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第三章

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 突然だった。
 
 通行人の首に、縄が巻き付き、先端の輪が締まった。

「ぐわっ」

 そのまま引きずり倒され、凄い勢いでアスファルトを滑ってゆく。
 2、3度、路面にバウンドすると、不幸な男は頸骨を折って死体となっていた。
 風切り音を残して、ロープがはずれて戻っていく。
 
 何事かと見回した別の通行人に、別のロープが巻き付いた。
 その横の通行人にも。
 さらにその横にも。
 
 閂市の空に、人型の影が舞った。
 
 ごきっ
 めきっ
 がすっ
 
 3人の一般市民は、先ほどの男と同じように、唐突に人生を終えた。
 
 3本のロープは、魔法のように犠牲者の首からはずれ、3方に戻っていった。
 自動的に巻き戻ったロープは、小気味よい音と共に、3人の怪人の手に収まった。
 
 ひひーーーん!
 
 馬のいななき声が、駅前大通りに響いた。
 通行人達は、恐怖に固まった目で、そちらを見た。 
 
 3頭の馬の背に、逞しい3人の影が乗っていた。
 テンガロンハットに隠された顔の下で、男臭い口が、にやりと笑った。
 
「だ……ダイラストの怪人だっ!」

 誰かが叫ぶと、恐慌が起こった。
 
「たっ……たすけてくれっ!」
「死にたくないぃっ!」

 3人の怪人は、唇に笑みを貼り付かせたまま、素早く腰の銃を抜いた。
 乾いた音が連続し、市民の頭が次々と爆発していく。
 
 血と死の香りの中で、先頭の怪人が、1本の指を突きだした。
 ぐい、とテンガロンハットを持ち上げる。
 ハムスターやリス、ウサギといった齧歯類の動物に似た、しかし遙かに凶悪そうな面構えがあらわれる。
 
 茶色の体毛を抜きながら、先頭の怪人はつぶやいた。
 
「エスカレイヤーって小娘は、どこでぇ?」


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「沙由香さん、ダイラストです」

 マドカの声で、沙由香は目覚めた。
 木造教室の中は、まだ明るい。
 裸のまま、恭平と抱き合っていた事に気づき、沙由香は顔を赤くした。
 マドカからタオルケットをもらって身にまとう。
 
「どうなってるの?」

 沙由香が問うと、マドカはポータブルモニタを差し出した。
 MHKの臨時ニュースが流れている。
 
 閂市の駅前大通りは、相変わらず混雑していた。
 ただし生者は一人もいなかった。
 
「ひどい……」
 
 首を変な方向へ曲げた死体と、無くした死体とが、画面を埋め尽くしていた。
 その中心で、カウボーイスタイルの怪人が、一人、馬に乗ってたたずんでいた。
 テンガロンハットの下の顔は、地球の齧歯類に似ていたが、傷だらけの顔に、愛嬌はどこにも見えなかった。
 
 怪人は、カメラに気づくと、にやりと笑った。
 
『エスカレイヤー! 見ているか?』

 毛だらけの顔から、牙がむき出される。
 
『俺はライダーフラスト。
 お前を殺す為に来た傭兵だ』
 
 横柄な口調で言うと、いきなり振り向いて銃を撃つ。
 弾は、背後から近づいていた機動隊員を、盾ごと貫いた。
 直線上の警察官を全て貫き、ビルにあたって爆発する。
 
『う、撃てぇっ!』

 指揮官の号令とともに、警察の一斉射撃が始まった。
 しかしフラストに命中した弾は、すぐに体から押し出され、空しく地面に落ちていく。
 
『うぜぇ』

 フラストは吐き捨てると、警官隊に銃を乱射した。
 一弾ごとに、十数人の命が失われていく。
 警官隊は、瞬く間に、半減した。
 
 フラストが、ふっと銃口の煙をふくと、指揮官が引きつった声で退却を命じた。

『弱いねぇ』

 フラストは嘲った。弾を詰め直して、再び腕を伸ばす。
 逃げる警官隊に向け、撃った。
 
『ぎゃああああっ』

 背後から貫かれ、ほとんどの警官は死体となった。
 貫通した弾は、パトカーに当たって爆散した。
 ガソリンに引火し、炎が人を焼いた。
 
『はあっはははははぁ。
 弱い。弱い弱い弱いっ!』
 
 血の霧が、熱風に巻き上げられる。
 馬の蹄で死体を踏みつぶしながら、ライダーフラストは両手を広げて哄笑した。
 
『問題にならんわっ』

 再びカメラを睨むと、挑発するように叫ぶ。

『エスカレイヤー!
 こいつらの情けなさに、俺は非常に機嫌を損ねた!
 この腹立ちは、地球人の血であがなってもらう!』
 
 再び銃を撃つ。どこかで悲鳴が聞こえた。
 
『それがいやなら……
 でてこい、エスカレイヤー!
 俺を止められるものなら、止めて見ろ!』
 
 再び、フラストは哄笑した。
 カメラに銃口が向けられる。
 
 轟音がして、映像は唐突に終了した。
 
 
「……10分前の状況です」
 
 マドカの淡々とした声に、沙由香は我にかえった。
 
「ひどい……」

 立ち上がろうとする沙由香の肩を、背後の手が抑えた。
 
「待てよ」
「恭ちゃん……」

 タオルケットをまとった恭平は、沙由香の両肩を掴んだ。
 
「うまく言えないけど……
 なにかおかしい。
 沙由香を挑発してる。
 今までのフラストと違うような気がする」
 
 恭平は沙由香の目をのぞき込んだ。

「今は行くな、沙由香」
「でも……」

 沙由香は恭平を見上げて訴えた。
 
「見たでしょう。
 さっきのニュース。
 私がいかないと……」
 
 沙由香は恭平を抱きしめてささやいた。
 
「心配してくれて、ありがとう。
 でも、いかないと……
 私が、地球を守らないと……」
 
 首筋にキスして、沙由香は教室を飛び出した。
 廊下で変身する。
 
 あわてて恭平も服を身にまとい、それに続いた。
 マドカが併走する。
 
「あれ?」

 恭平は、なにかに気づいたようにマドカをつついた。
 
「なんですか?」
「ななかは?」

 マドカは無表情に応えた。
 
「いません。連絡不能です」


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