2話 「治安維持」

幸いにも、聖女様からのお説教は短時間で終わり、俺は新たな任務を命じられるとともに、部屋を退出した。
新たな任務は、聖女である土岐遙の補佐兼、守護天の統括。
つまりは、はるかちゃんのボディガード兼、雑用係ってことだな。

「なんか、やることはあんま変わってないみたいだな」
今までも、はるかちゃんの護衛がてら、雑用をこなしていたんだから、変化無しとも言っていい。
「ええ。でも、私は那古神様の身辺警護って役割が出来ましたから、必然的に忙しくなると思いますよ」
誇らしげな口調で、ウキウキと、はるかちゃんは言う。

ちなみに今、俺と、はるかちゃん、渡辺の3人は、キタハマ地域をトコトコと歩きながら、周囲を巡回している。
今日もいつも通りの曇り空。道行く人は平穏そうに生きているようだ。

「…………にしても、あ〜、退屈だよなぁ。暴動でも起きんもんかねぇ」
「物騒なことを言うな。危険人物か、お前は」
俺が思いつきでいった言葉に、渡辺は心底呆れたような顔をする。
…………悪かったな、危険人物で。

「そうですよ、ノフさん。冗談でも、そんなことは言わないでください」
困ったような顔の、はるかちゃんにも窘められてしまった。ちょっと反省。
「誰も傷つかないのが、一番良いんですから」
「あ〜…………、まぁ、そうだな。うん」
マジな顔して言うんだよなぁ。
ホント、可愛いよ。そういうトコが。

はるかちゃんが那古神様を護衛するのは、週で2回、日曜日と月曜日。
町中で説法をする予定の日に、つきっきりで警護をすることになっている。
ちなみに他の日は、俺達と一緒に守護天を統括する。

ちなみに、今日は非番の日だ。
なのに、こうやって真面目に町中を見回ってるんだから、ほんっと、いい娘だよな。

「それにしても、土岐隊長は今日は非番の日でしょうに、このようなことをしなくても…………」
俺と同じ事を考えてたんだろう。渡辺がそんなことを言いだした。
「警備は我々に任せ、ゆっくりと休んでいた方がよろしいのでは?」
何を言うんだコイツは。そんなことしたら、はるかちゃんと一緒に居られないだろう?

「ありがとう。でも、好きでやってることですから」
そういって、はるかちゃんは、たおやかに笑った。
「こうやって、みんなが平和に暮らしているのを見るのが、私、大好きなんです」
その表情は、純粋な、まさしく聖女にふさわしい笑顔である。

う〜ん、そういったところを見せられると…………。
「えらぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」

俺は、はるかちゃんをガバッと抱きしめてみた。
「は…………はわわわわわわわっ!?」
「なんて可愛い子なんだよっ、このこはっ!」
そういって、俺は頭をナデナデする。
「あ、ああああああのっ、ノフさんっ!ちょちょちょちょちょっと、ひとまえですよぉっ!」
どもりながら混乱するのが、これまた可愛いんだよ。

「おい、そのくらいにしておけよ。土岐隊長が困っているだろう?」
日常茶飯事の事なので、渡辺の口調は素っ気ない。
「ま、そうだな」
はるかちゃんを抱きしめた腕を、パッと解くと、俺は、はるかちゃんから身を離した。
「あぅぅ…………」
あ、まだ混乱してるみたいだ。
「ほらほら、深呼吸、深呼吸」
す〜は〜、す〜は〜、
「す〜は〜、す〜は〜」
何度か深呼吸しているうちに、はるかちゃんも落ち着いてきたみたいだ。

「落ち着いたかい?はるかちゃん」
俺の言葉に、はるかちゃんは、どこか気恥ずかしげに俺の方を見た。
っていうか、微妙に視線をそらしてるけど、恥ずかしいんだろうな。
「もう…………ノフさんっ!人前で抱きつかないでくださいっ!」
そういう、はるかちゃんの顔は真っ赤だ。う〜ん、ウブだねぇ…………。
ま、そうでなきゃ、毎度毎度、抱きついたりはしないんだけどね。
「ん?人前じゃなかったらいいの?」
わざとピントずれの言葉を言うのも、からかうと楽しいからなんだよなぁ…………。
「いや、そうじゃなくって…………、ですからっ…………!」
案の定、まっ赤な顔をさらに赤くして、はるかちゃんが口を開いたその時、


「泥棒っ!」


叫び声は、通りの向こうから唐突に聞こえてきた。
見ると、道ばたに女の人が倒れており、その場から逃げ出そうとする男の姿があった。
それを見た瞬間に、今までのおちゃらけた表情から、スイッチが入れ替わる。
俺達は、素早くそちらの方に駆け出していた。

「渡辺さんっ!女の人をみてあげてくださいっ!」
駆けながら、はるかちゃんが指示を飛ばす。
こういう時の指示の速さ、的確さは正直言って舌を巻く。
その言葉に頷くと、渡辺は、道に倒れた女の人の前で立ち止まる。
その横を、はるかちゃんと俺は、速度を落とさず駆け抜けた。
「ノフさんは、私と一緒に…………!」
「おう!」
皆まで言うこともない。
俺達の駆ける先に、道を駆けていく犯人の姿が見える。
はるかちゃんと一緒に、俺はその男を追った…………。


犯人を捕まえて、盗んだ物を取り返すと、俺達はもとの場所に戻った。
ちなみに犯人は、簀巻きにして近くを巡回していた他のヤツに押しつけといたが、まぁ、大丈夫だろ。

「ありがとうございます、なんとお礼を言っていいか…………」
「いいんですよ。それよりも、お怪我はありませんか?」
ペコペコと頭を下げるオバサンに、はるかちゃんは優しく言葉をかける。
「いい娘ちゃんポイント、1アップ、だな」
「…………?なんの話だ?」
俺のつぶやいた言葉に、怪訝そうな顔をする渡辺に、俺はにやりと笑った。
「こっちの話だよ」

そんなこんなで、一日が過ぎていく。
守護天の仕事は、ハッキリ言ってハードだけど、やってて楽しいと言える。

こういうドタバタな毎日が、ずっと続いてくれりゃ、言うこと無いんだけどなぁ…………。



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