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第五章

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 「次は、エントリーナンバー12番、高円寺沙由香さんです」
 
 アナウンスと共に、水着姿の沙由香が舞台の中央へと進み出た。
 ライトグリーンのワンピースは、沙由香の成熟した肉体を、余すところ無く浮き彫りにしていた。
 会場から無数の歓声と口笛が鳴り響く。
 沙由香は恥じらうように胸の前で手を組み、顔を赤らめて俯いた。
 その仕草に、更に歓声が大きくなる。
 
 「どうやら沙由香さんは一番人気のようですね」
 
 審査員席でマドカが隣の席にささやいた。
 隣で恭平は、不機嫌そうに唸った。
 
 ここは閂ビーチの水着コンテスト会場。
 芸能プロダクションが協賛するこのコンテストは、過去に有名芸能人を生み出した実績がある。
 そのため、アイドルを目指す女性の参加が多く、毎年盛況であった。
 
 そのコンテストに、沙由香は出場者として。恭平とマドカは審査員として潜り込んでいた。
 恭平はオーソドックスなトランクス型の水着にパーカー。
 マドカは胸と腰にフリルのついたワンピース。
 なぜか浮き輪も装備していた。

 思い切り怪しかったが、マドカの工作は完璧らしく、誰もクレームをつけなかった。

 水着コンテストの審査員になれると知った恭平は、最初こそ喜んでいたものの、出場者のリストに沙由香の名前を見つけた時から、不機嫌に沈黙していた。
 
 「……なにを怒っているのですか?」
 「なんでもねぇよ」
 「沙由香さんの人気はダントツといっていいでしょう」
 「大したことねえよ」
 「……恭平さん」
 
 マドカは下から覗き込むように尋ねた。
  
 「……嫉妬してらっしゃるのですか?」
 「なっ!」
 
 大声を上げた恭平に、他の審査員が怪訝な目を向ける。
 恭平はこそこそとマドカに反論した。
  
 「なんでオレが」
 「……今まで自分が独占していた女性が、他の男性からスケベな視線を浴びている……
  それで、恭平さんは、平気なのですか?」

 マドカの口調は、恭平をそそのかすようだった。
 ちらりと恭平に流し目を送り、絶句する恭平に、更に語りかける。

 「ほら、他の審査員のいやらしい目を見てください。
  明らかに沙由香さんを視姦しています。」
 「…………」
 
 審査員の目は、沙由香の豊満な乳房を、股間の陰翳を、大きめの尻を、水着に浮き出るへその跡を、なめ回すように見ていた。

 「…………」
 
 それに気づきもせず、沙由香はセクハラ寸前、いやセクハラそのものの質問に恥じらいながらも答えている。
 にやけた司会者が、沙由香に何か話しかけた。
 
 「あの野郎……」

 恭平の目に、司会者は必要以上に沙由香に近づいているように見えた。
 何かの冗談を聞かされたのか、沙由香がころころと笑った。
   
 「……危なっかしくて見てられん」
 「でも、楽しそうですよ?」
 「……司会者にくっつき過ぎじゃないか?」
 「あのくらい、普通です」

 不意に、カメラ小僧のストロボが、連続して発光する。
 沙由香が軽く悲鳴をあげ、あわてて体の向きを変えた。
 胸の双丘が弾み、先端がWの軌跡を描いた。
 反対側から別のストロボが発光する。
  
 「今、撮られた写真は、高値がつくでしょうね」
 「…………」
 「投稿雑誌に載せられれば、オカズにする男性はおそらく万を越え……」
 「かーーーっ!」
 
 恭平は小声で叫んだ。
 マドカに向かって詰問する。
  
 「これはなにか? 朝の仕返しなのか?」
 「なんの事を言ってらっしゃるのか、わたしにはさっぱり……」
 「とぼけるな!」
 「しかし、これを機会に、沙由香さんにも新しい出会いが……」
 「人の話を聞け!」
 「きっと、恭平さんと違って、浮気なんかしない、誠実で素晴らしい男性が……」
 「くぅーーーっ!」
 
 恭平は頭をかきむしった。
 本人は、絶対に認めていないが、恭平は明らかに嫉妬に苦しんでいた。
 マドカは恭平に見えないように、無表情にべーっと舌を出した。
 それが、作戦成功のサインだった。

 沙由香がいかに素晴らしく、魅力ある女性であるか。
 そして、世の男性の注目を浴びる存在であるか。
 それを、恭平に再認識させる作戦は大成功といってよかった。
 
 マドカがあおったせいで、恭平の危機意識は、これ以上ないほど高まった筈だった。
 これで、恭平は沙由香に優しく接するに違いなかった。
 沙由香の不安も解消されるだろう。
 
 ステージの沙由香はマドカの合図を確認すると、観客と審査員に満面の笑顔を披露して、控え室へ戻っていった。
   
 「……ふ、ふふふ」
 
 不意に、恭平が不気味に笑った。何事かと見守るマドカの前で、恭平は顔をあげた。
  
 「そうか、沙由香だな? 沙由香の差し金なんだな?」
 「……恭平さん?」

 予想外の反応に、マドカがとまどった声を上げる。

 「そうだ。そうに決まってる。……くそっ!」
 「……あの、もしもし?」

 「いいだろうっ!」
 
 恭平は力強く宣言した。
  
 「そっちがその気なら……
  あくまでななかの言い分を信じて、ちくちくオレを責めるというのなら……
  やむをえん!
  やってやる。
  ああ、やってやるとも! 
  沙由香に、本当の浮気がどんなものか、教えてやるっ!」

 「……は?」
 
 マドカの目が、点になった。

 恭平は目の中に炎を宿し、魂の叫びを放った。
  
 「あれしきの事で、ねちねちいう妄想爆発の根暗女に、
  浮気者のなんたるかを教えてやるっ!
  今までのオレがどんなにやさしい、誠実な紳士だったか、
  それを見て思い知るがいいっ!
  泣いて謝ったって、もう許してやらんからな!」
  

 「…………」

 マドカの肩から、スクール水着のひもが、ずるっと滑りおちた。

 
 
 
 ぴー
 
 
 
 

 電子音が響いた。


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