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鐘の音が響く。 雲の少ない、蒼く澄んだ空に、祝福を告げる。 それは数百年の時を経た夢。 待ち、彷徨い、戦い、捜し求めた果てに掴んだ、一筋の幸福。 「……確かあの野郎、以前結婚した、とか言ってなかったか?」 堂々たる体躯を丸め、階段に座り込んだ男がぼやく。 白銀の髪と白いスーツが陽光を不敵に跳ね返す。 その男の名は火炎王。焔のロードデアボリカ。 穏やかな、そして柔らかい空気の中で、居心地悪そうに口元を歪めるその姿は、 隣に立つ女の唇に、僅かに苦味を含ませた微笑を浮かべさせた。 「あらン…いいじゃない。やっぱりちゃんと着飾って、皆に祝福されたいものよン?」 露出度の高い白いドレスに包まれた豊満な肢体を揺らすは、ファトラ。 雲のロードデアボリカにして、永き時を生きるオールドデアボリカ。 二人のデアボリカが姿を隠す事も無く堂々と街の中にいる。 だが、人はそれに気付かない。 「…そんなモンか」 「そんなモノよ」 火炎王の気の無い返事と、ファトラの笑みを載せた声音。 彼らが見つめる教会の前には、その中にいる二人…今日の主役と馴染みの深い者達が、列を成していた。 「…レティシア」 蒼い瞳が、自らの横にいる少女に落ちる。 少女は顔を赤く染め、はにかみながら、その視線を受け止めた。 礼装に身を包んだ長身。その瞳の色と同じ宝石の名を持つ者、闇のロードデアボリカ。 「…アズライト…」 彼は、レティシアの背にそっと手を添えた。 輝くように白いウェディングドレス。それは彼女の母が作った一揃い。 "神様"に選ばれた二人が、ゆっくりと…赤い絨毯を歩んでいく。 扉が開け放たれ、光が二人を照らし出した。 眩しさに僅かに目を細めるアズライト。そして、花開くように笑むレティシア。 二人を、祝福の声が包んだ。 レティシアの腰に手を沿え、一気に腕の中へと抱き上げるアズライト。 突然の事に、短い悲鳴を上げるレティシアだが、頬を更に赤く染めながら、笑みを向ける。 ただ一人だけに向けられた笑み。 多数の瞳と歓声の中で、二人はただ、互いの為だけに微笑んだ。 レティシアの手が、アズライトの頬を滑る。 アズライトもまた、その手の中にレティシアの顔を包んだ。 口付けが交わされる。 「お〜お…ようやるわ…全く」 火炎王が苦味の勝った笑みを口元に刻みながら、右手で頭を押さえた。 「ホント、仲いいわねぇ……嫉けちゃいそ」 「だがよぉ…まさかこれ、毎回やるのか? まぁた数十年したら……」 口元に当てられたファトラの指先に、火炎王の言葉が遮られる。 「今はそんな事、言うもんじゃないわ」 ばつが悪そうに黙り込む火炎王。と、その顔が、おや、という驚きを象った。 「……? きゃっ……」 振り返るファトラ。その胸の中に、大きく弧を描いて飛び込んでくるブーケ。 「……あの野郎、完全に狙ってやがったな、今の……」 レティシアを左手で胸に抱き、右手を軽く上げたままの姿で微笑むアズライト。 それを、火炎王は呆れたように見返し……そして、薄く歯を剥き出す、豪快な笑みで応えた。 ずっと、ずっと笑っていよう。 いつまでも一緒に、ずっと、ずっと……。 君がいなくなっても、その度に、僕はまた探すから。 定命ある者と不変の者。それでも、僕は永遠を誓おう。 君がどんなに変わっても、僕は変わらず君を愛すから。 いつまでも、いつまでも。ずっと、ずっと……。 永遠に。 アズライトは目を覚ました。 どこまでも白い世界の中、どこまでも変わらない世界の中。 酷く、楽しい夢を見ていた気がする。 酷く、哀しい夢を見ていた気がする。 出来るなら、目覚めたくは無かった。 何時の間にか流れていた涙をそのままに、彼は胸の中に金髪の少女を抱く。 不完全な自分。不完全な彼女。 彼女の名前すら、思い出すことが出来ない。 僕は、何処かに大切なものを置き忘れて来てしまったのだろうか。 僕は、一番大切な…それ以外に何も要らないと思えるものを手に入れた筈なのに。 彼女は目を覚まさない。 彼女は笑わない。 彼女が笑ってくれるなら、僕の全てを捧げても、惜しくなんてない。 その彼女の名前を、思い出せない。 白い世界の中、僕は、彼女と二人きりで……。 いつまでも、いつまでも。ずっと、ずっと…。 了 -------- DiaboLiQUE読了後、衝動的に書き上げたもの。 見苦しい部分多々御座いますが、目を瞑って頂ければ幸い。 オリジナル要素はほぼありません。私の中でのエンディングの位置づけ、という感じです。 悲劇と喜劇、絶望と希望、そして真と偽または現実と夢。 ラスト2択のエンディングを幾度も見返す度、そのように思うようになりました。 特に投稿する必要もないかもしれませんが、似たSSが存在しないようでしたので。 それでは、ご縁がありましたら、また。 Redmoon |