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 エリナの幸せ
                                      Byにゃる


 てんてんに頼み込まれてテレポートゲートをくぐってから、6ヶ月が過ぎていた。
 「この街は昔師匠と三人で来たことがあるよね。あと2つほど町を越えたらようやく家にたどり着けるね。」
 そう話したレオに対し、エリナは明らかに憂鬱そうな口調で答えた。
 「そ、そうですわね。」
 
 イカパラダイスを出て4ヶ月、エリナのお腹は見てわかるくらいに膨らんできた。
 通常の女の子モンスターと違い、人間からモンスターになったエリナには、何故か通常の人間と同じくらいの速さで子供が育っているようであった。
 堕ろすのならばそれ用の薬を調合しようというクスシに対し、エリナは「ちょっと考えさせてください。」と、明確な答えを避けていた。
 以前の彼女であれば、迷わず堕胎を選択したであろうが、クラーケンとイカ男爵の悲しい最後を見てしまった後では、この子を亡き者にすることが正しいことかどうか、いまだに判断が下せない状態であったのだ。
 ただ、島を出てからレオの従魔になったてんてんを合わせて29人、夫を探すために離れた髪長姫が悲しそうな顔で戻ってきてから30人、毎晩何れかの女の子モンスターと一緒に過ごしていたレオに対し、お腹の子のためにレオと一夜を過ごすことができないもどかしさは募っていった。
 漏れ聞いた話によると、エキスを使ったら必ずできてしまうそうなので、外に出すか、町で買ってきた「こんどーむ」とかいう高価なものを使っているそうだが、そっちの話に疎いエリナにはなんのことだかわからなかった。
 だんだんと家に近づくにつれて、少しずつお腹も大きくなってゆき、エリナは本当にどうすればいいか、また父親にどう説明すればよいのかずっと悩んでいたのであった。

 「やっと・・・やっと帰ってきたんだ、ここに・・・。」
 このレオの言葉を聴いたとき、エリナの目は家から飛び出してくる父親の姿が飛び込んできた。
 その姿を見て、エリナはようやく決心して答えた。
 「私はもう、覚悟はできてますわ。」

 どっどっどっど・・・
 だんだん近づいてくる父親のたてる地響きに、ようやくレオも気づいた。
 「師匠!」「お父様!」
 しかし、父親の耳には二人の言葉は一切入っていないみたいで、目をぎらぎらさせて叫んでいた。
 「うお〜、バルキリーに、雷太鼓、それにわしでも図鑑でしかお目にかかったことのないクスシやバトルノート。それにそっちはなんじゃい、存在自体聞いたともない女の子モンスターじゃ。角があって翼があって。ひょっとして噂に聞く聖女モンスターとやらか!」
 隊列の前のほうにいた女の子モンスターを問答無用で蹴散らして飛び込んでくる師匠に、レオはようやく我に帰ってみんなに指示を出す。
 「みんな、師匠をちょっと止めてくれ。冷静に僕の話を聞ける状態じゃないみたいだ。ただ、ひどい怪我はさせないように。」
 
 本気になった父親に対し手加減で勝てる道理もなく、まじしゃんの白色破壊光線やフローズンの氷雪吹雪すらも物理法則を無視した動きでかわされ、結局怪我をさせてもやむなしと判断したバルキリーの必殺技を受けて、足を止めた師匠がようやく我にかえった。
 「なんじゃい、レオじゃないか。この女の子モンスター達はなんじゃ。いったい今までどこへ行ってたんじゃ。あとエリナがどこへ行ったか知らんか。ひょとしてこの前のけんかのせいで家出したのかと思っての。」
 「え〜と、師匠、話せば長くなるんですが、この女の子モンスター達は僕の従魔で、今まで彼女たちを助けるための冒険に行ってたんです。あと、エリナは・・・」
 と、レオが私の方を振り返った。
 「お父様、私はとある理由により、無理やり女の子モンスターにされてしまい、お腹の中に子供までいます。この子を産んだ後、これからはレオの従魔として生きていこうと思ってます。」
 「なんじゃ、エリナじゃったのか。せっかく聖女モンスターかと思ったのにな・・・。
 待てよ、とすると、お前はこの世界に一人しかいない女の子モンスターなんじゃな。せっかくじゃし、わしの従魔にならんか。」
 「せっかくですが、私はレオに一生ついていこうと決心しましたの。いくらお父様の頼みでも、こればっかりは譲れませんわ。」
 「まあ、お前は怒らせると怖いからのう。前に引っかかれた傷がまだ残ってるし。
 それより、お腹の中に子供までおるとはのう。よし、その子を産んでみぃ。もしかするとお前と同じ女の子モンスターになるやもしれん。
 それにしても、レオがバルキリーまで従魔にするとはのう。度胸はないが才能はあると見込んでたので、エリナの婿にする予定だったんじゃが。」
 というわけで、私たちは無事に家への帰還を果たしたのであった。

 「なぁ、私が間違えずにレオじゃなくてバッチをつれてきていたら、一人でイカ男爵を倒していたんじゃないか?」
 「そうかもしれぬ。魔物使いのしての能力は最高じゃとわしも聞いていたが、まさか高位魔法すら簡単にかわしてみせるとは、世の中にはすごい御仁もおるものじゃ。じゃが、やっぱりおぬしが連れてきたのがレオ殿でよかったのう。」
 後ろのほうからそんな会話が聞こえてきた。


 レオと相談した結果、とりあえず、私のお産が済むまではこの屋敷にとどまることとし、その後はまた考えるということに落ち着いた。
 通常、女魔物使いが生計を立てるには、町の治安維持に協力するか、国に仕官して戦争に赴くか、売春宿を開くか、洞窟にもぐって宝探しをするかくらいしかないが、この近辺は父親の力により、モンスターが徘徊するようなことはなく、さりとて戦争に駆り出すとか売春宿を開くなどはレオが認めるはずもなく、そのうち別の場所に居を構えるか、冒険の旅に出るかの選択を迫られることになりそうだった。
 ただ、幸運なことに、この近辺には人間の医者が足りず、クスシの薬によってかなりの収入があがってきていたので、急いで仕事を探す必要もなかったのであるが。
 
 広い屋敷だとは言え、さすがに30人も同居人が増えたら全員が個室に納まるはずもなく、最初は女の子モンスター達は3人ずつの相部屋になってもらうことにしたが、クスシとまほろさん(メイドさん)以外の女の子モンスター達は何もやることがなかったので、みんなで相談して、クスシの薬の材料探しの手が開空いているときは、家から少しはなれた丘に新しい家を建てることにした。
 バトルノートが設計・現場監督をし、スケッチがそれを図面に落とし、海のサチとバルキリーが木を切り、力のあるものが運び、残ったものが内装を整える。
 夜になったら順番で(時には同時に)レオの部屋に押しかける。それはそれでみんな幸福な毎日だった。
 私だけがお産を控え、やることもなく、精神的に不安定だったが、毎日てんてんが来て一緒に寝てくれたので、少しは気が楽になっていた。
 
 ただ、これだけ人が増えればいろいろな軋轢も生まれてきて、レオはその仲裁に忙殺される毎日のようだった。
 最初、世話をする人数が増え、仕事が増えると喜んでいたリサだが、まほろさんも仕事をやると言い出してから、この二人の仲は険悪化していた。一日おきに仕事を交代することに落ち着いたが、どちらも機会があれば相手の仕事を虎視眈々と狙っていた。
 父親の従魔である最強魔女は、どちらが最強かを決しようと、顔を合わせるたびにバルキリーにちょっかいを出していたが、バルキリーがそれに相手をするはずもないので、影でサワーと組んでいろいろと暗躍していた。(バトルノートがいちいちつぶしていったが。)
 へびさんは家にいたかえる魔女になにかとちょっかいを出し、そのたびにレオにやめるように説得されていた。


 そんなこんなで、家に帰ってから半年が過ぎ、ようやく私のお産のときが近づいてきた。
 お産に付き合うと言ったレオと父親を追い出し、クスシがいよいよじゃの、と準備を整える。
 しばらく続いた苦痛の後、卵が産まれたときには一瞬だけ驚いたが、自分の境遇を思い出し、その卵に対する愛おしさがこみあげてきた。

 3日後、卵から孵ったのは、女の子モンスターのクラーケンだった。
 通常、女の子モンスターが産む子供は、母親か父親かどちらかの種族であり、他の子供が生まれることはない。
 しかし、エリナは人間から女の子モンスターになった変り種であるし、またイカ男爵も、本来イカマンのはずが、赤い運命により強力化しただけの存在であるため、イカマンの一ランク上のクラーケンになることもあるのかなと思う。
 何より、私たちを助けて死んだクラーケンの生まれ変わりだという思いがわきあがり、私はとても嬉しかった。
 ちなみに、父親は「なんじゃ、つまらん!」と言って、みんなからたこ殴りにされていた。

 しばらくたって、その子供が喋ることができるようになるころ、私を連れて家を出る条件としてレオが父親に出された条件、父親との従魔バトルで勝利したレオにつれられて、みんなで家を出た。
 新しくできた家には一年も住むことはできなかったし、正直いろいろと不安に思うことがあったが、この娘とレオがいる限り、私は強く生きていく自信がある。
 クラーケンを背負い、晴れやかな顔でレオに向かって話しかけた。
 「それでは、私たちの新しい未来へ向かって出発しますわよ。」

                                                 終わり



 誰でも思いつく、ハーレムエンド(エリナ魔物)の後日談です。
 こんなネタは早い者勝ちかと。

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