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ななかはうずくまっていた。
高円寺家でモニタしたのと同じ音声が、ななかの頭にこだましていた。
『んあっ…んあっ…んあっ…んあっ…んあっ…ひぃっ…』沙由香が陵辱されているというのに、体が動いてくれない。
頬に手を当てる。
『お前には、頼まない』恭平の蔑んだ目が、ななかに突き刺さった。
「なによ……結局、なにもできないじゃない。
お姉さまを、守れなかったじゃない。
口だけなら、なんとでも言えるわよ」
自分しかいない廃ビルの一室で、ななかは懸命に言い訳をした。
「だから、あたしじゃないとダメなのよ。
……最初っから、そうすれば良かったのよ。
お姉さまも……あたしの気持ちを無視するから、いけないのよ」
『いやああああっ、そんな激しくしないでぇっ!!』
脳裏に響く沙由香の声に、ななかは、びくっ、と体を震わせた。
「……お、お姉さまも、馬鹿よねぇ。
あんな、頼りない恭平を選んだから、こういう目にあうのよ。
誰を好きになるのが得か、分かりそうなものだけど……」
『損得で、人の愛は決められるものではありません』
静かな声に、ななかは驚愕した。
「マドカ? マドカなの?」
『そうです。先ほど、通信機をセットさせてもらいました』ななかは、ふん、と鼻を鳴らした。
「そう……そういうこと。
あんたらしいわ。
それに何?
『損得で、人の愛は決められるものではありません』?
お笑いぐさよ。
ロボットのあんたに、愛のなにがわかるのよ」
『これは、私の言葉ではありません。
高円寺博士の言葉です』
「お姉さまの……お父さま……」『ななかさんにとっても、遺伝上の親にあたります』
「…………」
『では、ななかさん。
あなたが沙由香さんを好きになったのは、
そうした方が、得だったからですか?』
「……っ!」『あなたにとって、利用価値があるから、沙由香さんを好きになったのですか?
利用価値がなくなれば、沙由香さんへの愛は、消えるのですか?』
「……このっ!」
『例えば、あなたを好きになってくれそうもない沙由香さんは、
あなたにとって、価値がなくなったということなのでしょうか?
だから、沙由香さんが酷い目にあっても、無関心でいられるのですか?』「…………」
『得だから愛する。
損だから愛さない。
価値があるから愛する。
価値が無いから愛さない。
そんな、節操のないものが、いったい愛といえるのでしょうか』「…………」
『沙由香さんは、損得で人を愛してるわけではありません。
恭平さんも、損得でいえば、私たちと無縁に暮らす方が得な筈です。
ただの人間の恭平さんが、どれだけの勇気を発揮しているか。
それはいったいどうしてなのか。、
あなたには理解できないのでしょうか?』
「…………」『ななかさん、あなたは強大な力を持ち、若く美しい女性です。
その力は、恭平さんなど、問題になりません。
それでも、沙由香さんの危機に、動いたのはあなたではありません。
非力な恭平さんでした』
「…………」『あなたは、沙由香さんを愛していると、私にいいました。
でも、あなたの行動を見る限り、あなたは沙由香さんを』
マドカは一旦、言葉を切った。
『愛してはいません』沈黙が、部屋を支配した。
「…………なによ」ななかの声は、鼻にからんで震えていた。
「…………なによぉ」
緑色の瞳から、大粒の涙があふれる。
「言いたい事、言ってくれちゃって……
なによぉ、あたしの気持ちが偽物だっていうの?
なによ……ロボットのくせに……」
『…………』
再び、沈黙が降りた。
ななかの中で、沙由香の喘ぎ声だけが響く。
『あぅっ!……ひぃっ……お願いっ……深いぃぃぃっ!!』
ななかは、両手で不器用に顔をこすった。
虚空を睨んだ顔には、涙の跡が、くっきりとついていた。
「マドカ!
このポンコツ!
あたしの愛が本物か偽物か、見せてあげるわ!」
叫ぶと、ななかは廃ビルの窓を突き破った。
紫色の光が、一直線に飛んでゆく。
『待ってて、お姉さま』
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