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アトラク・ナクア前章《お市》
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ふわり、ふわり、 夜気の中を、銀の糸が舞う その端につかまっている小さな、小さな蜘蛛。 蜘蛛は自分で飛ぶことは出来ない。 ただ風が舞うまま、おもむくまま、 糸と共に、いつまでも漂っていた。 月光に鈍い色の光が映る。 大きな、頑丈そうな屋根。 城のなり始めぐらいの建物。 その屋根めがけて、やっと糸が下りていった。 蜘蛛は長い飛行で疲れていた。 『温かい血が欲しい』 豆粒のように小さな蜘蛛が、 一瞬だけ妖しい気を放った。 風の流れるままに、 かすかに開いた障子の隙間、その間にするりと入り込み、 蜘蛛は、豪奢な綿入れの上に降りた。 蜘蛛の8つの目玉が、 かすかに動く綿入れを見つめた。 「ん・・・ふ・・・」 荒い寝息、かすかな喘ぎ、 美しく長い髪が乱れ、白い肌にかすかに汗が光る。 細いうなじが、闇の中に浮かび上がる。 まだ14,5であろうに、妖しいまでの美貌と、妖艶な肢体であった。 糸が、生き物のように少女の額に伸びた。 『兄・・・様・・・』 びくり、 額に触れた糸から、少女の声がきこえた。 蜘蛛が震えた。 黒髪の女郎蜘蛛の記憶、それが震えた。 艶やかな黒髪が、かすかな光を照り返し、 赤い唇が言葉にならぬ言葉を漏らす。 『その美貌四方に輝くが如し』と言われ、 『四方様(よもさま)』と呼ばれた女性、 織田信長の妹、お市の方である。 そして、夢の中に出てきた男性は、兄である信長だった。 凛々しく、雄々しい姿、 野望に向け、恐れを知らず闘いに挑む勇気、 狡猾で精緻な計略と構想、 お市の不幸は、兄ほどの男が他におらぬことだった。 『くくく・・・』 蜘蛛が笑った。 糸に力を流した。ほんのわずかなさざなみ。 どくん お市の心臓が跳ねた。 どくん、どくん、 身体が、不思議な熱さに囚われる。 『兄・・・様・・・』 信長が笑う、信長が振り返る、 心臓が波打ち、意識が乱れる。 身体が蕩けるような熱さ、心地よく、切ない、 青さすら感じる白い腿がすり合わされ、膨らみかけた乳房が指先でもてあそばれる。 切ない、切ない、切ない、 お市の唇が喘ぎ、美しい柳眉が震えた。 薄い夜着が乱れる。指先がへそから、下へ、 びくんっ! 初めて触れられた陰核は、 想像したことも無い強烈な快感を走らせた。 「く・・・う・・・・・っ!」 寝乱れた白い肌が、のけぞる。 生まれて初めての絶頂に、お市は惑乱し、 意識は乱れ、喘いだ、 「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」 朦朧としているお市の、かすかに開いた唇に、 爪の先ほどの小さな蜘蛛が、音もなくすべりこんだ。 蜘蛛は、柔らかい血管をくわえ、 静かに、温かい血をすすり上げた。 小さな蜘蛛はすぐに満腹し、長旅の疲れからそのまま眠りについた。 |