バイオレンス・ヒーローズ

第二話「少林僧」

 

 武功、それは中国のすべての武術に対する呼称である。

 人間が集えば自然に社会となるように、武功を操るものが集まる場所を「武林」または「江湖」と呼ぶ、それは、全中国が江湖という事を指すのだ。

 もちろんの事、武功の修練はものすごく厳しいのだ。

 かの少林寺を例ととって見よう。

 少林寺には「七十二絶技」があるといわれる、それは七十二の技ではなく、七十二の流派があると考えたほうよいほど、その一つ一つの絶技は奥が深く、それを一つでも極めた者なら、江湖において一流の強者となり得るほどだ。

 よって、少林寺誕生から現代に至るまで、その七十二の絶技をすべて極めたものなどいない、一番多いものでも十と三つしか極める事ができなかったのだ。

 そしてその七十二とはこの世のあらゆる範囲の武術を含んでいる。剣、刀、拳、掌、指、脚、棍、これらのボピュラーなものはもちろんある、唯一ないのは、少林寺には居ない女性向きの武功だけだ。

 それらがあるからこそ、少林寺は武林で至高の地位を保てたのだ、そして正義の士からは敬われ、邪悪のものから恐れられてきた。

 

 悪司と元子はすでに最上階にきていた、ここまで来るのには、たいした苦労はしなかった、それは二人が拍子抜けするほど警備がゆるいからだ。

 もともとは悪司がウィミィ兵の軍服を着て、それで廊下にでもウィミィ兵にあったら、元子の事を指令の客だといってごまかすつもりで、もし見破られてもその前に必ず敵に躊躇があると、そう思って建物内に入ったのだが…。

「…いいのか、これで…」

 思わず悪司が不安になるほどだった。それもそのはず、エデンがそこまで厳重な警備だったのにたいし、ここは一階から最上階に上がってくるのに一人のウィミィ兵にも会わなかった。

 もちろん人が居ない訳ではない、これまでに通りかかった部屋からはちゃんと人を気配もあるし、話し声だって聞こえる。

 なのにこうまで警備が薄いというのは、悪司と元子の経験の中にはなかった事だ。

「うん…、こんなに簡単にここまで来られるなんて、これはかえって不安ね」

「ああ、どうしたものかな…」

 小声で簡単に意志伝達すると、二人は階段を離れ先に進んだ。

 すると一本道の先にはドアがあり、そのドアの前には二人の男が居た。

 一人はメガネをかけた青年で、腰に長剣をつけている。もう一人は少し変わった格好だ、きているものこそ中国で最も一般的なふくだが、彼の頭には一本の毛もなく、しかもそれにはお香で焼いた跡があり、どう見ても出家したお坊さんだった。

 それがこんな服でこんな場所に居ると、悪司も元子を少なからず驚いた。

 めがねの青年は絶えずお坊さんに話し掛けている、もちろん中国語だ。二人は地面に座っていて、その後ろにあるたった一つのドアを守っている。

 悪司たちは一目見合って意志を疎通し、気配を殺しながら近つける、この二人がウィミィ兵ならばこの事しなくても、正面から言って交渉でもできたのだが、あまりにもこの場にふさわしくない二人組のために出方を伺う事にした。

 だが、そのお坊さんはいきなり立って、悪司たちのほうに向かって二三歩あるくと。

「だれだ?」

 あまりにもたどたどしい、片言だけのウィミィ語で聞いてきたのだ、すでに発見された悪司はウィミィ語で返した。

「二等兵のジョンソンで有ります、司令官の客をお連れしました」

「指令状?」

「はっ…それは…」

 悪司は一瞬口篭もる。

(指令状?んなもんが必要なのかよ)

「…」

「もってきてません、そにしろ司令に急ぎの客でしたので」

 悪司はそう答えると、お坊さんの目が一瞬光ると、その次の瞬間には悪司に襲いかかっていた。

「なに!」

 問答無用に攻撃されたが、悪司もすぐに反応し、相手の右腕の攻撃をかわし、すかさず蹴りを入れる!

 だが向こうの反応も早い、攻撃がかわされれば、長居は無用といわんばかりの速さで後退して行った。

 後退し、間合いを取ったのかと思いきや、彼はすぐさま次の攻撃をするために前進する。

「やっ!」

 悪司の後ろにいた元子は、メガネの青年があくまでドアを守り、動く気配がないのを見て、悪司に加勢し、鞭をお坊さんに向けて振り出す。

 肉をも切り裂く勢いの鞭(実際それで敵を切り裂いた事もあるが)だが、そのお坊さんは左手の人差し指と中指だけでそれを挟み、そして止めた。

 そのまま元子には目もくれず、右手は左手と同じ人差し指と中指で悪司を突き刺す。物凄い勢いと破壊力だった、その一突きだけで悪司を着ていたウィミィ軍服の肩にある装甲が抉られてしまったのだ。

「悪司!」

 心配そうに声をかける元子、だがえぐられたのはどうやら装甲だけで、肩は大丈夫なようで、悪司はぐるぐると腕を回した無事を伝えた。

「つええな…ん?」

 悪司の眉がびくりと動いた、それはこれまでの二度の攻防の騒ぎで、下から兵士が上がってきたのを気配で察したからだ。

 もちろん元子も感じている。

「トコ!後ろは任せたぞ」

「うん!」

 そういって、悪司は全神経を目の前の強敵に集中する、そしてすべてを信頼し、任された元子は5メートルほど下がり、悪司に戦うスペースを明渡し、やってくる敵の足止めに向かう。

 それからまもなく、十数人のウィミィ兵がやってきた、かなり慌ててきたのか、元子が見た限りでは特に銃火器は持っていない、これなら足止め所か倒せるかもしれない。

 元子はその愛用の鞭を振り出す…。

 

「トコ!後ろは任せたぞ」

 悪司の叫びは部屋の中にまで届いた。

「この声は…、まさか?」

 

 一方の悪司は坊さんと膠着した戦いが続いていた、その両手の指から繰り出される突きは、どれも先悪司の肩の装甲をえぐったような、一撃必殺の威力があった。

 それを悪司がかわしつづけている、威力は高いが、悪司にとってかわせないほどの速さではない、だが、油断のできない速さでもある。

 一方、悪司のほうは何度か蹴りをいれたが、それも決定打にはならず、むしろそのたびに懐に入りこみすぎて危険な思いをした。

「くそっ」

 多くの修羅場をくぐってきた悪司の勘が告げた、このままでは埒があかないだろうと、そう思った悪司は勝負に出た。

 後ろに飛んで二・三歩ほど下がり、そのまま腰を少し落とすと。

「うぉおりゃああ、大悪司ぃぃ」

 必殺技を放った、そして坊さんに向かい突進する、当然そのままやられはしない、坊さんも今までにないすごいスピートで突きを放った、それは悪司の突進力もあって、早く見えるのかもしれないが。

 だがその突きを悪司は殴り払った、そして懐に入ると拳の霰を坊さんの体に降り注いだ。

 一発、二発…十発と、数十発のパンチを坊さんに浴びせ、二人はまだ距離が開いた。

 坊さんは殴られた箇所、特に集中的に殴られた胸のあたりに手を当て、顔つきがややゆがんでいる。

 一方、悪司は手・腕だけではなく、何か鉄や岩でも殴ったかのような痺れが全身にきていた、そして手応えの割にはダメージが少ない(ように見える)事に心の中で頭をかしげた。

(なんだこいつはよ、パワーはあるし打たれ強いし、中国にはこんなやつがうようよしているのか?)

 悪司の両手…もとい全身の痺れがいまだに取れていない、このときを坊さん、あるいはその後ろのメガネをかけた青年に襲われたら、まずまともな反撃はできないだろう。

 だが幸いな事に、坊さんのダメージも相当深いようで、顔には出ていないが、少しでも休んでダメージをとりたいところだろう。そして相変わらずドアを守り、一向に動く気配のない青年。

(ちっ、初日でいきなりつまづくのかよ)

 心の中で舌打ちをする、まさかウィミィの中にこんな中国の坊さんが居るなど予想はしない。

(こいつは…イバじいのBシリーズ並の強さだぜ)

 それからしばらく、二人とも少しずつ動き出し、徐々に間合いを詰めたそのとき。

「悪司…ああ……やっぱり悪司なの……」

 その女性の声に、まず坊さんとウィミィ兵士の動きが止まる、そうなると元子も鞭を収める。

 そして悪司はその自分の名を呼んだ女性の顔を見る、それは悪司のよく知っている顔だった。

「シーネル」

 

続く… 第三話「ワンシーン」

 

後書き

 どもども、お久しぶりです、高森です。

 こうして第二話ですが、みなさんこうした一味違う少林寺の解釈についてどう思いますか、この「武功」、「江湖」などは中国の小説によく出てくるものですね、自分はいつか中国を舞台に書いたらこういったものを取り入れたいと常に思っていました。

 ところで今回悪司がメインに戦ったお坊さんの事ですが、彼はやはり少林寺の出身という事に、その扱う突きは「少林OOOO指」(やはり伏せです、わかる人居ますか?)といいます、れっきとした「七十二絶技」のひとつです。

 と、シーネルが出てきましたね、ストーリー上シーネルかプリシアか悩んだのですが、使いやすさの面でシーネルを選びました、プリシアはなかなか好きなキャラですのでもっといい所で登場させたいと思います。

 では、まだ次回に。

意見・連絡の方はこちらまで(fot@joy.ocn.ne.jp

高森淳のNovels Fans