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第四章

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「待ちなさい!」

 血と炎の中で、エスカレイヤーは叫んだ。
 
「ライダーフラスト、それ以上の狼藉は、このエスカレイヤーが許しません!」

 振り向いたフラストの目が、細められた。
 
「お前がエスカレイヤーか?
 なるほど、小娘だな」
 
 フラストは侮るように、馬の上でテンガロンハットをくるくると回した。
 エスカレイヤーは、かっ、として叫んだ。
 
「小娘と侮ると、痛い目を見ますよっ!」

 フラストは取り合わず、無造作に銃を撃った。
 弾は、報道用のヘリに命中し、爆発した。

「えっ?!」

 ヘリはそのまま、閂病院に墜落し、爆発炎上した。
 目の前で病院が燃えていく。
 
 エスカレイヤーの顔が、蒼白になった。
 
「なんてことを……」
「へっへっへ」

 ライダーフラストは、いやらしく笑った。
 
「おめぇが、いけねぇんだぜ」
「なんですって?」

「あのイガロを倒したってぇから、
 俺は、期待してたんだぜぇ。
 それが、でてきたのはよわっちい小娘だ。
 がっかりしたぜ。
 俺が八つ当たりしたくなるのも、無理はねぇよなぁ」
 
「なっ……」

「俺のせいじゃねぇぜ。
 俺をがっかりさせた、おめぇが悪ぃんだ。
 あそこで死んでいくのは、ぜぇんぶ、おめぇの犠牲者よ」

 フラストは燃える病院を指さした。
 エスカレイヤーの手が、ぶるぶると震えた。

「言わせておけば……っ」

 エスカレイヤーは、パルシオンを抜いた。
 
「コール・パルセイバー!」

 ビームソードを振りかざし、馬上のライダーフラストに突進する。
 
「あなたは、許しません!」
「……青いねぇ」
「えっ?」

 疑問に思う間もなく、エスカレイヤーの左足に、何かが絡みついた。

「きゃああっ!」

 突進した勢いそのままに、バランスを崩したエスカレイヤーは、地面に倒れた。
 衝撃で、パルシオンが転がる。
 
「パ、パルシオンが……」

 朦朧とする頭を振って、エスカレイヤーはパルシオンに手を伸ばした。
 その時、銃声が響く。

 ドキューン!
 
 素早く銃を抜いたフラストが、パルシオンを跳ねとばした。
 少し離れた場所に、パルシオンが転がる。

「くっ!」

 エスカレイヤーは唇を噛み、パルシオンを追おうとした。
 その手に、ロープが絡みつく。
 
「えっ?」

 左足に続いて、右腕をも拘束されたエスカレイヤーは、慌てて周囲を見回した。
 2本のロープは、赤い空間から伸びていた。
 その空間から、騎馬の影が2つ、あらわれた。
 
「イ……イデアの壁に潜んで……」

 罠にかかった事を悟ったエスカレイヤーは、悔しげに歯がみした。
 正義のヒロインを囲んだ三角形の頂点で、怪人達は不気味にわらった。
 エスカレイヤーは、弱気を吹き飛ばそうとするかのように、声を張り上げた。
 
「なっ……なにがおかしいんですっ!
 笑ってないで、名乗ったらどうですかっ!」
 
「おぅ、こりゃ、悪かったな」

 強がりを見透かしたかのように、おどけた口調で応えると、正面の怪人が、ホルスターに銃を落としこんだ。
 2メートルを越す、雄大な体格の怪人は、よく見ると片目がつぶれていた。
 残った眼が、嘲弄で揺れている。

「俺はライダーフラスト長兄、廃棄コード ε−1(イプシロン=ワン)」
 
 続いて左足を拘束している怪人が名乗りをあげる。
 均整のとれた中肉中背の怪人は、エスカレイヤーに一礼した。
 あげた顔の中で、細い目が冷酷な光を放った。
 
「私はライダーフラスト次兄。廃棄コード λ−2(ラムダ=トゥ)」

 焦りの顔を隠せないエスカレイヤーが、いきなり倒れた。
 左足のロープが、最後の怪人に引かれたのだった。

「きゃあっ」

 再び土を舐めたエスカレイヤーに、怒声が浴びせられる。
 
「なにぼやぼやしてんだよっ!
 あたしを無視すんなっ!!」
 
 衝撃にかすむ目で、エスカレイヤーは馬上の影を見上げた。
 三体目の怪人は、エスカレイヤーと同程度の体格だったが、アンバランスなほど巨大な胸を突きだしていた。その頂点が、ぷくりと戦闘服を盛り上げている。
 
「あたしは、ライダーフラスト末妹。廃棄コード π−3(パイ=スリー)」
 
 テンガロンハットをぐい、とあげた下には、猫目がつり上がっていた。
 
「くっ……フ、フラストが……3体……」

 エスカレイヤーは立ち上がろうとした。
 手をパルシオンの方へ伸ばす。
 
「おっと、そうはいかねえ」

 イプシロンが、素早く投げ縄を投じた。ロープが生き物のように、エスカレイヤーの右足に絡みつく。
 エスカレイヤーは、三度、ぶざまに転倒した。
 
 イプシロンとパイが、視線を交差させる。
 
「やるぞっ、パイっ!」
「わかってるっ」
 
 にやりと笑った二人は、いきなり反対方向へと馬を走らせた。
 勢いよくロープが引っ張られる。

「きゃあああああああああっ!」

 エスカレイヤーは、勢いよく地面から引っこ抜かれた。
 両足首を拘束していたロープが、地上数メートルの高さで、ぴん、と張った。
 エスカレイヤーの躰が、逆さになり、両足が地面と平行に広げられる。
 Tの字を躰で描いたヒロインの、股間の関節が、ごきり、と鳴った。

「あうううううううぅぅぅぅぅっ!」

 激痛にもだえるエスカレイヤーは、それでもパルシオンの方へ手を伸ばす。
 
「おっと、そうはいきません」

 ラムダがエスカレイヤーの右手を拘束するロープを、無慈悲にぐい、と引いた。
 エスカレイヤーの右手は背後を通って、逆に左後方へ引っ張られる。
 東西に、ぴんと固定された下半身の下で、上半身が、無理矢理、左後方へねじられる。
 全身の骨が、きしみをあげた。
 
「ああああああああああああっ!」

 遠くなったパルシオンを絶望の瞳で見据え、エスカレイヤーは全身の痛みに身もだえた。
 空中で、奇怪な体位をとるエスカレイヤーに、イプシロンがげらげら笑いながら聞いた。
 
「いい格好だな、エスカレイヤー!
 私の負けです、イプシロン様。って言ったら
 楽に殺してやってもいいぜぇ」
 
 エスカレイヤーの丸い尻を眺めながら、3人のフラストは一斉に笑った。
 苦しい息の下で、エスカレイヤーは声を絞り出した。
 
「だ……誰が……言うものです……か」

 反抗的な言葉に、三人の顔色が変わる。
 パイが叫んだ。

「気に入らないっ。弱いくせに生意気だよ、こいつ!」

 ラムダが長兄に提案した。
 
「兄上、この娘、口の利き方を知らんようですね。
 殺す前に、教育する必要があるのでは?」
 
 イプシロンが大きくうなずいた。
 
「おう。女の生意気なのも、程度があるぜ。
 こんなかわいげのない女、このまま殺したら地獄でもてあますってもんだぜ。
 しつけって、奴をしとかないと、先に逝かせた奴が迷惑するってもんだ」
 
『……くっ』
 
 勝手な事を言うフラストを後目に、エスカレイヤーは最後の力を振り絞り、少しずつパルシオンに手を伸ばしていた。

 あと20センチ……
 
    ……10センチ……

      ……5センチ……
    
        ……3センチ……

 
 三人が、気づいた。
 同時に、叫んだ。
 
「「「エレクトリック・シューッ」」」

 3本のロープから、強烈な電撃が放たれた。
 
「ぎゃあああああああああああああああああっっっ!!!!」
 
 逆さになったエスカレイヤーは、Tの字を描いたまま、奇怪なダンスを踊った。
 やがて電撃が収まると、ロープが緩み、エスカレイヤーは肩から地面に落下した。
 
 ごすっ。
 
 
「…………ぅ……」

 呻き声をあげるエスカレイヤーの手足が、再度引っ張られた。

「……ぇ?」
 
 ひひーーーーーん!
 
 三頭の馬が同時にいななき、閂市の駅前通りと爆走し始めた。
 
「さあ、市内を一周してやるぜぃ」

「きゃあああああああああっ!!」

 エスカレイヤーはそのまま、アスファルトの上を引きずられた。 

 


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