己ガ敵ヲシカト見定メソノ力強ク握リ締メタ拳ヲ叩キツケル先ヲ違エルナ
「正義の勝利、です!」
「まだ、敵わぬのか‥‥」
伏した獣に敢然と言い放ち、彼女はその武器を収めた。
「やったな、沙由香」
「うん」
歩き寄る相棒に頷き返す――が、下方から聞こえる苦鳴に笑顔を崩した。
「イガロ‥‥」
互いに挑戦し、またそれを受け合った相手の名を彼女は呟く。
「エスカレイヤー‥‥、貴様は何故それほどに強くなれる? 俺とお前と、最強を目指す心に差があるのか?」
起き上がることも出来ないままに、荒ぐ息に乱されながらも獣は問うた。
「最強には、興味ありません」
「なんだと? ならば、何のために強くなれるのだ?」
「負けないために、です。私はこの星が好きで、それを侵すダイラストと戦うために――いえ、ダイラストに負けられないから、強くなれるんです」
「‥‥理解できん。故に――」
言いかけて、目を閉じる。それを再び開けたときには、二対の双眸に見つめられていた。
「俺はいつか貴様らを超えてみせる」
残る闘志の全てを眼光に秘め、淀み無く告げる。自分を見つめ返すその眼の色に言い知れぬ満足を覚え、獣は目を閉じた。
「行け。誓ってこの星の民を嬲るまい」
「はい」
彼女は身を翻した。
「エスカレイヤー、帰還します」
★☆★
「あのぅ、エスカレイヤー見ませんでしたか?」
「あぁ、しっかりと見たよ。あの黒いデカブツを相手に一人で――」
「あ、あの、それで、どっちに行きました?」
「お、ボーヤのクセに追っかけかよ。いや、悪いがそこまでは見てなかったな」
「そう――ですかぁ。ありがとうございました」
「どういたしまして、ってな。それより、彼女が倒した怪物を見てみたくないか?」
「‥‥‥‥いえ、いいです」
「そうか。すぐそこにいるんだけど、アレじゃあ近付けなくってよぉ」
「アレ?」
「ほら、あそこだよ」
「何やってるんですか?」
「復讐だよ」
「すみません、ちょっと通して下さい」
「うるせぇ! こちとら順番待ちなんだ、ガキは退がってろ!」
三度目の挑戦は、振り払われた拳に跳ね飛ばされた。小さな叫びに続いて尻もちをつくが、構わずにまた立ち上がる。
「大丈夫か?」
「いえ、買ってきた卵が潰れちゃいました」
「‥‥‥‥あー」
白い半透明の買い物袋の底が破れ、滴る黄色い液体に混じって白いかけらが落ちる。どう答えたらイイものかと迷いながらも、青年は取り敢えずの生返事をした。そこへ、今だ透明の粘液――もとい卵白を垂らす袋が、おもむろに差し出される。
「すみませんが、ちょっと持っててくれませんか?」
「ん、まぁ構わないけど」
「じゃぁ、ちょっとお願いします」
荷物を預けて自由になった腕を旋回させ、その調子を確かめる。
「よし」
意気込み――
「えぇぃ!!」
低い姿勢から人だかりへ突っ込んだ。誰かの足を踏み、逆に踏まれ、股をくぐり、尻に圧され――
「なんだ、その耳?」
その言葉に反応するよりも早く耳を掴まれた。
「抜けない――ってコトは、お前もダイラストだな!!」
引きずられる痛みに次いで足が宙を泳ぐ。
「ぁ――」
たどり着いた先には血涙を流す大柄な獣がいた。人々が叩きつける木切れや曲がった鉄の棒――破壊された家や道路などの残骸を仰向けのままに受け続けている。
「ここにもダイラストがいるぞ!!」
頭頂に衝撃を受ける。顎から地面に叩き落とされ、圧迫された胸から空気が押し出された。砂埃にむせ返っていると、今度は肩と尻を打ち据えられる。
砂は目にも入り、涙を引き出した。連続する打撃に触覚は麻痺し、頭上の確認すら出来ないままに、何度も何度も殴られ続け、また蹴りつけられる。
「うわぁ!?」
誰が上げたモノかは分からなかったが、その叫びをきっかけに打撃が止んだ。それまでに受けた打撲箇所が一瞬で感覚を取り戻すと、神経を駆け上がる痛覚が脳を直接(じか)に殴りつける。腕が、足が、肩が、尻が、頭が、全身をめぐる苦痛が輪唱しているかのようだった。
「まだ生きてやがる!」
「くそ、驚かしやがって!」
視界の端に映っていた棒が空に上がって見えなくなる。
「ひぃ――ぁ――!」
恐怖に衝かれて腕を上げようとしたが、その自由は響く痛みに奪われる。せめてと固く目を瞑るが、それだけでも頬が痛んだ。
「やはり、ルーイか」
「――ぇ?」
★☆★
そこに集った人の全てが飽きた――というよりも疲れきったのは、空の四半分が藍に染まる時分だった。日は沈み、数個の星が瞬き始めた下で、黒く大きな影が立ち上がる。その腕の中からは今も泣き声が絶えず、しかしそれは苦痛のみによるものではなかった。
「ルーイ」
重質感のある声色は、その主を思えばあまりに不似合いに聴こえる。
「基地まで案内を頼む」
返事をしようにも言葉にならず、代わりに頷いたつもりだった。痛みがまだ引ききらないために動きはごくわずかなものだったが、下げた額は固い皮膚に当たる。
「ぁ――、はぃ」
そこで自分の失念に気付き、故にか、今度はきちんと声を発せられた。
「凄い――」
それは、小さな呟きだった。それは、何時間にも渡って殴られ続けたにも拘らず、普段と遜色なく速く走る姿に引き出されたものだ。
「ナンだ?」
「――ぁ、いえ。15歩先を右です」
答えて、見た目ほど傷がひどいものではないことに安堵する。しかし、彼が歩数を口の中で数えているのを聞いていると、やりきれない想いがこみ上がってきて仕方が無かった。
いかに強さを極めんとも、やはり鍛えられない急所というものがある。エスカレイヤーに倒された敵――復讐を行う際にその反撃を恐れ、市民たちはまず目を潰していた。狼に変じていた片腕はその牙を落とされており、本体と同様に光を覚えられなくなっている。それに黙して耐えたのは、彼なりのけじめのつけ方だった。
「イガロさん、こんなに走れるのに、どうしてあの時は動かなかったんですか?」
「俺が殺したのが、《戦えない》者だったからだ」
「《戦えない者》‥‥」
「《戦う》というのは、《怖い》ということだ。そして、そこから逃げないということだ」
「‥‥《怖い》から《逃げない》‥‥ですか」
イガロの足は、止まらなかった。
「イガロさん、着きました。この公園です」
「うむ」
イガロはルーイを肩から下ろし、背を向けた。
「あの、どこに行くんですか?」
「エスカレイヤーに勝ちに――だ」
呟くように言い残し、彼はまた走り出した。
★☆★
「――ルーイ君!!」
「ぁ、カルナちゃん」
「どうしたの、その傷!? それに、せっかく買ってきてくれた食材まで‥‥」
「あー、うん。また買いに行くから」
「‥‥決めた。あたし、ミストレーヌ様に進言する」
「――な、ナニを?」
「地球人って、こんなに酷いモンだとは思わなかった。もう、サクサクっと、やっつけてもらうんだから」
「え――ぁ、いや、僕はもう大丈夫だから。ほら」
「聞かないわ、ルーイ君。あたし、決めたんだから」
「待ってよ、カルナちゃんー」
了
えー、そういうわけで、イガロ×ルーイ(ルーイ×イガロ、では無く)でした。読み返して、「結局、俺はナニを書きたかったんだろう?」と思えずにいられないモノになってしまい、後悔の念が‥‥‥‥。
やはり、書いてる最中に別のゲーをやると、雑念が入ってしまって、駄目です。
ぃゃ、イガロ大好きですょ。
以上、チャボでした。
http://isweb33.infoseek.co.jp/diary/x37564/
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