| 前へ | 次へ |
手足の感覚は、無かった。
アスファルトの模様が、凄い勢いで流れ去ってゆく。
地上5センチの光景は、全体を見渡す時間を与えない。
地面の突起にひっかかり、バウンドしたエスカレイヤーは、苦痛の呻きをあげた。
エスカレイヤーを引きずる3つの馬の上で、フラスト達が相談していた。
「兄貴ぃ、そろそろいいんじゃない?」
「私も、パイと同じ意見です。
そろそろ、最後のエネルギーも尽きたころかと」
ライダーフラストの長兄は、いやらしい笑みを浮かべた。
「おう、そうか。
ラムダの太鼓判なら、間違いねぇなあ」「あ、ひどーい」
三者それぞれの笑いを漏らしながら、背後に引きずるエスカレイヤーを見つめる。
この状態になって30分。
常人なら、死ぬどころか、五体がバラバラになっている。
いくらエスカレイヤーでも、躰の防御に回すエネルギーがそろそろ尽きるはずだ。
「じゃあ、あたしがやるね」宣言して、パイの手が振り上げられる。
「イデアの壁よ……」疾走する3人の前方に、うっすらと赤い壁が現れ始めた。
あと100メートル。
「いよいよね……楽しませてよ……」パイが舌なめずりしながら振り向いた。
あと80メートル。
「教育は、期待できますかね……」ラムダが細い目で、エスカレイヤーの躰を眺めた。
あと50メートル。「おう、あと少しだ」
イプシロンが、豪快に笑う。
唐突に、もの影から乗用車が突っ込んできた。
「おぉっ!」
「くっ!」
「ええっ!」驚愕する3人の中で、素早く立ち直った長兄のイプシロンが、素早く発砲した。
弾は、車の内部を破壊して、貫通した。
進路がそれ、電柱に激突する。
その一部始終を、朦朧としていた筈のエスカレイヤーは見ていた。
運転席に乗っていたのは、恭平だった。
『恭ちゃんっ!』
「すっごぉぉぉぉい!」
「兄上、さすがですね」弟妹の賛辞を聞き流し、イプシロンは内心で冷や汗を拭った。
『やべぇやべぇ。完全に不意打ちだったぜ』
イデアの壁が近づく。
背後で、車が爆発した。
「いやあああああああああああああああっ、
恭ちゃんっ!
恭ちゃんっ!!!」イデアの壁が、せまる。
エスカレイヤーの目から、一筋、涙が流れた。
3人の怪人は、捕らえたヒロインともども、イデアの壁を越えた。
| 前へ | 次へ |