ルートE
巨大ぷりょに花束を




「魔物の生態について」 キャロット

 そもそも、魔物の生態はそれほど人間と酷似していません。
 まず、性別が男女にわかれていることを焦点にしてみましょう。
 心理学の観点から考察するとアニマとは男性の中に眠る女性像、対するアニムスは女性の中の男性像なのですが、魔物に対してはこの概念が当てはまらないことが研究の末に証明できました。そもそも魔物はこの概念とは別に独自の像を自らつくりあげ、人間とは違い多面的な性質を持っておらず、一面性の表層意識のみで行動することがわかりました。今まで学会では魔物という存在が理性を内包しているのだと思われてきましたが、三体のうしばんばらに催眠療法を試してみたところ、内的性格と外的性格、双方の隔たりが人間と比べて極めて少ないという結果にたどりつきました。今度は三体の指圧マスターに同様の実験をしましたが、指圧マスターの性的な快楽に直結する行動である、指圧に対する欲求は変わることありませんでした。つまり、魔物には表層意識と深層意識の隔たりがまったくないということになります。
 本来、人間は基としての人格が存在し、外的な精神の刺激により性格が決定するのですが、彼らの場合その変化もなく、ただ普遍的な存在としかいえないのです。それが、彼らと私達の最大の違いでしょう。
 容姿についても疑問は多々、あります。
 ハニーという種族がありますが、それらは身長百五十センチ、体重百五十キロと、身体的特徴にまったくといっていいほど変化がないのです。確かに、ぷちハニーといった種族もいますが、あれはハニーの幼児形態ではなく一個の種族なのでここでは問題から除外させていただきます。おそらく、彼らはそれぞれの固体を我々の予想しない方法で判別しているのでしょう。余談を一つ。これは噂なのですが、彼らにはハニーの王と呼べる存在がいて、その存在がすべてのハニーを統一しているという伝説があります。しかし、事の検証をした人間は今だいません。
 そもそも、彼らは分類的には魔族となり、一の王と二十四の魔人との主従関係にある存在です。全員が攻撃能力を持ち、人間に対する敵愾心がある。これは人間と魔族との強い隔絶を感じさせる事実です。しかし、今、双方の隔たりがなくなりつつある傾向にある以上、近い未来、魔物との共存が可能になるかもしれません。そうなれば、我々は更に彼らの生態や性質などを深く知ることができるはずです。その日は、遠い日かもしれませんが必ず来るでしょう。そのことはおそらく、学会の更なる向上につながるはずです。
 そういえば、私は実は、ハニーが好きです。
 一番好きなのは緑色のやつです。
 あの、みょ〜に生々しいのがよくよくみると、すこしぷりてぃ〜なんて思えちゃったりするんですが、みなさんはどうでしょう?
以上を持ちまして、レポートを終えさせていただきます。

 ●〜〜〜●

 名も無き町。
 名も無き宿屋。
 そして、その宿屋のリビング。
 キャロットは一人、めがねっこになって、魔物生態について書かれた書物の読書に耽っていた。
 そこに。
「キャロット、あなたに手紙がきてるわよ」
 エレーンは手紙を持ってくる。
 キャロットは振り向き、エレーンからその手紙を受け取った。
 封書の裏を見る。
 そこには、ゼス王家の烙印が押されていた。
「……ゼスから?」
 キャロットは少し訝しげに思いつつも、封書の封を切った。
 そして、中の手紙を取り出し、それを広げて読む。
 そこには、こう書かれていた。
『私は、ゼス王宮の城下にある魔法学校で学長をしているクラーク=ゼノウィンです。先日、キャロット殿の送られた魔物生態について書かれたレポートが魔法学校で好評を得ました。それでつきましては、キャロット殿には魔法学校の研究施設で行われる予定の魔物実験に協力して欲しく、書面では大変失礼なのですがここに願い出ます。どうぞLP×年×月×日までに、ゼス王宮の魔法学校にいらしていただけないでしょうか。良い返事を期待しています』
 キャロットは驚いた。
 それは、目が飛び出るぐらい驚いた。

 ●〜〜〜●

 ポロンたちの反応は良好であった。
 みんなはキャロットのレポートがゼスに認められたこと、そして、ゼスの魔法学院の研究所でおこなわれる予定の実験にキャロットが参加することを大いに喜んだ。
 そんなこんなで、一同は急遽、ゼス王宮に向かうことになった。

 ゼス王宮の城下。
 そこに、ひときわ目立つ建造物の群があった。
 ゼス王立魔法学園である。
 その前に立つ、桃色の髪をした白のローブ姿の、眼鏡少女は呆然とビルを見る。
 その眼鏡少女はキャロットだった。
 初め、キャロットは小学校の校舎みたいのをパワーアップした感じの建物だと思っていたのだが、予想は完全に外れ、おもわずたじろいでしまう。
(今日来るって、ちゃんと連絡してるから、大丈夫だよね)
 と、考え、キャロットは恐る恐る一歩を踏み出す。
 そこに、守衛が呼び止めた。キャロットの態度があまりにも挙動不審だったからだ。
「ちょっと、そこのお嬢さん」
「はいっ」
「あんた、ここは関係者以外立ち入り禁止だよ」
「あ、わかっています。実は私、ここの学園長のクラークさんに呼ばれて来たんですが……」
「学園長に? 君みたいな子供が?」
「はい」
「……とりあえず、連絡とってみるから少し、待って」
 守衛はそう言うなり、テレパシーで連絡する。連絡手段にテレパシーを使うところはさすがゼスだと、キャロットは思った。
 しばらくすると、守衛は頷いて、キャロットに言う。
「キャロットさんだね。たしかに連絡は受けているみたいだよ。とりあえず、ここからまっすぐ右に行って。そこに研究施設があるから」
「クラークさんは?」
「ああ、学園長ならすでに、研究施設で研究に取りかかってるよ」
「すいません。失礼しました」
 キャロットは、そう一礼し、学園の中に入って行った。

 ●〜〜〜●

 しばらく歩くと、研究施設に着く。
 研究施設の棟はそれほど彩りはなかったが、かなり巨大な建物である。
 もちろん、清潔感もあり、キャロットはなんとなく圧倒されながら中に入る。
 すると、入り口のところで呼び止める影があった。
 かなりの歳の男性で、体格の良い体に法衣をまとっていた。
 男は、キャロットに声をかけてくる。
「こんにちは。キャロットさんですね」
「はい」
「レポート、拝見しました。私が学園長のクラークです。手紙は受け取ってもらえたようですね」
「はい。拝読させていただきました。このたびは、私のようなものを研究の手伝いに加えてもらいありがたく思っています」
「いえ。こちらこそ。とりあえず、これから研究室に向かおうと思うので、歩きながら話しましょう」
 二人は、研究所を歩き始めた。
「あのレポートは、学会でも話題になりましてね」
「はい。ハニーはやっぱりかわいいですからね」
「……は?」
「いえ、なんでもありません」
「あのレポートをきっかけに、もう一度、魔物の心理的な性質に着目する学生が増えまして、現在、人間の心理学と魔物の生態を見直す動きが活発になっているんです。キャロットさんの影響ですよ」
「そんな……」
「それで、あのレポートを書いたキャロットさんがどのような人物か知りたいのもありまして、本日はお呼びしたのですが……まさか、こんなにお若いとは」
「幻滅したでしょうか?」
「いえ、逆に嬉しい気持ちが湧き上がりました。深い考察を持つ若者が増えるのはいいことです」
「ありがとうございます。……それで、本日はどのような実験をする予定なのでしょうか?」
「ええ、ハニーが……」
「ハニー!」
「……どうしました?」
「いえ、なんでも……」
「コホン……ハニーが、異常なまでの魔法耐性を持っているのは知っていますよね」
「はい! もうそれはもちろん!」
「……」
「……すいません」
「……それで、ハニーの強大な魔法耐性の原因がどこにあるのか、それを調べようと思っているのです」
「へえ」
「もし、ハニーの特徴である魔法耐性の原因がわかれば、それをきっかけに魔法に対する強力な防御策を生み出すことが可能だと思いましてね。上手くすれば、破壊光線レベルの魔術すら打ち消せるかもしれません」
「……そんなもの生み出して何に使うんですか?」
「え?」
 学園長は一瞬、訝しげな顔を浮かべる。
 キャロットのいいたいことはこうである。
 戦争の道具に使うのではないか、と。
 魔法大国と呼ばれるゼスは、魔法の兵力に関して言えば、リーザスやヘルマンを上回るものである。もし、そこに強力な魔法耐性をもつ防具が開発されれば、ゼスは魔術戦闘において絶対的な主導権を持つ。
 しかし、ふに落ちないこともある。ゼスの魔力を驚異と感じているリーザスやヘルマンならともかく、なぜ、ゼスが自らの首を絞める可能性を持つ兵器の開発をするのだろう。
 キャロットは、その辺を含めて聞いたのである。
 学園長は、意外にも笑って答えた。
「兵器の開発は国家の仕事ですよ。我々のしたいことは、今よりももっと魔法研究のレベルを発達させ、それによって人々の生活水準を上げることです。ゼスは魔法技術が高い反面、魔力を悪用するものも多いのです。治安維持の助力とするためにも、対魔術兵器はゼスに必要なのですよ」
 なるほど、と、キャロットは納得する。
 学園長は聞いた。
「ご助力、いただけますか」
「私でよければ、いくらでも使ってください」
「それは良かった。実は、この研究が上手くいけば、それをきっかけにキャロットさんには、ゼスの魔法学園に推薦入学してもらおうと思っているのです」
「え?」
「優秀な生徒は一人でも欲しいですから。魔法大国だからとうぬぼれているわけでもないのです。リーザスの魔法技術も年々、高まっていますので」
(あたしが……魔法学園の生徒に……)
 ぽわわん、となるキャロット。
 その脳裏には、楽しいキャンバスライフが映っていた。
 勉強して、部活に入って、夏休みにはMランドに行って、そして昼休みには、公園でステキなあの人に手作りのお弁当で……いや〜ん。
 てな感じで。
 もちろん、ステキなあの人のイメージがポロンだということは言うまでもない。
「つきましたよ」
 そこで、はっとなるキャロット。
 目の前には、研究室の扉があった。

 ●〜〜〜●

「今日から、この研究室で一時期ですが、一緒に働くことになったキャロットくんです。キャロットくん、挨拶を」
「はじめまして。みなさん、よろしくお願いします」
 などと、軽い自己紹介を済ます。
 研究室の研究生たちは魔法学園の学生で、キャロットのレポートを読んだらしく、全員が彼女のことを知っていた。
 だから、若いキャロットが訝しげな目で見られることもなく、わりとすんなり、中に入っていけた。
 学園長のクラークは、研究生の一人を案内役につけると、「それでは、わからないことがあったら彼に聞いてください」と言い、その場を去っていった。
 研究生は、「とりあえず、研究所をご案内します」と言って、研究所の案内をはじめた。
 キャロットは、研究生の背中を追うように研究室から再び出て、ついていく。
 キャロットは研究生に聞いた。
「研究は、どの辺まですすんでいるんですか?」
「それは、研究室に帰ってから説明します。あ、ここトイレです」
「けっこう広いんですね。初め、驚きました」
「はい。リーザスや自由都市の方からも良く、お客人が来られるのですがみなさん、初めはそう言われますね。あ、ここ、第四研究室です」
「けど、あたしのような若い人間が、研究のお邪魔してもかまわないんでしょうか?」
「それは、全然。僕らはみんな、キャロットさんのレポートを読ませていただいていますから。一年前に書かれた『魔物の食文化』や三ヶ月前に書かれた『正露丸の隠された薬効』など。ここ、第二研究室です」
「ありがとうございます。あたしのような若輩者のレポート、読んでいただけたなんて感動です」
「いえいえ、こちらこそ。キャロットさんのレポートはいつも、大変レベルが高くて驚かされています。まさか、こんなお若い方だとは知りませんでした。ここ、シャワールームです」
「すいません。やっぱり、幻滅させちゃったかも」
「いえいえ。そんなことは……ここ、SMルームです。キャロットさんはハニー好きなんですか」
「はい、大好きです。あなたも?」
「はい。あの丸っこくてなんか人間馬鹿にしてるような外見が、なんだかそそるんですよね。ここ、拷問部屋です」
「そうですよね。やっぱり、あの中に何入ってんだ! って、おもわず突っ込みたくなるようなところが、ググッて来るんですよね。失礼ですが、何色が好きですか?」
「僕は、赤ですね。やっぱり、情熱の赤ですよ。ヒーローものも、一番しゃべるのはいつも赤じゃないですか。赤が一番です。ここ、衣装室です」
「あたしはみどりですね。なんか、じめじめしているところが大好きなんです。でも、赤も好きです。かっこよくて」
「そうですか。僕たち、気が合いますね。どうです。結婚を前提にお付き合いしませんか? ここ、トラップルームです」
「ごめんなさい。ちょっと……」
「そうですか。すいません。ここ、魔界への扉です」
 そんなこんなでたわいもないことを話しているうちに、なんか、ごっつい扉の前に二人はたどり着いた。
 キャロットはおもわず驚いて、研究生に聞いた。
「あの、これは?」
「ああ、これは……僕の口からはちょっと……」
「はあ」
「けれども、この扉は絶対に開けないでくださいね」
「はい」
「絶対にですよ」
「はい」
「絶対の絶対に、ですよ」
「……はあ」
「もしあけたら、どのような災いが襲ってきても知りませんよ」
「……はあ」
「たとえ、ピカが放たれて、逃げ場がなくて、最後の最後でここに逃げ込めば助かるぜ! っていう状態でも、開けてはいけませんよ」
「……」
「たとえ、破壊神があらわれて、世界を崩壊……」
「わかりました! 絶対に開けません!」
「それを聞いて、安心しました」
 開けて欲しいのか、そうでないのか、どっちなんだよ! と、突っ込みたくなるキャロットであった。

 ●〜〜〜●

 初日の研究は、かなり上手くいった。
 研究生たちからそれぞれ状況を聞いていって、思いついたことを少しずつ注意していくとあっという間に研究が進んでいった。
 しかし、研究状況のレポートは山積みで、読み通すにはかなりの時間が必要で、一日では終わりそうもなかった。
 だが、できることは今日のうちにやっておこうと思って、キャロットはポロンたちの待つ宿にすぐには帰らず、深夜遅くまで残っていた。

 机の上でコーヒーを片手にレポートを読むキャロット。
 しかし、目は疲れてくるし頭はぼぉっとしてくる。
 しかも、しまいにはコーヒーの飲みすぎで、あちらのほうまでもよおしてきた。
 しかたがないので少し休憩することにする。
(根の詰めすぎもいけないしね)
 研究室から出て、研究所の廊下を静かに歩く。
 そして、トイレに行ってから帰り道。
(……あれ?)
 気がつくと、少し迷っていた。
 すでに消灯していたので、暗くて心細い。
 キャロットは、手にかざした魔法の光を頼りに歩いていく。
 すると。
 目の前には、開けないように釘を刺されていた扉がある。
 しかもご丁寧に、覗いてみてください、と言わんばかりに少し開いていた。
(……無用心だな)
 そう思いながらも、キャロットは扉をしめようと手をかける。
 そこで悪魔がささやいた。
 なぜかウインディの姿をしている。
『覗け! あんた、この中に何があるのか気になるんでしょ!』
(気に……なるけど)
 すると、今度はシャルムの姿をした天使がささやきかける。
『キャロット……人間、欲望に逆らっちゃいけませんよ』
 などと、似合わない丁寧語でさらにはっぱをかける。
 言っていることは悪魔と一緒である。
(でも……開けるなって……)
『開けろ! 開けろ!』
(開けるなって言われて……)
『開けろ! 開けろ!』
(開けるなって……)
『開けろっ!』
 キャロットは目をつぶり。
「……ごめんなさいっ!」
 そうさけんで、思いっきり扉を開けた。

 そこには。

 ●〜〜〜●

 数日後。
 ゼス王宮の城下にある、宿屋。
 そのリビングで、ババヌキをしている四人の姿があった。
 アリサ、シャルム、ウインディ、フィアの四人である。
 ウインディが言う。
「そういえば、最近、あのめがねっこの姿、見ないわね」
 そう言い、アリサにカードを見せる。
「めがねっこ?」
 アリサはカードを取りながら聞き返す。それにシャルムは答える。
「キャロットのことだよ。最近、めがねかけてるじゃん」
 シャルムはアリサからカードを取る。
「そういえば、ちかごろ、見ませんよね」
 今度は、フィアがシャルムからカードを取った。
「どうしたんでしょう?」
「このごろ、朝、早く出かけるのよね。あいつ」
 ウインディはフィアからカードを取ると、二枚、ぞろ目の札を捨て、アリサにカードを見せる。
「気にならない?」
「気になるけど……ただたんに、研究が忙しいだけなんじゃない?」
 アリサはシャルムにカードを見せる。
「まあ、なにかあったらすぐに顔に出るから、気にすることないと思うよ」
「まあ、キャロットさんは顔に出やすい人ですからね」
「わかってないわね。あんたら」
 シャルムがカードを取って、シャルムからフィアが取る。その次は、フィアからウインディがカードを取りながら言った。
 ウインディはアリサにカードを見せる。アリサは、カードを指にかけながら聞いた。
「分かってないってなにが?」
「そう言うところがお子ちゃまだって言うのよ」
「どういうことだよ!」
 シャルムが、ウインディの笑みに怒りを浮かべるが、たいしたウインディはにやけ顔だ。
「ふ、ここまで言ってわかんないの?」
「……どういうことですか?」
 フィアが眉をしかめて聞くのに、ウインディは答えた。
「キャロットに男ができたって話よ」
 ウインディの言葉に、三人は唖然とする。
 アリサが思わずとってしまったカードは、ジョーカーだった。

 ●〜〜〜●

 キャロットは今日も、誰も居ない時間を見計らって研究所に訪れていた。
 右を見て、左を見て。
 誰もいないのを確認すると。
 ばっと、開かずの扉を開ける。
 そして、身を隠すようにその中に入っていった。

 ポッ。
 魔法の明かりが光り、暗い部屋を照らす。
 キャロットは小さな声で言った。
「いいよ。出ておいで」
 その声に反応して、ひとつの影があらわれる。
 丸いゼリー状の物体に牙の生えた姿。
 ぷりょである。
 体長四十二センチ、体重八キロ。
 ゼリー状の男の子モンスターでこれに取り付かれると食欲が異常なほど高まってしまう。
 しかし、キャロットのまえに現れたぷりょは、人懐っこく、決して人に取り付いて悪さするような魔物ではなかった。
 ぷりょは、キャロットに気を許しているのか、軽くじゃれつく。
 キャロットは少し食欲を刺激されるが、別にくっつきっぱなしでもないのでそれほど強烈な症状にはならない。
 キャロットは、バスケットを取り出すとぷりょの前に差し出した。
「今日も、朝ごはん作ってきたよ。一緒に食べよ」
 キャロットはそう言い、バスケットの中からサンドイッチを取り出してぷりょに分ける。
 そして、自分もバスケットの中からサンドイッチを取り出して、かぶりついた。
「おいしいね」
 キャロットの言葉に、ぷりょはサンドイッチを食べながら頷く。
 キャロットはしばらくそのぷりょの姿を見ていた。
 そして、唐突に呟く。
「……ポロンくん」
 ぷりょはキャロットを見上げる。
 キャロットは、もう一度、ぷりょに向かって呼びかけた。
「ポロンくん」
 ぷりょは、疑問の表情を浮かべている。
 キャロットはにっこり笑ってぷりょに言った。
「決まり。今日からあなたの名前は、ポロンくん」
 ぷりょはしばらくじっとしていたが、気に入ったのか、キャロットに抱きついてくる。
「キャッ! やめてよ。ポロンくん」
 しばらくじゃれ付いていたが、今度はキャロットがぷりょを思いっきり抱きつく。
「ポロンくん、大好き」
 ぽわわん、と、幸せな時間が流れていた。
 そこに。
 唐突に研究生が、扉を開けてきた。
 暗い部屋に光が差し込み、ぷりょはあわててキャロットの後ろに隠れる。
 研究生は、驚愕と怒りの形相でキャロットに問いかけた。
「一体、ここでなにをしているんですか!」
 キャロットは、しどろもどろになって答える。
「えと、ここにぷりょが一人でいたから……遊んであげようと思って……」
 研究員は、更に形相を険しくして叫ぶ。
「あなたは、それがなんなのか、わかっていないのですか?」
 キャロットはしばらく沈黙してから。
「……はい」
 と頷く。
 研究員は、怒鳴る。
「そのぷりょは、我々が魔法実験で生み出した……」
 ふと、後ろに違和感を感じてキャロットが振り返る。
 そこには。

 ●〜〜〜●

 場所は変わり、宿屋。
 ウインディは、すでに興味津々の三人を眺めながら、静かに言った。
「たぶん、あれは男よ。あのこ、あれでもめんくいだから、かなりいい男つかまえたに決まってるわ」
 アリサが、苦笑いしながら答える。
「またまた、キャロットに限って……」
 ウインディはその言葉を鼻で笑った。
「ふっ、わかってないわね。ああいう、一見大人しげな風貌の、遊んでないって感じの娘が、意外と男受けするものなのよ」
「そうか?」
 シャルムは疑惑の表情を浮かべるが、ウインディはすぐに反論した。
「そうよ。だって現に、あの子、やたら胸がでかいじゃない。胸っていうのは母性の象徴で、知的で巨乳の女性は男性の母性を求める心をくすぐって離さないものなのよ」
「と、いうことは、キャロットさんは今頃……」
 フィアの言葉に、ウインディは頷く。
「そ、いまごろ彼女の心は、翔竜山の天辺までのぼっているはずよ。男の胸の中で……」
 ウインディを除く三人の顔が、ボボッと真っ赤になった。
 ウインディはにやりと笑い、
「まあ、あの子も世間知らずのところがあったし、これを期に一丁前の女に生まれ変われば……」
 そのとき。
 ゼス王宮の近く、魔法学園のほうから巨大な爆発音が聞こえた。
 四人は驚き、窓から外を眺める。
 そして、絶句する。

 ゼスの空の下。
 そこにいたのは、巨大なゼリー状のモンスター。
 二十メートルはあろうかという、超巨大ぷりょは、ゼスの城下を闊歩していた。

 ●〜〜〜●

 ゼス王宮から少しはなれて。
 ここは、マジックの塔。
 塔には、放浪のゼス国王、ラグナロックアーク・スーパー・ガンジーの一人娘にしてゼス四天王の一人、マジック・ザ・ガンジーの姿があった。
 マジックは、今日も今日とて、学校の宿題に頭を悩ませながら、椅子に座って机に足かけていた。
 そこに、ゼスの兵士が現れる。
「マジック様、大変です!」
 マジックは、ペンの手を止め、兵士に向き直る。
「どうしたの?」
「ゼスの町に、巨大ぷりょが出現しました!」
「……はあ?」
 マジックは、唖然とする。そして、兵士に聞いた。
「詳しく話して」
「それが、ゼス王宮の魔法学校で管理されていた実験体が逃げ出してしまって、町で暴走しているのです」
「ふーん」
「このままでは、被害は広まるだけです! マジック様、どうしましょう」
「しらん」
「……は?」
 今度は、兵士が驚く番である。マジックは言葉を続ける。
「あたしが何かしなくても、親父の後家狙ってるあのケバイババアが、何とかするでしょ」
「……はあ」
「あたしは、宿題の続きしなきゃいけなんだから、あんた、どっか行ってよね」
「……わかりました」
 そう返事をして、兵士は退室する。
 兵士は、ゼスも長くないな〜、と思わずにはいられなかった。

 ●〜〜〜●

「はっくしょん!」
 ゼス王宮の城下町。
 大きなくしゃみをする影があった。
 黒い美しい長い髪、端正な容姿、スタイルは良いが、胸のないのが少し寂しい。
 それは、百人が見て百人が美女というであろう容姿の持ち主であった。
 しかし。
 そんなことはどうでも良いと思ってしまうぐらい、ズタボロのセンスをした服装に身を包み、ケバイにおいをあたりにプンプンとさせている。
 そう、それはゼス四天王にして黒色破壊光線の使い手、山田千鶴子!
 服装がダサければ、名前までダサい。
 千鶴子は、巨大ぷりょを指差していった。
「ほっほっほ! ガンジー様のいないのを見計らって好き勝手してくれてるわね。しかし、この山田千鶴子が現れたからには、もう終わりよ!」
「あの〜、千鶴子様」
 横にいた、青髪の魔法使いがおずおずという。
 ゼス一の魔法使いにして、千鶴子の一番弟子、アニス・沢渡である。
 アニスは言う。
「あれだけ大きい物になると、千鶴子様一人では無理なのではないでしょうか?」
「何を言うの? アニス。こういうときだからこそ、ガンジー様の好感度を上げる機会じゃないの。その機会をみすみす、他人に明け渡せって言うの?」
「いえ、そうではなく……手柄は千鶴子様一人のものにして、私もお手伝いしましょうか、という話なのですが……」
 ハリセン、バシーン!
「オバカっ! あなたみたいなバカに任せたら、ゼスが王宮ごと吹っ飛ぶでしょうが。そのぐらい考えられないの。この、脳みそプリン女!」
「酷いです〜。千鶴子様〜。あたし、そんなにオバカじゃありません〜。ただ、たまにほんのちょっぴり魔力の使い方を間違えるだけで〜」
 ハリセン、スカーン!
「それがバカッていってんでしょうが。この、脳みそすかたん女!」
「すかたん……」
「とにかく、見ていなさい、アニス。あんな魔物の一匹、このあたしがちゃちゃっとやっつけてあげるから」
 そういうなり、千鶴子は両手を掲げ、魔力を集めはじめる。
 黒色の球体は千鶴子の掲げた掌の上で、徐々に大きくなり、巨大なエネルギーの塊へと変化した。
 千鶴子が叫ぶ。
「必殺! 黒色破壊光……」
 バコーン!
 まさに、破壊光線の放たれようとした瞬間、アニスのほうきが千鶴子の頭を吹き飛ばした。
 千鶴子は頭に巨大なこぶをつくりながら、怒りの形相でアニスを睨む。
「なにをするのよ! アニス!」
「あ、いえ……千鶴子様のお美しい顔に蜂がとまっていて、それをやっつけようとしたんですが……」
 ハリセン、パコッパコンッ!
 千鶴子はそのままアニスの襟首をつかみ、ぶんぶんと振り回す。
「アニス! あんた、前からうすうす思っていたけど、そのオバカなの、もしかして計算でやってんじゃないでしょうね! そうよね! そうなのよね!」
「いえ、千鶴子様ッ! これは天然ですぅ〜!」
「っていうか、コロス! こんどこそ、コロス! ピカの材料にしてやる!」
「それだけは、ごかんべんをぉぉぉ!」
 そこに。
 二人を巨大な影が覆う。
 慌てて空を見上げる千鶴子とアニス。
 そこには、巨大ぷりょの姿があった。

 ぷち。

 ●〜〜〜●

 再び、マジックの宮殿。
 兵士が慌ててマジックの元に駆け寄ってくる。
「マジック様、千鶴子様がぷりょに潰されました」
「あっそう。それで?」
「それで……と、もうされましても……」
「用が済んだら、出て行って。宿題、たまってるんだから」
「……はあ」
 兵士はマジックの元から去る。
 やはり、ゼスは長くない、と、痛切に思わずにはいられなかった。

 ●〜〜〜●

 再び、ゼス王宮。
 幼い少女が、空を指差して言った。
「ポロンくん、大きなぷりょがいるにょ」
 ポロンが、少女、アリエッタの指差す方向を見ると。
 そこには、二十メートルはあろうかという巨大なぷりょが跳ね回っていた。
 一緒に歩いているライラとエレーンも呆然とする。
 ポロンは、呟くように言った。
「ゼスって変わった国だな、ぱらんちょもこのぐらいやらなきゃいけないのかな?」

 ●〜〜〜●

 その、ぷりょの足元。
 逃げるように、走り回っている四人の姿があった。
 アリサ、シャルム、ウインディ、フィアの四人であった。
 アリサが、走りながら聞く。
「ねえ、なんであたしたち、逃げ回ってるの?」
「ならあんた、あのでかいのと戦うつもり?」
 ウインディの言葉にアリサは首をぶんぶん振る。
「っていうか、なんであのぷりょに追われてるか聞きたいのぉ」
「知るか。たまたま、ぷりょの通る道をあたしたちが走ってるだけよ!」
「なんか、いい手、ないの?」
 シャルムの言葉に、ウインディは走りながら思案に耽って、頷く。
「一つだけ、方法があるわ」
「なに?」
「これよっ!」
 ウインディは、そう言うなりどこからともなく一振りの日本刀のような剣を取り出す。
 アリサは聞いた。
「それは?」
「ふっ、良くぞ聞いてくれました。これこそ、どんなぷりょでも一撃で葬り去るといわれている伝説の名剣、その名も、ぷりょスレイヤー!」
『おー!』
「こんなこともあろうかと、ひそかに手に入れていたのよ」
「そんなものがあるなら、さっさと出せ!」
 シャルムはそこで、すこし言葉をきる。
「……で、誰が行くの?」
 その言葉に。
 ウインディは迷うことなく一番後ろを歩くフィアに剣を手渡す。
「どうして、あたしなんですか!」
 反論するフィアに、ウインディは答える。
「あたしは魔法使い。シャルムは格闘専門、そうなれば必然的にあんたってことになるでしょ」
「ちょっと待ってください。まだ、アリサさんがいるじゃないですか」
 ウインディは溜息をつく。
「ふっ、わかってないわね。あんた」
「え?」
「これは、芸能界で言うところの、『おいしいところ』なのよ。本来ならアリサが適役のところを、新参者のあんたに譲ってあげようっていう、あたしのやさし〜い心遣いがわかんないわけ?」
「……ウインディさん」
 フィアは感動して、ぎゅっとぷりょスレイヤーを握る。
 あっさりと騙されている。
 ウインディは目の前に立ちふさがるぷりょを指差した。
「さあ行け! フィア! その剣を使ってあの巨大なぷりょをやっつけてしまえ!」
「はいっ! わかりました!」
 フィアが駆ける。
 ぷりょスレイヤーは、きらびやかな光を放ち、振りかぶられた。
「てぃやぁぁぁぁぁあああ!」

 ぷち。
 
● 〜〜〜●

 そんな、めちゃくちゃなゼスの街中に三人。
 一人は、海賊風のごつい男。
 一人は、JAPAN風のやまとなでしこ。
 一人は、赤い髪のポニーテール少女。
 そう、三人合わせてゼスの水戸黄門、ガンジー一行である。
 ガンジーは、後ろを歩くカオルと、ウィチタに聞く。
「スケさん、カクさん、あれはなんだ?」
「さあ?」
「巨大なぷりょに見えますが……」
「ふむ」
 ガンジーは、しばらく考える素振りを見せる。
「放浪の身とはいえ、仮にもわしはゼス国王、このような事態をほおっておくわけにはいかないな」
「ガンジー様……」
「ステキです!」
 ガンジーは言う。
「スケさん! カクさん! あのふとどきなぷりょを懲らしめてやりなさい!」
「はいっ!」
「どこまでもついてきます!」
 三人はぷりょに駆けて行く。
 ガンジーは巨大な魔力の塊を掲げ、叫んだ。
「必殺! 破邪覇王……」

 ぷち。

 ●〜〜〜●

 再度、マジックの塔。
 兵士がまたもや、マジックの元に駆けてくる。
 マジックは、いやいやそうな顔で兵士に聞いた。
「今度は何?」
「そ、それが……国王……お父上がぷりょに潰されました!」
「あ、そう」
「……」
「他に、何か?」
「あの……失礼ですが、助けにいかれないのですか?」
「あの親父なら、ぷりょに潰されたぐらいで死ぬようなことはないでしょ。それより今、この問題といてるんから話しかけないでよ」
「あ、わかりました。失礼します」
 そう言い、立ち去る兵士。
 兵士はやっぱり、ゼスも長くないな、と思わずにはいられなかった。

 ●〜〜〜●

『ここは、ゼス王宮の郊外になります。ゼス王宮に現れた謎の巨大ぷりょは、その巨大な体でゼスの城下を闊歩しております。すでに、ゼス王宮の三分の一が被害にみまわれ、その町並みに巨大な爪あとを残しております。あ、ぷりょがやってきました。巨大です。なんて巨大なのでしょう。まるで怪獣のようです。あ、潰されるッ! ああっ!』

 ガー!

「ランス様、テレビ、また壊れたみたいですよ」
「うむ、そろそろかいかえなくてはな。それより、来いシィル、一発やるぞ!」
「きゃっ、ランス様ッ! いけません!」
「あてなもまぜるのれす!」

 ●〜〜〜●

 もはや、廃墟になった町並みに一人の少女が立っていた。
 キャロットは呟くように言った。
「ポロンくん(ぷりょのこと)、もうやめて……」
 しかし、巨大ぷりょは、いまだ、ゼスの町を破壊しながら横行を続けていた。
 火があがり。
 町は壊れ。
 子供が泣き。
 まさに、ゼスは今、地獄と化していた。
「なんで、こんなことに……」
 キャロットは一人、泣く。
 そこに。
「ちょっと、あんたっ!」
 キャロットが振り向くと、そこには巨大ぷりょに潰されながらも、包帯だらけで、棒切れ一本を支えにやっとこさのウインディたちがいた。
「これ、全部あんたの仕業でしょ!」
 やっと、突っ込むやつが現れた。
 ミイラ状態のウインディは、キャロットに一本のぷりょスレイヤーを渡す。
「キャロット、これであいつに引導を渡して来い!」
 両手でぷりょスレイヤーを受け取るキャロット。
 しばらく、悩んだあと。
 キャロットは、ぶんぶんと首を振った。
「あたし、できない! あの子を殺すことなんてできない!」
 そして、遠い目をして語り始める。
「ポロンくん(ぷりょのこと)とであったのは……」
「そんなこと、どうでもいいわ! さっさとやらんか!」
 ミイラウインディが、ぶんぶんと棒切れ振り回しながらはっぱをかける。
「ウインディ、あなたはなぜ、そんなにひどいことを言うの?」
 その一言に、ミイラ状態のシャルムが座った目で呟く。
「なあ、ウインディ。なんか、妙に殺意が沸いてきたんだけど」
「言うな。あたしも、黒色破壊光線をこいつに向かってぶちかましたいところなんだから」
 そこに。
 ズドン。
 キャロットは、とっさに振り返る。
 そのとき、ぷりょスレイヤーの腹がウインディとシャルムの頭にぶち当たり、とどめを刺したのだがさして気にする必要はないだろう。
 キャロットの目の前。
 そこには。
 巨大ぷりょがいた。

 ●〜〜〜●

 巨大ぷりょとキャロットが向かい合う。
 巨大ぷりょは、キャロットのことがわかっているのか、なつくような声をあげて立ち止まった。
 キャロットは、巨大ぷりょを見上げて言う。
「ポロン……くん(ぷりょのこと)」
「ぷりょー!(意味不明)」
 ぷりょが鳴く。
 キャロットは語り始めた。
「ポロンくん(ぷりょのこと)とはじめてあった日のこと、覚えてる? あのとき、あなたはまだ小さくてあたしの膝元でなついてくれたよね。あのとき、久しぶりに思い出しちゃったの。ぱにょんだった頃のポロンくん(本物)のことを……」
 キャロットはにっこり笑う。
「ぱにょんのころのポロンくん(本物)は、かわいくてね。足も遅いし、力も弱いし、まるで従順な子犬のようだったの。あたしはいやがるポロンくんを膝元にのせてね。かわいがってあげたの。あの時、こうおもったんだ。あたし、いまポロンくんを支配している、ってね」
 けっこうブラックなことを遠い目で語るキャロット。
「でも、ポロンくんがぱらんちょ王国で人間に戻った時、けっこうかっこよかったりして、『ヨッシャー! ギャクタマ!』とか、思ったりもしたんだけど、ポロンくん、優柔不断でね。アリエッタとばっかり仲良くして。ううん、ロリコンだなんて思っていないよ。ただ、あたし以外の女と仲良くするのは、ムカツク、殺してやりたい……なんて思ったりもしていないんだけど、やっぱり、少し寂しくて。一度、ヤマネさんを呼び出して戻すように問い詰めて……じゃなくて、相談したんだけど、やっぱり駄目だって。あいついっぺんシメタロかい……なんてことも思ってないんだけど……やだね、なんか愚痴ばっかり」
 寂しげな目をするキャロット。
「で、あなたと仲良くしているうちにあたし、思ったんだ。もしかしてこいつも、それ系かもしれない、と。まあ、当てははずれちゃったんだけど。ううん、怒ってないよ。ぜんぜん怒ってないよ。やだな、本当に怒ってないんだから。だから、怒ってないって」
 怒ってる。
「ただ、あたしが言いたいことは一つ。いままで、ほんの少しだけど楽しい時間をありがとう。それだけ」
 ぷりょが、「ぷりょ?」と鳴く。
 これから、何が起こるかわからない、いつもの様子。
 しかし、キャロットはやらなくてはいけなかった。
 これ以上、ゼスの町を破壊させない為に。
「ポロンくん(ぷりょのこと)、大好きだったよ。本当に大好きだった……」
 キャロットは、ぷりょスレイヤーをかまえる。
「だから……」
 キャロットは、ぷりょスレイヤーを振り上げ。
「……さよなら!」
 振り下ろした。

 巨大な爆発音が響く。

 キャロットの振り下ろしたぷりょスレイヤーは巨大ぷりょを切り裂き。
 ぷりょは赤のゼリーになって散る。
 ゼスの町に赤い雨が降る。

 それは、一匹のぷりょの涙だった。

 ただ、キャロットには聞こえていた。

 最後にぷりょが。
「ありがとう」
 そう、言った事を。

 ●〜〜〜●

 ゼスの郊外。
 その、高台。
 そこに、一匹のぷりょの墓標があった。
 研究所の実験体として生まれ、多くの人間を恐怖の惨劇に巻き込み、最後には愛しい人に殺されてその人生を終えたぷりょの墓が。
 その前に立つ、桃色の髪をした少女。
 キャロットは、一束の花束をそこに添え、呟くように言った。
「お休み、もう、眠ってもいいからね」
 キャロットはそう言いながら、一滴の涙を垂らす。

【巨大ぷりょに花束を】

 墓標には、そう書かれていた。
 キャロットはしばらく滴り落ちていた涙を拭き、振り返る。
「みんな、それじゃあ冒険の旅を再会しようか」
 振り返った先。
 そこには、ズタボロになった町並みと。
 半壊した王宮と。
 ミイラになった四人の姿があった。
 キャロットはにっこり笑ってこう言った。
「あたしのことは心配しなくていいから」
 ね、と笑う。
 ミイラになった四人は、無言で頷きあい。
 それぞれの獲物を握る。

 だれが、あの惨事の二次災害を想像したのだろう。

 ●〜〜〜●

 またまた、マジックの塔。
「マジック様! ゼスの町で正体不明のミイラ四体と桃色の髪の魔女が交戦を繰り広げて降りますッ! ……って、あれ?」
 マジックの私室につながる扉。
 そこには。
『宿題終わったから寝る』
 そう書かれた紙が貼ってあった。

 兵士は、ゼスももう終わりだ、と確信した。



<注意書き>
この作品は完全無欠絶対無敵のフィクションであり、
更に言うなら思いっきり二次創作であり、
実際のランス作品やぱにょん作品などとはぜんぜん関係がありません。
あまつさえ、これはこれで一つの「ゼス崩壊」などというつもりもありません。