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第二章

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「恭平さんも、マニアックな……」

 嘆息しつつ、マドカは教室をでた。
 二人を起こさないよう、静かに引き戸を閉める。
 そのまま、廃校舎の木造階段を下りた。
 職員室の脇から外へでる。

「…………」
 
 マドカの足が、止まった。
 ゆっくりと、眼球を下に移動させる。
 折れそうなほど細い、マドカの首に、凶悪なかぎ爪が擬せられていた。
 眼球だけを、左に動かす。
 
 かぎ爪は、竜胆色の腕にささえられていた。
 背後で気配が動く。
 
 そこに、ななかが立っていた。
 
「これは、なんのマネです?」

 無表情に尋ねるマドカの声に、ななかが低い声で問い返す。
 
「お姉さまは?」
「上です」

「上で、何をしてるの?」
「わかってるんじゃ、ないんですか?」

 ちきり、とかぎ爪が鳴った。
 マドカの皮膚に、軽くおし当てられる。
 
「恭平と、いっしょなの?」
「だったら、どうだというんです?」

 いきなり、マドカの首が180度、回転した。
 正面から見つめ合い、ななかが動揺する。

「あ……あたし……」
「なんです?」

「あたし、お姉さまの事が、好きなの。愛してるの」
「知ってます」

 マドカの応えに、ななかは他愛もなく逆上した。
 
「ならっ!
 なんでっ!
 お姉さまと恭平が……その……」

「SEXですか」

 ななかの顔が恥じらいの色に染まった。
 
「そ……そそそそ、そうよっ」

 かぎ爪は、既に下ろされていた。
 ななかは両の拳を、意味もなく振りながら、マドカに詰め寄った。

「恭平はっ、お姉さまの恋人ってわけじゃ、ないんでしょ!
 恭平って、いっつもそう言ってるじゃない!
 なら、なんでいつも、お姉さまと……その、愛し合っているのよっ!!」
 
 ななかは我慢の限界がきたというように、叫んだ。
 
「あたしだって、お姉さまのことが好きなのにぃっ!
 なんで、恋人でもない恭平が、お姉さまのそばにいるのぉっ!
 それも、毎日毎日、朝から晩まで……
 あたしの目の前でっ、あてつけるようにっ……」
 
「ですから、今日は目の届かないところへ来たの……」
「それもっ!
 それもっ、気に入らないのよっ!
 なんで、みんなして、こそこそするわけぇっ?!
 なんで、あたしを邪魔者扱いにするのよぉっ!!」

「……実際、邪魔者なんですが……」
「なにか言ったぁっ?!!!」

 マドカは今日2度目のため息をつくと、首から下を180度回転させた。
 姿勢が正常な位置に戻る。
 
「結局、ななかさんは、なにが不満なんですか?」

 ななかは、うっ、と詰まった。
 もじもじと、戦闘服のすそをいじり、体をくねらせた。
 
「だから、私も……お姉さまと……その」

「SEXですか」  

 ななかの顔が、再び赤くなる。

「いやぁん。
 その……最初はぁ、恋人同士って感じで……
 デートしたり?
 手を組んだり……見つめ合ったり……
 でもでも、それだけってわけじゃなくって、一緒に過ごすうちに気持ちが高まってきて、
 そしたら……あたしのバージンだって……」
 
 マドカはうんざりするように、ななかの妄想を聞いていた。
 ななかのバージンを、沙由香にどうしろというのだ。
 マドカは心持ち半眼になった目で、ななかに告げた。
 
「残念ですが、沙由香さんは、ななかさんに恋愛感情を抱いていません」
「うそぉっ!」

 ななかは愕然とした。

「だって……お姉さまは、あたしを助けてくれて……
 だからあたしは……ダイラストと戦うって……」
 
「それは、沙由香さんが、ななかさんに同情したからです。
 恋愛感情では、ありません。
 沙由香さんが好きなのは……」
 
「いやぁぁぁっ!!
 聞きたくないっ!
 聞きたくないわっ!!」
 
 その時、二階から声が漏れてきた。
 マドカとななかの鋭敏な耳は、その音をはっきりと捉えた。
 
『あっ……ああだめよ、柳瀬君。昨日のあれは、一時のあやまちなのよ……』
『そんなっ、せんせいは……高円寺せんせいは、嘘をついてるんだぁっ!』
『いいえっ、あれは夢なの……まぼろしの中の出来事なの……』
『昨日の事が夢ならっ……オレ達が今こうしてる事も夢なの?』
『それは……あっ、だめっ! だめよっ、柳瀬君っ!!』
『せんせいっ!』


 あああああああああああああああああ。

 
 マドカは、台本を取り出した。
 
「……背徳の女教師 禁断の許されぬ恋 第二章……」
 
 目を上げたマドカは、ななかが小刻みに揺れているのに気がついた。
 
「……きょうへぇっ、よくもぉっ!!」
 
 階段を上ろうとするななかの前に立ちふさがり、マドカは通せんぼをした。
 
「……どきなさいよ」
「行って、どうするんですか?」

 マドカとななかは、にらみ合った。

「殺すわよ! このポンコツ!!」
「私を壊したら、沙由香さんは、あなたをどう思うでしょうね?」

 ななかは、うっと詰まった。
 
「もう一度言います。沙由香さんが好きなのは……」
「いやあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 ななかは、耳をふさぎ、校庭に走り出た。
 そのまま紫の影となって、夏の空に消えた。
 マドカは、3度目のため息をついた。
 
「……なんとかしないと……」


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