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階段の手すりを、つつっ、と細い指がなぞる。
「…………」その先をしげしげと見つめると、指の主は、それをびっ、とシンデレラに突きつけた。
「おい、シンデレラっ!
これはなんだ?
どういうことなのだ?」
びくっ。
怯えたシンデレラは、体をふるわせた。
汚れた金髪をふりながら、弱々しく答える。
「そ……掃除は、済ませたのよ……
ミスト……義母さん」
たどたどしい弁明に、継母は細い眉を逆立てた。
「口答えは、やめろと言っておろうがっ!」
一喝すると、腰のレイピアを引き抜いた。
切っ先を、シンデレラののどに、突きつける。
「……ぅ」「わたしは、完璧に、きれいに、掃除しておけと言った筈だぞ?」
「……はい」
「じゃあ、この手すりはなんだ?
これが、お前の完璧ということか?」
レイピアの切っ先が、のどの薄皮を一枚、傷つけた。
赤いものが、にじみ出してくる。
「か……義母さん。
切れてる……のど…………」「ぐたぐた言うな。
アクトジェンダーを叩きこまれんだけ、マシと思ってもらおうか」
継母は、そう言い放つと、思い出したようにレイピアに頬ずりした。
「そういえば……ゲッツェンの必殺技はよく知られているが、
わたしの必殺技は、誰も覚えていないらしいぞ。
ここらで一つ、デモンストレーションが必要とは思わんか?」
シンデレラは、ぶんぶんと首をふった。
「そっ……そんな必要はないっ!
あ……アクトジェンダー、素晴らしいですっ!!」
「そ、そうか?」
心なしか嬉しそうにしていた継母は、はっと気づいたように顔を険しくした。
「とにかくっ!
働かざるもの、食うべからずだっ!
今日中に掃除ができない場合は、晩飯はヌキだっ!!!」シンデレラに厳命した継母は、派手にマントを翻して去っていた。
「そ、そんな、殺生な……」
打ちひしがれるシンデレラの背後で、含み笑いが聞こえた。
「うふふふふふふ」
「わっはっはっは」
「あはっ、あはははは」
底意地の悪そうな響きに、シンデレラの顔が真っ青になる。
おそる、おそる、後ろを振り向いた。
3人の義姉が、にやにや笑いをしていた。
「な……ななか義姉さん!
イガロ………義姉さん!
………ルーイ義姉さん!」
ムンクの叫びの如く、幽鬼めいた表情になりながら、シンデレラは絶望的に叫んだ。
「お……おねがいだから、今日は……見逃してっ」
「あ〜ら、どぉしよっかな〜〜♪」
上の義姉のななかが、節をつけながら返答する。
その手から、インク瓶が落ちた。
「ああっ!」
蒼白になったシンデレラの前で、インクは床の絨毯に染みこんでいった。
「早く拭かなきゃっ」
あわてて駆け寄ろうとしたシンデレラの顔面に、中の義姉のニーキックが炸裂した。
「げふっ!」
「弱いっ! 弱すぎるっ!!」
鼻血を拭いて後頭部から倒れるシンデレラを、イガロは鼻で笑った。
「あ、ああああ。」
痛みで朦朧となったシンデレラは、無意識のうちに這って逃げ出そうとした。
その時、彼女のメイド服を、何者かの足がふんづけた。
「る……ルーイ義姉さん……」
末の義姉は、天使のように微笑んだ。
「だめだよ、恭平。まだ掃除が終わってないよ」
三人の義姉は、声をそろえて笑った。
「うふふふふふふ」
「わっはっはっは」
「あはっ、あはははは」
シンデレラは涙目になって訴えた。
「な……なんだよ……
あんたら、何かオレに恨みでもあるのかよぉ」
シンデレラの声に、3人は、楽しそうに顔を見合わせた。
「なぁに?
ひょっとして、あたしたちが、あんたをいじめてるとでもいうわけぇ?」
「情けない。被害妄想もここまでくると、救いようがないっ」
「恨みなんて、あるわけないじゃないですか」
一斉に、笑う。
「嘘だっ! 絶対に、わざとだっ!」
シンデレラの告発に、ななかはやれやれと首をふった。
「こういう情けない義妹をしつけるのも、義姉の義務だと思うのよ」
「まったくだ」
「僕たちって、親切だよね」
徐々に狭まる包囲網に、シンデレラは硬直して逃げることもできなかった。
「別にね……」 ななかがつぶやくように言う。
「お姉さまの事で妬んでたりするわけじゃないのよ……」
「そうだとも」 イガロもうなずく。
「別にエスカレイヤーがどうこうというわけでは、決してない!」
「そうだよね」 ルーイが激しく同意する。
「僕の初恋の事なんか、これっぽっちも関係ないよ」
3人はうなずきあうと、一斉にシンデレラを睨みつけた。
ぎろり。
「お……おまえら、なんの事を言ってんだ?」
「あーあーあー。
今の恭平には、何のことだか、わかんないかもね。
……でもねぇ」
ななかの顔が、光と影で、どぎつく隈取られた。
「あたし達には、関係ないのよねぇ……そんなことぉっ!」
「ひいいいっ!!!」
ななかの迫力に怯えたシンデレラは、脱兎の如く逃げ出した。
その先に、ルーイが回り込む。
「甘いよねっ」
がんっ。
「あうっ!」
空の灯油缶が、シンデレラの顔面を強襲した。
顔を押さえて棒立ちになるシンデレラの前で、ななかが飛び、背中を見せて一回転した。
「ななかソバットぉ!」
「げふうっ!」
硬いブーツを鳩尾に喰らい、シンデレラは後方へ吹っ飛んだ。
その体が、逞しい胸板に支えられる。
「こんどは、オレの番だ」
声がして、てきぱきと体が折り曲げられていく。
「えっ?」
気づいた時には、首に足が引っかけられていた。
「必殺!
オクトパスホールド!」
「ぎゃあああああああああああっ!」
イガロの巨体から繰り出される、別名を卍固めというその技は、シンデレラの全身の関節を容赦なく締め上げた。
「なぜ、なぜぇっ! おぬしのような軟弱者がぁっ!!」
イガロは天に吠えた。
ぶるんぶるんと、首をふる。
「なっとくいかーーーーーーーんっ!!!」ぎりぎりぎり。
強烈な締め付けが、全身の骨を痛めつけた。
「あがががががが」
シンデレラは、泡を吹いた。
さんざん痛めつけたあと、イガロはわざと技を解く。
「た……たすけて……」
ふらふらとよろめくシンデレラに、ルーイが突っ込んだ。
「高空式ドロップキックぅぅぅぅぅぅ!」
「ぐわあっ!」まともに胸に喰らったシンデレラは、足下をふらつかせると、階段を転げ落ちていった。
がたんごとんがたん。
長い階段を転げ落ちたシンデレラは、下の階で、ようやく止まった。
「…………ぅぅ」
額から血を流し、シンデレラは呻いた。
「逃げなきゃ……殺されるっ!」
よろよろと立ち上がったシンデレラの目に、上の階からジャンプしたななかが目に入った。飛鳥の如く、空中を舞ったななかは、華麗なムーンサルトを披露した。
棒立ちのシンデレラに対して、逆立ちで胸と胸が向かい合わせに当たるよう、回転を調整する。
「必殺ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!
ななかすぺしゃるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
絶叫と共に、ななかはシンデレラの胸に、ボディアタックをかました。
破壊的な衝撃が、シンデレラを襲った。
「ぐがあああああああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
もはや、人間の叫び声ではなかった。
血反吐を撒き散らして、シンデレラは床に沈んだ。
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