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漢の拳 |
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悪司は静まり返る巨大要塞の最深部の空倉庫で一人の男と対峙していた。 白い髪と皺で老人であると分かるがその鋭い瞳と相手を圧倒するかのような 威圧感が老人と呼ばせない風格を漂わせている。 彼の名は山本一発。山本悪司の祖父であり、山本一族最強の男である。 「さてここなら思い切り暴れられるぞ悪司」 先に口を開いたのは一発だった。表情を変えず口調も淡々としたものだ。 「まったくどこに連れてくのかと思えばなるほどね。俺もさっきのブリッジじゃ狭い と思ってたんだ」 悪司は両手をズボンのポケットに突っ込んだままのいつものスタイルで軽く答える。 だがその気配は久しぶりに会う家族に対するものではなく敵と対する時のそれだっ た。 そして悪司が続ける。 「じいさんとは思いっきりやりてーからな」 その言葉に一発は鼻で笑って答えた。 「ふん!小童の癖に生意気な。そう言う台詞はこのワシに勝ってからにするのだな」 人を小ばかにしたような笑いと腕組のポーズを取る。 そんなことは分かっていた山本組の跡取として男としてこの男を超えなければならな いことを。対峙して湧き上がる闘争本能の叫びを。 「よっしゃーっ!!やるぜえーーっ!!」 悪司は高らかに吼える。それを開始のゴングにして一直線に一発に向かって突進す る。そしてそこから怒涛のラッシュで敵を粉砕するのが必殺技大悪司だ。 一発の強さは悪司も良く知っている。だからいきなり必殺技なのだ。 「先手必勝!!」 俊足の踏み込みからの一撃。懇親の力をこめたラッシュ最初の右こぶしが一発に放た れようとした瞬間、いきなり悪司の目の前に拳が出現した。 「な!!」 次の瞬間、悪司は人間ってこんなに飛ぶものなのだろうかと言うほどの距離を一瞬で 飛び、入り口の鉄扉に激突し、その反動で前から床にぶっ倒れた。その衝撃の強さは 鉄の扉が円形に凹んでいることからも凄まじい事がわかる。 岩をも砕く鉄拳、そして完璧なカウンター、普通の人間ならばインパクトの瞬間に頭 が吹っ飛ぶ破壊力だ。いかに山本家の人間と言えど死んでいるかもしれない。 しかし、一発はその一撃放ちながらも渋面だった。 「小童の癖にやりおるわ」 そう呟きながら空気との摩擦でいまだ煙をまとった右拳を構え直す。 そしてムクリと起き上がった悪司をにらみ付けた。 「あ〜っ!痛ってーっ!なんつうパンチだまったく!とっさに飛ばなかったら死んで るぞ!」 悪司はコキコキと首を回しながら軽口をたたく。一見たいしたダメージは受けていな いようにも見えるが実はかなり効いた。被害を最小限にしたとはいえ驚異的な一発の パンチを受けたのだ、ただで済んでいるはずが無い。だが次に食らえば死ぬかもしれ ないと思いながらも戦うことをやめようとはこれっぽっちも思わなかった。 “次はぜってーぶん殴ってやる!!”という思いが全身を駆け巡る。 「さーてっ!今度はこっちの番だ!いっくぜえーーーっ!!」 さっきも悪司の方から仕掛けたのだがそんなことはお構いなしに一発めがけて突進す る。 それを見て今度は一発も突進して距離を詰める。この地下倉庫は一辺50mはあろう 広い倉庫だがあっという間に両者の距離が縮まる。 間合いに入った瞬間両者が動く。だがやはり前回と同じく一発の右拳がわずかに早 い。 一発の右拳が悪司の顔面に伸びる、このままでは前と同じく悪司が吹っ飛ぶことにな るだろう。だがその時悪司の左手が一発の拳の軌道を遮った。 「笑止!!」 一発のその短い言葉がそんなものでは自分の拳は止められない事を語っていた。 そればかりか左手を粉砕した後、顔面を捉え今度こそ悪司をあの世へ送るの特急便に なるはずだ。 一発の右拳が悪司の左手の平に打ち込まれるとインパクトの瞬間その衝撃で悪司の左 手は穴のあいた水風船のように血が飛び散った。そして次の瞬間には左手が粉砕され ると思われたが、そうはならなかった。 もし悪司が拳を受け止めるべく踏ん張っていたならそうなっていただろう、だが実際 には踏ん張るどころか右にステップしながら左足をフリーにして回転したのだ。 そう一発のパンチ力を自分が回転する力に変えたのである。そして一回転後に一発の 左側頭部に猛烈な右フックを放つ。 「ちっ!!」 今度は一発が吹っ飛ぶ番だった。2人のぶつかり合ったベクトルとはほぼ垂直に吹っ 飛ばされる。そして部屋の端に置いてあった空のドラム缶群に突っ込み派手な音を響 かせる。 悪司の方は両足を踏ん張って猛烈に掛かったスピンをドリフトしながら止める。 「どうだジジイ!!おそれいったか!!」 悪司は喚起の声をあげた。半分勝利を確信した悪司だったがそれに反して返事はすぐ に返ってきた。 「入っとらんのも分からんくせに偉そうにぬかすな!」 一発の馬鹿したような口調と共にドラム缶を押しのけ立ち上がる。 「まったく!憎たらしいほど元気だよこの爺さん。」 半分呆れながらも一発の状態を観察する、一発と言えどあれを食らって無傷のはずは 無いからだ。すると一発が立ち上がる時から左腕を動かさない事に気が付いた。 「おや?ジイさんなんで左腕使わねーんだよ?もしかして70肩か?」 悪司はにやにやしながら一発を挑発する。 「ばかもん!そんなもんになるか!お前のような小童ごとき右腕一本で十分じゃから 使わんだけじゃ!!」 一発も負けじと毒舌で返す。思いのほか元気だがさっきからの物言いから左腕でガー ドした時怪我をしたらしい事は間違いない。 とはいえ勝負に情けは禁物、敵が弱っているなら一気に畳み掛けるのみ。 「おーしっ!!そんじゃー第3ラウンドいってみっか!!」 悪司のその言葉と同時に二人がファイティングポーズをとる。 しかし、一気に畳み掛けるつもりだったがよく考えるとあんまり有利な状況でないこ とに気が付く。 有利な点 1、 一発は左腕が使えない分ボディバランス関係上拳速が落る。 2、 左右のコンビネーションが出来ない ここまではいい。 不利な点 1、 悪司も左腕を痛めたので前回の作戦は使えない。 2、 左右のラッシュは無理なので大悪司が使えない。 3、 相打ちだったら一発もらっているのでやばい。 あんまり有利じゃないどころか不利な気がする。 悪司が“さーてどうすっかなー?”とか考えている間に一発が動いた。 それにつられて悪司も動く。 「くっこうなりゃあれっきゃねーか!」 あせりながらも勝利をつかむべく反射的に体が動く。 そして3度目の激突。必殺の間合いに入るまでは前回と一緒だが間合いに入った瞬間 一発の視界から悪司が消えた。いや極端に低い姿勢をとったのだが一発には消えたよ うに見えた。そして次の瞬間跳躍、一発に空中から襲い掛かった。 「ぬう!これは土竜!!」 上下にかく乱し上空から必殺の一撃を打ち込む、これが悪司の格闘技の師匠大杉剛の 必殺技土竜だ!! 不意の上下のかく乱に一瞬一発の反応が遅れる。 「大杉!技を借りるぜ!」悪司が高らかに叫んで拳を繰り出す。 「ちいっ!!」一発も水平に繰り出そうとした拳を無理やり軌道修正し上空の悪司を 迎え撃つ。 両者の拳がヒットした瞬間、悪司は勝利を確信した。悪司の完璧なクリーンヒットと は対照的にひじの伸び切らない不完全な一発のパンチ。これならいけると思ったせつ な確信とは裏腹に悪司の体が後ろに向かって加速した。 「なにいーーーーっ!!」 完全な誤算だった。一発のパンチ力が不完全でもこれほどあるとは。そして空中で踏 ん張りの利かない悪司はなすすべも無く吹っ飛ばされる。両者はまるで反発しあう磁 石のように離れていく。 悪司は空中を2秒ほど舞って壁際の木箱に突っ込み、そのまま木箱を破壊してその残 骸に埋もれた。 一発も低空で後ろに吹っ飛んだが2転3転したのち手足を踏ん張り何とか止まる。 止まった後這いつくばったまま一発は血を吐いた、結構な量の鮮血が床に広がる。 かなり深刻なダメージを負ったようだ。だがすぐに気合と共に立ち上がって吼える。 「この一発、これしきで倒れるほどやわなではないわ!」 その咆哮はまるで自分に活を入れるようだった。70歳にしてこの耐久力、化け物と しかいいようがない。そして2,3度荒い息を吐くと落ち着いた表情になった。 「奴がここまでやるとはな、じゃがもう立てまい。」 そして悪司の埋まった残骸を見つめながら目を細める。 「死んでいるかもしれんな。手加減する余裕など無かった。ゆるせよ」 呟いた一発表情はどこか悲しげだった。 そして一発がゆっくりと一呼吸置いてから入り口に向かおうとしたその時木箱の残骸 が弾け飛んだ。 「むうあーーだだ!!じじいーーーっ!!」 振り返りざま一発は目を剥いた。あれほどのダメージを負いながら悪司が立ちあっ がった事もあるが全身から血を流してはいるもののまだその瞳には闘志の炎が燃えて いたからだ。 そして嬉しくなった目の前の男とまだ戦えることに。 「ファイナルラウンド!!いっくぜえーーーっ!!」 獣のように牙を剥き出しにして悪司が本能のままに吼える。 「来い!!悪司!!」 一瞬の満面の笑みの後、厳しい戦士の顔で一発もそれに応える。 にらみ合った静止状態から弾かれたように飛び出して両者の距離が縮まっていく。 一撃が勝負、次は無い。両者とも限界を超えたダメージの中、闘志をかてとして今ま でで最速の拳を解き放つ。 両者の拳のスピードはほぼ互角だがやはり一発の方がわずかに速い。だがこのわずか な差が勝敗を分ける。一発の拳が悪司の顔面に吸い込まれていく。しかし悪司の顔に 絶望の色は見えなかった。拳を見据えたまま、牙を覗かせ笑う。そして彼は次の瞬間 信じられない事をした。岩をも砕く一発の鉄拳に頭突きをしたのである。悪司の頭が 割れたと思われたが逆に一発の拳がベキッといういやな音と共に血を吹いた。 一発が驚きと共に顔をしかめる 「でえーーりゃあーーーー!!」 そして気合と共に間髪いれず悪司の拳が一発の頬にめり込んだ。 一発の体が高々と宙を舞う。まるで木の葉のように。 そして落下。轟音と共に床に叩き付けられ一発は動かなくなった。 一発の立ち上がる気配の無いことを確認すると悪司は両手を掲げ勝利の雄たけびを上 げた。 悪司は散々吼えた後落ち着いたのかよろよろと一発のほうに歩き出した。 「おーーーい!じいーーさーーん!生きてるかあーー?」 思いっきり殴り飛ばして言う台詞ではないが悪司にはなんとなく生きてるような気が していた。 何度か呼びかけた後一発のそばまで来るとドカッと腰を下ろした。 すると不意に仰向けに大の字の一発が悪司を睨んだ。 「生きてるとは思ったが意識があるとはね。大した爺さまだ」 少し安心したように悪司は笑った。 それに応えるように一発も口を開く 「一つだけ聞きたい。なぜあんなことをした?普通ならお前の頭が潰れているところ だぞ」 「ああ、あれね、聞こえたんだよ、不完全な当りのインパクトの瞬間に爺さまの拳か らピシッてヒビの入る音が、だからいけるかなーって」 悪司は涼しげに応える。 「そうか聞こえたか、ははっさすがはわが孫。良くぞここまで強うなった」 その答えを聞いて一発は心から嬉しくなった。 「なーに言ってやがる。さっきまで本気で殺そうとしてたくせに」 呆れたように悪司が言う。 「何を言うかそれはお前も同じだろう」 「俺はちがうぜ、もし爺さま殺すと後で殺ちゃんに殺されそうだからな」 一発の反論にそっぽを向きながら応える。 「と言うことは最強は殺か!はっはっはっはっ!!」 また一発は高らかに笑った。 そしてほんとに元気だと悪司に呆れながら一発の高笑いは地下倉庫に響き続けた。 ケーン・ワカバマークと言います。 何で今ごろと初投稿で大悪司?と思う方がいるかもしれませんが、実は俺お恥ずかし い話ですがユーザー図書館の存在を知らなかったんですよ。最近まで。 でこれは1月ごろ友達に大悪事にはまってるとわからせる為に書いてやつなんですが 仕事が忙しいのかちっとも返事をくれなくて寂しかったんですよ。 そんでもって読んだ人がどういう感想をくれるか知りたくて投稿することにしまし た。 素人ですんで幼稚な文章の上に誤字脱字も多いと思いますが、読んで感想をいただき たいと思います。 以上 |