ルートB
サバサバの王子



 ここは、サクラ&パスタ。ゼスでも名高い料亭である。
 ゼスのはずれであるサバサバ、この土地に、一向はしばらくとどまることになった。
 理由はたいしたことではないが、魔の森で育ったフィアに、おいしい食べ物を食べさせてやろうというエレーンの提案だった。
 と、言うわけでウインディにシャルム、ポロンにフィアは、出店を見ているキャロットやアリサ、武器屋で新しい剣を探すライラ、公用のために出歩くエレーンより先にすこし早い食事をこのおいしいことで評判な店でとることになった。
そんな店に、一つの声が木霊する。
「おばちゃーん、パスタ大盛り二つね!」
 大きな声で頼むシャルム、一向は呆れ顔だ。
 しかし、そんな様子の周りをまったく気にせずに食事を続けるシャルムは、大物といえばある意味そうだろう。
「まったく、良く食べるわね。そんなにがつがつされるとこっちが食欲を失うわよ」
 小食のウインディが、手羽をかじりながら言った。しかし、そんな言葉もやはり、シャルムには届かない。
「ふぃんは、はふぇふぁいほ、ふぉいふぃーふぉ」
「みんな、食べないの、おいしーよ!」
 アリエッタが、シャルムの良く聞き取れない言葉を、翻訳する。こう言うときには便利な癖だ。
「いや、僕達は良いよ……」
「あれだけ、食べられるとね……」
 フィアとポロンが、苦い顔を見合わせる。目の前で、人の倍の食事をとられたらさすがに食欲も尽きるだろう。
「ふぁっほー」
「あっそー!」
 相変わらず、アリエッタは翻訳遊びに夢中だ。
「まったく……」
 ウインディは、不機嫌な顔を崩さない。ある意味、この中で一番気難しいかもしれない。
 そこに……
「大変よ! みんな!」
 数日前に仲良くなった、サクラ&パスタのオーナであるマルチナ=カレーが顔を蒼白にしてかけこんできた。
「あっマルチナさん」
「こんにちはー」
「ふぇふぃふぁふぇふぇふぁふふぉー」
「飯食べてますよー!」
「そう、ごゆっくりね……じゃなくて」
 そこで大きく手を振り下げる。
「大変なのよ!」
「何が大変なんです?」
 フィアが聞く。マルチナは、大きな声ではっきり答えた。
「王子様が来るのよ!」
「は?」
 砂漠で耳を痛めたのかなぁ、ポロンはそんなことを思った。

  ●〜〜〜●

 人だかりができていた。
 ポロン達は、その人垣を乗り越え中心のほうへ移動する。そこには、その人物が立っていた。
確かに、それは王子様だった。
金の冠に、短く切った茶色の毛、そして大きめのかぼちゃパンツに加え、ローセンスなパンスト、どこからどう見ても、王子だった。
「確かに王子だけど……」
 あきれたような顔で言うポロン、そんなポロンに横のフィアはうなずいた。
「おー、お前ら。来たか!」
 すぐ隣を見る、そこには二十四魔族の一人であるにもかかわらず人間であるマルチナの料理の味に惚れ、今やその召使的な立場にまで落とされたはらぺこ魔人、ガルティアがいた。
「ガルティアさん、こんにちは」
「挨拶はいらねぇよ。
 それより、あれを見ろよ。王子だろ」
「確かに王子ですけど……」
 それ以上の言葉は言えないポロン。ウインディがガルティアに聞いた。
「で、何であの王子、もとい王子の格好をした人が公衆の面前であんな格好をしているわけ?」
「ああ、それがな」
 そこで、ガルティアは口元に手をやる。
「あいつはルリックって言ってな、この町の町長の息子なんだ。
 今度、結婚をしようと思うんだが、普通の方法でお見合いしても好みの女にはなかなかめぐり合えない。
 そう言うわけで、自ら王子の格好をして人目を引き、集まってきた人の中から自分の嫁候補、婚約相手を決めようという腹らしいぜ」
「なんか、論点がずれているわねぇ」
 あきれた顔で言うウインディ。
「まあ、俺はマルチナがいれば十分だけどな。なあ、マルチナ」
「何いってんのよ」
 明らかに深い意味の無いガルティアの言葉だが、それに赤くなるマルチナ、まんざらでもなさそうだ。
「はいはい、一生のろけてなさい……
 それにしても、あんなボンボンに選ばれるなんて不幸な女よね。いったいどんな女性が選ばれるのかしらね」
 ウインディは、状況を楽しむように言った。
 しかし。
 そこで、ふと王子が立ちあがる。
 ルリックは焦点を合わせると、その先に向かってすたすたと歩いていった。
 そして。
「惚れました。結婚してほしい」

『えー!』

 その先には、買い物袋を携えたエレーンがいた。

 ●〜〜〜●

 そして、夜の宿屋。
 とりあえず、キャロットとウインディ、ライラは寝室に戻り、残ったポロン達は下の食堂で食事を取っているのだが……
 その食堂に、ひときわ大きな声が聞こえた。
「冗談じゃないわ!」
「ごもっともです……」
 いつもの様子じゃないエレーンの剣幕に、なんとなくたじたじになるポロン。それほど、エレーンは我を忘れていた。
「でも、選ばれたんだし……」
「なら、シャルムが結婚しなさい!」
 黙りこくるシャルム。それほどまでに、エレーンには危機迫るものがあった。
「で、どうするの? 結婚するの?」
「結婚するー!」
「……しないわよ」
 面白半分に聞いてくるアリサに、なんとなくつまらない様子でエレーンは言葉を返した。
「大体、あの男の基準は何なの?何で、私が選ばれたわけ?」
「いや、エレーンさん。美人ですし」
 慰めのつもりだろうか、フォローになっていないフォローをフィアは言った。
「まったく、あの後も大変だったんだから。
 散々ついてこられて、家族に紹介するわ、結婚指輪を渡されるわ。とんだ一日よ」
「まぁ、文句言いたい気持ちもわかるけどね」
 ポロンは、そう言いアルコールの低い酒の入ったコップを渡す。普段は酒など飲まないエレーンだが、さすがの今日は一気にかき入れる。
「もうねる!」
 そう言うと、エレーンは大きな足音を立てて部屋に戻っていった。
「ひゃー」
 口元に手をやるアリサ。
「今夜はさすがに荒れてるね」
「それは、そうですよ、あんなことがあったんだもん」
 フィアはエレーンを気遣っているようだった。やはりこの中で一番まともな人間だろうか。
「大体、アリサさん。いきなり知らない相手に、「結婚してくれー」なんて言われてストーカー的に追い回されたら嫌でしょ?」
「かっこいい人だったらいいけどなー」
「グリーンハニーだったら?」
「うっ、いやかも……」
 さすがに、本気でうんざりしたのか、フィアの言葉に顔をしかめるアリサ。
「でも大丈夫だよ。エレーンのことだから明日の朝にはけろっとしてるよ」
 気楽に、椅子に寄りかかり言うシャルム。楽観思考はうらやましいと思うポロンだった。
「ほら、見てな。もう酒が回って眠っているころだから……」
「そうかな?」
 アリサは、なんとなく胡散臭がる。そんなアリサにシャルムは指を見せて、
「大丈夫、後三秒で、エレーンの嫌な記憶がこの世から消滅することをここに誓いましょう。三、ニ、一……」



「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」



 沈黙する一同。アリサは、シャルムをジト目で見て。
「だめじゃん」
 ただ、そう呟くだけであった。

 ●〜〜〜●

 宿屋の二階に駆け込むと、そこにはすでに、声を聞きつけたキャロットとウインディ、ライラが立っていた。
「あっ、ポロン君」
 キャロットが声をかけてくる。
「どうしたの?」
「うん、エレーンの悲鳴が聞こえたから来てみたんだけど、扉に鍵がかかって開かないの」
「どうするの?ポロン君」
「エレーンさんの身に何かあってからじゃ遅いし、扉を壊そう」
 そう聞くと、ライラは頷き、扉を壊そうとタックルをする。
 ガッ!ガッ!
「結構丈夫だわ……」
「僕も手伝うよ」
「そう、それじゃあ一斉の、でいくわよ」
「はい」
 すぐさま構えるポロン。
「いくよ」
『いっせいの……せっ!』
 ガッ、バキィィィン!!!
 木のつくりの扉が壊れる。そこには、
「へ?」
 下着を残し、半裸のエレーンと、それに寄りかかる王子の姿があった。
「……」
 呆然とする一同、それはキャロットの叫びで終わる。
「きゃあああああああああ、不潔ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
 泣きながら、逃げ出すキャロット。ポロンもそれを見て自分も逃げ出したいと思った。
「……いったい、何をしているんですか?」
 状況を見れば分かるが、とりあえず聞いてみるポロン。その言葉に対する王子の言葉は簡潔なものであった。
「夜の契りだ」
「はあ」
 納得するポロン、しかしエレーンは否定する。
「違うの、ポロン君。私が寝ていたらこの男が窓から侵入してきて、私と一つにならないかって襲い掛かってきたのよ」
「人聞きの悪い」
 今度は、王子が頭をふって否定する。
「私は、後の妻となる人物に自分のすべてを知ってもらいたいと……」
 しかし、王子は気付いてただろうか。
 一同の顔が怒りにゆがんでいることに。
「要するに……」
 シャルムが指を鳴らす。
「悪党はあんたって訳だね」
「いや違う。だから……」
「問答無用!!!」

 バキィィィィィィィィィ!

 シャルム、渾身の蹴り。
 王子は窓を突き破り街の向こうまで飛んでいった。
「成敗!」
「まったく、人騒がせな……」
 ライラは、腕を組みながら疲れたような顔で言った。

 ●〜〜〜●

 それからというもの、王子はたびたびエレーンの前に顔を出した。
 時にはルパンのように。
 時には娼婦のように。
 彼女を追いまわした。
 それこそ、大陸でなかったらストーカー法に引っかかる勢いで男は現れた。
 で、そんな波瀾に満ちた数日が過ぎ、その日の昼、ポロンは、エレーンとライラ、アリエッタ、フィアといっしょに今や常連となったサクラ&パスタにいた。
「まったく、エレーンも災難よね」
 マルチナが、声をかけてくる。昼時というのに接客はいいのだろうか。そのマルチナの言葉に対し、エレーンはうんざりした顔で答えた。
 この数日間。何時王子が来るか分からないので、常に気を張っていてほとんど眠っていないのだ。
「それにしても大丈夫?」
「大丈夫に見えるわけ?」
 エレーンの言葉に押されてか、首を横に振るマルチナ。
「まったく、何であんな男に追いかけられなきゃいけないのよ……」
そして、ため息をつくエレーン。
バタンッ!!!
 そこに王子が現れた。
「やあ、実は良い新婚旅行のパンフレットを仕入れたんだ、ヘルマン七日の旅って言う、それはもう最高の……」

 ゲシィィィィィ!

 しかし、その言葉が終わる前に王子はエレーンの渾身の蹴りにより街道の向こうまで吹っ飛んだ。
「ありゃー」
 あまりの出来事に、フィアはうめいた。
「大変ね、王子も」
「大変なのはこっちよ、まったく」
 マルチナの言葉にエレーンは毒づいた。
「しかし、王子も一途よね。ルリックだっけ。
 あんなに蹴られてはったおされても、まだエレーンのことをあきらめないんだもん」
 そこで、ふとにやけるマルチナ。
「そうだ、いっそのことあいつの嫁になっちゃえば」
「な、何を言うのよ!」
 顔を赤面させて怒るエレーン、しかしマルチナは続ける。
「一応あいつも、この町の町長の息子だし、家柄も悪くないよ。それに嫁になって初めてわかることもあるしさ、結婚しなよ」
「い、いやよ。そんなこと」
 エレーンは首を思いっきり横に振った。さらにマルチナは意地悪そうな笑みをこぼし、
「それとも、本当の王子様が好み?」
「えっ、そんなことは……」
 エレーンは、再び首を横に振る。しかし、ふと横の少年、ポロンを横目で見たのをマルチナは見逃さなかった。
「へぇ、ははーん」
 そこで、ポロンのほうを向き、
「エレーンはこういう男の子が好みなんだ。ふーん」
「へっ?」
「なにを言うのよ、いきなり!」
 状況を飲み込めないポロン、エレーンはそんなポロンを尻目に思いっきり取り乱した。
「ポロン君はどうなの、エレーンが好き?」
「えっ、えっ?」
「なに聞いてるのよ!」
「え、エレーンさんの事好きだったの? ポロン君!」
「ポロンのお嫁さんになるのはアリエッタにょ! エレーンはとっちゃだめにょ!」
 もはやしどろもどろだ。そんな中、ただ一人ライラだけが冷静に出された豆茶を飲んでいた。
「まったく、なんて事を言うのよ……」
「ふふふ、ご免ね」
 意地悪そうに舌を出すマルチナ。
 そこに、ガルティアが慌てて入ってきた。
「大変だ、魔族が大群で来やがった!」

 ●〜〜〜●

 街と砂漠との国境、要するに街の出口、そこにアリサとシャルム、それにウインディとキャロットはいた。
「うわー、すごいね」
 アリサが感心するように砂漠の向こうから進軍する魔物の大群を見ていう。
「ざっと三百匹以上いるわね」
「えー、どうするのー!」
 冷静にいうウインディに、キャロットは取り乱した。
「今は、傭兵が出払っててほとんどいないんだから、あたし達がやるしかないでしょ」
「でも、三百匹もいるんだよ、勝てるわけがないよ」
「大丈夫よ!!!」
 そこでウインディが胸を叩く。
「なにか、秘策でもあんの?」
「ふっふっふ、良くぞ聞いてくれたわね」
 なんとなく聞いてみたシャルムに、ウインディは待っていたかのように答える。
「この魔法都市であるゼス、魔法至上主義者であるこの私がこのすばらしい魔法の叡智あふれた土地を黙って通りすぎるはずは無し!」
「はあ」
「そうなの……」
「で、続きは?続きは?」
 なんとなく一歩退くシャルムにキャロット、何を考えているのかアリサだけは聞きほれていた。
「魔法研究施設に通うこと三日と三晩、そこで習得した我が秘術。
 とくと御覧なさい」
 そういい、ウインディはなぜか魔方陣を描く。
「なんだい?あれ」
「うん、魔力増幅の魔法陣」
 そこで、魔法陣を描きおわるウインディ、魔法陣の中に入ると魔術の詠唱をはじめた。
「あ、これ!」
 なにかに気がついたように声をあげるキャロット、その声にウインディはにやりとした。
 そこで、詠唱が終わる。
「黒色破壊光線!」

 ドガァァァァァァァァァァァン!

 その威力はすさまじかった。まさに、すべてを破壊せんが勢いで、その光線は魔物の大群の約三分のニを飲み込んだ。
『……』
 言葉を失う一同。
「す、すごいよ。ウインディ!」
「本当に、いったい何時おぼえたの?」
「あんなすごい魔術、見たことないよ!」
 口々に感嘆の言葉を並べるアリサ達。そんな彼女達に体中に汗を浮かべながらブイサインで答えるウインディ。
「ふっふっふ、見なおした?」
 ウインディは、不敵な笑顔を浮かべる。しかし。
 フラッ、バタッ!
「ウインディ!」
 キャロットが心配してウインディのそばに向かう。そんなキャロットにウインディは、
「さすがに、この魔術は疲れるわ。
 この国の国王クラスなら連発で唱えるのも可能らしいけどね」
 そういい、にっこり笑うと。
「すこし疲れたから休むわ、後始末はおねがいね」
 そういい、その場で眠ってしまった。

 ●〜〜〜●

「ちっ、きりがねえな……」
 ガルティアは、あまりの魔物の数に思わず毒づいた。

 あれから、とりあえずポロンはマルチナや王子、もといルリック、フィア、それに戦闘能力の無い街の人々をサクラ&パスタに避難させ、それからすでに進軍を終え街に溢れ出している魔物達の討伐に出た。
 実際の話、アリエッタもそれなりに戦えるのだが、さすがに子供を戦闘に出せないというガルティアの意見で彼女もまたサクラ&パスタに避難している。

 現在、ガルティアについているのはポロンと、ライラ、後エレーンの三人である。
「おーい、ついてきてるか?」
「ええ」
 エレーンは返事をする。
「お前も、サクラ&パスタに残ったほうがよかったんじゃねえか」
「そうも言ってられないでしょ、この一大事に」
 実際の話、王子と一緒にいるのが嫌だっただけなのだが、あえてエレーンはそのことを口にしなかった。
「とりあえず、この魔物達を殲滅するのが優先ね」
 そう言い、エレーンは近くにいたグリーンハニーの一匹を半ばこの数日間の怒りのやつあたり気味にひっぱたいた。
 そこに。
「グガー!」
 建物の影から新手のモンスターが襲い掛かってきた。
「ちっ、しっけーな」
 しかし、その魔物もガルティアの一撃で葬り去られる。
 さすがは魔人と言ったところだろうか。
 するとさらに、道の向こうから数匹の魔物が現れた。
「くっ!」
 ライラが走る。ガルティアの横を通りすぎてその魔物の群れと接触するとバスターソードを華麗に舞わせた。
 その一瞬で数匹の魔物の人生に幕がおろされた。
「おい、俺の後ろに隠れてろよ。
 一応俺だって魔人だから、あいつら程度にゃ倒せないぜ」
「そうも言ってられないでしょ」
 ライナは、そう言うと一度バスターソードを鞘にしまった。
「まったく、無茶すんじゃねえ」
「魔人だからって不死身って訳じゃないでしょう」
「ちげーねえ」
 そう言い、大声を立てて笑うガルティア。今だからこそ言えることだが魔人だって死ぬときには死ぬのだ。
「それより、早く他のみんなと合流しないと……」
 ポロンが言う。その言葉に頷くエレーン。
「しかし、誰かが黒色破壊光線なんて放ってくれたおかげで助かったわ」
「はい、さすがにこの倍はいたら厄介でしたからね」
「俺は昔。たった一人でこの十倍と戦ったことがあったぞ」
「魔人は特別でしょ」
 ライラはとりあえずそれを嘘だと決め付けて流した。実際の話本当のことなのだが。
「それより、サクラ&パスタは大丈夫かしら」
「とりあえず、何人か傭兵が見張っているから大丈夫だと思いますが」
「それじゃあ、そのことは安心していいのね」
「ああ、結構精鋭ぞろいだったからな」
 実際、現在この街のほとんどの傭兵が魔物討伐で出てしまっているのだが、残っていたものの中にはそれなりに名も知られた人間もいたのだった。
 おそらくは、魔物達が傭兵達を陽動してその隙にこの町を落とそうとしたのかもしれない。そうなると、なかなか頭の切れるやつらだ。
「とりあえず、町のはずれのほうにいってみるか。
 あそこから黒色破壊光線が出てたみたいだし」
 ガルティアの提案にライラは頷いた。だが。

 大きな叫び声が聞こえた。

「!」
「サクラ&パスタのほうだわ」
「マルチナ!」
 ガルティアが、気が動転したように叫ぶ。しかし、その場を離れていいのか戸惑ったのか、駆け出しはしなかった。
 そんなガルティアにポロンは声をかける。
「行ってください、アリエッタだけじゃ心配だ」
「すまねぇ」
 そう言うと、ガルティアは駆け出した。

 ●〜〜〜●

 サクラ&パスタ。
 数人のてだれの傭兵が見張っているから一見一番安心かと思われたこの場所だが、魔物たちの狙いはあらかじめここだったようで、何十匹もの魔物がこの場所に対し集中攻撃をかけてきた。
「グガー!」
「ぎゃああああああああ……」
 また一人、隙を突かれて傭兵が絶命した。
「くっ、畜生!」
 傭兵の一人が、魔物の一匹に切りかかる。
 ザシュッ!
 その剣は、確かに魔物の心臓を捕らえた。しかし。
「離せ! 離せよ!」
 魔物の最後の抵抗だろうか、たった一本しかないその剣を魔物は残った全ての力を降り注ぎ、つかんだ。あるいは、剣への執着を無くせば助かったかもしれない。
 そして。
 他の魔物の一撃は、その男の首をふっ飛ばした。
 サクラ&パスタを守る傭兵はいなくなる。
「……クッ」
 その表の光景を店の中から見てマルチナはうめく。
「ねえ、大丈夫にょ?」
 アリエッタが、マルチナの服の裾をつかみ、緊張感の欠片も無い声で聞いた。
「ええ、大丈夫よ」
 それは気休めでしかなかったが、とりあえずマルチナはアリエッタに無駄な心配をかけまいと嘘をついた。
「心配しないで。ここには魔物は来ないから」
「もし来たら、アリエッタが追い払うにょー!
 こう見えてもアリエッタとっても強いんだにょ!」
 そう言い、かさをぶんぶんと振り回す。その光景を見たマルチナはくすっと笑った。
「ありがと、でも平気よ」
 とりあえず、後何分かはもつだろう、その間に何をしなければならないか、マルチナは考える。しかしそこに。
「どうするんだよ、魔物が入ってくるじゃないかー!」
 避難している人々をパニックにさせるようなことを大声で言い、その男はマルチナにつかみかかった。
「僕はまだ死にたくないよー!
 金はいくらでも出すから助けてくれよー」
 ルリック王子である。マルチナはいい年をして混乱する王子に苛立ちながらもたしなめる。
「ちょっと、落ち着きなさい。
 町長の息子のあなたが取り乱してどうするの?」
「だってー!」
 実際、今の言葉でサクラ&パスタの中の人々に、より強い不安の色が灯る。来れ以上混乱は避けたいし、なによりも一刻も早く状況の打開策を見出したいのだが。
「そうだ、逃げよう。
 ここもレストランなら裏口の一つぐらいあるだろう!」
「だめよ、すでに囲まれてるわ」
 これだけの数がいること、それにやつらが陽動や集中攻撃をするほどの頭脳を持つ事から考えて、裏口に気付かないはずはないだろう。裏口はフィアに見張ってもらっているのだがおそらく聞くまでもなくそうである。
 それを見越して、マルチナはあえてこの場から離れれることをしなかった。
「ならどうするんだよ!
 このまま死ぬのを待っていろって言うのかよ!」
「落ち着きなさいって言ったでしょ!」
「落ちつくにょ!」
 まねをするアリエッタ、そんな彼女に王子は、
「うるさい、ガキ!」
 そう言い、払いのける。さすがに、マルチナはそんな様子にカチンときた。

 バシッ!

 大きな音が鳴り、王子が倒れる。
 それは、マルチナが放ったビンタであった。
「なにがガキよ、あんたに比べれば落ち着いてる分アリエッタちゃんのほうが大人よ。
 それにね、あんたは男でしょう。
 そんなあんたが真っ先に取り乱してどうするのよ。
 男なら男らしくしなさい!」
 頬を押さえ、はっとする王子。それは、マルチナに叱られ初めて何かを掴んだ目だった。
 しかし。

 バキィィィィン!

 扉が破られ、数匹の魔物が店の中に入ってくる。人々の悲鳴が上がった。
「遅かった!?」
 それは、まさに絶体絶命であった。
 四方を囲まれ、さらに戦闘能力を有するのは誰もいない。四面楚歌である。
 魔物たちの歓喜の咆哮が店に溢れ出す。
 マルチナは、祈るように座りこけた。
『……ガルティア!』
 それは、おそらくマルチナの精一杯の祈りだろう。しかし、神の眠っているこの大陸でいったい誰が聞き届けたのであろうか、その願いは受諾された。
「マルチナ!無事か?」
 ガルティアが、外に溢れている数十の魔物全てを倒したのだろうか、所々服を擦り切らせた状態で助けにきた。
「ガルティア!」
 涙目のマルチナ。それは最後の一瞬まで信じてたものの瞳であった。
 しかし。
「死ねぎゃー!」
 近くにいた魔物の一匹がマルチナに襲い掛かる。マルチナは、思わず瞳をつぶり身をちぢこめる。
「マルチナ!」
 しかし、次にマルチナが見た光景は凍り漬けにされた魔物だった。
 後ろを振り向く。
 そこには、今さっき氷の矢を放ったキャロット、ブイサインを浮かべているアリサに、安堵の息をつくフィア、それに眠りこけるウインディを担いだシャルムがいた。

 ●〜〜〜●

 あれから数日。
 魔物たちは全て始末され、町には再び平和が戻った。
 死者はゼロと行かなかったが一般人に対する被害は極めて少なく、傭兵に数人死傷者が出たのみだった。
 おかげで、ポロンたちの協力もあり、街も思ったよりも早く建て直しができた。
 で、今日はお礼交じりに新メニューのパスタをご馳走しようと、マルチナに呼ばれ、ポロンはシャルムとフィア、それにアリエッタとエレーンをつれて食事に出かけたのだが。
 サクラ&パスタでは。
「はーい、どうぞ」
『ナーイス!』
 シャルムとガルティアは、声を合わせて言った。それと同時に、パスタを我先にと皿によそり、食べ始める。
「で、あの後どうなったの?」
 マルチナは、エレーンに聞く。エレーンはそんなマルチナに、
「それなんだけどね、何を考えているのか馬鹿王子、この数日間姿を見せないのよ」
「よかったじゃないですか!」
 フィアは言う。確かに、よかったといえばよかったのだろうか。
「あんだけ着き回された後に、プッツリ来られなくなるとこっちとしても張り合いがないというか」
「そんなこといって、本当は好きだったんじゃないの?」
 思わずパスタを噴出すエレーン。そんな様子を見て。
「汚いですよ」
 とフィアは言った。
「でも、本当に来ないね」
 これはポロン。さすがにここまで急に変わると誰でも不思議に思うのだろうか。
「もしかして、他に好きな人ができたりしてね。
 案外こないだの戦闘で新たなる恋に目覚めたのかもしれないですよ」
「新たなる、恋か」
 マルチナは、そんなことを言いすぐ隣でパスタをもさぼるガルティアを見た。
 彼は所詮、色気より食い気なのである。
 なんとなく頭にくるマルチナ。そんな彼女に、
「おかわりー!」
 そう言い、パスタの皿を渡すガルティア。
「居候なんだから、ちょっとは遠慮しなさい!」
「わ、分かったよ!」
 マルチナの迫力に押されてか、黙るガルディア。今回は完全にタイミングが悪かった。
「しかし、本当に私をあきらめたのかしら・・・・・・・・・」
 その程度の魅力しかないのか、なんとなくエレーンはため息をつく。
 そこに。
 扉が開く。
「はっはっは、迎えに着たよ。マイベイビー!」
「王子?」
 確かに、それはルリック王子だった。だが、王子の格好ではなく……
「なに? それ……」
 それは、コックの格好であった。ご丁寧にも、右手に中華包丁、左手にお玉を持っている。
 王子は、風よりも早くマルチナの前にくると、
「君に殴られて思ったんだ。
 僕にはそんな風に叱ってくれる人が必要だと・・・・・・・・・
 僕と結婚してくれ!」
「は?」
 思わず、頭が真っ白になるマルチナ。エレーンは横から口を挟む。
「あんた、私に結婚迫ってたんじゃないの?」
「ふっ」
 といい、髪をかきあげると。
「悪いね、オールドベイビー。僕のことは忘れてくれ。
 君との愛はかりそめだったんだ」
 王子は、再びマルチナのほうに向くと。
「さあ、結婚しよう。真実の愛をはぐくもう」
「はぐぐもー!」
「アリエッタ、真似してないで助けて。
 ちょっと、ガルティア」
「ん」
「見てないで助けてよー」
「それがな。腹がへって動けねーんだ」
「ばかー、晩御飯抜きよー!」
「ぐ……」
 しかたなしに立ちあがるガルティア。
「おい、マルチナは諦めろよ。エレーンがいるだろ」
「ふっ」
 そう言い、再び髪をかきあげる。
「おばさんには興味ないんだ」
 プチッ!
「今・・・・・・・・・なんて言った?」
「まずい、逃げろ」
 シャルムが、パスタを食べるのをやめ慌てて言った。
「へ、どうして?」
「いいから!」
 そういい、マルチナの手を引き逃げ出すシャルム。ポロンやフィア、アリエッタやガルティアも席を立つ。
 周りの客もみんな危険を感じてか、店から出て行くのが見えた。厨房のコックもすでに裏口から逃げたようだ。
「あれ、あれ?」
 状況が飲み込めずうめく王子。

 そして、彼の前には……

 鬼がいた。



 その後、巨大なクレーターを残し崩壊したサクラ&パスタを立てなおすのに、さらに数日を要した。