−イガロ−

ドスッ!、ガスッ!、ドスッ!
「どうしたんだ、何故だっ、何故なんだっ!」
『納得がいかぬ』そう心で叫びを上げ、右の拳に渾身の力を込め壁を叩き続ける。
「おぬしの実力はこんな物だったのかぁっ!」
自身の心臓を自らの意思で握りつぶすかの様な叫びと力を込め、叩く。
ズゲシッ!
強固な岩石で組み上げられた壁に直径約2mの窪みが出来た。
じっとりと粘り気のある空気に満ちた苔むす室内であるにもかかわらず
パラパラと落ちる破片と共に粉塵が巻き上がる。

「ウォォォーン」
彼の左腕の獣頭も狂気にも似た無念の眼光を壁に向け、鋭く尖った牙が空を駆ける。
ガキャキャッ・・・
壁には深く抉り取られた数本の牙跡が出来る。
「ぬぅ?・・・そうか・・・お前も納得が行かぬか・・・」
彼の意思とは無関係に行動した左腕の獣頭に驚きを感じ、多少の冷静さを取り戻した。
ハアハアと荒い息吹を整えながら苦渋の表情を浮かべながら双眼を閉じると
クゥンと鼻を鳴らし獣頭が右手から滲み出た血をペロリペロリと舐め癒す。
「痛ぅっ、我が認めた強者だと思ったのだが・・・見込み違い・・・だったのか?」
一生消えないであろう。強靭な剛毛と皮膚に刻み込まれた
サブリミットエスカレーション、ビートエンドエスカレーションの傷跡を診ながら
イガロは壁に持たれ、腰を下ろすと力なく呟いた。
「一度ならず二度までもこのイガロの猛攻を退けたのは・・・まぐれであったのか?」

そして伝令フーマンよりエスカレイヤー捕獲の報を聞いた時の事を思い出していた。

『信じられぬ』その思いで駆けつけた捕虜収容室、そこでの光景に我を失った。
そこでは捕虜どもに輪姦され全身に白濁と擦り傷、精臭にまみれ
虚空に焦点の合わぬ漆黒の瞳を向け、前後左右あらゆる方向から犯され続ける
変わり果てたエスカレイヤーの姿があった。
男の抽挿行為に合わせてがくがくと全身を震わせている。
「ふぐっ、・・・ぷぅ、はあぁ、ぷはぁ」
欲棒を含んだ口から息継ぎとも快楽に酔いしれた喘ぎとも取れる淫猥な声が上がると
唾液と混じり合った精液が床にドロリと垂れる。
エスカレイヤーの魂はすでに体から離れ、人形のごとくなすがままになっていた。
男がその精の全てを搾り出し果てると間を置かず次の男が取り付いていく。
その光景はイガロにとって己が受ける屈辱に思えた。
「苦っ、・・・その姿、見るに耐えん」
そう言い残し自室に戻ったのが先刻の事であった。

それ以来である。
沸騰した血液が全身を駆け巡るかのごとく熱を帯びると
総毛を逆立たせ、矛先を失った怒気の塊を強固な岩石の壁に叩き突けていたのだ。

ビー、ビー、ビー
けたたましいアラーム音が通路から聞こえ我に返った。
「うるぅ?、この警報、侵入者か?、しかし問題あるまい、ガレイズが居る」
もともと『強者を探しやすい』それだけの理由で入隊したダイラスト。
侵略作戦の勝敗などどうでも良い事なのだ。
今のイガロが考える事、それはエスカレイヤーの事、唯一つ。
「エスカレイヤー・・・無念ぞ・・・今一度・・・我と戦え」
噛み締めた唇が裂け、鮮血が口元から首筋へつっと流れる。
「しかし何故だ?、何故ここまで我は貴奴にこだわる・・・」
「・・・うむぅ・・・?」
エスカレイヤーに勝利する、
その他にもう一つの不思議な感情が心を焦がす。
イガロはその感情が意味する事が解からず、更なる苛立ちを募らせていた。

ズーン、ズズムッ。
今度は重苦しい振動と爆発音が響いた。
「ブッブー!、エ、エスカレイヤーだ!、エスカレイヤーが復活したぁ!」
悲鳴を上げながらフーマンが通路を駆けて行く。
「うむ?、エスカレイヤー復活だと?」
『エスカレイヤー復活』その言葉に条件反射のごとく巨体が反応した。
想像も着かない素早さで通路に飛び出すと目前に居たフーマンを捕まえる。
「ブブッ?、イ、イガロ様?、お助け下さい」
「エ、エスカレイヤーが、エスカレイヤーがぁ・・・、がはぁぁぁ!」
その言葉が終わるのを待たずにフーマンを壁に目掛けて投げ捨てる。
「ふふ、ふはははは!、そうだ!、それでこそエスカレイヤーだ!」
「待っておれ!、今度こそ我が勝利する!」
歓喜の笑い声を上げると戦場を求め通路を駆けていく。

通路を駆けていくと追い求めていた勇ましい姿が目に入った。
「おお!、その姿、正しくエスカレ・・・」
イガロの笑みを交えた言葉は途中で止まる。
エスカレイヤーと対峙する巨大生物を見て続く言葉を失った。
その巨大生物とはガレイズEVOである。
それはDr.アルクが研究開発していた未完成の進化薬を服用し
禍々しい巨大生物へと変貌したガレイズの姿だ。
「むぅ・・・」
イガロは躊躇せずエスカレイヤーとガレイズEVOとの間へ割って入った。
「イガロ・・・」
エスカレイヤーは『何故?』と言う表情でイガロを見る。
イガロは首だけ背後のエスカレイヤーに向ける。一瞬だが交わる瞳と瞳。
「ムンッ!」
踵を返すと左腕の獣頭でガレイズEVOの顔面目掛けて襲い掛かった。

「アオォォォーン!」
ゲシッ!、メキキッ!
左腕の獣頭は防御のために振り回されたガレイズEVOの右腕に食いついた。
「んんがあぁ、ぐはぁぁぁ」
ガレイズEVOは怒りを込めた叫びを上げると
腕に取り付いた蚊を払い落とす様に左腕が振り下ろす。
紙一重のタイミングで左腕の打撃を回避すると今度こそ右腕の一撃が
ガレイズEVOの眉間にヒットし大量の血飛沫が迸る。
「うぉ、イ、イガロォ!、うぉのれぃぃ!」

次なる攻撃への体制を整えるべく着地しようとしていたイガロ。
そこへガレイズEVOの攻撃が襲った。
「グワァァッ!」
一撃で天井の岩盤へとイガロが叩きつけられると
ベチャリ、と肉の巨塊が打撃を受ける湿った音がした。

そして巨体はエスカレイヤーの目前へ落下し、仰向けに崩れ落ちた。
「イガロ・・・どうして・・・」
困惑と悲しみを交えた顔でエスカレイヤーは問う。
「ふふ、お前を倒すのは私だ」
「あのような下らぬ生物にくれてたまるか・・・」
鮮血を吐きながらも思いを語る。
「イガロ・・・」
傷ついた猫を労わる様な表情でイガロを見つめるエスカレイヤー。
彼女の右手がそっとイガロの左頬を撫でる。その跡に一粒の水滴が落ちる。
思いもよらぬ感覚に驚き、彼女の顔に目を向けると
綺麗に澄み切った瞳に、いっぱいの涙を貯めて潤んでいた。
『・・・美しい』
イガロは己が心に思いもよらぬ言葉が湧き上がった。
『何っ?、今、我は何と・・・』
『ふふふ・・・ははは・・・俺には似合わぬ言葉よ』
『そうか・・・そうだったのか・・・』
『我の心を焼き焦がす訳の解からぬ感情は・・・これだったのか・・・』
悟った己の感情が余りにも無縁と思い続けていた事だけに
無意識の内に凶悪な牙を剥き出しにした口元を笑みの形に歪ませた。

「今の一撃が効いています。チャンスです」
状況を冷静に判断した女性型サポートドロイドが攻撃を促す声を上げる。
「了解!」
掛け声と共に立ち上がるエスカレイヤー。
『尊い地球と仲間の未来を必ず守りぬく!』
心でしか聞く事の出来ぬ硬い決意の言葉を発する真の強者たる勇姿をそこに見た。

ガレイズEVOの元へ駆け出していくエスカレイヤー、
その背中には空高く舞い上がろうと力強く羽ばたく天使の両翼を
イガロは薄れ行く意識の中で観ていた。
「うぉぉぉ・・・」
小さく歓喜の声を上げると崩れ落ちる・・・

「・・・」
「・・・・・・」
どれくらいの時が過ぎたのであろうか?
漆黒の闇に包まれたイガロの両目に少しづつ明かりが戻ってきた。

「やった・・・やったぞ沙由香!」
「うん!恭ちゃん、やったよ!」
エスカレイヤーは駆け寄った同年代の男性に両手を取られ、
ブンブンと上下に振りながら小躍りし、
勝利を、仲間の無事を喜び会う光景がイガロの視界に広がった。

「ふむ・・・?、思った通り下らぬ生物に勝利した様だな」
「さすが我が強者と認めた戦士・・・。う、痛っ!」
ムクリと起き上がったイガロの巨身に激痛が走る。
「ふふ、ふはははは」
「次だ、次こそ我が打ち倒す。そして我が妻として迎えようぞぉ!」

消えていく・・・
闇の中へ消えていく・・・
決意の言葉を呟きながら・・・
満身創痍の巨体を引きずりながら・・・
イガロは静かに消えていく・・・

「アオォォォーン!」

「イガロ?」
エスカレイヤーは闇の中でこだまする遠吠えを聞いた気がした。

−おしまい−



−あとがきのつもりです−

いったい私はどうしたんだろう。
才能など無いと解かりきっているのにエスカレイヤーSSを無謀にも書くなんて。
自分の事ながら信じられません。
しかもゲーム中ではD2エナジーを無駄使いさせる
おじゃま虫と嫌っているイガロの話に挑戦するなんて。
けれども信じられる事が一つあります。
エスカレイヤーは面白い!、理由が上手く書けませんけどメチャメチャ面白い!

面白いエスカレイヤーの続編を望む、願いを込めたつもりです。

文才の無い愚かな私ではイガロの本心を伝えきれない、
いや、理解すらしてないかもしれません。
イガロ、ごめんなさい。
そしてイガロファンのユーザー様、苦情は下記にご送付下さい。

naoyuki@mail.wind.ne.jp

心に残るゲームを作って下さったアリスソフト・スタッフ一同様と
礼儀しらずの私ですが掲示板では丁寧に対応して下さった皆様に感謝します。