![]() | プロローグ 〜オキナワ〜 |
・プロローグ ・第一話 ・第二話 |
陳腐な表現だが、とあらかじめ前置きしておこう。 空も海も、限りなく透明に近いブルーだった。オキナワ、イリオモテ島の海岸である。ウィミィ軍との本土決戦の爪痕も、ウィミィ軍が放った猛毒の海流も、この時この場所には何の関係もない。柔らかな潮騒とウミネコの鳴き声だけが、その空間の主であった。 太陽が、頂点を少し過ぎた。 浜に、単調な電子音が響いた。ヤドカリが二匹、海へ全速力で走っていく。砂の上に投げ出された携帯電話を、拾い上げる男の手があった。 「俺だ。島本か」 山本悪司、三十六歳である。 『若、ウィミィ本国でキャサリン大統領の辞職がほぼ確実となりました。後任の選挙には立候補も立たない有様です』 「ふーん。早えな。まだ三ヶ月だろ」 『二ヵ月半です。ウィミィはすでに政治、経済、軍事ともにがたがたです。攻め落とすには十分すぎるかと』 「うちの総理はどうだ?」 『殺る気まんまんです。魁はあたしに任せろとか言ってます。若、いかがなさいますか?』 「どうすっかね……」 悪司は考える。 山本悪司はすでにニホンの全てとアジアの大半、それにヨーロッパの一部を支配下に納めていた。悪司が一声かければ、その全てが一気にウィミィに攻込む。制圧まで、一ヶ月はかかるまい。いや、一週間で終わるかもしれない。 しかし。 「まだ待て」 『まだですか』 「ああ。まだだ」 悪司には、懸念があった。 世界の覇者は、ウィミィ国であり、それに対抗する革命勢力が悪司率いるニホンである。有名無実とはいえ、それが世界にとっての事実だ。実はそれは悪司にとって都合がいい。革命の旗印を背負っていれば放って置いても民衆はついてくる。 ウィミィが倒れ、ニホンが世界の覇者になった時、果たして各国の民衆はニホンをどんな目で見るのか。 そのことは言わずとも島本に伝わっている。 『しかし総理がなんと言うか』 「俺のほうから言っとくからよ、こっち来るように伝えてくれ。あいつコマしてやんの久しぶりだから、期待しとけってな」 『わかりました。そのように』 電話が切れた。悪司はそれを砂浜に投げ出し、自分もねそべる。 「戦争、か………」 面倒だから、やっちまえ。その言葉を悪司は飲み込んだ。そう、面倒なのだ。 世界征服。いつしかその言葉にすら、悪司は憧れを覚えなくなっていた。世界征服が一歩一歩近づくにつれ、感動は色あせていった。今はもう、何の興味も無い 自分はわずかな例外を除いて、手元にあるものには興味が無い。悪司は最近そのことを理解した。もし、世界を手元においた時、次に自分が興味を持てるものがあるんだろうか。 悪司は空を眺める。結論は、遠い。 「悪司」 悪司の体に人影がかぶさった。白いシンプルなビキニ姿の女性。悪司にとっての「わずかな例外」だ。 「誰と話してたの?」 山本元子。三十三歳。悪司の妻であり、幼馴染であり、参謀でもある女性。 「島本だけどよ。トコ、おめえ朝からずーっと電話してたな。誰と話してたんだ?」 「誰だと思う?」 元子はいたずらっぽく笑った。 「ヒント」 「悪司組の頃からいる人」 「んー、大杉」 「全然違う」 大杉剛は現在ニホン陸軍の特別教務官を勤めている。すでに一線を退いてもいい年だが、あと二十年は現役でいると妻の麻美に語っている。陸軍で一日でもしごかれたものがある人は、どこで何をしていても「大杉」の名前が聞こえるだけで、直立不動敬礼の姿勢になるという。 「じゃあ夕子さん」 「はずれ」 神原夕子はオオサカ市長を一期で辞任し、故郷の村でリンゴを作りながら暮らしている。 なお後任のオオサカ市長には青葉曜子が当選し、以後十年近く安定した治世を続けている。 「薫、寧々、どん子…………は違うよな」 「その人たちは忙しいもの」 悪司が上げた三人は、いずれもニホン政府の中枢を担う人物である。 森薫は現行の総理大臣の第一秘書、月瀬寧々はニホン政府中央議会議長、炎どん子は文部大臣をそれぞれ務めている。次期総理大臣はこの中の誰かという予想は、もはや常識となっている。 その中でも着ぐるみ大臣炎どん子に対する国民の支持は絶大なものがあり、総理待望論は日本中で聞こえるものとなっている。 『おいーーっす!ニホン全国のにーちゃんねーちゃんおっさんおばさんじいちゃんばあちゃん子供達!みんな元気にしてたかな?着ぐるみ議員改め着ぐるみ大臣炎どん子です! 世の中いろいろ大変だけど、どん子がいれば大丈夫!炎どん子がいるかぎり、ニホンに悪は栄えない!とゆうわけで一曲目はいつものあの曲から!ちゃっちゃっちゃちゃっちゃっちゃちゃっちゃっちゃっどんどんどどんどんどどんほえほえ〜どんどんどどんどっどどんほえほえ〜』 に始まる文相就任時の政見放送は、瞬間最高視聴率70%を突破した。 閑話休題。 「んん………じゃ、誰だ?」 「正解は殺っちゃん」 悪司は跳ね起きた。 「おいおい、殺ちゃんなら俺にも回せよ」 「何で回さなかったと思う?」 元子は悪司を見下ろして笑った。三十路をとうに過ぎているとは思えない、純真な笑顔。 悪司はその笑顔に応えるように、口の端を悪ガキのように歪めた。 口に出さなくとも、悪司には伝わる。元子がこうやって笑うのは、いつも。 「なんか、面白い話でもあんのか?」 「すっごく」 そういって元子は悪司の横に腰を下ろした。十代かそこらの恋人のように二人は寄り添う。 「リンダって人覚えてる?」 「…………ヒント」 「オオサカ」 「………パス1」 「コロシアム」 悪司は手を打った。 「……!桃山リンダか!思い出した思い出した。そーいやあのがきんちょどうしてんのかな」 「今高校生だって」 「はあ……もうそんなになるのか」 「十年も経ってるのよ」 そう言って元子は笑った。 「それで、あのがきんちょがどうしたって?」 そして、元子は語り始める。桃山リンダの長い長い戦いの話を。 後書き 初手から公約無視。自由党の政治家でもこうは行きませんね。 というわけで「桃山国盗り物語序説」です。 主人公はリンダと殺ちゃん。その他石原千手、小原小春、日陰密子、瑞海和樹(の妹)それとオリキャラ多数です。山本夫妻はプロローグとエピローグのみの登場となります。 どのぐらいの長さになるかはわかりませんが、十話ぐらいには収めたいと思っています。 それではよろしくお願いします。 なお「現行の総理大臣」と「キャサリン元大統領」はオリキャラです。登場はしません。 |
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