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Act2.陽暮(ひぐらし) 「じゃあ、シュラさん、有馬さん、行ってきまぁーす!!」 教会に元気な女の子の挨拶が響くと同時に、声の主が玄関から姿を見せた。 「いってらっしゃい、花梨ちゃん」 「……気をつけてな」 見送る2人の男性に手を振ると、花梨は早足で学校へと向かった。 「うーん、いいですねぇ、毎朝娘が「お父さま、いってまいります」って 有馬がまたフザけたことをヌかしているのにとりあわず、シュラは眉を 「−どうかしましたか?」 「いや、そこの電柱の影に誰かがいたような気がしたんだが……気のせい 「有馬さん、寝坊したときでも、朝ご飯抜かせてくれないんだもん。あーん、 片道10分かかるはずの学校までダッシュしようとした花梨は−コケた。 「キャッ!」 地面に倒れ込む寸前で電柱の影から飛び出してきた人物が花梨の体を支える。 「まったく、なんであんたは、何も無い所でコケるなんて芸当ができるのよ。 「あ、ありが……」 礼を言いかけた花梨の言葉が、救いの主の顔を見て途切れる。 「あ、あ……」 「ただいま。それと……ごめんなさい、花梨」 幼いころからよく知っている−けれどもう2度と会うことはできないと思 「亜沙子ォ!!」 × × × × × × × × × × × × 「さて、と」 興奮する花梨をなだめ、なんとか学校に向かわせてから、亜沙子は花梨の家 「あなたはどうするつもりなの、修羅さん?」 十字路の横道から、その身にまとう色彩こそ変わったものの忘れようのない 「招斬」 修羅の右手に、彼女にも見覚えのある剣が出現する。 「あたしを−殺すの?」 草薙をつきつけられていても、亜沙子の表情は不思議と穏やかだった。 「……おまえは花梨の敵か、クドルシュチス?」 逆に問い返されて、少女は首を傾げる。 「そうね、少なくとも2度と花梨を裏切るような真似はしたくない、 「……斬封」 修羅が草薙をおさめるのを見て、亜沙子はホッと息をつく。 「”亜沙子”を斬れば花梨は悲しむだろうからな。だが、ひとつ聞きたい。 亜沙子は悪戯っぽい笑みを浮かべる。 「そのことなら、あたしより喜んで説明してくれる人がいるわ」 「……?」 「学校へ行ってみればわかるわよ、修羅”先生”」 × × × × × × × × × × × × 何度か足を運んだ場所とは言え、いまだに自分が場違いな場所にいるよう 職捜しを始めたことを有馬に気づかれたのが運のツキだった。 「修羅さん、仕事を捜しているんですって?」 例のニコニコ笑いを浮かべながら、有馬が尋ねてきたときも、だから修羅 本来なら資格審査やら面接やらいろいと面倒な手続きがあるはずだろうに、 人を教える……という立場にたったこと自体は、今まで何度かあった。 ただ、それらの経験を通して得たものは、自分は教師に全く向いていない (そういえば、今朝方亜沙子に言われた言葉も気になるな……) そんなことを考えながらも、いつの間にか修羅は文学部講師の控え室の前 「ああ、今日から着任なさる佐伯修羅先生でしたね。そう、ちょうど良い その学年主任がやや言いにくそうに、話を切り出す。 「じつは、高等部のほうで、急きょ社会科の教師に一人欠員が出たんです 「オレにそれをやれ……と?」 「申し訳ありませんが。修羅先生はいまだこちらでの講義時間に余裕がおあ なるほど、新入りにさっそく貧乏クジを引かせようというわけか。 「先生に受け持っていただくのは2年の世界史ですわ」 2年……となると花梨のクラスで教えることはないだろう。 × × × × × × × × × × × × キーンコーン、カーンコーン…… チャイムの音がすると周りの娘たちはめいめい自分の席に戻ってゆく。 (いつも……ひとりだったものね) 生まれてすぐ黄泉の底に監禁されていたため、じつは妹以外の存在と身近 ガララッ。 教室の扉を開けてあの人が入ってきた時、だから彼女は思わず椅子から立 「シュラ……」 あぁ、あの人がこちらを見た……。 × × × × × × × × × × × × 高等部の教頭に案内されて、2年B組と書かれた教室に足を踏み入れた瞬 ガタンッ!! 椅子を蹴って立ち上がった娘を見たとき、修羅はそこに見知った顔を見出 「マハ……か?」 黄泉の底で彼が抱き−そして消滅させたはずの少女がそこに立っていた。 (なるほど、亜沙子が言っていた言葉の意味はこれか……) 修羅が軽くうなずくと、少女は喜びのあまり泣き出しそうな表情を見せる。 「さぁ、座りなさい……」 彼自身が想ってもみなかったほど優しい声が出た。ようやく気持ちが落ち 「−松浦先生の代わりにしばらく西洋史を教えることになった佐伯修羅だ。 簡潔に自己紹介を済ますと、修羅は早速授業に取り掛かった。背中にマハ × × × × × × × × × × × × 昼休み。執拗にまとわりついてくる生徒たちから逃げるようにして、屋上 「はい、コレ。お昼御飯まだでしょ、シュラ。いっしょに食べよ」 どうやら手製の弁当らしい。 「んー……こうして、太陽の下でシュラと一緒にお弁当を食べられるなん 無邪気にはしゃぐマハの笑顔には、あらためて見ると確かにシィアの面影 「ううん、シュラとまた会えること自体、奇跡みたいだわ……」 その一言にも、マハの自分に対する痛いほどの想いがうかがえた。 「マハ……」 「あ、心配しないでね。まえにも言ったけどシュラが花梨のことを、いちば 修羅には答えることはできなかった。以前ならその沈黙は、花梨以外の存 「ちょっと困らせちゃったかな? でも、これがあたしの正直な気持ち」 ニコッと微笑むと少女は修羅の傍らから立ち上がった。 「じゃ、あたしもう行くわ。お弁当、できれば残さず食べてね、修羅先生」 屋上からマハが消えた後も、修羅は暫し何事かを考えているようだった。 |