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第八章

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 「ぷはぁっ!」

 海上に顔を浮かべたエスカレイヤーは、きょろきょろと左右を見回した。
  
 「どこですっ、レイミアフラスト!!
  正々堂々、勝負しなさい!!」
 
 声を張り上げるエスカレイヤーに、レイミアの含み笑いが響いた。
 
 「馬鹿だねえ。
  水中戦に特化した私に、海で勝てると思うのかい?」
 
 言葉と共に、水面に無数の影が出現する。
 エスカレイヤーを取り巻くように出現したそれは、大小さまざまな蛇の頭だった。
 両眼が紅く光るそれらは、ただの蛇でないことが明らかだった。
 エスカレイヤーは、身を震わせた。
 
 「こ、こんなに……蛇がいるなんて」

 「それだけじゃないよ!」

 勝ち誇ったようなレイミアフラストの声とともに、海岸の岩陰から、海に浮かぶボートの中から、ウィンドサーフィンの帆のかげから、大勢のフーマンが現れた。
 
 全員、水中眼鏡に銛、水中銃と、水中戦用の装備をしていた。
 
 「え?」

 驚くエスカレイヤー。

 その目の前で、蛇の一部が左右に割れた。
 空いた海面から、気絶した恭平を抱いたレイミア本体が現れた。
 海中から突き出た岩に、腰掛ける。
 下半身は無数の蛇に分岐して、海中へと消えていた。
 
 レイミアは高笑いを放った。 
 
 「罠にかかったねエスカレイヤー!
  ここがお前の墓場だよ!!」
 
 声と共に、エスカレイヤーの足首に、何かが噛みついた!

 「きゃあっ!」
 
 そのままエスカレイヤーは水中に引きずりこまれた。 
 
 「げぷっ」

 予想していなかった攻撃に、エスカレイヤーは水を飲んでむせた。
 ゆっくりと目が水中の暗さに慣れていく。

 『あれは?!』
 
 エスカレイヤーは見た。
 自分の足首に、巨大な蛇が噛みついているのを。
 暗い水中に、大きな赤い目が光っているのを。
 その向こうに、さらに無数の目が待ちかまえているのを。
 
 『いやああああっ!!』

 エスカレイヤーは錯乱しながらも、腰のパルシオンを抜いた。
 
 『コール・パルセイバー!』

 剣形態のパルシオンで、足首の大蛇に斬りかかる。
 しかし水中では、パルシオンの威力は半減していた。
 大蛇は傷一つ、ついてはいなかった。
 
 「なんだい、水中戦用の装備もなしに、海に飛び込んだのかい?
  馬鹿だねぇ」
 
 水中でも通常通り聞こえるレイミアの嘲笑に、エスカレイヤーは、かっ、と顔を紅くした。
 パルセイバーをめちゃめちゃに振り回し、脚をじたばたさせる。
 幸運にも、大蛇の目にかかとがヒットした。
 たまらず口をあけた大蛇を、更に蹴り飛ばし、エスカレイヤーは海面に顔を出した。
 ぜいぜいと空気を補給する。
 
 「逃げるだけで、ずいぶんと疲れているようじゃないか」

 はっ、と顔をあげた向こうで、レイミアが余裕の笑みを浮かべていた。
 
 「でも、状況は……
  変わっていないんだよ」
 
 真っ赤な唇を歪め、レイミアは鋭い牙をのぞかせた。
 
 「ジェット・ストリーム・ファング!!!」

 レイミアの叫びとともに、水面下で無数の蛇が攻撃を開始した。

 「きゃああああああああっ!!!」

 大小、さまざまな蛇が、水中でエスカレイヤーに牙を剥く。
 
 「いたっ!」

 肩を、腕を……
 
 「あうっ!」
 
 胸を、腹を……
 
 「きゃああっ!!」

 尻を、脚を……
 
 視界の効かない水中からの攻撃に、エスカレイヤーは無様に逃げまどうしかなかった。
 ゆっくりと服が、皮膚が、肉が、食いちぎられてゆく。
 エスカレイヤーの周囲の水が、赤く濁り始めた。
 
 「ああっ……」

 絶望の声をあげたエスカレイヤーに、レイミアの悦に入った声が浴びせられた。
 
 「そう……わかったようだね、エスカレイヤー。
  お前に逃げ場は、ないんだよ。
  あはっ……あはははははっ!!」
 
 笑い声と共に、エスカレイヤーがびくん、と仰け反った。
 全身に噛みついた蛇の牙から、なにかがエスカレイヤーの体内に染みこんできた。
 
 「あぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!!」
 
 エスカレイヤーは激痛と快感に仰け反った。
 
 「どうだい、ダイラスト特製の神経毒の味は……」

 ぴくぴくと痙攣するエスカレイヤーに、レイミアは説明した。
 
 「苦しいだろうねぇ。
  でも、死にはしない。
  仲間の仇だ。
  お前は、楽には殺さないよ
  まずは、死ぬほどの屈辱を、味わってもらおうか」
 
 レイミアの目が光る。

 「サーペント・ファング!」

 四匹の大蛇が、エスカレイヤーを襲った。
 動くことも出来ないエスカレイヤーの腕に、二匹の大蛇が牙を突き立てる。
 
 「あうっ!!」

 それとほとんど同時に、それぞれの脚に二匹の大蛇が巻き付き、ふくらはぎに牙を埋め込んだ。
 
 「ぎゃあっ!!」

 そのまま四肢を拘束し、レイミアはエスカレイヤーを海上に持ち上げた。
 既に水中で、全身くまなく噛まれている。
 あちこち破れた戦闘服をまとった、半裸の女体が、真夏の太陽の下に引きずり出される。
  
 「いやあああああああああっ!!!」

 凧上げのように宙に浮かび、なすすべもないエスカレイヤーに向けて、レイミアの嘲笑が浴びせられた。
 
 「いい格好だね、エスカレイヤー。
  でも、これで終わりじゃないよ。
  死にたいと思うほど……いたぶってあげる」
 
 レイミアは舌なめずりした。
 
 「喰らえ! サウザンド・ファング!!!」

 海面に、次々と水柱が出現した。
 無数の小さな蛇が出現し、牙をきらめかせて、エスカレイヤーに迫った。
 
 「いやっ!!」

 エスカレイヤーは目を閉じ、攻撃に耐えようと体を緊張させた。
 数秒。
 
 ……攻撃は来なかった。
 
 『……どうして?』

 おそるおそる目を開いたエスカレイヤーは、そこに竜胆色の戦闘服が翻るのを見た。
 二つに分けた灰色の髪が、潮風にたなびいている。
 左手で大蛇の頭を簡単に握りつぶすと、彼女は振り向いてウィンクした。

 「ななかちゃん!」

 ななかはこぶしを握り、親指をびっと突きだした。
 
 「お待たせ、お姉さま!」

 攻撃が途絶えていた。
 エスカレイヤーの前に浮かんだななかが、両の手甲で全ての蛇をたたき潰したのだった。
 ななかは宙に浮かぶ沙由香を守るように空中で停止すると、片手をかざしてポーズを決めた。
 
 「エスカレイヤー2号、悪の現場にただいま参上!」


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