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「恭平さんも、マニアックな……」嘆息しつつ、マドカは教室をでた。
二人を起こさないよう、静かに引き戸を閉める。
そのまま、廃校舎の木造階段を下りた。
職員室の脇から外へでる。「…………」
マドカの足が、止まった。
ゆっくりと、眼球を下に移動させる。
折れそうなほど細い、マドカの首に、凶悪なかぎ爪が擬せられていた。
眼球だけを、左に動かす。
かぎ爪は、竜胆色の腕にささえられていた。
背後で気配が動く。
そこに、ななかが立っていた。
「これは、なんのマネです?」無表情に尋ねるマドカの声に、ななかが低い声で問い返す。
「お姉さまは?」
「上です」「上で、何をしてるの?」
「わかってるんじゃ、ないんですか?」ちきり、とかぎ爪が鳴った。
マドカの皮膚に、軽くおし当てられる。
「恭平と、いっしょなの?」
「だったら、どうだというんです?」いきなり、マドカの首が180度、回転した。
正面から見つめ合い、ななかが動揺する。「あ……あたし……」
「なんです?」「あたし、お姉さまの事が、好きなの。愛してるの」
「知ってます」マドカの応えに、ななかは他愛もなく逆上した。
「ならっ!
なんでっ!
お姉さまと恭平が……その……」「SEXですか」
ななかの顔が恥じらいの色に染まった。
「そ……そそそそ、そうよっ」かぎ爪は、既に下ろされていた。
ななかは両の拳を、意味もなく振りながら、マドカに詰め寄った。「恭平はっ、お姉さまの恋人ってわけじゃ、ないんでしょ!
恭平って、いっつもそう言ってるじゃない!
なら、なんでいつも、お姉さまと……その、愛し合っているのよっ!!」
ななかは我慢の限界がきたというように、叫んだ。
「あたしだって、お姉さまのことが好きなのにぃっ!
なんで、恋人でもない恭平が、お姉さまのそばにいるのぉっ!
それも、毎日毎日、朝から晩まで……
あたしの目の前でっ、あてつけるようにっ……」
「ですから、今日は目の届かないところへ来たの……」
「それもっ!
それもっ、気に入らないのよっ!
なんで、みんなして、こそこそするわけぇっ?!
なんで、あたしを邪魔者扱いにするのよぉっ!!」「……実際、邪魔者なんですが……」
「なにか言ったぁっ?!!!」マドカは今日2度目のため息をつくと、首から下を180度回転させた。
姿勢が正常な位置に戻る。
「結局、ななかさんは、なにが不満なんですか?」ななかは、うっ、と詰まった。
もじもじと、戦闘服のすそをいじり、体をくねらせた。
「だから、私も……お姉さまと……その」「SEXですか」
ななかの顔が、再び赤くなる。
「いやぁん。
その……最初はぁ、恋人同士って感じで……
デートしたり?
手を組んだり……見つめ合ったり……
でもでも、それだけってわけじゃなくって、一緒に過ごすうちに気持ちが高まってきて、
そしたら……あたしのバージンだって……」
マドカはうんざりするように、ななかの妄想を聞いていた。
ななかのバージンを、沙由香にどうしろというのだ。
マドカは心持ち半眼になった目で、ななかに告げた。
「残念ですが、沙由香さんは、ななかさんに恋愛感情を抱いていません」
「うそぉっ!」ななかは愕然とした。
「だって……お姉さまは、あたしを助けてくれて……
だからあたしは……ダイラストと戦うって……」
「それは、沙由香さんが、ななかさんに同情したからです。
恋愛感情では、ありません。
沙由香さんが好きなのは……」
「いやぁぁぁっ!!
聞きたくないっ!
聞きたくないわっ!!」
その時、二階から声が漏れてきた。
マドカとななかの鋭敏な耳は、その音をはっきりと捉えた。
『あっ……ああだめよ、柳瀬君。昨日のあれは、一時のあやまちなのよ……』
『そんなっ、せんせいは……高円寺せんせいは、嘘をついてるんだぁっ!』
『いいえっ、あれは夢なの……まぼろしの中の出来事なの……』
『昨日の事が夢ならっ……オレ達が今こうしてる事も夢なの?』
『それは……あっ、だめっ! だめよっ、柳瀬君っ!!』
『せんせいっ!』
あああああああああああああああああ。
マドカは、台本を取り出した。
「……背徳の女教師 禁断の許されぬ恋 第二章……」
目を上げたマドカは、ななかが小刻みに揺れているのに気がついた。
「……きょうへぇっ、よくもぉっ!!」
階段を上ろうとするななかの前に立ちふさがり、マドカは通せんぼをした。
「……どきなさいよ」
「行って、どうするんですか?」マドカとななかは、にらみ合った。
「殺すわよ! このポンコツ!!」
「私を壊したら、沙由香さんは、あなたをどう思うでしょうね?」ななかは、うっと詰まった。
「もう一度言います。沙由香さんが好きなのは……」
「いやあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」ななかは、耳をふさぎ、校庭に走り出た。
そのまま紫の影となって、夏の空に消えた。
マドカは、3度目のため息をついた。
「……なんとかしないと……」
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