『雪華〜せつか〜』








 オオサカの空に、粉雪が舞っている。

 季節は冬。この雪が、オオサカの初雪だった。

 はらはらと、その身を風に弄ばれながら舞い落ちる白い欠片・・・そして、その欠片をただただ眺める一人の男がいた。

 心を奪われたかの様に、微動だにしない男。儚げな雰囲気のその男は、降りしきる雪の向こう側にある?何か?≠?見つめていた。

 男の瞳に映っているのは、愛おしかった人。

 男の瞳に宿っているのは、過ぎし日の思い出。

 男の瞳が物語っているのは、深い――とても深い悲しみ。

 遠い、遠い昔に失った?何か?%?度とは戻らない?何か?≠?、男の瞳は捉えていた。

 「――ッ!」

 男は急に懐から錠剤の詰まった瓶を取り出した。

 震える手でもどかしそうに蓋を開けると、じゃらじゃらと無造作に瓶を振る。

 それを乱暴に口の中に放り込むと、吐き気を堪える様に口を手で塞ぎ、片膝をついて荒く息を吐いた。

 「ゴホッゴホッ――ッ――げ・・・えッ」

 男の肩が激しく上下する。

 一見常に冷静で、如何な敵に怯む事も無い男の、本当の姿が そこにあった。

 怜悧な刃物を思わせる麗人の、ここまで狼狽えた姿など、組の人間は、一人を除いては知らないだろうし、これから先知る事も無いだろう。

 呼吸を落ち着けた男は、頭の雪を払い、何事も無かったかの様に立ち上がった。

 そして 男はゆっくりと、懺悔をするかの様に目を閉じると、肩に掛かっている?それ?≠?きつく握る。

 手が白くなる程、握りしめた物、それは小さな女の子の物と思われる、織物だった。

 「・・・・・・」

 無言の男の瞳から、雫が落ちる。その雫は男の足元の雪に小さな穴を開けたが、直ぐに降り積もる雪で掻き消された。

 男はゆっくりと目を開ける。その瞳には、少女の幻影が映っていた。



 ――×××年。シズオカ某所。



 「あ、ああ、あ・・・あ・・・」

 男は、自分の目に飛び込んで来た光景を見て、呆然とした。

 目の前が真っ暗になったかの様な錯覚を覚えた。

 目を見開き、壊れたかのよ様に雄叫びを上げると、手に持っていた花束を投げ出し、凄まじい速さで地を蹴った。

 男が手に持っていた花束が地面に落ち、花弁を散らすのと、男の奮った刀が血の華を咲かせるのはほぼ同時だった。

 『――ッ』

 ――びしゃびしゃ――

 男は一番最初に振り向いた大柄な男の首を、横一文字に抜刀し、真っ二つに裂いた。

 絶叫すら上がらず、喉元から迸った血液が、病室の壁や床や天井に華を描く。

 生温い錆の味が、男の口に広がり、男の白い手袋はたちまち朱く染まった。

 『この野ろ――』

 そして男は、そのまま身体を一回転させ、首から紅を噴出し続ける男の横の、叫びながら銃を抜いたちんぴらの両手首を落とした。

 チンピラの手の断面からは、ぴゅるぴゅると血が吹き出る。

 『ひぎぃやあぁぁぁ!手が!俺の手があああ!』

 狂った様に叫ぶチンピラを無視して、その横の男――ジーンズのジッパーを上げ、ベルトをがちゃがちゃ動かしているサングラスの男に狙いをつける。

 『ヒッ――』

 サングラスは、男と目が合うと、情けない声を出した。だが、叫び声を上げる事は無かった。

 なぜならその次の瞬間、男の刀がサングラスの頭蓋を刺し貫き、捻り、脳味噌を破壊していたからだ。

 サングラスは目と口からどろっとした液体を垂れ流すと、血溜りに突っ伏した。

 『手がああああ!俺の――』

 そして男は刀を引き抜くと、未だ叫び声を上げ続けているチンピラの、心臓を一突きにした。

 傷口を抉るように、足で蹴り付けながら刀を引き抜くと、チンピラは正座の状態からそのまま後ろに倒れ、上半身だけ仰向けの様になり絶命した。

 「ふーっ・・・ふーっ・・・ふーっ・・・」

 獣の様な荒々しい息を吐く男。

 男の視線が、ズボンを上げる事も出来ないまま、小便を垂れ流しにしている男と合う。

 暴漢共は、男が今現在所属している組の、組員だった。

 『あ・・・あ・・・ああ・・・あ・・・あ』

 がちがちと歯を鳴らす組員の男。

 「っがああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



 男は、組員の男を斬り続けた。



 腕を斬り。



 足を跳ね。



 耳を削ぎ。



 目を抉り。



 腸を裂いた。



 そして、袈裟懸けに刀を振り下ろすと、組員の男の頭部は、斜めに輪切りになった。

 組員が作った水溜りに、かつて組員のパーツだった物がぼちゃぼちゃと落ちた。

 組員の男は――肉片に変わった。

 そして、その場に動く者がいなくなった時、男はその場にがっくりと膝をついた。

 「・・・っぐ」

 嗚咽を噛み殺しながら、男は?それ?≠ノ手を伸ばした。

 男の目から、涙がぼたぼたと零れ続ける。

 まだ膨らみきっていない少女の胸や、白磁器の様な美しい肌には、いくつもの刺し傷があった。

 そして、女性の象徴ともいえる、子を成す器官が兇刃によって刺し貫かれていた。

 口元には血泡がつき、舌を噛み千切ろうとした後がある。

 幾度も幾度も陵辱され、美しい肢体を傷だらけにし、血と、精液でまみれた少女の姿は・・・あまりにも凄惨だった。

 「っ・・・げぇ――」

 男は朱く染まった手袋で口を塞いだ。

 愛おしい者が傷つけられた怒りの為か、それとも深い悲しみの為か、それとも・・・世界への拒絶からか・・・。

 男は強烈な吐き気に襲われた。男の口から、胃液が溢れそうになる。

 「っ・・・うう・・・」

 震える指先を堪え、手袋を外す男。

 「っ・・・うううう・・・」

 血でべっとり汚れた男の頬を涙が流れ、幾つもの筋を描いていた。

 「雪華・・・」

 最愛の妹だった物を、男はきつく抱きしめた。しかし、もう、それは熱を失ってしまっている。

 それでも、男は嗚咽を堪えながら、その名を呼び続けた。

 「雪華・・・して・・・」

 男は、どうして、どうして、とうわ言の様に繰り返す。少女の空っぽの瞳には、涙で歪んだ男の顔が映りこんでいた。

 「う・・・うう・・・・・・う――」



 魂を引き裂かれそうな、絶叫が響いた。



 ――シズオカ最大の勢力を誇るとある組が、何者かの襲撃を受けて組員全員が虐殺されるのは、その翌日の事だった。

 事件当日、シズオカでは初雪が降り、その組の庭に広がっていた血飛沫は、雪に映えてとても、奇妙な程に美しかった・・・らしい。

 ――それはまるで、緋牡丹の様だった・・・と





 「雪華・・・」

 男がそう呟くと、白い吐息が口から漏れた。その瞳は、もう濡れてはいない。

 「せつか・・・」

 もう一度、声に出して確かめるかの様に呟く男の前に、一人の少女が立っていた。

 「せつ・・・か?一体何の事だ?」

 幼い容姿だが、どこか凛とした雰囲気のある不思議な少女だった。

 意志の強そうな瞳の所為で、子供の様にも、大人の様にも感じる、そんな少女だ。

 少女は怪訝そうな顔をして目の前の男を見詰める。

 「・・・いや・・・何でもない・・・」

 男はそう言うと、折りたたみ式の傘を懐から取り出した。スイッチを押すと、ぽん、という軽快な音と共に、大きな黒い傘が開く。

 それを見た少女が、益々不思議そうな表情を浮かべた。

 「何故待っている間傘を使わなかったのだ?」

 少女にそう言われ、男は少し考え込んだ。

 「・・・・・・」「・・・・・・」

 その場を沈黙が支配する。

 「・・・雪を見ていたら・・・忘れたんだ・・・」

 男は無表情で答えた。

 少女はそんな男を見て、言うか言うまいか迷った表情をしたが、意を決した表情で訊ね返した。

 「・・・せつか。・・・雪華とはもしや・・・」

 男は暫く沈黙していたが、ぽつり、と漏らした。男の口から白い靄が出る。

 「・・・そうだ」

 男は再び目を閉じると、深い溜息を吐きながら、搾り出す様に言った。

 男はそれ以上語ろうとはしなかったし、少女もそれ以上聞こうとはしなかった。

 だが――長い、長い沈黙の後に、少女が口を開いた。

 「・・・その痛みは、忘れる事は出来ないだろうし、無くす事も出来ないかも知れぬ・・・・・・だが――」

 そう言うと、少女は男を手招きした。

 「屈め」

 「・・・?」

 「いいから屈め!」

 少し怒ったかの様な口調に躊躇いながらも屈んだ男に、不意打ちで少女の唇が重ねられた。

 そのまま、たっぷりと、息が止まるのではないかという位、口づけを交わす二人。

 少女は少し頬を紅潮させ、目を潤ませながら男に言った。

 「だが――だが、その痛みを和らげる事くらいは、私にも出来るかも知れぬ・・・ぞ?」

 男の首に腕を回し、複雑な表情で問い掛ける。

 「そうであろ――」



 『秋光』





 
男はゆっくりと目を開ける。その瞳には、少女の幻影は映ってはいなかった。











fin




















































『あとがき?』



 どうも≪大悪司ようやくクリア記念≫という事でSSに初挑戦です。
 初挑戦ですので、文章が汚い、表現が稚拙、誤字、脱字、設定が甘い、とかのツッコミは勘弁してください(藁
 書き始めた時はもうちょっと長かったのですが、あんまり長いのもきついんで短く纏めました(纏まってねえ、とかのツッコミも勘弁してください)
 それにホントはもーっと暗ーくて、じめーとした、陰鬱な話にしようと思ってたんですけど、書いてて自分が欝になってきたんもんで、最後にほんのちょびっとだけラヴな要素を入れてみました、みましたが・・・
 これなら当初予定していた血みどろどろどろヴァイオレンスの方が良かったかもしれないなあーというのは秘密の中の秘密です。(恋人のいない自分にとって、ラヴな描写はこのうえなく苦手なのです)
 えーそれで、主人公ですが男キャラで1,2を争うほど好きな柳秋光さんです。いやあ、良いですよねえホント。強いし、ばんばん避けるし、戦闘のアニメーションも格好良いし。
 僕の文章力じゃ判らないかもしれないんで一応書きますけどヒロインは殺ちゃんです。殺ちゃんには悪司じゃなくて秋光を好きになって貰いたいものですなぁ・・・・・・(遠い目)
 あ――っとそれで肝心の話の方ですけど、自分は妹の設定とか事件の設定とかはオフィシャルガイドブックとか持ってないんで判らなかったんですよ(今度買いにいきますけれど)。なので脳内で勝手?に補完させて書かせて頂きました。
 まあ、この話が公式設定と著しくかけ離れていても笑って許してあげて下さい。


 書いた本人が言うのもあれだと思いますけど・・・(苦藁





 最後に、いつも面白いゲームを我々ユーザーに提供して下さるアリスソフトスタッフ一同様に感謝しつつ、駄文を締めさせて頂きます。ではでは

txt by米男