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「最低ですね。恭平さん」
あちこちギプスで固めた恭平の顔に薬を塗りながら、マドカが無表情に言った。
「フラストにまで手を出すとは……
恭平さんのスケベっぷりについて、認識を改める必要がありますね」「オレはっ……」
ベッドの上で、恭平が反論する。
「……オレは……何にも覚えていない……」
「統計によると、有罪となった男性のほぼ9割が、そう証言するそうです」
「有罪って、あのな」
恭平は唾を飛ばして主張した。
「だいたいフラストが、なんでオレと抱き合ってたんだ」
「ですから無理矢理」
「フラストが人間の力でどうこうできるタマか!」
「それもそうですね。
まさか……」
マドカが恭平を見つめる。
「……合意の上でしょうか?」
ななかがうなずく。
「きっとそうよ」
「違うわあっ!!
なんでオレを、罪に陥れようとするっ!
オレがいつ、そんな事をしたあっ!
沙由香にあることないことチクるなあっ!」
恭平がわめくいたとき、階段を上る音がした。
足音がドアの前で止まった。
そそくさとマドカはベッドの右に、ななかは左にまわった。
そのまま恭平に体を押しつける。
両腕にあたる胸の感触に、鼻の下を伸ばしながら、恭平はとまどったように尋ねた。
「お、おい……どうしたんだよ」その時、ドアが開いた。
「さ、沙由香……」そこに立っていたのは沙由香だった。
左右の二人をみて、あわてて言い訳をする。
「いや、この二人は勝手に……」
「いいの」沙由香は微笑んだ。
「恭ちゃんのことは、わかってるつもり……」沙由香は慈愛に満ちた表情で、持ってきた箱を開いた。
そこには、沙由香お手製のシュークリームが詰まっていた。
「お見舞い。
私のピンチを助けてくれたのは、恭ちゃんだもんね」「そうなのか?
オレは全然、覚えていないんだが……」恭平は首を傾げながら、シュークリームをつまみ上げた。
食べようとする。
刺激臭が鼻を刺した。
「なんじゃこりゃあ!!」恭平が叫ぶと同時、マドカとななかが恭平の両腕を押さえた。
沙由香がベッドにあがり、恭平の脚をまたいで押さえた。
シュークリームをつまんで、ころころと笑う。
「なにって?」笑いながら、沙由香は恭平の口に差し出す。
「お見舞いって、言ってるじゃない?
はい。
あーん」
「するかっ!」恭平の顔に近づけられたシュークリームからは、本わさびの香りが漏れていた。
口を閉じて抵抗する恭平に、沙由香がこぼれんばかりの笑みを見せた。
「どうしたの?
変な恭ちゃん……」
沙由香の指が恭平の鼻をつまんだ。1分。
2分。
3分。
「ぶはっ!!」たまらず息継ぎした恭平の口に、特大のシュークリームが放り込まれる。
かみつぶすまいと頬を膨らませた恭平の口に、沙由香はペットボトルを突っ込んだ。
「はい、ウーロン茶」褐色の液体が、恭平の口内を満たす。
沙由香はペットボトルを引き抜くと、片手で恭平の口をふさいだ。「よく噛んで食べてね」
言いながら、沙由香は恭平の顎と頭を抑えた。
バイオボディのパワーが、恭平を上回った。
恭平の口内で、いっぱいにつまったわさびがつぶれて水にとけた。
気管にすべりこんでいく。
肺が刺激され、盛大にむせると、液体は鼻を逆流した。
鼻の粘膜が、根こそぎ枯れていく。
「ぎゃおっ、ごぉぉぉっ、げほっ!!」三人に押さえ込まれた体勢で、不自由に恭平はのたうち回った。
「どう? おいしい?」
沙由香が2個目を摘みながら聞いた。
涙と洟でぐちゃぐちゃになった恭平は、恐怖の目でシュークリームを見た。
『こ……殺される』恭平は、恥も外聞もなく、沙由香に謝った。
「ごめんっ! 沙由香っ!!
別に浮気なんかしてないが……いや、浮気しましたっ、すいません!!
もうしません。
絶対しません。
沙由香を裏切るようなことは、もう金輪際、しませんっ!
沙由香、
沙由香さん、
美人の沙由香様、
女神さまあっ!!」」
恭平は必死だった。
「だから……赦して……ください」ちら、と沙由香の様子を伺う。
沙由香は、笑顔のままだった。「恭ちゃん……」
沙由香は、聞き分けのない幼児を愛おしむように、恭平の頭をなでた。
安心させるように、言い聞かせる。
「人を誤解してはねちねちいう、妄想爆発の根暗女の私には、
恭ちゃんの言ってる事が、よくわからないの。」
2個目のシュークリームを恭平の口元に近づける。
とうがらしの匂いがした。
「それより、はい。あーん」
恭平は、いやいやと首をふった。
コノオンナハ……
シュークリームが迫る。
恭平の目から、涙が吹き出した。
……オレヲユルスツモリナンカ……
沙由香が微笑んでいた。
……ナインダ……
沙由香のシュークリームは、山ほど残っていた。
逃げようとする恭平を、マドカとななかが、ガッチリとホールドする。
「お前ら、オレを殺す気かぁっ!」
「お姉さまの好意を無にしないでよね」
「恭平さん、裏切りの代価は、もともと死刑です」
「だから、オレがなにをしたぁっ!!!」暴れる恭平の頬を、白い手がなでた。
「ひぃっ」
沙由香の笑顔の底に、何か昏いものがうごめいているのを、恭平は感じた。
沙由香の手が、恭平の顎を抑える。「たぁすけてくれぇぇぇぇぇっ!!!」
恭平は絶叫した。
「だれかぁっ!」
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