大悪司 オオサカ・未完成闘争曲


山沢 麻美編

                9(前)  9(後)  10
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大都市オオサカの西側に位置するハルセ。
そこには、オオサカの管理を行う市議会と呼ばれる機関がある。
私の名前は山沢麻美。かつて私は、その市議会に所属していた。
でも、今は市議会を辞め、ある人のもとで働いている…………。
私が市議会を辞めることになった事件。
それを思い起こして、今、私はペンを走らせている。
決して忘れることのないように、想い出が色濃く残っているうちに、
できる限り書いていこうと思っている…………。



1話 『噂』

正和35年 5月 10日  正午

オオサカの全体を管理し、統治する市議会という機関が、ハルセにある。
管理課、福祉課、生活課、治安課という部署があり、市民のために、みんな、身を粉にして働いている。
そのため、今日も市議会には、色々な苦情の申し立てが殺到している、のだけど…………。

管理課・事務室。

ここは、管理課の職員の部屋。私の所属する管理課の人間が、事務などを行うときに使用する部屋だ。
私の目の前には、今しがた届けられた書類が、山のように積まれている。
麻美「はぁ…………」
鴉葉「麻美ちゃん、どーしたの?なんか元気がないみたいだね〜」
書類の山を見て、思わずため息をつく私に、同じ管理課に所属する鴉葉さんが、声をかけてきた。
鴉葉さんは、私より数ヶ月先に管理課に配属された人で、何というか、軽薄な人だと思う。
正直、こんな人がどうして公務員をやってるのか、いまだに疑問には思っているのだけど…………。
麻美「ここ最近、わかめ組の管轄地域からの苦情が、増加してるんです…………」
ノロノロと書類に目を通しながら、私は疲れた様子で返事をした。
ちなみに、書類が山積みになってるのは私の机だけだった。
鴉葉「ひょっとして…………、これ、全部苦情の書類なの?」
呆れたように言う鴉葉さんに、私はこくりと頷いた。
生活課で応対した市民の苦情は、その市民の所属する地区の、管理組合の責任ということになる。
管理組合への要請という形で書かれる苦情の書類は、そのまま管理組合の上にいる監督官である者のもとに、
届けられることになっている。
つまり、何事もなければ書類は一枚もないのだけど、現在、私の机の上にある書類は、軽く200枚を越えている。
ちなみに今日は、まだ少ないほうだ。
いくら処理しても、次から次へと苦情が殺到してくる状態が、ここ何日も続いている。
さすがに、いい加減イヤになってきたのも事実だけど…………。やめるわけにもいかない。
鴉葉「あらら…………、すごいね〜、こりゃ」
おかしそうに、鴉葉さんは私の持っていた書類を手にとって眺めている。
確かその書類は、マッハピヨの大群の退治依頼、だったかな…………?
数が多すぎて、もう、どれがどれだかわかんない…………。
麻美「おかげで最近、寝不足なんですよ…………」
そういって、私は机に突っ伏した。
もう何日も、まともに眠っていないような気がする。
一応、睡眠はとっているけど、身体が休みを受け付けていないみたい。あと頭も、かな…………。
鴉葉「まぁ、わかめ組のほうも色々とゴタゴタが続いているからねぇ〜」
ウンウンと頷く鴉葉さん。
鴉葉「でも、めんどくさいなら、ほっとけばいいのに。ど〜せ誰も文句を言うわけないんだし」
の〜んとした鴉葉さんの言葉に、私は返す言葉もない状態だった…………。
私の管轄しているわかめ組は、戦争が終わってから、現組長の市橋蘭さんに代替わりをした。
女性上位のウィミィの政策によるものなんだけど、そのせいで、わかめ組は先代のもとで働いていた部下と、
蘭さんの直属の部下との間での対立が起こっている。
ここ最近は、さらにその対立が酷くなっているらしい。
おかげで、わかめ組の本部のあるセンリから西の地域では、実質的に半独立の状態になってる。
混乱したわかめ組が、支配地域をしっかり管理できるはずもなく、
そのせいで、私へまわってくる書類が増えているというわけで…………。
なんか、考えてて哀しくなってきた…………。
麻美「はぁ…………」
机に突っ伏した状態で、再度ため息をつく私の耳に、鴉葉さんのポツリと漏らした呟きが聞こえた。
鴉葉「まぁ、これからもっと忙しくなるんだけどねぇ…………」
麻美「…………え?」
今…………、なにか聞き捨てならないことを聞いたような気がする。
麻美「もっと忙しくなるって…………?どういうことです?」
朦朧とした頭を奮い立たせ、身体を起こして、私は質問した。正直、嫌な予感はしていたけど…………。
鴉葉「あれ?知らないの?」
さも意外そうな声で、鴉葉さんが驚いた顔をする。
麻美「……………………何がです?」
怪訝な顔をする私に、鴉葉さんはいつも通りの笑顔で、とんでもないことを言ったのだ。
鴉葉「麻美ちゃんの管轄してるわかめ組と、僕の管轄の奉仕青年団との間で、近いうちにドンパチが始まるらしいよ」
麻美「…………どんぱち?」
鴉葉「戦争、ってこと」
麻美「ええっ!?」
文字どおり、初耳だった。いったい、どういうことなの!?
鴉葉「ま、うわさって言うか、ほぼ事実なんだけどねぇ」
驚いた様子の私に、鴉葉さんはざっと説明をしてくれた。

わかめ組の先代の名は山本百発という男の人で、現在は戦死したことが確認されている。
そのあとを継いだのが、現在の組長の市橋蘭さんだけど、前組長の部下達を束ねるのに苦労している。
そして、鴉葉さんの管轄する奉仕青年団。ここ1、2ヶ月の間に勢力を拡大していることは知っていたけど、
その原因は、一人の人物にあるらしい。
そして、その人こそが、わかめ組と奉仕青年団との対立の原因らしい。

麻美「山本…………悪司?」
鴉葉「そう。その悪司って人がなかなかのやり手でね、戦争にいってる間にわかめ組を乗っ取られたから、
奉仕青年団を使って取り返そうって、もくろんでるわけなの」
前組長の息子。その人が、現在の奉仕青年団を取り仕切っているらしい。
そして、彼がわかめ組と、一事を構えようとしているのは明白なのだとか。
麻美「そこまでわかってて…………、どうして止めようとかしないんです!?戦争なんですよ!?」
声を荒げる私に、鴉葉さんは肩をすくめた。
鴉葉「むりだって。監督官の僕の言う事なんて、ちぃ〜っとも聞いちゃくれないからねぇ。まぁ、こっちからは仕掛けない
ようにって、釘は差しといたけど」
でもね、多分、わかめ組のほうから仕掛けるでしょ。と、ニコニコと邪気のない顔で、とんでもないことを言う。
戦争なんてやってる場合じゃないのに…………。
いまだ前大戦のきずあとの復興もままならないというのに、ニホン人同士で争うなんて…………。
麻美「止めなきゃ…………!」
私はいたたまれなくなって、立ち上がった。
鴉葉「あれ?どこにいくの?」
麻美「決まってます!わかめ組の本部に行って、戦争なんてやめさせないと…………!」
わかめ組の組長の蘭さんは、監督官になったばかりの新米の私に、親切にしてくれた人だ。
あの人なら話せばわかってくれるはず…………。そう考えて、私は部屋を飛び出した。
鴉葉「あ、ちょっと麻美ちゃん、この書類はどうすんの?」
麻美「お任せします!!」
鴉葉「……………………え!?」
さりげなく鴉葉さんに仕事を押しつけると、私は市議会本部を出た。
麻美「とにかく、急がないと…………」
鴉葉さんが言うには、今日か明日にでも、すぐに斬った撃ったの、ドンパチが始まってもおかしくないらしい。
手遅れにならないように願いつつ、私はわかめ組の本部のあるセンリへと駆け出していた。



…………しかし、すでに遅きに失したことを私が知るのは、それからすぐのことだった。


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