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「ああ……お姉さま……」
ななかは情熱的に舌をからめた。
そのまま沙由香の胸をかき開く。
「今度は、ななかがしてあげます……」
ぺたっ。
沙由香には、胸がなかった。
『うそぉっ!?』
ななかは目を開いた。
目の前にあったのは、柳瀬恭平の寝顔だった。
「!」
驚愕で声も出せないななかの耳に、階段を上る音が聞こえてきた。
薄い木製のドアが、勢いよく開かれる。
「恭ちゃん! 今日はヒマ………!?」
部屋に入った沙由香の目に、ベッドで抱き合う男女の姿が映った。
「え?」
沙由香が虚ろな声を漏らした。
手に持ったなにかのパンフレットが音を立てて落下する。
そのまま時間が停止した。
気持ちのいい朝の風が、さわやかな夏の空気を運んでくる。
どこかでラジオ体操の音楽が鳴っている。
遼子さんが、門前を掃く音がする。
牛乳屋のスクーターが走り去っていく。
MHKの朝のニュース。
窓の外に雀がとまり、また仲間と飛び立っていく。
「な……なか、ちゃん?」
ななかは慌てて、絡めていた舌をすぽんと引き抜いた。
「違うの、お姉さま……これは……」
沙由香はまるで何も聞こえていないかのように、空間の一点を見つめていた。
恭平とななかの唇をつなぐ、唾液の糸を。
「……別に私は恭平と、なんて……」
白くなってゆく沙由香の顔を見ながら、ななかは必死に言い訳をひねりだそうとした。
「……あの、好きでしたわけじゃ……」
その時、恭平が寝返りをうった。
抱きまくらのようにななかを引き寄せると、そのまま唇をふさいだ。
「あっ、こら、恭平っ!」
むっちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
パニック状態の精神が、体の制御を放棄した。
抵抗することもできず、ななかは情熱的な口づけをかわしてしまった。
むーむーと呻きながら、沙由香の顔を盗み見る。
透きとおるような沙由香の顔色に、ななかの全身の血が凍った。
不意に、ななかの歯の間を、すり抜けてくるものがあった。
『こ、こらぁっ』
ななかの口腔を、恭平の舌が優しく蹂躙する。
舌の裏側をなぞりあげられる感触に、不覚にもななかは軽くイってしまった。『……んっ』
もう、わけがわからない。
どうなってもいい。
ななかは目を閉じ、恭平の舌を捕らえてこすった。
ぐいっ
いきなり、ななかは恭平から引き剥がされた。
濡れた音を立てて唇が離れる。
二人の間に架けられた透明な糸が、素早く手刀で切断された。
どんっ
沙由香のでかい尻が、手際よくななかを押しのける。
そのまま恭平にまたがり、沙由香はマウントポジションをとった。
全体重を尻にかけ、恭平の腹を強打する。
「げふぅっ」
腹腔から空気が強制的に押し出され、恭平はせき込んだ。
目を覚ました恭平は、自分が動けないことに気づいた。
天井を背景に、沙由香が無表情で見下ろしている。
朝日を浴びて、眼鏡がキラリと光を反射した。
場の空気を読み損ねた恭平は、沙由香に抗議した。
「なんだよ沙由香。重いよ」
びき!ななかは、沙由香のこめかみが鳴る音を、確かに聞いた。
ハイパー化する程のオーラが、沙由香から立ちのぼった。沙由香は無言で膝立ちになり、そのまま恭平の腹に推定○○Kgの質量をぶち当てた。
「ぎゃふうっ!」
「……どうせ私は重いですよ」
拗ねたような声と共に、ヒップアタックの連打が始まった。
「ぐはあっ! ごふっ! がっ! ぐおぉっ!」
いったい、何回の衝撃を喰らったのか、もはや恭平にはわからなかった。
急激な酸欠で、恭平の顔が青紫色へと変化していた。
不意に、柔らかい手が恭平の頬を包み、ぐいと持ち上げた。
朦朧とする視界の中で、沙由香の顔が近づてくる。
桃色の唇が動いていた。
「……なに?」
恭平の鼓膜が、外部音声を入力した。
「……キスは……」
「え?」
「……キスは……なしだって…………」
頬に爪がくいこんだ。
「いってたくせにぃぃぃぃぃぃ!!!!」
がりがりがりがりがり
「ぎゃあああああああああああ!!!」
10本の筋から赤いものを流し、恭平は激痛に呻いた。
「恭ちゃんの、莫迦ぁっ!!!」
清らかな乙女の涙をこぼし、美少女は可憐に走り去った。
歯を鳴らして怯えるななかと、悶絶した恭平を残して。
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