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地球侵略を企むダイラスト。 そのダイラストに独り敢然と挑む少女がいた。その名を高円寺沙由香。またの名を超昂 天使エスカレイヤー。 きょうも、高円寺沙由香ことエスカレイヤーは、迷惑を撒き散らすダイラストの怪人相 手に忙しい日々を繰り返すのであった。 「パワードゲイン!!」 ダイラストの怪人相手に、エスカレイヤーの技が炸裂した。が、しかし、 「うおぉぉぉ」 相手は腕を十文字にして、エスカレイヤーの技を受ける。 「くっ、強いです」 エスカレイヤーの顔に焦りの色が浮かぶ。それもそのはず、相手は今までとは違い、ダ イラストの将軍であるガレイズだった。 その戦いを恭平は建物の陰に隠れて見ていた。戦いに巻き込まれて死なないために、で ある。 正義のヒロインをサポートするんだから、もう少しカッコ良いキャラクターにしてほし かったと、本人も思っていただろうに……。少し、気の毒な男でもあった。 戦いを見ていたのは、恭平だけではなかった。 こちらは隠れることもせず、渋茶を啜りながら高みの見物としゃれ込んでいた。 「Drアレク」 「なんじゃな、ミストレーヌ」 お茶していたのは、これもダイラストの将軍であるミストレーヌとDrアレクだった。 「ガレイズは大丈夫なのか? さっきからエスカレイヤーの攻撃を受けてばかりだが……」 ガレイズらしくない戦いだった。だいたいガレイズは、攻撃一辺倒の男であって、相手 の攻撃を受けまくって疲れを待つなどと知的な戦い方をする男ではなかった。とすると、 受け専門で戦っているのは、手も足も出ないということになる。 「心配するでない。ガレイズは必殺技を編み出したのじゃ」 「編み出した、だと?」 編み出した、とはどういうことか。 Drアレクがガレイズの身体を改造したとかなら、編み出したとは言わないだろう。な ら、ガレイズ自身が必殺技とやらを身につけたということか。 「これを喰らえば、エスカレイヤーといえども無事では済まぬ。何しろ、フーマンはおろ か、このわしも吹っ飛んだんじゃからな」 ずずずっと、音を鳴らして渋茶を啜るDrアレクの横顔を見ながら、ミストレーヌは言 いようの知れぬ不安に襲われていた。 <枯れ木のようなお前が吹き飛ばない必殺技があったなら、見てみたいわ> この言葉を、ミストレーヌは渋茶とともに飲み込んだ。 ガレイズとエスカレイヤーの戦いは、まだ続いていた。 「Drアレク。このシフォンケーキ、美味いな」 「そうじゃな。この、まったりとした舌触りが何とも言えぬ味わいじゃ」 Drアルクは、ケーキを頬張りながら言った。、ケーキの味を確かめるようにゴクンと 飲み込むと、 「ほぉ―っ」 と、言葉にならない声を出した。満足したのか、それとも感激したのか、目を細める Drアレク。その姿は好々爺そのものだった。 <似合わんな。いや、不気味ですらある> 地球征服作戦は、支障をきたしていた。このままでは、ダイラストをリストラされそう だった。生きて解雇されるかな?、と考える自分がなぜか悲しかった。 「まさか、ルーイが作ったのではあるまいな」 湿っぽい思いを断ち切るように、話題を変えてみる。 「うん? ルーイじゃと何か不都合があるのかな」 「ルーイが、材料を前にシコシコしているという噂を聞いたのでな」 「ああ、監禁している地球人からシュークリームの作り方を習ったとか言っていたわい」 「シュークリーム? ひょっとして、見てくれはゴワゴワっとした感じだが、中に甘いも のが入っている、あれか?」 「おお、それじゃ。わしは嫌な予感がして食べなかったが」 「私は食べたぞ」 「それは気の毒であったな」 ミストレーヌは、口内発射をされたような気分になって、半分泣いていた。 「で、このシフォンケーキもなのか」 「いや、このケーキは女子高生からもらった物だ。何やら、儚い印象の娘じゃったな」 「女子高生だと?」 新しき生命を生み出すこと以外一切の興味がないはずのDrアレクが女子高生と付き合 いがあったとは、ミストレーヌは、Drアレクの意外な一面を見た気がした。 「それよりも、その子と一緒にいた女の子に興味をそそられたな」 「ほう、いったいどんな子だったのだ?」 本来のDrアレクに戻ったなと思いつつ、どこかほっとしているミストレーヌがいた。 「黒髪の長い娘でな、目が紅かったわい。人の態をしていたが、あれは人ではないな」 Drアレクは、大いに興味をそそられたようだ。Drアレクの創る新しい生命体は、 人の態をしていなかった。人の態をしていたなら、人の中に手の者を送り込むなど、戦略 的に役に立つのだが。 「ミストレーヌ、彼女を捕獲することはできんか?」 「時間がない。諦めてくれ」 地球征服作戦は、大いに遅れていた。 「やはり、諦めるしかないか」 Drアレクは、未練を飲み込むように渋茶をずずずっと啜った。 エスカレイヤーの身体が、ふわっと浮かぶ。 「エスカレイヤー・キッッック!!」 跳び蹴りがガレイズの首めがけて放たれた。 「来たぁぁ!!」 が、ガレイズは一歩踏み込み左腕でガードする。 「アレクゥ、中は白だったぞ」 戦いの最中にもかかわらず、ガレイズはDrアレクに向かって大声をあげた。 「ちっ、賭けは、わしの負けか。黒とは言わん。せめて赤くらいは履かんかい」 「言った通りだろ、正義のヒロインに色物パンツは似合わんのだ!!」 「たっく、まだまだネンネということか。霧谷遼子さんみたな色気のあるランジェリーを 身に着けなければ大人の女にはなれんわな」 ミストレーヌは、拳を震わせていた。 <こいつら、仕事をかまけて、エスカレイヤーのパンツの色を賭けていたのか……。しか も、霧谷遼子さんだと? 私は覗き見されていたのか……> 沙由香も拳を震わせていた。 「バ、バカにしてます」 右脚を高く舞い上げて跳んだ。スローモーションに思えるくらい、沙由香は宙高く跳ん だ。 ここで沙由香はエラーを犯したのだ、達人相手に大技は決まらない、というエラーを。 大技はモーションが大きいので予想されやすい上に回避動作の時間を与えることになる。 が、沙由香を上回るエラーをガレイズは犯す。沙由香の攻撃を見切ろうと、じっと見たガ レイズは、手をパンと鳴らし、次に二本指を差し出した。そして親指と人差し指で輪を作 って、目の上に手の平をかざした。 「おおっ、パン、ツー、丸、見え」 Drアレクが感に耐えた様に唸った。 <古典的なギャグだな> ミストレーヌは、ガレイズとDrアレクが地球人の事を調査していた資料の中にこのギ ャグが載っていたのを知っていた。つまらんギャグだったな、と思ったミストレーヌが我 に返った。 「ガレイズ、さっさと避けんかぁっっ!!」 沙由香の怒りを込めた踵蹴りが一閃。ガレイズの顔面にモロに入った。 「シ、シミひとつない白だった……」 瞬きひとつせず顔面受けのガレイズ。 <はあ、懲りないヤツ……> ミストレーヌは、感心するやら呆れるやら。 エスカレイヤーとガレイズの戦いは、まだまだ続いていた。 「ガレイズは、まだ必殺技とやらを出さんのか?」 ミストレーヌは苛立っていた。 「慌てるでない。必殺技は、最後の最後に出すものと相場は決まっている」 「どこの相場なのだ?」 疑わしそうな目で、ミストレーヌはDrアルクを見た。言い方にも皮肉がこもっている。 「もちろん、お子様向けのヒーロー物じゃわ」 「…………」 これ18禁物だったはず、という言葉をミストレーヌはぐっと飲み込んだ。 「心配するでない。ガレイズはエスカレイヤーの戦法を真似ておるのじゃ」 「エスカレイヤーの?」 「手数を出して、弱ったところを必殺技で仕留めるというパターンじゃ。敵の最も得意と する戦法で勝つ。これ以上の完璧な勝利があろうか」 「それもこれも、勝ってからの話だぞ」 Drアレクの顔が、にやりと笑った。 「エスカレイヤーの息が上がってきた。そろそろじゃの」 言われて、エスカレイヤーを見るミストレーヌ。エスカレイヤーの肩が大きく揺れてい た。 「今だ、ガレイズ。必殺技をぶちかませ!」 「おう!!」 耐えに耐えていたガレイズが、今、反撃に出ようとしていた。 「エスカレイヤー。俺の必殺技を喰らって往生せいや」 「はあ、はあ、はあ、いったい……どんな必殺技なの……」 息も絶え絶えなエスカレイヤーこと沙由香は、この時ばかりは覚悟した。 「エスカレイヤー……」 すっと息を飲み込むガレイズ。 <来る!> 沙由香は、最後の力を振り絞って身構える。 「好きだ―――――!!!!!」 ガレイズの罵声とともに、辺りの時間までが吹き飛んだ。 「えっえっえっ?????」 沙由香が反応したのは、数瞬後だった。 「ええ―――――っ」 何を言われたのか判ったのは、もっと後だった。 ミストレーヌの両目は、点々になっていた。 「いやだぁ、ガレイズさんったら……」 両手を頬に当てて、沙由香はもじもじとしている。耳まで真っ赤。 ガレイズとDrアレクと恭平は知らね、ミストレーヌだけは、ガレイズさん、と『さん』 付けになっているのを知っていた。 「何故だ! 何故、エスカレイヤーは吹き飛ばん?」 Drアレクは喚いていた。エスカレイヤーの反応に、己の頭脳が解析不能と算出したか らだ。 「Drアレク、それを本気で言っているのか……」 ミストレーヌの語尾が震えていた。 「当たり前じゃわい。ゲッツェンだって、成す術なく敗れたのだぞ」 声の張りからすると、すごぶる本気らしい。 「アホか! 女の子はな、面と向かって好きだと言われれば、胸がときめいてしまうもの なんだ」 ミストレーヌは、Drアレクの胸倉を掴んで詰め寄った。 「何ぃ? そういうものなのか?」 「そういうものだ」 「そうだったのか。知らなかった……」 ミストレーヌは、このままDrアレクの首を絞めて、一回殺してやろうかと思った。し かし、二回目はないから、思いとどまった。 ガレイズは、己が必殺技が通じなかったことで、呆然としていた。 「沙由香、何ときめいているんだよ。今のうちにやっつけてしまえ!」 物陰に隠れていた恭平が顔を出して大声をあげた。 「いやよ」 「え?」 にべもなく沙由香は、のたまった。 「好きだって言ってくた人に、そんな真似できるわけないじゃない」 「て、て、て、敵なんだぞ」 恭平は、沙由香の意外な反応に吃ってしまう。 「敵だろうと何だろうと、ガレイズさんは私を本気で思ってくれていたのは、拳を交えて 判ったわ」 男くさい劇画マンガのようなことを言う。 「お、俺はどうなるんだよ」 「恭ちゃん、何かしたっけ?」 「DDDをチャージするために、色々やったじゃないか」 恭平は、別れ話を切り出されて必死になって呼び止める哀れな男みたいな役を演じてい た。 「ああ。人前で私の裸を晒したり、オタクの男の子たちに輪姦させたり、色々鬼畜な事を してくれたっけ」 沙由香の声は、どこか冷めていた。 「鬼畜だな」 「ああ、鬼畜じゃ」 沙由香たちの話が聞こえたミストレーヌたちは、ぼそっと言った。 「う、うるさい。お前たちに言われたくないわい!」 ダイラストと一緒にされたくないとばかり、恭平は喚いた。 <恭平さん、恭平さん> その時、マドカから無線が入った。 <何だよ> <DDDなんですが……> <DDDが、どうかしたのか> 恭平は、今はそれどころじゃないという気分だった。 <毎分1万5千回転で回っています。これって、ちょっとしたF1エンジン並みですね> <それで?> <この際です、ガレイズを正義の味方に洗脳しちゃいましょう。DDDのエネルギー・チ ャージ効率も3倍アップですし> <正義の味方に洗脳って、そういう言葉はどうかと思うぞ> それでは、正義が汚れてしまう気がした。 <言葉のアヤは、どうでもいいんです。とにかく、そういうことです> 正義の味方が使ってはいけない禁じ手のような気もする。 「さっ、ガレイズさん……」 沙由香はガレイズの右腕を両腕で絡めた。ついさっきまで敵だったガレイズの間合いに さり気なく入っていた。この呼吸、達人の域である。 「私たちの基地で、愛を語りましょう」 ぽっと赤くなるところは、少女らしい一面を残していた。 「じょ、冗談じゃないぞ。そんなことになったら、プレスバーン様に殺されちまう!」 自分の最期を思い描いて、ガレイズは身震いした。 「ガレイズさん、もう遅いですよ」 いつの間にか、マドカが現場に現れた。 「こいつは誰だ?」 「私をサポートしてくれるアンドロイドのマドカです、ガレイズさん」 身内を紹介する沙由香は、どこか嬉しそうな表情をしている。そう、まるで交際相手を お父さんに紹介する娘という感じで。 「遅いって、どういう意味だ」 そんな沙由香を無視するように、ガレイズはマドカに向いた。 「ダイラストの通信回線に割り込んで、告白のシーンを流しました」 「誰が告白だぁ?!」 「あなたです。ガレイズさん」 喚くガレイズに、マドカは冷酷な宣言をした。ダイラストの就業規則を考えると、これ はもう死刑宣言に等しい。 「よって、あなたの行き場は正義の味方しかありません」 口を大きく開けたマドカ。口の中には超小型モニターがあった。告白のシーンが映って いた。もっとも、ガレイズにとっては必殺技が不発だっただけなのだが。 ぐうの音も出ないガレイズ。 「来てくれますね?」 たとえ背中をド突いても、最後の一歩を相手に踏み出させるところが、マドカの狡猾な ところだ。 「わ、分かった……」 詰まされたチェスのキングみたいに、ガレイズは身動きひとつできなかった。 「早速のお聞き届け、ありがとうございます」 にっこりと微笑むマドカ。 <あ、悪夢だ……> ガレイズは、夢なら覚めてくれとばかりに天を仰ぐ。 ミストレーヌとDrアルクも、マドカの水際立った手立てに成す術がなかった。 「青い地球を守るため……」 「青い地球を守るため……」 「胸の鼓動が天を衝く」 「胸の鼓動が天を衝く」 「違いますよ、ガレイズさん。そこは、こう、腕の腹を相手に向けるくらいに捻らないと」 「こ、こうか?」 最初の極めポーズを、手取り足取り指導する沙由香。どこか、うれしそうな顔をしてい る。恭平は、それを丸めた座布団を胸に抱いて呆然と見ていた。 あれから恭平は、正義の味方をリストラされた。 「もう一度、最初からやりましょう。それでは、はい」 「青い地球を守るため……」 何がどこでどう狂って、俺は正義の味方をしているのだろうとガレイズは嘆いていた。 恭平も、同じようなことを考えていた。 しかし、そんなことは些細なことだった。大事なのは、正義の味方が一人増えたという ことだった。 かくして、ダイラストの地球征服作戦は、ますますの遅滞を余儀なくされた。ために、 次はダイラストのラスボスが出張ってくるという。 どうなるエスカレイヤー。どうなる地球の未来。 超昂天使エスカレイヤー2、乞うご期待……しています。 <おまけ> 「青い地球を守るため、胸の鼓動が天を衝く。ガレイズ、ただ今、悪の現場に参上!」 ガレイズの前口上も板についてきた。 「ブーブーブー」 かつての上司が眼前に敵として現れたものだから、フーマンたちは慌てていた。 「必殺、、フーマン虐め!!」 正義の味方が虐めじゃいかんよなぁ、と恭平は思った。 「ビービービー」 <嗚呼、フーマンが泣いているよ> 恭平は心からフーマンに同情を覚えた。 おわり。 |