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「アズライトっ アズライトっっ! いねぇのか?!」 大雑把そうな大男が、菜の花の草原を荒らしている・・・ 菜の花に埋もれるように寝ころんでいた黒髪の男は、眉間に皺を寄せながら眼を開き・・・ 「騒々しいわ。」 丁度大男が近づいたのを見計らって、足を引っかけて転ばした。 「でぇ───っっ!!」 それを見て何の感情もわかないのか、黒髪の男───アズライトは表情も変えず一言、 「予想どうり、顔面から盛大にこけてくれて何よりだ。」 声音も心なしか冷たい。相手のそんな態度に大男───火炎王は、いかにも呆れたという表情で言った。 「お前、本当にあの小娘がいないと、露骨に態度変わるな。」 やれやれと言った感じで、適当に上半身だけ起こす。 そう、火炎王の言うとおり、今レティシアはこの世界の何処を探してもいない。 人間の”魂の就寝期間”というやつだ。前世と後世の間を少しでも空けておかなくては、人間は”死んで生まれ変わった”という認識が曖昧になり壊れてしまう。 いわば一生の終わりを認識する期間だ。 レティシアの場合、前世の記憶を残している為に、その認識期間が普通の人より数倍長くかかる。 おかげでアズライトの機嫌はすこぶる悪い。 何しろ”レティシアを怖がらせないために”という押さえがないものだから、記憶を落とす前のアズライトさながらに怖い・・・ 「まったく、凶にしたくないならいっそ、小娘の時でも止めちまえばいいものを・・・」 その言葉に対して、アズライトは即答した。 「そんなふうに変えてしまえば意味がないのだ。 私は人間として生きるレティシアに・・・ 有限のイキモノであり、その短い一生の中で変わらず輝き続ける魂に惹かれたのだから。」 そう言って、夢幻のように美しく広がる黄色い原に、寝ころんだまま目をやる。 レティシアの髪の色・・・ アズライトの意識が、自らの記憶の中に埋没しそうになる。 「はぁ・・・」 火炎王は、アズライトが董霊になってから何十回目かの溜息をついた。 「お前なぁ、”こちら”側のことも考えてみろ。 今、お前の在ったロードの位置は、お前が生きている限り”当者外出中”という扱いだ。 それなのにお前ときたら・・・」 手近な菜の花に目をやると、その手で一掴み出来る本数の花を花首だけちぎり取る。 「人間の小娘にうつつを抜かしたまま、そいつがいない間すら”こちら”側に帰ってこようとしない。」 掌に残る花を握りつぶした後、その手を開いて散り飛ばす。火炎王も何とも面白くなさそうだ。 アズライトはレティシアを思い出していたせいか、口調もその中身も変化していた。 穏やかに呟くように言う。 「レティシアと同じ世界にいたい。 レティシアを感じていたい。 この大気に溶け込んだレティシアの想い、それにずっと浸っていたいと思うことはいけないことなの? 火炎王・・・」 アズライトは切なげに目を細めて空を眺めている。 ・・・いや、大気に残るレティシアの想いを探しているのだろうか。 対して、火炎王の機嫌は悪化していた。 「けっ! そうやって一生やってろ!! ・・・でも忘れるな。”こちら”側にもお前の存在の空白があることを。 主である”闇の王”を、必ず帰ってくると待っている奴らがいるってことをなっ!!」 炎のような激しい感情を込めた目でアズライトを見据える火炎王を、澄んだ湖のような穏やかな目で見返すアズライト。 少し考えていたように間があってから言葉を返す。 「そうだね・・・僕は君たちという存在を、精算もせずに置いてきてしまった・・・」 アズライトはうつむいて一度言葉を切った。やがて言いにくそうに口を開く。 「火炎王、悪いけど・・・悪いけど、24デアボリカの中から新しいロードを選定してくれる?」 「なっ・・・!!」 予想どうり絶句している。 そして、絞り出すような声でやっと言葉を吐く。 「俺達・・・”デアボリカ”を、捨てるのか・・・?」 「もともと無理があったんだ。董霊になる時点で、ロードの位置を抜けるのが筋だからね。」 アズライトの言葉に、後悔・・・迷いは見受けられない。 「お前っ ”董霊”というたった一人の存在になっちまうぞっ!!」 「レティシアがいる。」 穏やかに、しかしはっきりと答える。 「レティシアは、たとえ僕がこの地上のどんなイキモノにも属さない怪物になっても、 信じてついてきてくれる。 ・・・僕もレティシアを信じてる。」 風がアズライトの頬をなでていく。それに応えるように微笑む。 が、何かを感じ火炎王を振り返った目に、緊張の色が宿る。 「お前はいつもそうだよな・・・後に残されちまった奴のことなんか、考えもしやしねぇ・・・ 勝手に飛び出していくだけだ。」 火炎王の気が殺気を帯びてくる。口の端をつり上げて笑う。 「・・・そんなに捨てたきゃ、全て殺していけ。お前の不在を感じる全てのモノを消滅させろ! それが残していくモノに対する精算ってもんだろが!!」 殺気が膨れ上がり、まるで突き刺すように叩きつけられる。 「・・・本気なの、火炎王?」 火炎王の様子は変わらない。かえって殺気が強くなる一方だ。 アズライトは諦めたように溜息をついた。 「君が本気なら僕も戦うよ。僕はもう昔の僕じゃないから、逃げたりはしない。 たとえその結果、どちらかが死ぬことになっても悔いはない。 そうでしょう?」 アズライトも半身起こし、火炎王と真っ向から対峙する。 ・・・といっても上半身だけなので、遠目から見れば”見つめ合ってる”程度にしか見えない。 だが、その周りを取り巻く空気の異常な鋭さから、尋常でない様子が見て取れる。 アズライトの目の中の闇が濃くなっていく。 その様子を火炎王はじっと見ていた。ふと物思いにふける。 ───俺を殺したら、お前はまた泣くのだろうか。 俺のよく知るその闇色の目で・・・ 「・・・」 しばらくして、火炎王が殺気をおさめた。次第に辺りが元の穏やかさを取り戻していく。 「どうした? 怖じ気づいたのか?」 「ああ、ちょっとからかっただけだからな。」 悪びれた様子もなく言う火炎王。 次の瞬間、その左頬すれすれで鋭く風が鳴った。 「・・・私は虚仮にされるのが嫌いだと、何度も言っていたはずだが?」 昔のアズライトなら、瞬殺していただろう。 しかし今のアズライトは違う。 その闇色の瞳にさえ暖かさの宿る、人間の情愛を手に入れた闇のデアボリカ・・・ 火炎王は、薄く血の筋の出来た頬を撫でて言った。 「そう怒るな。 実はな・・・お前のいたロードの位置の後がまはもう、決まりかけてんだ。 24デアボリカの中にとりわけ闇属性の強い奴がいて、そいつがお前の配下だったモノ達を まとめだしている。」 薄く笑った横顔にはもう傷はない。 「簡単なもんさ。下の奴らなんてのは、元々”拠り所”として崇拝者を欲しがるだけだ。 頼れるなら誰でもいいんだな、ありゃ。」 火炎王は笑っている。 笑っているはずなのだが、この引きずられるような重い感情は何なのだろうか? 「俺はただそれを、ロードの代表として報告しに来ただけだ。 まだロードの位置にある、お前の承認を得るためにな。 まさか、お前の方から”ロードの選定”を言い出してくるとは思ってなかったんで悪のりをした、 すまねぇ。」 違う。言って欲しくなかったのだ。 この周りにまで移るほどの重い感情は、”淋しさ”・・・ アズライトはまた溜息をついた。 「まったくお前は・・・どうしてそう、まわりくどい気の使い方をするのだ・・・」 心底頭が痛い、というように額に手を当てる。火炎王は、鼻の頭を掻きながら言い返す。 「別に気なんか使っちゃいねぇよ。」 「ふん。」 照れ隠しの言葉などまともに聞く気はない。アズライトはさらに言いつのった。 「前にお前のことを”繊細”だなどと言ったが、撤回する。 お前は”歪曲直情バカ”だ。」 「なんだとっっ!」 またも激情し、火炎王はアズライトに掴みかかった。 「ほぅ・・・私に手を掛けるか。また右手でも落とされたいか?」 そう言って、襟首に掴みかかる手を掴み返す。 火炎王は無言で手を離した。 「その、すぐ頭に血が上るのを”直情”と言わずしてなんと言うのだ・・・まったく。」 その”直情”が、ある一点にかたよったものであることを知ってて言う。アズライトも手を離した。 「かなわねぇな・・・ったくよぉ・・・」 少しふてくされたようにドカっと胡座をかき、腕を組んでそっぽを向く。 何というか、非常にガキくさい。 その様子を見て、アズライトはおかしそうに笑う。 「・・・まぁ、それはいいとしてだ。 マジな話だ、アズライト・・・俺に対する精算はまだなんだからよ、きっちり精算して行け。」 笑うのをやめ、アズライトは火炎王と目を合わせた。 「精算か。で、どうする?」 「俺の腕・・・まぁ、目でも何でもいい、とっていけ。」 しばらく間があって、短く答えた。 「・・・そういうことか。」 今のアズライトには、火炎王の言動や行動の意味がよく分かる。 つまりは”存在”を刻みつけていけ、ということなのだ。 またしばらく間があって、アズライトはとうとう吹き出した。 「・・・くっくっくっ・・・お前は本当にバカで不器用で、面白い男だな・・・ こんな男が側におったのに、自分の城に居た頃の私は何故、 あんなに退屈していたのだろうな・・・」 少し、昔を懐かしむような顔になる。 ───それはレティシアと心を通わせる前のお前だからだ。 火炎王は何も答えない。 一度でもレティシアの存在を認めてしまえば、アズライトを永遠に失うような気がするからだ。 じっと返答を待つ。 アズライトは、長く伸びた前髪を掻き上げながら言った。 「そんなことなら、別に外傷を作る必要もあるまい・・・ばかばかしい。」 また喧嘩を売るようなことを言う。予想どうり、火炎王は喰ってかかった。身を乗り出す。 「てめぇ・・・っ!!」 しかし、言葉を最後までいうことは出来なかった。アズライトも同じように身を乗り出して・・・ 唇が重なった。 「・・・」 「・・・」 火炎王が、何とも言えない表情で固まっている。 「今、お前の心に”傷”を作った。これでどうだ?」 アズライトはさらりと言ってのけた。 「なっ・・・なっ・・・っっ!!」 満面を朱に染め、金魚の様に口をぱくぱくさせたかと思うと、火炎王は慌てふためきながら”こちら側”から消え去った。 そんな火炎王を見ながらぼそりと、 「あいつを問答無用で追い返すには、こんな方法が有効だったか。」 草原に一人残され、腰まで伸びた黒髪を風に散らせながら、アズライトは感心したように呟いた。 「アズライト、居るなら出てこい!」 今日は騒々しい客が多い日らしい。先の客より小柄な男が、また草原を荒らしている。 「ここだ、ゴルドー。何事だ?」 面倒くさそうに返答をするアズライトを見つけ、金髪の男───ゴルドーは怒りの感情を露に詰め寄った。 「貴様っ! 火炎王に何をしたっ!!」 「・・・まったく、火炎王といいお前といい騒々しいな。」 昼寝をしていたところをたたき起こされたという感じらしく、さらに億劫そうに上体を起こした。 「誤魔化すな! さっきまでお前の所にいたのは分かっている。 ものすごく慌てて帰ってきたと思えば、何やら訳の分からぬ事を言い出す始末・・・ 気でも違ったのかと思ったほどだ。」 ゴルドーの話を聞いて、アズライトは思い出したかのように含み笑いを漏らす。 「・・・くっくっ・・・そこまで動揺するようなことだったのか、あれは。」 「・・・早く言え。」 ゴルドーの気が物騒なものをはらみ出す。 「ふん、別に誤魔化す気などない。ちょっと唇を重ねてやっただけだ。」 しーん・・・ しばらくその場を、静寂が支配した。 「お、お前はっ!! 自分が何をしたか、本当に理解しているのか?!」 その顔には怒りしか出さないが、明らかにゴルドーも動揺しているようだ。 「火炎王までロードを抜けるなどと言い出したら、お前のせいだぞっ!!」 最後は捨て台詞のように言い残して、この場から消え去った。 「あいつがロードを抜ける? そんなことが出来るわけがない。 それは董霊である私だからこそ、出来ることだ。」 事も無げに言うアズライト。しかし・・・ いい加減気付けよ。 この分では、火炎王の不幸はまだまだ終わりそうにない。 了 以上、バカ話でした。 もーアリスソフトさん、ツボなソフトばっかり出して下さってナイス! でもこのソフトに関しては、いつもとはちょっと違って 主人公に横恋慕しているバカにクリーンヒット(笑) いつもはたいてい主人公とヒロインの関係に涙したりするんですが、 今回ヒロインはどうでもよかった(汗) ごめん、レティシア・・・ もう少し軽いギャグ調になると思ってたんですが、すっかりよくわからん変な話になっちゃいました。 アズライトに勝手にロード抜けさすし・・・ 火炎王はすっかり”横恋慕純情おバカ者”になってるし・・・ まあ火炎王に関しては、レティシアに”私と同じ・・・”とお墨付きを頂いていることですし(笑)、私の中でこんな奴だと固まってしまってますので、今更撤回するつもりはないです。 ギャグっ気薄くなってしまってすいませんです(泣) 小説にすると、どうしてもシリアスメインになってしまうらしいですね・・・私。 |