ひとりごと




 『さようなら』その言葉は好きじゃない。
 時が流れ、人と人は出会い、そして別れ行くけれど。
 特に今はこんな世の中で、人死になんか少しも珍しいことじゃないけれど。

 それでも『さようなら』そう言ったら、もう二度と会えなくなるみたいで。
 だから、俺は努めてそういう言い方はしないようにしている。

 『じゃあな』『また、な』大抵、そんな言い方をする。
 また会えるかもしれない、そんな希望を溶かし込んだ、曖昧な別れの挨拶。

 人に指摘されれば、絶対に認めないけれども。
 そんなことは自分だけがわかっていればいい、そう思っているから。





 昨日、友達が死んだ。
 その日の朝同じ基地を発ったアイツが死んだと聞かされたのは、今日の昼。

 戦争。
 呆気無いものだったそうだ。
 流れ弾に当たって、満足な手当ても受けることが出来ずに死んでいく。
 戦場では、そう珍しくも無い話だ。

 それでも、親しい友達が死ぬなんてことには慣れるもんじゃない。
 それが、例え何回目、何十回目だとしても、だ。
 その度に、心のどこかが崩れていく。

 こんな日は、無性に酒を飲みたい気分になる。
 戦時中じゃなければ、それも出来たんだろうが……。

 ただでさえ貴重なアルコールが、一兵卒に過ぎない俺なんかに酔えるほど回ってくる訳も無し。

 それでも何とか手に入れた微量の酒。
 アイツの事を思い出して、ちびちび舐めた。




 昨日の朝、出撃準備をしていた俺の隊は、偶然アイツの隊と一緒になった。
 兵学校を卒業してからアイツに会ったのは、これが初めてだった。

 お互い死なずにここまで来れるなんて悪運が強いな。
 何言ってやがる、殺しても死なないクセしやがって。
 帰ってきたら、これまでのコトなんかを語り合おうじゃないか。
 おう、楽しみにしてるぜ。

 そして、俺たちの挨拶はいつもコレだった。

 『またな』

 そう言って別れて、僅か二時間後にはアイツは冷たくなっていたんだと。
 最後に、俺に伝えてくれと言い残して。
 アイツの最後の言葉『またな』。




 アイツに庇われたから生きている。
 泣きながらそう告げた、戦場に向かうにはあまりにも幼い少年。

 そう言われて、俺に如何しろと言うのか。
 生きていることさえ辛いかのように泣きじゃくる少年に、俺は声をかけることすら出来なかった。

 アイツがやったことは評価している。
 俺でもそうしたであろう事は、自分でも分かる。

 それでも、口を開けば少年に当り散らしてしまっただろうから。

 お前は何故生きている、と。
 泣いてもアイツは生き返りはしないのに、何故お前がのうのうと息をしているのだ、と。




 つまらない事ばかり頭の中を回っている。

 アイツと初めて会った時のこと。
 兵学校の出席番号が一番違いで、初めて話をしたのがアイツだった。

 一緒に悪さもした。
 教官に怒鳴られて、一緒に逃げ出したりもした。

 同じ娘を好きになって、一緒に告白して仲良く玉砕したこともあった。

 取り留めの無い思い出だけが次から次へと浮かんでくる。
 もう帰らない、ただの感傷だけれども。




 気がつけば少年は居なくなっており、俺は安堵の溜息を吐いたものだ。
 アイツが命がけで護ったものを、感情で壊したりしないで済んだ事に。




 涙は、出なかった。

 悲しくない訳じゃない。
 いや、今までで一番辛いかもしれないのに。

 映画みたいに復讐に燃えるってのも、無かった。
 むしろ冷めちまったぐらいだよ。


 この戦争、確かに攻めて来たのはやつらの方だ。

 俺たちは、やつらから大切なものを護る為と言って軍人になった。

 そいつがどうだ。

 振り返ってみれば、護れたものなんか一つもありゃしねえ。

 護りたかった友人も、家族も、青春なんてものさえも戦火に消えた。

 残ったのは、擦り切れた思い出と、バラバラになった心のカケラだけ。




 なんの為に戦ったのか。

 戦わなければ、失うことも無かったのか。

 何故、俺だけが生き残っちまったのか。

 死ねれば、こんな後悔はしなかったのか。





 ――もし生まれ変わりってものがあるなら、いつかまたアイツらに会えるんだろうか?

 『また、な』

 そう言って別れて、もう二度と会えない者たちに。









 ラジオのスピーカーから終戦の知らせが響く中、この戦争を誰が望んだのかを考えていた。








  あとがき

 大悪事の世界の戦争がどんなものだったかは知りません。
 その為、これは第二次世界大戦をモデルに書かれています。

 このSSの主人公は某長崎旗男さんを思い描いて書いていますが、性格や『またな』などはすべてオリジナルなので、大悪事と同じ世界を舞台にした、無関係な人々の話、と受け取っていただいて結構です。
 題名は、ある兵士の独り言、と言ったところでしょうか。

 あまり面白いものではないので、文句など受け付けてます。
 もし出来うるものならば、感想も……。

   dark-elemental@luck.ocn.ne.jp

 では、またどこかで……。

 宇堂 桐人 2002/9/7