アトラク
アトラク・ナクア前章《お市》


『プロローグ』

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□□□ 6章 □□□

「お市、達者でおるか?」

鷹狩りのついでに、信長が清洲に寄った。
四方の敵をなぎ払いながら、閑を見つけては、
相撲を興行し、南蛮渡来の珍しい物を眺め、鷹狩りに走り出す。

信長ほど活力に満ちた武将も珍しいだろう。

お市は頬を染め、小娘のように走り出した。

「兄様ああああああっ」

「なんだ、子供のように走りおって。」

笑いながらお市に声をかける。

「兄様、お風呂と食事の用意をさせております、どうぞご休息を」

鷹狩りで汗をかき、空腹だろうと素早く用意を命じていた。

「さすがお市だ、良く分かっておる」

信長の広い背中を見ながら、お市はある決意をしていた。



昼の暑さも緩み、涼しげな風が吹き始めていた。

「ん・・・いかぬ。いつの間にか寝ておったか」

座敷に長々と横になっていた信長は、ふと目を覚ました。
柔らかな枕は温かく、息づいていた。

『お市の膝・・・?』

におい立つ女の香り、それがずんと信長の男を刺激する。
そして、上から優しく見下ろしている黒い深い瞳。

母に嫌われ、疎んじられた幼少期、
このような膝は、どんなに望んでも得られぬはずのものだった。

『母の血が、この膝に流れている』

男にとって、もっとも抗いがたいものの一つ。
まして信長にはトラウマに等しかった。

お市が、信長の広くたくましい胸に手を伸ばした。

白魚のような指先、長く美しい爪、
その指先がひどく熱かった。

風のさざなみの中、二つの影が一つになった。



雄々しく猛々しい欲望に、
白いしなやかな肌が絡みつき、
幾度も、幾度も、果てていく。


『我、六天魔王信長、天ニモ地ニモタダ一人ナリ』


激しい熱と欲望に、蜘蛛すらも陶酔し、我を忘れた。

影がゆらぎ、巨大な蜘蛛が数瞬現れた。


人ほどもある蜘蛛と、男が絡み合う影、
それに、声もなく立ちすくむ男がいた。



信長の軍団に妖しの匂いを嗅ぎつけた銀は、
密かに武将たち数人に、破邪の印を打ち込んでおいた。
妖しの妖術に惑わされぬように。さすれば、騒ぎが起きるだろうと。


だれも近寄れぬはずの清洲城の奥に、
明智光秀は近づいてしまった。


清洲城を転がり出るように逃げ出し、
危険なはずの夜道を、光秀は死に物狂いで馬を飛ばした。
『わ、私は何を見たのだ?!、あれは、あれは、あれはああああ!?』


明け方、信長はわずかに青い顔で、
何事もなかったかのように京へ向った。

お市にも静かに笑いかけ、静かに馬を進めていった。