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この世界を愛する全ての人へ、 「永遠の勇者たち(Eternal Heros)」の、 「永遠の心(Eternal Heart)」を継ぐ者たちの伝説を。 |
| 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 〜〜 第二章 〜〜 〜 第一話 〜 「焔(フンヌ)」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 |
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(ゴオオオオ……) 静寂。室内の沈黙を縁取る嵐鳴。 (ゴオオオオ……) 丹田に響く振動は、この小さな空間を包み込む、大自然の荒ぶる神々の息吹か。 (ゴオオオオ……) 深夜。遅い春の到来を告げる、生ぬるい嵐の渦巻く世界。 屋根を五十すら数えるに至らぬ集落の、更に外れにひっそりと佇む小宿。 そして。 円卓を囲む椅子が五つ。 (ゴオオオオ……) 無言。 三人の誰も口を開かぬ。いや、瞼すら開こうとしない。 何かを待っているのか。 誰も語らぬ。 真の静寂。それは「音の棲まう世界」。 三人は語らぬ。 場を満たす鳴動だけが、「時」という階段を昇り続ける。 三人は耐えている。 「時」を浪費する焦燥に。 未だ答え至らず。 |
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だが。 明けぬ夜が無いように。 三人の一人が、ついに瞳を開く。 恐るべきは他の者たち。 三人の視線が、薄闇ににぶく揺らめく他の四つの光を探り合う。 憤懣(ふんまん)に満ちた独眼。 残り二人が、彼の深く沈むように輝く緋(あか)き光を探り合う。 一人は何の感情も感じさせぬ、冷たき黒き瞳で。 そんな視線を払うかのように、男は続いて口を開いた。 「遅い」 淀んでいた空気が動き始めた。 「まだか、あいつら」 誰も答えない。答えが自明過ぎて答えようが無いのだ。 シヴァ=グレイス。彼はそういう人間だった。 ボサボサの頭。まるで襤褸(ぼろ)をまとっているかのようなだらしなさ。 ムスっと怒りを露にして歪む表情は、そんな装飾に彩られて鬼の形相にも見える。 しかし今は、緋色に滲んだ瞳が真にこの男を鬼に仕立て上げている。 男はもう一度、今度は意図的に声を荒げて叫んだ。 「一体いつまで待たせる気だ!?」 残り二人のうちの一人、青い瞳を持つ「少女」がびくっと体を震わせる。 この男、シヴァですら思わず口を噤みたくなるほどの。 (……チッ) 内心で舌を打つ。まったく、この小娘は。 外見は十人並みとしか言いようの無いほどの平凡な娘。 人ごみに紛れてしまえば彼女の姿を見分けることは難しい、だが。 それほど鮮明に、場の雰囲気を制する「気」を持つ存在。 それは彼女の能力に相応しい。 (……ってえのに、こいつは自分の力を自覚できてねえ) シヴァには忌々しい。 彼の精神の骨格に痛ましく刻まれた記憶。 ミルフィーユ=フローレス。通称ミル。 彼女はシヴァにとって、そんな記憶そのものだった。 ミルの青い瞳を見返すシヴァ。だがそれを続けられない。 そして、それを無残に打ち砕いた「奴ら」に対する復讐の業火の痛みに。 今はまだその時ではない。 そうして一見落ち着きを取り戻したシヴァを見て、ほっとため息をつくミル。 シヴァは、音もさせずに含み笑いを漏らした存在の気配を察する。 視線の先に座す、絶世と評するに相応しい美女。 だがそこに性欲の対象としての艶は無い。 殺戮用として精錬された一個の戦闘兵器。 なまじ容貌が美しいが故に相応しすぎる、その形容。 死をすら芸術と感じさせるほどの剣舞。 この「怪物」め。 日向葵(ひゅうがあおい)。 「……何が言いたい、葵?」 シヴァの目が、すっと細く据わったのをミルは見た。 あ〜あ、また始まっちゃった。なんでこの人たちってこうなんだろ? 自分が原因だとも知らず心の中で苦笑いするミル。 何時如何なる時でも、周りの全てを焼き尽くすかの如き焔を撒き散らす。 敵意むき出しで葵に突っかかるシヴァ。 「……ふん、怪物に言われる筋合いはねえな」 怪物、と言う表現に葵も反応する。 「死神を死神と言って何が悪いんです? 北の街道で幾千もの無辜(むこ)の民の命を じゃ、あたしたちってお化け屋敷みたいなものかしら。 「うるせえ、ヒマワリ娘」 その瞬間。ヒュンという小さな擦過音をミルは耳にした。 カチャリ。 ミルは思う。やっぱり二人とも「怪物」かもしれない、と。 「以前にも言ったはずですよ。『それ』を言ったら殺す、と」 今度は葵の耳元を閃光が通り抜けた。 「本気で、殺されたいらしいな」 疾風のシヴァ。十秒で百人を殺戮し得た恐怖の死神。 裏社会に通じている者であれば、この二人の対決を見れるとなれば全財産を投じても どうしよう、どうやって止めたらいいんだろう? にらみ合う二人の間に硬く張られた緊張の琴線。 二人の手が、お互いの業物に近付いていく。 突然、二人の表情が緩んだ。 え? わけのわからないミルを無視して、二人は同じように椅子に深く身を沈める。 「やっと、ですね」 苦笑いを浮かべる。それはシヴァも同じ。 「もう一人の怪物のお出ましだ」 彼の言葉に重なるように、ミルは「あの気配」を感じた。 つくづく、怪物なんだなあ。 そう思うミルの背筋に、彼女ほどの能力者ですら寒気と感じる魔力の波動が走る。 そう、「この人」も怪物なんだ。 なのにミルは気づかない。 |
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カチャリという扉の小さな音。 黒く闇にまぎれるような、しかしよくよく見ると極めて精巧な装飾が施されているの そして彼の容貌は。 確かに葵も美しい。女性として、他の女性の羨望を集めるに足る容姿を持っている。 細く流れる眉。 ある種の完璧な美貌。 「遅かったですね、エル」 葵とシヴァが彼に文句を浴びせる。 「おやおや、ずいぶん仲の良いことで」 明らかに人を嘲笑した憎たらしい笑顔で返す。しかもそれがサマになっている。 畜生、コイツ聞いてやがったな。シヴァが内心毒づく。 そんな心の動きも見透かしているかのような、美しい口元にへばりつく笑み。 だがこの「男」は。 「フン、テメエと違って俺はノーマルだからな。時には女に優しくもしてやるさ」 シヴァの言葉に、葵とミルがハモった。 「そうでしょう? そもそもこんな醜い男が女性に優しくできるはずがありません」 ところが今度は葵が、まるでシヴァをかばうようにエルに応じた。 「……エル、あなたに言える言葉じゃないでしょう?」 舌打ちするような表情でエルを見やり、小さくつぶやく葵。 「貴方が美しいと思うのは、女じゃなくて男でしょう?」 まただ。そろってため息をつく三人。 「そう、例えばこんな」 エルは扉の前から身をかわす。 何の邪気も無く微笑む青年。 後の世に、後の世界に連なる伝説と魂を持つ者たち。 青年の名は、アーサー=ロレンス。 |
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シヴァがその二人連れに出会ったのは、当時根城としていた北の山中。 彼は全てを失っていた。 そして、家族という名の拠り所も。 彼は絶望していた。 だから彼は、自らの最後の誇りすら捨て去ろうとしていた。 「人」を殺してやる。 ただ生きのびる為だけに。 その最初の獲物が来た。 これまで幾千もの命を奪ってきた愛用の品。 でも、「奴ら」には、何の役にも立たなかった。 悪人という名を冠する妖怪どもの汚物でもない。 本当の人間の血に染めてやる。 こいつらが最初だ。 雲が立ち込め、薄闇があたりを覆う山中。 足音が近づく。 間合いまであと一歩。 二人の歩みが止まった。 (こいつら!?) シヴァは一瞬、「奴ら」かと思った。 片方は戦士、いや、聞こえていた甲冑と剣の擦り音から、恐らくは騎士。 (ヤバい!) 凄まじく早い呪文の詠唱を察知するかしないかのうちに、シヴァはその場から飛び出 『ゴオオオッ』 まさにコンマ数秒の差だった。それまでシヴァが隠れていた大木が、灼熱の炎に包ま (構わねえ) 好都合だ。この閃光と爆音では俺様の移動も察知できまい。 そしてシヴァは、件の魔術師を視界の隅に認めた。 (バカめ) やはりこいつ、俺様が見えていねえ。よし、じゃあ。 『カキン!』 シヴァ自身、どうしてそれが出来たのかわからなかった。 『チン』 そのシヴァをして必至の行為だった。視界が360度回転する一瞬の間に、彼は相手 未だ燃え盛る大木を中心に、三人の男が対峙する。 魔術師は、異様に美しい男だった。 既に先刻とは異なる印を結んでいる。いつでも次の魔法が撃てる状態だ。 怪物だ、こいつは。何でこんな奴が、今、ここに? 青年もまた、美しい男だった。 だがそれは戦士としての、そして少年と身間違うほどの無垢な美しさだった。 青年がまとう重甲冑。決して小柄ではない彼すら埋もれて見えるほどの大きさ。 「人」で、こんな奴らがいたのか。 シヴァは再度、死を覚悟した。 (……おもしれえ) 望むべきことかもしれない。なぜなら願っても無い死に場所だからだ。 懐剣を順手に構え、腰を低く沈める。 「……いくぜ」 シヴァが人生最後の跳躍をかけようとした瞬間。 「お待ちください!」 騎士の青年が、剣から手を離した。そしてシヴァを制しながら剣を鞘に収める。 本来ならこの機に攻撃をするべきだった。こんな甘チャン相手に何故と、後日シヴァ やれやれという風で、変わらぬ笑みを浮かべる魔術師が青年に歩み寄ってきた。 (フン) 確かに、前にいる青年の殺気は完全に失せていた。だが後ろの奴は、大きなマントと シヴァにはわかっていた。この野郎、「印」を解いてねえ。 いいだろう。 青年がシヴァの三歩手前に立った。そして後ろの魔術師を振り返り、彼の手を抑えて (こいつ!?) この野郎、結界まで張っていやがった。しかも俺様が気づかないほど高度な。 それを知ってか知らずか。 「はじめまして、シヴァ=グレイス様。わたくし、アーサー=ロレンスと申します」 これがシヴァと、アーサーたちとの最初の出会いたっだ。 |
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「……なるほど、テメエがあの『闇の魔術師』、『THE DARKNESS』か」 シヴァが最初に興味を引かれたのは、この魔法使いだった。というのもその二つ名に 三歳にして魔術師ギルドに連名。 だが、この男の伝説に光は存在しない。 アルパ戦役の帰趨を決したと言われる「暗黒の一日」。 過去十数年に起きた重大事件の裏で、何らかの関与をしていたと噂される男。 闇の支配者。闇の化身。人の暗黒面の蒸留物。 (ふむ……) 噂が間違っていないのは、良くわかった。 (ふふん) そう言えば。シヴァは彼のもう一つの噂を思い出した。 「……で、この醜男に何の用だ? ええ、ホモ野郎?」 チッ。どうやらこいつも、俺の噂を知ってるらしい。 「そして」 エルが、心持ち声を高くしていった。 「このお方はそんな方ではありません。この方は私の主君です」 苦笑いしながら、アーサーと名乗る青年はそう言った。 「いいえ、貴方は私がこの世で唯一仕えるべき主君でございます、マイロード。貴方は なんだこの茶番は。 「とにかく、我が主君の依頼を聞いていただきます」 やはりこいつ、絶対に好きになれねえタイプだ。 「……エル」 後ろから、ずっと苦笑いのままの青年が彼を抑えるように前に進み出た。 紅い、瞳だった。 シヴァもまた、緋色の瞳を持つ男である。 しかし青年の持つ紅色は、宝玉の色。 (これ、は……?) 探る。ふと、その意志がなんなのかを知りたくなる。 その時、何かが弾けた。 「ウワァッ!?」 シヴァは、自分が叫んだと思った。 ふっと、我に返る。 声を、出したと思ったんだが。 確かにシヴァは、現実には声をあげていない。 彼は確かにその時、黄金に輝く光を見た。 青年は、シヴァが落ち着くのを見計らって、ようやくこの訪問の目的を告げた。 |
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「『奴ら』を倒す、だって? バカが……」 青年は何の迷いも無く言ってのけた。 腹を抱えて笑う俺様に対し、三日後に自分たちはここを旅立つと奴は言い、ふもとの 笑うしかねえ。 人に、「奴ら」を倒せるはずなんかねえじゃねえか。 そりゃあな、俺様だってそれなりのモンさ。 ドクン。 やめろ、やめろ。思い出させるな。 やめるんだ、「俺」。 一人の男がいる。 (……本当に足を洗うつもりですか、リーダー?) 女がいる。特別美しくなんかねえ、でもすっげえ強い女だった。 (あなたはどうして、人を殺すの?) またあの男の顔が浮かぶ。 (わかったよシヴァ。だけど、この仕事はアンタじゃなくちゃだめなんだ) 女の顔。 (やっぱり、行くの?) やめろ、この続きを見るな。 (どういうことだ、アル!?) いやだ、なんでやめてくれないんだ! (……ねえシヴァ……) そうだ、そして俺は。 (……やっぱり、アンタは死神なんだな。あれで死なないなんて) こうして俺は、友と、女と、子を失った。 復讐? そんなこと考えたこともねえ。 その時、俺は啓示を受けた。 じゃあ一人じゃなかったらどうなんだ? いたじゃねえか。本当に。 実際、どうにも胡散臭え奴らだ。 でも。 青年の瞳の奥に見出した、明々と燈る黄金の焔を思い出す。 あれは『龍』の魂だ。 「奴ら」に対抗するには、それくらいじゃなきゃ務まらん。 何しろ、三人までは実在したんだ。 「奴ら」に対抗できる駒に相応しい「人」は、な。 でも、それでいいのか? 自分の弱さから、逃げてるだけなんじゃないか? その時、リアンナの声が聞こえた。 『大丈夫よ。それが弱さだと知っている限り、あなたは大丈夫』 ……ふふ、そうか? まあいいか。 どうせ、一度は死んだも同然の命だ。 ……そして俺は、アーサーたちと行動を共にすることとなる。 実際、とんでもねえ奴らだった。言動も行動も、そして「力」も。 ま、人の巡り合わせなんてそんなもんさ。 損なモンさ? なんだその変換ミスは。 |
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「行きなさい、ミルフィーユ=フローレス。貴方自身の為に、貴方だけしか為し得ない シスターはあたしにそう言った。 そうか。もうあれは三年も前なんだ。 みんな、元気? 自分の居場所を手に入れることが出来るって、多分一番幸せなことだから。 ふふ、変だね。 もしかしたら、これは遺言なのかな。 ねえみんな。あたし、みんなが大好きだよ。 だから、ね。 ……自分の書いた文を読み直す。 「答え」がもうすぐ出るから? エルとあたしの「解析」を診て、アーサーはどんな「答え」を出すのかな? あの人に応えたい。 そろそろかな。部屋に行こう。 そうね、季節の移り変わりで、風景なんてがらっと変わるんだもん。 だからあたしたちは、明日からこの嵐になるんだ。 きっとアーサーが火を点けてくれる。 世界を変える、嵐になる。 |
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西と南の境にあるさびれた交易都市。 そこをただ一人で仕切る女性、シスター=ローズ。 もう十年以上も昔になる。その赤ん坊が教会の入り口に置き去りにされていたのは。 親を失った子供、子供を失った親。 「人」というものは、それほどまでに救い難く悲しい存在なのだ。 今ここに、その象徴が捨てられている。 シスターにはわかっている。自分のしていることは、大海に角砂糖を投じるようなも でも、たとえそうであっても。 その子は、同じようにこの教会で育てられている子供たちの輪に加わった。 人の心を和らげる甘いお菓子の如き笑顔を持つ少女に育つように。 少女は、シスターの願い通りに成長する。 利発な少女だった。きちんと人の心を汲むことの出来る、そして人の心を和ませる術 ミルフィーユ=フローレス。その運命が動いたのは、彼女が十二歳の時。 それは突然だった。 気付いた時には、町の半分が廃墟になっていた。 教会の裏手にある、自分たちが寝起きしていた小屋の位置すらもうわからない。 ミルには信じられなかった。 こんなことが許されるはずがない。 わからなくもない、わからなくもないよ。 ミルは悩む。そしてとりあえず、出来ることからはじめた。 そして魔法の存在を知る。それは「奴ら」と同じ、奇蹟の力の法則。 もしかしたらこれで、人を救うことが出来るかもしれない。 でもそれは、後に奇蹟と呼ばれた。 ミルは次第に、超絶的な魔法効果を示すようになる。 彼女は魔法の申し子だった。 『もし魔法で自分を凌駕できる者がいるとしたら、それはミル以外には存在しない』 しかし、それほどの彼女でも「独り」では如何程のことも出来ぬ。 彼女は、許容し得る限りの人々を自らの領域内に納め、結界を張った。だがその時、 既に「奴ら」の余波が結界の周囲を渦巻いていた。 今ここで結界を解けば、自分たち全員、巻き込まれて死ぬ。 ミルは迷う。その耳に、甲高い悲鳴が聞こえてくる。 息子を助けて! 「奴ら」が去ったあと、ミルは息子を失った母親に罵倒の言葉を浴びる。 ミルは耳を塞ぐ。どちらも聞きたくない。だってどちらも「人」のエゴだから。 シスターの慰めもミルの耳に届かない。 泣き疲れて眠る。 そして、いつしか目が覚めた。 (……ああそうだ。あの子達の、面倒見なきゃ) そう思う自分が不思議だった。 ミルは悟る。 (きゅううう) お腹の虫が鳴く。空腹感がミルを襲う。 もういいや。やれることだけやろう。 笑顔で部屋から出てきたミルを、シスターや子供たちはいつもの笑顔で迎えた。 食後、温かいお茶をすするミルに、シスターが言った。 黒衣の魔術師と、ひょうきんだけどどこか陰のある盗賊。 ミルが彼らと共に旅立ったのは、それからわずか三日後のことだった。 |
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人界の東端。この当時ですら伝説の地と呼ばれた島国。 彼女の出自は、代々王家に従うことを義務付けられた一族。 幼名を「弥生」。葵の花の咲く季節に生まれた少女。 太陽に向かって咲き誇る「向日葵(ひまわり)」の号を得る事。 彼女はそれほどの功を為した。それだけの能力を持っていた。 しかし、彼女はその号を捨てる。 「奴ら」の災禍の下、政(まつり)を捨て、民を捨てて逃げ去った王。 「日に向かう(向日)」だけなんて嫌だ。 群雲もまた、そんな彼女から離れようとはしなかった。 彼女は群雲と共にこの国を離れる。本来であれば、建国の至宝を持ち去った者として 彼女は王に対して何の感慨も抱かなかった。 彼女の名は、日向葵(ひゅうがあおい)。 自分をこんな憤怒の焔に仕立て上げた、「人」と「奴ら」を憎み続ける復讐鬼。 |
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「しかし今度は『鬼』かよ? よくもまあそれだけ情報仕入れてこれるもんだな」 その時、薄暗い迷宮の先を行くアーサーが彼らを後ろ手で制した。 「……どうやら、彼女のようです」 シヴァたちは一斉に口を噤む。 全員が、その様子を視界に納める。 「鬼」は、多くの怪物に囲まれていた。その数は明らかに十を超えている。 狭い迷宮内である。機動力を生かしての遊撃戦も出来ず、まして剣を振るうのに十分 アーサーたちもそう思った。 アーサーとシヴァが硬直した。 「……スゲエ」 更に驚く。シヴァがこんな事言うなんて。 「エル、知ってるか?」 シヴァはちらりと愛刀を見やる。「奴ら」との戦いでも欠けることのなかった伝説の 「まさか……いやしかし、あれは五年前に消失したはずでは?」 その時、またしても全員が言葉を失った。 「!?」 あっという間だった。怪物全てが、周囲の岩壁に叩きつけられた。数匹がそれで絶命 「鬼」の演舞。 蝶の羽の揺らめきが如き、神に仕えし巫女が憑依の如き舞。 息一つ乱さぬ「鬼」。 血と骸の野に『独り』立ちつくす女神。全員が、それに見惚れた。 『彼の焼刃(やいば)群雲(むらくも)を呼び エルが謳うようにつぶやいていた。 「なに、それ?」 代わりに答えたのはシヴァだった。 「よりにもよって、『葵』の君だったというわけか」 そう言ってシヴァを見やるエル。シヴァほどの男が、とんでもないと首を振る。 「……聞いてみましょう」 一同は言葉を失った。 「アーサー!?」 沈痛なエルの声に、シヴァたちも気づいた。 噂通り、本当に美しい「鬼」だった。 「随分と物知りですね、あなたたちは」 なのにその言葉は、彼らの心すら凍て付かせる冷気を伴っていた。 「……察するに、『北の死神』と『闇の魔術師』だと、お伺いしますが」 その瞬間シヴァの左の耳が、横に中ほどまでぱっくりと裂けた。 「一つ、忠告しておきます。その名で呼ぶことは『彼』が許しませんよ」 それでも強気を崩さないシヴァの倣岸さは賞賛に値しよう。 畜生。この刀、ホントに意思を持ってやがる。 「お噂は、よく耳にしていましたよ。でもまさかあなたたちのような人たちが、一緒に ミルが小さくつぶやくと、「鬼」は彼女に視線を合わせた。 「他のお二人も、なかなかの力をお持ちのようですね」 その言葉が終わるか終わらないかの瞬間。 『 』 もはや、文字では表現不可能なカタストロフィ。 その間わずか十秒ほどでしかなかったが、狭く圧迫感のあった通路が、やけに広々と あ、そうだ! みんなは!? 辺りを見まわす。そして思わずほっとする。 それを裏付ける「鬼」の言葉。 「素晴らしい、噂以上です。これなら本気を出しても問題ありませんね」 左腕の浅い傷から流れ出る血を抑えながら、シヴァは心の中で毒づく。 「鬼」から注意を逸らすことなく、視界の端にアーサーの姿を確認する。彼の後ろに あの糞野郎、俺にも結界張れってんだ。 そのミルに対し、「鬼」が再度視線を向ける。 「特にあなたですよ。まさか群雲の衝撃波の中心にいても無事な結界を張れるなんて。 クックック。 この人、本当にあたしを殺すつもりだったんだ。 ミルは自分が勘違いしていたことに気付く。 ミルは今度こそ、本当に心の底から震え上がった。 (マイロード、これから皆を転移させます) そしてアーサーが、剣を降ろして前に進み出る。 「そう、どうにもわからないのは貴方です」 「鬼」の瞳に写るこの青年には一毫の怯えもない。瞳には一点の曇りもない。 歩み寄る青年に、「鬼」は攻撃を仕掛けなかった。 「剣士様、話を聞いて頂きたい」 アーサーは即答した。「鬼」もさすがに驚きの表情を見せる。 「……ふふふ。面白い人ですね、貴方は」 「鬼」の笑いが、無遠慮な哄笑へと高まって行く。 「何が可笑しい!」 耐え切れず、シヴァが叫んだ。 「黙れこの怪物! 親兄姉を見殺しにされたくれえで『人』に絶望するなんて甘えんだ シヴァの言葉は、確かに「鬼」の心に届いた。 「……なるほど、確かに貴方たちは『闇』を覗いたらしい。群雲も、貴方たちとは戦い その時「鬼」の見せた表情、それは「修羅」。 「軽々しくその『銘(な)』を呼ぶな! その忌まわしい、それなのに決して捨てる事 突然「鬼」の周りにリング状に発生した雲が、横凪ぎに爆発した。 シヴァとエルが巻き込まれる。この二人をして不覚と言わしめた攻撃だった。 なんと彼は、顔の前に剣を立て、至近のこの攻撃に耐えたのである。 所詮は、鎧の力に護られての剛毅さか。 「……他の者はいいでしょう。でもあなただけは許さない」 「鬼」はゆっくりと、神刀を上段に構え上げた。その時、壁にたたきつけられて一瞬 火焔弾は、アーサーの横を通り過ぎることすら叶わずに四散した。 もちろんこのエルがそれを解らぬはずがない。今は少しでも「鬼」の気をひければ、 「私が殺したいのはこの男だけです。このまま逃げるのなら追いませんよ、今は」 ミルとエルが揃って声を上げた。「鬼」がふん、と笑う。 「マイロード、ご許可を!」 剣を斜めに構えたままのアーサーは、エルを一瞥もせず、つぶやいた。 「マイロード!」 それに対するアーサーの叫びとエルの反応を、ミルは一生忘れなかった。 『エル=マッハ! 指示に従え!!』 エルの全身から力が抜けた。ミルには決して信じられない姿だった。 ゆっくりと、視線をアーサーに移す。 いつもと変わらない姿。何も変わったところはない、それなのに。 「何」なの、あれは? 「鬼」の表情も変化していた。多分、自分も彼女と同じ表情をしているのだろう。 「シヴァ、皆を頼みます」 ミルは仰天した。彼女の真後ろにいつの間にかシヴァが立っていたのである。 「もういい。結界を解け」 だって、と言おうとするミルに対して、シヴァはこれまで見せたこともないような優 シヴァが、放心しているエルを左手でひょいと肩に担ぎ上げる。 「じゃあな。しっかりやれよ、『リーダー』」 アーサーのいつもの笑い声だった。 ミルがこの時感じた一番の疑問。 なぜ自分が、アーサーの身を心配していないのかということ。 疑問だった。 |
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「アチッ、もうちょっと優しくしろ!」 迷宮の出口近くの木陰に座り込む男女三人。 ミルは未だに疑問だった。なんで自分は、こんなに落ち着いてるんだろ? シヴァの横顔をじっと見つめる。ふとその視線が交錯する。シヴァはちょっと照れた 「いいかげん、落ち着いたか?」 それを合図に、彼はいつものエルに戻っていた。 「……マイロードは、まだ?」 その時、三人は地に降ろした腰に響く、ズンという振動を感じた。 「……よく、マイロードの指示に従いましたね」 くすり、とエルが微笑んだ。 「貴方も、やはり『怪物』なんですね」 二人の男は、共に声を出して笑っていた。 「まあしかし……何者なんだろうな、アイツ」 え? ミルは、この時の二人の会話が理解できなかった。 「『私は人を信じません』、か……」 ミルはこの時の二人を見て、ちくりと痛みを感じた。もしかしてこの人たち、「人」 その表情が全てを物語っていたのだろう。 「いいんですよ、ミルフィーユ=フローレス。貴方はそのままで」 そう、おまえがアーサーを愛していられる限り。 シヴァはその言葉を飲み込む。 「……全く。醜男でなければ堕としたくなるくらいウブですね、あなたは」 いつもの喧嘩を始める二人。 「ちょっと?」 ミルの下に向けた視線を見て、二人も口を噤んだ。 三人はそのまま、百を数えることが出来るほどの間、沈黙していた。 「……終わった、の?」 その瞬間。 「終わった、な」 シヴァはそう言って目を閉じる。そのまま木の幹に背を預けた。 ミルもまた、ただ待った。待ち続けた。 長い時間だった。 一人の青年が、女性を背負って迷宮の出口に姿を現すまで。 二日後。意識を取り戻した女性は、このパーティへの参加を承諾する。 彼女の持つ神刀は、その力を失っていた。 「『疲れたから眠る』と言ってましたよ」 葵は笑ってそう言った。そしてこうも。 ただ、群雲の力が失われたからといって、彼女の恐ろしさが減じたわけではない。 そう。彼女もまた、「永遠の勇者たち」の一人だったのだから。 さて、この項に記すべき最後のエピソード。 「ワハハハハ。じゃ、じゃあオメエは、『向日葵』の名が嫌だっただけか!」 確かに(爆)。 以後、執拗に「ヒマワリ娘」と馬鹿にするシヴァに葵がぶち切れ、本気で殺意を抱く ちゃんちゃん。 |
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少年は聡明な子供だった。 彼の子供の頃の言葉。 「僕は生まれる前、自分が母親のお腹の中にいるということを自覚していましたよ」 周りの大人は笑った。そもそも生まれてもいない子供が、母親だのお腹の中だの解る だが少年には、本当にそれが解っていた。 「ずっと後、これを人に言ったら笑われるんだろうな」 と、この世に生まれいずる前から自覚し得ていた。 三歳にして、既に親兄弟の手には負えなくなっていた。 何故あの平凡で平穏な環境で、このような子供が育ったのか? 誰にも理解できなかった。ただこの少年当人を除いて。 少年にとって「人」とは退屈な存在だったが、ただ一人だけ、彼の興味を引くに足る 老人はいつも同じ話を少年に聞かせていた。 「それはまだ、この世に神も魔も居らんかった頃の話じゃ」 家族は、またかという顔で無視する。だがこの厄介者二人が他に迷惑を及ぼさないで 「世界には、人しか居らんかった。人が神の代わりに人を支配し、人が魔の代わりに人 少年はなぜか、この時の夢見るような老人の顔が好きだった。彼にもその話がただの 「神になろうとした人は思うた。自分は永遠の命を得ようと。 「彼らは戦い続けた。果てしなき戦いじゃった。やがて、一人の王が現れた。永遠の命 「王は自らが本当の神になる儀式を盛大に執り行のうた。そして正に鎧を纏わんとした 「この世に、本当の神と魔が現れた」 「人が培いし全ての術と、人が集めし全ての力は失われた。神と魔に全てを奪われた人 「人の手に元の力を取り戻すべく鎧を纏おうとした者は後を断たんかった。中には自分 「じゃがな、和子(わこ)よ。爺は昔、一度だけその鎧を見たことがあるのじゃ」 「まだ爺が近衛兵だった頃じゃ。一人の若者が爺を訪ねて来た。自分と一緒に旅をして 「その若者は、胸に緑色に輝く玉の付いた、大きな鎧を纏っておったわ」 「和子よ。もしぬしがもう一度その若者に出会うことがあったら、爺がよろしく言って 少年はただ笑っていた。何を勝手にと思いつつ、何故か悪い気はしなかった。子供の 間もなく、老人は往生を遂げる。 既に並みの魔術師を凌駕する魔力を駆使していた神童の噂はギルドにも届いていた。 生まれ故郷を去る時、両親の悲しそうな表情の裏にある安堵を見逃さない自分を自嘲 自分以外の全ての人間は、愚かで哀れな存在である。 もし彼が知らないことがあったとすれば、それはただ一つ。 |
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彼が八歳の時。魔術師の最高称号、「聖」の授与式前夜におけるギルド総帥死亡事件 (この時、総帥は寝室のベッドの上で衰弱死していた。だが異常だったのは、部屋中に その後、彼が二十歳になるまでの十二年間。世界史はこの少年によって動かされたと この大動乱期に勃興した国家は五、組織に至っては二十を数える。 「闇の魔術師」「漆黒の軍師」「闇の化身」……『THE DARKNESS』。 人は、彼に裏切られるとわかっていても彼を頼らざるを得なかった。 正に愚かである、「人」とは。 彼が「人」の世に関わり続けたのは、もしかしたらそれを証明するためだったのか? 彼を知る人は言う。そんな時、彼は幸せそうだったと。 だがそんな彼の伝説は、彼が二十歳を迎えた頃にぱたりと止む。 大動乱期後半から世を騒がし始めた「泰法道」とは、「道王=道標」と名乗る教祖に 戦乱末期で徴税に苦心していた諸国は、自らの上前を跳ねる(かに見える)こうした 彼は、当時仕えていた小国の気弱な王にこの組織への対応を命ぜられた。国庫を壟断 彼は霊黒峰のふもとにある、泰法道の神殿を訪れた。信者から集めた資金の膨大さが 「道王は、霊黒峰の山頂で瞑想中です」 代わりにお話を伺いますと、三人の長老を名乗る、その割に若々しい男たちが彼に応 「道王は申されました。信念こそが全てを席巻し、全ての源となるのだと」 ほう。ならば今この場で、後ろの山を動かして見せなさい。 「勿論可能です。が、もし本当にそんなことをしたら一大事」 別に構いませんよ。その程度で死ぬほど軟(やわ)ではありません。 「虚言はお止めなさい」 いいでしょう。虚言かどうか、その目でしかと確かめるが良い。 この時、神殿にいた関係者及び信者、総勢二千人。 天変地異と呼ぶに相応しい惨劇。 霊黒峰が、この神殿を押し潰した。 生ける者誰一人存在しなくなった荒野を、醒めた目で見渡す彼。 視線の先に、小さな庵がある。 彼にはそれが何なのか察しが付いていた。 中にいたのは、みすぼらしい一人の老人だった。 彼ですら思わず、ほうと唸った。人界のほとんど全ての実力者と面識がある彼にも、 「お手数を掛けた、『人の子』よ」 老人は静かにそう言った。彼はそれで全てを察し得た。 だがそう幻じさせるに足る「力」を、この人物は確かに持っているようだ。 まあ別に、そんなことはどうでもいい。 「我は道標。『人の子』に道を指し示す者なり」 ふふ。残念ですが、もうそれも終わりです。これだけ世を騒がしたのだからもう十分 「然り、汝こそ我が求めし『人の子』なり」 ふん、貴方も結局はその程度か。私がそんな手に乗るとでも? 「我は道標。ただ『人の子』の行く道の傍らに立つのみ」 いいでしょう。最後に聞いてあげます。貴方は一体、何の標(しるし)だと? 「汝は僕(しもべ)なり。鎧を纏いし龍の軍師なり。龍に見留められし血の末裔なり」 その瞬間、祖父の昔話が、あの温かい手の思い出と共に彼の心を満たした。 彼は「動揺」していた。 「『人の子』エル=マッハ。言霊(ことだま)、確かに汝に伝えり。 老人の肉体が、突然白い煙を上げた。 循環魔法による肉体の維持と精神の拘束、か。 しばらくして我を取り戻した彼は、この現象を冷静にこう判断した。 翌日。城に戻って経緯を報告した彼は、うろたえる王に見向きもせずこの国を辞す。 彼は人里遠く離れた辺境に城を築き、多くの書物や美術品と共に『独り』閉じ篭って そして五年が過ぎる。 大動乱の頃が嘘のような、平和で何もない時だった。 だが再度、その伝説は世を騒がし始める。 二人の出会いがどんなものだったのか。 誰もそれを知らない。 |
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「まず、改めて御礼を言わせて頂きます。皆さん、ありがとう」 アーサーは、円卓に均等に座す他の四人に向かって頭を下げる。 そんなこと知ったこっちゃねえと、ムスっと顔をしかめる男性。 アーサーはそんな彼らを気にするでもなく、卓上の四つの輝きを見つめた。 青、白、赤、そして黒。 「三年間かかりましたが、この『石(DATA)』を全て集めることが出来たのも、皆さんの くどくどと御礼を言うアーサーにシヴァがいらつく。 「礼なんぞいらん。そもそもこんなこと苦労のうちにも入らん。それよりも!」 葵もまた内心シヴァと同様だったのだろう。彼女らしからぬ上ずった口調で続けた。 「『結果(ALGORITHM)』は、出たのですか?」 アーサーは笑った。だが答えたのはエル。 「『解読(HUCKING)』は大変でしたよ。ミルが見つけてくれた『手掛(KEYWORD)』がなけ ぽっと赤くなってうつむくミル。再度シヴァが耐え切れず叫んだ。 「つまり、出来たんだな!?」 エルは自慢げに宣した。 「『構築(DECODING)』は完璧です。既に『封印(ARCHIVE)』してあります」 シヴァと葵は、卓上の石に手を伸ばした。 何も変わったところはない。そう思った瞬間。 二人の頭の中に、突然不思議な模様が映し出された。 思わずのけぞる二人。それを見てくすりと笑うエル。 「納得、しました」 エルは静かに答えた。 「そう、これこそ失われた力。『奴ら』を制することのできる『技(DEVICE)』であり、 四人は再度、卓上の石ころに注目した。 「でも、これだけでは不充分です」 アーサーがエルに続けて言った。 「『その日』は一年後の、正に今日この日。それがエルの見立てだそうです」 三人は渋い顔をする。 「一年、ですか。早過ぎますね」 アーサーはその真剣なミルの表情に頷く。 「あと一年間。はっきり言ってあとは『あなたたち次第』なのです。私たちはもう明日 シヴァが、もう口癖となった一言を発する。 「できると、思うか?」 アーサーは紅き瞳で答えた。 「勿論。だって貴方たちですから」 完璧な信頼。 シヴァを始めとして一同は、変わらぬこの青年に命を委ねる決心をした。 「シヴァ=グレイス。『北の死神』の銘とこの『ケイオス(CHAOS)』に誓う。リーダー 「あたしは、あたしことミルフィーユ=フローレスは……迷惑かもしれないけど、でも 「向日弥生。『向日葵』として生きる運命を断ち切らせて頂く。その為に、この世界を 「『我が主よ(MYLORD)』、私は貴方の僕です。貴方の意思こそ我が全て、貴方の命こそ 四人の笑顔がアーサーに向けられる。 「ありがとう」 そしてアーサーは椅子から立ちあがった。 「今から私たちは、この『焔』になります」 ミルの予感通りの言葉。ミルにはなによりそれが嬉しかった。 「もしかしたらこの焔は、世界を焼き尽くすことになるかもしれません。でも私は信じ 彼らは全員「人」に絶望している。 「……では皆さん、またいつか、必ずどこかで会いましょう」 全員が思わず苦笑した。 本当に、皆生きのびて、どこかで会えるような気がしていた。 「大丈夫。私たちの思いは、私たちの『心』は、永遠ですから」 アーサーが差し出した手に、四人は自らの手を重ねた。 「それじゃ皆さん。『奴ら』を、『神と魔』を、倒しに行きましょうか」 |
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翌日。一月以上に渡ってこの地に滞在していた五人組の姿が消えていた。 後にショートラムと呼ばれることになる、大陸中央の街道町。 そしてこの一年後。世界の「相」が変化した。 果たしてそれが、本当に彼らの望み通りだったかどうかはわからない。 それゆえに彼らは伝説となる。 それはもう、千年も前の話。 2000.5.13 The Second Chapter, 1st Story : |