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第二章

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 階段の手すりを、つつっ、と細い指がなぞる。
 
 「…………」

 その先をしげしげと見つめると、指の主は、それをびっ、とシンデレラに突きつけた。

 「おい、シンデレラっ! 
  これはなんだ?
  どういうことなのだ?」
 

 びくっ。

 
 怯えたシンデレラは、体をふるわせた。
 汚れた金髪をふりながら、弱々しく答える。
 
 「そ……掃除は、済ませたのよ……
  ミスト……義母さん」
  
 たどたどしい弁明に、継母は細い眉を逆立てた。
 
 「口答えは、やめろと言っておろうがっ!」
 
 一喝すると、腰のレイピアを引き抜いた。
 切っ先を、シンデレラののどに、突きつける。
 
 「……ぅ」

 「わたしは、完璧に、きれいに、掃除しておけと言った筈だぞ?」
 
 「……はい」
 
 「じゃあ、この手すりはなんだ?
  これが、お前の完璧ということか?」
  
 レイピアの切っ先が、のどの薄皮を一枚、傷つけた。
 赤いものが、にじみ出してくる。
 
 「か……義母さん。
  切れてる……のど…………」

 「ぐたぐた言うな。
  アクトジェンダーを叩きこまれんだけ、マシと思ってもらおうか」
  
 継母は、そう言い放つと、思い出したようにレイピアに頬ずりした。
 
 「そういえば……ゲッツェンの必殺技はよく知られているが、
  わたしの必殺技は、誰も覚えていないらしいぞ。
  ここらで一つ、デモンストレーションが必要とは思わんか?」
  
 シンデレラは、ぶんぶんと首をふった。
 
 「そっ……そんな必要はないっ!
  あ……アクトジェンダー、素晴らしいですっ!!」
  
 「そ、そうか?」
 
 心なしか嬉しそうにしていた継母は、はっと気づいたように顔を険しくした。
 
 「とにかくっ!
  働かざるもの、食うべからずだっ!
  今日中に掃除ができない場合は、晩飯はヌキだっ!!!」

 シンデレラに厳命した継母は、派手にマントを翻して去っていた。
  
 「そ、そんな、殺生な……」

 打ちひしがれるシンデレラの背後で、含み笑いが聞こえた。
 
 「うふふふふふふ」
 「わっはっはっは」
 「あはっ、あはははは」
 
 底意地の悪そうな響きに、シンデレラの顔が真っ青になる。
 おそる、おそる、後ろを振り向いた。
 3人の義姉が、にやにや笑いをしていた。
 
 「な……ななか義姉さん!
  イガロ………義姉さん!
  ………ルーイ義姉さん!」
  
 ムンクの叫びの如く、幽鬼めいた表情になりながら、シンデレラは絶望的に叫んだ。
 
 「お……おねがいだから、今日は……見逃してっ」
 
 「あ〜ら、どぉしよっかな〜〜♪」
 
 上の義姉のななかが、節をつけながら返答する。
 その手から、インク瓶が落ちた。
 
 「ああっ!」
 
 蒼白になったシンデレラの前で、インクは床の絨毯に染みこんでいった。
 
 「早く拭かなきゃっ」
 
 あわてて駆け寄ろうとしたシンデレラの顔面に、中の義姉のニーキックが炸裂した。
 
 「げふっ!」
 
 「弱いっ! 弱すぎるっ!!」
 
 鼻血を拭いて後頭部から倒れるシンデレラを、イガロは鼻で笑った。
 
 「あ、ああああ。」
 
 痛みで朦朧となったシンデレラは、無意識のうちに這って逃げ出そうとした。
 その時、彼女のメイド服を、何者かの足がふんづけた。
 
 「る……ルーイ義姉さん……」
 
 末の義姉は、天使のように微笑んだ。
 
 「だめだよ、恭平。まだ掃除が終わってないよ」
 
 三人の義姉は、声をそろえて笑った。
  
 「うふふふふふふ」
 「わっはっはっは」
 「あはっ、あはははは」
 
 シンデレラは涙目になって訴えた。
 
 「な……なんだよ……
  あんたら、何かオレに恨みでもあるのかよぉ」
  
 シンデレラの声に、3人は、楽しそうに顔を見合わせた。
 
 「なぁに?
  ひょっとして、あたしたちが、あんたをいじめてるとでもいうわけぇ?」
  
 「情けない。被害妄想もここまでくると、救いようがないっ」
 
 「恨みなんて、あるわけないじゃないですか」
 
 一斉に、笑う。
 
 「嘘だっ! 絶対に、わざとだっ!」
 
 シンデレラの告発に、ななかはやれやれと首をふった。
 
 「こういう情けない義妹をしつけるのも、義姉の義務だと思うのよ」
 「まったくだ」
 「僕たちって、親切だよね」
 
 徐々に狭まる包囲網に、シンデレラは硬直して逃げることもできなかった。
 
 「別にね……」 ななかがつぶやくように言う。
 「お姉さまの事で妬んでたりするわけじゃないのよ……」
 
 「そうだとも」 イガロもうなずく。
 「別にエスカレイヤーがどうこうというわけでは、決してない!」
 
 「そうだよね」 ルーイが激しく同意する。
 「僕の初恋の事なんか、これっぽっちも関係ないよ」
 
 
 3人はうなずきあうと、一斉にシンデレラを睨みつけた。

 
  ぎろり。


 「お……おまえら、なんの事を言ってんだ?」
 
 「あーあーあー。
  今の恭平には、何のことだか、わかんないかもね。
  ……でもねぇ」
  
 ななかの顔が、光と影で、どぎつく隈取られた。
 
 「あたし達には、関係ないのよねぇ……そんなことぉっ!」
 
 「ひいいいっ!!!」
 
 
 ななかの迫力に怯えたシンデレラは、脱兎の如く逃げ出した。
 その先に、ルーイが回り込む。
 
 「甘いよねっ」
 
  がんっ。
 
 「あうっ!」
 
 空の灯油缶が、シンデレラの顔面を強襲した。
 顔を押さえて棒立ちになるシンデレラの前で、ななかが飛び、背中を見せて一回転した。
 
 「ななかソバットぉ!」
 
 「げふうっ!」
 
 硬いブーツを鳩尾に喰らい、シンデレラは後方へ吹っ飛んだ。
 その体が、逞しい胸板に支えられる。
 
 「こんどは、オレの番だ」
 
 声がして、てきぱきと体が折り曲げられていく。
  
 「えっ?」
 
 気づいた時には、首に足が引っかけられていた。
 
 「必殺!
  オクトパスホールド!」
  
 「ぎゃあああああああああああっ!」
 
 イガロの巨体から繰り出される、別名を卍固めというその技は、シンデレラの全身の関節を容赦なく締め上げた。
 
 「なぜ、なぜぇっ! おぬしのような軟弱者がぁっ!!」
 
 
 イガロは天に吠えた。


 ぶるんぶるんと、首をふる。
 
 「なっとくいかーーーーーーーんっ!!!」

  ぎりぎりぎり。

 強烈な締め付けが、全身の骨を痛めつけた。
 
 「あがががががが」
 
 シンデレラは、泡を吹いた。
 さんざん痛めつけたあと、イガロはわざと技を解く。
 
 「た……たすけて……」
 
 ふらふらとよろめくシンデレラに、ルーイが突っ込んだ。
 
 「高空式ドロップキックぅぅぅぅぅぅ!」
 
 「ぐわあっ!」

 まともに胸に喰らったシンデレラは、足下をふらつかせると、階段を転げ落ちていった。
 
  がたんごとんがたん。
 
 長い階段を転げ落ちたシンデレラは、下の階で、ようやく止まった。
 
 「…………ぅぅ」
 
 額から血を流し、シンデレラは呻いた。
 
 「逃げなきゃ……殺されるっ!」
 
 よろよろと立ち上がったシンデレラの目に、上の階からジャンプしたななかが目に入った。

 飛鳥の如く、空中を舞ったななかは、華麗なムーンサルトを披露した。
 棒立ちのシンデレラに対して、逆立ちで胸と胸が向かい合わせに当たるよう、回転を調整する。
 
 「必殺ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!
  ななかすぺしゃるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
  
 絶叫と共に、ななかはシンデレラの胸に、ボディアタックをかました。
 破壊的な衝撃が、シンデレラを襲った。
 
 「ぐがあああああああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
 
 もはや、人間の叫び声ではなかった。
 
 血反吐を撒き散らして、シンデレラは床に沈んだ。


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