した。 ●〜〜〜● 静かに波打つ波間にいるのは、ビーチボールをしているアリサたち。 チームはキャロット&シャルムチームと、ウインディ&アリサチーム。 初めは、赤くなっていたシャルムも次第に自分の格好になれはじめ、四人は楽しげにビーチで遊んでいた。 一方、ライラとエレーンはアリエッタを連れて近くにある海の家でくつろいできた。 エレーンは言う。 「ライラ、スイカ食べる?」 「うん」 そう返事をして、ジュースを一口。 「ライラは泳がないのかしら?」 「うん。でも、もう少ししたら少し遊ぶかも」 「そう」 「エレーンは?」 「あたしは、遠慮しておくわ。あの子たちについていけそうもないから」 「歳だからね」 バキッ。 スイカがはじける。 「何か言った?」 「いや……スイカ、切らなくてすんだね……」 すこし、たじろぐライラ。 「それより、知ってるかしら?」 「何?」 「これ」 エレーンは一枚の紙を手渡した。 ライラは、その紙に目を通す。 「……ふーん。ミス火星コンテストね」 興味なさげに呟くライラ。 エレーンは、スイカをアリエッタに渡し、ライラに言った。 「あたし、出てみようと思ってるんだけど」 「これ、年齢制限、十八歳までだよ」 「大丈夫。あたし、十八歳だから」 「……そう」 突っ込むと、今度は自分の頭がスイカになるかもしれない、ライラはあえて何も言わない。 「ねえ、ライラは出てみない」 「あたしはいいよ。こういうの、興味ないし」 「そう。ライラなら、いい線いくと思うんだけど」 「あとで、ビーチボール組を誘ってみるよ。あいつらなら乗り気になるだろうし」 「そうね」 「はーい」 二人は、声のした方を振り向く。 アリエッタはにっこり笑って、言った。 「アリエッタも、でるにょ」 二人は黙って目を合わせる。 エレーンはライラに聞いた。 「これ、下の年齢制限は?」 「……書いてない」 ●〜〜〜● 一方、ポロンはというと。 パラソルの下で寝そべり、くつろいでいた。 「ふう」 いっちょ前にサングラスなんかをかけている。 「王国にいたときは、自由に海なんかにいけなかったからな。こうやって、潮風を浴びながらのんびりしていると、ホント、心も体も開放的になるよ」 自然と、最近覚えた流行歌を口ずさんでしまう。 「まっかに燃えた太陽だから〜♪ 真夏の海は恋の季節なの〜♪ 渚をはしるふたりの髪に〜♪ せつなくなびく甘い潮風よ〜♪」 訂正。 すこし、流行から外れているかもしれない。 そこに。 「こんにちは」 ポロンの目の前には、長い緑色の髪。 フィアである。 フィアは、ポロンのサングラスを取って、自分にかけた。 ポロンは、起き上がってフィアに聞いた。 「フィア、やっぱり泳がないの?」 「うん」 「どうして?」 「……泳げないの」 「え?」 「意外?」 「あ、うん」 泳げないことは、別にそれほど意外なことではない。 ただ、初めて会ったときに水浴びしていたので、泳ぎは得意かな、などという先入観があったのは事実なのだが…… 「ふーん」 「ポロンくんは?」 「僕は泳げるよ。国で一通りのことは教わったから」 「そうなんだ」 フィアはにっこり笑う。 「ポロンくんはすごいね。何でもできて。運動神経いいし、賢いし」 「僕なんて、まだまだだよ。もっとすごい人はたくさんいるし。本当は、兄さんが国を継いでくれればいいって考えてるぐらいなんだから」 「どうして?」 「自信、無いんだ。国王になる自信が。兄さんは僕の方がいいって言うけど、僕は、兄さんのように統率力のある人が国を継いだほうが、みんなのためだって思うんだ」 「そう」 「……本当に僕が国王でいいのかな」 「いいと思うよ」 「……フィア」 フィアは、海辺の方を向いたまま、呟くように言う。 「その方がいいと思うよ。何より先に、『みんなのため』っていう言葉が出る人。そういう人のほうが、みんなを幸せにできると思うから」 「……でも、自信ない」 弱気虫の出番らしい。 (もともと、僕は強気な方ではないけど、こんな自分には重荷だよ。本当は、兄さんが国を継げばいいんだ。昔から、そうなると思っていたし、急に『お前の方が相応しい』なんて、無責任にもほどがあるよ) 世の中には、女目当てで国王になったやつや、近親相姦しまくる国王や、男狂いしている女王や、放浪して国をほったらかしている国王までいるのに、今時、そのような考えはめずらしい。 ポロンの兄、ピッテンは、もしかしたらそのような現実を知っているからこそ、あえてポロンのような人物を国王にして、そのようなおかしい世界を見せるために、ぱらんちょから出奔させたのかもしれない。 まあ、そんなことはどうでもいいが。 フィアは、ポロンの弱気虫に少し困る。 そこに。 ちょんちょんと、腕をつかむ感触を感じ、ポロンは振り向いた。 そこには、ポロンを見上げるアリエッタの姿がある。 「なに?」 ポロンが聞くと、アリエッタはこう答えた。 「ポロンくん、フィアに水泳を教えるにょ」 ポロンとフィアの口から、「え」という言葉が同時に漏れた。 ●〜〜〜● (なんで、こんなことになっちゃったんだろう) 岩肌に隠れたビーチの波間。 フィアは、シャツを脱ぎ、水着になった。 傍には、なぜか怒った顔のアリエッタがひかえている。 ポロンは、アリエッタの怒っている理由がわからなかった。 「準備、できたよ」 「あ、うん。こっちも大丈夫」 フィアが言うので、ポロンは返事をした。 しばらく、沈黙が場を覆う。 ポロンは、もう何がどうすればいいのか全然わからない。 とりあえず。 「それじゃあ、海に入ろうか」 「わかった」 フィアは頷く。 沈黙。 ポロンは、聞いた。 「あの、フィア?」 「え?」 「海に、入ろうよ」 「うん」 「……」 「……」 「もしかして、フィアって海、駄目?」 「……うん」 恥ずかしげに頷くフィア。 「湖とかの、浅いところなら平気なんだけど、海って急に深くなるから……なんだか怖くて」 「こわがらなくてもいいよ。浅瀬だから」 「うん」 また、沈黙。 (……参ったな) ポロンは、そう思いながら頭をかく。 すると、ついにアリエッタがむっと怒り顔で動き始めた。 「来るにょ」 「え?」 いきなり、フィアの腕をつかみひっぱった。 「ちょ、ちょっと!」 フィアの静止も聞かず、アリエッタはずんずんと進む。 そして、フィアを海に引きずり込んだ。 「きゃっ!」 怯えるフィア、しかしアリエッタは顔を怒らせたままで答える。 「ここは、アリエッタでも足がつくにょ。だから、フィアも大丈夫にょ」 「ちょっと、アリエッタ」 「ポロンくんも、真面目にやるにょ。これは、遊びじゃないにょ」 「ごめん」 正論なだけに、言い返せないポロン。 再び、ポロンはフィアの方を振り返る。 「じゃあ、初めに浮くことからはじめようか」 「うん」 「それじゃあ、息を吸って水に浮かんで」 「わかった」 フィアは頷くと、息をいっぱい吸ってから水に浮く練習をはじめた。 アリエッタはそんな二人の光景を見て、やっと笑顔を見せ始めた。 そんな三人を影から見つめる四人の瞳。 『渚の海はあたしのもの』同盟こと、アリサ、シャルム、ウインディ、キャロットの四人である。 四人の瞳は心なしか険しいものがあった。 ウインディが呟く。 「どう思う? この状況を……」 シャルムは。 「泥棒ねこ……」 アリサも、これには。 「あきらかな抜け駆けだよね」 と、いわざろうえない。 そんな中で、唯一キャロットだけ。 「ねえ、こういうのいけなくない?」 その言葉だけを聞けば、いかにも良識人っぽいのだが。 「あんた、ひとりだけ双眼鏡もって覗いてても説得力無いわよ」 「あ、えへへ」 「っていうか、ちょっと貸しなさいよ」 「だあ、重いって」 「つぶれる〜」 「あ、今、フィアのやつポロンくんの腕、つかんだわよ! 手まで握って!」 「ちょっと、嘘! どこ?」 「あんなろ〜! 蹴り飛ばしたろうかい!」 「だから、重いィィ〜」 「あー! もう許せん! 黒色破壊光線をお見舞いしちゃる!」 「ちょ、ちょっとウインディ!」 「おっし! 許可する!」 「だから、重いってぇぇぇ! つぶれるぅぅぅぅ!」 「あんたら、何やってんの?」 『えっ、あぁぁぁ!』 どぉん、と潰れる『渚の海はあたしのもの』同盟一同。 同盟の結束は思ったよりも弱かったようだ。 四人が振り返ると、そこには紙切れを一枚持ったライラの姿があった。 「お、おほほほっ。どうしたのかしら?」 「あたしたちは別に何も……」 「覗きなんてしてないよ、なあ」 「ただ、人間の本能的な興味というか……」 「ふーん」 別に、興味なさげに返事をするライラ。 ライラは、紙を見せて言った。 「あんたら、これ、出るだろ」 ●〜〜〜● 『第七千四十二回渚の海はあたしのものミス火星水着コンテスト』 そう書かれた看板の下には、急遽作られたと思われる特設ステージ、そしてそのステージ前には幾つもの木製長椅子が並べられていた。 ポロンたちは、その長椅子の最前列に座っている。 ポロンの横には、挟むようにフィアとライラが座っている。 ポロンは、ライラに聞いた。 「ライラは出ないんだ」 「あたしは出ないって。ああいうの、興味ないし」 「ライラなら、いい線いくと思うけど」 「エレーンにも言われたよ。でも、本当に出る気ないんだ」 「そうなんだ」 「……恥ずかしいし」 「え?」 ライラは、ばつが悪そうに頭をかく。 「人前に出るのって苦手なんだ。昔から。目立つの、好きじゃないし」 ふーん、とポロンは納得する。 「フィアは?」 「あたしも、人前はちょっと苦手」 「もったいないな」 「……そう」 「あ、うん。そう思う」 二人は、少し顔を赤らめる。 ライラは、その光景に苦笑を隠せなかった。 そこに。 「困ります! この大会の年齢制限は十八歳です!」 コンテストの開催委員が、出場希望者ともめている声が聞こえた。 ポロンの側からは遠くてよく見えないが、思わずその光景に苦笑してしまう。 「迷惑な出場希望者もいるみたいだね」 「そうみたいだね」 「どんな人でしょうか?」 「さあね」 「もしかしたら、ものすごいおばさんだったりして……」 「あははっ」 「まあ、どこの世の中にも、身の程しらずっていうのはいるからね」 そんな会話を交わしていると、身の程知らずの出場希望者は開催委員たちに羽交い締めにされながらやってきた。 「あたしは、十八歳なのよ!」 「あなた、あきらかに十八歳じゃないでしょ!」 「十八歳なの! 心は、いつも十八歳なのよ!」 「いい加減にしてください! 貴方には、羞恥心が無いんですか?」 「何よ! 十八歳なのよ! あんたたち、覚えてなさい! いつか国に帰ったら、軍隊をうごかして火星なんて潰してやるんだから!」 「わかりました! わかりましたから、帰ってください!」 「うきーっ! あんたらみんな、あたしの敵よぉぉぉぉぉぉ!」 ポロンたちは一斉に顔を伏せる。 ライラが呟く。 「あれは、他人だよ」 ポロンが頷く。 「はい」 フィアも同意する。 「あの人は、多分、通りすがりの似た人です」 多分、羽交い締めにされて戻ってきたのはエレーンではない。 三人はそう信じることにした。 ●〜〜〜● 『レディースエンド、ジェントルメェェェン! 波間を漂う若人に、ラブをささげる一代イベントが今年もやってきましたぁぁぁあ! 『第七千四十二回渚の海はあたしのものミス火星水着コンテスト』開催でぇぇぇぇす!!!』 司会の言葉と共に、イベントが始まる。 ポロンたちの横には、放心したまま俯いて、『この世の全ては私の敵』とぶつぶつ呟いているエレーンの姿があったが、それにはあえて触れないことにする。 眠れる魔人をわざわざ起こす馬鹿もいない。 『さて、今年も火星に集ったのは、よりどりみどりの美女ばかり! 晴れ渡った空にの下輝く一輪のひまわりは、今日、この日、素晴らしい輝きを見せるのです!』 そこで、司会が胸に手を当てる。 『だが、残念ながら本当に輝くのはたった一輪、そう、このコンテストの優勝者』 そして、腕を高々と上げて叫んだ。 『そう、今日この場で、この海でもっとも輝くヒマワリちゃんを決めちゃうのでぇす!』 会場に歓声が沸く。 『それでは、堅苦しいことは抜きにして、大会を始めようと思います! 特別審査員はこの二人!』 『火星大王です。火星の市長をしております。本日は、このような素晴らしいコンテストにお招きいただき、ありがとうござ……ござ・・…ゴギギギギギギギギギギギィッィィィヒッヒッヒッヒヒィィィィ! ……すいません。すこし、大宇宙の電波を受信してしまったようで……恥ずかしい限りです』 『ハニーキングだ。人間たちよ。本日は人間観察のいっかんとして、楽しませてもらおう』 (人選に、ものすごい問題がないか?) ポロンは、審査員席に座る二人……というか、一人と一匹の姿に不安を隠せなかった。 その横では、まだエレーンが『宇宙はもうすぐ滅びる』とか、呟いている。 どうやら、電波はこっちの方にも届いてしまっているようだ。 司会が叫ぶ。 『それでは、コンテストをはじめまぁぁぁす!』 ●〜〜〜● まあ、美少女コンテストと言っても、浜辺に訪れているちょっぴりかわいい女の子を決めるような大会である。 それほど、高レベルの戦いは期待できなかった。 すでに、十人ほどがステージに立ち、ビーチに来た理由や自分のプロフィールなどを発表してから、特技や芸などを披露するのだが、たしかにかわいいといえる子は現れるものの、誰もが見とれる美人は現れず、特別審査員のコメントも、『うーむ、なかなかビューティフォーですねぇ』だの、『ふむ、まあ及第点であろう』だの、それほど気の入っていない感想ばかりであった。 ライラはつまらなそうに呟く。 「いまいちだね」 フィアも感想を言った。 「なんか、盛り上がりませんね」 エレーンが呟く。 「これは、呪いよ。アルマゲドン大魔王様の呪いなのよ」 もちろん、誰も聞いてはいないが。 ポロンは聞く。 「みんなの出番はどのへんなの?」 「たしか、十番代の後半ぐらいだと思うけど」 すると司会が言う。 『さて、これより出場する、十七番から二十一番までの五人は、なんと同じ旅の仲間なのです! はるばるぱらんちょ王国……まあ、どこの国かは知りませんが、そこより王子様を連れて旅をしてきた、美少女五人組です。それでは、エントリー十七番、ウインディさんです!』 ポロンが、ライラに言った。 「出番みたいだね。初めは、ウインディか」 「舞台度胸はある子だからね。いがいと、盛り上げてくれるんじゃない?」 舞台に、水色の髪の美少女が現れる。 会場に歓声が響く。 まあ、今までが今までだったので、やっと盛り上がったという感じなのだろう。 『こんにちは! ウインディでーす! ぱらんちょ王国からやってきた魔法使いでーす!』 『おおっ! これはレベルが高いッ! どうでしょう、お二方?』 『うーん、いいですねぇ。スク水というのが、気に入りましたねぇ』 『うむ、いい感じだ。人間の子よ』 ポロンが感心したように呟く。 「けっこう、やるね。ウインディ」 「ウインディさん、踊ってますよ」 「ちょっと、はしゃぎ過ぎって感じもするね」 司会が聞く。 『さて、ウインディさん、本日はどのような特技を見せてくれるのでしょうか?』 『はい、十七番、ウインディ、島を破壊しまーす!』 『……は?』 司会がほおける。 会場もざわつく。 しかしウインディは全然うろたえず、ばっと海の向こうの島を指差した。 その指には、クリスタルの指輪……カラーのクリスタルを原料とした高レベルの魔法アイテム、クリスタルリングがはまっている。 司会が、おずおずと聞く。 『あの……島を破壊するというのは……』 『黒色破壊光線!』 ドカァァァァァァァンン!! 黒い光が飛んでいって、大爆発。 果てに見えていた島は粉々にぶっ壊れた。 唖然とする会場の一同。 対するウインディは、ふふんと胸をはる。 『どうよ、あたしの最強魔法は!』 その瞬間、火星大王が絶叫しながら立ち上がる。 『なぁぁあぁあぁぁぁあああ!! あれは、鉄鉱石の取れる鉱山がある、火星の重要な資金源だったのにぃぃぃぃぃぃ!!!』 『えっ? えっ?』 『人間の子よ、何でもかんでも破壊すれば良いというものでもないぞ』 『ちょっ……ちょっと?』 『そいつを連れていけぇぇぇぇぇぇぇええ!!!』 『きゃっ、横暴よ! ちょっと島破壊したぐらいで……』 ウインディは、開催委員に羽交い締めにされて、引きずられていった。 『えー、ウインディさん、退場です。それでは、次の出場者にいきましょうか』 ポロンの横で、ライラは頭を抱えていた。 ●〜〜〜● 『さて、次の出場者ですが……先ほどの出場者、ウインディさんの旅の仲間、キャロットさんでーす!』 司会の言葉に会場から拍手が沸き起こる。 ポロンは、横のライラに聞いた。 「今度は、大丈夫かな?」 ウインディの一件ですっかりと弱腰だ。 ライラはにっこりと微笑み、答える。 「まあ、キャロットなら大丈夫だと思うよ。変に目立つようなことはしない子だから」 「そうですよね。期待しましょう」 「壊れてしまえ……みんな、壊れてしまえ……アーサーシュトローン〜……」 会場に、ピンクの花が現れる。 軽く頬を赤らめながら現れたキャロットに、再び大きな歓声が起きた。 司会が興奮しながら言う。 『おお、先ほどに続いてレベルが高いっ! 司会の二方、今度はどうでしょう』 『うーん、巨乳がすばらしいですねぇ』 『まあ、なかなかだな』 司会がそこまで聞き終わってから、キャロットに向かいなおる。 『さて、キャロットさんもぱらんちょ王国からいらしたんですか?』 『はい。そうです』 『……あれ、キャロットさん、どこかでお見受けしたような・……たしか……ここに……』 司会はそのようなことを呟きながら、懐から紙を取り出す。 そこには、『ゼスA級指名手配犯』と書かれている。 瞬間。 バシュンッ! キャロットが笑顔で放った炎の矢は、司会の紙を燃やし尽くした。 呆然とする司会。 キャロットはにっこりと微笑んで言った。 『気のせいですよ』 『……はあ』 司会は、それ以上、深く追求しない。 裏の世界には、表の世界の人間が知ってはいけないことが沢山あるのだ。 司会は、多少動揺しながら聞いた。 『さて、キャロットさんはどのような芸を見せてくださるのでしょうか?』 『はい。十八番キャロット、めがねをかけます』 『……は?』 更に動揺する司会。 その横で、キャロットは普通に、どこからともなく取り出しためがねをかけた。 『……えへ』 沈黙。 次の瞬間。 『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!』 会場から一斉に歓声が湧き上がる。 それと同時に、今まで落ち着いた態度で静かにコメントを繰り返していたハニーキングが叫ぶ。 『こっ、これは素晴らしい! まさか、人間の娘にこれほどまでの芸当ができるとはっ!』 ハニーキングは、ぴょこぴょことキャロットの元に来ると、その手をガッと握りしめ、聞いた。 『人間の娘、もし良ければ、我がペットにならないか?』 『遠慮しておきます』 『なぜだ? 人間界で言う国賓級の待遇は保障するぞ。三色昼寝つきの素晴らしい人生だ』 『あたしの心は、そう、軍曹のものなんです……』 『……そうか、なら仕方がない』 ポロンは、横でライラに耳打ちする。 「軍曹って誰?」 「……さあ」 そこに、急に乱入する影があった。 ウインディである。 司会が慌ててそれを静止する。 『ちょっと、あなた、退場になったでしょ!』 しかし、ウインディは司会の言葉をキャロットにつかみかかった。 『あんた、なによそれ? なんで、めがねをかけただけでそんなにウケるわけ?』 『……』 『わかったわ。きっと、そのめがねになにか魔法でもかけたのね』 『……』 『ちょっと、あんた、何か言いなさいよ!』 『……ククッ』 『……あんた、今、あたしのこと、笑ったわね! しかも、まるで家畜を見るような目で!』 『やめてよういんでぃあたしたちともだちでしょう』 『棒読みでいい加減なこというなっ! コロス! あんたのその化けの皮はいで、醜い本性をさらけ出しちゃる!』 しかし、二人が血で血を洗う乱闘を繰り広げる前に、ウインディはふたたび開催委員に羽交い締めにされ、退場させられた。 ポロンは、横の二人に聞かせるかのように呟いた。 「ねえ、これってかわいい女の子を決める、ミスコンだよね……」 「うん」 「そうだけど」 「なんか、さっきから醜いものばっかり見せられているような気がするんだけど……」 沈黙する二人。 その横でエレーンが呟く。 「鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番醜いものはなあに?」 ●〜〜〜● 『さて、次は十九番と、二十番、なんと、親友同士の同時出場です!』 ライラは、「へえ」と簡単の息を吐く。 「あの子たち、二人で出場することに決めたんだね」 「期待できるかもね」 「二人とも、がんばって欲しいですね」 司会が、言う。 『さて、それではがんばってもらいましょう。アリサ&シャルムさんです! では、どうぞ!』 歓声が沸きあがる。 まず、その歓声の中でアリサが現れた。 その手に、引きずるように連れてきたのはシャルムであった。 そこで再び、今度は今までで一番の大歓声が会場に響いた。 思わず、司会も声を荒げる。 『これはっ! なんと、ものすごくレベルの高いっ! 特に紫の髪の……シャルムさんでしたっけ? まさに、渚のプリンセスですっ!』 『あ、どうも……』 照れた表情で素っ気無く言うシャルム。 それが、余計に観客に受けたようだ。大きな歓声がまたもやあがる。 司会が聞いた。 『えーと、お二人は親友同士なんですよね』 『あ、うん』 『そうでーす!』 『……あれ、アリサさんはどこかで見たような……もしかして、プリティリアでアイドルをしていた……』 『そうでーす!』 『おおっ! みなさん、アリサです! あの、リーザスのアイドル、アリサですっ!』 会場から、ものすごい歓声があがる。 審査委員の二人は、 『う〜ん、トレビアァァァアン! ブリリアントですねぇぇぇぇ』 『ほう、これが人間界のアイドルというものか』 と、互いに感嘆の感想。 『それでは、本日はどのような……まさか!』 『はーい! 二人で歌を歌いまーす!』 『きょっ! 曲名は!』 『ディアマイフレンドでーす! あたしの大好きな大親友と二人で、歌いまーす!』 『なっ! なんと、あの伝説となった名曲、ディアマイフレンドが生で! しかも、親友同士のデュエットです! 素晴らしい!』 観客の歓声は、沸きやむことを知らない。 『それでは、歌っていただきましょう! ディアマイフレンドです!』 曲が流れ始めた。 二つのマイクが一つの歌をかなで、楽しげなハーモニーが会場に響く。 観客はその歌声に熱狂した。 なによりも、親友である二人が一番楽しんでいた。 二人の美声は会場を魅了し、そこに訪れていた人々は、まさに幸せの絶頂を味わっていた。 ライラが言う。 「優勝は決まりだね」 ポロンも、頷いた。 「うん。そうだね」 そう言い、軽く視線を動かす。 すると、そこにはいるはずのない人物がいた。 「あ、アリエッタ!」 ポロンは驚く。 アリエッタの出番は次のはずである。こんなところにいるのはおかしい。 しかし、アリエッタはそんなポロンの驚きなど気にしない態度で。 「来るにょ」 そう言って引いた手の主は、フィアだった。 「え? え?」 「来るにょ! フィアも出場するにょ!」 「ちょっと……」 「いいから、来るにょ!」 フィアは、アリエッタの気迫に負けて、引きずれらてしまう。 ポロンとライラは、呆然としながら二人を見送った。 ●〜〜〜● 『さて、最後になりました。最後の出場者は……かわいいですね。最後の花には相応しい、アリエッタちゃんでーす!』 司会は、そう言ってアリエッタを迎える。 しかし、アリエッタは現れない。 会場が騒然とする。 司会は、少し戸惑いながら言った。 『あれ、どうしたんでしょうか? アリエッタちゃんが現れません? ……出場辞退ですかね?』 すると。 そこに、ぴょこぴょこと足音がする。 司会は胸を撫で下ろして言った。 『あ、やっと来たようです。さて、それでは紹介します。本日のラスト、アリエッタちゃんです!』 会場から、アリエッタが現れる。 しかし、その後ろにはエメラルドの髪をした少女がついてきた。 会場から、不可解に思う観客のざわめきが聞こえてきた。 司会が、しゃがみこみ、アリエッタに目線をあわせて聞く。 『あの、アリエッタちゃん、そのお姉ちゃんはどうしたの?』 すると、アリエッタは怒り顔で答える。 『フィアは、アリエッタたちの旅の仲間にょ』 『そうなんだ』 『そうにょ』 司会は、ふたたび立ち上がり、フィアに言う。 『あの、すいませんがエントリーしていない方は出場できないですよ』 『あ、はい。ごめんなさい』 『それでは、会場から……』 そこまで言ったところで、アリエッタが言葉を遮って言う。 『フィアも、出場するにょ』 司会は、困ったように笑みを浮かべた。 『アリエッタちゃん、そのお姉ちゃんはエントリーしてないでしょ。だから、出場できないんだよ』 『なら、アリエッタの変わりにフィアを出場させるにょ。それで、文句ないにょ』 司会は、困ったように頭をかく。 そして、再びアリエッタを言い聞かせようと口を開く、が。 『いいんじゃないの?』 その言葉は、出場者のほうから聞こえた。 ウインディは、髪をかき上げながら言った。 『いいんじゃない? 出場させてあげれば。優勝はあたしで決まりなんだから』 『しかし』 『面白そうじゃない! 出場させてあげようよ!』 それは、アリサの言葉だった。 面食らう司会。 続けて、キャロットとシャルムが口々に言う。 『あたしからもお願いします』 『いいでしょ。減るもんじゃないし』 司会は、いよいよ特別審査員に助けを求めた。 だが。 『いいですねぇ。出場させてみましょう』 『うむ。私もいささか興味を持った。出場させてみようではないか』 その言葉に、司会はいよいよ覚悟を決めた。 『わかりました! それでは、急遽、特別にエントリーです! フィアさんっ、どうぞっ!』 湧き上がる歓声。 フィアは思わぬ事態にたじろぐ。 (あ、う) 歓声と無言の期待に明らかに圧倒されているフィア。 しかし、その手を握る小さな姿があった。 アリエッタは、にっこりと笑うとフィアに向かっていった。 「フィア、歌うにょ」 「え?」 「フィアも、思いっきり歌うにょ」 「歌えって言われても……」 「アリエッタは知ってるにょ」 「え?」 「フィアが歌、上手いの。知ってるにょ」 「そんな、あたし……」 「なら、アリエッタが歌うにょ!」 アリエッタは、そう言いマイクをつかむと歌い始める。 曲は、リーザスで今流行っている、『ドリーマー』という歌だ。 『しあわせな〜ゆめみてうたう〜♪ ……さいしょの……』 しかし、すぐにつまってしまう。 歌詞を忘れてしまったのだ。 観客がしーんとする。 ポロンやライラ、アリサたちが心配そうに見ている。 (……アリエッタちゃん) フィアは、胸に不安を宿らせる。 そのとき、アリエッタがフィアのほうを振り向いた。 助けをもとめるような瞳がフィアを射抜く。 フィアはしばらく戸惑いに立ち尽くしてから。 何かを決意したように前に出る。 『お願いします』 フィアが、司会にそう言う。 司会は、頷くと、曲を流し始めた。 フィアは、アリエッタの横に並ぶと、「一緒に歌おう」と、ささやいた。 アリエッタは、笑顔を見せる。 曲が流れ始めた。 幸せな夢見て歌う 最初のワンステップ 小さな夢見て語る いつものワンスリープ 幾つもの幸せみたいに 何かが起きるかもしれないよ 最初から知っていたように くじけそうなとき あたしを呼んで いつでもすぐに 駆けつけるから 見たこともない 明日のために なんども眠る夢見人ばかり 世界中につどう これからおきる奇跡に 期待してね 夢見て 夢見て マイドリーム 曲が、止む。 観客は、まるで音が消えたかのように静かになったままである。 (ふう) 息を吐くフィア。 そして、静まりかえる観客の様子におもわず。 (失敗しちゃったかな) なんて思うが、横で見上げてくるアリエッタの楽しげな表情をみていると、そんなことどうでも良くなってきた。 しかし、次の瞬間。 観客から一斉にものすごい歓声が沸きあがった。 審査委員の火星大王はどこからともなく取り出したベルをカンカン鳴らしながら、 『ブラボォォォォォォ!!! ブラボデェェェェェェェス!』 そう叫び、ハニーキングにいたっては大きな目からだらだらと涙を流しながら言った。 『人間の子よ! 感動した!』 うろたえるフィア。 その手に、アリエッタが抱きつく。 フィアも、アリエッタに笑顔を返した。 拍手はやみおわることがなかった。 そして、第七千四十二回渚の海はあたしのものミス火星水着コンテストの優勝者は、アリエッタとフィアに決まった。 ●〜〜〜● 夜。 浜辺に集まったポロンたちは花火をしていた。 手持ち花火、噴水花火、ドラゴン花火、打ち上げ花火、連続打ち上げ花火、ネズミ花火、線香花火、様々な花火が暗い浜辺に輝いた。 打ち上げ花火を手に持ってふざけるシャルムに、それをはやしたてるウインディ、とめるのはキャロットである。 エレーンはアリエッタと共に線香花火で遊んでいる。 アリサは、少しはなれて見ているライラに手持ち花火を見せに来た。 ライラも、アリサから手持ち花火を受け取り、みんなの下に行く。 ポロンは、そんな光景を遠くから楽しげに見ていた。 「わっ」 急に冷たい感触が頬に宿る。 振り向くと、そこには頬にジュースの缶を当ててくるフィアの姿があった。 「ここ、いい?」 「うん」 フィアは、ポロンの隣に座る。 ポロンにジュースを渡すと自分も缶のふたをあけ、一口飲む。 そして、呟く。 「今日は、ありがとう」 「なにが?」 「水泳、教えてくれたでしょ。それ」 「うん」 「おかげで、泳げるようになったし」 「フィアが、がんばったからだよ」 「ううん、ポロンくんの教え方が上手かったから」 「そんなこと、ないよ」 「……」 「フィアこそ、今日はすごかったよ」 「え?」 「あの大会で優勝しちゃうなんて」 「あれは、アリエッタちゃんがいたからだよ」 「ううん、フィアの歌、上手かった」 「ありがと」 「……」 「……」 二人の間に、しばらく沈黙が宿る。 フィアは、少し、思いとどまったあと、思い切って口を開いた。 「ポロン、くん」 「なに?」 「ポロンくんは、もっと自信持っていいよ」 「……そう」 「だって、ポロンくんのこと、みんな見てるんだから……ポロンくんがそんなんだと、困るから・…みんなも、あたしも……」 「……フィア?」 「ねえ、あたし、今日、誰を見ながら歌ったかわかる?」 「ううん?」 「……ポロンくんだよ。ずっと、ポロンくんを見ながら、歌ってた……」 「……え?」 「ずっと見てるから……だから、がんばって。みんなのために……」 チュ。 しばらく、何が起きたのかわからなかった。 ただ、頬に感じた柔らかい唇のぬくもりは渚に映る緑髪の少女の、肌の感触だった。 「あたしからのエール」 「……」 ポロンはしばらくボオッとしていたが、にっこりと笑った。 「ありがと」 そこに。 視線を動かした先。 そこには、驚き顔の『渚の海はあたしのもの』同盟の姿があった。 『どういうこと?』 四人が詰め掛ける。 ポロンとフィアは、「あ」だの「う」だの、といった言葉しか出ない。 ふたたび、四人は問い詰めた。 『どういうこと!』 ポロンは咄嗟にフィアの手をつかむ。 「逃げよう」 「え?」 ポロンが逃げる。 フィアも逃げる。 それを追う、四人の姿。 眼下に映る夜の海は、静かに揺れていた。 |