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第二章

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 「ああ……お姉さま……」
 
 ななかは情熱的に舌をからめた。 
 そのまま沙由香の胸をかき開く。
 
 「今度は、ななかがしてあげます……」
 
 ぺたっ。
 
 沙由香には、胸がなかった。
 
 『うそぉっ!?』
 
 ななかは目を開いた。
 目の前にあったのは、柳瀬恭平の寝顔だった。
 
 「!」
 
 驚愕で声も出せないななかの耳に、階段を上る音が聞こえてきた。
 薄い木製のドアが、勢いよく開かれる。
 
 「恭ちゃん! 今日はヒマ………!?」
 
 部屋に入った沙由香の目に、ベッドで抱き合う男女の姿が映った。
 
 「え?」
 
 沙由香が虚ろな声を漏らした。
 手に持ったなにかのパンフレットが音を立てて落下する。
 
 そのまま時間が停止した。

 気持ちのいい朝の風が、さわやかな夏の空気を運んでくる。
 どこかでラジオ体操の音楽が鳴っている。
 遼子さんが、門前を掃く音がする。
 牛乳屋のスクーターが走り去っていく。
 MHKの朝のニュース。
 窓の外に雀がとまり、また仲間と飛び立っていく。


 
 「な……なか、ちゃん?」
 
 ななかは慌てて、絡めていた舌をすぽんと引き抜いた。
 
 「違うの、お姉さま……これは……」
 
 沙由香はまるで何も聞こえていないかのように、空間の一点を見つめていた。
 恭平とななかの唇をつなぐ、唾液の糸を。
 
 「……別に私は恭平と、なんて……」
 
 白くなってゆく沙由香の顔を見ながら、ななかは必死に言い訳をひねりだそうとした。
 
 「……あの、好きでしたわけじゃ……」
 
 その時、恭平が寝返りをうった。
 抱きまくらのようにななかを引き寄せると、そのまま唇をふさいだ。
 
 「あっ、こら、恭平っ!」
 
 むっちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
 
 パニック状態の精神が、体の制御を放棄した。
 抵抗することもできず、ななかは情熱的な口づけをかわしてしまった。
 むーむーと呻きながら、沙由香の顔を盗み見る。
 透きとおるような沙由香の顔色に、ななかの全身の血が凍った。
 
 不意に、ななかの歯の間を、すり抜けてくるものがあった。
 
 『こ、こらぁっ』
 
 ななかの口腔を、恭平の舌が優しく蹂躙する。
 舌の裏側をなぞりあげられる感触に、不覚にもななかは軽くイってしまった。

 『……んっ』

 もう、わけがわからない。
 どうなってもいい。
 ななかは目を閉じ、恭平の舌を捕らえてこすった。
 
 ぐいっ
 
 いきなり、ななかは恭平から引き剥がされた。
 濡れた音を立てて唇が離れる。
 二人の間に架けられた透明な糸が、素早く手刀で切断された。
 
 どんっ
 
 沙由香のでかい尻が、手際よくななかを押しのける。
 そのまま恭平にまたがり、沙由香はマウントポジションをとった。
 全体重を尻にかけ、恭平の腹を強打する。
 
 「げふぅっ」
 
 腹腔から空気が強制的に押し出され、恭平はせき込んだ。
 目を覚ました恭平は、自分が動けないことに気づいた。
 天井を背景に、沙由香が無表情で見下ろしている。
 朝日を浴びて、眼鏡がキラリと光を反射した。
 
 場の空気を読み損ねた恭平は、沙由香に抗議した。
 
 「なんだよ沙由香。重いよ」
 
 びき!

 ななかは、沙由香のこめかみが鳴る音を、確かに聞いた。
 ハイパー化する程のオーラが、沙由香から立ちのぼった。

 沙由香は無言で膝立ちになり、そのまま恭平の腹に推定○○Kgの質量をぶち当てた。
 
 「ぎゃふうっ!」
 「……どうせ私は重いですよ」
 
 拗ねたような声と共に、ヒップアタックの連打が始まった。
 
 「ぐはあっ! ごふっ! がっ! ぐおぉっ!」
 
 いったい、何回の衝撃を喰らったのか、もはや恭平にはわからなかった。
 急激な酸欠で、恭平の顔が青紫色へと変化していた。
 
 不意に、柔らかい手が恭平の頬を包み、ぐいと持ち上げた。
 朦朧とする視界の中で、沙由香の顔が近づてくる。
 桃色の唇が動いていた。
 
 「……なに?」
 
 恭平の鼓膜が、外部音声を入力した。
 
 「……キスは……」
 「え?」
 
 「……キスは……なしだって…………」
 
 頬に爪がくいこんだ。
 
 「いってたくせにぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 
 がりがりがりがりがり
 
 「ぎゃあああああああああああ!!!」
 
 10本の筋から赤いものを流し、恭平は激痛に呻いた。
 
 「恭ちゃんの、莫迦ぁっ!!!」
 
 清らかな乙女の涙をこぼし、美少女は可憐に走り去った。
 
 歯を鳴らして怯えるななかと、悶絶した恭平を残して。


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