| 【 京夜のドリル日記 】 第1話「運命の出会い」 著:夕凪 |
アンドルード海洋学園:海洋科プール 「もう、しっかり案内してよ。お兄ちゃん。私ここに来て日が浅いんだから」 「案内つーても、観光に来てるんじゃないんだぞ。結衣」 元々結衣は人見知りするタイプではないのだが、やはり京夜と一緒にいるのがうれしいらしく、何かと京夜を見つけては話しかけてくる。 少々浮かれ気味なのも気になるが、これでは自分の作業がはかどらない。 ”それも最初の一週間ぐらいの話だろう。やれやれ” と思っている京夜に海洋科プールの向こう端から九条螺旋が向かってくるのが見えた。 「よお、螺旋」 京夜はいつも通りに声をかける。 螺旋が海洋科まで出向いて来るとは珍しい。 「サンプルの採取を頼みたいと思いましてね」 「ああ、お安いご用だが。また珍奇なシロモノじゃないだろうな」 「珍奇というより、個体数が少ない種物です」 ”それを珍奇と言うんだろうが”心でツッコミつつも、螺旋の差し出したデーターをのぞき込む京夜。 「”海マン-ゴージャス叶姉妹バージョン”か... えらく手間のかかりそうなやつだな」 どうりで、螺旋が海洋科まで出向いて来るはずである。 「あなたなら、確実と思いましてね」 「そうだな.....俺にしかできそうもないな」 螺旋の単純な煽てとわかりつつも、つい乗ってしまう京夜。 「うわぁ〜何これ!気持ちわる〜い」 突然、話の蚊帳の外にされていた結衣が京夜の背後から螺旋のデーターをのぞき込み思わず漏らす。 「そちらは?」 「ああ、こいつは....」 「お兄ちゃんの婚約者でぇ〜す♪」 軽くボケてみる結衣。 「それは初耳ですね。で、結婚式はいつなんですか?」 ひゅ〜〜〜〜〜〜 螺旋のくそ真面目な返答に、やや空気が凍る京夜と結衣。 「馬鹿、冗談だよ。従兄妹の結衣だ。」 「..............あの、はじめまして。帆波結衣と...」 「...どうも」 結衣が言い終わらない内に、面倒臭そうに返答する螺旋。 !? 螺旋の反応に結衣の顔色が心無しか青ざめる。 この興味のない事に対する態度は螺旋らしいと言えばそうなのだが、初対面の人間は大概面食らうのだ。 ”ああ、やっぱりこうなっちまったか。しようがねぇ、ここは俺が” 京夜が助け船を出そうとした時、結衣が螺旋の手を握り! 「帆波結衣です。ほ・な・み・ゆ・い・をよろしくお願いしますね!先輩!」 一言一句をねじ込むように発音する結衣。 ”おいおい、それじゃ選挙運動だろうが” と心でツッコミつつも、久しぶりに見る結衣の気の強さに舌を巻く京夜であった。 だが..... 「ああ、それはどうも」 と、やんわり結衣の握っていた手を離すと、さりげなく携帯用消毒スプレーで手をふきふき消毒する螺旋。 ひゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜 結衣の気の強さもさることながら、螺旋の天の邪鬼さを熟知している京夜は瞬間的に確信した..... ”この二人は合わねぇ。水と油だ。ロクな事にならねぇ内に” 「まあ、螺旋も手柔らにな。結衣も実習があるんだからそろそろ...」 と目を移した京夜は見た! 結衣の体から炎がふきあがるのを!そんな気がした。 ”こっ、こいつ....目が虎になってやがる.....” ゴゴゴゴゴゴゴ........ どーでもいいモノを見る螺旋と顔色が赤く硬直した結衣の視線が絡み合い緊張感を増してゆく。 「おい、二人とも....」 京夜の言葉が虚しく響く中、先に動いたのは結衣だった! 螺旋の左腕に素早く右腕をからめ、螺旋の目を直視し 「お兄ちゃんの従兄妹の帆波結衣でぇ〜す」 にっこりスマイルを作る結衣。けど目が笑ってない。 「それは、先程聞きました」 腕にゴミがついてるなぁ程度の感じで流す螺旋。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ........ 腕を組んだ二人の緊張感は高まっていく。 ”その体勢は....まさか!結衣。あれをやる気じゃないだろうな” ハラハラドキドキの京夜。 そして、結衣は動いた! 螺旋の左腕を自分の右腕をフリーにするために左手でホールド(固定)、絡めたまま目標の上体を固定し、右手の人差し指を裏拳に近い形で真下から垂直に螺旋の鼻の穴に突っ込む結衣! 「せんぱぁ〜い。帆波結衣です。ヨロシク」 頬は笑っているが、目が笑っていない。 ”げ!結衣.......本当にやりやがった....” だが、京夜の心配をよそに螺旋は微動だにしない。 螺旋の体術をもってすれば、結衣の子供だましの指ツッコミなど軽く防げるはずである。 しかし、結衣に鼻に指を突っ込まれても身じろぎもしない。 結衣には何も答えず、鼻に突っ込まれた人差し指の向こう側から 冷ややかな視線を結衣に浴びせる螺旋。 鼻に突っ込んだ指を外そうとしない結衣。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ........ さらに絡み合い加熱する虎と氷の視線。 それは爆発寸前の火薬庫のようであった。 ”このままだと、とんでもない事になる” 既に周囲には異様な二人の雰囲気を察してギャラリーが集まりだしている。 このまま二人を静観するのはあまりにも危険であった。 「まあ、まあ、まあ、二人とも熱くなるなって。 ホラ、結衣。いつまでも螺旋の鼻に指突っ込んでないで、次の実習の準備があるだろう。螺旋もヒッキーでもサッチーでも何でも採取してくるからよ」 と、二人を引き離そうとする京夜。 しかし...... 「京夜。こんな珍しい生物と遭遇するのは久しぶりです。少し面白くなってきました」 嫌味ではない、限りなく螺旋の本音に近い言葉だろう。 だが、”こんな珍しい生物”というフレーズに結衣の顔がさっと硬直するのがわかる。 「.......お兄ちゃん。誰も熱くなっていないわよ。 ただ、先輩に挨拶しているだけ」 と、螺旋の鼻から指を引き抜き..... 螺旋の制服にその指をのじりつける結衣。 .....怖い。螺旋もある意味怖いが、結衣も怖い。京夜はそう痛感した。 結衣が制服に指をのじりつけ終わるのを静観していた螺旋は、結衣の前に垂れた自慢のロングヘアーを手に取ると初めて結衣に微笑みかけた。 「面白い。実に面白い。気に入りました」 そして、さりげなく結衣が指をのじりつけた制服部分を結衣のロングヘアーで拭く螺旋。 !!? その瞬間、京夜には見えた! 結衣に入っていたヒビがガラスのように砕け散り、 中から野生の虎が咆吼する姿を! 螺旋も結衣に反応し始めている。 完全に臨界点を突破している! もう体を張って止めるしかない! 実力行使しかない!京夜はそう判断した! 「いいかげんにしろ!二人とも。ほら、結衣も螺旋から離れろ!」 強引に結衣を螺旋から引き離す京夜。 が、 「お兄ちゃん、邪魔しないで」 ガスッ! 冷ややかな言葉と共に、結衣の問答無用の金蹴りが京夜に炸裂ッ! !!!!!? 「ゆ...結衣.....いま.....カウンターぎみに.............入っ....」 言葉にならぬ痛み!悶絶の激痛状態に陥る京夜! 「京夜。苦しそうですね。少し眠った方が楽でしょう」 その螺旋の言葉に顔を上げた京夜の見たモノは、 自分の頭部に落ちてくる螺旋のかかと落としだった。 ”お〜〜〜い!ちょっと待.......” ドォォコッ! ”お、おまえら一体.......” そんな素朴な疑問を残しつつ、その一撃で京夜は意識を失った。 ★ ★ ★ ★ ★ ★ その後に何があったのか京夜は知らない。 あれだけギャラリーがいたのだから知っている人間はいるだろうが、京夜は恐ろしくて聞く気にもなれなかった。 そして、京夜は知る由もない。 これが後に海洋学園の伝説となる、九条グループ(人材・頭脳・財力・組織力→潤沢)と帆波ファンクラブ(人材・頭脳・財力・組織力→皆無)との不毛な抗争劇の発端だったということを...... 抗争が本格的に激化するのは、この時、帆波結衣の右腕に九条螺旋がいつの間にか(九条グループ特製日焼け止めクリームで)書き綴った 「ドリルに王道なし!」 の文字が後日、あざやかに浮かびあがってからの事になる。 |